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ルードルフ「むむ。我輩は船首像の役か」

突如現れた、ニコニコめがね爆弾おじさんこと、賞金30,000ゴールドの大海賊ファウスト!

だけどそれはマリーから見た話、ファウストから見たらマリーが突然現れた格好です。

「銃なんか出さないでくれ、僕はただの森のフクロウだよ」

「極夜の只中にそんな所から現れないで下さいよ! そもそも……」


 私は慌てて高い枝から飛び降りて駆け寄る。待ってそれ以上言わないで!


「シーッ! ファウストさんあの、頼みがあるんですけど」

「お断りします! 何でこんな所に居るんですか貴女は! いちいち人の行く先々に現れないで下さい!」

「違うんですファウストさん簡単な事なんです」

「また重武装のガレオン船に乗っているレイヴンの外交官を誘拐するんですか!? お断りです!」

「ああ、ファイルーズは如何でしたか? 補給は受けられましたか?」


 私はマリー声で静かに話していた。ファウストも小声で応じてくれてはいた。

 そのファウストがてのひらに顔をうずめてうめく。


「だから……だから貴女に借りは作りたくないと……私は言ったんです……」

「あの、そこまで難しい話じゃないんです、一個だけ、私はハマームに居なかった、どうかこれだけ! 御願いします!」


 ファウストは急に顔を上げる。


「はあ? 貴女レイヴン外務官誘拐事件の責任を全部私に押し付ける気ですか!」

「そそっ、そういう意味じゃないんです! ただ単にうちの乗組員に知られたくないんです、私があの時ハマームに居たって……」


 私はそこまで言って慌てて振り向く。良かった、ウラドは私の制止を守り、遠巻きに見てくれている。


「解りました……解りましたからこれ以上は勘弁して下さいよ……」


 私が向き直ると、ファウストは再び掌に顔を埋めていた。

 そしてちょうどその時。岸壁の方からハイディーンのガラガラ声が聞こえて来た。



「そうだ。ここがフルベンゲン。お前達は巡礼者か」



 岸壁の方を見ると。波止場にはサイクロプス号の乗組員が何人か上陸していた。

 あの色白の綺麗なお姉さんは確かロゼッタさん。その隣のスカーフェイスはリゲルさんだったかな。向こうもファウストと私に気付いたようだ。


「あの、ファウストさん、ここには海賊の日常業務としての略奪行為に来られたんじゃないですよね?」

ちがいます(・・・・・)

「良かった……あの……ロゼッタさんやリゲルさんにも、私とは初めて会った事にして欲しいって言っておいてくれませんか?」


 私はファウストの方に向き直る。ファウストももう顔を上げていた。


「それだけですね? 貴女の要求はそれだけですね?」

「あの、もし他に私を知ってる人が居たらその人にも」

全員(・・)ですよ! 貴女私の船の上で何をしたかお忘れなんですか!」


「あのな、フレデリク」


 次の瞬間、今度は真後ろから声を掛けられた私が飛び上がる。振り向くとそこには寒そうに手を摺り合わせるハイディーンが居た。


「お前の知り合いなら最初からそう言ってくれよ、こんな事する必要なかったじゃないか……しかもそっちの人は先に降りてこの辺を見てたって?」


 私は慌ててフレデリクの声を作り直す。


「そ、そうだよロビンクラフト(・・・・・・・)、港湾管理者の許可を得る前に勝手に上陸するのは良くないと僕は思うよ、寄航許可はちゃんと貰わないと」


 私がファウストにそう言うと、ハイディーンが手を振る。


「まあ待てフレデリク、そこは俺達の方にも負い目はあるから……とにかくレイヴン商船ホワイトアロー号の寄航を歓迎するよ、ひえっくしょい! ああああ寒い、今応援を呼んで来る」


 ハイディーンは寒さに震え上がりながら奥の集落へと駆けて行く。


 ファウストが黙って上陸して偵察をしていたのはルール違反だけど、まともな港湾管理者の仕事をしていないハイディーンもルール違反である。

 まあそれ以前の問題もありそうだけど。


「よく覚えてましたね、私の偽名なんて」

「覚えやすい名前でしたから」


 ロビンクラフトというのは私が好きだった少女小説『夢とはな』に出て来る脇役で悪役令嬢に仕える若い御者の名前でもある。ロビンクラフトは自分の白塗りの四輪馬車をホワイトアローと名づけているのだ。

 ファウストはハマームでもこの偽名を名乗っていた。

 ちなみに私のフレデリクという偽名も『夢とはな』の登場人物から取ったものだ……私とファウストは同じ少女小説のファン同士という関係でもある。


 あ……ロゼッタさんが手を振ってる……リゲルさんも軽く手を挙げた。まずい。今はまだウラドが近くで見ているのだ……私がそう思った瞬間、ファウストは大股に踏み出し波止場に居る彼の仲間の方へと足早に歩き出した。


「……貴女の事を話して来ます。これで貸し借りは無しですよ」

「は、はい、御願いします」


 ファウストはすれ違い様に小声でそう言った。私も小声で応じる。

 だけど10m程離れてから、ファウストは立ち止まり小声で言い添えた。


「無理です。貸し借り無しになどならない。私があそこでレイヴン海軍に強襲されてどんなに落胆し憔悴したか、そのすぐ後で貴女に救われてどんなに助かったか。貴女にも解らないと思いますよ」


 ファウストの声は小さかったが、私は例の魔法の効果で北風吹きすさむ屋外でも静かな室内と同じように音を聞く事が出来る。



 ファウストが去り、私は林の中で待機していたウラドに向かってうなずいてみせる。ウラドはそれを見てからゆっくりとやって来る……彼は余計な事を知らずに済むよう、敢えて離れていたんだと思う。


「あの人は今は海賊ファウストじゃなく、レイヴン商船ホワイトアロー号の船長のロビンクラフトさんなんだってさ」

「解った」


 私が前置きなくそう言うと、ウラドは真顔で一言だけ答えた。私は思わずマリー声でウラドに詰め寄る。


「ちょっと待ってよ、何も疑問とか無いの? 言っちゃ悪いけどウラドは私に甘過ぎるんだよ! 子供がこういう出鱈目(でたらめ)な事を当たり前だと思っちゃうの、本当は良くないよ!?」

「そ……そのような事を言われても、私はどうすれば良いのか解らない……」


 何故かまだウラドの後ろにくっついて来たスヴァーヌの女の子達は、ウラドが困惑する様子を見てクスクスと笑っていた。




 ともかく私とウラドはフォルコン号に戻り、フルベンゲンの港湾の方へと船を廻航させる準備を始めた。

 しかし早船はもう居ないし風は真逆の逆風、錨地はともかく水路は狭いので、帆走してここを出るのは困難である。


「オールを……出そうかのう……」


 ロイ爺が観念したかのようにそうつぶやくと、不精ひげとアレクが慌て出す。


「ちょっと待ってくれ! 今船長が風を180度変えるから!」

「マ……フレデリク船長何とかならない!? あの、天に祈ってみるとか……」


 私は船長らしく、怠け者共に容赦なく指令を出す。


「いいからオール出せ! 舵はロイ爺! 不精ひげ、ウラド、カイヴァーン、太っちょは漕ぎ手、ヨーナスとエッベは見張り、アイリは笛! 僕は全体を見て補助に入る!」


 唯一指示の出ていないルードルフが慌てて駆け寄って来る。


「フレデリク! 我輩も漕ぎ手なら出来る、我輩にも仕事を割り当ててくれ」

「ルードルフは鎧兜をつけて艦首に立ってくれ! それも大事な仕事だから」



 フォルコン号にもオールは備えられている。だけど小船とは言え甲板だけで20m弱ある船を常時進ませられる程の物ではない。これはあくまで臨時に使う物だ。


―― ピ~ヒョロロ(笑)


 アイリさんの笛に合わせて、フォルコン号は四本のオールを漕ぐ……これまでにもその場で旋回したい時や錨地で細かい姿勢制御をしたい時、設備の無い場所での入出港時などに使った事もあるが、これで漕ぐのは長くても50mという所だった。


「岬のっ……! 突端をっ……! 回る……! までだよッ……!」


 結局私はすぐアレクの所に入る事になった。今日はこの細長い入り江を抜けるまで、岬の突端を回るまで、およそ500mは漕がなくてはならない。


「みんなちゃんと私の笛に合わせて! バラバラに漕いだら効率悪いわよ! あと船長と太っちょはもう少し頑張って!」


―― ピ~ヒョロロ(笑)


 フォルコン号のオールは長さが5mぐらいあって甲板の砲門に取り付けて使う。このオール自体もめちゃくちゃ重い。


 私は全身の筋肉を使ってオールを漕ぐ……改めて思う。私は船乗りになりたいのではない。お針子になりたいのだ。

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本作はシリーズ四作目になります。
シリーズ全体の目次ページはこちらです。

マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
[一言] アイリさんの笛の音がwwwあの笛は体育の先生や駅員さんが吹くあの小さなホイッスルと同じものですかね? わたし若いころ駅員やったことがありますが、練習しないとなかなか思った通りのキビキビとした…
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