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1:もしかして巻き添えで死んだの?

「今日もダメだったか……」

 この時、ボクは溜め息を吐きながら、一人、トボトボと歩いていた。


 ボクの名は有馬透(ありまとおる)

 某大学大学院薬学研究科の修士課程2年生で専攻は化学。有機合成の研究を行っていた。


 高校卒業後、一年間の浪人生活を経て大学に進学。

 年齢イコール彼女いない暦の25歳男子。背はちょっと低めで痩せ型。

 30歳まであと5年。

 このまま魔法使いになるのだけは何とか避けたい。



 構造式とか薬の合成法とかを覚えるのが好きで、教授や先輩達からは勉強家と言われる。

 でも、正直、同年代の一般女性達と話が合うわけが無い。


 それ以前に女性と何を話して良いのか分からない。

 何かを話しても、大抵、理屈っぽいとか暗いとか訳わかんないとか言われて引かれるのがオチだ。


 いや、同年代の野郎共が相手でも同じだ。

 独自の世界観を持った、いわゆる『変人』と呼ばれる特異な人間以外とは、話が合うはずがない。


 ボク自身、別に極悪人とは思っていないけど、普通の感性を持ち合わせていないのだろうな……と言うことだけは十分自覚している。

 多分、一般には別種の人類としか思ってもらえないだろう。



 今日も実験が巧く行かなかった。

 思い描いたとおりに化学反応が進行しない。

 それでボクは、落ち込みながら駅に向かっていた。


 しかも、今日はクリスマスイブ。

 ジングルベルならぬシングルベルで、クリスマスじゃなくて苦しみますだよね。

 ネタとしては、よくある話だけどさ……。


 今日は、身も心も寒い。

 シャツにジーパン、セーターを着込んでフード付きのコートを着用。

 防寒のためにフードは被る。


 加えて、この時期は少し髪を伸ばす。

 防寒の意味では多少はプラスになるだろうからね。


 さらにマフラーを身に付ける。

 これで身体の方の防寒はバッチリ……だと思う。

 でも、心の寒さは拭えない。



 突然、視界が真っ暗になった。

 そして、気が付くと何故かボクは宙に浮いていた。

 地上5メートルくらいの高さか?


 ふと地上を見ると、ボクの真下に女性一人と小柄な男性一人が倒れていた。

 ただ、女性の方は頭部が破損していて人間の形をしていなかった。頭蓋が粉々に砕けて四散していたんだ。


 男性の方はフードを被っていて頭がどうなっているのかは見えなかったけど、フードの下には血溜まりができていた。

 こっちも頭部はメチャクチャだろうね。

 さすがに生きていないね。

 ご愁傷様。



 でも、この男性の服、どこかで見た気がする……って、これ、ボクじゃない?

 それに何故、ボクは浮いている?

 ええと、この場合の『浮いている』は、人として浮いているではなくて、宙に浮いているの意味だからね。


 それは置いといて。

 もしかして、ボク、死んだのか?

 恐らく、この女性がビルから飛び降りて、それでもって運悪くボクがその下にいて、巻き添えを食らったんだろう。

 ってことは、この女性がボクを殺した犯人か?


 ちょっと待て。

 ボクは、童貞のまま死んだのか?

 魔法使いになるのは避けたかったけど、こう言う避け方はしたくなかった。



 その女性の死体から、魂が抜け出して宙に浮いてきた。

 割りとカワイイ顔をしている。

 おいおい、自殺してボクを巻き込むんだったら、せめて、その前にお詫びで一回くらいやらせて欲しかったよ!


 まあ、そんなことも考えたけど、それ以前に文句を言いたい。

 勝手にボクを殺すなよ。


 それで、ボクは、

「ちょっと君!」

 と声をかけたんだけど、その女性にはボクの声が届いていないみたいだった。

 そして、その女性はビルの屋上まで飛んで行くと、

「ちゃんと死ななきゃ」

 と呟いて、再び頭から飛び降りた。


 おいおい、もう死んでいるんだから自殺しても無意味でしょ?

 ボクは、そう思っていたけど、どうやら彼女自身は自分が死んでいると言う自覚が、まるっきり無いみたいだった。

 地上に激突すると、彼女は再びビルの屋上まで飛んで行き、再び飛び降り自殺を図る。これを延々と続けるのだ。

 こんな無限ループには入りたくないなぁ。



 ふと、周りを見回すと、浮遊霊と思わしき者達が沢山いた。この世に未練があって、まだ成仏できていないのだろう。

 ボク自身も未練がある。

 そもそも、年齢イコール彼女いない暦の25歳。

 現世に未練が無いはずが無いだろう!


 折角、浮遊霊になったのなら、女子更衣室を覗くとか、ヤリチン野郎に憑依して楽しむとか、AV男優に憑依するとか、チャレンジしたいことがいくつかある。

 この期に及んで自分でも最低なヤツだと思うけど……。


 ところが、ボクの身体は徐々に加速をつけながら上昇していた。

 もしかして、昇天するのか?

 未練があるのに、浮遊霊になれずに成仏すると言うことか?



 そして、気が付くとボクは長蛇の列に並んでいた。

 周りは爺さん婆さんが大半で、同年代と思われる者は殆どいない。

 多分、この先に閻魔様がいて天国行きが地獄行きかを決めるんだろうな。


 せめて来世では、今世の分も合わせてHなことを経験したいな……なんて思っていると、横から誰かが声をかけてきた。


「有馬透様ですね」

 割りとカワイイ声だ。


 ふと、声がしてきた方を振り返ると、中性的で美人顔のお方が、こっちを見ながら宙に浮いていた。

 白い服を着ている。

 ただ、性別は男性?

 それとも女性?

 胸は無いけど、男性にしては華奢過ぎるかも。


 そのお方の背中には白くて美しい翼が生えていた。

 御使いだろうか?

 そんなことを考えていると、そのお方が、

「ちなみに私には、性別と言うモノは存在しません」

 とボクに言ってきた。

 はい、そうですか。

 こっちの心が読めるってことでしょうね。


「有馬様には、この列ではなく別のところに行っていただきます」

 その御使いと思われるお方がボクの手を取ると、ボクの身体が自然と宙に浮いた。



 そして、次の瞬間、何故か死者達の行列が視界から消え、ボク好みの超絶美女が目の前に立っていた。

 多分、瞬間移動でもさせられて、この場に連れてこられたのだろう。


 その女性は、目が大きくて小顔のカワイイ系美人。栗色の長い髪に痩身巨乳。脚は服で隠れていて見えないけど、腰の位置から察するに脚長なのは間違いない。

 首も細くてちょっと長い。

 少なくとも目に見える部分は、まるで二次元世界から抜け出してきたような、完璧にボクの理想とする女性の姿だった。

 このままずっと眺めていたい。


 その美女は、さっきの御使いと同様、背中に白い翼を生やしていた。

「ええと、アナタは?」

「私の名前はフィリフォーリア。人間達が神と呼ぶ存在の一人です」


 ってことは女神様か。

 こんな綺麗な女神様に会えたこと自体は嬉しいね。うん。


「有馬透さんですね」

「はい」

「先に言っておきますと、私は、その御使いと同じで性別と言うものはありませんが、今はアナタの意識がこちらに向くように、アナタが理想とする姿をまとっています」


 つまり、わざわざボクのためだけに痩身巨乳美女の姿になっていると言うことか。

 ってことは女神様って呼ぶのは正しくないのかな?


 でも、まあ、ボク好みの姿になっていると言うことは、多分……いや、絶対に……、間違いなく、見えないところもボクの理想に合わせているってことだろうね。

 つまり……確実にアソコの毛は生えてない!

 見えないのは残念だけど。


 でも、考えようによっては、サービスの一環で目の保養をさせてくれているって取れるよね。今見える部分だけでも十分だよ。

 このお方のことを、ボクは女神様と呼ぶことにする。


「アナタには、異世界間転生制度に従って、地球が存在する宇宙とは別の宇宙の星、ネペンテスと呼ばれる世界に転生していただきます」

「はっ?」


 ネペンテスって、ウツボカズラの学名じゃなかったっけ?

 昔、食虫植物が趣味のヤツがいて聞いたことがある。ボクの周りには、そう言う変な野郎しかいなかったもんな。


 たしか、『ペンテス』が『憂い』の意味で、『ネ』が『No』を意味するとか。

 つまり、『憂い無し』ってこと。


 本当に憂いの無い世界だったら、転生先としては平和でイイよね。

 でも、そうは問屋が降ろさないんだろうな、きっと。

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