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アイリ「ウラドが行くなら大丈夫よね……?」カイヴァーン「ウラド兄貴が一緒なら……うん……」

フルベンゲン名物の極光鱒。美味しいけどこれも近年不漁続きだとか。

そして元気の無いヨーナスとエッベ。やっと帰って来れたのに。何でかな?

 私が船に戻った頃には雪が止んでいて、雲間から少し明るくなった空が見えていた。

 極夜と言ってもずっと真っ暗な訳ではない。時間によっては空が色づく程度に明るくはなる。


 さて。フォルコン号はコルドンでイプセン市長から預かった荷物も渡したし、毛織物の商品も売り尽くしてしまった。

 この村で仕入れられる商品でもあれば良かったが、村人達はコルドンからの連絡船ぐらいは期待していたものの、外国の商船が来る事は予想していなかった。今、村には外国に売るような商品は無いようだ。


 ヨーナスとエッベはきびきびとした動きで、荷車に積んで持ち帰って来た空き箱や資材を船に積んで行く。急いでもいないしそこまで一生懸命やるような仕事でもない。


 どうするんだ。この二人を。


 フォルコン号の水夫にしてこれからも一緒に旅をするのか? 私は既にそうしてもいいよと言ってしまったので、二人がそうしたいと言い出すならそうしないでもない。

 本当の事を言えば、そりゃ、まだ早いとは思うけど……二人とももう少しお母さんと一緒に居ていい歳だと思うよ? 優しいお母さんが居て羨ましいじゃないか。

 フルベンゲンの掟とその罰則の事はどうなのか……それがあまりに厳しい罰則だというのなら、逃げ出すのも仕方ない。


 どちらにせよ、決断は本人達にさせないといけない。

 でもなあ。そんな人生の重大な決断を子供に迫るというのは、何とも気が引ける……両親と別れるか村の罰を受けるか選べと? それを言わなきゃならないのか。


 私は甲板を見回す。誰か代わりに言ってくれないかなあ。

 副船長のロイ爺に頼もうかなあ。それとも彼等の上官を買ってくれたウラドか。良き兄貴であるカイヴァーンはどうか?


 駄目だ。これは私の仕事だ。私の責任でやらないといけない。


「フレデリク船長! 空き箱を積み終わりました!」「できあがり!」


 二人もちょうど、仕事を終えて私の所に来て、敬礼などしている……私は覚悟を決めて切り出す。


「なあ、ヨーナス、エッベ。そろそろ気持ちは決まっただろう? 船を降りる時が来たんじゃないか?」


 二人は同時にびくりと震え、目を見開いた……

 その時だった。


「おーいフレデリク船長、ちょっといいか? ヨーナスとエッベを少し借りられないかー?」


 戻って来たハイディーンさんが波止場で手を振っていた。




「君らが持って来てくれたコルドンからの荷物に、クレーンの部品や四分儀、信号弾が入っていた。イプセンに頼んでいたやつでね、北の砦に行った連中はこれを心待ちにしてるんだ」


 ハイディーンさんは渡し板を渡ってフォルコン号の甲板にやって来た。この人が甲板に居るとこの人が船長に見えるわね。


「北の砦にはそいつらの親父のボリスも居るからな、あいつも心配してたし、ヨーナスとエッベが戻ったと知ったら喜ぶだろう。それに二人の他には今この村を出られる男が居なくてな」

「ちょっと待ってくれ。北の砦ってさっきの40km離れてるっていう」

「ああ」

「ああって、そんな所に少年を二人だけでやるんじゃないよな?」

「お前さんが二人は一人前の男だって言ったんじゃないか」


 私は思わずヨーナスとエッベを見た。二人ともきょとんとしたまま目を見開いている。


「いや言ったけど! 極夜の最中にそんな二人だけでなんて危ないじゃないか! ああ、北に40kmの砦ってもしかして外洋に面しているのか? だったらフォルコン号で行ってやるよ、それでもいいんだろう?」

「うーん、この時期の外洋は頻繁に時化るし、北の海岸線は船で近づける場所も少ない秘境なんだ、俺達だってそこへは陸路で行くんだよ」


 開いた口が塞がらない。まさかこれが二人に課せられた罰じゃないでしょうね? 真っ暗な真冬の原野を40km、少年二人で歩かせるの? 冗談じゃないですよ!


「冗談じゃないうちの水夫をそ「俺行くよハイディーンおじさん!」「俺も!」


 私の台詞を遮って二人は前に出た!? 何で!? 何考えてんのこの子達、あ……でも急に私の方を振り返って……やっぱり不安そうな顔をしてるじゃん!


「待て! 男手が足りないって言うなら僕も行ってやる!!」


 後先考えず、私はそう口に出していた。

 まあ、ハイディーン……この大男がさすがに部外者である私の出しゃばりは止めるだろうと……


「そいつは助かる、それなら皆も納得だ、まあ確かに子供二人じゃ心配だと俺も思っていたんだ。ハハ、上手く行く時は上手く行くもんだな」


 ヨーナスとエッベは。


「やったああああ! フレデリク船長も一緒だ!!」

「北の砦に行こう! 船長も一緒に! やったよ兄ちゃん!!」


 互いに手を取り合い、飛び跳ねて喜んでいる……

 私はポカンと口を開けたまま硬直していた。私もこの極夜の雪原を、40km歩くの……?

 私は辺りを見回す。アイリさんは腕組みをしてこちらを見ているけど、いつものように止めに来ないのはストーク語の会話が解らないからだろうか。カイヴァーンもただぼんやりこちらを見ている。

 代わりに飛んで来たのはウラドだった。


「ちょっと待て! うちの船長を勝手に連れ出されるのは困る!」

「ああ、そりはちょうど四台あるんだ、あんたもどうだ? 向こうの連中は俺ほどストーク語が話せない奴も多いから」

「む……ああいや私は……そうだ、私が行けばいいのだ! 船長、貴方は船に必要な方です、ここに居て下さい、ヨーナスとエッベの監督は私が引き受けます」


 ウラドはそう言ったが。私の耳はハイディーンさんの()()言葉を聞き逃してはいなかった。


「待ってくれハイディーン、()()というのはどういう事だい?」




 港からフルベンゲンの集落を挟んだ反対側にその場所はあった。場所と言ってもそこにはただ家と小屋があるだけだ。そこに。


「バウッ!! バウッ……」

「バフ、バフ……ワウッ」

「ガァァァフ……バフ……ワンッ!! ワンッ!!」


 きゃあああああああ出たああああああああ狼だ! 狼犬ですよ! それもヴィタリスの森でウサギを追い掛けてるようなやつと全然違う! でかい! 毛が長い!

 そしてたくさん居る……!


「雪と雨が何度か降った後だから、北の砦まで氷原は繋がっていると思う。ま、途中いくつか難所もあるかもしれんが、ヨーナスもエッベもボリスと一緒に何度か往復してるから、大丈夫だろう。一人でソリを預かるのは初めてだけどな」


 ハイディーンさんはニンマリと笑い、腕組みをしてうなずく。

 はっきり言ってヨーナスとエッベは大はしゃぎだ。今までもこの犬ぞりを一人で操ってみたくてたまらなかったのだろう。

 言うまでも無いが私も大はしゃぎである。

 今回はぶち君もついて来ていないので白状すると、私はたぶん犬派である。だって犬は私が構ったら思い切り構い返してくれるのだ。ていうかぶち君は抱っこもさせてくれないし……


「こ……怖く無いの? 船長」


 アイリさんもついて来ていた。私がウキウキして出掛けるのを見て不安を覚えたそうである。今は狼犬に抱き着いて雪原を転げ回る私を遠巻きに見ている。


「こっちが怖がると犬も怖がるんだ、こうして友達だよって教えてあげれば平気平気」


 カイヴァーンもついて来ていたが、明らかに猫派な彼はアイリさんよりさらに離れて見ている。


「俺も行きたいけど……そりが四台しか無いんじゃしょうがないな。ウラドの兄貴、姉……船長を頼むよ」


 ウラドは落ち着いた様子で簡単に犬を撫でて馴らしてしまった。私のようにベタベタしない。これはウラドも犬派ですね、扱いが手慣れてますよ。


 ああ、犬ぞり……それこそ物語の中でしか見た事が無かったし、本物に乗れるだなんて思ってもみなかったよ! そしてそりを引いてくれる大きな犬共の何と可愛い事か、ああ、甘噛みして来ますよ、


「バフッ! バフッ! ウウー……ガルルル」


 この子だけ、ちょっと痛いな……痛い、いたたた!

 白金色の毛並みを持った狼犬が一頭、ちょっと痛い感じでじゃれて来る……でかい! 立ち上がったら私より大きいんじゃないの!?


「いたたた、やり過ぎ、やり過ぎ……な、なんかこの子だけ凄い目で僕を睨んでるんだけど……」


 青灰色の瞳を怒らせ痛い感じで絡んで来る大きな狼犬……力も強い! 前足でバシバシ叩いて来る! あと重い! もう無理、ハイディーンさん助けて。


「おかしいな、こいつは犬共のリーダーで普段は大人しい奴なんだが……やめろってエレーヌ、お前一体何を怒ってるんだ?」

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本作はシリーズ四作目になります。
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マリー・パスファインダーの冒険と航海
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[良い点] 凄いな、凄いなぁ。これは今の時代に必要な物語だ。娯楽の鑑だ。
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