38:テスト!
城に着いた。
ルイージさんの転移魔法で、ボクは中央大陸からの長距離を一気に大移動したわけだけど、いつもながら本当に凄い能力だと思うよ。
ボクは、フルオリーネ女王陛下に結果報告を行うため、ルイージさんと一緒に謁見室へと通された。
「失礼します」
「トオル、お帰りなさい。随分長くかかったわね」
「今回のは、ちょっと面倒でして。先ず、一つ目の病気が治るまでに二週間を要しまして……」
「一つ目って、複数の病気が併発していたの?」
「かかっている病気を治すことが原因で別の病気が発生するパターンでした」
「そんなことってあるの?」
フルオリーネ女王陛下は、ちょっと信じられないって顔をしていた。
薬を飲めば、悪いモノを除去するってイメージを持っているだろうからね。
まさか、別の悪い何かを促進するとは思っていなかっただろう。
「はい。今回の病原菌を病原体Aとします。実は、病原体Aを殺す薬では死なない別の悪玉菌Bがいて、最初の病気を治すと、生き残った悪玉菌Bが急に繁殖して別の病気を発症することになったのです」
「そんなことがあるのねぇ。でも、それを考えると、これでも相当早く帰れたって言うことかしら?」
「そうですね。人口も三百人まで減っておりましたので」
「三百人?」
「既に、結構病死した人もいたようです」
「それは残念ね」
「そうですね。それから、治療代を即金で払えない人が若干名おりましたので、来月集金に伺う旨を伝えておきました」
「そう。それでは、集金はルイージにお願いしても良いかしら?」
「はい。仰せのままに」
集金の件に答えてくれたのはルイージさん。
転移魔法を持っているからね。どうしても、そう言った役回りになるんだよ。
想定の範囲内だけどね。
その分、ボクは負担が減って助かるけど。
「それと、病気のそもそもの原因は何だったの?」
「サルから感染したようです」
「サル?」
「はい。そのサルが病原体を持っていたようでして、最初の患者は、そのサルに噛まれたことで感染し、その後は、インフルエンザ同様に飛沫感染したようです」
「我が国のサルは大丈夫?」
「分かりません。しかし、今のところ、そのような報告はされておりませんので」
「そうね。でも、ヘテロ盆地ではサルの駆除が必要になるんじゃない?」
「はい。そう思います」
「では、ご苦労様でした。今日は家に戻ってゆっくりなさい」
「はい。ありがとうございます」
一先ず、女王陛下への状況報告は終了。
これでボク達は謁見室を退室した。
そして、その後すぐに、ボクはルイージさんの転移魔法で侯爵家の御屋敷まで送ってもらう……はずだったんだけど……。
「トオル!」
この聞きなれた声!
アクティスだ!
この国の王太子である彼にボクは呼び止められたわけだけど、なんか、ちょっと喜んでしまっているよ。
「ただいま戻りました」
「無事で良かった。じゃあ、トオルが戻って来たと言うことで、例の講義の件は、来週に設定することにしたいが、それで良いか?」
「はい、よろしくお願いします。それで、何人を予定しておりますか?」
「十人だ。全員、化学の教師になることを希望している」
「分かりました」
「それと今日は、これから時間はあるか?」
「はい」
「じゃあ、ちょっと俺の部屋まで来てくれ」
「は……はい……」
もしかして、これは一月半、ボクと会えなかったのを埋め合わせしようってことかな?
嬉しいような怖いような……。
その後、ナニが起こったかは想像にお任せするよ。
…
…
…
二時間後、ボクはアクティスの部屋を出た。
まさに休憩二時間コースだね。
その時、アクティスは、
「じゃあ、テストの会場手配と招集は俺の方でやっておくから、当日は頼む」
とボクに言ってきたんだけど、何気に賢者タイムに入っていたよ。
ボクは、前世で男だったから、その気持ちは分かるけどね。
ただ、女性視点では、ある意味、失礼にも感じるんだよね。なんか、欲求を満たしたら、後はどうでもイイみたいに思えるからさ。
別にイイけど……。
この後、ボクは当初の予定通り、ルイージさんにお願いして侯爵家の御屋敷まで届けていただいた。
御屋敷に戻ると、
「お帰りなさいませ、お嬢様」
メイド達がズラリと並んでボクを出迎えてくれた。
いつも、こんな小娘に頭を下げさせて申し訳ないって思っているよ。
ボクは、部屋に戻るとベッドに倒れ込んだ。
アクティスとイイ運動をしたからだと思うんだけど、ちょっと疲れてね。
気が付くと、いつの間にか夕方になっていたよ。そのまま、ボクは寝入ってしまったらしい。
この日、夕食をとりながら、ボクは養母であるマイトナー侯爵に、女王陛下に報告した内容よりも、より細かくピリドン村での出来事を話すことになった。
マイトナー侯爵から色々聞かれてね。
「どんな村だったの?」
「質素な村でして……」
「どんな病気だったの?」
「発熱して咳が出て。あと、下痢、腹痛、吐き気とかもあるんですけど……」
「次の病気って、何で起こるの?」
「最初の薬で死なない悪玉菌が腸内細菌の中におりまして……」
「腸内細菌って何?」
「人の身体の中はですね……」
なんか、色々と侯爵に講釈させられたけど……。
でも、こうやって母子で色々話ができるってイイよね。
なんか、遠野夫妻のことを思い出したよ。
翌週。
ボクは侯爵家の転移魔法使いバイエッタさんに、お城まで届けていただいた。
お城に着くと、
「トオル様。こちらです」
リキスミアさんがボクを出迎えてくれた。そして、彼女に連れられて、前回とは違う部屋に通された。
まあ、今回は薬を作り出すわけじゃないからね。
特段、広いスペースは必要ない。
そこには、既にアクティスも来ていたし、生徒側の席も全部埋まっていた。ボクの入室が最後ってことか。
テスト対象者は予定通り十人で、その中にはアリアとソナタもいた。
でも、マルシェの姿が無いな。
まあ、全員が全員、化学が得意なわけじゃないからね。
そこは仕方が無いか。
その十人が、何やらアクティスから説明を受けていた。今日、集まってもらった趣旨の再確認をしているようだ。
そして、アクティスの話が終わったところで、ボクは教卓に着いた。
「本日は、お忙しいところお集まりいただき有難うございます。トオルです。皆様はアクティス王子の講義を受けた中でも特に成績優秀な方と伺っております。この世界で薬製造に従事できる者達の発掘に向け、今後も化学の教育を継続したいと思っておりますが、皆様の中に、その教師になれる人材がいると思っております。それで、早速ですが、テストをさせていただきます」
と言うことで、ボクは、集まってくれた娘達にテスト用紙と問題冊子を配布した。この問題冊子は、ボクの手作りね。
ピリドン村から戻ってきてから急いで作成したんだけどね。
内容は修士の受験問題レベル。
さて、みんな、どれくらい解けるかな?
「制限時間は六十分です。100点満点中70点で合格とします。では、始めてください」
ボクの声と同時にテストが開始された。
一瞬にして、室内が緊張した場へと切り替わった。
非常に静寂な空間だったけど、さすが、テストともなるとピリピリと張りつめた空気に満ちていたよ。
こんな雰囲気は大学受験以来だな。
大学院の受験の時は、ここまで緊張感に溢れていなかったような気がする。
基本的に、ここにいる十人からは魔力を感じない。だから、アクティスは彼女達を薬づくりのメンバーに選抜できないって判断をしたのだろう。
でも、勉強の方は優秀なはず。
とても期待しているよ!
今、ボクとアクティスにできることは、カンニングが無いかどうかを監視するだけなんだけど……、カンニングペーパーを持っているかどうか程度なら、神経を集中すれば、何とかボクの魔力でチェックできるはず!
これでも一応、ボクは、この世界にある魔法を全て使えることになっているからね。
とは言っても、その殆どはショボい魔法で、全然人様に自慢できるほどのモノじゃないんだけどさ。
ボクが確認した限り、多分、大丈夫。
全員、不審なモノは持っていない……と思う……。
一時間が経過した。
「終了です。解答用紙を回収します」
回答用紙は、ボクとアクティスで順に回って回収した。
十人しかいないので、後ろから回してもらうよりも二人で回収して回った方が速いって思ってね。
それで、ボクはアクティスが回収した分を受け取ると、一旦、隣の部屋に移動した。採点のためだ。
採点の間、受験者には昼食を取ってもらう。
勿論、お城の方で用意したランチだ。
これを一時間半くらいかけて食べて……と言うか時間を潰してもらう。
ああ、ボクも食べたかったよ。
その後、お城の中を見学して、さらに時間を潰してもらう。
ボクは大急ぎで採点だ。
全体的には、まあまあかな。
でも、残念だけど合格者は二人だけだった。
他の八人は70点には満たなかったんだ。
半分は出来ていたんだけどね。
合格者の二名は化学の教師に転身してもらうとして、他の八人をどうしようかな?
このまま切り捨てるのはもったいないんだよね。
ってことは、やっぱりこれしか無いよね。
ボクの方で面倒を見ることにしよう。




