23:ちょっとボクに何を言わせるのさ!
伝染病が終息して一ヶ月が過ぎた。
この日、ボクは二つ目の勲章授与のため城内にいた。
授与式の時、前回と違って沢山の国賓が来ていた。全世界同時多発の伝染病治療に関する表彰だからね。
でも内心は、救った小娘がどんなヤツか見たいって言うのもあったんだろうな。
こんな小娘で済みませんって思う。
今回は、前回の授与式よりも大掛かりになった気がする。
授与式の後、ボクは女王陛下とアクティスと一緒に、王族が下々の人達に顔を見せたり挨拶したりするところ――バルコニーだね――そこに三人で出たんだ。
そして女王陛下から長々とお話があった。
「この聖女によって、王都では二度に渡り、致死的な伝染病から救われました。しかも二度目の伝染病は全世界的規模であり……」
まあ、ボクの功績を色々称えてくれているんだよね。
それに『聖女』だって。
今更だけど、なんだが恥ずかしいや。
ムチャクチャ努力したってわけでもないし。たまたまもらった能力で、女神様の指示で薬を出しただけだもんね。
見物客の中には、アリアやミサ、シュライバーさん、アダン町の競合店の美魔女店主達もいた。
わざわざボクのために来てくれたんだ。
それから、ここにアクティスがいるのは王太子だからってこともあるけど、どうやら、この場でボクとの婚約を、改めて大々的に、世界的に発表しようって魂胆もあったらしい。
既に婚約発表はしているけど、この場で再アピールしたいみたいだ。
ボクがドロセラ王国のモノだって世界中に知らしめたいんだろうな。ボクを他国に連れて行かせないためにね。
例の端末からの答えでは、アクティスとは結婚しないはずなんだよね。
でも、これで婚約破棄したら、ボクは身を隠せばイイけど、アクティスが困るよね?
彼の名誉に傷がつくよね?
前にも思ったけどさ、やっぱりボクの人生、詰んだかな?
アクティスと……男と結婚って……。
女王陛下のお言葉が終わった。
次に、ボクから一言ってことになっている。
アクティスとの婚約は、その後に発表するみたいだね。
ボクは、簡単に、
『皆様のお役に立てて嬉しいです。このような勲章までいただけて光栄です!』
って言って終わらそうと思っていた。
余り、大勢の前で話をするのは得意じゃないからね。
ところが、ボクの思惑とは全然違う方向にことが進み出した。
何があったって?
この時、ボクの目の前にシリシスが現れたんだ。彼女の姿が見えているのは、どうやらボクだけみたいだ。
シリシスがボクの手を握った。
すると、ボクの身体が宙に浮いた。
さらに、シリシスの言葉がボクの頭の中に直接響いてきた。
彼女が言うには、彼女は今、ボクの背中に翼が生えているような幻を、ここに集まっている人達に見せているらしい。
ちょっと待てぃ!
それだと、みんなにはボクが御使いか何か見にえちゃうんじゃない?
しかも、ボクの身体をシリシスが完全にコントロールしていた。彼女の台本に従って、ボクの口が勝手に動き出したんだ。
完全にボクの意思は無視された。
「今から200年前に全世界的に伝染病が発生しました。これが原因で大量に男性が死亡し、さらに男児の出生率が大幅に低下しました。それ以来、人口は減少し続けています。今回、再び全世界同時多発的に伝染病が発生しました。しかし、今回の病は全てが悪ではありません。病を克服された皆さんは、身体の中にある男児の出生率を復帰させるスイッチを押されるものと女神様から啓示を受けております。今から一年過ぎた後、男児出生率は徐々に元に戻ります。今後、この世界が大きく発展することを祈ります」
ええっ?
何を言わせるのさ。
しかも、ボクの身体は、この直後、強烈な光を放ったかと思うと、この場から消えてしまったんだ。
みんな驚いただろうね。まるで神がかりだよ。
この世界では転移魔法はあるけど空中浮遊の魔法は無い。
それから、身体から光を放つなんて魔法も無い。
これは、全部シリシスが引き起こした奇跡だったんだけどね。この時、ボクの身体は既にアクティスの自室に送り込まれていた。
さらにボクの頭の中にはシリシスの言葉が色々流れ込んで来ていた。今後、アクティスに依頼する内容だね。
それから、ボクの今後のことも……。
病気にならない身体をもらったことが、ボクの人生に制限をかけたんだ。
まあ、説明されれば嫌々だけど納得できなくはない。
なんだか急に寂しくなってきた。
これを聞いたらアクティスのヤツ、多分、泣きそうだな。
小一時間したらアクティスが自室に戻ってきた。
部屋に入ってきた時、彼は相当落ち込んだ表情をしていた。ボクが消えちゃったって思っていたみたいだからね。
でも、ボクの顔を見ると急に元気な顔に変わった。
「トオル!」
おいおい、そんな大声出さないでくれ。
ボクは、瞬時に強力な結界を張った。
こんな能力を、本来、ボクは女神様から授けられていないんだけど、今はシリシスから能力が借りられるみたい。
それで、アクティスと二人だけで話がしたくて結界を張ったんだ。
「ゴメン、アクティス。ボクには時間が無いんだ」
「それって、どう言う?」
「ボクの仕事は終わったんだ」
「えっ?」
「今から出す書類に、この後、急いで目を通して欲しい。それと、ボクの店をマイトナー侯爵のところか王家か、どちらかで管理を続けて欲しいんだ。今後7年間、ボクの店で取り扱っている薬は、ボクの店に自動供給される。御使いシリシスがボクの能力を受け継いでくれるらしい。薬は、店から運び出されたそばから補充されることになっている。それから、抗生物質も追加される。それらを、今までどおり世界中に卸してもらいたいんだ」
ボクが地球で得てきた知識は、さっきボクの身体をシリシスが乗っ取った時に、シリシスの頭の中に全てコピーされたんだって。
さすが人知を超えた御使いだ。
それで、シリシスがボクに代わって薬を供給するそうだ。
でも、アクティスは納得できないみたい。
「トオルが運営すればイイじゃないか?」
「ダメなんだ。それから、その7年の期限が過ぎるまでに、この世界で化学の教育と薬品工場の設置、各原料化合物の調達ができる準備をして欲しい。それらのことが、これらの書類に全部書いてあるよ。これらも全て御使いシリシスが用意してくれたんだ」
これらの書類も、ボクが持つ知識の中からシリシスが作り上げてくれたっぽい。でも、一瞬で作り上げるって凄いな。
改めて言うよ。さすが人知を超えた御使いだ!
「でも、そう言った仕事ならトオルがやった方が確実じゃないか?」
「もう許されないことなんだよ。ボクは、200年前に狂った軌道を元に戻すためだけに、この世界に来たんだ。ここから先は、ボクじゃなくて、この世界の人々の手で成してもらわなければイケナイことなんだよ」
「何で? 何だよ!」
「それに、この間の病気は全ての人が罹患していなくちゃイケナイものだったんだ。200年前に狂った男児と女児の出生バランスを元に戻すためにね。でも、ボクだけは罹患しなかった。何故なら、ボクは、もう、この世界に存在しなくなる人間だから……」
アクティスのヤツ、泣き出しそうだ。折角のイケメンが台無しなくらい情けない顔をしている。
もっとも、これだけ言ったら、この後の展開は誰だって予想できるもんね。
ボクだって、悲しんでくれること自体は嬉しいよ。
いなくなって清々するとか言われないで良かった。
「必要な経費はボクの遺産を当てて。遺産の一割はマイトナー侯爵に相続してもらうけど、残る九割を使ってね。ボクの金庫は、特殊な魔法がかかっていて、マイトナー侯爵とアクティスだけが開けられるようになっているから。あと、今後は薬で出た利益も必要経費に当てて。その辺のところも書いておいた。これ、ボクの遺言書。これも置いておくよ」
ボクが莫大な利益を上げたのは、この資金調達の意味もあったんだ。
今後も利益を上げるだろうけど、それらは、全てこの世界のために使ってもらう。
「アクティス。最期に君に会えて良かった」
「うぅ……」
あーあ。アクティス、やっぱり泣き出しちゃった。
でも、彼が泣き顔を見せるのって、きっとボクの前だけなんだろうな。他の人の前だと気丈に振る舞うからね。
だけど、ちょっとだけ彼の予想外のことをさせてもらうよ。
最期の時くらい、イイかなって思ってね。




