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アイリ「マリーちゃん達、ちゃんと朝ご飯食べたかしら」ロイ「心配性じゃのう、アイリさんは」

フォルコン号とサイクロプス号を味方につけたグレイウルフ号だったが、その艦長のマカーティは覚悟を決めていた。フルベンゲンを守る義務を持つのは自分達であり、その為には犠牲が必要であると。

どうするマリー。この話は一人称に戻ります……

 私はこれまでの出来事を思い出していた。



   ◇◇◇



 ペッテルさんとマリーちゃん、それに負傷したぶち君は護衛つきのトナカイぞりでフルベンゲンに運んでもらう事になった。巡礼者の中には医者が三人も居るそうだ。ねこの医者も居るといいのだが。


 そして近所から応援に来た人の噂では、ストーク人のマリーちゃんはペッテルさんの本当の娘ではなく、ストークのどこかの貴族の娘なのだという。それが訳あって国境を越え、スヴァーヌのこの地に隠れ住んでいたのだと。

 海賊達はそんなマリーちゃんの事を知り、フルベンゲンに放火隊を送り込むついでに彼女を連れ去るつもりだったらしい。



 カイヴァーンとヨーナスとエッベ、ルードルフとフルベンゲンからの援軍、さらに近在の村の男達を加えた一団は、すっかり自分に酔いれ有頂天になったフレデリク・ヨアキム・グランクヴィストの指揮の元、海賊共の足跡を辿って谷間の森を西へと進み、やがて外洋に面した大きな入り江に到達した。


 果たして、入り江には二本マストの船が一隻停泊している。それはガリオット船という喫水が浅く船底が丸く帆走はんそう漕走そうそうどちらでも行ける、こういう上陸任務には持ってこいの船だそうだ。


 私はフルベンゲンのおじさん達に森の海賊達から召し上げた服を羽織ってもらい、簀巻きにしたエッベを抱えて、留守番連中に近づいていただいた。

 仲間が首尾よくマリーちゃんを捕らえたのだと思い込んだ留守番の海賊達はフルベンゲンのおじさん達の接近を許してしまい、銃を構える間もなく組み付かれ、その間に突撃したルードルフとカイヴァーンと残りの義勇軍に制圧された。敵味方とも一発も発砲は無かった。


 海賊船には正規の海賊の他に三十人ばかりの漕ぎ手が居たが、彼らは他所の町などから無理やり連れて来られた多重債務者や囚人、在地の奴隷身分の方々で、こちらが解放を約束するとすんなり引き続きかいぐ事に同意してくれた。


 ここで犬ぞりや馬達とはお別れだった。半裸にし縄を打った海賊達を引き連れ、援軍の半分は元来た道を帰って行く。エレーヌちゃんは相変わらずつれなかったけど、最後に一度ちらりとこちらを見てくれた。

 私たちはここで海賊共が作戦成功した時の為に用意していた色付きの狼煙をかくらんの為に揚げてやった。


 ガリオット船の名前はシーオッタ号だった。

 シーオッタとは何かと私が聞いたら、漕ぎ手の一人がそこの海面に腹を出して浮かんでいるタヌキの親戚みたいなやつだと教えてくれた。なるほど、海面にタヌキの親戚のような生き物が腹を出して浮かんでいる。

 私がぼんやりと見ていると、シーオッタはどこからか二枚貝を取り出し、それを短い両手で持って、猛烈に自分の腹に打ち付け出した! いや、よく見るとその腹にはやはりどこからか取り出した石ころが乗っている……

 石ころにぶつけた二枚貝は見事に割れた。シーオッタはその中身をペロリと食べると、また何事も無かったかのように石を仕舞い、腹を出して海面に浮かび続ける。

 思えば遠くに来たものだ。こんな意味の分からない暢気な生物に出会えるとは。


 シーオッタ号をどうするか、これは少しだけ悩んだが、私はこのままこの船で海賊艦隊の錨地を確認しに行こうと提案した。これは無茶な提案なので誰かが反対したらすぐ取り下げようと思ったのだが、全員に賛成された。


 海賊艦隊は隣の島の外洋に面した水深のある幅広の入り江に居るという。

 シーオッタ号は軽快な船だが波に弱く、外洋ではよく揺れる。船酔い知らずのズルの私はともかく、ヨーナスとエッベが平気な顔をしているのは大したものだと思った。


 海賊艦隊は情報通りの錨地に居たらしい……居たらしいというのは、我々がその場に接近したら彼らはちょうど抜錨し東に向かい始めていた所だったからだ。

 私は勿論どうやって逃げようか必死に考えたが、向こうはこちらの様子にまるで構わず東へ、フルベンゲンの方へ向かうようなので、このまま合流するふりをして後ろからついて行く事にした。

 幸い風は順風で漕ぎ手の出番は無かった。彼等が裏切って、いや表返って海賊達にこの船が強奪されている事を伝えたらどうしようかと思ったが、みんな別に海賊達との楽しい思い出などは無く、彼等に対する忠誠心も無いらしい。


 フィヨルドの水路を堂々と航行して行く海賊艦隊。甲板では海賊から奪った上着を着たルードルフ達が船を動かすふりをしているが、物陰から操帆を指揮しているのはヨーナスとエッベだった。

 私とカイヴァーンは船首の物陰から状況を確認しつつ次の一手を考えていた。海賊艦隊の先導艦が鐘を打ったのはその時だ。

 しかしその時点ではシーオッタ号からは海賊艦隊以外の船は見えなかった。フォルコン号か、グレイウルフ号か、サイクロプス号が先導艦の視界に入ったのか。

 程なくしてそれはグレイウルフだと解った。グレイウルフ号が南からただ一隻、海賊艦隊に突っ込んで来るではないか! マカーティはまさか一隻で海賊全部と戦うつもりなのか!? 何のために土下座までしてフォルコン号を味方につけたのか、そして私も何故あんな冷や汗をかいてファウストとマカーティを会わせたのか。


 この期に及んで自分は軍人だとか、民間人は後ろで見てろとか、海賊ファウストの手は借りないとか格好をつけるつもりなのか、あの狼ちゃんは。クソ正直もここまで来ると傍迷惑でしかない、私はそう思った。


 シーオッタ号は櫂漕船らしい全長に対して全幅の狭めな船だったが、強襲戦闘に特化した船らしく、船首砲が4門もあった。その代わり側面には大砲が無い。


 海賊船はシーオッタ号を除いて13隻、こちらがほんの4門くらいで撃った所で大勢に影響は無いとは思うが、何せ私達は敵の後ろに居る。そして敵は南東に向かっていて風は北西から吹いている。

 我々が4門の大砲で撃てば敵は怒るだろう。だけどこちらに船首を巡らせるのは時間がかかるし逆風になる。しかもフルベンゲンからは遠ざかる。全船で回頭しないなら艦隊もバラバラになる。

 それでも私はこういう事をするのは怖いしやりたくないので、どちらかに反対されたらやめるつもりでカイヴァーンとルードルフに相談した。二人共大賛成だった。



   ◇◇◇



―― ド ド ド ド ドドーン……


 彼方の砲声が、私を短い回想から現実に引き戻す。グレイウルフ号と海賊の先鋒が接近し、開戦したようだ。

 その間にシーオッタ号は帆を張り増して加速し、海賊の旗艦と思しきキャラック船のすぐ後、ほんの20mまで接近していた。さすがにこちらの様子がおかしい事に気づいた海賊達が騒ぎ出す。

 そして方々で銃声や砲声が鳴り始めている……まだこちらを撃っている船は居ないが、もう始めないと。


 私は一瞬だけ瞳を閉じる。どうしても脳裏に浮かんでしまうのはあの日見たソーンダイク号の甲板だ。私にはそれを受け止める覚悟があるのか……無理だ。覚悟なんていくら待ったって出来やしないし、そんな時間は無い。


「一番四番は船尾楼の窓を、二番三番は舵を狙え。準備はいいな?」


 自分は誰を助け、何を止めたいのか。どんな未来を見たいのか、どんな結末を恐れるのか。自分の道は自分で選ぶんだ。私は瞳を開き、前を見る。


「撃て!」



―― ド ド ドドーン!



 シーオッタ号の4門の大砲が順番に火を吹いた。


 東の陸影の向こうにはフォルコン号も見えたが、グレイウルフ号に比べるとかなり遠い。今グレイウルフを助けられるのはこの船しか居ない。

 早く来てくれないかなあ、フォルコン号……だけど西に向かうフォルコン号にとってこれは逆風なのか。


「この風が東風に変わればいいのに」


 私は粉砕されるキャラック船の船尾を見つめながらそうつぶやいていた。この距離ではいくら素人の射撃でも外れるはずもなく、砲弾は全長40m弱の船体に船尾から突き刺さり、2発は船尾窓を粉砕し、2発は船尾喫水線近くに穴を開けた。


 さすがに舵軸には当たらなかったか……私がそんな事を考えていると。


―― パンッ、パンッ!


 突然風が渦を巻き、キャラック船の帆が裏帆を打つ……いや、裏帆を打ったのはこっちもですね……嘘ぉぉぉぉ!? 本当に東風が吹き出した!?


「わっぷ!?」「なんだ!?」


 間違いない、今粉砕されたキャラック船から飛び散った小さな木片や砂煙のような物が、こちらに流れて来る。一度前方へ飛散した砲煙も、薄れながらこちらに戻って来る。げほ、げほ。


オール入れろ! 次弾装填を急げ!」


 私が号令すると、漕ぎ手の皆さんは素直にオールを出してくれた。突然の逆風だがこちらはオールで漕いでも進める船なのだ。

 急接近していたシーオッタ号のバウスプリットはキャラック船の船尾楼に接触しそうな所まで近づいていた。私は素早く静索から静索へ飛び移りフォアマストを駆け上がる。


「野郎!! 卑怯だぞ!!」「ぶち転がしてやる!!」


 フルベンゲンを襲撃しようとしていた海賊共がいきり立ち、壊れた船尾楼の窓や天板の上から顔を出し銃を向けて来る。私も卑怯だと思うけど、こいつらに非難される筋合いは無い。


「やかましい悪党! 命が惜しければそこへひざまずけ!」


―― ドォン! ドン! ドン!


 フォアマストのヤードの上に立った私はそう叫びながら魔法のマスケット銃を撃ちまくる。残念ながら私の腕ではほとんど敵に当たらないが、決して当てるつもりが無い訳ではない。

 地獄に落ちようがアイリさんに怒られようが、私はもう自分が撃たないせいで仲間を傷つけられるのは嫌だ。

今回は少しだけ、周辺の絵図面もご用意させていただきました。


「マリー・パスファインダーの英知と決断」の舞台「フルベンゲン」、及び91話までの「動き」の解説図

https://ncode.syosetu.com/n5000fp/20/


ページ下のリンク「マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ」から「マリー・パスファインダーの冒険と航海 資料室」にも行けます。

宜しければご覧ください。

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マリー・パスファインダーの冒険と航海
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