15:敵認定されたよ!
お通じの薬を売り出して二日目。
この日も、ボクの店の前にゴミの山が置かれていた。
一回だけなら偶然の可能性もあるけど、二日連続となると、これは完全に意図的だ。でも誰が何故こんなことを?
急いでボクは、警備兵を捜して撤去と警備の強化をお願いした。
今日も、お客さんからはアクティスのことを言われた。
それだけじゃない。街を歩いていると、ボクの方を見ながらヒソヒソ話をする輩が点在していた。
こんな目立ち方はしたくなかったよ。
みんな、噂を信じちゃっている。
多分、羨ましいんだろうね、アクティスとのことが……。イケメン王子だもんね。
でも、刺し殺されないだけマシか。
本当はデマなんだけど、でも、アクティス自身がボクと関係を持ったって信じちゃっているし、ボクが反論できる状況には無いんだよね。
半ば自分で蒔いた種か。
この日の夜中の10時くらいのことだった。
「何をしてる!」
「ちょっと待て!」
何やら煩かった。
ボクは何事かと思って店の扉を半分開けた。
すると、店の前にはゴミの山。
多分、ゴミを置きに来た人がいて、それを見つけた警備兵達が犯人を追い駆けて行ったってとこか。
数分後、縛られた女性を連れて警備兵が来た。
縛られたって、両手をね。
亀甲縛りじゃないからね!
「トオルさん。彼女がゴミを置いていった犯人です。現行犯で捕まえました」
「ええと、お疲れ様です。夜間にわざわざ有難うございます」
でも、この女性、どこかで見たことがある。
そうだ!
ボクの方を見ながらヒソヒソ話をしていた一人だ。
多分、アクティスとの件で嫉妬して嫌がらせしたってとこだろうね。アクティスのファンだったのかもね。
その女性は、そのまま警備兵に連行された。
でも、アクティスと婚約したら、こんなもんじゃ済まなそうだね。
頭痛くなってきた。
翌日、ボクは店を臨時休業した。競合店の美魔女達のところを順に回るためだ。
目的は二つ。
一つ目は、お通じの薬を卸すこと。ボクへの支払いは、売り上げが出てからで構わないことにした。
そして、二つ目は、近々、ボクの店では個人客への直接販売を停止して、卸し一本に切り替えることを伝えるためだ。
色々考えたんだけど、マイトナー侯爵の養女になった後、ボクは全世界への薬販売に向けて大きく動き出す。
そうなったら、多分、ボクには店を続けるだけの余裕は無い。故の卸し一本化だ。
今日のところは予告だけ。詳細は決まり次第連絡することとした。
美魔女達は驚いていたけど、ボクの店の分のお客さんは彼女達のところに流れるはず。
彼女達にとって悪い話ではないだろう。
そして、そのさらに数日後、ボクの店にマイトナー侯爵が来た。
「早速だけど、トオルちゃん。お返事をいただけるかしら?」
「養女の件、受けさせていただきます」
「本当?」
「はい。よろしくお願いします。それから、今後、ボクの店では個人客への直接販売を停止します」
「えっ?」
マイトナー侯爵も、一瞬、驚いた顔をしていた。
侯爵家に入るため、ボクが薬作りをやめるのかなとか考えちゃったんだろうね。
そんなことはしないよ。
「薬作りは続けます。卸し一本に切り替えます」
「そ……そう……? でも、お店は続けてもイイのよ」
「以前にも申し上げましたとおり、ボクは、ボクの薬を世界中に販売できるように活動したいんです。アクティス王子も協力してくれるとのことです。それで、ボクは薬を作り出すことだけに集中します。世界中に出すとなると半端な量ではありませんので」
「たしかに、とんでもない仕事になりそうね。でも、卸し業にも人手はかかるわよ。そのための人員確保も必要ね」
「それは、追々考えます。あと、アクティス王子からの提案を受け入れますとの御連絡をお願いします」
「ホント! きっと喜ぶわね、アクティス王子も女王陛下も」
「でも、婚前交渉は無しにしていただきますけどね」
「何を今更」
今更も何も無いんだけどね。
でも、マイトナー侯爵は、ボクとアクティスが既に関係を結んだって思っているからなぁ。こう言われても仕方が無いか。
「全て仕事が最優先ってことで」
「それはアクティス王子としては、もの凄く悔しがりそうね。でも、前向きな回答をもらえて感謝するわ」
「いいえ、こちらこそ」
「では、これから手続きに入るわね。後で書類とかも持ってくるわ」
「はい、よろしくお願いします」
この数日後、ボクは正式にマイトナー侯爵家の養女になった。
その後、ボクの店は製造と卸し業に絞り、個人客への直接販売をやめた。美魔女達の店に置く分の薬は、一先ず彼女達が定期的にボクの店に引き取りに来る。
製造場所はボクの店。
まあ、製造スペースはボクが座れる分だけあれば十分なんだけどね。なので、実質この店は倉庫としての機能しかないようなものだ。
ただ、マイトナー侯爵の家からボクの店までは結構な距離がある。養女である以上、ボクは侯爵家に一応毎日帰宅する。
それで、転移魔法を使える侯爵家の従者が、侯爵家と店の間を自由に行き来できる魔法のドアを設置してくれた。転移ゲートって言っていたけど、何かのアニメにあった便利グッズみたいだ。
まあ、この転移ゲートはボクの店と侯爵家を繋いでいるだけで、他のところには行けないんだけどね。
それから、他国には転移魔法で流通させることになったけど、国際的に販売する以上、面倒ごとが色々発生する。
それで、アクティスが王都の大店商人のシュライバーさんを紹介してくれた。
「はじめまして、トオル嬢」
えっ?
ボクに『嬢』が付いたよ。
一瞬、何でって思ったけど侯爵家の養女になったからか。
シュライバーさんは、エネルギッシュな感じが溢れるオバサンだった。
やっぱり、仕事をするには身体が資本。それを大きく再認識させてくれる。
「販売展開は私の方で考えます。お互い得意なところで頑張りましょう!」
つまり、ボクは薬の製造だけに専念して、販売の方はシュライバーさんが全部請け負ってくれるってことだ。
流れとしては、シュライバーさんがボクから薬を買い付けて、シュライバーさんが世界各国の大店商人達に販売する。
これは本気で有難い。
紹介してくれたアクティスにも、今日は凄く感謝しているよ!
「それと、アダンの営業所でトオル嬢と同年代の子が働いておりまして、その子をトオル嬢の直接窓口にしようと思います。年代が近ければ話しやすいと思いますので」
「ご配慮いただき有難うございます」
「アリアって子なんですけどね」
えっ?
そうだったんだ!
これが、今日、一番驚いたことかもしれない。
ボクは、早速、ガンガン薬を作り始めた。他国に販売する分も、ドロセラ王国内の流通分も急いで用意をしないとならないからだ。
お陰で、店の中は薬の箱だらけになった。
商品として提供するのは、風邪薬、鎮痛剤(飲み薬と塗り薬)、下痢止め、便秘薬、水虫の薬(液剤)、湿疹・かぶれ等のクリーム剤、滋養強壮剤、それからED薬に遅くなる薬などなど……。
製造の方は大変じゃないかって?
たしかに初期製造は大変だったけど、その辺は、随分要領を掴んできたよ。
どうやるかって?
例えば、風邪薬、鎮痛剤、便秘薬の錠剤だったら、薬の有効成分の構造式を思い浮かべた後、それを錠剤にしてビンに入れた状態を考える。風邪薬と鎮痛剤だったら20錠、便秘薬だったら60錠入りのビンでね。
さらに、そのビンが10×10で100本入った木箱を想像して、さらに、その木箱が10段重ねになったのを考えると、一瞬で千本の商品が出てくる。
それを一分間繰り返すと、1万本以上出せるし、二時間も集中すれば百万本以上出せる。
初日と二日目で、風邪薬、鎮痛剤、便秘薬の錠剤三商品を各々計2百万本ずつ製造。店に置き切れない分は、一旦アイテムボックスに収納した。
三日目と四日目で他の商品。
これで1サイクル。
ボクは、合計9サイクルの計36日間、製造作業を続けた。
人口は諸事情から全世界で5千万人程度まで落ち込んだ世界だからね。薬を使わない人もいるし、これで大体賄えると思う。
販売が開始されたら、在庫からの減りを見て追加製造して行くつもりだ。
製造も一段落ついた。
あとは各国への搬送開始を待つだけだ。
この日、ボクはお城に招待された。しかも、うっすら化粧をして、綺麗なドレスを着せられていた。
心が男だけに、随分と違和感がある。
実は、この日はアクティスとの婚約発表会だったんだ。まあ、女神様の端末からの回答も参考にして、結果的にボクが受け入れちゃったんだけどね。
つまり、アクティスのファンとか、アクティスの婚約者の座を狙っていた世界中のご令嬢達から敵認定される恐るべき記念日。
「トオル。今日は一段と綺麗だ」
「あ……有難う」
「トオルの前だと、何もかも霞んでしまうよ」
おいおい、アクティスって、そんな歯の浮くような台詞を言うヤツだったっけ?
多分、誰かの入れ知恵だろうな。
それにしても、なんだか今日は、アクティスからのスキンシップがやたらと多い。
最初に出会った頃の、単なる学問仲間だったら、多分、このスキンシップも気にならなかっただろう。
あの時は、ボクは身体が女性であることを意識してなかったし、本当にアクティスとは男同士のつもりで接していたんだ。
でも、マイトナー侯爵を通して言っておいたとおり、婚前交渉は無しだからね。
それに、女神様の端末からの答えでは、ボクはアクティスと結婚するには至らないはず。どこかで破局する。
だからアクティスとは何もしないで終わるはずだよ、きっと。




