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10:女王陛下が相手じゃ仕方ないよね?

 お城に到着。

 ちなみに、お城には結界が張られていて、転移魔法で直接城内に入れるのは登録された者だけに限られるらしい。


 それ以外の者でも、登録者の同伴があれば可能だけど。

 今回はマイトナー侯爵と一緒だったので、ボクは転移魔法で直接入城することが出来たようだ。



 城内にはマスクをしている人は一人もいなかった。

 そもそもウイルス性疾患なんて考えは無いし、マスクで予防するなんて発想もないからね。


 ボクは、女神様にもらった便利なペンダントを使って、ショルダーバッグの中に大量のマスクを出した。

 そして、あたかもバッグの中に大量のマスクを入れて家から持ってきた振りをして、ボクは城内の人達に配ることにした。


「この病気は伝染性です。マスクを付けることで感染リスクは下がります。ベリル姫の症状が良くなるまでは付けていてください」


 みんな半信半疑な顔をしていたけどね。まあ、仕方が無いか。

 でも、一応付けてくれたから良しとしよう。



 ベリル姫の部屋に通された。

 部屋の中が病人臭い。


 ベッドで寝ているのがベリル姫だね。

 たしかに端末からの回答どおり、大変カワイイお顔をしている。

 ボクの想像とか期待を裏切らないでくれて有難う。


 ボクは能力を使ってオセルタミビル・リン酸塩の錠剤を作り出すと、

「急いでベリル姫に飲ませてください」

 と侍女に指示した。


「発熱は何時からですか?」

「昨日の夕方からです」

「一先ず、ベリル姫の分として十日分処方しておきます」


 そう言って、さらにボクは侍女に薬を渡した。

 お願いだから、キチンと服用させてよね!



 でも、お姫様だけ救えば良いってわけじゃないよね?

「侯爵様。これは伝染病ですので、念のため城内の方々の分、一先ず50人分を出しておきます。足りなければ、後で追加します」

「助かるわ」

「それから、城外に出ましょう。一般市民にも薬を配らないと」

「でも、そんなに数はあるのかしら?」

「大丈夫です」

「分かったわ。じゃあ……」


 マイトナー侯爵は、従者に指示して、ボクとマイトナー侯爵を城外に移動させた。

 転移魔法って、やっぱり便利だね。



 とにかくボクは、バッグの中から出す振りをして、大量のインフルエンザ治療薬を人々に配って行った。

 勿論、無償だ。


 正直言うと、配る方にばかり気を取られていて、お金を取ることをすっかり忘れていた。

 でも、お金を取ったら買えない人も出てくるだろう。多分、無償配布で正解だ。


 侯爵も気付いているだろう。既に、バッグの容量を遥かに超える薬が出ていることをね。

 その前にマスクも沢山出しているしさ。

 どう考えても不自然だよ。


 でも、侯爵は、そのことについて何も触れてこなかった。

 気付かない振りをしてくれているんだろうな。優しい人だよ、うん。



 念のためボクは、一週間、王都レギアに泊まった。

 マイトナー侯爵が宿を手配してくれたんだ。


 それから、薬を配るための配布場所も王室の方で用意してくれた。

 長蛇の列ができたのは最初だけだったけど、その後も日中は数分おきに人が来た。



 夜中に『急に熱が上がった』って言って薬をもらいに来る人もたまにいるから、お城から手伝ってくれる人を数名派遣してもらった。

 緊急事態と言うことで、その人達とボクで三交代制のシフトを組んで二十四時間対応することにしたんだ。


 地球人よりも、この世界の人の方がインフルエンザに弱いってことだからね。

 朝まで待たせたくなかったんだ。


 それと、検査無しで薬を出しちゃったけど、ここは地球じゃないから勘弁してよね。

 検査キットも無いしさ。



 空いた時間で、ボクは女神様の端末で少し質問した。

『Q:王都以外でインフルエンザが発症しているところはある?』

『A:無い』


『Q:何故、王都から広まらない?』

『A:各都市が大きく離れているから』


 そう言えば、ボクがこの世界に来た時、何も無い道のド真中に下ろされたんだっけ。

 町からは遠くて。


 まあ、人口が少ないから、この世界では町が隣接する方が珍しいみたい。

 ある意味、町同士が隔離されているようなものか。


『Q:何故、王都で発症した?』

『A:ノーコメント』


 珍しいな。回答してもらえない。


『Q:感染源は?』

『A:ノーコメント』


 まただ。

 女神様も、これ以上は突っ込んで欲しくないのかもね。


 でも、王都に来る前に女神様の端末からもらった回答どおりなんだろうね。

 確実に薬が効いたみたい。その後、王都ではインフルエンザに起因する死者は一人も出なかったらしい。


 地球よりも効果が高く、しかも副作用が全然出なかったみたいだね。

 随分都合がイイ話のような気がするけど……。



 まだ完全に沈静化したわけじゃないけど、人々は随分安心したようだ。

 この薬を飲めば死なないってね。



 そして、王都に来て一週間後に、ボクは改めてお城に呼び出された。

 女王陛下のご指名だ。


 配布場所は、お城から手伝いに来てくれた人に任せて、ボクはマイトナー侯爵に連れられてお城に向かった。

 って言っても、侯爵の従者の転移魔法で、移動時間は一瞬だったけどね。


 ボクは早速、女王陛下の前に通された。マイトナー侯爵がボクに同行してくれている。

 玉座に座る女王陛下の両脇に青年が一人と少女が二人立っていた。少女の片方は、この間、インフルエンザにかかっていたベリル姫だ。


 ウッドワード王家のことは、予め端末で調べておいた。

 ベリル姫は14歳。

 その二歳年上のルビダス姫。

 そして、王太子である17歳のアクティス王子。ボクと同い年。


 ベリル姫の隣にいるのが多分ルビダス姫だね。彼女も綺麗だ。

 ただ、ツリ目で流行りの悪役令嬢に見えるよ。ここでは悪役王女かな?

 まあ、内面は違うって話だけどね。


 それから、アクティス王子は、たしかにミサが言っていたとおりイケメンだね。

 正直、ボクが嫉妬するレベルだ。


 って言うか、ボクがなりたかった理想の姿に相当近い。これで巨根だったら完璧だ!

 羨ましいヤツめ。


 でも未経験者なんだっけ。

 この容姿で、それは、ちょっと可哀想な気がする。



 ボクは、

「この度は、フルオリーネ・ウッドワード女王陛下に謁見のお時間をいただき、大変光栄に……」

 と女王陛下に挨拶し始めた。


 ところが、そんなボクの定型的な言葉を遮って、

「そんな堅苦しいこと、抜き抜き! こっちこそ、娘だけじゃなくて王都の人々も救ってもらって本当に感謝してるんだから!」

 って女王陛下が笑顔でボクに言ってきた。

 本当に嬉しそうだ。それにフランクだね。


 ベリル姫も、

「本当に助けていただき有難うございました。心より感謝しています」

 と言いながらボクに深々と頭を下げていた。


 そんな、お礼なんていらないのに。

 ボクは、カワイイ娘が死ななかっただけで十分だよ。



「王都民の分も含めて、薬代は全て国が負担するわ。おいくらかしら?」

 女王陛下からこう言われてボクは迷った。


 あの時は無償配布のつもりでいたんだけど、普通に考えたら、あれだけの薬を全て一人の薬屋が負担したら店がつぶれる。

 常識的に有償であるべきなんだろうな。

 さて、いくらにしよう?


「凄く高価な薬なんでしょ? 金貨1,000枚じゃ安いかしら?」

「そんなに必要ありません。一人あたり銀貨2枚として、2500人くらいでしたから金貨50枚くらいが妥当かと」

「それで利益は出るの?」

「別に、ぼろ儲けをしようとか思っておりませんので」

「安い分には、国としても助かるけどね。でも、そんなに良く効く薬を、どこで知ったの? それから、そんなに沢山の薬を、どうやって調達したの?」


 うん。くると思った。

 マイトナー侯爵が敢えてボクに聞いてこなかったことを、女王陛下が聞いてきたよ。

 まあ、誰でもそう思うよね、普通は。



 実を言うと、ボクは予め女神様の端末で女王陛下に魔法のこととか地球への研究出向のこととかをバラしても良いか確認しておいたんだ。

 答えはOKだった。


 と言うか、誤魔化しようがないもんね。

 ボクは、女王陛下に説明することにした。


「ここに居る皆様だけの胸に収める形にしてください」

「内密にってことね。秘密は守るわ」

「有難うございます。信じられないかもしれませんが、ボクは女神様の手によって、この世界とは違う世界に派遣されました。その世界は、この世界よりも科学が発達していて、色々な病気の薬が存在しています。また、ボクは、その世界で勉強してきた薬を作り出す魔法を女神様に与えられました。それで、今回の薬が出せたわけです」


 こんなことを地球で言われたら、絶対に中二病扱いだよね?

 でも、女王陛下は怪訝な表情を見せずにいてくれたよ。一応、異世界研究出向って制度の存在を受け入れてくれたみたいだね。


「じゃあ、その世界にも今回のと同じ病気があるってこと?」

「はい。病原体の特定もされています。でも、その世界で完成していない薬は、ボクには出すことができません。例えば、若返りの薬とか、不老不死の薬とか、生き返る薬とか、怪我が一瞬で治る薬とかは作れません」

「完璧では無いってことね?」

「はい、済みません」

「それは別にイイのよ。それでね、ちょっと気になったんだけど、男性の薬を売っているって情報があるんだけど、それって何かしら?」


 もしかして、そっちに興味があるってこと?

 やっと、使ってくれる人一号が誕生するかも。

 使ってくれると有り難いけど……。


「ズバリ、勃たせる薬です!」

「精力剤かなんかかしら?」

「男性器の血の巡りを良くする薬と思っていただいた方が良いと思います」

「うーん、今一つピンと来ないけど。それを貰えるかしら?」


 そりゃあ、メカニズムが分からないと理解できないよね。

 でも、試してくれるんだ。感謝しよう。


「分かりました」

「それとね、最近、私のお抱えの男子が早くてね。それを治療する薬なんてあるのかしらと思ってね」

「一応、あります」

「ホント!?」

「はい。では、少々お待ちください」


 ボクは、タダラフィルとダポキセチンの構造式を頭の中で描いた。

 タダラフィルがED治療薬の長時間バージョン。ダポキセチンがセロトニン再取り込み阻害剤ってヤツで遅くなる薬ね。


 すると、空中に薬ビンが二つ現れた。さすがに、これには女王陛下もマイトナー侯爵も驚いていた。

 そして、ボクは、これらの薬ビンをキャッチすると女王陛下に差し出した。


「赤いビンに勃たせる薬、青いビンに遅くする薬が入っています。とり急ぎ、勃たせる薬を5錠、遅くする薬を10錠作りました。どちらも一回1錠で、空腹時の服薬の方が、高い効果が得られます」

「助かるわ!」

「それから、勃たせる薬は二日に一回以下、遅くする薬は一日一回以下の服用としてください。特に勃たせる薬は二日間効果が持続しますので、それで十分ですから」

「分かったわ。じゃあ誰か、早速、リチアを呼んできて!」

 女王陛下が囲っている男はリチアと言うのか。



 少しして、謁見室に一人の男性が入ってきた。この男性がリチアだね。

 年齢は40歳くらいかな?


 たしかに男の目から見ても結構なイケメンだね。ボクは、身体は女性だけど心は男のままだから、ボクの目は男の目なんだよ!

 彼が父親なら、王子様もお姫様も美形になっておかしくない。


「じゃあ、これを」


 早速、女王陛下はリチアにタダラフィルとダポキセチンを飲ませた。

 まだ昼間だけど、女王陛下はヤル気マンマンらしい。


 ちなみに、これから間もなく女王陛下は御懐妊される……ことになる。

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