表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/101

6:思ったほど男がモテていないみたいだけど?

 店の出足は今一つだった。

 まあ、これは仕方が無い。初日からバンバン売れるとは思っていない。


 今まで使っている薬から新しい薬に、即座に切り替えてくれるかと言うと、そうではない。

 やはり多くの人が今まで使っていた薬を選ぶだろう。

 誰だって使い慣れているモノの方が安心だからね。


 もっとも、それ以前に、薬の効果に疑問を抱いている人も少なくないみたい。

 この世界の既存薬は効果が今一つなのが多いっぽいからね。

 なので薬を使わない、薬に頼らない、薬を買わないって考えている人も、それ相当にいるってことなんだろうな。



 それでボクは、鎮痛剤を試供品として店の前に置いた。小さなビンに3錠だけ入れてね。

 一応、

『お持ちいただくのは、一人1ビンだけにしてください』

 と書いておいた。


 すると、

「なに? 薬?」

「鎮痛薬だって。頭痛にも生理痛にも効くって書いてある」

「ホントかなぁ?」

「でも、タダみたいだし、一応貰って行こう!」

 とのこと。


 無料だと、みんな寄って集って持って行くね。

 でも、これでイイんだ。これは撒き餌だから。


 とにかく、ボクの作った薬を使ってもらえなきゃ話にならない。

 まあ、作ったって言ってもボクが発明したわけじゃないけどね。

 地球の既存薬だから。


 今は、この鎮痛剤が、この世界にあるどの薬よりも頭痛や生理痛を和らげてくれると実感してもらうことが大事。

 効果を知れば、この店の薬を買うようになるだろう。

 それに、口コミで、この店の薬が良く効くって噂が広がるんじゃないかって期待もあったんだ。



 開店三日目のことだった。

「あのう、試供品って、もう無いんですか?」

 二人組みの女性客の片方が、そう言いながら店に入ってきた。


 でも、このお客さん、見覚えがある。

 ボクが転生した日に荷車に乗せてくれたアリアさんだ。


「先日は、有難うございました」

「ああ、あの時の」

「ええと、本当は、試供品はもう無いんですけど、アリアさんにはお世話になりましたので、お一つ差し上げます」

「イイんですか?」

「あの時のお礼ですから」

「有難うございます。実は、この店の試供品を私の友達が昨日、早速使ってみたら、他の薬屋さんのモノよりも、ずっと良く効いたって聞いたもので、それで試供品があれば私も試しに使ってみようかなって思って……」


 試供品でってところが正直ちゃっかりしている気がするけど、でもお金は節約したいもんね。

 その気持ちは分かるよ、うん。


 ボクは、アリアさんに販売用のものを渡した。

 こっちは一先ず1ビン20錠入りにしたんだけど、まあイイか。


「他には、どんな薬があるんですか?」

「風邪薬に水虫の薬、整腸剤、失神・かぶれの薬に滋養強壮剤、あと男性の薬です」

「男性の薬って?」

「勃起促進剤です」

「えっ?」

「良く効きますよ」

「精力剤ですか?」

「いいえ、別に全身にエネルギーが満ち溢れるってわけじゃないんです。単に男性のアソコの血の巡りを良くする薬なんです」

「うーん……」


 なんだか、理解できていないみたい。

 そりゃそうだよね。

 多分、勃起の医学的なメカニズムを知らないだろうからね。

 血流増加って。


 すると、アリアさんの連れの女性が、

「でも、男なんて最低ジャン!」

 って言ってきた。


 あれっ?

 この世界の男性はモテまくりじゃないの?


 でも、こう言われて、

「まあ、ミサの言いたいことは良く分かる」

 ってアリアさんの言葉。

 相方の名前はミサさんって言うのね。


 ミサさんは、少し目がキツイけど美人顔。女王様にしたい感じ。

 勿論、Hな方の女王様ね。

 前世のボクには全然、縁が無かった種族だね。


 それにしても、どうも二人とも余り男性を好ましいと思っていないみたいだ。

 何かイヤなことでもあったのかな?


 ボクは、

「何か男性から変なことでもされたんですか?」

 と二人に聞いてみた。

 すると、言う言う。

 特にミサさん。今の状況を余り良く思っていないみたいだ。


「だって、イケメンは王族とか貴族が取り上げちゃうじゃん。一応、そのイケメンを貴族は貸してくれるけどさ、見返りに結構なお金を要求してくるし!」

「そうなんですか?」

「知らないの?」

「はい、全然、男性には興味が無いもので」

「それが無難な生き方よ。一般女性がイケメンと楽しめるなんて先ずありえないしね。まあ、イケメンが欲しかったら貴族になるしかないわね。そう言えば、貴族同士で交換して遊ぶってのも最近流行っているらしいわね」


 交換って?

 うーん……。地球でも、そんなプレイをしている人がいるとか……。


 ちなみに、王族貴族にお抱えされた男性が、そのまま王族貴族に籍を入れるってわけではないらしい。

 単なる所有物扱いのようだ。


「それから特にヒドイのがバイルシュタイン子爵ね。男を貸した見返りに、がめつくお金を要求するって噂だよ! あの人のところが一番高いって!」


 バイルシュタインってどこかで聞いたような名前だな。

 そうだ、炎色反応だ。バイルシュタイン反応って言う。

 まあ、今となってはどうでもイイか。


 それにしても、ミサさんは、その後、バイルシュタイン子爵の悪口を延々と……。

 これは、相当、評判の悪い貴族みたいだね。


 まあ、それはさておき。

「結局さあ、貴族に取り上げられなかったレベル、つまり外見が今一つなのしか一般女性には回ってこないんだよね。でも、ブサメンでも子供を作るには貴重な存在じゃん。だから子供が欲しい人の中にはブサメンを王様のように扱っちゃうのもいるのよ。そうすると、ブサメンもイイ気になってお金を要求するようになるし、クソワガママになるし……」


 つまり、外見も中味も最低ってことだね。

「それでさ、お金を払ってワガママ聞いてあげて、そんでもって順番待ちして。それで、折角自分の番になったけど、そのブサメンのほうが全然元気がなくて空振りだった……なんてこともあるらしいよ!」

「はぁ……」

「それに、この町にいるブサメン男性は、ハゲでチビでデブの三重苦でさ。あっ! ブサメンも入れるから四重苦か。私は噂を聞いただけで、もうパスしたくなっちゃったから会っていないんだけどね」


 うーん、ヒドい言われ方だ。

 まあ、ミサさんの気持ちが分からないわけでもないけどね……。


 本能として子孫を残す方に動くからさ、『そんな男でも相手をして欲しい!』って女性は当然いるだろう。

 でも、

『そんなんだったら男なんて要らない!』

 って考える女性も出てくるだろうね。

 アリアさんとミサさんは、どうやら後者っぽい。



 でも、たしかに納得。

 もしボクが男性のまま、この世界に転生したら、そのブサメンと同じ道を辿る可能性が高い気がする。

 最初のうちは、きっと女性にチヤホヤされるのが嬉しいって思うだろうけど、それが当たり前に感じるようになって、最終的には自分が王様になったと勘違いするだろうね。

 だとすると、男性の薬は思ったほど売れないのかなぁ……。


 ただ、二人に聞いて、一つ理解できたことがある。

 何がって、総人口低下の理由だよ。

 子を産む側が、

『男なんてキライ!』

 って言って完全に男を排除したら、そこから先、新しい命は誕生しない。

 最悪な状態になっているよ、このネペンテス……いや、ペンテスの世界は。


「そう言えば、王子様は今年成人したって聞いたけど?」

「でも童貞なのよね」

「たしか、この国の王太子よね」

「そうそう。世界的に見ても王太子は珍しいのよね。普通は王太女だもんね」


 アリアさんもミサさんも、結構話すのが好きなんだね。

 ボクは、しばらく聞き手一方になったよ。


 この国では、たまたまと言うか、珍しく女王陛下が生んだ最初の子供が男児だったとのことだ。

 ちなみに、この世界の成人は16歳。

 一応、女神様はボクをギリギリ成人にしておいてくれたってことだ。


 じゃあ、王子はボクと同い年ってことか。

 でも、王子様でしょ?

 モテるんじゃない?

 それで女性経験無しって、どう言うことだろう?


 ボクは、

「王子で童貞って、何で?」

 って聞いた。


 すると、ミサさんが、

「そりゃ、王太子が子種ばら撒いたら、王位継承権を持つ子供が沢山出来て、後が困るもんね」

 と笑いながら言っていた。


 たしかにそうだね。王位を継ぐ予定のお方だもんね。

 男女比率が1:1なら政略結婚のために子供を多く作るってのもアリだけど、女性しかいないに等しいこの世界じゃ政略結婚は有り得ないだろうからね。

 子供が沢山生まれると、むしろ揉め事の方が多くてデメリットの方が大きいってことなんだろうね。


 なので、この王子様は、やたらめったらHができないってことか。

 それでも、いずれは側室を持つんだろうけどさ。


 でも、こんな世界に生まれてきても、王子様は女性と楽しめる立場じゃないってのには驚いたよ。

 言われれば納得できるけど。


「でも、その王子様は、かなりイケメンって話じゃない?」

「そうそう。それに性格も割とマトモらしいしね。頭もイイし。一般女性に回ってくる男とは天と地の差よねぇ」

「結構、貴族の娘達が王子を狙っているらしいよね!」

「まあ、分かる気がするぅ」


 二人とも、王子のことだけは許容可能な男って思っているみたいだね。

 まあ、中味が男のボクにとっては興味ないことだけどさ。



 この後、女神様の端末でボクは少し調べてみた。

 基本的に、この世界には男女での結婚の概念が無いんだ。男性は王族貴族の持ち物か、そうなれなかったブサメン男性は、女性みんなの共有物となる。


 王族貴族の男児だけは、子種をばら撒き過ぎちゃいけないから結婚制度があるらしいけどね。

 側室もありで。


 それから、この世界では公式な場でも男女カップルでの参加って言うのは無い。何事においても一人での参加が基本ってことになるみたいだね。

 そりゃあ、女性しかいないに等しい世界だもんね。


 あと、女性同士での結婚は法的には認められていないけど、平民の場合、女性同士での事実婚はあるみたいなんだ。

 ってことは、ボクにも一応、相手ができる可能性があるってことだよね?

 勿論、女性の……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ