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54:目に見えないモノを信じろと言われても難しいよね!

 早速、ボクは、フルオリーネ女王陛下、アクティス、ルイージさんと共に王家の馬車に乗り込んだ。

 そう言えば、王家の馬車に乗るのって、もしかしてこれが初めてじゃないかな?


 そして、ルイージさんの転移魔法でビルハルツ王国の王都へと一気に移動した。

 時差があるからね。出発したのは午前中だったはずなんだけど、到着した場所では、既に夕方近くになっていた。



 街行く人々からは、余り活気のある雰囲気が感じられなかった。

 顔色が悪く、疲弊した感じだ。

 王都なのに、雰囲気は暗く完全に意気消沈していたよ。


 歩くのが辛そうな人も結構いた。

 チャットボット機能で確認したところ、既にビルハルツ王国の王都では、住血吸虫に感染した平民は九割以上とのことだった。

 勿論、全員が慢性化しているわけでは無いだろうけどね。

 でも、慢性化している人は、決して少なくないようだ。



 河川や池からは不穏な空気が感じられた。

 例の巻貝が繁殖していたためだ。


 見た目は煌びやかで綺麗なのに、中身はマジで悪魔だよ!

 まるで性悪美女みたいだね。



 ビルハルツ王国の王都には井戸が無く、河川から水を引いていた。

 王族貴族は、河川の水にも池の水にも直接触れる者はいない。そのため、基本的に感染者はいない。


 しかし、平民達は別だ。

 河川の水を生活用水として使う以上、どうしても河川の水に直接触れることになる。

 そして、触れる度に経皮感染する。


 ただ、経口感染はしないんだよね。

 飽くまでも経皮感染だけなんだ。



 日が傾いた時間だったけど、ボク達は、ビルハルツ王国の存続に関わる事項と言うことで、半ばムリヤリだったけど入城させてもらった。


 フルオリーネ女王陛下直々の訪問だからね。

 さすがにトオル製薬の拠点となる国の女王陛下を追い返すわけには行かないだろう。



 ボク達が通された部屋は、謁見室ではなく広めの会議室だった。

 そして、待つこと数十分。ビルハルツ王国のライラック女王陛下が付き人達と一緒に会議室に入ってきた。


「まさか、薬王国の女王陛下自らの訪問を受けるとは思っていなかった。私はビルハルツ王国の女王ライラック。フルオリーネ女王陛下。この度は、どのような御用件か?」

「紹介したい。こちらが我が国の王太子の婚約者トオルだ」

「聖女トオルか。噂通り美しい女性だ。初めまして」

「初めまして。トオルです」

「もしかして、女王陛下は聖女のことを自慢するために遠路ハルバル来たのか?」

「いや。三年前に虹色に輝く巻貝が持ち込まれたと聞いて来た」


 フルオリーネ女王陛下の口調は、ボクを相手に話す時よりも威厳に満ちた雰囲気だったけど、何気に横柄にも感じられた。


 恐らく、ライラック女王陛下が相手なので、舐められないように敢えてそうしているんだろうなぁ。

 つまり、気さくな女王陛下が、威厳ある女王陛下を()()()()()ってことだ。

 これはこれで大変な気がする。


「あの貝な。美しいだろう?」

「見た目は非常に美しいと思う。実は、あれと同じ巻貝を我が国にも観賞用にと献上して来た商人がおってな。ワースと言う者だが」

「たしか、我が国に献上して来た者と同じだな」

「ビルハルツ王国では、その巻貝を河川に放流したようだが?」

「折角なのでな。あの貝で王都を彩り美しくしたいと考えたまでだ」

「ところで、あの巻貝を何処で採取したかを知っているか?」

「いや。知らされてはおらぬが、それがどうかしたのか?」

「あの巻貝が入った水槽に、私の末娘のスティビアが興味本位で手を入れたところ、かぶれてな。それでトオルに確認してもらったところ、目に見えないレベルの小さな虫が貝から放出されており、それが皮膚を食い破って身体の中に侵入したとのことだ」

「ちょっと待て。そんなことが、あり得るのか?」

「たしかに信じろと言う方がムリであろう。いくら聖女の言うことであっても、目に見えるサイズの虫ではないからな」


 何気にフルオリーネ女王陛下も、ボクのことを聖女って言っているよ。

 別にイイけど……。


「たしかに信じられないことだ」

「ただ、あの貝を放流して以降、王都民の体調はどうなっておる? 今、王都民達は体調が優れないのではないか?」

「たしかに顔色が悪いし、体調が優れないようだが、それとあの巻貝が関係するとでも言うのか?」

「その通り。信じられないと思うが」

「それで薬を売りに来たと?」

「いや。あの貝の完全駆除をお願いしたい。トオルが御使いシリシスより、あの貝がトレマトーダ王国のセルカリア地区で採取されたモノと聞かされている」

「ちょっと待て。セルカリア地区は、たしか立ち入り禁止区域ではないか?」


 ライラック女王陛下もセルカリア地区のことは御存じのようだ。

 もしかして、それだけ有名な立入禁止区域なの?

 単にボクが知らなかっただけかも知れないね。


「そう。この世界には、立ち入り禁止区域が幾つかある。多くは住んでいた者達が奇病を発生して全滅した場所だが、人が住んでいなかった場所でも足を踏み入れた者達が次々と死んで行く謎の区域も含まれている。それで、我々の先人達は、それらを禁忌の地とし、結界魔法使い達に命じ、総力を挙げて封じてきた」

「では、セルカリア地区を全滅に導いた原因が、その貝だと?」

「そのようだ。それと、体内に侵入した虫……身体に寄生する虫と言うことで寄生虫と呼ぶが、それが体内で育っている。よろしければ、寄生虫の除去はトオルに行なってもらうとするが、如何かな?」

「正直、信じ難い話だ。それに、仮に私が信じたとしても、王都民全員が信じられる話ではない」


 たしかに全員に信じろと言うのはムリがある。

『他人はともかく、自分だけは大丈夫』

 って勝手な思い込みから正しい判断をできずにいる人も少なからずいるからだ。


 その多くは、臭いモノには蓋をして絶対に真実を追求しないし、現実を頑なに受け入れようとしない。



 特に、今回の場合、感染力を持つ幼生自体が目に見えない。

 だから尚更だ。


「それは重々承知している。ただ、王都民達の体調を元に戻す治療を行うと言うことであれば許容できないだろうか?」

「聖女の治療か。それなら万人が理解できるが、しかし、タダと言う訳には行かないだろう?」

「たしかに対面的な問題もあるのでな。無料にはできない。実は、オーキッド王国ククラタ町でも蚊が媒介する寄生虫が問題になってな。アレを根絶するために、先ず大きく成長した寄生虫を感染者全員から摘出し、さらに蚊が外部流出しないよう、町全体に結界を張って蚊を町に閉じ込め、その上で魔力を持たない町人全員が六年間に渡って成長前の寄生虫を殺す薬を飲むことになった。当然、治療代と薬代の両方が必要となっている」

「それだと、とんでもない額になると思われるが?」

「ただ、今回の場合、寄生虫を全員から摘出するところまでは同じだが、その後の過程が異なる。蚊は受粉に関与しているので、根絶するわけには行かない。故に感染サイクルを絶つために薬を飲み続ける必要がある。しかし、今回は王都と王都周辺の河川と池に限定し、その巻貝の根絶を目指せば良い。探査魔法を巧く使い、一匹残らず根絶できれば大丈夫だろう。なので、今回は摘出費用だけで良い。一人当たり小銀貨一枚を考えているが如何かな?」


 王都と言っても、何百万人も住んでいるわけじゃない。そもそも世界総人口が少ない世界だから、多くてもせいぜい数万人程度。

 それなら、小銀貨数万枚。日本の貨幣価値に換算して数百万円ってところだろう。

 一人百円って考えれば、ライラック女王陛下としても支払いに応じることは可能と思う。



 オーキッド王国の手前、フルオリーネ女王陛下としては、もっと価格を釣り上げたいところだけど、ライラック女王陛下が住血吸虫のことを信じ切れていない以上、これが限界だよね?


 本当は、万が一のことを考えたら巻貝の駆除だけじゃなく、生石灰や殺貝剤(Sodium 2,5-dichloro-4-bromophenol)を散布した方がイイんだけどね。

 いくら探査魔法でチェックしても見落としがゼロとは言い切れないから。



 でも、生石灰とか殺貝剤を散布するなら、それらをボクが出すことになる。そうなると、そこに薬代としての対価が発生する。

 その支払いまでは、ライラック女王陛下としても判断できないだろうなぁ。


「では、聖女による王都民の治療はお願いする。ただ、あの虹色の巻貝は、本当に駆除せねばならぬか?」

「王都民や王都周辺の国民の命を守るためには必要となる。水槽の中で飼うだけでも、万が一、逃げ出す可能性がある故、それも避けるべきであろう。但し、貝殻のみの保持なら可能と言えるがな」

「そうか。今一つ、納得の行く話ではないがな」

「なら、一度、女王自らの調査と言うことでセルカリア地区まで行くと良い」

「いや、さすがにそれは勘弁願いたい。二十四時間体制で逸走の無いよう見張ることを条件に水槽で飼育し、聖女の治療の後、本当に王都民の身体に問題ないかを確認してからの判断とさせてもらいたい。王都民の健康を害した疑惑がある以上、河川や池の中に生息する巻貝は駆除するがな」

「まあ、それが折衷案と言うところだろうな」


 と言うことで、一先ず、ボクが住血吸虫を取り出すところまではOKになった。

 それから、ビルハルツ王国の結界魔法使いを総動員して、悪しき虹色巻貝を全て駆除することもね。



 一応、最低限の話がつけられたと言うことで、フルオリーネ女王陛下は、ルイージさんの転移魔法で、馬車ごとドロセラ王国へと戻って行った。

 この夜は、ボクとアクティスの二人で宿泊することになったわけだけど……。


 ただ、結婚前の二人だからね。

 ライラック女王陛下の御取り計らいで、ボクとアクティスは、別々の部屋で泊まることとなった。

 お陰でアクティスは不機嫌だったけどね。



 翌日、ボクはアクティスの警護の元、王都民達の体内から住血吸虫と、その虫卵を除去し始めた。


 ククラタ町でフィラリアを除去した時と同じように、診断魔法で寄生虫の存在を確認した後、巨大水槽の中に転移魔法で移動していった。

 何日かかるか分からないけどね。



 アクティスがボクを警護していたのは、万が一にもボクが拉致されては困るからだ。

 ボクが彼の婚約者って言うこともあるけど、ボクが他国に捕らえられたらドロセラ王国のアドバンテージが無くなるからって判断が大きい。


 先ず、ボクがいなくなればトオル製薬の売り上げが無くなる。それは、ドロセラ王国の収入……と言うか税金に直接大きく関わって来る。


 それから、女神様や御使いシリシスとの繋がりが無くなるんじゃないかって不安を持つ人達もドロセラ王国の中には出てくるだろう。



 ボクを拉致しに動き得るのは、ビルハルツ王国だけじゃない。

 それこそ、この地の近隣各国が狙って来るだろう。

 それで、ボクのことを絶対に守らなくてはならないってことのようだ。



 巨大水槽には、ククラタ町の時と同じように大きな布を被せていた。

 さすがに、視界に入ったら気色悪いだろうからね。


 住血吸虫自体も問題だけど、虫卵が血管に詰まることもある。言うまでも無いけど、脳の血管に詰まったら大変なことになる。

 それで虫卵の除去も重要ってことだ。



 ただ、ククラタ町とは人口が大きく違う。

 本当に何日かかるんだろう?


 …

 …

 …


 一か月が過ぎた。

 ボクは、毎日、朝から晩まで住血吸虫の除去を繰り返した。

 それこそ、昼食をとる暇さえなかった。

 もっとも、住血吸虫の姿を想像したら食欲が失せたけどね。



 一方、ビルハルツ王国側も巻貝駆除のために尽力していた。

 驚いたのは、結界魔法を使う者が、巻貝だけ通れない結界を張り、その範囲を一点に向けて収束していったってことだ。

 それで、一気にターゲットとする巻貝を一か所に集め、それを焼却処分していた。


 念のため、漏れが無いようにと同じ作業を三回程度繰り返し、さらに探査魔法での綿密なチェックも行い、たった一日で、完全に王都と王都周辺の街から悪魔の巻貝の駆除を完了した。


 これには、ボクも脱帽だ。

 この方法を使えば、ククラタ町でも蚊を簡単に根絶出来たんじゃないかな?



 虹色巻貝に関しては、ボクの方でもチャットボット機能で確認したけど、これでビルハルツ王国から完全に一掃されたようだ。


 ただ、城内の巨大水槽の中に、何十匹かの巻貝が保護されていたけどね。

 でも、それも王都民達が健康を取り戻し、数年間様子を見てライラック女王陛下が納得されたら、その保護された分も焼却処分されると思う。



 それと、ボクの警護は、途中からルイージさんに交代された。

 アクティスは、一応あれでも王太子だからね。色々忙しいんだよ。

 それで、転移魔法使い兼世話係兼騎士の彼女にバトンタッチしたってことだ。



 ただ、何故かルビダスがルイージさんに付いてきちゃったよ。

 それなりにボクに懐いてくれているからってこともあるだろうけど、多分、それだけじゃない。

 イビセラ国ルテア町の時と同じように、ボクに何かをねだるつもりなんだろうなぁ。

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