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41:そんな病気もあるんです!

 メンチル町から戻ると、ボクは早速、フルオリーネ女王陛下の前に通された。

 例の奇病に関する結果報告だ。


「ただいま戻りました」

「お疲れ様。でも、一カ月もかかるとはね」

「薬を最大二週間処方した後、一週間ちょっと様子見しましたので。でも、全員無事に治って良かったです」

「だけど、こんな病気もあるのねぇ。()()()()()だなんて」


 実は、そうだったんだ。

 今回の奇病って、まさかの精神疾患だったんだよ。

 しかも、団体さんで。



 患者第一号は、虫に噛まれた時に、そこからバイ菌が入ったんじゃないかって勝手に思い込んじゃってね。

 それで精神不安から勝手に体調不良を起こして頭痛とかダルさを引き起こしていたんだ。


 周りの人達は、六年前に全世界的に流行した伝染病の記憶があったからね。

 これまた、勝手に伝染すると思い込んで、やっぱり精神的不安から体調不良を起こしたんだ。



 それがドンドン広がって、結果的に町の五分の一の人間が体調不良を起こすって状態になっちゃったってことだよ。


 だから、最初にチャットボット機能で、このカラクリを知った時、ボク自身もちょっと理解し難いって思ったよ。


「最初は、単なるビタミン剤を二種類出しただけでした」

「ビタミンって?」

「身体の健康を維持するために必須な栄養素のことです」

「じゃあ、それが不足していたとか?」

「いいえ。メンチル町の人達は普通にビタミンを摂っていたと思いますので、ビタミン不足ってことは無かったと思います。それが、プラセボ効果で大半の人が治ってしまいまして……」

「プラセボ効果?」


 女王陛下としては初めて聞く言葉だろうね。

 そもそも、この世界にプラセボ効果なんて概念自体無いだろうからさ。


「効果が無いはずの偽薬でも、患者さんが本物と思い込むことで症状が緩和したり改善回復したりすることです」

「そう言う意味なのね、プラセボ効果って」

「でも、全員が治るとは思っていませんでした」

「私は、正直、大丈夫だって思っていたわよ。それこそ、そのプラセボ効果が絶対に起こるって思っていたもの!」


 たしかにフルオリーネ女王陛下は、ボクが出発する前に何とかなると仰っていた。

 でも、どうしてプラセボ効果が確実に出ると思っていたんだろう?


 すると、女王陛下は、

「御使いトオル様が薬を直接渡してくれるからね」

 と仰った。

 つまり、ボクが薬を渡すこと自体がプラセボ効果に直結するってことか。


「御使いではありませんけど」

「でも、周りはそう思っているし、今回の患者達は全員、トオルちゃんが作る薬なら、どんな病気でも治るって思い込んでいたでしょうね。だから、病気と思い込んで体調を崩していただけなら、トオルちゃんの薬を飲んだら治るって思い込むだけで充分治るって思っていたのよ」

「まあ、実際に思い込みで体調は元に戻りましたので」

「そうね。むしろ、私にとっては二週間で治らなかった人の方が信じられないけど」

「仕方がありませんでしたので、その人達にはカフェインとビタミンを与えました」

「カフェインって?」


 これも、初めて聞く言葉だろうね。

 そもそも、この世界は、まだ分子って概念が出来ていない科学レベルだもんね。


「コーヒーの成分で、眠気覚ましなどの興奮作用を持つ物質です」

「じゃあ、コーヒーを飲んだのと同じってこと?」

「そうお考えいただいて宜しかと思います。本当は、抗不安薬とか抗うつ薬を処方しようかと思いましたけど、精神薬は怖かったので、眠気と倦怠感を除去すればイイかって思ったんです」


 それでもダメなら滋養強壮剤でも出そうかと思っていたんけどね。

 タウリン入り。

 これは、ボクの魔法と言うよりも女神様から与えられたペンダントから出せる気がする。

 生活必需品(?)ってことで。



「まあ、それで正解ね。あとは、トオルちゃんプラセボ効果でスッキリ治ったわけだし。そうそう。この後、時間あるかしら?」

「はい。大丈夫です」

「ちょっとアクティスに会って行ってあげて。今朝から寝込んでて」

「分かりました」

「では、お疲れさまでした」

「こちらこそ、お気をお使いいただき、ありがとうございます」


 報告終了!

 ボクは女王陛下に頭を下げると、謁見室を後にした。

 そして、その足で単身、アクティスの部屋へと向かった。

 最近、入り慣れた感じがあるなぁ、この部屋。


「コンコン」

「どうぞ」

「失礼します」

「その声。トオルか?」

「はい。なんか、体調を崩したって聞いて」

「大丈夫。ちょっと疲れただけだって。それに、トオルの声を聞いたら元気が出たよ。それよりメンチル町の方は、どうなったんだ?」

「一応、全て完了しました」

「陛下から聞いたけど、病気不安症って、ちょっと理解し難いけど」


 そりゃあ、理解し難いだろうね。

 今まで、アクティスは、ボクが色々な病気を治したのを見て来たけど、それらは全部、基本的に病原体があったからね。

 精神が病を引き起こすって、今回が初めてじゃないかな?


「でも、心が病むと本当に体調を崩しますから」

「たしかに、それもあるかも知れないな……。そう言えば、シュライバー社長から聞いたんだけど、彼女の姪に女性のための薬を渡したんだって?」

「ああ、あれですね」

「効いたみたいだね。それで、何人かモニターを募集してはどうかってことになった。評判が良ければ、販売してはどうかって」

「でも、需要はあるのでしょうか?」

「一応、あるみたいだ。せっかく男と楽しむ順番が回ってきても、身体が乗り気じゃなかったら勿体無いって思っている人もいるみたいだからね」

「順番ね……」


 多分、マルシェなんか、そのタイプだろうな。

 アリアとミサは、興味無しだけど。


「まあ、トオルは順番待ちする必要は無いけどな」

「そんな気は毛頭ありませんけど」

「ただ、そのことで一点、気になることがあるんだけど」

「何でしょう?」

「トオルは、堕胎薬とかは作れるのか?」


 この時、アクティスは、妙に神妙な顔をしていた。

 何かあったのかな?


「一応、作れますけど……」

「作れるのか!?」

「はい。ただ、一度も作ったことはありません。それこそ、この世界では、まだ不要でしょうから」

「本当に作ったことは無いんだな?」

「はい。でも、それがどうかしたのでしょうか?」

「いや、変なことを言って悪いが、トオルは全然妊娠しないだろ」

「そう言うことですか……」


 つまり、アクティスはボクが彼の子を妊娠しないから、堕胎薬でも使っているんじゃないかって疑ったってことか。

 まだ、ボク達は結婚したわけじゃないし、別に妊娠しないでイイんじゃないかって思っていたんだけど。



 でも、相手は王太子だもんね。

 最終的には出来なきゃ困るってことか。


「以前、マイトナー侯爵には話したんですけど、ボクは特殊な能力を授かったことで妊娠できない身体になっているのかも知れません」


 まあ、これは嘘に方弁ってとこで……。

 ボクが妊娠しない理由は、多分、ボクが前世で理想としていた女性の姿だからなんだろうけどね。



 当時のボクは収入ゼロの学生だったから、妊娠されちゃ困る。

 なので、ボクは妄想の中で理想の容姿をした美女に何回も出しまくっていたけど、その女性はボクの勝手な都合で絶対に妊娠しないんだ。

 それが、そのまま完全に実体化した姿が今のボクだからね。


「薬で治せないのか?」

「分かりません」

「シリシスに聞けないか?」

「御使い様にですか?」

「ああ」

「ちょ……ちょっと待っててください」


 ボクは、ステータス画面を開いて、例のチャットボット機能に聞くことにした。

 答えてくれるのは、必ずしもシリシスってわけじゃないけどね。

 余り期待していないけど。


『Q:ボクは妊娠できないの?』

『A:今すぐは無い』


『Q:いずれ妊娠するの?』

『A:時を待て』


 ハッキリしない回答だなぁ。

 なんか、おみくじとかに書いてあるような表現に思えるのはボクだけかな?


「聞いてみましたけど、時を待てとしか……」

「そうか。でも、しないとは言っていないんだな?」

「はい」

「分かった。今は、その答えを信じよう」

「そうですね」

「で、トオル」


 あれ?

 アクティスが迫って来たんだけど?

 コイツ、体調が悪かったんじゃなかったのかよ?


 …

 …

 …


 そして、数十分後、アクティスは賢者タイムに入ったよ。

 オマエは、病人じゃなかったのか?

 別にイイけど……。


「では、ボクは家に戻ります」

「気をつけてな」

「では、お大事に」


 ボクは、アクティスの部屋を後にすると、ルイージさんを探した。

 さすがに、ここから侯爵家の御屋敷まで歩くのは大変だもんね。

 そして、ボクはルイージさんを見つけると、彼女に家まで送り届けてもらった。



 家に着くと、ボクは、そのままベッドに倒れ込んだ。

 本当は、ちょっと休憩するつもりだったんだけど、でも、意外と疲れていたみたいで、何時の間にか眠ってしまったらしい。

 疲労の原因は、多分、アクティスなんだろうけど。

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