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36:チャットボット大忙し!

 翌朝。

 アクティスは、すっかり上機嫌になっていた。

 ナニがあったかは想像にお任せするよ。



 それはさておき、製造ラインに入れる人材を一先ず確保できたけど、まだまだ全世界的な供給を考えたら全然労力が足りない。

 なので、さらに多くの人材育成が必要だ。


 今回のメンバーに選ばれなかった人達全員が成績不振と言うわけでは無い。

 アクティスの目から見て学問的には非常に成績優秀だったけど、魔力が一切感じられなかったために選ばれなかった人も少なからずいたそうだ。



 それにしても、今回のメンバーの出来を考えると、アクティスの目利きは凄いね。

 その分、昨夜は、めいっぱいイイ子イイ子してあげたよ。


「王子。再来週、その人達をテストしてみたいのですが」

「テスト? 多分、彼女達には薬作りはムリだぞ」

「分かっています」

「じゃあ、なんで?」

「化学の教師になっていただくためです。そうすれば、より多くの人を育成出来ますし、もっと製造ラインに適した人材を発掘できるようになるでしょう」

「なるほどな。分かった。では、教師になる意思があるかの確認も含めて、こっちで準備をしておく」

「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」


 と言うわけで、ボクは、これでマイトナー侯爵の御屋敷に戻ろうと思ったんだけど、丁度この時だった。

 ボク達のところにリキスミアさんが来て、

「トオル様。緊急のお客様が参りました」

 とのこと。


 はて?

 いったいなんだろう?



 ボクは、リキスミアさんに客室まで連れて行かれた。

 一応、アクティスもボクに同行していたけどね。


 客室に入ると、そこには見知らぬ中年女性が、めいっぱい不安な顔で待っていたんだけど、ボクの顔を見ると、急に安堵の表情を浮かべた。


「トオル様ですか?」

「はい」

「良かったぁ。私は中央大陸のヘテロ盆地の村、ピリドンから参りました転移魔法使いのフラザンと申します。トオル様が再臨されたとの噂を聞きつけて参りました」


 再臨って……。

 なんか、メシヤか何かと勘違いされていないかな?


「実は、トオル様にお願いがありまして」

「如何なされたのでしょうか?」

「最近、私共の暮らす村で奇病が流行しております。激しい咳が出て、発熱と、さらに下痢と嘔吐があって、最終的には衰弱して死んでしまうのです」

「治った人は?」

「残念ながらおりません。発病したら全員、死を迎えております」

「そうですか。現地に行かないことには何とも言えませんが、急を要するようですね」

「はい」

「分かりました。ただ、私の派遣にはフルオリーネ女王陛下の許可が必要になります」

「そうなんですか?」

「はい。それと同行者も付くと思います」

「それは構いませんが」

「では、念のため、これを付けてください」


 ボクは、女神様から頂いたペンダントを使ってマスクを出した。細菌性かウイルス性か分からないけど、恐らく伝染病だろう。

 彼女が感染していないという保証はないからね。なので、感染拡大防止の意味合いでマスクを付けさせたんだ。


 あと、念のため、アクティスとリキスミアさんにもマスクを付けてもらった。

 それと、もう二つほどアクティスにはお願いしなきゃならないことが出来た。


「マイトナー侯爵に、報告をお願いできますか?」

「ああ、俺の方から話しておく」

「お願いします。それと、さっきのテストをしたいって話ですけど」

「トオルが戻ってきてから調整する。それでイイだろ?」

「はい。ありがとうございます」


 良かった。アクティスが、それくらいのことは言わなくても普通に分かってくれる人で。

 たまに、いるじゃない?

 ほぼ間違いなくボクが不在になりそうって分かっていても、最初に招集するように言われたから、何も考えずに、そのまま招集かけちゃう人。

 正直、ボクだったらやりそうだよ。



 それは、さて置き、ボク達は急いで謁見室へと向かい、緊急性が高いと言うことで謁見の順番を繰り上げていただいた。

 勿論、アクティスが一緒だったから無理がきいた部分はあると思うけどね。

 そして、謁見室に入ると、


「女王陛下」

「あら、トオルちゃん、どうしたの?」

「実はですね……」


 早速、女王陛下に状況を説明した。

 それから、マスクの装着もお願いした。


 ただ、状況は理解していただけたけど、やはり無条件と言うわけには行かない。

 予想はしていたけどね。



 女王陛下からは、

「先ず、トオルちゃんの安全のため、当方の転移魔法使い兼騎士兼トオルちゃんの世話係を一名同行させます。それから、無償治療と言うわけには行きません」

 と言われた。


 でも、転移魔法使い兼騎士兼世話係がいるんだ!

 凄く多才なお方だね。


「それは分かっています。ルテア町での例に倣って一人一日服用当たり銀貨一枚を考えておりますが」

「そうですか。それでイイですか、トオルちゃん?」

「ボクは、それで構いません」

「じゃあ、決まりね。では、ルイージを呼んでもらえる?」

「はい」


 側近の一人が、ルイージさんを呼びに行った。

 たしかルイージさんって、ルテア町に行った時に転移魔法使い兼ルビダスの世話係としていた方だよね?

 騎士でもあったんだ!


 そりゃあそうか。

 じゃなかったら、万が一の時にボクとルビダスを守れないもんね。



 数分後、ルイージさんが来たけど、それまでの間、手持無沙汰になってしまった。

 それもあってだと思うけど、女王陛下がフラザンさんに、ピリドン村のことを色々聞いていたよ。


 フラザンさんが言うには、最近、近くの山で山火事が起こり、多分、それが原因だと思うけど、村にサルが頻繁に現れるようになったらしい。

 しかも、奇病が流行り出したのは、どうやらサルが出るようになってからとのことだ。



 だとすると、そのサルが病原体を運んできて、何らかの形でヒトに感染したってことで間違いないだろう。

 菌か、ウイルスか、はたまた寄生虫か?


 改めてボクは、女神様から頂いたペンダントにお願いしてマスクを二つ出すと、そのうちの一つをルイージさんに渡して感染防止のために付けてもらった。

 残りの一つは自分用ね。

 他の人は、既に装着済みだし。


 ボクは基本的に前回と同じ仕様になっているから病気にならない身体のはずなんだけど、一応、念のためマスクを付けることにしたよ。

 他の人にマスクをしろって言っておきながら、自分がしていないって言うのは、説得力が無いからね。



「では、ルイージ。トオルちゃんを頼んだわよ」

「はい。女王陛下」


 ルイージさんは、女王陛下に向かって跪いて頭を下げた。

 そして、彼女は立ち上がると、

「フラザンさんでしたね。場所はヘテロ盆地」

「はい」

「では、行きます。転移!」

 早速、転移魔法を発動した。



 次の瞬間、ボクは彼女の転移魔法で、フラザンさんと共にボクの見知らぬところに移動していた。

 周りは山に囲まれていた。

 多分、ここがヘテロ盆地だ。


 本当に一瞬だもんね。

 やっぱり、ボクもこんな転移魔法が使えるようになりたいな。そうしたら、世界一周の旅とか楽しめるもんね。



 ボクは、早速、ステータス画面を開き、チャットボット機能を立ち上げた。この村で起きていることを確認するためだ。


『Q:ここは、ヘテロ盆地のピリドン村で間違いない?』

『A:間違いない』


『Q:ピリドン村で流行している病の病原体は何?』

『A:黄色ブドウ球菌の一種』


 細菌性か。

 一応、このピリドン村で病が流行しているのは嘘じゃないってことだね。


 フラザンさんを疑っていたわけじゃないんだけど、万が一、この病のことが嘘でボクを拉致するのが目的だったら困るもんね。

 なので、念には念を入れての確認だよ。

 じゃあ、ここからは病気についてだ。


『Q:その病気は伝染性?』

『A:伝染性』


『Q:症状は?』

『A:下痢、腹痛、吐き気、発熱、咳、肺炎、気管支炎』


 これって、結構きつそうだな。


『Q:抗生物質は効く?』

『A:効く』


『Q:感染源は?』

『A:山から降りて来たサル』


『Q:最初の感染者の感染経路は?』

『A:サルに噛まれて傷口から細菌が入り込んだ』


『Q:サルは発症しないの?』

『A:口内に保菌しているが発症は無い』


 うーん。何だか過去にコモドオオトカゲに対して言われていた説みたいだな。

 かつては、コモドオオトカゲに噛まれたら、その傷口から細菌が入って体内で繁殖して死ぬとか言われていたからね。

 最近では、コモドオオトカゲは牙から毒液を出すってことが分かって考え方が変わったって話だったけど。

 でも、今回のサルは、そのコモドオオトカゲの旧説、そのもののような気がする。


『Q:そこから感染拡大した際の感染経路は』

『A:飛沫感染』


『Q:治療薬になる化合物は?』

『A:バンコマイシン』


 バンコマイシンか……。

 勿論、構造式は憶えているよ。イソジチロシン構造を持つ特徴的なヤツ。地球でも有名な抗生物質だもんね。


 って言うか、この間、侯爵家御屋敷の自室でサンプルを作った中の一つだもん。

 早速、使う機会があるとはね。



 ん? でも、ちょっと待て!

 バンコマイシンって経口投与じゃ殆ど吸収しないんじゃなかったっけ?

 だから、経口薬の場合は腸内で効かせるケースだった気がする。


 吐き気とか下痢だけなら、経口投与でもイイかも知れないけど、でも今回は咳と発熱があって、しかも肺炎とか気管支炎を併発しているんじゃなかったっけ?

 そうなると、点滴静注が必要なんじゃない?



 これはムリかも。

 この世界には点滴用の針も無いし、仮にボクがペンダントにお願いして点滴セットを出してもらえたとしても、ボクには点滴を刺すなんてできないよ。


 それに、たしか薬物血中濃度モニタリングも必要って聞いたことがあるし。

 一応、念のため確認。


『Q:バンコマイシンの投与形態は?』

『A:点滴静注』


 やっぱりか。

 これは困ったな。

 じゃあ、代用薬が無いか聞いてみよう。


『Q:経口薬で効く薬は無い?』

『A:リネゾリド』


 たしかに、それなら経口薬だ。

 しかも、リネゾリドはVRSA、つまりバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌にも効く薬として開発された新しい系統の抗菌薬だよ!

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