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17:あれが効くんだ!

今回、薬にする化合物は、飽くまでも洒落で選びました。突っ込みはご容赦ください。

 世界への販売展開を始めて三ヶ月が過ぎた。

 この日、流通センターにイビセラ国の外務大臣が訪れた。ここに来れば、ボクに直接会えると踏んでのことだ。


 彼女がアリアに連れられてボクの店に来た。

 店って言っても、もう個人客への販売はしていないけどね。


「トオル様ですか?」

「はい」

「私の名前はシンフォニア。イビセラ国で外務大臣を務めております。実は、あなたにお願いがあって来ました」

「どのような御用件でしょうか?」

「イビセラ国の町ルテアで、激しい嘔吐と下痢を引き起こす病気に多数の者達が感染しておりまして、感染者は激しい脱水症状と低体温症を起こしております」


 それって、まるでコレラみたいだね?

 なんだか嫌な予感がするよ。


「しかも、その中にはトオル様の薬の運搬に携わる転移魔法使いが含まれております」

 なるほど。その転移魔法使いが動けないのはルテア周辺では痛手になるね。

 地球の薬で治せる病気だったらイイんだけど……。



 ただ、ボクを一人で他国に行かせることを女王陛下は許可しないだろうね。

 万が一にも他国に拉致されては困るからだ。


「では、シンフォニア様。お手数ですがウッドワード女王陛下の御許可を得てください。その間にボクは急いで数日分の仕事を終えておきますので」

「分かりました」

 シンフォニア大臣は、すぐさま部下の転移魔法で王都へと移動した。



 その間に、ボクは大急ぎで再来週分までの薬を造ることにした。

 とは言っても、実は鎮痛剤とか水虫の薬、男性の薬、それから遅くする薬とかは、昨日のうちに再来週分まで作っておいたんだ。別にシンフォニアさんが来るのを予想していたわけじゃなくて、偶然なんだけど。


 あと、作らなければならないのは、お通じの薬が5百万本。

 1箱100本なので5万箱になるけど、最近ではボクも箱が沢山積んであるイメージも描けるようになっていてね。

 それで、この大量生産を数時間で終えられるようになっていたんだ。



 巨大倉庫は流通センターに隣接して設置されていた。世界中に卸す分をストックしておくためだ。

 基本的には、ボクは自分の店で薬を造り、それを一旦アイテムボックスに収納して、この巨大倉庫に運び込んでいた。


 この倉庫内で造ってしまった方が効率はイイんだけど、薬を作るところを万が一にも誰にも見られたくない。それで、自分の店で造るのに拘っていた。

 でも、今は一刻を争う。


 それでボクは、倉庫内で、不休で5万箱を作り上げた。

 アイテムボックスへの出し入れの時間すら惜しかったんだ。


 そして、ボクは家に戻ると女神様の端末で検索を始めた。


『Q:ルテアで集団感染した病気って?』

『A:細菌性』


 やっぱりか。


『Q:コレラ?』

『A:違う』


『Q:病名は?』

『A:ない』


 えっ!

 これって、ボクに治せるのかな?


『Q:治療薬は?』

『A:Armatol A』


 嘘っ?

 あれって投与して大丈夫なのかな?

 まあ、投与量を下げれば何とかなるってことかな?

 地球人には間違いなく毒になるような気がするんだけど、ネペンテスの人なら大丈夫ってことなのかな?


 でも、あの構造式なら間違えるはずが無い。

 ボクの修士課程での研究テーマだったからね。

 イヤと言うほど見てきた構造式だ。もはや、ボクの脳内にこびり付いている。

 これなら魔法で造ること自体は問題なさそうだね。



 そう言えば、イビセラ国って大きいんだよね。

 地球で言うと、ロシアよりも大きい。

 旧ソ連レベル。


 この世界には大陸が三つあって、それらは全部陸続きになっているんだけどさ。南北アメリカ大陸みたいにね。

 今、ボクのいるドロセラ王国は一番西の大陸にあるんだ。

 しかも、西の果て。

 対するイビセラ国は、一番東の大陸にあるんだよね。



 この世界の大陸の総面積は、地球の大陸総面積の七割程度。それを考えると、イビセラ国って相当大きいよね。

 一番東の大陸の九割を占めている。


 しかも、王国が多いネペンテスの中では少数派の共和国。

 人が住んでいるところの気候は、殆どが熱帯から温帯の中に入っているけど、実は砂漠地帯とか、ムチャクチャ高い山とかが多い。


 それで、イビセラ国は人が住めるところが結構限られているみたいだ。

 でも、開拓すれば、意外と資源に恵まれているかもね。

 ちなみにルテア町は、温帯地域に入っている。



 ボクは検索を続けた。

『Q:どこで病原体をもらってきた?』

『A:キバナ村跡』


 村跡って、今では誰も住んでいないってことか。

 イビセラ国の東南部。熱帯地域だね。多分、国内旅行で感染したってヤツじゃないかな?


『Q:何人?』

『A:現在1,000人』


 結構いるな。

 ルテア町の人口は三千人ちょっとらしい。それを考えると、結構、ダメージ受けているよね。


 ボクは、急いでArmatol Aの錠剤を用意した。

 と言ってもArmatol Aの含有量は、極微量なんだけどね。


 でも、まさか、ここでこの化合物を造ることになるなんて思わなかったよ。

 絶対に毒にしかならないって思っていたから。


 それから、コレラに似た症状なら、水分補給も大事だよね。

 それでボクは、電解質液も大量に用意した。

 患者には、これをムリにでも飲んでもらう。



 翌朝、シンフォニアが再びボクの店を訪れた。

 知った顔の人間が一緒に付いて来ていたけどね。

 誰って、ボクの婚約者の妹だよ。


 しかも部下の転移魔法使いも連れて来ている。

 多分、この転移魔法使いがルビダスのお世話係を兼務するんだろう。


「もしかして、ルビダスも来る気なの?」

 ボクはルビダスから敬語を禁止されているんだよね。

 しかも、姫とか王女と呼ぶのも禁止。

 ルビダスって呼べって。

 第一王女相手に、本当は抵抗があるんだけどね。


「勿論。兄の婚約者が心配ですからね」

「感染する病気だよ」


 できればルビダスには来て欲しくない。

 純粋に王族の人を危険地帯には連れて行きたくないんだ。


 でも、ルビダスとしては、万が一にもボクがドロセラ王国から姿を消さないようにって気持ちが強いんだろう。

 一番の理由は兄のアクティスが困るからだろうけどね。


 でも、多分それだけじゃない。

 薬を作る人間として、それから沢山税金を落とす人間としてドロセラ王国には必要なんだよね、きっと。


 仕方ない。連れて行くか。

「その代わり、マスクと手袋着用は義務付けるからね」

「分かりました」


 まあ、アクティス自身が来なかっただけマシだけどね。

 万が一、王太子殿下が感染したら大変だもん。


 それ以前に、あのイケメンが来たら大騒ぎになりそうだしね。

 相手国の女性が群がって来そうだ。



 ボク達は、転移魔法でルテアに入った。

 シンフォニア大臣も、余りルテアには詳しくなかったようけど、ボク達のために予め町長の家を調べてあったみたい。

 それで、ボク達は大臣の案内で町長の家を訪れた。


「遠いところワザワザ有難うございます。私が町長のジゼルです。アナタがトオル様ですね?」

「はい」


 まあ、転移魔法だから来るのは一瞬だったけどね。

 遠かろうと近かろうと、優れた転移魔法使いの同行をお願いできる立場の人にとっては、距離は全然関係ないもんね。

 ボクの転移魔法じゃショボくて使い物にはならないけどさ。


「到着されて、いきなりで申し訳ありませんけど」

「はい、急いだほうが良いと思います。それから、感染者の中でキバナ村に行った人はいますか?」

「私は把握しておりませんが?」

「そうですか」

「それに、キバナ村は、もう100年前から誰も住んでいないところです。あそこに行っても何もありませんけど?」

「でも、熱帯地方ですし、珍しい昆虫とか植物とかを採集したい人なら行く可能性はあります。それに、100年前にキバナ村で起こったことは御存知ですか?」

「伝染性の病気が流行って、全員亡くなったとか聞いていますが」

「はい。実は、今回の症状は、その時の病状と同じなんです。それで、キバナ村があった辺りに旅行した人がいないかと思いました」

「そうですか。しかし、あの辺りには、今、強力な結界が張られていて誰も入れないはずですけどね」


 うん、それは知っていたよ。一応、検索したら出てきたもんね。

 それも、『デビルス・クロー』って呼ばれる強烈な結界らしい。悪魔の爪ね。

 結界を破ろうとすると大怪我をするんで、そう呼ばれているっぽい。

 つまり、立入禁止区域にしたってこと。病気に感染させないためにさ。


 だけど、一般人ならともかく、結界を破る魔法を使える人も極々少数とは言え、いるはずだからね。

 その可能性を、この町長にも一応考えておいて欲しかったな。


「では、早速案内してください」

 ボクは、ジゼル町長に連れられて、病院を順に回っていった。感染者は千人もいたから大変だったけどね。


 想像していたとおり、患者は全員、ひどい脱水症状を起こしていた。昔、ネットで調べた『コレラ様顔貌』に似た状態になっていたんだ。

 さすがに、ルビダスは目を逸らしていたよ。まともに見られなかったようだ。


 早速、ボクは、女神様の端末で検索した結果に従って、Armatol Aの錠剤を飲ませた。

 ボク自身は絶対に飲みたくないけどね。

 何故って、Armatol Aは三環性縮環エーテル構造を持つからさ。

 ボクの先入観かも知れないけど、ボクは縮環ポリエーテルに猛毒のイメージを持っているんだよ。

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