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5:やっぱり鎮痛薬は必要だよね?

 ボクは、性別が変わっていたショックで、しばらく呆然としていた。

「これじゃ、転生じゃなくて転性だよぉ」


 繰り返しになるけどさ、今まで気付かなかったボクは、はっきり言って大ボケだよね。

 普通は、これだけ大きな胸があったら、コートを着ていたって瞬時に気付きそうなものだよ。


 さすがに今は、何もする気になれない。

 一先ず、気を静めようとシャワーを浴びた。



 一息ついた後、ボクは改めて自分の全身を姿見に映した。

 開き直って考えよう。

 うん、たしかに綺麗だ。

 正直、こんな女性が彼女に欲しかった。下手をすると、自分自身に恋をしそうだよね、うん。


 これが前世の姿だったら、異性には困らなかっただろうな。こんな女性が生活圏内に居たら、ボクがお持ち帰りしたいよ。

 そんな度胸は無いけどさ。


 でも、今のボクに男が近づいてきても、付き合ったりしないよ。

 こちとら嫌悪感しかないしね。

 心は男だから。



 それにしても、これが女性の身体か。

 ボクは女性の身体を初めて触った。って言っても自分の身体だけどね。

 これはこれで気持ちがイイものなんだね。ええと、触る方も触られる方もね。


 でも、余り触っていると気持ち良過ぎて変な行為に走りそうだ。

 エスカレートすると、棒状の道具とか作り出しちゃいそう。もし作る時は、18金の豪華絢爛なのにしようかな?


 この場合、『金』じゃなくて『禁』の間違いじゃないかって?

 そうならないように気をつけなきゃいけないね、うん。



 翌朝、ボクは普通に目が覚めた。

 別に朝が苦手なわけじゃない。

 改めて姿見を見たけど、やはり昨日と同じ女性の姿だ。


「はぁー」

 溜め息が出た。

 もう、この事実を受け入れるしかないよね。


 とりあえず、女神様にもらった便利なペンダントを使って、この世界の平民女性が今の時期に着る服を出して、それを身に着けた。

 ボクが着ていた服は、この世界では浮くもんね。

 今まで来ていた服とかコートはアイテムボックスの中にしまうことにした。



 朝食は、宿の一階の食堂で取る。

「席は空いているところにどうぞ」

 宿の人にこう言われて、ボクは手前の空いている席に座った。すると、すぐに朝食が運ばれてきた。

 既に人数分を用意してあるんだろうね。


「パンとサラダとスープになります」

 固定メニューか。

 味の方は、まあ、普通。


 ボクは、詰め込むように大急ぎで朝食を済ますと、急いで部屋に戻り、例の端末で検索を始めた。

 一応、使命を持って転生した以上、何もしないわけには行かないからね。それには、行動を起こす方向性を決めなくちゃならない。


 やっぱり、一問一答形式だと時間がかかる。

 でも、調べたいことは確実に分かるので、そこは非常に有難い。検索内容にノイズが入らないのは助かるよ。



 検索結果からはっきりしたことは、この世界の科学力は、分野によっても違うけど、大体地球で言う十八世紀初頭程度のレベルでしかないと言うことだ。

 紀元前とかじゃないだけマシか。


 全体的な科学水準から考えると、水洗トイレやシャワーの存在は、突出した技術って言えるんだろうね。

 でも、肝心の有機化学の方は非常に残念な状況だ。ボクが古典的試薬と思うようなものさえ殆ど存在しない。

 この分野だけは、十六世紀初頭のレベルで止まっている感じだ。


 当然、薬の技術レベルも十六世紀初頭程度。

 化合物の構造決定技術も同様。実験装置も同様。

 これでは、二十一世紀どころか、二十世紀中盤の地球と同レベルのサイエンスを展開することすら不可能だ。


 まあ、ある程度は覚悟していたけど。

 でも、これだと薬を化学製造するのは難しい……と言うかムリだね。



 ボクの能力で薬を供給することは出来る。

 でも、女神様が仰っていたボクの使命は、『この世界の薬の概念を一歩先に進める』だったはず。


 それで、薬を人工製造する方向に切り替えるのかと思ったけど、それに堪え得るだけの基盤技術が、この世界には、はっきり言って存在しない。

 これでは、薬を合成すると言う概念を与えること自体がムリだ。

 なら、どうやって、この世界の治療薬の概念を変える?


 やっぱり、ボクが能力で薬を作り出すしかない。

 それで、今まで、この世界には存在しなかったタイプの薬も存在し得ることを人々に理解してもらう程度か。


 つまり、より優れた薬が存在することの啓蒙。

 今のところ、これが限界かもね。化学製造のことは、後で考えよう。

 でも、薬を供給する……と言うか、売るには拠点が必要だよね?



 お金の方は何とかなる。

 最後の手段って思っていたけど、やっぱり今は金貨を作り出そう。それくらいのことは、女神様も許してくれるよね?

 きっと大丈夫だと言うことにしよう。


 あとは、どのレベルの薬が、この世界に存在するかだね。

 検索の結果では、咳止め、整腸剤、解熱・鎮痛剤、滋養強壮剤程度か。解熱・鎮痛剤は飲み薬と塗り薬の両方ね。

 それらの中で、一番売れているのは飲み薬の鎮痛薬か。生理痛の薬として売れているみたいだね。


 でも、どの薬の効果もボクの知っている薬ほどシャープじゃない。それも仕方が無いか。

 一応、漠然とだけど方針は決まった。



 翌日、ボクは不動産屋をあたることにした。

 宿の人に聞いたら、宿の向かいに不動産屋があるとのこと。ボクは、早速そこを訪ねた。


「あのう、テナントを探しているのですが?」

「予算はいくらくらいですか?」

「この辺の相場が分からないんですけど、住居とテナントの両方があると、どれくらいになりますか?」

「賃貸でしたら一ヶ月で小金貨7枚から金貨1枚ってとこですかね。いくつか物件が有りますが、見てみますか?」

「はい、是非」

 ボクは、不動産屋に連れられて幾つかの物件を見て回った。



 運良く、この日のうちに、ボクは気に入った物件を見つけることができた。

 二階建てで、一階はテナントと住居部分が、それぞれ40平方メートルくらい。二階は80平方メートルくらいの広さがある。


 町の外れの方なので、立地は今一つな気もしたけど、一人で暮らすには十分過ぎるくらい広い。

 それに、これだけスペースがあれば薬の作り置きもできる。


「ここは売り家なんですけどね」

 賃貸じゃないのか。


 この町にずっといるかどうかも分からないし、最初は賃貸でって考えていたんだけどね。

 でも、物件を見ると、正直、心が動いた。

 それに、持ち家にした方が室内を自由に改造できる。


「物件価格は金貨120枚ですけど」

「買った!」


 ボクは、即金で購入した。

 実は、今朝、金貨100枚を追加で作っておいたんだ。一昨日に出した分と合わせればお釣りが来る。


 その後、ボクは一旦、宿に戻った。

 宿泊費を払っているしね。泊まらないと勿体無い気がしたんだ。



 翌日、ボクは宿をチェックアウトすると、自分の持ち家に向かった。

 開店に必要なのは、カウンターと椅子、それから薬品棚。

 これらは家財道具と言うことにして例のペンダントを使って出すことにした。まあ、思い描いていたようなものが出てきたよ。助かった。


 商品を万引きされないように、薬品棚はカウンターの後に置くことにした。

 客に何が欲しいのかを聞いて、カウンター裏の棚から商品を客の前に出す方式だ。



 棚を設置した後、ボクは物質創製魔法で薬を作って棚に並べた。

 客が来てから作ることも出来るけど、棚から出すほうが自然だよね、きっと。


 それにしても、随分とスペースを持て余しているな。

 残りのスペースで何か別の商売でもしようかな?



 何はともあれ、準備は一応完了した。

 ボクは、その日の午後に商業ギルドに行き、薬屋として登録した。この世界では、ギルドに登録しておいた方が納税とかの手続きが楽になるらしい。


「薬屋ね。登録料は小金貨1枚だけど」

「支払いは大丈夫です」

「それから麻薬販売だけは行わないようね。最悪、死刑だからね」


 どうやら、この世界でも阿片や大麻は存在するらしい。それらを取り締まる法律も、この世界にはあるとのことだ。

 勿論、それらを取り扱う予定は今のところ無いけどね。



 そのさらに翌日、ボクは薬屋をオープンした。

 一先ず商品として取り扱うのは、二十一世紀の地球で売られている風邪薬、鎮痛剤(飲み薬とクリーム剤)、整腸剤(下痢止め)、水虫の薬(液剤)、湿疹・かぶれ等のクリーム剤、滋養強壮剤、などなど……。


 全部、一般大衆薬レベルだよ。

 勿論、スイッチOTCも含めてだけどね。

 様子を見ながら種類は増やすつもりだ。



 それからPDE5阻害薬も置くことにした。これは、地球でも非常に話題になったED治療薬だ。別にEDの人でなくても効果はある。

 成分はタダラフィルにした。

 この世界の男性は、多分、日々、Hに明け暮れていることと思う。出来れば自分が使う側に回りたかったけど……。


 元男性の立場から、この世界が存続するためには、絶対に必要な薬だと思ったんだ。

 タダラフィルを選んだのは効果が長いから。



 飲み薬は、いずれも錠剤にした。

 この世界に存在するのは丸薬と粉薬と液状の飲み薬に塗り薬。錠剤なんて、誰も見たことが無いんじゃないかな?


 でも、まあ、ボクの錠剤を、みんな丸薬の一種と思ってくれるだろう。

 容器はガラスビン。一応、この世界にはガラスビンが存在しているので不自然にはならないだろう。

 クリーム剤はチューブではなくて木のケースに入れた。これも、この世界の技術レベルから不自然にはならない容器として選んだ。

 液剤もガラスビンに入れた。


 価格は、他店の同種同効薬の価格を参考にした。

 高過ぎても買ってもらえないし、安過ぎると効果が疑われそうだからね。敢えて他店の薬と同じくらいの値段にしたんだ。

 一応、価格については例の端末で調査した。



 それから鎮痛剤は、本当は数種類揃えようかと思ったんだ。

 人によって合う合わないがあるかも知れないからね。


 でも、種類があると迷っちゃうよね?

 なので、今は一種類に絞った。

 勿論、生理痛にも効果が高いヤツだ。

 既存薬の売れ筋から考えて、この世界なら、絶対に需要が高いはず!


 鎮痛剤に限ったことじゃないけど、少なくともボクの店の薬は、この世界に出回っているどの薬よりも高い効果を出すだろう。

 二十一世紀の科学力が十六世紀の科学力に負けるはずがないもんね!

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