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4:理想の容姿って違くない?

 続いて、与えられた魔法の確認をしよう。

 単一の分子しか出せないのか、それとも色々な物の混合物として出せるのか?

「冷えてない炭酸スポーツ飲料!」


 …

 …

 …


 炭酸が飲みたいけど冬だからね。

 敢えて冷たいのには、しなかった。

 でも、これだと何も出てこなかった。


「じゃあ、冷えてない炭酸水にクエン酸とブドウ糖を適量入れたヤツ!」

 すると、透明の液体が入ったガラス瓶が出てきた。

 飲んでみると、たしかに炭酸水にクエン酸とブドウ糖が程よく入っていた。


 一応、飲めなくは無いけど……、それにしても融通の利かない能力だな、これは。

 普通に炭酸スポーツ飲料が出てきてくれるほうが有難いよ。

 まあ、その手の飲料は女神様からもらったペンダントから出せるはずだから、別にボク自身の魔法で出せなくてもイイんだけどね。



 でも、これって分子構造のイメージが出来れば何でも出せるってことかな?

 ちょっと試してみよう。


「直径10センチのダイヤモンド!」

 するとマジで、でかいダイヤモンドが出てきた。

 しかも、ブリリアントカットのヤツ!


 普通、ここまでのサイズになると、より体積を大きく残すことを第一優先にするんでブリリアントカットにはしないんだけどね。

 それが敢えてブリリアントカットになっていたら、原石の大きさは、どれだけ大きいのって話になるだろうね。

 間違いなく、とんでもない値段がつきそうだ。



 もう一つ試してみたい。

 検索結果から、この世界の金貨は、金が9割、銀が1割の構成比だと言うことは分かっている。

 大きさもデザインも検索できている。


「この世界の金貨100枚!」

 すると、その直後、金貨100枚が目の前に現れた。


 でも、これって違法な気がする。

 金貨を作り出すのは最後の手段にしよう。


 でも、今回のヤツは使う。

 金と銀の構成比は本物と全く同じだし、同一の価値があるはずだからね。

 この金貨とダイヤモンドは、一先ずアイテムボックスに収納した。


 それにしても、構造式とか組成式が分かれば物質創製できるってことか。

 何でも出せるってわけじゃないから、まあ、言うなれば制限付き物質創製魔法ってところだね。



 その後、火の魔法、水の魔法、風の魔法、雷の魔法、転移魔法と順に試してみた。

 一応、無詠唱で使えるけど、大したレベルじゃなかった。


 火の魔法は百円ライター程度。

 水の魔法はジョーロから出る水と同じレベルでしかない。

 風の魔法は…………多分、スカート捲りが出来る程度。

 雷の魔法は…………何回か試してみたけど、手から静電気レベルのモノがチョロっと発生しただけ。

 転移魔法は100メートルくらいの移動が限界みたい。


 正直、全部ショボいなぁ。

 使えるようにして欲しいとは言ったけど、レベルを指定しなかったからね。修行すればレベルアップできるのかもしれないけど。


 それから、ボクは他にもいくつか魔法が使えるらしい。

 ただ、今ここでは検証できないタイプのものだ。

 チャンスがあったら試してみよう。



 一段落ついたところで、ボクは町に向かって歩き出した。

 転移魔法のレベルが高ければ、町まで一瞬で移動できるはずだけどさ。正直、このレベルだもんなぁ。



 そう言えば、前世のボクの研究テーマって、どうなるんだろう?

 Armatol Aって天然物の全合成研究をやっていたんだけどね。

 テーマは、

有馬透(ありまとおる)だから、これでイイよね!』

 ってノリで決められた。

 完全に一発ギャグだね、これ。

 後輩の誰かが引継いでくれると嬉しいけど……。



 1キロくらい歩いた頃だ。荷車を引いた馬がボクを後から追い抜こうとしていた。

 馬上には、一人の女性が跨っていて、丁度ボクの右側を通った時、その女性がボクに声をかけてきた。


「この先の町まで行くけど、乗ってく?」


 その女性は、ちょっと小柄で結構カワイイ顔をしていた。

 ボクを殺した女性よりも、さらに一段階カワイイお顔。


 転生して初めて出会った女性だ。

 しかも、向こうから話しかけてきてくれているし、乗せてもらえるのは非常に嬉しい。

 これはラッキーかも。


 ボクは、

「お願いします!」

 即答した。だって、歩くよりも楽だもんね。



 彼女の名前はアリア。

 仕事で隣町まで物資調達に出かけていたらしい。

 でも、彼女からしたら、ボクの服装って変なんだろうな。後で女神様からもらったペンダントを使って、この世界らしい服を出すことにしよう。


 彼女は馬上、ボクは荷車の上だったけど、気を使ってくれているのだろうか、彼女が色々とボクに話しかけてくれた。

 こっちから何を振って良いのか分からないので、受身でいられるのは助かる。


「一人旅ですか? 珍しいですね?」

「そ……そうですか?」


 まあ、男性比率が著しく低い世界なので、男性には大抵、女性がべったりくっついているって言うことなんだろうな。

 君がよければ、ボクが君にべったりくっついてあげたい!

 なんてことを勝手に思ったりなんかして。


「トオルさんは、どちらから来たんですか?」

「隣のディオネア王国のファリャと言う村から来ました」


 一応、女神様が与えてくれた設定で誤魔化した。まさか、異世界から来ましたなんて言えないからね。

 でも、ファリャってどんなところか知らないんだよね。

 もし、どんな村か聞かれたら、

『本当に何も無い田舎で、話のネタもないつまらない村です』

 とか答えておけばイイか。


「随分、遠くからいらしたんですね。こちらには、観光ですか?」

 おお、ファリャのことを突っ込まないでくれたよ。

 助かった。


「田舎がイヤで飛び出して来たんです。良い町があったら、そこで暮らしたいって思っています」

「そうですか。それで、今日は、泊まるところとかは決まっているんですか?」

「いいえ。どこかの宿に泊まれればと思っています」

「では、私の知り合いが宿を経営していますので、そこを紹介しましょうか?」


 ここでボクは、

『私の家に泊まって行きませんか?』

 と誘ってもらえることを勝手に期待していた。

 著しく男性比率が低い世界だからね。ボクみたいなのでも誘ってくれる可能性が結構高いんじゃないかって勝手に思っていたんだ。


 けど、いきなりはムリか。

 それに、知り合いの宿を儲けさせてあげようって気持ちもあるのかもしれない。


 そう思ってボクは、

「では、よろしくお願いします」

 とアリアに答えた。


 この時、ボクは自分の身体に起きた重大な変化に気付いていなかったんだ。

 完全なる大ボケだって後から思うようになる。



 アダンに着くと、アリアは、彼女の知り合いの宿屋の前にボクを降ろしてくれた。

「助かりました」

「じゃあ、また機会があったら」

「乗せてくれて有難う」


 ボクは、アリアにお礼を言うと、早速、その宿屋に入った。

 情報収集も兼ねて、一先ず三泊くらいしようか。


「宿泊料は、朝食付で一泊銀貨5枚。前払いね」

 まあ、お金のことは心配していないけどね。さっき作り出した金貨があるから、支払い自体は問題ないもんね。

 銀貨10枚で小金貨1枚、小金貨10枚で金貨1枚。一泊銀貨5枚ってことは、だいたい銀貨1枚が千円くらいになるのかな?


「じゃあ、三泊で」

 ボクは、宿泊手続きをして、部屋へと急いだ。



 女性が大多数を占める世界のためか、衛生面は思っていたよりも発達していた。

 バス・トイレ設備は1960年代レベルで、一応、水洗トイレやシャワーが存在する。これは嬉しい誤算だ。


 早速、シャワーを浴びようと、ボクは先ずコートを脱いだ。

 この時、ボクは自分の髪が栗色で、やけに長いことに初めて気が付いた。


 そして、次にセーターを脱いだ時、ボクは、なんだか胸の辺りに違和感を覚えた。

 正しくは、セーターを脱ぐ時に胸が引っかかった感じがしたんだ。

 しかも、その後にバインバインって揺れる感覚。

 あれっと思って胸を触ると、何故か膨らんでいて柔らかい。


「えっ?」

 ボクは慌ててシャツを脱いだ。すると、見事なまでの双丘が備わっているではないか。

 これは、胸板が厚いんじゃなくて脂肪の塊だ!


「マジで?」

 股間に触れると、いつもの感覚が無い。


 急いでGパンとパンツを脱いだ。

 パンツは、ボクが死んだときに身に付けていたボクサーパンツだ。


「あぁ……」

 ボクは、高身長・脚長・細マッチョ・イケメンで巨根に生まれ変わったと信じていた。

 なのに、股間には、男性のシンボルも毛も生えていなかった。


 今までコートを着ていて気付かなかったんだけど、普通は気付きそうなもんだよね。

 気付かなかったボクは大ボケだ。



 ボクは、慌てて大きな鏡を作った。

 幅50センチ、高さ2メートルの薄いガラス板に、とりあえずアルミ箔でもつけておけば良いだろう。そんな感じの物をボクは物質創製魔法で作り出した。

 簡易的に作った姿見だ。



 そこに映っていたボクは、少なくとも男性の姿をしていなかった。

 天界でお会いした女神様の姿そのものだった。


 目が大きくて、顔ちっさ!

 ウエスト細っ!

 なのに、胸デカッ!

 脚長っ!

 首も細くて長め。自分で言うのもなんだけど、マジで超綺麗過ぎる。



 ええと、よく思い出せ。

 ボクが女神様にお願いしたのは、『理想の容姿』だった。なので、ボクは、自分がなりたいと願う理想的な男性の姿になれると思っていた。

 でも、その前に女神様は、何て言ってた?


 たしか、

『私は、その御使いと同じで性別と言うものはありませんが、今はアナタの意識がこちらに向くように、『()()()()()()()()()姿()』をまとっています』

 だったんじゃなかったか?


 つまり、ボクが『理想とする女性の姿になりたい』って言ったと勘違いされたってことかな、これ?

 多分……いや、絶対にわざと勘違いしやがったな!


 この瞬間、ボクは今世でも脱童貞の夢が叶わないことを悟った。

引用:Tetrahedron 2013, 69, 5205-5220.

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