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27:四捨五入!

 一先ず、ボクはマイトナー侯爵の家に戻ることにした。一応、ボクはマイトナー侯爵の養女ってことになっているからね。


 ただ、ボクが生き返ったってことは、侯爵が相続した遺産ってどうなるんだろ?

 別にボク自身は、お金に固執しているわけじゃないんだけどね。最悪の場合は、金貨を作ることが出来るから。


 でも、遺産が遺産じゃなくなったわけだし、どう言う扱いになるのかは気になるな。

 うーん。でも、まあ、別にイイか。

 侯爵に相続済みのままだろうとボクの財産だろうと、マイトナー侯爵家全体の財産ってことで。



 話は変わるけど、この世界には、馬車ごと転移魔法で移動できる人がいる。

 でも、山頂付近に馬車を置けるかって言うと……、さすがにそれはね。

 正直なところ、ちょっと難しいよね?


 なので、ほとんどの人達は山の麓までは馬車で来たけど、そこからこの山頂までは転移魔法使いに連れて来てもらっていたみたいだ。



 ただ、王族貴族の場合は、優れた転移魔法使いが仕えてくれているから、お城やお屋敷から一気に転移魔法で、(馬車を使わずに)ここまで来ていたようだけどね。


 と言うわけで、ボクと侯爵はフルオリーネ女王陛下やアクティス達に挨拶をすると、

「転移!」

 侯爵家に仕える転移魔法使いのバイエッタさんの転移魔法で、侯爵家の御屋敷まで一気に移動した。


 便利な力だね。

 ボクのショボい転移魔法じゃ、これだけの長距離移動はムリだもんね。



 久しぶり……。

 実に、六年ぶりの侯爵家の御屋敷。


「ただいま戻りました!」

「お帰りなさいませ」


 メイドの方々がズラリと並んでボクを出迎えてくれた。

 しかも、ご丁寧に頭まで下げてくれていて、なんか申し訳ないな。


 御屋敷の中に入ると懐かしい光景が……。

 何もかも全然変わっていない。

 ボク自身は、完全に記憶喪失状態だったから、実は、あれから既に六年も経ったなんて実感はなかった。

 なので、昨日この家を出て、今日戻って来たくらいの感覚だったよ。



 でも、この世界でみんなに再会して、

『随分、大人っぽくなったなぁ』

 とか、

『ちょっと老けたな』

 とは思ったよ。


 だって六年だよ!

 小学校一年生だった娘が、次に会った時に中学一年生になっているんだよ!

 そりゃあ、みんな歳をとるわけだよ。



 一応、失われたはずの六年間の記憶はある。

 なんだか、他人の記憶を植え付けられたみたいな不思議な感覚だ。


 実を言うと、前にこの世界にいた時に、

『有馬透時代に覚えておけば良かったな』

 って思ったことが幾つかあったんだけど、ボクは、それらをしっかり勉強して覚えて来ていた。


 無意識に頑張っていたんだね。

 記憶喪失状態だった頃のボク自身に感謝するよ!



 今日は、マイトナー侯爵と団らんのひと時を過ごした。

 と言っても、この六年の間に、こっちの世界であったことをマイトナー公爵から一方的に延々と聞かされていただけなんだけどね。

 でも、余程嬉しかったんだろうね。


「あの後ね、アクティス王子ったら……」

 アクティスをはじめ、その後のみんなの周りに起きた出来事を、マイトナー侯爵は色々とボクに話してくれたよ。


 対するボクは、ただ、

『うんうん』

 と頷くだけだったけどね。



 翌朝、ボクは、このお屋敷とボクの店を繋ぐ特殊ゲートを通って店に顔を出した。

 やっぱり、様子が気になるもんね。


 店の一階は薬でぎっしりだった。

 二階の方も、半分以上が薬でいっぱいになっていた。

 シリシスがボクに変わって薬を供給してくれるって話だったけど、本当に頑張ってくれていたんだね。感謝するよ。



 さらにボクは、店を出て隣にある流通センターを訪れた。

 流通センターの敷地内には、大きな建物が増設されていた。

 もしものために、倉庫を増設して、倉庫内にストックする分を増やそうと考えたらしい。


 ボクの店から薬を運び出してセンター内の倉庫の方に移せば、運ばれた分だけボクの店の中にシリシスが薬を再供給する。

 つまり、倉庫を増やせば、それだけストック分を増やせるってことだ。


「こんにちは」

 ボクがセンターに入ると、

「「「トオル、お帰り!」」」

 アリアやミサをはじめ、センターで働く沢山の人達が、仕事の手を止めてボクの方へと集まってきてくれた。

 どうやら、ミサも流通センター担当になったっぽい。



 ただ、マルシェの姿が見えなかったけど……。

 まあ、また後で来るからイイか。


「昨日はキチンと話が出来なくてゴメン」

「まあ、王族貴族が先って分かっているから。でも、全然、年をとってないのね。あの頃のまま時間が止まっているって感じじゃない? うらやましい」


 こう言ってきたのはアリア。

 ただ、アリアは、一瞬だけ、ちょっと辛そうな表情をしたけど、どうしたのかな?

 でも、その後は、いつもの明るいアリアに戻った。


「アリアは、随分と大人っぽくなって」

「老けただけだって」

「まだ二十五でしょ」

「四捨五入したら三十だもんね」

「あのね」

「でも、まさかトオルが御使い様だったなんて」

「違うってば」

「六年前も昨日も、翼を生やして空を飛んでいたじゃない?」

「あれは、本物の御使い様がボクに憑依していただけだってば」

「そうなの?」

「そうなの! それに、ボクに変わって薬を作ってくれていたのも御使い様だよ」

「それは、アクティス王子に聞いていたけど……。そうそう、王子と言えば、昨日は王子と凄かったわね」

「いや、あれは別に」

「ホント、うらやましいヤツめ」


 うーん。

 とにかく話題を変えないと。


「それで、薬の方だけど、足りないものはある?」

「鎮痛剤の需要がちょっと増えたかな? もっとも、トオルの家に自然に湧いて出てくるから全然問題無いけど」

「自然にじゃなくて、御使い様が出しているんだけどね」

「そうだね」

「でも、それもあと一年で終わるから」

「えっ?」

「元々、ボクがいなくなった時に七年間の限定ってことになっていたからね」

「そう言えば、そんなことを聞いた記憶が……。じゃあ、その後はトオルが?」

「そうだね。他にもやることがあるみたいだけど。なので、またこっちにお世話になるけど、よろしく」

「こっちこそ」

「で、これからお城に行かないといけないんで、用が済んだら、すぐに戻ってくるけど」

「分かった。じゃあ、また後で」


 と言うことで、ボクは店の奥に設置された特殊ゲートで再び侯爵家の御屋敷に戻った。このゲートを残しておいてもらえて助かるよ。


 そして、

「ただいま。で、お願いしまーす!」

 侯爵家に仕えている転移魔法使い……バイエッタさんね……にお願いして、お城へと急いだ。

 一応、アクティスに用があるからね。


 別に婚約者だからってわけじゃないよ。

 ボクがいなくなる直前に、この世界で化学の教育と薬品工場の設置、各原料化合物の調達ができる準備をして欲しいってお願いをしていたからね。


 それが、どこまで達成できたかを確認したいんだ。

 余り期待はしていないけど。



 次の瞬間、お城の前に転移完了。

 バイエッタさんの転移魔法はマジで凄いよ。

 ボクの転移魔法じゃ百メートルが限界だからね。


 お城の門は顔パスね。

 これでも一応、王太子様の婚約者ってことになっているからさ。

 通さないってことは無いよね?


 そして、控室に通されて待つこと二十分くらい。アクティスがボクの前に姿を現した。

 多分、仕事を途中で放って来たんだろうな。

 ちょっと悪い気がする。


「ゴメンなさいね、急に来ちゃって」

「いや、来てくれて嬉しいよ」

「ただ、今日、ボクが来たのは婚約者としてじゃなくて……」

「婚約者って自覚はしてくれているんだね」

「あのですね……。まあ、それはそれとして、今日来たのは、アクティス王子にお願いしていったことの進捗を聞きに来たんです」

「進捗?」

「化学の教育と薬品工場の設置、それから各原料化合物の調達準備の三点です」

「あれね……」


 アクティスがボクから目をそらして頭を掻き始めた。

 やっぱり、予想通りだね。



 実は六年前、ボクが地球に転移させられている最中に、女神様から、いくつか言われていたことがあってね。

 そのうちの一つが、

『化学の教育も、薬品工場の設置も、各原料化合物調達ルートの確立も全部ムチャ振りです!』

 だったんだ。



 ボクは、あの時……この世界から消える直前に、そこまで頭が回っていなくて、一方的にアクティスにお願いしちゃったけど、よくよく考えれば、この世界は地球と比べて著しく科学の……特に化学の発展が遅れているからね。


 たった七年で地球と似たような工場の設置とかが出来るところまで到達するのは、先ず不可能だ。

 でも、敢えて七年間の期限を設けたのは、危機感を持たせるためだったらしい。



 中には、楽観的に、

『七年を超えても薬は供給されるよ!』

 とか考える人もいるだろうけど、その一方で、薬が供給されなくなったら、何としてでも自分達で供給するようにしなきゃって思う人も出てくるだろう。

 それを、フィリフォーリア様は期待していたらしいんだ。



 それから、危機感を持った人達の中から、この世界ならではの方法で薬の製造ができる人達を育てなければならない。

 工場の形態も、地球とは全く違ったものになるだろう。


 それで女神様から言われた二つ目の言葉が、

『それを見越して勉強してきなさい!』

 だったんだ。


 なので、ボクは元々、この世界に合った薬の製造法を確立するために、地球に飛ばされて勉強して、改めてここに戻ってきたんだ。

 最初から全部、ボクのタスクだったんだよ。


 だから、巧く行ってなくてもアクティスのことは責めたりしないよ!

 むしろ、ある程度の成果が出ていたら、ボクがアクティスにご褒美をあげなきゃいけないような気がする。


 いったい、何を要求されることやら……。

 それを考えると、成果が出ていた方が怖い気がするな。


「状況としては宜しくないようですね?」

「さすがに工場の設置までは行ってない。あと、原料化合物の調達も、どう動いて良いかが分からなくてね」

「教育の方は?」

「済まない。大々的に化学を浸透させることは出来なかった。ただ、二十人程度なら出来のイイのがいる」

「そうですか。朗報です。なら、ちょっと試してみたいですね」

「何を?」

「その人達に魔法で薬を作ってもらえないかなって思いましね」

「いきなりか?」

「はい」

「でも、薬を作る知識とかは無いぞ」


 その辺は分かっているよ。

 勿論、ボクと同じレベルで薬を作るのもムリだってこともね。

 飽くまでも、分業でイイから必要な魔法を発動できるかどうかが重要なんだ。


「その点は大丈夫です。そのためのイメージを作る特殊魔法がありまして、それを開花させたいんです。それに、ボクの代わりにシリシスが薬を供給してくれるのも、あと一年の約束ですから」

「その後、トオルは薬を作らないのか?」

「作りますけど、さすがに百年後には死んでいるでしょうから。後の時代にも薬の製造が受け継がれるようにしないといけないんです」

「たしかに、それができると有難い。ただ、魔法となると、ある程度以上の魔力を持つことが必須になるな」

「そうですね」


 たしかに、これはアクティスの言う通りだ。

 アクティスの講義内容を理解出来ていても、魔力が無ければアウトだ。

 逆に、魔力があってもアクティスの講義を受けていなければ、これからボクがやろうとしていることをイメージできないだろう。


 なので、該当する人を発掘するには結構時間がかかるかも知れない。

 一応、それは覚悟しているつもりだ。


「でも、まあ、何とかなるかも知れないな。明後日でイイか? もしトオルの都合がつくようなら、さっき言った二十人の中に、魔力もそれなりにありそうなのがいるので招集をかけるが」

「本当ですか?」

「ああ」


 これは、思っていた以上に朗報かも?

 ちょっと期待してしまう。

 でも、人生、そんなに甘くないからね。

 その二十人が全滅することもあり得るし、一喜一憂するのは控えないと。


「では、明後日ですね。特に問題ありません。ありがとうございます。それと、広い部屋を使わせてもらいたいんですけど」

「どれくらいの部屋?」

「前後幅左右幅が共に十五メートルくらいの部屋があれば。あと、そこで講義ができるように机と椅子も必要になりますけど」

「分かった。それなら城内に用意できる」

「ホントですか! 助かります!」

「じゃあ、明後日の昼過ぎでイイかな?」

「はい」

「それで、今日は、この後は?」

「一旦、店の方に戻ります。さっき行って挨拶だけしてきましたけど、状況をキチンと確認したいもので」

「そうか。じゃあ、明後日、来た時には食事でもどうだ?」


 一応、アクティスにもご褒美をあげないとイケナイかもだしね。

 まあ、食事くらいならイイか。


「そうですね。喜んでお受け致します」

「じゃあ、また」

「はい」

「あっ! そうそう。ルビダスが急ぎで会いたいって言ってたぞ」

「ルビダスが? もしかしてボクがダイヤを出せるって言いました?」

「いや、さすがに誰にも言っていないよ。ただ、深刻な顔をしていたな」


 なんだろう?

 また便秘か何かかな?


「そうですか」

「俺の方の用が済んだら来て欲しいって言っていた。この部屋の前でルビダス付きの侍女が待っているよ」

「分かりました。では、ルビダスに会ってから帰ります」

「そうしてくれ」


 と言うわけで、ボクはアクティスに会釈して部屋を出た。

 すると、

「お待ちしておりました。こちらです」

 本当に侍女が部屋の前で待っていたよ。

 しかも、二人。



 そして、この二人の侍女に連れられてルビダスの部屋に移動することになったわけだけど、この侍女達、なんか見覚えがあるんだよね。


 そうだ!

 思い出したよ。

 以前、アクティスにボクを襲うようにけしかけた二人だ。あの時の付き人二人組!


 魔法でボクの身体を動かなくしてアクティスのためにお膳立てしてくれた、ある意味、主人思いのイイ侍女達だよ。

 ボクにとっては最悪だったけどね。


 よりによって、この二人か。

 なんか、嫌な予感しかしないんだけど……。

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