50:こんな大群は見たくない!
次の瞬間、ボク達はククラタ町に再入場した。
さすが、転移魔法。
便利だね。
「カトレアさん。どこか広い場所とかありません?」
「広い場所ですか?」
「魔力の無い人を全員呼ばないといけませんから」
「それでしたら、中央広場に集まって頂いたら良いかと思います」
「あと、どうやって呼ぶかですが」
「それは、私の方で声をかけまくります。今日中に全員はムリですけど、でも仲間にもお願いして何人かで手分けすれば何とかなると思います」
「お願いします。治療を受けることは、感染し得る人、全員の義務です」
「分かっています。では、先ず中央広場にお連れします。転移!」
今度は、カトレアさんの転移魔法で、ボク達は中央広場へと移動した。
しかも何と言う偶然だろう。
そこでボクは、ミラさんに再会した。
「トオル様。またお会いできましたね」
「ええ」
「それで、領主とはお話できました?」
「相手になりませんでした」
「やっぱり」
「でも、大丈夫です。イサベリア女王陛下に状況を伝えて、国が治療費の面倒を見てくれることになりました」
「本当ですか?」
「はい」
「良かったです。それで、何処で治療を?」
「この広場で行います」
「分かりました。では、少々お待ちください」
すると、ミラさんは、思い切り息を吸うと、
「みなさん! 不気味な突然死から私達を守るために女神トオル様が、ワザワザこの町まで駆けつけてくださいました! 全員、念のため診断を受けてください。診察費も治療費も国が払ってくれます! 順番にこちらに並んでください!」
と大声で広場にいる人々にアナウンスしてくれたよ。
一方のカトレアさんは、
「では、ここでお待ちください。私も仲間に伝えて、町中にアナウンスしてきます」
と言うと転移魔法でその場から姿を消した。
沢山の人がボクの方に押し寄せて来た。
かなりの人数だけど、急がないと。
「では、順に診察します」
早速、ボクは、
「出ろ!」
物質創製魔法を使って巨大なガラス製のケースを作り出した。
この中に人々の体内に巣食うフィラリアを順次転送して行く。
まあ、とにかく大きな水槽をイメージしてくれ。
ただし、この虫達には絶対に逃げられちゃ困るからね。
それで、このケースには取り出し口が無い完全密閉されたものにした。
でも、どうやって入れるかだって?
そんなの物質転移魔法で入れるに決まっているよ。
ボクは、診断魔法でフィラリアの存在を確認して、感染した患者の体内からは、
「(転移!)」
物質転送魔法を使ってフィラリアを除去した。
要は、密閉式のガラスケースに綺麗さっぱり転送してあげたんだ。
そして、
「これに名前と住所を書いてください」
患者さんには連絡を取れるように、名前と住所の記載をお願いした。
勿論、理由も説明したよ。
「実は、この病気は蚊で媒介されます」
「蚊……ですか?」
「そうです。そのため、来月から毎月一回、六年間に渡って薬を飲んでいただきます。勿論、その薬代も国が支払ってくれます」
「そうですか」
「薬は、時期が来ましたら追って配布致します」
「分かりました。でも、お一人で治療と説明をこなすのは大変でしょう。今、トオル様が仰ったことをみなさんに伝えれば良いのですね?」
「ええ、まあ」
「では、私が記帳させるのと説明係とを引き受けます」
「ありがとうございます」
「その代わり、後でサインください」
またかい!
まあ、別にイイけどさ……。
「分かりました」
「ありがとうございます!」
ムチャクチャ喜んでいるよ。
完全にアイドルと化しているなぁ。
それは置いといて、ボクは、一人、また一人とフィラリア除去をこなして行った。
ただ、このガラスケースの中を見たら、みんな気味悪くなるよね?
なので、
「お願い。出て!」
ボクは女神様から頂いたペンダントに大きな布を出してもらうと、それをガラスケースに被せた。
さすがに、積極的に見たいものじゃないもんね。
ボクだって見たくないよ!
十人、二十人……。
次々とボクは患者さんの体内から寄生虫を除去して行った。
そろそろ日が暮れる時間だ。
でも、まだまだ長蛇の列が続いていた。
「トオル様」
ボクの背後から誰かが声をかけて来た。
振り向くと、そこには十人の女性達が立っていた。
「治療でしたら並んでください」
「いいえ。私達はイサベリア女王陛下の依頼でこの町に結界を張った者達です」
「そうでしたか。これは失礼しました。では、皆様が転移魔法使い五人と結界魔法使い五人ですね」
「はい。この町から一キロ離れたところに結界を張り終えましたので、ご報告をと思いまして。これで、魔力を持つ人間以外は外には出られなくなりました」
「ありがとうございます」
「ただ、魔力を持たない人々に、結界の外には出られないことをアナウンスしなければなりませんね」
「そうなんです」
「そのアナウンスは、我が国の担当の者達が行いますので、トオル様は治療に専念してください」
これは有難い。
それだけでも手間が省けて本当に助かるよ!
「分かりました。では、よろしくお願いします」
「こっちこそ、お願いします。それと、アグリィ子爵には、明日、女王陛下から書簡が届くことになっています」
「書簡?」
「はい。身分剝奪になるとのことです。病原体の説明をトオル様から受けた時点で緊急事態は確定でした。それでいて対処せずに放置と言うのは領主として許されざるべきこととの判断です」
妥当な判断だね。
むしろ、今までそれが出来なかったこと自体が問題だけど、やっぱり、執行するには大義名分が必要なんだろう。
「まあ……そうですね。それで、アグリィ子爵の後の領主は?」
「隣町の領主に、当座は兼任させるようです」
「そうですか」
「では、治療の方、よろしくお願いします」
そう言うと、転移魔法使い&結界魔法使いの十人は、ボクに深々と頭を下げた後、転移魔法でその場から消えた。
まあ、本来の持ち場に戻ったんだろうね。
それから数時間後。
もう、周りは真っ暗になった。
一先ず並んでいた人達は全員対処したけど、まだ感染予想者数には到達していない。
明日も朝からフィラリア除去なんだろうな。
丁度ここにカトレアさんが戻って来た。
一日中、この町を駆けずり回っていたんだろう。
「トオル様、お疲れ様です」
「結構な数ですね。参りました」
「どれくらいの患者が来ました?」
すると、これにミラが答えてくれた。
「千三百人くらいですね」
「あと半分ってとこですね」
「でも、こっちから行かないと受診しない人もいるでしょうし」
「そこは、私達が転移魔法で連れてくるから大丈夫です。それで、トオル様」
「はい?」
「今日の宿の方ですけど」
治療を優先していて、何も考えていなかった。
さすがにボクも、この時は、
『しまったぁ!』
と思った。
すると、ボクの背後にいたルイージから、
「大丈夫です。既に二泊三日で近くのホテルを押さえました」
との報告が。
さすが転移魔法使い兼ボクの世話係はダテじゃ無いね。
助かったよ。
一旦、ボクはフィラリア入りのガラスケースをアイテムボックスの中にしまった。
本当は入れたくないんだけど、他に隠せるところが無いからね。
盗むヤツはいないと思うけど、万が一、誰かが持って行ってしまったらマズイもんね。
カトレアさんは、
「では、また明日も宜しくお願いします」
と言うと、転移魔法でその場から消えた。
ミラさんも、
「私も帰ります。ただ、明日は会社がありますので」
「そうですか。分かりました」
「では、お休みなさい」
名残惜しさはあるみたいだけど、家へと帰って行った。
そして、ボクとルイージさんはホテルへGo!
だったんだけど。
この日は、もの凄く疲れたみたいだ。ボクは、ホテルにチェックインして部屋に入り、ベッドに倒れ込むと、そのまま眠ってしまったらしい。
夕飯、抜きだったね……。
そして、気が付くと既に朝になっていた。
いつの間に?
「あれっ?」
「気が付きました?」
「ええと……、ボクってもしかして」
「ぐっすりと眠っていました。朝食と身支度を急がないとなりません」
「そうですね。じゃあ、出て!」
ボクは、女神様にいただいたペンダントに朝食をお願いした。
メニューは、トーストとスープとスクランブルエッグとサラダ。でも、夕食抜きだったから、もっと入るかも?
あっ!
そう言えば!
「ルイージさんは、夕食はどうされたんですか?」
「ルームサービスで食べました」
「そうですか」
良かった。断食させないで済んだようだ。
ボクが夕食を出す前提でいたら悪かったなって思ったんだ。
朝食の後、ボクは、急いで着替えた。
ただ、キャリーバッグがアイテムボックスの中なんだよね。
さすがに服を取り出すのには嫌悪感があったよ。
何故ってアイテムボックスの中には大量にフィラリアが入ったガラスケースも入っているからね。
このガラスケースは完全密封だし、そもそもアイテムボックス内は時間が止まるからフィラリアは外に出られないはずだけど、それでも思い切り嫌悪感が走るよ!
服に変なモノが付いていないのを確認すると、ボクは早速着替えた。
ルイージさんを連れて広場に行くと、既にそこには長蛇の列ができていた。
カトレアさんと、彼女の仲間達が既に仕切っていてくれたようだ。
ミラさんは、今日は仕事だって言っていたからね。
残念だけど来ていないや。
早速、ボクは、
「では、順に行きますので、少々お待ちください」
と言いながら、アイテムボックスの中から例のガラスケースを取り出した。
この中に、寄生虫達を突っ込んで行くからね。
あと、さすがにフィラリアの大群を見たくないからね。
ボクは、ガラスケースには大きな布を被せた。
そして、診察開始!
たしかに数人に一人は感染していない人がいたんだけど、その人達は、結局のところ『魔力持ち』だった。
基本的に、魔力を感じられない人は、全員がフィラリアに感染していた。
しかも、一人当たりの個体数が結構半端じゃなかった。
これって、あと数日放って置いたら本当にみんな死んでいたかも知れないって思うレベルだったよ。
とにかくボクは、フィラリア除去に専念して、患者さん達に名前と住所を記帳してもらうよう依頼するのとか、今後、薬を飲む必要があることの説明は、ルイージさんとカトレアさんにお願いした。
…
…
…
丁度この頃、アグリィ子爵の屋敷には、城からの使者が来ていた。
「イサベリア女王陛下からの書簡です」
「何だろう?」
アグリィ子爵は、書簡を受け取ると、早速それに目を通した。
ただ、その内容は、彼女にとっては到底信じ難いことだった。
「どうして私が身分剥奪になるんだ!」
「致死性の寄生虫症が国中、さらには他国まで感染拡大したら、どうするかと言うことです。特に他国まで広まったら、この国は世界中から叩かれるでしょう。それすら理解できないとは……、女王陛下はお怒りです」
「そんなぁ」
「まあ、女神トオル様が中央広場で治療に専念してくれているので最悪のケースは免れますがね」
『クソッ! あの女……』
ただ、アグリィ子爵……いや、この瞬間から元子爵となった女は、自分の非を素直に認められるような人間ではなかった。
思い切り負の感情を周りにまき散らしながら、
『トオルのヤツが余計なことを言いやがったに違いない!』
心の中の声が、テレパシーとなって周りに駄々洩れとなっていた。
そして、彼女は屋敷を飛び出すと馬にまたがり、
「行け!」
中央広場に向けて馬を走らせた。




