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マリー・パスファインダーの英知と決断  作者: 堂道形人
白銀の分岐点

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マカーティ「……グランクヴィスト! やっぱりあの野郎じゃねェか!!」ハロルド「これが……海賊のやり方ッ……!」

アナニエフが乗ったボートを体当たりで吹き飛ばしたシーオッタ号。

しかし敵はまだ多数(と、マリーは思っています)、味方の被害の程度も解りません。

さあ次はどうするマリー、いやフレデリク? え? まだ次には行けない?

「わははは!」「ざまぁ見やがれ!」


 甲板の男達が喝采を上げるが……私は笑う気になれなかった。次に起こる事は予想がついているのだ。


「ルードルフはここを頼む、カイヴァーン、戦闘海域を離れるよう指揮してくれ」

「どこ行くんだよ船長! 指揮なら船長がしろよ!」

「漕手甲板を見に行くだけだから。あの化け物()い上がって来るかもしれない」

「俺が行くから! 船長はルードルフの近くに居てくれ!」


 カイヴァーンはそう言って途中で剣と盾を取り、船体中央の昇降口から下層甲板へ向かう。


 私はもう一度銃を確認する。今度弾丸が返って来なかったらどうしよう……もう予備の弾は持ってないや。私がそんな事を考えていると。

 シーオッタ号の船首の波除板ブルワークを、巨大な手が外から掴む。なんだか巨大タコとの遭遇を思い出すわね。


「グワァハハハハハ!!」


 それ(・・)は一気に波除板の外から飛び上がり、甲板へと飛び込んで来た。刺青だらけで髭に導火線を編み込んだ怒りっぽい身長2mのギョロ目の、ずぶ濡れの大男……! ぎゃああああ!?


「今度こそその頭もぎ取ってくれるわァアア!!」


 しかし何かにつけて悲観的で後ろ向きな私は既に心の準備を終えていた。どうせアナニエフは無事で、また襲って来るだろうと思っていたのだ。


「ア……アナニエフ!?」「船長ー! 俺達どうすれば……」


 まずい、甲板員が動揺する……私はフォアマスト側の静索(シュラウド)を駆け上がりながら叫ぶ。


「こいつの相手は僕だ、皆は操船と他のボートに集中しろ!」


 はあああ!? 何言ってんだフレデリク助けを呼べよ! カイヴァーン早く戻って来てー! だ、だけどあんな大柄で重そうな奴なら、高い所は苦手では……


「ウラァァアア!!」


 アナニエフは静索に飛び乗り、さらに私が登っているフォアマストに飛びついて来る。嘘でしょ滅茶苦茶動き速いじゃん!!


 ふと……悪いフレデリクが、また何か思いついた。


「エッベ面舵5分、漕手はオール上げろ、ルードルフ他の敵の移乗を阻止、ヨーナスはスクエアを維持しろ!」


 私はそう怒鳴りながらフォアマストのトップへ、そこからマストと船体を繋ぐ強力なロープ、支索(ステイ)に足を掛ける。


―― ブゥゥン!!


 ヒエッ!? 目の前を錘つきのロープが通過した……錘はフォアトプスルの帆桁(ヤード)に引っ掛かるように巻きついた!


「覚悟だクソガキャァアア!!」


 アナニエフはそのロープと吊り綱(リフト)を巧みに掴みながらマストをゴリゴリ登って来る! そしてそんな事をするものだからシーオッタ号のフォアマストのヤードは揺れに揺れる!


「引っ張るなよ! 風が逃げるだろ! ヨーナス、甲板、ブレースをすぐに直せ! エッベ面舵もう5分!」


 私は支索(ステイ)の上を走り、メンマストに逃れる。いつもの魔法のズルの綱渡りである。振り向けばフォアマストを登りきったアナニエフが目を丸くしている。


「こォんの! ネズミみてェにチョロチョロと!! 決闘って言ったのはテメェだろうがァァアア!!」


―― ドォン!!


 私は右手で拳銃のように握った銃の引き金を雑に引く。ぎゃあああ痛い! アナニエフを狙うどころか反動で銃が飛んで行かないようにするのが精一杯だ。


「きたねェェエエ!! どこまで汚ェんだこのクソガキがァァア! 決闘の武器が銃だってんなら俺にも銃よこせこの野郎ォォオ!」

「何が決闘だ木偶の坊! ルードルフ右舷二時方向ボート二隻! 先に引き金を引いたのはお前らだろうが!!」

「あァア!? てめぇには関係無ェんだストーク野郎、これは俺様とフルベンゲンのカタツムリ共の問題だでしゃばるんじゃねェエ!!」

「よーし解ったじゃあ僕は手を引く、カイヴァーン!! そっちは済んだか!?」

「手を引くだァ……? 嘘つけこの野郎!! だいたい今さら手を引こうが何だろうが貴様だけは許さねェェ!」


 私は時間を稼ぎながら皆に指示する……ああ、でももう飛んで来そうですよ、カイヴァーン大丈夫かなあ、下から戻って来ないという事は、他にも何人か漕手甲板に侵入者が居たのかしら。

 それどころか、漕ぎ手の反乱とかだったらどうしよう……


「ウラァアアアア!!」


 こっちもそれどころじゃない、アナニエフはフォアマストに引っ掛けていた錘付きロープを外し、メンマストの帆桁(ヤード)に投げ掛けて……こっちに向かって飛んで来た! マストが、帆桁(ヤード)きしむ! 私は別の支索(ステイ)を踏み台に、さらに上の吊り綱(リフト)の上に飛び乗る……動索に乗ると水夫に怒られるんだよなあ、ほんとは。


 ともかく私はアナニエフより少し高い位置で銃身を握って構え、ロープを掴んで飛んで来るアナニエフの兜めがけ銃の台尻をスイングする。私の場合、撃つよりは叩く方が命中率が高いはずである。


―― パカーン!


 何だか軽い音がした。当たったわね。

 私はすぐ元の支索(ステイ)に飛び退く! もうアナニエフは目の前に居る、この男には足でも捕まれたら終わりだよ、アナニエフが……ギョロ目を見開いてこちらを見て、ニンマリと笑った!

 時間稼ぎもこれまでか。私はアナニエフになんとか銃口を向けようと、必死で銃身を手繰り寄せる……


 次の瞬間。


 アナニエフは白目を剥き、膝から崩れるように揺らめき、甲板へと落下を始めた……私は下に向かって叫ぶ!


「甲板注意ー!!」


―― ボウウン!


 10m近く墜落したアナニエフはメンマストの静索シュラウドに斜めに落ち、途中に引っ掛かって止まった。

 まずいよ! 私は急いでマストから飛び降りる!


「ぬおおっ!? フレデリク! そんな高さから飛び降りるなら一言言え!」


 甲板に飛び降りた私は駆け寄って来たルードルフと危うくぶつかりそうになった。私、ちゃんと甲板注意って言ったもん。いや、それどころじゃない!


「アナニエフ! おい起きろアナニエフ!」


 私は静索シュラウドに逆さに引っ掛かっているアナニエフの肩を揺さぶる。白目を剥いたまま泡を吹くアナニエフ……嘘でしょ!? 確かに私は私なりに全力で叩いたけど、それでこんな頑丈な男が倒れる訳ないでしょ!?


「船長……! うわっこいつ泡吹いてる……船長が()ったの?」


 そこへ剣と盾を持ったカイヴァーンも上がって来る……()ってません! 私じゃない、わた……だからそんな事考えてる場合じゃない!


「早く起こさないと、アナニエフが死んだと思われたらキャラックが撃って来るぞ! 起きろーアナニエフ!!」

「確かに、この男が乗り込んで来てからは大砲を撃って来なくなったな」

「漕手甲板に乗り込んで来た奴は全員海に還したけど、どうする船長」

「どうしよう……起きないなら何とか人形みたいに動かせないか」

「この男、吾輩が獲った極光鱒より重そうだぞ」


 そこへヨーナスがやって来て言う。


滑車(テークル)に引っ掛けてぶら下げちゃダメ?」



 私達はアナニエフの奥襟や腕にロープだの鎖だの巻き付け、それを貨物吊り上げ用の滑車(テークル)に引っ掛け、アナニエフを吊り上げて立たせる。

 ヨーナスは他の甲板員と共にアナニエフを吊り上げたロープを引っ張ったり離したりする……なるほど、アナニエフが甲板で暴れているように見える。


「吾輩も長く戦場に居るが、こういういくさは初めてであるな」


 カイヴァーンとルードルフは、アナニエフに挑んでは跳ね飛ばされる演技だ。


 漕ぎ手はまだ私達の指示通りにしてくれている。今は南に回った風に乗って帆走しつつ、ボートの追手に追いつかれない程度にゆったり漕いでいる。

 私は物陰に隠れて状況を見守っている。キャラック船の一隻はこちらと同様に北に向かいながらどんどん距離を詰めて来る。乗員が多いなあ……側面から接舷されたら一瞬で制圧されるかもしれない。真後ろから襲撃出来た前の接舷戦のようには行かないだろう。



 風下へと直進するシーオッタ号。ばれない程度に少し帆を絞っているので、次第にキャラック船がこちらに追いついて来る格好になる。その距離はもう100mを切っている。

 ああ、生きた心地がしない……キャラック船の大砲はいつでも撃てる状態を維持しているだろう。そしてその左舷砲列はこちらにピタリと狙いを合わせているのではないか。アナニエフが居なかったらとっくに撃たれてたろうな……先程までの単発の威嚇砲撃とは違う、破壊の為の片舷一斉射撃でだ。


 そろそろ覚悟を決めなきゃ。舵はどうしよう。自分で切るか? いやエッベに任せよう。力持ちの大人に手伝ってもらいながらも、よくやってくれている。


「全員、始めるぞ!! エッベ面舵15分、ヨーナスは左舷開き、漕手全速! 掌砲手は砲撃位置につけ! アナニエフ……もう休んでくれ」


 私が言い終わる前に、アナニエフはどさりと甲板に崩れ落ちる。

 シーオッタ号は急旋回し、船首をキャラック船の行く手に向けて行く。


 漕ぎ手達の本音はどうなんだろう。こんな危険な仕事に巻き込んだ私を恨んでいるかもなあ。この船が砲撃されてボロボロになっても、彼等は助かりますように。

 さあ。仲間達が少しでも助かるよう、私は自分に出来る事を全てやらなくてはいけない。それが、船長というものだ。


「全門押し出せ! 船体の真ん中を狙え!」


 ついさっきまでアナニエフの活躍に歓声をあげていたキャラック船は軽いパニック状態に陥っているように見えた。あの船はシーオッタ号に接舷して一気に乗っ取りアナニエフを迎え入れ、それから、反対舷に接近しているフォルコン号を叩こうとしていたのだと思う。

 フォルコン号、あと500mくらいかなあ。なんだかずいぶん久しぶりに見たような気もするけど、あの船を離れたのは昨日の事なのだ。

 結構やられたな、フォルコン号……船体も帆も穴だらけだ……ロイ爺やアレク、ウラドは大丈夫なのかな……アイリさん怪我なんかしてないかなあ。心配だ。


 私はキャラック船の船腹が正面に来るまで待ってから叫んだ。


「撃てー!!」

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マリー・パスファインダーの冒険と航海
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