55:またこの名前が出てきたよ!
さらに一か月が過ぎた。
これで王都及び王都周辺に住む感染者全員からの病原体摘出作業が完了した。
念のため、チャットボット機能でも漏れが無いかを質問してみたけど大丈夫とのこと。
ようやく、この地での義務を果たせた。
この間、ルビダスは毎日……と言うか、毎食プラスおやつにパフェやケーキをボクにねだっていた。
しかも、ここぞとばかりにルイージさんも、これに便乗していたよ。
そのお陰もあって、二人共、心持ち太ったような気がするけど……。
いや、間違いなく体重が増えた気がするけど……。
まあ、言葉には出さないようにしよう。
ボク達は、ビルハルツ王国のお城に行き、ライラック女王陛下に住血吸虫及びその虫卵の摘出完了報告を行った。
女王陛下からは、
「お疲れ様でした。このまま、王都民達が健康を維持できることを祈っています」
とのお言葉をいただいた。
二か月前……つまりボクが王都に着て間もない頃に住血吸虫を摘出された王都民達は、顔色が良く体調にも優れ、絶好調状態だった。
その報告を受けていることもあり、ライラック女王陛下は、住血吸虫の存在と虹色巻貝が中間宿主であることを認めつつあった。
恐らく、城内で飼育されている巻貝も、近いうちに焼却処分されると思う。
もう、現地時刻でお昼を過ぎた。
これで、ルイージさんの転移魔法でドロセラ王国に戻ろうと思ったんだけど、ここでルビダスが、
「今度はダイヤが欲しいな」
とほざいていたよ。
最初から、これを狙っていたってことだ。
仕方が無いのでボクは、カワイイ義妹予定者と一緒にビルハルツ王国王都内の宝石店に入ることにした。
勿論、ルイージさんもボディガードとして同行した。
店主は、
「いらっしゃいませ、聖女様。お陰で全員、元気いっぱいです!」
と笑顔でボク達を出迎えてくれた。本当に嬉しそうだ。
今まで、本当に身体を動かすのがキツかったみたいだからね。
「それは、良かったです」
「ただ、聖女様のお目に適う商品が、当店にありますかどうか……。私共も聖女様の前の御身体を形作られていたと言われております巨大ダイヤモンドの噂を耳にしたことがございまして、さすがにそれと比べられますと、聖女様にお勧めできるような品は、申し訳ございませんが取り扱っておりませんので……」
ここにも、あの巨大ダイヤモンドの噂は流れていたのか。
イチイチ否定しても信じてもらえないし、最近では諦めて否定するのをやめたけどね。面倒だし。
「あのダイヤモンドは除外して考えてください。さすがに一般常識を外れておりますので。それと、今日はルビダス王女へのプレゼントでして」
「こちらの……王女様ですか!」
「はい」
「赤系統が大変お似合いかと。こちらのルビーは如何でしょうか?」
「今回は、ルビーではなくダイヤモンドをお願いします。赤系統の色と言うことで、ピンクダイヤモンドの指輪はございますでしょうか?」
「ピンクダイヤですね。少々お待ちください」
店主は、一度店の奥に引っ込んだ。
お勧めの品は、店頭に並べていないってことかな?
数分ほどして店主が戻って来た。
たしかに、店主が持って来た指輪には、ピンク色の宝石が輝いていた。
その両脇には、ピンクの宝石よりも大きな無色透明のダイヤモンドが輝いていたけどね。
それでも、中心のピンクダイヤモンドの方が両脇のダイヤモンドよりも目立っていた。
でも、正直言ってルビダスが飛びつくほどの大きさじゃないなって、この時、ボクは思っていた。
綺麗でカワイイんだけど、フルオリーネ女王陛下とかルビダスが普段付けている指輪の宝石と比べると数段サイズが小さいんだよ。
ところが、
「これ、イイですね!」
予想に反してルビダスが、その指輪に飛び付いた。
そして、
「ピンクのダイヤモンドって持ってなくて。これがイイです!」
ソッコー買いになったよ。
ただ、値段の方を確認していないんだけど……。
たしか、ピンクダイヤモンドって希少だし高いんじゃなかったっけ?
まあ、お金の方は、今回の住血吸虫事件が無くてもトオル製薬の方の稼ぎがあるから全然問題は無いと思うけど。
そして、早速ルビダスは、その指輪を右手の薬指に付けた。
ただ、彼女が付けている他の指輪の宝石の方が大きくて存在感があるからね。なんか、見た目で大きく負けている気がするよ。
値段では、多分、負けていないはずだけど。
…
…
…
その後、ボク達は急いでルイージさんの転移魔法でドロセラ王国の王都に入った。
時差があるからね。こっちでは、まだ朝だった。
ボク達は、そのまま城内に入ると、控室で少し時間を潰した。
まだフルオリーネ女王陛下の身支度が出来ていないからね。
ただ、三十分もしないうちに、ボク達は謁見室ではなく隣の会議室の方に呼ばれた。
謁見室だと既に早朝から並んでいる人達がいるからね。
誰にも分からないようにボク達の面会を優先的に行うために、敢えて会議室にしたんだと思う。
それから十分くらいして、ボク達がいる会議室にフルオリーネ女王陛下が姿を現した。
そして、開口一番、
「ルビダスもルイージも太った?」
ボクが敢えて今まで言わなかった台詞を、サラッと口にしちゃったよ。
しかも、
「もう、ここぞとばかりにパフェとかケーキとか食べ過ぎたんでしょ。あと、ピンクダイヤの指輪も買ったのね? 珍しくて凄く高価な石よねぇ? 最初からトオルちゃんに宝石とかをねだるつもりでルイージに同行したんでしょ?」
ルビダスの魂胆がモロバレしていた。さすがルビダスの母親だね。
これにはルビダスも反論の余地なしで、すっかり黙り込んでしまった。
ただ、ルビダスは美人なんだけど目付きが悪いからね。
別に怒っているわけじゃないんだろうけど、妙に怖くて、ボクの方がプレッシャーを感じたよ。
「それで、トオルちゃん。お疲れ様。でも、ゴメンなさいね。せっかくの稼ぎを、全部ルビダスが吸い上げちゃったんじゃないかしら?」
「いえ。元々お金は持っておりますので。それより、今回の報告ですが」
「そうね。そっちの方が大事ですものね。ただ、その前に、例の商人だけど」
「虹色巻貝を持ち込んだ、ワースって人ですね?」
「そう。彼女は、以前から禁忌の土地に入って、珍しいモノを見つけては、王族貴族に高額で売りつけて儲けていたみたいでね」
常習犯だったってことか。
でも、一度、それで大金が手に入るって分かっちゃうと、やめられなくなっちゃうんだろうね。
「でも、それで今まで、病気にかからなかったのでしょうか? 住血吸虫とか糸状虫とか病原菌とか、禁忌の土地には、そう言ったイメージしか有りませんけど?」
「同行者の中に、転移魔法使いと結界破りの魔法使い以外に、結界魔法使いも同行させていたらしいのよ。それで、禁忌の領域内でも自分達には結界を張って、病原体が侵入できないようにしていたらしいわね」
「ぬかりが無いですね」
「ただ、今回の場合は、売るために持ち出したモノが病原体の中間宿主で、しかも、売りつけた先に、それを見破れるトオルちゃんがいたのが、ワースにとっては不幸だったってことね」
見破ったのはボクじゃなくてチャットボット機能なんだけど。
まあ、ムリに説明しなくてもイイか。
「そうですね」
「そのワースのことだけど、先ずトレマトーダ王国の方には、ワースがセルカリア地区に不法侵入していたことを既に報告してあるわ。先方は、結界を強化するって」
「もう、話をされていたのですね。ありがとうございます」
「別に私は書面を書いてエリカに渡してくるよう振っただけだから。それから、ワースの身柄についてだけど、トレマトーダ王国の方で処罰するってことに決まったわよ。不法侵入した共犯者のことも吐かせたいみたいだし」
「そ……そうですか」
吐かせるって、どんなことをするんだろう?
この世界の時代的思考から考えると……中世だもんなぁ。
拷問されそうで怖いよ。
想像しただけでも恐ろしい。
「ところで、トオルちゃん。ビルハルツの方では、寄生虫の摘出は済んだのよね?」
「はい。あと、王都の結界使い達が面白ことを考えまして、たった一日で巻貝を根絶しました」
「それは凄いわね。どうやったのかしら?」
「例の巻貝だけを通さない特殊な結界を張って、それを中心点に向けて結界面積を縮小したんです。それで巻貝を一か所に強制的に寄せ集めて、一気に焼却処分したんです」
あの駆除方法は鮮やかだったと思う。
ボクも思いつかなかったしね。
ホント、脱帽だったよ。
「それは、たしかに効率的ね」
「それで思ったのですが、オーキッド王国ククラタ町でも同様の方法で蚊を一網打尽にできれば、薬代を減らすことが出来るのではないかと思いまして」
「なるほど。たしかに、それが蚊でなければ、イサベリア女王陛下も喜んで、その方法を採用するでしょうね」
「えっ? 蚊だと、何か不都合があるのでしょうか?」
「植物……特にオーキッド王国原産の果物の多くは、受粉媒介に蚊が関わっているの。受粉って言うと、誰もが蜂とか蝶を真っ先に思い浮かべるでしょうけど、ハエとか蚊も、モノによっては一躍買っているのは知っているでしょ?」
「たしかに、そうですね」
「トオルちゃんの研究出向先(地球)では、どうだったかは分からないけど、この世界では、蚊が受粉媒介する果樹が多くて。それで、その方法は使えないのよ。結界を張った状態で結界内の蚊を全滅させても、感染した野生動物がいるから下手に外部の蚊を入れるわけにも行かないでしょうし」
そう言えば、地球でもカカオは蚊によって受粉しているんだっけ。この世界でも同じような形態の植物が存在しているってことか。
むしろ、それが地球よりも多いかも知れない。
イイ案だと思ったんだけど、まだボクの考えが浅かったね。
でも、巻貝の方は大丈夫だよね?
ちょっとチャットボット機能で確認してみよう。
「では、女王陛下。シリシスと交信しますので、少々お待ちいただけますか?」
「御使いとの交信ね? 何を聞くのかしら?」
「セルカリア地区から……と言いますか、この世界から例の巻貝を絶滅させても生態系に問題ないかどうかを聞こうと思いまして」
「是非お願いするわ。もし、それが出来れば、セルカリア地区にも人が住めるようになるでしょうし」
「そうなんです。今は、全世界的に人口が減っておりますけど、今後は何十年、何百年とかかるでしょうけど、間違いなく人口は増えるでしょうから」
「トオルちゃんの出向先の世界みたいにってことね」
「はい」
ボクは、早速、チャットボット機能を立ち上げた。
ただ、フルオリーネ女王陛下達には悪いけど、モード切り替えせずに、ボクにしか見えない状態でQ&Aを行った。
『Q:虹色巻貝を絶滅させたら、この世界の人々の生活環境に影響が出る?』
『A:出ない』
『Q:水生生物への影響は?』
『A:ほとんど出ない』
『Q:何故、余り影響しない?』
『A:セルカリア地区固有種で虹色巻貝を食べる魚がいるが、他の水生生物も食べるので大きな問題はない』
『Q:その魚は、何故虹色巻貝を食べても平気なのか?』
『A:毒耐性があるため。他にもセルカリア地区には猛毒を持つ水生生物が存在するが、毒耐性を持つことで、それらを敢えて主食としている』
『Q:そもそも虹色巻貝は何故存在している?』
『A:住血吸虫とセットで堕天使アルセニコスが悪戯で作り出したため』
そう言うことか。
ただ、人々を苦しめて遊ぶためだけに創られたアイテムだったってことだね。
それにしても、また出てきたよ、アルセニコスの名前。
でも、アルセニコスが勝手に作り出した生物なら、女神様も愛着ゼロのはずだよね?
だったら……。
『Q:虹色巻貝を絶滅させても女神様としては何ら問題ない?』
『A:問題ない』
やっぱりOKが出たよ。
なら、決まりだね。
「女王陛下。シリシスからの回答が得られました」
「それで、御使いシリシスは何て言っていたの?」
「虹色巻貝を絶滅させても自然界への影響は殆ど出ないため駆除しても構わないとのことです。どうやら、虹色巻貝と住血吸虫をセットで創ったのは、女神様ではなく堕天使のようです」
「堕天使?」
「はい。堕天使アルセニコス。200年前の奇病を作り出した張本人です」
ただ、それをバラ撒いた実行部隊はボクなんだけど、そのことだけは黙っておこう。
絶対に口が裂けても言えないよね?




