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46:またしても出張依頼!

「通してくれる?」

「うん」


 アリアが、ボクの居室にお客さんを連れて来た。

 年齢は、アリアやミサと同じくらいで目が大きなカワイイ系。


「トオル様ですか?」

「はい」

「本当に再臨されていたのですね。私は中央大陸のオーキッド王国ククラタ町から参りましたカトレアと申します。ピリドン村やメンチル町のことを聞き、また御使い様からの薬の供給が途絶えたので、トオル様が薬を再供給し始めたとの御噂も聞き、藁をもすがる思いで、こちらまで参った次第です」

「お一人で、ですか?」

「はい。私は転移魔法が使えますので」

「それで、いったい、どのような症状なのですか?」

「それが、何の兆候も無く、何人もの人が突然、死を迎えるのです。既に町の四分の一の人が、この三か月間で亡くなっています」

「以前から、そのような形で亡くなる方は多かったのでしょうか?」

「いいえ。こんなことは初めてです」

「そうですか」


 良く分からないな。

 なので、早速ボクは、頼みの綱のチャットボット機能にアクセスすることにした。

 そもそも、ボクは医者じゃないし、診断なんかできないよ。


『Q:オーキッド国ククラタ町で流行っている病気の原因は?』

『A:糸状虫』


 糸状虫ってことは、寄生虫だね。

 でも、それが、いきなり流行ったって、どう言うことだろ?


『Q:何故、今年になって流行るようになった?』

『A:蚊が媒介した』


『Q:昨年まで流行らなかった理由は?』

『A:今年になって持ち込まれたため』


『Q:今年になって、どのように持ち込まれた?』

『A:外部で寄生虫感染し、ククラタ町に持ち込んだ』


『Q:その者は、何処で感染した?』

『A:カティ地区』


『Q:カティ地区の人は寄生虫感染していないの?』

『A:カティ地区には人が住んでいない』


『Q:何故、カティ地区には人が住んでいないの?』

『A:元々、人が住んでいないジャングル』


『Q:移住もしていない?』

『A:その地に入った者が高い頻度で突然死を迎えるため、不吉な地区として五百年前に特殊結界が張られ、人間も動物も昆虫も行き来が出来ないようになっている。そのため、基本的に人は移住できない』


『Q:行き来が出来ないのに、何故、カティ地区で感染した?』

『A:結界破りの魔法を使って入った者の一人が感染した』


 これって、以前のイビセラ国ルテア町の時と同じパターンじゃない?

 キバナ村跡に入って菌感染したってヤツ。

 何処にでも禁忌破りが好きなヤツがいるんだね。



 ボクが、チャットボット機能に向かってブツブツ言っていたので、カトレアさんは怪訝な表情を浮かべていたよ。

 何、コイツって思われているのかな?


 すると、アリアが、

「今、トオルは御使いシリシス様を交信しているんです」

 ってカトレアさんに説明してくれたよ。



 厳密には違うんだけど、そう思っていてくれた方が楽なんだ。

 それで、周りには御使いシリシスと話をしているってことにしているんだよ。



 ボクの質問が続いた。

 まだ全容が見えてこないからね。結構時間がかかりそうだ。


『Q:カティ地区に入った者達の構成は?』

『A:全部で三人。一人目は結界破り魔法を持つ者、二人目は転移魔法使い、三人目は魔力を持たない学者』


 完全に、ルテア町パターンじゃん?


『Q:その中で感染したのは誰?』

『A:魔力を持たない学者』


『Q:他の二人は何故感染しなかった?』

『A:魔力を持っていれば、魔力で蚊を遠ざけるため蚊に刺されない』


 そうなんだ!

 初めて知ったよ。

 たしかに、ボクは、こっちの世界じゃ蚊に刺されないなぁ。

 アリアは刺される方だけど。



 多分、その学者がカティ地区で蚊に刺されて感染したけど、その段階では、特に病状も無くそのまま帰宅。

 その後、ククラタ町の中で、その人が蚊に刺されて、その蚊を介して他の人に感染して行ったってとこかな?



 早速、ボクは診断魔法でカトレアさんの身体をスキャンした。

 しかし、彼女の体内には寄生虫らしきものを発見することは出来なかった。

 そりゃそうか。転移魔法使いって言っていたもんね。



 ただ、何の兆候も無く突然死って、何で?

 糸状虫って言うからリンパ系フィラリアを連想したんだけど、その場合、手とか脚とかが肥大化するから、身体の変化があるわけだし兆候無しって言葉は当てはまらないよね?


 もっとも、それ以前にリンパ系フィラリアの場合は、感染してもバタバタ死ぬってわけじゃない気がする。


『Q:何故、突然死を引き起こす?』

『A:心臓や肺動脈に寄生するため』


 えっ? マジで!

 それって、同じ糸状虫でも犬のフィラリアみたいなんだけど?

 まあ、地球でも稀に犬のフィラリアが人間に感染することってあるみたいだけど、でもククラタ町ではガンガン人間に感染しているってことでしょ?


 でも、ここは異世界だからね。

 必ずしも地球と全てが同じってわけじゃない。

 信じられないけど、このネペンテスの世界にいるフィラリアは、人間に感染した場合、心臓や肺動脈に生息するってことだ。


『Q:この寄生虫感染症の治療法は?』

『A:突然死を防ぐため、外科的摘出が望ましい』


『Q:人間以外の動物も感染する?』

『A:する』


『Q:撲滅方法は?』

『A:全員、外科的摘出後、ジエチルカルバマジンとアルベンダゾールを毎月一回の経口投与で六年間継続する。また、結界を張って蚊が他の地域に移動しないようにする』


 結界を張るのは、感染拡大防止の意味で大事だね。

 あと、外科的摘出以外は、リンパ系フィラリア症に似ているね。

 多分、すぐにでも死んじゃう人がいるかも知れないから、念のため摘出しろってことなんだろうね。



 ただ、リンパ系フィラリア症と比べて投与回数が随分と多い気がするんだけど?

 これは多分、既に体内にいるフィラリアを除去した後に、蚊に刺されて再感染する恐れがあるからなんだろう。


 血流を塞がれないようにするには、再感染後、フィラリアが成長してサイズが大きくなる前に殺さないといけない。

 それで確実性を見て毎月投与なんだろう。



 それから、六年って言うのは、魔力を持っていない野生動物にも感染するからなんだ。

 街中にいるのは、犬と猫と狐とタヌキくらいだけど、トータルでは、それなりにいるからね。

 ハッキリ言って、街にいる動物全部に薬を投与するのは難しい。


 人間と同じで、魔力を持つ動物は感染しないけど、魔力を持っていない動物は感染して死を迎える。

 そして、魔力を持たない動物が全て死んだ段階で、感染源は無くなるはずだけど、そうなるのに六年かかるってことなんだろう。多分……。



 先ずボクが、以前、ディオネア王国でジジム子爵の胃癌を治した時みたいに、物質転移魔法を使って患者全員からフィラリアを取り出すしかないね。


 基本的にボクの転移魔法はショボいから百メートル程度の移動が限界だけど、治療のために寄生虫を移動させるだけなら、移動距離は百メートルも必要ない。

 なので、摘出自体は十分可能なはず。


 その後に飲ませる薬も出せるし。

 一応、構造式は覚えて来たからね。

 でも、念のため質問しておこう。


『Q:ククラタ町から糸状虫を完全に根絶できる?』

『A:今のままでは無理』


『Q:何故、無理なの?』

『A:領主の協力を得るのが難しい』


 それって、どうしてだろ?

 普通、領地を守るのが領主だと思うんだけど?


「カトレアさん。ククラタ町の領主様は、どのような方ですか?」

「それが、今回の治療と何か関係があるのでしょうか?」

「今回の奇病は、蚊が媒介します。そのため、魔力を持たない者に感染します」

「たしかに魔力を持っていると蚊に刺されないって言われますね」


 隣では、カトレアさんの言葉にアリアが頷いているよ。

 これってさ、もしかして、それを知らなかったのってボクだけだった?

 まあ、別にイイけど……。


「それでですね。実は、御使い様からは、領主様の協力を得るのが難しいと言われておりまして……」

「そうですか。ここだけの話にしていただきたいのですが、領主アグリィ様は、魔力が無い者を人間として認めない人です。それと、嫉妬深い人でもあります」


 なるほどね。

 だとすると、人間として認めない者だけが死んだところで、どうでもイイってとこか。

 随分、厄介な案件だな。ただでさえ面倒な病気なのに。

 でも、ボクが行かないことには何も始まらないか。


「今回の病気は、感染者全員から病原体を除去した後、全員が毎月一回、六年間薬を飲み続けなければ根絶できないんです。全員の協力が必要です。ですので、お金が無くて治療できないって人が出ては困ります」

「それで領主にですか」

「そうです」

「余りお勧めできませんが……」

「でも、領主様の許可を得ないことには始められません」

「そう……ですね……」


 なんか、カトレアさんは今一つ乗り気じゃなさそうだな。

 まあ、彼女の反応も分からないでもないけどね。


「では、ボクの出張許可をフルオリーネ女王陛下にもらいに行きましょう」

「出張許可が必要なんですか?」

「はい。疑うわけでは無いのですが、ボクが他国に拉致されては困ると言うこともありまして、毎回許可が必要なんです。それと、ボクには付添人が付くと思いますよ」

「そうなんですね。分かりました」

「それでですね。ボクの転移魔法は、恥ずかしながらショボいモノでして……。ここからドロセラ王国の王都まで転移できますか?」

「可能です。では、トオルさんとこちらの方も?」

「いえ。アリアはこっちに残ってもらいます。ボクとカトレアさんだけでお願いします」

「分かりました。転移!」


 そして、次の瞬間、ボクとカトレアさんはお城のド真ん前に到着した。

 でも、よくよく考えたら、流通センターに行ってドロセラ王国内の転移魔法使いを借りなきゃいけなかったんじゃない?


 だって、万が一、カトレアさんがボクを拉致する側だったら、今の転移で連れ去られていた可能性もあるわけだからね。

 カトレアさんが、拉致目的の人じゃなくて良かったよ。

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