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ロイ爺「いつもの事じゃが……わしらの方からは聞かない事にしよう」不精ひげ「そうだな……」ウラド「うむ……」アレク「はあ……」カイヴァーン「……」

無事・・探検を終え、フルベンゲンへと帰るフォルコン号。

今回はとても平和な冒険でしたよ!

 いつもの事だけれど、私は人から優しくされる事に弱い。


 別にヴィタリスが冷たい人だらけだった訳ではない。むしろ助けてくれる人がたくさん居た。ただで読み書きを教えてくれたジェルマンさん、たった十枚の雑巾と引き換えに雨漏りを直してくれたゴーチェさん、水汲みを手伝うだけで針と鋏を研いでくれたベルナールさん……仕事を都合してくれたオクタヴィアンさんも。


 私の心はひねくれている。人間は利害関係がなければ他人を助けたりはしないと思っている。心の表層ではそう信じているはずなんだけど。


 その反動なのかなあ。私は無償の愛情とか献身とか、そういうものに弱い。無いと決めつけていた物に出会ってしまうと、簡単に骨抜きにされてしまう。


 リトルマリー号の水夫達の善意を知った私は、じゃあ私だってバニーガールぐらい我慢しなきゃと思った。

 健気なフラヴィアさんとアホのジェラルド、ほんとは奴隷商人を許せないトゥーヴァー海賊団の皆さん、一途なロワン、従者思いのエステル、馬鹿正直のル・ヴォー。

 マカーティは私が出会った人間の中では最悪に下品で騒々しい奴だったけど、レイヴンと仲間達への深い忠誠と献身が透けて見えて嫌いになれない。

 他人の為と思えば簡単に身を投げ出してしまうルードルフにはどんな人生経験があったのだろう。



   ◇◇◇



 私は艦長室で目を覚ます。どういう事か先日と同じ夢を見た。

 私は夢の中で猿回しのサルになっていて、不精ひげと一緒にアイビスのどこかの街角で芸を見せていた。


 船長服が壁のハンガーに掛けてある……ありゃ、完全に乾いてますよこれ。アイリさん、どんな魔法を使ったんだろう。

 だけどこれがあるなら、これを着ないといけないですねェ。


 ストークのグランクヴィスト子爵家の四男坊、フレデリク君……そういえば男装用の偽名なんて別にフェザントのマリオ君でもファルケのカール君でもいいんだよなあ。

 フレデリクにこだわるから余計なトラブルになるんじゃないだろうか。次からはコルジアのフアン君とでも名乗ろうかしら。



 着替えを済ませ艦長室を出ると、夜空一杯にオーロラが広がっていた。

 今夜のオーロラは青が強い……まぶしいと言うのは大袈裟おおげさだけど、結構な光をたたえたオーロラが空を広く覆っている。上弦の月の姿はもう無い。


 アイビスの山出しの小ざるが随分遠くまで来たものだ。私がそんな感慨にふけっていると……ああ。艦首の辺りでまたヨーナスとエッベが……波除け板にぶら下がってヒソヒソ話をしている。


 話し掛けてもいいんだけど、どうせまた元気を無くしてるんだろうなあ。熊に遭遇したり鱒の群れに襲われたり、色々な事があったけど二人は犬ぞりの冒険の間はとても元気そうだった。ドラゴンが出た時だって。


 今元気が無い理由は勿論、村の掟とやらのせいだろう。


 私は二人をとても良い子だと思う。水夫としての資質も申し分無い、何なら私よりずっと向いてる。少し無鉄砲な所はあるけど、そこが頼もしくもある。

 彼等が正式な乗組員になってくれるなら大歓迎だ。言葉の問題も、共通の言語が無いカイヴァーンとあれだけ仲がいいんだからどうという事は無い。


 だけど……やっぱりちょっと早いなとも思う。まだ12歳と11歳とかですよ。いくら兄弟が居るからと言ってもねぇ。

 私なんかと違って、近くに立派な両親も居るのに。どうすればフルベンゲンの頑固者共は兄弟を罰するのをやめてくれるんだろう。


 兄弟は今回、町じゅうの人々に見送られ戦士の石碑を探す旅に出た。そして、首尾よくそれを見つけた。

 あの石碑、もう少し見つかるのに時間がかかったら良かったかも。せめて一、二週間くらい……こんなにすぐ見つかると苦労した感が出ない。


「少しいいかね」


 考え事をしていた私は、後ろから穏やかに声を掛けられた。ルードルフさんだ。


「君は結局、あの兄弟をどうする事にしたのかと思ってな」

「お察しの通りさ、かなり悩んでる。問題はあの二人に下されるという罰だよ……フルベンゲンの人達は優しそうなのに、どうしてあんな事を言うんだろう。そのせいで二人はあんなに落ち込んでるんだ」


 私はいかにも経験豊富そうな老人であるルードルフの知恵に期待してそう聞いた……しかし、ルードルフは答えない。


「彼等はまだ小さいし、苦難の果てにやっとフルベンゲンに戻った所なんだ。本当は両親の元に返してやりたい。だけど連中は村の掟に従い二人を罰すると言う……フルベンゲンの男は勝手に村を出てはいけない、その掟を破ったんだって!」


 そこまで言って私は自分の声が大き過ぎた事に気付き、慌てて辺りを見る……幸い兄弟達には聞こえていなかったようだ。


「ふむ……難しい所であるな」

「貴方もそう思うのか」

「二人の事ではない、君の事だ。君は大変賢く勇敢なのだが、君だからこそ見えぬ物もあるらしいな……ああ、吾輩は自分が老人だからと言って勿体ぶって賢そうにしている訳ではないぞ」

「勿体ぶって賢そうにしてるじゃないか」


 私が子供らしくたちまちねてみせると、老人は肩を揺らしてくっ、くっ、と笑う。


「君は何でも自分でやろうとする人間なのだろう。だからこそ氷原で遭難していた吾輩も見つけて助けてくれた……あの兄弟についてもそんな所なのだろう? それは君の優しさであり、素晴らしい所だとは思う。一方で……君は人を信じて託す気持ちが足りないのではないのかね」


 え……えええ? いくらなんでもそれは全然違うよ! 私はむしろ図々しく何でも人任せにする人間ですよ!


「それは無いよルードルフ、僕は何でも人に頼るタイプだ、航海だってロイに頼り切りさ、今だって僕は自分の船がどこを走っているのかも知らないぞ」

「ふむ。では老兵の勘は全く当たらなかったようだな。フレデリク殿……あの二人の事は、成り行きに任せてみてはどうかと吾輩は思うぞ。君も二人の事をとてもよく考えているようだからな」


 ルードルフはそれだけ言って背中を向け、会食室の方へ立ち去ってしまった。


 私だから見えない物がある? 私なんて元々見えない物だらけですよ。それは私の頭が悪くて経験不足だからであって、私だから見えないっていうのとは違うと思う。


 私が何でも自分でやるっていうのも無いよ……私は祖母が生きている間は祖母に頼り切りだったし、祖母が亡くなった後もいろんな人に助けて貰った。

 畑仕事や家畜の世話、山菜集めに川海老獲り、むしろ編みにかご編み、私は百姓らしく色々な仕事をして来た。確かにある一面では私は自分の事は自分でする。


 だけど人を信じて託す気持ちが足りないとは……考えた事も無かった。

 いや、絶対そんな事無いってば……私は航海の事はロイ爺と不精ひげに任せっ放し、商売と資産管理はアレクに任せっ放し、ウラドにもカイヴァーンにもアイリにも、私は何だって任せるし頼りきりですよ。



 辺りを見渡せば、白銀の大地と海、夜空に踊るオーロラ……

 困ったものだ。ここでは周りの景色が雄大過ぎて、物思いにふけるのが全くはかどらない。

 艦尾楼の上で見渡せば、色を変え、形を変えながら踊るオーロラはあまりにも美しく幻想的で……


「船長」


 どれだけ時間が経ったのだろう。私は後ろから声を掛けられた。振り向けばそこには元気の無い、ヨーナスとエッベが居る。


「フルベンゲンが見えました」


 そんな顔で言うなよ……最初に見つけた時はあんなに喜んでたのになあ。

 やっぱり、何とかして二人が罰を受けるのを止めないと。

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本作はシリーズ四作目になります。
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マリー・パスファインダーの冒険と航海
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