13:人生相談してくれるって知らなかったよ!
まだ、アクティスは眠りこけている。
きっと最高の気分なんだろうな。もっとも、ボクを襲ったって罪悪感が無ければの話だけどね。作られた記憶とは言えさ……。
「ガチャッ!」
部屋の扉が開いて、アクティスの付き人の一人が部屋の中に入ってきた。多分、彼女は、ボクとアクティスが既に事後と勘違いしているはずだ。
ボクは彼女に、
「あの、服をください。切られてしまいましたので」
と悲しげな声を作って言った。
飽くまでもアクティスに奪われた演出だからね。
勿論、アクティスが罪悪感で潰れそうになるようだったら事実を話すけどさ。あれは夢だったってね。
付き人が無言でボクに服を渡してくれた。
ボクは、それを着るとアクティスの従者の転移魔法で店に帰らせてもらった。
翌日、ボクの店に沢山の人達が挨拶に来た。勲章授与の話を聞きつけてお祝いの言葉をわざわざ言いに来てくれたんだ。
「トオル凄い!」
「オメデトウ!」
「アダンの誇りです!」
「埃だね!」
なんか一人、変なことを言った気がするけど……。
アリアにミサ、薬屋の美魔女達、それからギルド長とかも来てくれた。
前世よりも、今の方が人との接触が多いな。
いや、触れ合いと言うべきかな?
それから二週間が過ぎた。
勲章授与式の日以来、アクティスは、全然ボクの前に姿を現さなかった。あれだけボクの店に入り浸っていた彼だけど、さすがにボクと顔を合わせ難いのかな?
ただ、この日は、
「トオルちゃん、いるかな?」
マイトナー侯爵がボクの店に訪れた。ボクの呼び名も、何時の間にか『トオルちゃん』に変わっていた。
別にマイトナー侯爵だからイイけどね。
これがバイルシュタイン子爵だったら、何か企みがあるって思うけどさ。
「いらっしゃい」
「この間の件、改めてお祝いを言わせてもらうわ。おめでとう」
ええと、それって勲章をもらったことに対してだよね?
少なくともアクティスとの件でおめでとうじゃないよね?
もし、そうだとしたら誤解だって言いたいけどさ。
一先ず、お礼を言っておこう。
「有難うございます」
「それで、今日はね。トオルちゃんを養女に迎えたくて来たのよ」
「侯爵家にですか?」
「ええ。トオルちゃんの功績を考えたら別に不思議じゃないことだけどね。ただ、先に言っておくけど、侯爵家の人間になるってことは、王家に嫁ぐ可能性も出てくるわ」
ゲッ!
これって、もしかしてアクティスの差し金かな?
詰んだかな、ボク。
「王子の依頼でしょうか?」
「何もかも御見通しってことかしら?」
「そう言うわけではありませんけど」
「まあ、大体トオルちゃんが想像しているとおりよ。トオルちゃんは、アクティス王子とは仲が宜しいみたいだし、当人同士については心配していないんだけどね。ただ、外野が色々言い出す可能性はあるわね」
まあ、イケメンで王太子だし、狙っている女性は沢山いるよね。
だけど、ボクは中味が男だし、アクティスと結婚したいとは思っていないけどさ。
友達でいてもらえるのは凄く嬉しいんだけどね。
それに、仮にボクの中味が女性だったとしても、アクティスと婚姻関係を結ぶのは宜しくない気がする。
何故って、世継ぎを生まなくちゃならないからだ。
実は、それも懸念している。
「多分、ボクは王子に嫁ぐ資格はありません」
「えっ? どうして?」
「子を宿せない身体かも知れないからです」
「何を根拠に?」
うーん。
完全な根拠があるってわけじゃないんだけどさ。
この身体は、ボクが理想とする二次元美女。
目が大きくて小顔。
ウエストが細くて首もちょっと長くて脚長で巨乳。
さらに下の毛無しだけど、実は、ボクが求めていた二次元美女は、それだけじゃない。
先ず男性経験が無いこと。自分だけのモノであること。
まあ、それはみんな、容易に想像ついただろうね、うん。年齢イコール彼女いない暦の寂しい野郎の妄想として受け止めてくれよ。
ただ、もう一つ勝手に思っていたことがある。
ボクは、妄想の世界では当然、中に出す。大抵の男共も、そうかもしれないけどね。でも、妊娠されちゃ困る。
随分、自分勝手な妄想だけどさ。でも、もし、その妄想がこの身体に反映していると、ボクは基本的に妊娠しないことになる。
さすがに、こんなことは侯爵様には言えないけどね。妄想が現実化している可能性があるからなんですって言っても笑われるだけだよ。
もしくは目が点になるか。
では、理由をでっち上げますか。
「薬を作り出す能力を授かったからです。その能力と引き換えに、子を宿せない身体になっている可能性があります」
「でも、やってみなきゃ分からないでしょ? それに、もう子を宿しているかもしれないじゃない?」
「えっ?」
「アクティス王子からは、責任を取るって聞いているわよ」
ちょっと待て!
あの男、言ったのかよ!
まあ、付き人は事後だって誤解しているしね。遅かれ早かれ漏れる話だよね、きっと。
それにしても、責任を取るか……。
アクティスらしいな。ホントに真面目なヤツだよ。ボクが中味も女性だったら、異性として好きになっていたかもしれないね。
「少し考えさせてください」
「良い返事を期待したいけどね」
「余り期待しないでください。ボクは、ボクの薬を世界中に販売できるようにしたいんです。それが最優先です。それに、貴族の仕事も王族の仕事もできません」
「別に、養女になっても薬を作り出すことに集中していてもらって良いんだけどね。このお店もたたむ必要は無いし」
「お気遣い有難うございます」
「お世継ぎだって、いきなりこんなこと言って失礼だけど、どうしてもトオルちゃんに子ができないようなら、最悪の場合は側室を迎えるのも一つの方法よ」
うーん。
だったら、その女性を正室にして、ボクは単なるお友達でイイんだけどな。
勿論、人間としてのお友達ね。
Hな意味でのお友達じゃないよ!
「じゃあ、また一週間後にくるわね」
「はい」
マイトナー侯爵は、ここで引き上げてくれた。
本当にイイ人なんだよね。ムリに叩き込むような説得をしに来たわけじゃないし。苦労する中間管理職って感じかな?
どうしようかな?
女神様からもらった端末に聞いてみようかな?
本当は自分で決めなきゃいけないのを、例の端末に責任転嫁するみたいになっちゃうけどね。
それ以前に回答してくれるかどうか分からないけど。
一先ずボクは、例の端末を開いた。
『Q:マイトナー侯爵の養女になるべき?』
『A:なるべき』
おお!
回答が来た。まるで人生相談までしてくれるみたい。
『Q:理由は?』
『A:一番の理由は薬の販売展開網拡大に有利』
たしかに、一般市民より侯爵家の娘の方が、一般には話が通りやすいかもね。
『Q:一番の理由ってことは、まだ理由があるってこと?』
『A:ある』
『Q:二番目の理由は?』
『A:バイルシュタイン子爵等が完全に手を出せなくなる』
何っ?
あの女、まだボクの店を狙ってるのか?
懲りないヤツだな。たしかに、本人は、この町にしばらく出禁状態のはずだけど、アイツの部下に来させることは可能だもんね。
たしかに、ああ言う人間を追い払うには侯爵家の養女になるのはアリだね!
それにしても、『子爵』じゃなくて『子爵等』って出たってことは、他にも狙っている輩がいるってことだね。
『Q:三番目の理由は?』
『A:無い』
『Q:アクティス王子に嫁ぐことになる?』
『A:ならない』
あれっ?
その点は大丈夫ってことか。なら、マイトナー侯爵の申し出を断る理由は無いってことだよね?
うん、だったら前向きに検討することにしよう。




