40:またもや出張!
さらに二か月後。
ボクが、この世界に戻ってきてから、もうすぐ半年になる。
アダンの町は、この半年間で、今まで以上に製薬業を中心に発展する雰囲気が強くなっていた。
ボクが前にいた頃と比べると、この六年間で随分人口も増えたって話だし、町全体が以前より活気づいている気がするよ。
ミサ達による薬の製造も、既に流通センターから新工場に移していた。
製造量は、全世界必要量の2%程度でしかないけど、でも、かなり作業自体は安定してきていた。
この日から、いよいよアリアとアイカを教師として薬学教室が始まった。
二人共、今日から『トオル製薬』の社員となり、薬学教室に派遣される形となる。
実は、思っていた以上に受験者がいてね。
それで、製造ライン希望者の方は、魔力測定で大きく篩にかけさせてもらった。
こっちもキャパに限界があるからね。
教師希望の人もいたけど、少数だったなぁ。
やっぱり、製造ラインで数年働いて、あとは遊んで暮らすって考えの人が多かったみたいだ。
そんな中で、またもやボクのところに出張依頼が舞い込んで来た。
この日、ルイージさんが急遽、侯爵家の御屋敷までボクを迎えに来たんだ。
「トオル様。女王陛下からの依頼です。城までご足労お願いします」
「分かりました。でも、いったい何が起きたのでしょうか?」
「奇病です」
「えっ?」
「西の大陸の南端に位置するオレエート国で、致死的ではないのですが、慢性的な頭痛や吐き気、倦怠感が続く病気が蔓延しているそうです。その患者のうち、何人かは虫に噛まれたそうでして」
「では、虫から感染したってこと?」
「はい。その後は、人から人へと感染拡大したのではないかと」
「なんて町ですか?」
「内陸のメンチルと言う町です」
うーん、何だろ、その病気?
ちょっとチャットボット機能に聞いてみよう。
ってことで、ボクはステータス画面を開いてチャットボット機能を立ち上げた。
勿論、これはルイージさんには見えない。
多分、ルイージさんには、ボクが宙に向かってブツブツ言っているようにしか見えなかっただろうな。
『Q:オレエート国メンチル町で流行している病の病原体は?』
ただ、チャットボット機能が教えてくれた病因は、ボクの予想の斜め上を行く、とんでもないモノだった。
これって、マジで治せるのかなぁ?
ちょっと自信が無いよ。
一先ず、ボクは女王陛下の元へと急いだ。
「失礼します」
謁見室に入ると、フルオリーネ女王陛下と向かい合わせにダルそうな表情をした見知らぬ女性の姿があった。
この女性がオレエート国からの使いだろう。
ただ、何気に、その女性は女王陛下と距離を取っていた。
感染拡大を避けようと、気を使っているのだろう。
「トオル様ですね」
「はい。アナタがオレエート国からいらした方ですね?」
「メンチル町の転移魔法使いのレイジーと申します」
「慢性的な頭痛や吐き気、倦怠感が続く病気が蔓延していると聞きましたが、レイジーさんご自身は大丈夫でしょうか?」
「私も、その症状があります。でも、全然動けないと言うわけではありませんでしたので、少々無理してここまで参りました」
とは言え、本当に顔色が悪いし、辛そうだ。
でも、この病気って、本当にこんな風になるんだね。
「お疲れ様です」
「町の五分の一の女性が罹患しております。女王陛下には、既にトオル様を派遣していただけるご許可をいただきましたので……」
「はい。ここにいるルイージから聞いております。ルイージの転移魔法でメンチル町まで移動します。ただ、ちょっと女王陛下に報告したいことがありまして、謁見室を出たところで少々お待ちいただけますでしょうか?」
「分かりました。では、失礼します」
レイジーさんは、ボクと女王陛下に深々と頭を下げると、辛そうな足取りで謁見室を出て行った。
一先ず、ボクは側近の方に急いでドアを閉めてもらった。
これから話す内容をレイジーさんに聞かれないようにするためだ。
「で、トオルちゃん。報告事項って?」
「実は、今回の病気なんですけど……」
ボクは、さっきチャットボット機能で確認した内容を女王陛下に話した。
あと、状況を知ってもらうため、ルイージさんにも謁見室に残っていただいた。ただ、ここで話す内容は秘密厳守にしてもらったけどね。
これを聞いて女王陛下は、
「そんなのってあるの?」
ムチャクチャ驚いていたよ。
でも、そんなことがあるんだから仕方が無い。
「あるんです。なので、今回はちょっと自信が無いんです。巧く行ってくれれば良いのですけど」
「そうね。でも、私は何とかなるって思っているわよ。だって、御使いトオル様が薬を直接渡してくれるわけだからね」
「御使いじゃありませんけど」
「いえいえ。周りから見れば十分、御使いよ。だから、多分大丈夫」
「何とかなることを祈ります」
「じゃあ、大変だけど頑張って頂戴」
「はい。では、失礼します」
そして、ボクは、女王陛下に一礼するとルイージさんと一緒に謁見室を後にした。
それから、ボクはマスクを二つ、アイテムボックスから取り出した。前回の出張の際に多めに作っていたモノの余りだけどね。
これをボクはルイージさんに渡して付けてもらった。
一応、ボクも形式的に付けたけどね。
謁見室を出ると、レイジーさんは扉から少し離れたところで待っていてくれた。
でも、マジで辛そうだな。
なので、早速、
「出ろ!」
ボクは一週間分の薬を出した。
「薬は二種類です。毎日朝夕の一日二回、一錠ずつ飲んでください」
「ありがとうございます」
「レイジーさんは軽度ですので、これで治ると思います。あと、これを。今日一回目の分は、ここで飲んでください」
ボクは、女神様にいただいたペンダントにお願いしてビンに入ったスポーツドリンクを出すと、それをレイジーさんに渡した。
そして、レイジーさんが薬を飲み終えた後、
「転移!」
ボク達はルイージさんの転移魔法でメンチル町に向けて出発した。
気が付くと、ボク達は山の麓の町にいた。
ここがメンチル町だ。
まず、町長に挨拶。
と言うことで、ボクは早速、公民館に連れて行かれた。町長は、既に、そこでスタンバっていたんだ。
「はじめまして。町長のラエラと申します」
「トオルです」
「遠いところ、わざわざありがとうございます」
「ラエラさんは、体調は大丈夫ですか?」
「私は全然問題無いんですけどね。一応、この公民館の一室で患者を診てもらいたいと思います。あと、しばらく町のホテルに宿泊してください。手配はしておりますので」
「ありがとうございます」
「では、よろしくお願いします」
ボクは、ラエラ町長に診察室として使う部屋に案内された。
この町の人達は、前回出張したピリドン村の住人達とは違って瀕死状態じゃないし、全く動けないわけでは無い。
なので、わざわざボクの方から往診する必要は無いとの判断だろう。
あと、ラエラ町長はパワフルな感じで、シュライバーさんみたいな雰囲気だった。
やっぱり身体が資本だね!
ラエラ町長が町中に連絡してくれたのだろう。
数時間後には、公民館前には長蛇の列ができていた。
来てくれた患者さんに、ボクは、順に薬を処方していった。
「この病気の薬は二種類になります。毎日朝夕の一日二回、一錠ずつ飲んでください。これを一週間服用して、それでも症状が改善しない場合は薬を切り替えます」
「ありがとうございます」
一先ず、患者さん達は、この日のうちに全員、ボクのところに来てくれたみたいだ。
それこそ身体に鞭を打って頑張ってきてくれたよ。
この日から、ボクとルイージさんは、ラエラ町長が手配してくれたホテルに遠慮なく宿泊させてもらった。
勿論、宿泊費はタダね。
この町に依頼されて来たんだからさ。
ちなみに用意されていたのはスイートルームだった。
ただ、ルイージさんはボクの世話係も兼任しているからね。
一人一部屋じゃなくて二人で一部屋だった。
アクティスのヤツが羨ましがりそうだな。
ボクと同室って。
それから一週間が過ぎた。
殆どの人は全快した。
随分と身体が楽になったらしい。
でも、一部の人達は、まだダルさが残って起きるのが辛かったとのこと。
ほんの少しだけ楽になったけど、やっぱり体調が優れなかったようだ。
ちなみに、レイジーさんは全快組だった。
ボクは、まだ治っていない患者さん達に公民館に来ていただいた。
新たに薬を処方するためだ。
「では、別の薬を処方します。また二種類の薬になりますが、前回の薬と比べて、今回のは強力です。一日一回の服用です。毎朝一錠ずつ飲んでください」
「はい」
「あと、今日の分だけ、ここで飲んでください」
そして、そう言いながらボクはビンに入ったスポーツドリンクを患者さんに渡し、その場で薬を飲んでもらった。
「ありがとうございます」
「では、お大事にしてください」
でも、これで全員、治ってくれるとイイけど……。
マジで不安なんだよね。今回は……。
ただ、ボクの不安を余所に、残りの人達も全快してくれた。
と言うか、ボクの前で薬を飲んだ後、数時間で気分が随分と楽になったらしい。
マジでソッコー治ったって。
一応、ボクは様子見も兼ねて、ルイージさんと一緒にメンチル町のホテルに、さらに連泊したけどね。
どうせ宿泊費はタダだし。
ピリドン村に比べると富裕層が多そうな町だからね。
気兼ねなく泊めてもらったよ。
そして、そこからさらに二週間後、再発する人もなく、この町の奇病は終息を迎えたとボクは判断した。
ボクは、ラエラ町長に、
「では、これで多分大丈夫だと思いますが、また何かありましたらご連絡ください」
とだけ言うと、
「転移!」
ルイージさんの転移魔法でドロセラ国へと帰還した。




