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57:シュウ酸!

 翌日、ボクはマイトナー侯爵家に遣えている転移魔法使いのバイエッタさんにお願いして、マルシェと一緒にお城へと連れて行ってもらった。

 女王陛下との謁見のためだ。

 ただ、ボクが相手だからね。マルシェ単独で行ったら相当待たされたと思うけど、かなり順番を繰り上げてもらえた。


「女王陛下。謁見のお時間をいただきありがとうございます」

「ええと、トオルちゃん。その女性は?」

「ボクの友人でマルシェと言う者です。中央大陸のウトリキュラリア王国から流通センターに派遣されておりまして、流通センター設立当時から働いてくれている古株です。アクティス王子が以前開催されていた化学教室にも参加されていました」

「そう。今日は、その方の案件なのね」

「はい。実は、マルシェの故郷はウトリキュラリアの王都リビダなのですが、最近、リビダで背部痛や血尿、それから手首や肘、親指の付け根の痛みが多発しているとのことでして、それでボクに診てもらえないかとの依頼が彼女からありました」

「ウトリキュラリア王国からではなく、個人の依頼ってことね。でも、王都ならウトリキュラリア王国からの依頼の方がトオルちゃんも動きやすいんじゃないかしら?」

「たしかに、それはあります」


 女王陛下も、ボクと同じことをお考えのようだ。

 やっぱり、下手に個人で動かない方がイイってことだろう。


「そうしたら、ちょっとエリカに現地確認してもらいます。それで、国として依頼が必要かを先方に考えてもらいましょう」

「それで、国として依頼が不要と判断された場合は如何致しましょう?」

「まあ、その場合はマルシェさんの近しい人だけトオルちゃんに診てもらうくらいしかできないけど……。ただ、トオルちゃんの方では原因は分かっているの?」

「だいたい想像はついております。身体の中に石が出来て体内を傷つけ、それで痛みが出たり血尿が出たりしているモノと思われます」

「石?」

「はい」

「でも、どうして石ができるの?」

「体質として出来やすい人もいる様ですけど、今回の場合は、明らかに食べ物が原因かと思います」

「食生活が変わったの?」

「マルシェからは特に変化は無いと聞いておりますが、シリシスからの回答では、本人達が知らないところで変わってしまっているとのことです」

「それって、どういうこと?」

「これは、転移魔法による移動が、一昔前と比べて増えたことが原因のようです。」


 昨日、マルシェが帰った後に、ボクはチャットボット機能で色々確認したんだけど、どうやら流通拡大したことで、シュウ酸を尋常じゃないレベルで多く含む植物が、偶然持ち込まれちゃったことが原因みたいなんだ。


 ただ、その外来植物を従来の植物と間違えて従来の料理法で食べちゃって、それでシュウ酸を過剰摂取して尿路尿管結石とか腎結石とかが出来ちゃったってことらしい。

 もしくは痛風か。


「ええと、全然意味が分からないんだけど?」

「実は、リビダで食べられている野菜と見た目が非常に似ていて、それでいて石を作りやすくする植物が外部からリビダ周辺に持ち込まれたようなんです」

「元々食べていた野菜では石は出来なかったってことね?」

「はい。石ができやすい野菜でも茹でて石を作る成分を抜いてしまえば、然程問題は無いのですけど、リビダでは、野菜は生食か、炒めて食べることが多いようなんです」

「じゃあ、石を取り除いて、あとは料理法を変えれば問題無いってこと?」

「基本的には、そうなると思います」

「でも、ふと思ったんだけど、ある意味、流通センターの設置も原因の一つかも知れないわね?」


 ボクも同じことを考えたよ。

 でも、もし流通センターへの出入りが直接の原因だとしたら、発症が遅い気がする。


「否定はできません。ただ、流通センターだけが原因でしたら、もっと早期に発病しているでしょう。もう設立されて、結構経っておりますし」

「まあ、たしかにそうね。一応、確認だけど、その植物は、意図的に持ち込まれたモノじゃないわけよね?」

「はい。たまたま靴の底に付いていた土に種が含まれていたようです」

「だとすると、今後は転移魔法を使う際にも十分気を付けなければならないわね」

「はい。他にも荷物の中に虫が入っていて、別のところに持ち込んでしまうとかもあり得ます。生物によっては環境に大きく影響しますので……」


 地球でも問題になっているもんね。

 外来生物のことだよ。

 動物も、植物もね。


「でも、今回、病気が本当に発生しているとウトリキュラリア王国側が認めてくれれば、生物の持ち込みが大きな影響を及ぼすって誰もが理解できるんでしょうね」

「はい。もっとも、持ち込んでも、持ち込まれた先で繁殖しなければ問題無いのですけどね」

「たしかに……。では、悪いけど、一旦、こっちで預からせてもらいます。その回答を以て今後の方針を考えましょう。マルシェさんでしたね。それでよろしいですか?」

「はい。フルオリーネ女王陛下のお心遣いに感謝申し上げます」

「じゃあ、トオルちゃん、それでイイかしら?」

「はい。ありがとうございます」


 マルシェとしては、至急解決して欲しいだろうけど、場合によってはマジで他国の王族貴族のメンツが絡んできて面倒になるからね。

 一先ず、今日できるところは、ここまでだ。



 数日後のことだ。

 この日の朝、ボクは侯爵家のお屋敷にいた。

 既にマイトナー侯爵は、お出かけになられていた。

 ボクは、たまにはゆっくりしたいと思って、今日は休みを取っていた。


「トオル様。王宮よりお客様です」


 侍女の一人がボクを呼びに来た。そして、応接室に行くと、そこにはルイージさんと、見慣れない一人の女性の姿があった。

 多分、これはマルシェの故郷、王都リビダの件だと、ボクは直感した。

 ついでに、これで休みが無くなる……とも直感したよ。


「トオル様。フルオリーネ女王陛下からの伝令です。ウトリキュラリア王国から王都リビダでの奇病の件で治療を依頼されました。」

「本当ですか?」

「はい。至急、リビダに向かって欲しいとのことです。それと、こちらの方は、ウトリキュラリア王国からの使者でエンドレシーさんです」

「トオルです。はじめまして」

「こちらこそ、よろしくお願いします。では、少々お待ちください」


 ボクは、自室に戻ると、急いでアイテムボックス内に着替えとか出張グッズを入れた。

 そして、

「ウトリキュラリア王国の方に行って参りますので、その旨、侯爵様にはご報告をお願いします」

 侍女の一人に、一応、出張する旨を伝えた。


 マイトナー侯爵には、先日の女王陛下との謁見のことを、その日の夕食の時にザックリと話してあるので、侍女を通じての連絡でも問題無いだろう。

 あと、もう一人の当事者にも話をしておかないとね。


「ルイージさん。流通センターの方に寄ってもらえますでしょうか?」

「マルシェのことですね」

「はい。お願いします」


 ボク達は、ルイージさんの転移魔法で流通センターへと急いだ。



 流通センターに到着。

 大抵、マルシェは、各国から派遣された者達の詰め所にいる。


 詰め所に行くと、所定の席にマルシェの姿があった。だた、やっぱり元気がない。リビダの状況が心配なんだろう。


「マルシェ」

「トオル!」

「さっき、王宮から連絡があって、ウトリキュラリア王国から治療依頼が来たって」

「じゃあ」

「うん。これから行く。それでマルシェは?」

「私は、許可を取らなきゃいけないから後から行くよ」

「分かった。じゃあ、先に行ってるね」

「お願い」


 そして、ボクは、ルイージさんにお願いして、そこから一気にウトリキュラリア王国の王都リビダに空間移動した。



 王都リビダに到着。

 時差があるからね。到着すると、既に、おやつの時間になっていた。

 別にボクは、おやつを食べるつもりは無いけど……。


 ここからは、ボクにもルイージさんにも未知の世界。エンドレシーさんを先導役にして大聖殿の中へと入って行った。



 大聖殿の中は、トオル製薬の倉庫と同等以上の空間が広がっていた。

 そして、たくさんの人々が床に座ったり寝転んでいたりしていた。


 ここにボクが来ることを前提に、予め王都内の患者を、ここに集めていたってことか。

 多分、仕事を休んできているんだろうな。


 寝転がっている人は、痛くて座っているのも辛いんだろう。

 ボクは、急いで端から順に患者を診て行くことにした。



 診断魔法発動!

 一人目は尿管結石だった。

 これは痛そうだね。


 ボクは、早速転移魔法を使って結石を除去。手に持っているビンの中に、結石を転移させた。

 この時、ボクは、

『まだ、血中のシュウ酸濃度が高いから再発の可能性はあるけど、その場合は、もう一回ボクがリビダまで来ることにするよ!』

 なんて思っていたけど……、本当は、その必要が無い処置ができることを、後になって知ることになる。

 この段階では、その方法をボクが知らなかっただけでね……。



 患者第一号は、

「痛みが消えました。ありがとうございます!」

 ボクの両手を握りながら喜んでいた。


 ただ、今回は治療だけではダメだ。

 例の野菜のことも話しておかなければならない。

 それと、再発の可能性もね。


「実はですね。原因は、このお野菜なんです」

「これ? いつも食べてるものですけど」

「それが、以前食べていたモノとよく似た植物が、最近、この辺に侵入しまして、それが身体の中で石を作ってしまうんです」

「石?」

「はい。でも、茹でれば石を作る成分は抜けます。勿論、茹でたお湯は使わずに捨ててください。そうすれば問題ありませんので」

「分かりました」

「それと、石を作る成分が、まだ体内に残っています」

「えっ?」

「ですので、再発の可能性がありますが、その時は、またボクの方で対応したいと思います」

「よ……よろしくお願いします」

「では、次の方を診ますので」


 ボクは、その隣の人の診断をした。

 今度は、右足親指の付け根と尿管に結石があった。

 それら結石を同時に、

「転移!」

 体内から除去してあげた。


 次の瞬間、当該箇所からの痛みがすっかり消えて、その患者さんは、

「ありがとうございます」

 ボクにお礼を言いながら深々と頭を下げていた。



 この人にも、野菜のことと再発の可能性を説明しなきゃならないんだけど、そうしたらエンドレシーさんが、

「説明は私の方でしますので、トオル様は次の患者の方をお願いします」

 ボクに代わって説明を担当してくれることになった。

 これは有難い。

 なので、ボクは、次々と患者達の体内から結石を除去するのに専念した。


「転移!」

「転移!」

「転移!」


 ショボい転移魔法だけど、使い方次第で有難い武器になる。

 これは、女神様に感謝だね。


 ボクは結石をやったことが無いから分からないけど、ムチャクチャ痛いってことは聞いたことがある。

 なので、ここに来た以上、可及的速やかに結石を除去して行くつもりだ。



 丁度半分くらいの人を治療した時だ。

「トオル。遅れてゴメン」

 大聖殿にマルシェが駆け込んで来た。

 無事に許可が取れたんだ!


 もっとも、マルシェが来たところで、何かできるってわけじゃないんだけど、やっぱり家族とか友人のこととか心配だろうからね。

 それに、元々ボクに依頼した張本人だし、来たくて当たり前だろう。



 その後も、マルシェ達が見守る中、ボクは次々と患者達の体内から、痛みや血尿の原因物質……結石を除去していった。


 そして、その日の夜七時過ぎには、大聖殿に集められた患者全員の結石除去と野菜の説明、それから再発可能性の説明をなんとか終えた。



 これで終了ってボクは思ったんだけど、そうしたらエンドレシーさんから、

「今日、どうしても来られなかった王都内の患者が、明日、コチラに来ます。その方達を診ていただいた後、隣町に飛んでいただきます」

 とのご報告が……。


「ええと、隣町ですか?」

「はい。周辺の街にも患者が出ておりますので、全部で十か所ほど回っていただきます。ただ、他の街には王都程の人口はおりませんので、一日数箇所回れると思いますけど」


 やっぱり、一日じゃムリってことだね。

 まあ、覚悟していたからイイんだけどさ……。

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