34:チャレンジ週間!
侯爵家の御屋敷に戻ったけど、マイトナー侯爵は既に出かけられた後だった。
ボクは自室に引き籠ると、地球で覚えてきた構造式を紙に書き出した。
忘れないうちに描いておかないとね。
それこそ、忘れちゃったらアウトだもん。
それから、それら化合物の薬効も併記した。
これが分からなきゃ、作ったところで意味が無いもんね。
一回服用する際の有効成分の量とか、製剤化の際に使う賦形剤の種類とか量とか、一日の服薬回数とか、記憶喪失だったボクは色々覚えて来てくれていた。
もう一人のボク、遠野留美さんに感謝するよ。
オマケに『ips細胞』をはじめとする再生医療の論文にも興味を持って目を通してくれていたみたいだけど……、専門外なので理解度はハッキリ言って今一つだった。
ただ、今思うと、再生医療の勉強だけは、ちょっと時間のムダ遣いだったかもしれない。
ボクは、地球には限られた時間しかいられなかったからね。
ひと段落着いた時には、既にお昼を回っていた。
そう言えば、お腹すいて来たな。
丁度そう思った時だった。
「コンコン」
ドアをノックする音が聞こえて来た。
「はい、どうぞ」
「お嬢様。中々いらっしゃらないものですから、如何されたかと思いまして。昼食は用意できておりますが」
「ありがとう。今行きます」
ボクは、構造式を描いた紙を重ねて、その上にペーパーウェイトを置いた。
何かあって飛ばされると困るからね。
そして、食堂に行くと、有難いことに用意されていたのは青椒肉絲に木須牛!
どっちも、ボクが前いた時に、侯爵家の料理人に教えた中華料理だよ。
両方とも好きなんだよね。
嬉しい!
厳密には、中国と完全同一の食材や調味料があるわけじゃないから青椒肉絲風に木須牛風が正しいんだろうけどね。
それは、さて置き、昨日の夜がスウィーツ大会になっちゃったから、デザートじゃなくて主食が食べられるのはマジ有難いよ。
なので、早速、
「いただきます!」
味を堪能させていただいた。
涙が出るくらい満足したよ。
その後、ボクは再び自室に籠って作業の続きを行った。
この世界には、便利グッズは無いからね。それこそ、穴あけパンチも無ければ、紙ファイルも無い。
それで、女神様にいただいたペンダントにお願いしてみたんだけど、穴あけパンチは出してもらえなかったよ。
なので、千枚通しを使って地道に穴をあけて紐を通すしかない。
一先ず、その地道な作業は申し訳ないけど侍女の方にお願いして、ボクは、さらに紙に構造式を描き出した。
あと、小さな紙に構造式と化合物名、薬効を描いたモノも別に作成した。
これは、ビンに張り付ける用だ。
構造式をあらかた描き終えると、ボクは物質創製魔法を使って、いくつかの薬をビン入りの状態で出すと、それに、さっき構造式等を描いた小さな紙を張り付けた。
糊は女神様から頂いたペンダントで出せたからね。
これらの薬は、アダンの町か、もしくは王都で該当する患者が出た時に、すぐに使わせてもらうつもりだ。
翌週。
この日は、お城に行く日だ。
と言うか、今週は選抜された十二名に、一週間に渡って薬づくりチャレンジしてもらうことになっているんだ。
つまり、チャレンジ週間ってとこ。
ボクは、バイエッタさんにお願いして、お城まで連れて行ってもらった。
転移魔法が使えるって羨ましいなぁ。
そして、前回と同じ部屋にボクは通された。
机や椅子の配置も前回と全く同じだ。
と言うか、既にみんな来ていた。
アクティスもいる。今日はボクの入室が一番後だったよ。
「今日は、お通じの薬を作りたいと思います」
ボクがそう言うと、数人の娘の顔に笑顔が灯ったような気が……。
多分、使いたいんだね。
「前回、有効成分の物質創製を行った六人に、酸化マグネシウムを作ってもらいたいんだけど。アクティス」
「なんだ?」
「診断魔法が使える人を一人借りることってできますか?」
「ああ、それなら、そこにいるリキスミアができる」
リキスミアさんは、この講義を手伝ってくれている侍女の一人だ。
そう言えば前回もいたな。
名前を知らなかったけど。
多分、アクティスは、何かあった時のためにリキスミアさんを、ここに連れて来てくれていたんだと思う。
抜け目がないヤツだな。
本当は治癒魔法が使えるとイイんだけど、残念ながら、この世界には治癒魔法が無いんだよね。
なので、特に今回は診断魔法による早期発見が大事なんだ。
「ありがとうございます。では、診断の方をよろしくお願いします」
そう言って、ボクはリキスミアさんに会釈した。
リキスミアさんも、ボクに反応するように会釈してきたけどね。まあ、社交辞令的なものだろう。
「今回の薬は有機化合物では無いし、水素原子がありません。なので、前回のような1HNMRでの解析は出来ません。なので、X線を使います」
先ずボクは、予め用意しておいた鉛の板を左手の甲に当てた。
そして、ボクは、教卓の上で右掌と左掌を向かい合わせにして二十センチくらい離し、右掌から左掌に向けてX線を照射した。
飽くまでも『えっくす線』だからね!
決して『せっ〇す縁』じゃないからね!
絶対に『え』と『せ』を入れ替えたりしないでよね!
なんて、こんなバカなことを考えているのは、きっとボクだけなんだろうな。
ええと……、気を入れ直して講義再開!
「前回と違いエネルギー波が出ているのは分かりますか?」
「「「はい」」」
ここで、ボクは一旦、照射を止めた。
「これがX線です。今回は、これをやっていただきます。ただ、X線を長時間浴びるのは大変危険です。なので、短時間で終わらせるようにしたいので、全員同時ではなく、順番にやってもらいます。先ずミサ。やってみて」
「了解!」
ミサが、ボクがやったのと同じように、両掌を向かい合わせにして二十センチくらい離すと、
「うん!」
思い切り気合を入れた。
ただ、それ以上に目が怖い。まあ、想定の範囲内だけどね。
でも、さすがミサだ。
なんだかんだで、見よう見まねでX線照射が出来ているよ。
早速、ボクは金属の台の上に酸化マグネシウムの単結晶を乗せると、それごとミサの両掌の間に置いた。
「その結晶に当たったX線に集中して」
「うん」
そして、それからさらに十数秒の照射の後、
「あっ!」
ミサは、何かを感じ取ったようだ。
「分かった?」
「うん。この間のよりも、もっと鮮明に構造が分かる!」
脳内でのフーリエ変換モドキまでやってのけてくれたよ。
凄いね。
ただ、X線照射後だからね。
本人が発したX線だから基本的には大丈夫だと思うけど、万が一のことがあっては困るからね。念のためキチンと診断魔法で診てもらう。
これが原因でミサの手が癌化しても困るからね。
「リキスミアさん」
「はい?」
「ミサの掌を確認していただけますか?」
「分かりました」
そして、リキスミアさんは、両手でミサの左手を握ると、
「特に問題はありません」
と一言。
瞬時に診断を終えたようだ。
これはこれで凄いな。
一応、ボクの方でも念のためダブルチェックって意味で診断してみたけど、リキスミアさんが言われた通り特に問題は無さそうだ。
次はロンドだ。
巧く行ってくれ!
「じゃあ、見よう見まねになるけど、やってみて」
「はい」
ロンドも、ミサやボクがやったのと同じように、両掌を向かい合わせにして二十センチくらい離すと、
「えいっ!」
思い切り気合を入れた。
彼女は、ミサみたいに目付きが悪くないから周りの人達もプレッシャーを感じていない。
って言うか、ミサの時は、周りの人達の表情は凍り付いていたからね。
なんだかんだで、ロンドもX線が出来ていたよ。
ボクは金属の台の上に酸化マグネシウムの単結晶を乗せると、ミサの時と同様に、それごとロンドの両掌の間に置いた。
「その結晶に当たったX線に集中して」
「はい!」
そして、それからさらに数十秒の照射の後、
「あっ!」
ミサよりも、ちょっと時間がかかったけど、ロンドは何かを感じ取ったっぽい。
「じゃあ、これで一旦止めて。すぐにリキスミアさんにチェックしてもらって」
「は……はい!」
さらに、他の四人にも同様にX線照射にチャレンジしてもらった。
結果的に全員、X線照射が出来ていたよ。
なので、全員、リキスミアさんにチェックしてもらうことになったけど、特に問題となる症状は無かったようだ。
これだけの結果が出せるって、本当に運がイイ……って言うか、フィリフォーリア様に仕組まれていたんだと思うけどね。
それじゃあ、本題に入ろう。
ボクは、この六人の机の前に皿を置いた。
「六人共、頭の中に酸化マグネシウムのイメージが描けたと思います。なので、先週、鎮痛剤を出した時のように、この皿の上に酸化マグネシウムを出してみてください。ただ、大きな結晶にこだわる必要はありません。粉状でイイです」
六人が、両手で皿を掴んで集中した。
ミサの顔がひときわ怖いよ。
この様子を見ている他の六人が、正直引いているような感じがするんだけど、気のせいかなぁ?
ただ、この中ではミサが一番優秀かな?
彼女の皿の上に、真っ先に粉状の物質が現れた。
ボクは、その粉を早速、X線照射魔法で分析した。
間違いない。酸化マグネシウムだ。
他の五人も、順次、皿の上に粉状の物質を創製して行った。これらも、分析して行ったけど、紛れもなく酸化マグネシウムだった。
全員合格!
素晴らしいよ!




