12:現世のボクって女性だったんだっけ?
ボクが王都から戻った数日後のことだった。
その日、ボクの店にアリアとミサが来ていた。
「あれから例の子爵は来てる?」
「来てないよ。平和になった」
「一週間も休業したじゃない?」
「そうそう。あの子爵が何かやって、このお店がつぶれたんじゃないかって心配していたんだよ!」
「ゴメンゴメン。ちょっと、王都に行くことになってさ」
「王都?」
「うん。高熱の出る病気が流行って、それで呼ばれてね」
「良く効く薬で有名だからね!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。王都の方は、まだ完全に流行り病が終息したわけじゃないけど、随分と病人も減ってきたよ。それで、薬だけ置いて戻ってきたんだ」
インフルエンザ治療薬の配布は、お城から手伝いに来てくれていた人達が引継いでくれた。もう少し配布場所での作業が続くだろう。
マイトナー侯爵の従者が、毎日夕方に転移魔法でボクのところに来てインフルエンザの状況を教えてくれることになっている。
それから、薬の在庫量も従者には確認してもらうことにした。そして、欠品する前に、ボクは従者に薬を渡すようにする。
欠品したら困るからね。
「トオルの店って、ここでイイのかな?」
聞き覚えのある男性の声がした。
それもそのはず、その男性はアクティス王子だった。部下に転移魔法を使う者がいて、その者に連れてきてもらったらしい。
そして、彼はボクと目が合うと、放った言葉は、
「この世界も地球と同じだったよ!」
だった。
自分の天体観測記録が地動説で考えた方がすっきりすることを確信したようだ。
突然のイケメンの訪問に、アリアもミサも目が点になっていた。
町にいる種馬ブサメンとは顔も身体も造りが違う。とても、同じ種類の生物には思えないよね? それくらいの格差があるもん。
「ねえ、トオル。この男性って?」
「前にミサが噂していた人だよ。イケメンだって」
「えっ? そんなことあったっけ?」
「アクティス王子だよ」
「えぇー!? じゃあ、この人があの『童貞』の?」
おいおい、それを言っちゃいけないよ。
こう言われて、アクティス王子が苦笑している。ゴメンね王子。思ったことが、すぐに口に出ちゃう友人で。
この日、アクティス王子は、太陽系の話を改めて聞きたかったらしい。
でも、アリアとミサがいたので遠慮して挨拶だけして帰っていった。
第三者視点では、
『童貞!』
と言われて傷ついて帰ったようにも見えたけどね……。
ただ、それ以降、三日に一度はアクティス王子がボクの店に来る。転移魔法を使う部下に、いつも送り迎えさせているようだ。
アリアとミサとブッキングした時は遠慮するみたいだけど、それ以外の日は、ボクと何時間も話し込む感じになっていた。
勿論、会話の内容は科学的なことが中心。
それで、ボクは地球にいた頃、似たような思考回路を持つ連中と話をしていたような感覚で楽しく議論させてもらっていた。
話していて楽しいし、ボクは同類の友人ができたと思って本気で喜んでいた。
でも、アクティス王子は、こんなにちょくちょくボクの店に入り浸っていてイイのかな?
彼は王太子殿下だしね。国としての仕事もあるはずなんだけど……。
ただ、イケメンが出入りする店ってことで、見物客が増えた。見るだけじゃなくて薬を買って欲しいんだけどね。
それから、アクティス王子の周りの人達は、誰も地動説を受け入れてくれないらしい。そりゃそうだよね。ピンとこないもん。
それで、アクティス王子は、
「なんで、みんな理解できないんだ?」
って、ぼやいていたんだけど、そこは仕方が無いよ、多分。
天体と言えば、アクティス王子にお城に呼ばれて天体観測もしたっけ。そうしたら、次の日にルビダス姫とベリル姫がボクの店に遊びに来て、
「兄のこと、ヘタレだけど、よろしくお願いします!」
なんて二人して言っていたけど、あれって、どう言う意味だったんだろ?
まあ、イイか。
それにしても、なんだかんだで、この王族兄妹とは交流が深くなっていった気がする。
それから数ヶ月が過ぎた。
インフルエンザは完全に終息。
暖かくなったし、ボクの薬のお陰と言うよりも時期的なものだと思う。
でも、女王様やマイトナー侯爵は、ボクの薬のお陰って思っているっぽい。それで、その功績を称えるってことで改めてお城に招待された。
勲章が授与されるらしい。
大袈裟な気もするけど、それだけ王都では大変だったってことだよね。ボクが薬を提供する前は、それ相当に死者も出ていたって話だから。
また、インフルエンザの一件で、ボクの薬は、ますます世界中から注目されるようになった。わざわざボクの店があるアダン町まで他の大陸から薬を買いに来る人も出てきた。
勿論、転移魔法を使ってだけどね。
勲章授与式が終わると、ボクはアクティス王子の自室に通された。
部屋の隅には付き人が二名。
まあ、王子と平民を二人きりにして、王子に万が一のことがあったら大変だからね。
とりあえず、喉が渇いたんで出されたお茶を一杯、ボクは飲み干した。
うーん、とても生き返る。
アクティス王子としても、本当は第三者の視線なんか気にしないでイイ場所で、気兼ねなく宇宙の話とかしたいんだろうな。
ただ、色々と宇宙の話を掘り下げるためには、本当は物理の知識も必要になってくるんだよね。実は、ボクは物理が余り得意じゃないんだけどさ。
話をしている途中で、ボクは急に身体がダルくなってきた。
なんか、身体に力が入らない。
「おい、トオル。大丈夫か?」
アクティス王子が心配してくれている。でも、ボクは、声を出すのも面倒なくらいダルくて何も答えられなかった。
「ここは一旦、アクティス様のベッドに寝かせた方がよろしいのでは?」
アクティス王子は、付き人の片方にそう言われて、ボクをお姫様抱っこしてベッドまで運んでくれた。
そう言えば、お姫様抱っこされるのは生まれて初めてだな。まさかボクが、こんなことを経験するとはね。
「あと、呼吸がしやすいように、楽にしてあげた方が良いですね」
そう言うと、もう片方の付き人がナイフでボクの服を切って脱がせた。
何でそんなことするのさ?
もう、この服、着られないじゃないか!
裸で帰れって言うの?
ただ、事態はさらにヒドイ方向に動いていった。付き人二人は、
「アクティス様。失礼ですが、これはチャンスです。私どもは外に出ておりますので」
そう言うと部屋から出て行ったんだ。アクティス王子にボクをヤッちゃえって、けしかけて行ったんだ。
何となく分かってきた。
これは、相手の動きを封じる魔法だ。ボクも使えるけどショボくてね。動きを止められるのは蟻一匹程度だったよ。
どうやら、この世界では珍しい魔法で、使える人は殆どいないみたいだけど、多分、あの付き人のどちらかが使えるんだろう。
ただ、アクティス王子は本気で心配していたから、多分、付き人とはグルじゃないと思う。付き人が勝手にやったことだ。
だけど、主人思いのイイ付き人だ。こんなお膳立てをするなんて。ボクはベッドの上で、全裸で動けない状態だよ。
アクティス王子が服を脱ぎ始めた。
「俺は、初めて会ったあの日から、トオルのことを尊敬しているし、誰よりもオマエのことが好きだ。俺だけのものになって欲しい。この気持ちに嘘偽りは無い」
そして、アクティス王子はボクの前で全裸になったんだ。
今のボクは、女性の身体。しかも、ボク自身が理想としていた二次元美女。
ボクと似たような思考回路を持つアクティス王子が、この容姿に惹かれてもおかしくない。ボクは、やっとそのことに気が付いた。
それに、理系ヲタクとして話も合うしね。
ゴメンね、王子。辛かっただろうね。
一応、ボクは君のことを嫌いにはならないよ。
友人としては好きだし。
でも、ヤラせるわけには行かない。
ところが、アクティス王子は、そこで動きが止まってしまった。こんな方法でヤルのに抵抗があるのかも知れないね。
それともヤリ方が分からないのかな? 未経験者だし。
でも、ヤラなきゃヤラないで、お膳立てしてくれた付き人に陰で馬鹿にされそう。
じゃあ、夢を見せてあげますか。
アクティス王子には話していなかったけど、ボクだって、薬を出す以外の魔法が使える。
「(眠れ!)」
先ずボクは、心の中で、そう強く唱えた。バイルシュタイン子爵に使ったのと同じ魔法だね。すると、次の瞬間、アクティス王子はベッドに倒れこんで眠ってしまった。
次に反射魔法。これは、第三者がボクにかけてきた魔法を跳ね返す力だ。
今まで使う機会がなかったので初めて使ったけど、多分、巧くいった。これで、ボクは身体が動かせるようになったからね。
今頃、ボクの動きを封じた方の付き人は動けなくなっているはずだよ。
それからボクは、夢を見せる魔法で王子がボクと一つになった夢を見させてあげることにした。記憶改ざんだけど、ヤッたことになっていれば、陰で付き人に馬鹿にされないよね?
思い切り都合の良い夢を見てくれ!
早速、アクティスのヤツ、嬉しそうな顔をして。
その気持ちが分かるだけに、真実じゃないのが凄く申し訳ない。
夢の世界だけで我慢してくれ!
それから、この時からボクは、心の中で彼のことをアクティス王子ではなくアクティスと呼ぶことにした。
付き人のせいだけどさ、こんなことされかけたんだもん。それくらいイイよね?
アクティスのナニは、最高状態まで肥大化している。
しかも、結構……いや、かなりデカイ。
イケメン巨根か。本当に羨ましいヤツめ!
ボクは、女神様にもらったペンダントで小瓶と筆を出した。そして、ショボい転移魔法でアクティスの血液を1ccほど小瓶に転送した。
自分の血液を出すなんてもったいないからね。アクティスのでイイよね、うん。
その血液を、筆でアクティスの身体の大事なところとかシーツに薄く塗った。ボクの初めてを奪ったように見せかけるための演出だ。
きっと、アクティスもその方が嬉しいよね?
それから少しして、
「中に、たっぷり出すからな。最後の一滴まで」
アクティスが寝言を漏らした。ホント、エロ漫画で出てきそうな台詞だなぁ。どこで覚えたんだ、そんな言葉。
彼には絶頂を向かえた後、そのままボクを抱きしめて寝落ちした夢でも見てもらおう。
それからボクは、部屋の隅で毛布に包まって座り込んだ。
ベッドの上は危険だからだ。万が一、アクティスが目を覚ましたら、今度こそアクティスと一つになってしまうだろう。
もし、ボクの心が男でなくなったら、アクティスのことを受け入れるかも知れないけど、今はダメ。
それで、アクティスと物理的距離を取ったんだ。
別に密だとか言うわけじゃないからね。ソーシャルディスタンスとか関係ないからね!
それに、現実には、まだセーフだからね!




