24:振り出しに戻された気分だよ!
ボクは、アクティスの身体を魔法で動けなくすると、そのまま彼をベッドの上に押し倒した。
一応、ボクは相手の動きを封じる魔法が使えるけどさ。ショボくて自力じゃ蟻一匹程度しかコントロールできない。
でも、今はシリシスが力を貸してくれている。
シリシスはボクの身体を乗っ取って勝手な演説をしてくれたくらいだからね。人の動きを完全に支配できるんだ。
もはや、アクティスは自分の意思で身体を動かせない。
そして、ボクは全裸になると彼の服を脱がした。
正しくは、物質転送魔法でアクティスの服を移動させたんだけどね。
これもシリシスに借りた魔法だよ。
いきなり裸にされてアクティスは焦っていたけど……。この世界で生きた記念に、本当に君の初めてをもらって行くことにするよ。
ボクの初めてと交換でね。
今まで、ボクは感性が完全に男性だったから、こんなことは100%受け入れられなかった。
前世でボクは男性だったからね。
でも、その前は女性だった。
今世は、身体は女性でも中味が男性か女性かハッキリしない人生を送ってきたけど、今この瞬間だけは性別なんて関係ないって感じている。
多分、前々世の記憶が甦ったからだろうね。アクティスの想いを受け入れられるように変わっちゃったみたいなんだ。
正しくは、相手が男女どちらでもOKみたいな感じなんだけどね。
ううん。違うか。
もう認めよう。
多分、前々世の記憶が戻る前からアクティスのことを愛していたんだ。
それにしても、まさかボクのほうからヤッちゃうとはね。
…
…
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ボクとアクティスは、初めて一つになった。
アクティスは、これが二回目と思い込んでいるだろうけど……。
…
…
…
そして、丁度、アクティスが賢者タイムに入った直後、ボクはアクティスと唇を重ねた。これが、彼を直接感じられる最後の機会だからね。
それからボクは、ボクがこの世界に来て初日に作った大きなダイヤモンドをアイテムボックスから出してアクティスの胸の上に置いた。
ボクが持っていても使い道が無いし、このまま、この巨大なダイヤモンドがボクと一緒に消えちゃうのも勿体無い気がしてね。
巨大でブリリアントカット。凄い代物だよ!
「これは、ボクと一緒にいてくれた記念品。ボクだと思って大事にしてね」
ダイヤモンドの構造を考えた時に、不純物の存在なんか考えないからね。このダイヤモンドは、色も透明度も最高なんだ。
カラット、カット、カラー、クリア、4C全てが最高の逸品だからね!
この時、ボクは喜びと悲しみが入り混じったような顔を見せていたと思う。
アクティスと一つになれて嬉しかったけど、でも、本当はボクだって、この世界にもう少しいたいからね。
だけど、もうタイムリミットなんだ。
この直後、ボクは彼の前から消えた。
ネペンテスの世界から、ボクの身体自体が完全に消滅しちゃったんだよ。女神様の手で強制的にね。
まるで、別世界に転移したみたいに……。
…
…
…
女神様は、全ての展開が分かっていたからね。
それで、アイテムボックスに入れる貨幣の上限を決めて、シリシスを通じてボクに言って来たんだ。
ボクが消えると言うことは、ボクが稼いだお金もアイテムボックスごと、この世界から消えてしまう。
それだとマズイよね?
せっかくのお金だ。
今後のために使ってもらうべきだよ。
なので、キチンとこの世界に残せるように準備をしておけって意味でもあったんだ。
あと、アクティスの自室でボクを待機させたのも、きっとボクが、一番好きな、一番の親友と一つになる時間を与えてくれたってことなんだろうね。
それにしても、マイトナー侯爵、とんでもない遺産を相続したよね?
毎月、ボクは税抜きで毎月金貨10万枚以上稼いでいたから、一年間で120万枚以上か。
二年間で240万枚以上……って言うか250万枚近い。
それから最後の病気で稼いだ金額が税抜きで金貨70万枚。
ボク自身、ろくにお金を使わないから、かなりの額が残っていた。それこそ、価値として金貨320万枚分以上が、そのまま丸ごと残っていた状態だ。
その一割相続で金貨32万枚分か。
金貨1枚が10万円として、320億円?
しかも、この世界は相続税と言う概念が無いんだ。多分、相続税があったら莫大な財産を受け継ぐ社交界の皆様方が困るからなんだと思うけど……。
この大金は、多分、マイトナー侯爵も使い切れないよね?
使い切ったら逆に尊敬するよ、うん。
ふと気が付くと、ボクは女神様の前にいた。
ただ、この時、女神様は前に見た時とは違う姿をしていた。
少なくとも人間の姿をしていなかった。
単なる光の球体だったんだ。
でも、伝わってくる波動から、このお方が間違いなく、あの時の女神様だってことは分かっていた。
「ただいま帰りました」
「お疲れです。これでアナタの200年前の罪は消えました。でも、アナタは、また新たな罪を犯しました」
「えっ?」
「最後にアクティス王子の残したダイヤモンドのことです。彼は、あの巨大なダイヤモンドを聖なるダイヤモンドと勘違いしています」
「はぁ?」
「何が『ボクだと思って』ですか。完全に、あのダイヤモンドがアナタの身体だと思い込んでいますよ! あのダイヤモンドにアナタの魂が宿ることで人型となって薬を作り出し、アナタの魂が抜けたことで元のダイヤモンドに戻ったと信じているのです」
「げっ!?」
「そもそも、不純物一切無しで巨大でブリリアントカット。天界から送り込まれたダイヤモンドだと誰もが信じて疑わないレベルでしょう。しかも、あのダイヤモンドにアクティス王子は生涯独身を貫くことまで誓いました。トオル以外の女性と結婚する気は無いと」
「な……なんでそんなことに?」
「それだけアナタは、彼にとって愛する対象であると同時に聖なる存在だったのでしょう。だから、彼は性的なことも、あれ以来、必至で我慢して来たのです」
「……」
そうだったのか。それは可哀想なことをしたな。
まあ、その辺は許してくれ。
女神フィリフォーリア様の口撃がまだ続く。
激怒しているってわけじゃなさそうだけど、それなりに怒っている……と言うか、ボクに相当文句が言いたいようだ。
「ちなみに彼は、アナタのことをトール神と呼んでいます!」
「えぇっ!?」
それって、意味が違う気がするんだけど……。
トール神が愛用の武器『ミョルニル』を巨人に盗まれた時に、取り返すために女装したって話はあるけど、多分、ボクとトール神の共通部分は、女装(?)くらいしか無いよ!
でも、ボクが神様として崇められたら女神様の立場が無いよね?
それは、たしかに文句を言いたくなるかもしれないね、うん。
「王太子に結婚を放棄させるなんて言語道断です。彼の中では実子を残さないとまで覚悟を決めているでしょう。あんなモノを渡さなければ、そこまで思うことは無かったでしょうに。なので、彼のためにもアナタには、もうちょっと働いてもらいます」
「へっ?」
「また地球に行ってもらいます」
「えぇっ?」
「既にアナタの身体は地球に転移済みです。魂だけ、ここに立ち寄ってもらいました。異世界転生ではなく異世界転移ですので、容姿はネペンテスにいた時のままです。アナタには6年間の出向期間を設けます。その後、再びネペンテスに異世界転移してもらいます。では、6年後に会いましょう」
一方的に決められた感じだ。
ちょっと待っての一言さえ言わせてもらえない。
この直後、ボクの目の前が真っ暗になった。
…
…
…
6年が経過した。
ネペンテスの世界では、あれから男児の出生率は復活していた。既に、5歳以下の男女比率は、ほぼ一対一に復帰していたのだ。
トオルが消えた日に、トオルが預言したとおりになった。
まだ十数年先の話になるが、この世界の人口は徐々に増えて行くことになるだろう。
ドロセラ王国では、まだまだフルオリーネ女王陛下が現役。
トオルがアクティス王子に渡したダイヤモンドは、ウッドワード王家の家宝として城内に保管されているとのことだ。
当のアクティス王子は、トオルの遺言に応えるべく、世の中への化学の浸透と製薬工場設置に向け日夜奮闘していた。
しかし、既に期限の7年まであと1年に迫っている状況にありながら、工場起動まで進められていない。
化学の浸透も思うように進んでいない。
それで彼は焦っていた。
アクティス王子がベッドに倒れこんだ。
彼は、心身ともに疲れ切っていたのだ。
ふと、彼は自分の右側に強烈な光を感じた。それで目を開けると、そこには宙に浮いている御使いシリシスの姿があった。
アクティス王子の頭の中にシリシスの言葉が流れ込んできた。
「明後日の昼十二時に、イットリア山の山頂までご足労ください。愛する者のこと、不束者ですが、またよろしくお願いします」
そしてシリシスは、それだけアクティスに伝えると、忽然とその場から姿を消した。




