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セルジョ「臨検じゃと? どこの小僧がそんな事を。構わん、後でとっちめてやるわい」

なんだかあんまり楽しくない港、グラスト港。ピリピリしてる人、怒ってる人が多いよ。

そしてアイリさんの突然の告白……

やっぱり内海に帰ろうかなあ。マリーはそう考えた。

 仲買のおじさんの予言通り、群衆は昼過ぎになると徐々に数を減らし、午後には解散して行った。


 麻痺していた港の機能も回復し、フォルコン号にも飲料水の樽が届けられる。商品取引所も再開された。


「取引の方は太っちょに任せるわ。私とアイリさんとカイヴァーンで食べ物を買いに行こう。急がないと日が暮れるよ!」

「今から全部やるのか……?」不精ひげ。

「船長、さすがに一泊した方が良くはないかね?」ロイ爺。

「リトルマリー号もここを目指してるんじゃない?」アレク。


 うーん。リトルマリーには会いたいし、商品だって慌てて買ってもいい事は無いかもしれないけど。何だろう、単に嫌な予感がするというのか。この港からはさっさと離れた方が良いような……そんな事を考えていると、不精ひげが言う。


「でも船長が嫌な予感がするというのならそうした方がいい。早く出航しよう」

「いや別にそんな訳じゃないですよ! いいよ、ゆっくりやろうよ」



 私はゆっくりでいいと言ったのに、不精ひげが何か耳打ちしたらしい。皆が大急ぎで出航に向けた準備を始めた。


 普段はボートで持って来てテークルで吊り上げて積む貨物も、艦首に固定されたブリッジから積むので話が早い。


「待て、待て、お前ら本当に代金は払ったんだろうな? この荷物は間違いなくここに書いてある通りの物か? 密輸品じゃないだろうな?」


 泥棒のような勢いで荷物を積むフォルコン号を怪しんで、港湾役人さんが臨検に来た。私は買い物よりこちらの応対に当たるよう、ロイ爺から言われた。


「すみません……普段はこんなに急がないんですけど、何か皆早く行きたいって」

「さっきの揉め事を見たからか? 普段はこんな港じゃないんだけどなあ」


 アイリさんとカイヴァーンも戻って来た。カイヴァーンは両手両脇に大荷物を抱え背中にも大きな籠を背負い、鉢巻に青菜まで差している。


「重かった……腕が抜けるかと思ったわ……」


 アイリさんもカイヴァーン程ではないが大荷物を抱えて来た。本当は良い所の娘さんなのに……何故こんな苦労をする事になったのだろう。


 とにかく。日が暮れる頃には出港準備が整ってしまった。



「では参りますよ! ロングストーンに向けて出航です!」

「船長、本当に南に行くの? どう考えてもこの荷物は北へ持って行った方が」

「だって寒いの嫌じゃん。水運組合にも次はロングストーンって書類出したし」


 父の教え通り、船長が気まぐれで身勝手に決めた目標に向かい、フォルコン号はグラスト港を出航して行く。




 出航してすぐの事。フォルコン号が湾外への水路に向かうと、また……監視塔の方で何かが光り、少し遅れてパン、パンと音がした。

 また臨検!? ちょっと多過ぎやしませんか? うちどんだけ疑われてんの?

 私はそう身構えたが。朝と同様に水路付近を哨戒していた海軍のカッター艦タミア号は、湾外から現れた船の方に転進して行く……ああ、うちじゃないのね。

 私は望遠鏡で向こうを見る。え? あれはリトルマリーじゃないですか??


「まさか、あんなにはっきりと王国の紋章がついた船を臨検するの? あの艦長さん……名前なんだっけ」


 真面目の商会長服を来た私は軽い船酔いに耐えていた。たまたま隣に居た不精ひげも望遠鏡で向こうを見る。


「うーん……臨検の指示はあの監視塔から出てるみたいだし、仕方無いんじゃないか」

「宮仕えも辛いね……」


 そもそもリトルマリー号は前方を二隻のコルベット艦に、後方をフリゲート艦ボルゾイ号に護衛されている。ちょっとピリピリし過ぎなんじゃないですかね、グラストの皆さん。


 やがて前方を護衛していたコルベット艦がフォルコン号とすれ違う。タミア号はどんどんリトルマリー号に近づく。


―― カンカン! カンカン!


 ん? リトルマリー号がマリンベルを鳴らしてますが……



―― どーーん(笑)



「ああっ!?」


 我々、本来のリトルマリー号の船長と水夫達が見守る中。


「何やってんの!?」「ええ……」


 帆を絞りもせず漫然と突っ込んだタミア号と、ぎりぎりで緊急回避しようと舵を切ったリトルマリー号は、結構なキツい角度で衝突した。




 勿論見て見ぬふりなど有り得ない。フォルコン号は衝突した二隻の元へ急行する。リトルマリーの後ろに居たボルゾイ号も急行して来る。

 フォルコン号とすれ違っていた二隻のコルベット艦も慌てて戻って来るが、真っ先に現場についたのはフォルコン号だった。


「責任者は誰じゃあぁぁあ! 艦長か!? 航海長か!? 掌帆長かー!!」


 大変にお怒りなのはリトルマリー号の回航を担当していた老艦長だった。立派な軍服をきちんと着込み、胸には何個も勲章をぶら下げている。本来こんな小船に似合う感じではないし、大物艦長の退役前の最後のお勤めといった雰囲気だ。


「怪我人は居ませんかー!!」


 こちらからはアレクが声を掛ける。リトルマリー号の白と青の特別なお仕着せを着せられたエリート水兵達は、まずは起きてしまった事故の被害を最小限に食い止める努力をしていた。ああ……船体を軽くする為、国王陛下の為の船内の調度品を海に捨てている……


 タミア号の方は元々こういう使い方をする事の多い船なのだろう。ダメージは受けているが航行には問題なさそうだ。それはつまり、リトルマリー号の方の被害が凄いという事になるのだが。


「対舷に来れますかー!」

「今行きますよー!」


 フォルコン号はタミア号の反対側からリトルマリーに近づき、静かに接舷する。リトルマリーの浸水が酷い……ウラドと不精ひげ、カイヴァーンは二隻の船体のあちこちを索具やフックで繋いで行く。


「タミア号の乗員は一箇所に集まれェェい! 誰も動いてはならぬ!」


 お怒りの老艦長が叫ぶ。

 私はリトルマリー号に乗り移っていた。こんな形でこの船の甲板を踏む事になるとは思わなかったなあ。


「あの……パスファインダー商会、フォルコン号船長のマリー・パスファインダーと申しますが……」

「知っておる……わしが寝ている間に追い越して行ったそうだな。見てくれ……何たる事だ……これは君の船だったのだろう」

「とりあえず、タミア号の乗組員にも手伝わせては……?」

「やつらは全員今すぐ懲罰房行きじゃー! 畏れ多くも国王陛下の旗を揚げた船に……何たる事を……何たる事をー! タミア号はいつからレイヴン海軍の船になった! この裏切り者共がーっ!」



 リトルマリー号はかつてタルカシュコーン事件に、その後でブルマリン事件に関わった曰くつきの船である。そして今日はグラスト港衝突事故だ。

 親愛なる国王陛下。本当にこの船に御上船あそばされるおつもりですか? やめといた方が良くない?

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本作はシリーズ四作目になります。
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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
[一言] まさかの衝突事故・・・ 続きが気になります
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