32:ご褒美!
以前、ボクが作っていた時、鎮痛剤の錠剤は、三十錠入りが一か月で二百万本くらい出ていた記憶がある。
なので、ミサグループとロンドグループで作った合計量の二千五百倍、つまり、毎月千五百キログラムの原体が必要だし、六千万錠の錠剤が毎月必要になる。
仮に今回の三十倍のスケールで一日に五サイクルやったとすれば、鎮痛剤に限っては二十営業日で、この世界で使用する分を全てまかなえる計算になる。
この世界の人口は、増えたと言っても、まだ六千万人(二割増)にも満たないからね。
でも、他の商品もあるし、そもそも、一日に五サイクルも製造させること自体が、体力的に厳しい気がする。
なので、当然、この十二人だけじゃ世界的な供給には耐えられない。
「さすがに、みなさんだけで全世界必要量を製造してもらうつもりはありません。ですので、みなさん以外にも薬づくりができる人を常時、育成して行きたいと思っています。あと来週は一週間かけて他の商品のパイロット製造を実践でやってもらいます。では、ここにいるみなさんの会社の方には、アクティス王子から状況を連絡してもらえますか?」
「分かった。あと、部屋はここでイイか?」
「はい。お願いします。それから、王子には別のお願いがありますので、この後、お時間をいただけますか?」
「問題ない」
「ありがとうございます。では、今日はここまでとします」
ミサもロンドも、完全にグロッキー状態になっていた。
言うまでもなく他の十人もだけどね。
なので、
「仕方ない。出ろ!」
ボクは、女神様からもらったペンダントを使って、人数分の究極メロンパフェを出してあげたよ。
みんなへのご褒美だ。
途端に、みんなが元気を出したのは言うまでも無いけどね。
この場は、侍女達に任せて、ボクはアクティスと別室に移った。
実は、薬そのものだけじゃなくて、薬が入っていたビンとか箱のことも気になっていたんだ。
「で、トオル。相談って?」
「前にボクが薬を作っていた時、薬のビンを木の箱に入れて、それを重ねた状態にして魔法で供給していました。今でも御使いシリシスは、そのやり方に準じてくれています」
「まあ、そうだな」
「多分、その木箱は使い捨てで、結果的には、蒔の代わりに燃やされていたんじゃないかって思いますけど」
「大方その通りだ」
やっぱりね。
想定はしていたけど、でも、正直言って勿体無い。
ボク自身、前にいた時は、販売展開することばかり考えていて、木箱の行く末とかまで頭が回っていなかったんだ。
「あと、薬のビンも回収して洗浄して使いまわせないかって思ったんです。薬のビンって、結局、使い終わった後は、どうなっているんですか?」
「一部は溶かされてガラス商品として再利用されているが、殆どは捨てられているな。たしかに再利用できれば、その方が有難い」
これも、当然、前にいた時には考えていなかった。
でも、ただゴミに回されるだけじゃ勿体無いよね。
ポイ捨てだってあり得るし……。
「ただ、再利用する方が、経費が出るんですよね」
「その辺は仕方が無いだろうな。でも、ビンも箱も、どうやって回収する?」
「ビン一本いくら、箱一ついくらで回収するのが無難でしょうか」
「有償ってことか」
「はい。箱もビンも使いたいって人は返さないでしょうけど、少なくともゴミにする人の分は、ある程度回収できます」
「なるほどね」
地球でも、ビンの飲料の場合は、安価だけど返金することでビンを回収しているのもあるからね。
多分、この世界でも不可能じゃないと思う。
「箱もビンも回収できれば、ビンを魔法で作る人の負担が減ります。それに、今回はビンを作り出す作業とビン詰め作業の両方を担当する人として、各グループに一人ずつ配置しましたけど……」
「箱とビンの供給が無くなれば二グループに一人で済むってことか」
「はい」
「そうすれば、その分、特殊な魔法使いを探す手間が省けるってことだな」
「はい。別の経費が掛かっても、リサイクル業務でしたら魔力を持つ者に限定する必要は無くなりますので」
「分かった。シュライバーと相談してみよう。ただ、トオルの薬は、全世界的に販売展開しているから、各国とも相談しなければならないことが出てくるだろうな」
「たしかに、金銭バックをどう取り扱うとか、ありますものね」
「なので、少し時間がかかると思う」
たしかに、彼に言う通り、スンナリとは行かない気がする。
こんなこと、この世界では多分、初の試みだろうからね。
地球と違って前例がないことだし、調整に時間がかかるのは仕方が無いだろう。
でも、やってもらわなければ困る。
「その辺は、分かっています。では、お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
「そんな他人行儀な言い方はしないでイイよ。それより、今夜は泊って行かないか? 俺もトオルがいない間、俺なりに頑張ったつもりだし、トオルからご褒美が欲しいなって」
ご褒美って、絶対にHなことの要求だよね?
でも、ボクがいなかった六年間に、相当ムリをさせたみたいだし……。
うーん……。
別にイヤってわけじゃないんだけど……。
「……」
「トオルが泊まるなら、ルビダスとベリルも喜ぶと思うが」
参ったな。その名前を出されると弱い。
二人ともボクのカワイイ義妹予定者だもんね。
「分かりました」
「じゃあ、夕食の時間まで、この部屋でゆっくりしていてくれ。マイトナー侯爵には俺の方から連絡を入れておく」
「ありがとうございます」
「俺は、ちょっとやることがあるんで、これで失礼する」
「こっちこそ、今日はありがとう」
なんだかんだで、アクティスは忙しい立場だからね。
よく馬力が続くと思うよ。
でも、これで少し暇になっちゃったな。
じゃあ、新たに覚えて来た薬でも出してみようかな?
アリアとミサが、以前、会社の人に女性の性欲低下障害治療薬のことを聞かれたって言っていたもんね。
化合物は、フリバンセリン。
「出ろ!」
でも、これは感度が良くなるとか快感を得られるってモノじゃないらしい。
使ったことが無いから、詳細は知らないけど。
でも、実質、女性ばかりのこの世界で、本当に必要かどうかは疑問があるんだよね。
性欲を上げたところで相手の数に限りがあるし……。
別にアクティスから、
『今夜、泊まって行け』
って言われたから出したわけじゃないからね!
ボクは使う気ゼロだからね!
一先ず、この薬はアイテムボックスの中に隠しておこう。
これが誰かに見つかって、
「その薬って何?」
って聞かれても面倒だもんね。
それこそ、アクティスとヤル気マンマンって勘違いされても困るもんね!
その後、ボクは少し仮眠をとった。
……つもりだったんだけど、マジで眠ってしまったようだ。
これが、俗に言う寝落ちってヤツかな?
気が付くと、
「トオル様。夕食のお時間です」
侍女が夕食の出迎えに来ていたよ。
この三日間、別に大して働いてもいないのに、なんでって思ったけど、異世界転移直後だからね。
まだ、体調が万全じゃないのかも知れないね。
通された部屋は、以前、会食をしたところとは別の部屋だった。
外の眺めが良くて、まるでホテルの最上階レストランみたいな感じだね。
大きなテーブルが一つ置かれていたけど、床面積は、それを遥かに圧倒する広さがあって、完全に床スペースを持て余していたよ。
既にフルオリーネ女王陛下にアクティス、ルビダス、ベリル、それから、まだ七歳のスティビア姫がテーブルについてスタンバっていた。
ボクが来たのが最後になってしまったか。
「遅れて申し訳ございません」
「そんな、気にしないで頂戴。私達も、今来たばかりだから」
そう言って女王陛下はフォローしてくれたけど、やっぱり王族を待たせてしまっては申し訳ない。
ちょっと反省だ。
多分、スティビア姫は、ボクのことを知らないだろうね。
ボクがいなくなった時、まだ一歳だったから。
「お姉ちゃん、誰?」
早速、スティビア姫からボクに質問してきた。
ボクは、スティビア姫のすぐ近くに行き、膝を曲げて目線をスティビア姫の高さに合わせた。
「アクティス王子の婚約者のトオルです。よろしくね」
「じゃあ、お姉ちゃんは、お兄ちゃんと結婚するの?」
「そうね」
「楽しみに待ってるね!」
「そ……そうね」
また一つ、アクティスとの外堀が埋まった感じだよ。
もう、別にイイケドね。半ばそのつもりだし。
でも、ボクは前にいた時、チャットボット機能からの回答ではアクティスとは結婚しないってなっていたよね?
その辺って、どうなんだろう?
後で確認しておこう。
ボクがテーブルに着くと、早速コースメニューが順番に運ばれて来た。
先ずはサラダから……だったんだけど、それを完全に無視するが如くルビダスからボクにリクエストが来たよ。
「ねえ、トオルさん。スウィーツ出して!」
「えっ?」
「母やスティビアにも食べさせたくて」
「そう言って、本当はルビダス自身が食べたいんじゃない?」
「へへへ。まあね。でも、ほら。まともに夕食を食べちゃったら入らなくなるし」
いやいや、ルビダスは余裕で入るだろ!
別腹側はブラックホールなんだから。
とか思ったんだけどね。
そうしたら、これに、
「私も食べたい!」
もう一人の別腹ブラックホールのベリルが賛同してきた。
彼女は以前、ルビダスと共にパフェ四杯を完食したツワモノだからね。
全身から食べたいオーラが溢れ出ていたよ。
フルオリーネ女王陛下も、
「二人から話は聞いているわ。私も食べてみたいわね」
乗ってきちゃったよ。
こうなると、
「スティビアも食べたい!」
当然、幼女も欲しがり出すよね。
周りが欲しい欲しい言っていたら、それが何モノか分からなくてもさ。




