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47:あづい!

 では、城内に向けて出発!

 門番は顔パス。

 先に来て待っていた人達には悪いけど、緊急と言うことでボクの女王陛下への謁見の順番を繰り上げてもらった。

 そして、入室。


「トオルちゃん。繰り上げをお願いしたみたいだけど、また何かあったの?」

「実は、こちらのカトレアさんが住む町、オーキッド王国ククラタ町で蚊が媒介する寄生虫感染が流行っております」

「寄生虫?」

「はい、人の体内に住む虫です」

「何それ。凄くイヤなんだけど」


 女王陛下が、言葉通り、もの凄くイヤな顔をしていた。

 嫌われものナンバーワンの虫が体内に入ったとか、想像していそうだよ。


「実は、魔力を持つ者は蚊に刺されないため感染しませんが、魔力を持たない者が軒並み感染して突然死を迎えるようです」

「虫に身体を食べられてってこと?」

「いえ、血流が邪魔されて死ぬみたいです」

「じゃあ、その寄生虫を取り出せばイイのね?」

「それだけではダメなんです。感染伝搬サイクルを完全に遮断するために、寄生虫を取り出した後も、毎月必ず一回、薬を六年間継続して服薬してもらう必要があります」

「六年間も!」

「はい。ちょっとメカニズムが複雑なのですが……」


 ボクは、女王陛下にフィラリアのライフサイクルを説明した。

 プレゼン資料でもあると分かり易い気がするけど、今回は口頭だ。

 つくづく、二十一世紀の地球が便利に思えるよ。



 フィラリアは雌雄があるんだけど、感染した動物の中で、三カ月程度で成虫になって、メスのフィラリアがミクロフィラリアを産む。

 ミクロフィラリアは、動物の中では成長せず、蚊の体内に移動できなければ一~二年で死ぬ。

 ところが、蚊に刺されることでミクロフィラリアが蚊の体内に移動すると、ミクロフィラリアは感染幼虫に成長する。

 そして、再び動物が蚊に刺されることで、感染幼虫が動物の体内に入ると、そこで成長して成虫になる。

 以下繰り返し。



「実は、この治療を先方の領主様が受け入れてくれるかどうかが問題でして」

「たしかに、とんでもない薬代になりそうだものね。治ったのに、まだ薬を飲まされてお金を巻き上げられて、詐欺じゃないかって考える人も出てくるでしょうね」

「そうなんです」

「それに、その蚊が外に出ないように結界を張る必要もあるでしょうし」

「はい。それも御使いシリシスに指示されています」


 厳密にはチャットボット機能の答えだけど、建前上は、シリシスと交信していることになっているからね。

 女王陛下に対しても、そう言うことになっている。


「これはオオゴトね」

 女王陛下は、少し考えた後、

「ルイージとエリカを呼んで頂戴!」

 側近の人に言って、転移魔法使いを二人も呼んだ。


 ルイージさんは、ピリドン村にもメンチル村にも同行してもらった転移魔法使い兼世話係兼騎士の女性。

 エリカさんは、アクティスにお城での天体観測に誘われた時に同行してくれた転移魔法使いだ。


「「お呼びでしょうか?」」

「まずルイージだけど、またトオルちゃんのお世話をお願い。今度はオーキッド王国ククラタ町だって」

「あの中央大陸の?」

「そうね。お願いできるかしら?」

「分かりました」

「それからエリカには、オーキッド王国のイサベリア女王陛下に私の書状を持って行ってもらいたいのよ。これから用意するので少し待ってもらうけど」

「仰せのままに」

「じゃあ、トオルちゃん。最悪の場合はイサベリア女王陛下に相談なさい」

「はい。ありがとうございます」

「いつ死ぬか分からない患者が待っているから、急ぎなさい」

「はい」

「では、気を付けてね」

「はい。何から何までありがとうございます」


 と言うわけで、ボクとカトレアさんは、ルイージさんの転移魔法で、ドロセラ国のお城から一気に中央大陸へと移動した。



 移動後、ボクの第一声は、

「あづい!」

 だった。


 もう、暑いどころの騒ぎじゃなかったよ。ついうっかり濁点まで付いちゃうくらいの暑さだったんだ。

 赤道に近い地域だからね。

 常夏だよ。



 突然、ボクの十メートルくらい先にいる女性が胸を押さえて片膝をついた。

 ムチャクチャ苦しそうな顔をしている。

 これって、マジでヤバいヤツだよね?


「大丈夫ですか?」

 ボクは、その女性の傍に駆け寄ると、

「診断!」

 急いでその女性の身体をスキャンした。

 すると、案の定、心臓に沢山の寄生虫が溜まって血流を塞いでいた。


 これはマズイよ!

「出ろ!」

 ボクは、物質創製魔法を使って、急いでガラス瓶を出した。


 そして、

「転移!」

 その女性の体内からフィラリアを全てガラス瓶の中に瞬間移動させた。



 取りあえず間に合ったようだ。

 その女性は、胸の痛みが治まったようで、既に表情も和らいでいた。


「いったい、何だったの?」


 そりゃあ、何であんなに辛かったのかなんて分からないよね。

 心臓の中に変なヤツが住み着いていたなんて想像もつかないだろうからさ。


「実は、アナタの身体の中に寄生虫がいて、血の流れを止めていたんです」

「えっ?」

「ボクはトオル。カトレアさんの依頼で、この町で流行っている突然死を防ぐためにドロセラ王国から来ました」

「トオルって、あの薬の女神のトオル様?」

「女神じゃないんですけど」

「生きてトオル様にお会いできるなんて、幸せです。想像していた通り、お美しい方なんですね。私は、ミラと申します。でも、寄生虫って、何なんですか?」

「余り見るのはお勧めしないのですが……」

「そう言われても気になります」

「分かりました。驚かないでください。実は、これがアナタの身体の中にいたんです。さっきボクが、このビンの中に転移させました」


 ボクは、ビンの中に移したフィラリアの大群をミラさんに見せた。

 すると、

「嘘です。そんなものが、私の体内にいたなんて」

 絶対に認めたくないって反応を示してくれたよ。



 まあ、そう言いたいのはボクにも理解できるよ。

 カトレアさんもルイージさんも、驚きのあまり両手で口を覆って固まっていたもん。

 細長い虫がウジャウジャしていて動いていて。


 もう麺類は、しばらく食べられないよ。

 これを想像しちゃって。


「信じたくないのは分かりますけど、この町で多くの方が突然死を迎えた原因はこれなんです」

「じゃあ、私は死なないんですね?」

「いえ。今のままですと再感染します」

「イヤだぁ!」


 あらあら。泣き出しちゃったよ。

 そうなるのも、十分理解できるよ。

 こんな気意味悪いヤツが再び身体の中に住み着くって想像したら泣きたくなるよね?


「なので、撲滅したいと思っています」

「絶対にお願いします!」

「ただ、これはミラさん一人が頑張っても意味がありません。実は、この寄生虫は蚊が媒介します」

「蚊が、こんな大きなモノを?」

「この寄生虫の、極小さな幼虫を人の体内に植え付けるんです。それが成長して、ここまで大きくなるんです」

「ナニそれ?」

「信じられないと思いますけど」

「いくらなんでも信じられません!」

「ただ、この寄生虫は、全員が撲滅に向けて動かないと無意味なんです。そのために、領主のアグリィ様に話をしようと思います」

「領主?」


 ミラさんの表情が、険しくなったよ。

 なんだか、黒かったり茶色かったりする嫌われモノナンバーワンのイヤな昆虫をスリッパで叩き殺そうとしているような目だ。


「あの子爵に言ってもムダじゃないですかね。蚊が媒介するってことは、魔力の無い人にしか感染しないってことでしょ?」


 領主のアグリィって子爵だったんだ。

 なんだか、子爵って聞いてイヤなヤツを思い出したよ。

 誰って、バイルシュタイン子爵ね。ボクの店から三割値で薬を全部納めろって言ってきた困ったヤツ。


 ジジム子爵は、イイ人だったんだけどなぁ。

 なんだか、再び子爵に悪いイメージが付きそうだよ。

 あと、ミラさんも魔力が無い人しか蚊に刺されないって知っていたよ。

 単にボクが、この世界の常識を知らなかっただけなんだね。


「たしかにミラさんの仰る通り、魔力の無い人にしか感染しません」

「じゃあ、ムリですね。あの女が私達を救うために動くはずがありませんもの」

「でも、この町だって魔力の無い人の方が多いんじゃありませんか?」

「そうですね」

「もし、魔力の無い人全員が亡くなってしまったら、この町の産業が動かなくなって、領主様も困るのではないでしょうか?」

「どうだか」


 うーん。もの凄い言われようだな。

 ボクの隣では、カトレアさんが、これに賛同するかの如く大きく頷いているよ。

 相当、ヒドイ領主っぽいな。

 支持率は完全にゼロってとこじゃない?


「なんとか話をしてみます。治療費のこともありますけど、町として取り組まないとなりませんので」

「期待しないで待っています。あと、記念にサインを貰えます?」

「サインですか?」

「はい。ええとですね……」


 彼女は、ポケットから真っ白なハンカチを取り出すと、それをボクの目の前で広げた。

 こんな綺麗なハンカチなのに、これにサインを書くんだと勿体無い気がするけど……。


「これに書いてください」

「サインなんて書いたことありませんけど」

「お願いします。トオル様にお会いできた記念に!」

「分かりました」


 と言うわけで、ボクは女神様から頂いたペンダントにお願いしてサインペンを出すと、その白いハンカチにこの世界の文字でトオルと書いた。

 なんだか恥ずかしいな。


「ありがとうございます。では、また機会がありましたら」

「そうですね」


 ボクはミラさんに会釈すると、先を急ぐことにした。

 少なくとも、さっき、ここでミラさんは死にかけたんだ。

 他にも感染者はいるし、彼女達はいつ死ぬか分からない。

 それこそ、数分後には何人死んでいるか分からない状態なんだ。


「カトレアさん。領主様のお屋敷の場所は分かりますか?」

「はい。その手前まで私の転移魔法でお連れします。ただ……」

「ただ?」

「私の名前は出さないでください」

「えっ?」

「この件でアグリィ様には、お会いしたくないんです。睨まれそうですので。飽くまでも匿名で依頼が来たってことにしていただけませんか?」


 うーん……。

 魔力を持たない者達を救うって、領主様の前では口が裂けても言えないってことか。それだけ、『魔力の無い物は人にあらず』って考えが徹底しているってこと?


 なんだか、『平家にあらずんば人にあらず』って言葉を思い出しちゃったよ。まあ、あれは『平家じゃなければ(宮中で)出世できない』って意味らしいけどね。

 それにしても、面倒な依頼を受ける羽目になっちゃったな。


「分かりました」

「では、本当に申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。では、アグリィ様のお屋敷に向かいます。転移!」

 そして、次の瞬間、ボク達はアグリィ子爵の御屋敷の前に瞬間移動していた。

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