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39:賢者!

 受験者達が会場に戻って来た。

 全員が元いた席に着くと、ボクは、みんなの顔を見渡した。全員、不安そうな表情を浮かべていたよ。


「では、合格者を発表します。合格者はアリアとアイカの二名です」


 アイカは、アダン町の隣に位置するオスロ町に住んでいる娘で、アリアやミサよりも、ちょっとだけ若い。

 今回の受験者の中で最年少になる。


 不合格になった八人の娘達には申し訳ないけどね。

 教師である以上、ある程度のレベルは求められるから仕方が無いんだよ。



 この八人は、なんだか本当に見ていて可哀そうだな。

 特にソナタなんか、マジで泣き出しちゃっているよ。

 でも安心して。ボクは、この八人にチャンスを与えたい。


「他の八人は、今回は惜しくも不合格でしたが、もし希望があれば次の教師候補としてボクが直接、化学を教えたいって思っています」


 これを聞いてソナタが、

「いつからですか?」

 早速、食い付いて来た。


 彼女は、どうしても化学の教師になりたいみたいだからね。

 最終的には、祖国アルドロバンダで薬の製造ができることを夢見ているし、そのためにも祖国に戻ったら化学教師として活躍したいって思っているらしい。

 実は、それもあってボクは何とか救済してあげたいんだ。


「これは王太子様にも相談せず、ボクが勝手に決めたことなので、まだ場所も時間帯も含めて詳細は決めておりませんが……」


 すると、アクティスが、

「だったら、来月から毎週土曜日の午前中の講義で、場所は、この部屋を使うって言うのでどうだ?」

 と提案してきたよ。

 有難いけど、なんかアクティスのヤツ、他にも何か企んでいそうな感じなんだけど?

 でも、ここは素直に彼の言葉に甘えておこう。


「ありがとうございます。では、また詳細は追って連絡します。それから合格した二人には、特に本人の辞退が無ければ、今後国内に開設される予定の薬学教室での教師を願いしたいと思っておりますが……」

「「やります!」」


 二人ともやる気マンマンだった。

 そりゃあ、辞退する気なら、わざわざテストを受けるために来ないよね?


「では、二人にも後日、詳細についての連絡を入れさせていただきます」

「「よろしくおねがいします」」


 二人とも笑顔がまぶしい。

 合格できたのが本当に嬉しそうだね。



 今日、予定していたことは、これで終了。

 受験者達には、これでお帰り頂くことになる。


 ボクは久しぶりにアリアやソナタと話がしたかったんだけど、

「トオル。ちょっと、今後のことで打ち合わせがしたい」

 アクティスに呼ばれた。


 まあ、薬学教室の開設や生徒募集のこともあるし、ミサ達に実際に何時から薬作りを開始していただくかもある。

 色々詰めなきゃいけないんだよね。


 なので、

「アリア、ソナタ。先に帰ってて」

 ボクは、こう二人に言うと、アクティスに連れられて、この部屋を後にした。

 そして、アクティスの自室に連れて行かれたわけだけど……。


 …

 …

 …


 二時間後。

 アクティスは賢者タイムに入っていた。


 この二時間に何があったって?

 何でアクティスが賢者タイムに入っているかって?

 その辺は、想像にお任せするよ。

 ただ、最近、アクティスとはコレばっかりだな。



 でも、そのお陰でアクティスは雑念の無い状態……、つまり精神的にベストなコンディションでボクと話をすることができたようだ。


「薬学教室は、受講者達に薬づくりのことを、より一層意識してもらうために、当座は流通センターの中の一室で行いたいって思っている。増築したのは、一応、その辺のところも考えてなんだ」

「それは良いと思います。生徒募集は?」

「今まで受講して来た者達の中で、今回、薬づくりの方にも教師候補にも選ばれなかった者達がいるが、その中に再受講を希望する者が半数近くいる。それから、新規希望者については、流通センターを通じて全世界から募っているよ。ドロセラ王国からも他国からも結構な数の希望者が出ている。希望者の中には、当然、家から通学できない者達もいるから、アダン町内への寮の設置を進めている」

「そうだったんですか? 全然知りませんでした」


 ただ、初耳だけど、これは有難い。

 これなら世界中から才能のある人を集めることが出来る。


「まあ、トオルが残してくれた莫大な遺産があったし、トオルがいなくなった後は、王家とマイトナー家で会社を設立して、その会社から薬を流通センターに卸す形にしてね。かなりの利益を上げていて、その会社からの投資と言う形にしているんだ」

「それも知りませんでした」

「言ってなかったからね。トオルには、トオルの得意な分野で活躍してくれればイイって思っていて、それ以外の面倒なことは、他の人がやればイイって思っているから。あと流通センターの裏の荒れ地に工場を設置する予定だ」


 まあ、工場って言っても地球にある製薬工場とは違って、各部屋に、この間のミサチームとかロンドチームみたいなのを配置して薬を作り出してもらうわけだけどね。

 なので、広いスペースと長い作業台があれば十分ってことなんだろうけど……。



 でも、世界中に卸す分を全て生産するとなると、一チーム六人として、常時百チームくらいは稼働する必要がありそうだな。

 他にもスタッフが必要になるだろうし。

 その工場で働く人達の住居や生活のことを考えたら、新たに街を一つ作ることになりそうだね。

 或いは、アダン町の住宅地部分の面積を拡張するか。

 いずれにしても、とんでもないプロジェクトに発展しそうだ。


「ミサ達の薬作りは、何時何処で開始しましょう?」

「これも、流通センターの空き部屋二つを使って試験的な稼働を考えている。一か月後に開始するつもりで準備している。それから、アリア達の講義だが、三か月後くらいの開始を想定しているが……」

「何から何まで済みません」

「あと、来月から土曜の午前にトオルの講義があるだろ? 今回、不合格だった八人に対しての」

「はい」

「前日は城に泊まってくれ。遅れるわけには行かないだろうから」

「そ……そうですね」


 でも、そう答えた後に、ふと思ったんだけど、ボクの寝る場所は、もしかして、この部屋のベッドの上じゃないかな?

 別にイイけどさ……。



 あれから一カ月が過ぎた。

 薬製造部隊として選出された十二人による薬製造が、いよいよスタートした。


 この十二人には、雇用されていた会社を退職していただき、王家とマイトナー家の合弁会社『トオル製薬』で再雇用することになった。


 でも、『トオル製薬』って……。

 ボクの名前が、この世界に半永久的に残りそうだな。



 現在、流通センターの隣に工場を建設中。

 聞いた話では、工場完成予定は一カ月後らしい。

 建築関連の魔法で建てるから、地球より建築作業が数段速いよ。


 工場が完成するまでは、アクティスに言われていた通り、流通センターの部屋を借りてミサ達十二人には製造を行ってもらうことになる。



 ちなみに、流通センターはシュライバーさんの会社で経営しているんだけど、施設自体は、今では『トオル製薬』の持ち物ってことになっているらしい。


 元々は王族が費用を出して建てたモノなので王族の持ち物だったんだけど、それを『トオル製薬』が買い取った形になっている。

 なので、『トオル製薬』が流通センターの部屋を借りても何ら問題はないってことだ。



 あと、アクティスが、お城から経理に強い女性を『トオル製薬』に派遣してくれた。

 オゼンピックさんって方だ。


 実際にミサ達が製造作業を行うに当たり、どれくらいの量なら生産可能かを、オゼンピックさんの方で、ミサ達と協議してくれていた。



 実は、研修の時、ミサ達はムリしてボクの期待に応えてくれていたみたいなんだ。

 なので、さすがに、あれだけの魔力を、これから先も毎日放出し続けるのは、正直言ってキツイらしい。


 それで、オゼンピックさんの方で色々と調整してくれてね。

 週休四日で、週に三日間だけ作業するってとこで落ち着いたようだ。



 製造量も、現実的な対応として、全世界で必要な分の百分の一くらいを各グループで製造してもらうことになった。

 さすがに過労で死なれては困るからね。



 近々、御使いシリシスからの薬の供給が止まる予定だ。

 その後は、ボクが基本的に穴埋めをするけど、その数年後には、ボクが生産しないでも済む状態を作り上げたい。


 そうなると、今の生産量を保持するだけでも計百グループ、合計六百人の製造スタッフが必要ってことになる。



 他にも労務管理とかライン管理とかをする人も必要になるだろう。

 なので、実際には、工場で働く人の数は、もっともっと多くなる。



 あと、個人的には診断魔法が使えるリキスミアさんにも『トオル製薬』で働いてもらいたいって思っている。

 万が一、誰かが発病しても、それを瞬時に見抜くことが出来るからね。


 さすがにトオル製薬の中で病気が蔓延したらイメージダウンに繋がるから、それを未然に防がなきゃいけないって思っているんだ。



 一応、ミサ達製造部隊の一カ月の給与は、担当内容によって異なるけど、平均して一人当たり金貨四十枚。

 ミサとロンドが担当する最上流の原体製造組が一番高くて一人当たり金貨四十五枚ってことになった。

 ただし、ボーナス無しね。


 それでも金貨一枚の価値を考えたら、ムチャクチャ高給取りだってことは分かってもらえると思う。

 しかも、週休四日だしね。

 なので、ミサ達は、この労働条件を喜んでOKしたらしい。



 ただ、ボクが前にいた時には、毎月、金貨十五万枚くらいの売り上げを出していたんだよね。

 それで、ボクは、オゼンピックさんに、

「ミサ達は十二人で毎月金貨三千枚くらい稼ぐでしょ? だったら、もっと色を付けてあげたいんだけど」

 ってお願いしたんだ。

 もっとも、親友のミサの給与を増額してあげたいってのが本音なんだけどね。



 そうしたら、オゼンピックさんからは、

「実はですね。トオル様が一度、この世界から御隠れになられた直後、薬の供給が完全に止まるんじゃないかって世界中が不安になったんです。それで、御使いシリシス様がトオル様に代わって薬を供給してくださることを全世界的にアナウンスせざるを得なくなりました。そうしましたら、『御使い様が薬をタダで供給しているんだから、価格を下げろ!』ってことになりまして。それで、トオル様が以前、製造していた頃と比べますと、残念ながら、結構収入が下がっているんです」

 との回答だった。



 アクティスは、かなりの利益を出していたって言っていたけど?

 それで、もうちょっと具体的なことが知りたくて、ボクはオゼンピックさんに質問を続けた。


「実際に、薬の値段ってどれくらいになっているんですか?」

「半分程度ですね」

「それでは、純粋に売り上げが半分ってことですか」

「残念ながら、そうなります。もっとも、それでも、かなりの利益を上げていることには代わりありませんけどね。元の利益がバケモノ級でしたので」

「そうですか。ただ、売り上げが半分でも、十二人で金貨千五百枚くらいは稼ぐ計算ですよね?」

「はい」

「魔法で薬を出しているわけですし、原材料費はタダですから、売上イコール儲けですし、それを考えると、会社側が結構ピンハネしているってことになりません?」

「ならないですね。『トオル製薬』としても、設備費、管理費、製造担当者以外の人の給与、さらに次世代教育のための経費……つまり開校を予定している薬学教室の運営費もここから出すことになりますので、意外とカツカツですよ。特に薬学教室の費用がとんでもないですし……」


 実は、薬学教室は学費をタダにした。

 しかも、寮完備で、寮費もタダにした。


 さらに、薬学教室に自宅から通える範囲の人も寮生になって良いことにしたし、寮で支給される食事代も薬学教室が全て負担することにした。

 一見、至れり尽くせりって感じだね。



 ただ、そこまでやるのは、製造スタッフになれる才能のある人が、本当に少ないからなんだ。

 これだけ優遇することで敢えて受験者の母数を増やしたかったんだよ。


 それでも、篩にかけられて最後まで残れる人は、殆どいないってことになるんだろうけどね。



 とにかく、可能性のある人を、一人でも多く探すために、この投資は、どうしても必要って考えているんだ。

 勿論、アリア達教師陣の給与も、『トオル製薬』が負担する。

 なので、薬学教室の運営で、かなりのお金が出る予定なんだ。

 ボクも、そのことは重々承知しているけどね。


「でも、シリシスが製造した分は、そのまま儲けになっていますし」

「ええとですね。最終的にはシリシス様もトオル様も製造しなくても済む状態に作り上げたいわけですよね?」

「そうです」

「だったら、それをシミュレートした形にしければなりません。もし、十二人の製造部隊の給与を上げた場合、その給与額が今後の基準となってしまいます。それですと、シリシス様からの供給が止まった後、恐らく、しばらくはトオル様が製造されると思いますけど、近い将来、トオル様が製造しなくなった際に、製造部隊の給与が大き過ぎて会社が回らなくなります」

「だったら、ボクが前にいなくなった時に残した遺産を設備費とか教育費に当てればイイのにって思いますけど? それだけでも、相当、会社の負担が軽くなりますよね?」

「今後は、あの遺産ありきで予算組みするのはダメです。それですと、事実上マイナス予算です」

「でも、百ライン分の製造スタッフが確保できれば、その後は教育に出るお金が減りますよね?」


 オゼンピックさんがため息をついた。

 なんか、ボクに対して『分かってないな~』って言いたげだったよ。


「一瞬は減ります」

「一瞬?」

「はい。でも、その後は増えて行くでしょう。そもそも、製造ラインの人を増やそうと思っても、特殊な人達です。ですので、多くの人を教育しても、最後まで残れる人は、殆どいないと考えています。今回、製造スタッフが一度に十二人も確保できたのは出来過ぎた話です」

「たしかに、それはそうですけど……」


 それについては、ボクもフィリフォーリア様が予め準備していてくださったとしか言えないくらい出来過ぎた結果だって思っている。

 だからこそ、世界中から人材を集めたいわけだけどね。


「数十年すれば、普通に加齢から限界が来て普通に退職せざるを得ない人も出て来るでしょうし、若いうちに限界を感じて辞めて行く人も出てくるでしょう。それ以前に、多分、六~七年も働けば、その後は余程の豪遊をしない限り、一生遊んで暮らせるだけの貯えが出来るでしょうから、世代交代のサイクルは、トオル様が思っている以上に早い気がしております」

「……」

「それから、今の子供達が大人になれば、人口は増えて行きます。服用する人の割合が変わらなければ、それだけ使用者は増えると言うことです。ちなみに、トオル様が出向された世界の人口は、どれくらいだったのでしょうか?」

「八十億人近くだったかな?」


 これには、さすがにオゼンピックさんも驚いていた。

 この世界の総人口と桁が違うからね。


「そ……そんなにですか? さすがに、それほどとは思いませんでした。でも、何百年先か分かりませんけど、最終的には、このネペンテス世界だってトオル様の出向先と同じくらいの人口に達するかも知れません。ですので、人口増加に耐えられるように、薬学教室は、十数年後から、長期に渡って拡大し続ける教育機関になるでしょう。今からマイナス予算を組んでいては、いずれ確実に破綻します」


 さすがにボクも反論できなかったよ。

 教育費は、末広がりに増えて行くわけだから、その分も売り上げからキチンと出せるように考えなくちゃならないってことだ。


 でも、六~七年で一生遊んで暮らせるだけの収入が得られるわけだからね。

 ミサ達だってイヤとは言わないね?



 それから、ボクの方だけど、テストで不合格だった八人の教育のため、毎週金曜日の午後にお城に入り、一泊して土曜日の午前中に講義を行った。

 この授業は当然無料ね。

 ボク自身、薬学教室の延長と思っているし、化学とか製薬の啓蒙のための投資だから。



 講義する部屋は、前にテストを行った部屋と同じ。

 ただ、前日にボクが泊るところはアクティスの部屋だったけどね。

 予想通りだったよ。

 講義前に交……、いや、なんでもない。

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