22:マッチポンプじゃないからね!
早速、お城からボクのところに使いが来た。
緊急事態だもんね。
「大至急、お城に来てください!」
既に状況は理解しているよ。
ボクは、マイトナー侯爵と共に従者の転移魔法で入城した。
使いの人からの説明では、既に女王陛下の指示で、以前インフルエンザ治療薬を配布した時と同じような配布場所が王都内に数箇所確保されていたとのことだ。
さすが、対応が早い。
ただ、場所が確保されていても薬がなくては意味が無い。それで、ボクに話が飛んできたわけだ。
まあ当然か。
とっくの昔に覚悟しているよ。女神様の言葉を聞いた時からね。
残念なことに、既に死者も出始めているようだ。
症状から、今回も誰もがインフルエンザだと思っていたらしい。まあ、前例からそう思うのは仕方が無いよね。
ただ、この世界の人々は、地球人よりもインフルエンザに数段弱い。
それだけに、人々の不安は大きなものとなっていた。
ボクとマイトナー侯爵が、女王陛下のところに通された。
女王陛下は、ボクの顔を見ると、
「また、あの時の薬をお願いするわ!」
と言いながら安堵の表情を見せた。
これで事態を終息できると信じてくれているようだ。
こんな小娘にすがるしか方法が無いんだもんね。
早速、ボクはアイテムボックスからダンボール箱を一箱出した。
例の薬の入った箱だ。
これは、城内の分だ。
「今回のことは、既に女神様の啓示を受けて準備しておりました。人から人へと移る伝染病です。発症された方に、この薬を飲ませてください。一日二回、朝晩1錠ずつの服用です。服用期間は前回と違って五日です」
「分かったわ」
「それから、これは全世界で同時多発的に発症しています」
「なんですって?」
「そのように、御使い様から啓示を受けました。あの忌わしき200年前の奇病のようにです。ですので、この薬を全世界の販売ルートに乗せます。まだ沢山作ってありますので数の心配はありません」
「それは有難いわ」
「あと、今回の薬は全て無償提供とします。でないと、薬を手に入れられない人が出てしまいます」
「でも、無償っていうのは良くないと思うわ。お金のことは各国の首脳とも後で相談させてもらうことにするから」
「分かりました。それと、今回の病気は、前回の病気とは違います」
「えっ?」
「ですので、前回の薬の残りを服用しても意味はありません。今回の薬を発症者に飲ませてください」
「そう言うことね。あの時の薬のストックが既に処方されているけど、その人達には改めて新しい薬を届けることにするわ。でも、殆ど余った薬が無かったのは不幸中の幸いってとこかしら?」
「そうですね。では、ボクは城外に出ます」
「じゃあ、配布する場所は既に確保してあるから、アクティスと一緒に、そっちに行ってもらえるかしら?」
「はい。そうさせていただきます」
この時、アクティスも不安な顔をしていた。
でも、彼も女王陛下と同じだ。ボクと目が合うと安堵の表情を見せてくれた。これで全員助かるってね。
ボクはお城の従者にお願いして、転移魔法でアクティスと一緒に城外へ出た。そして、薬の配布場所を順に回り、各所の責任者達にダンボール箱ごと薬を渡した。
それから、その責任者達には服薬説明も行った。薬を受け取った一般市民達に説明してもらわないとイケナイからだ。
一度に全部飲まれても無意味だしね。
用法用量はキチンと守ってもらわないと。
そう言えば、ダンボール箱をアイテムボックスから出す度に、みんな驚いていたなぁ。
傍目には、何も無いところから大きな箱が出てくるように見えるから、本気で魔法にしか思えなかっただろうね。
それからボクは、アダンの町に転移してもらった。流通センターに行って同様に薬の配布と服薬説明を行うためだ。
全世界同時多発の伝染病だからね。テロよりヒドイ。
勿論、この町アダンも救う。
ここは、ボクの店があるところだ。ここでは絶対に死者を出したくない!
イヤな人もいたけどさ。でも、基本的には、みんなに色々お世話になった。近所の人とかギルドの人とか。
それに、親友のアリアとミサもいる。
それでボクは、競合店の美魔女店主達のところを順に訪れて薬を卸し、服薬の説明を丁寧に行ったんだ。
でも、何故、女神様がウイルスを撒き散らして、ボクが女神様の命令で薬を作って配布しなければならなかったのか?
これって、正直、マッチポンプにしか思えないよね?
だけど、これにはキチンとした意味があるんだ。
200年前の第二の奇病では、女性にウイルスが感染して、男児の出生率を大幅に低下させた。
今回のウイルスは、それを相殺させる。そのために女神様が自ら設計したらしい。つまり、感染すると男児の出生率を元に戻すんだ。かなり、ご都合主義なウイルスって感じがするけどね。
なので、基本的に全員に感染だけはして欲しいらしい。
ただ、残念ながら前回のウイルスと違って軽い症状で済むものを設計できなかったようなんだ。
どうしても初期症状が重くて、最悪の場合、死者も出てしまうとのことだ。
最初の五日間だけ何とか持ち堪えれば、症状が和らいで来るらしいんだけどね。
それで、治療薬……と言うよりも症状緩和のための特殊な薬が必要になったんだ。このウイルス専用のね。
細かいことはボクにも良く分からないけど、単なる解熱剤じゃダメみたいなんだ。
もし、軽い症状で済むウイルスが設計できていれば、男女比が元に戻った頃を見計らってボクはコールドスリープから覚める予定だったそうだ。
それこそ、ボクがアルセニコスのウイルスをばら撒いた記憶を消去してね。
ボクがやったことは許されることじゃないけど、諸悪の根源は飽くまでもアルセニコスってことで、女神様からは、ボクは半分被害者って捉え方をしてもらえたみたいだ。
それで、ボクは消滅を免れた。
だけど、軽い症状で済むウイルスを設計できなかった以上、どうしても今回の薬がセットで必要になった。
だったら、ボクにも働いてもらうべきって判断が下ったんだ。
つまり、ボクにも、それ相当の責任を取らせないとイケナイってことだね。
それでボクは、25年前にコールドスリープから起こされて、薬の勉強をするために地球に研究出向させられたわけだ。
地球に男性として転生したのは、ネペンテスの世界でボクが男性への転生を望んだから。地球で男性に生まれても余り意味が無かった気がするけど……。
それと、女性に縁が無かったのは学問に集中させるためだったとか……。
本当かな?
そこだけは天罰だった気がするんだけど……。
一ヶ月ちょっとで、病は終息に向かった。
基本的に、ネペンテス世界全ての人間が罹患した。ただ一人、ボクを除いてね……。ボクは女神様の手で病気にかからない魔法がかけられていたからね。
薬が配布される前は、全世界で死者が出ていたけど、薬の配布後には死者は出なかったらしい。
それから、薬の代金だけど、インフルエンザの時に倣って一人当たり銀貨二枚って設定されたようだ。末端販売価格じゃなくて、ボクに支払われる金額ね。
これは、フルオリーネ女王陛下が各国首脳に提案して、了承されたらしい。
全世界の人口が5千万人だから、銀貨1億枚。それだけの巨額なお金がボクに支払われることになった。
銀貨100枚で金貨1枚。
つまり、金貨100万枚がボクに支払われることになったってことだ。
ここから税金を納めるわけだけどね。
もしかして、一番得したのはボクが税金を納める先、アダンの町じゃないかな?
それとドロセラ国。
まあ、別にイイけど。
今まで、薬の売り上げは、全てアイテムボックスに収納していた。これなら盗まれる心配が無いからだ。
勿論、今後も、そうするつもりでいたんだ。
ところが、ある晩、シリシスがボクの夢の中に出て来て、こう言ったんだ。
「そろそろアイテムボックスに入れる貨幣は、金貨1万枚を上限にしてください」
これって、どう言う意味?
良く分からないけど、天界から指示された以上、言うことを聞かなきゃいけない。
だけど、ボクのお金をどこに置いて管理しよう?
正直、これだけの大金を隠せる場所が無い!
それでボクは、ドロセラ国とか近隣の国の国債を買い漁ろうかと思ったんだけど、この世界には、まだ国債って概念が無かった。
なので、
「(今回だけ、特別な金庫を出してください!)」
って女神様に祈りながら、ペンダントトップを握った。
すると、
「今回だけですよ!」
ってシリシスの声が聞こえたかと思うと、巨大な金庫が現れた。
金庫を開けると異次元空間に繋がっていて、何と言うか、アイテムボックスの金庫バージョンって感じだった。
「ありがとうございます!」
「指紋認証機能が付いているから、開けられるのはトオルとマイトナー侯爵、それからアクティス王子だけですからね!」
ええと……。
マイトナー侯爵は養母だから分かるけど、何故アクティス王子も?
婚約者だから?
まあ、今は深く考えないことにしよう。
ボクは、早速、大量の金貨を、その金庫の中に移し替えた。




