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マリー・パスファインダーの英知と決断  作者: 堂道形人
極光の英雄譚

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猫「今になって斯様な豪傑に出会えるとは皮肉なものだ。世界は誠に広い……」

老齢の……騎士見習い? 一人で旅をしていたルードルフさんは、ずっと憂鬱そうな顔をしている。ウラドは彼が死に場所を探しているのではないかと評した。


「ボリス! それに御客人も無事だったか、ああ、ヨーナスとエッベも親父さんに会えたか、まずは何よりだ」

「ハイディーン、一体どういう事だ、誰がやられた?」

「オコネルの農場だ、男達の何人かが殺されて、子供がさらわれたって……くそ! 相手はアナニエフ一家の奴に違いないそうだ」


 村の重鎮のハイディーンさんは最初に見た時と同じような毛皮の鎧を身に着けていた。ただ、その下にはきちんと毛織の服を着ている。


「とにかくこのままにしておけるか! 奴らを捜索しなくては。フレデリク船長、協力を御願い出来ないだろうか……我々には対価として与えられる物がほとんど無いんだが」


 海賊が近くの集落を襲撃し、人を殺して物を奪うだけでなく、子供をさらったという。

 私はウインダムからコルドン、そしてフルベンゲンまで航海して子供を二人両親に会わせたばかりなのに。


「勿論だ、相手は海賊なのか!? そいつらは海に出たのか、フォルコン号はどこを探せばいい?」


 私は勢いづいて言った。相手は上陸して集落を襲い人を殺すような本物の海賊だという。だけどこの場に居て何もしないというのも出来ない。



「すまんがその……海賊というのは、左腕に黄色の布を巻いた連中だろうか……」


 同行していたルードルフさんが口を開いた。ルードルフさんは老人だが、鉄の鎧兜を着て大きな両手剣を背負っている。


「あ……ああそうだ、アナニエフ一家は目印に黄色の布を……あの、あんたは?」

「失礼、ルードルフと申す旅の者で、雪原で遭難していた所をフレデリク船長やボリス殿に助けていただいたのだが……」


 ルードルフさんは伏し目がちに話す。


「その前に遭遇した賊徒がそういう様子だった。男の子を二人と女の子を一人、海岸でボートに無理やり乗せようとしていた」

「さらわれた三人に違いない! そいつらの様子は!? 知ってるだけの事を教えてくれ!」


 ハイディーンさんにそう急き込まれ、ルードルフさんは憂鬱そうな表情をますます悲しげにしかめ、つぶやいた。


「すまぬ……」


 その場に居た誰もが沈黙するしかなかった。子供達は一体どうなったと言うのか。


「賊は十人ばかり、吾輩……わしは子供達に逃げるように言い、賊徒を足止めしようと試みた。その人数に勝てるとは思わぬ故。しかし賊徒は、その……戦いの末、沈黙した」


 ルードルフは目を見開き、顔を上げる。


「その後でわしもすぐに子供達を探したのだ、しかし子供達は賊徒から奪ったそりを蹴って逃げていて、大声で呼び掛けても戻っては来ず、行方が解らなくなってしまったのだ……さらには老いぼれの身で雪の中を走り回ったわしは腰を痛め、追跡どころか動く事もままならなくなってしまった。それで仕方なく岩室いわむろで体を休めていた、怪我が治るのが先かお迎えが来るのが先か、そのような有様で……子供達を探しに行く事が出来なかったのだ」


 絞り出すようにそこまで語り終えたルードルフは、がっくり肩を落とした。


「すまぬ……」



「おおーい! フルベンゲンの人!」


 皆が唖然としていたその時。雪原の彼方から、一台の人力で蹴って進むそりがやって来るのが見えた。

 皆がルードルフから目を離しそちらを見る。空はまだ明るくなっていなかったが、それは少し高齢の女性のように見えた。


「オコネル農場の者だよー! おーい!」



 オコネル農場から来た二番目の知らせは、農場は海賊の襲撃で死傷者を出し冬の蓄えのいくらかを強奪されたが、誘拐された三人の子供は自力で帰って来たというものだった。

 子供達の証言によると、彼等を救ってくれたのは絵本の中から出て来たような、両手剣を持った銀ぴかの騎士だったという。



   ◇◇◇



 フォルコン号はフルベンゲンから抜錨し短い航海に出た。ヨーナスとエッベ、その父のボリスさんにハイディーンさん、ルードルフ、さらに村の男女数人と、二番目に知らせに来た農場のおばさんも乗り込んだ。


「さすがレイヴン風の新造船だな、この程度の風でもスイスイ進むじゃないか」

「ハイディーン、あまりはしゃぐな……未亡人に悪い」


 ボリスさんとハイディーンさんがスヴァーヌ語で何か言い合っている。農場のおばさんは務めを果たせた事にはホッとしているようだったが、深く落ち込んだ様子でもあった。


「ああ、そうだな……すまん。だけどボリス、あの二人を見ろよ。あれが今年の春、はちみつの巣箱をいじくって母親に尻をぶたれていた子供達か?」


 ハイディーンは声を落とし、ウラドの指示で機敏に動索を操作して帆を動かしたり、するすると見張り台に登り降りするヨーナスとエッベを指差す。


 フォルコン号の行先は20km先の入り江だ。ルードルフはそこで海賊に遭遇したらしい。つまり、海賊やその仲間はまだ周辺に居る可能性もある。


「大丈夫じゃ船長、皆一晩休んだばかりじゃからな。油断なく見張っとるよ」


 キョロキョロと辺りを見回す私に、ロイ爺がそう言ってくれた。



   ◇◇◇



 おおよそ二時間後、その海岸に着く頃には空はいくらか明るくなっていた。ヴィタリスなどでも日の出前や日没後の数十分は見られる不思議な色の空が、極夜の世界では四時間くらい見られる。


 私はボートで海岸へ行くのを遠慮させてもらった。海賊の仲間はいつ現れるか解らないので船長は船に居た方がいいというのもある。


 海岸の様子は甲板からでも見える。ルードルフの言う通り長いボートが打ち上げられたままになっていて、その周りには……海賊が強奪しようとしていた物資と、十人ばかりの男達が転がっている……あれは昼寝をしているのではないだろう。



 ハイディーンとボリス、ルードルフは実況見分を終えると戻って来た。フルベンゲンから来た手伝いの人々と農場のおばさんは、このまま奪い返した物資を農場まで人力そりで持ち帰ると言う。


 老ルードルフは落ち込んでいた。私の目には彼が何か間違った事をしたようには見えないのだが。

 彼は旅の途中で子供が誘拐される所に出くわし、自分をも獲物にしようと襲って来た海賊を返り討ちにして、子供を救い出したのだ。


 私は一緒に実況見分に行って戻って来たウラドの顔を見る。ウラドも同様の考えを持ったようだ。


「ルードルフ殿は私達に子供の事を話さなかった事と、海賊とはいえ手に掛けた事を悔いておられるのだと思う。私は仕方が無いと思う……彼はあのシロクマの岩室いわむろで自分が救助されたと考えていて、それ以上の苦労を船長や砦の男達に掛けたくなかったのだ」


「海賊についてはどう……?」


「襲って来たのは向こうからだが、最後の一人まで斬る事はなかったと彼は言う。しかしその戦いではルードルフ殿もかなり負傷していて、相手に降伏を勧められる状況ではなかったのだと」



 それでも、帰りの船は軽い騒ぎになっていた。


「それにしても、何という豪傑だ! ルードルフ殿、フルベンゲンに戻ったら是非皆に紹介させてくれ! オコネル農場には気の毒だったが、彼等も正義が執行された事を知れば少しは溜飲を下げるだろう!」

「ヨーナス! エッベ! お前ら凄い人と知り合いになっていたんだな! ハハハ、俺も鼻が高いぞ」


 ハイディーンさんとボリスさんは大いに御機嫌で、老ルードルフやヨーナス、エッベに絡んでは高笑いしている。

 不精ひげにロイ爺、アレク、アイリさんまで混じって……まるで宴会のようだ。


「ささっ、シーニュの秘蔵ワインです! こいつを飲めば戦の疲れもカラリと吹き飛びますよ!」

「あら不精ひげ奮発したわね、はいはい! 英雄には私が注ぐから! さあルードルフさん、どうぞ」

「ワシもまだまだ老け込んでいられませんなあ。こんなにも元気な先輩がいらっしゃるとは」「本当に凄いですね!」


 そうかと思えばヨーナスとエッベは……また艦首のあたりに行ってしおれている。さっきあの海岸に向けて出港した時は元気一杯で操帆に見張りに駆け回っていたのに。

 カイヴァーンも一緒になって。三人で背中を丸めて何をしているのか……


「船長……タックを変えていただいて宜しいだろうか」

「へーい」


 仕方がないのでフォルコン号は私とウラドが二人で動かしている。フルベンゲンまで、帰りは三時間かかるかしら。

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本作はシリーズ四作目になります。
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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
皆さんの1人称・2人称が目まぐるしく移り変わっているのが、この辺りで特に面白いところです。 「海のなまこ(男)」「マ(姉)……船長」「吾輩、わし(私)」 言語体系、変装、自称騎士見習いと、背景となる事…
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