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エッベ「兄ちゃん! 大丈夫か!?」ヨーナス「俺かっこ良かったよな? 今の俺めちゃめちゃかっこ良かったよな!?(涙ポロッポロ)」

タコに奇襲され打ちのめされたレイヴン軍艦。

彼等との共闘を選択したマリー。タコの行動を予測し奇襲を仕掛け返すフォルコン号の面々。

オーロラ輝く北極圏の海! 正午でも太陽の出ない極夜の夜に勃発した、人類vsタコの死闘!

その勝敗の行方は!?

「ああああああああ!!」


 その時、横から真っ直ぐな銛を手に誰かか飛び出して来て、それを想いきりタコの足の真ん中に突き立てた! その突き刺さった銛が静索や手摺りに引っ掛かり、タコの足の動きが乱れ……放り出された不精ひげが、甲板に叩き付けられる!


「不精ひげ!?」

「ぎゃふっ……! た……助かったぞヨーナス」


 ヨーナス!? 隠れてろって言ったのに! 銛を手に突っ込んで来たのは私より三つくらい年下のヨーナスだった。


「きゃあああっ!?」


 そして私がどうにか立ち上がると同時に、アイリさんの悲鳴が聞こえた。それから海面に落ちる水音が……まさかアイリさん!?


「ぎゃあっ!!」


 アイリさんの方に気を取られていた隙に、たった今飛び出して来て不精ひげを助けたヨーナスが、鞭のようにしなるタコの脚に吹き飛ばされ、3mばかり飛んで波除け板に叩き付けられた。

 まずいよ、最初の奇襲は成功したけど皆どんどんダメージを受けてる……私は短銃を拾い上げる。頼むからあと5発!


―― ドン! ドン! ドン!


 ヨーナスをなおも打ち据えようとする鞭のようなタコ足を、起き上がれない不精ひげを再び捕まえようとするタコ足を、あと少しで千切れそうなマストに絡みついたタコ足を、私は撃つ。


―― ギシギシ……


 フォルコン号の船体が、マストがきしむ!


―― ドン!


 もう一発……!


―― ガチッ……


 あれ……ああっ!? 引き金が引けない!? さすがに熱を持ち過ぎたのか、私の短銃は弾が出なくなった……


―― ピシッ……ピシッ……


 あああマストが! マストが悲鳴を上げてる!

 私はそこでようやく、目の前に不精ひげのカトラスが落ちている事に気付く! これであとちょっとで切れそうな足を……!


「やあああああああっ!」


 不精ひげに習った通り。しっかりと体重移動の力が剣に乗るように。私はタコ足に斬りつける。


―― ブツッ……!


 斬れた!! 斬れたよ!! ああっ!? だけど揺り戻しが!! フォルコン号が揺れている……らしい、私船酔い知らずだから解らないけど! あ……カイヴァーンとウラドが甲板に戻って来る……



 そのタイミングで舷側の向こうを見た私の目に、信じられない物が映っていた。


 レイヴンの水夫と海兵達はその三分の一近くが、船の激しい揺れやタコ足による薙ぎ払い、直接絡め取ってからの引き込みなどで、海に落とされていた。

 緯度の割には温かいなどと言うスヴァーヌ海の海水だが、人間にとってはとても冷たい。しかも辺りはオーロラが照らしているとはいえ夜中である。


「うおおおおおおお!」「押せええええええ!」


 そんな環境で海に落ちたら、私なら泣いてしまう。泣いて助けを呼ぶ。その他の事は何も出来ない。


「もう少しだ、踏ん張れ!」「おりゃああああああ!」


 だけど数十人のレイヴンの水夫や海兵達は、自ら泳いで助かろうとするどころか、マストを失い急旋回出来なくなった母船に取りつき、力を合わせて足をバタつかせ、船の向きを変えようとしていたのだ。



 そして今やコルベット艦の左舷砲列は、真っ直ぐフォルコン号と超巨大タコの方を向いていた。

 どうやら私達は、時間を稼ぎきったらしい。



 距離は30mくらいだろうか。

 私はコルベット艦を見ていた。コルベット艦の方でも……やっぱりあれが艦長なんですかね? あのマカーティという男がこちらを見ていて……頷いた。


「頼むからタコを外してこっちに当てるなよ」


 私はつぶやく。その声は向こうには聞こえていないだろう。



「ありがとよ俺達に復讐のチャンスをくれて、命があったらいつかビールで乾杯しようぜストークの馬の糞が! ぶっぱなすから伏せていろてめえらがぶっ放したクソの礼だ撃てぇぇええええ!」



 向こうも何か叫んでるけどよく聞こえないしレイヴン語だから解らない。


「伏せろォォォォ!!」


とにかく私は叫びながら慌てて耳を塞ぎ甲板に伏せた。



―― ドゴォォ!ドガァァ! ドッゴォォォォン! バァァン!



 フォルコン号の大砲の8倍くらいの大きな音が、立て続けに響いた。



   ◇◇◇



 アイリさんは落水していた。私は舷側から海面近くまで下りて海に落ちたアイリさんの手を捕まえ、甲板まで引き上げていた。

 本当に、本当にどうして……いい所のお嬢様だったアイリさんが真冬のスヴァーヌ海で超巨大タコと格闘した挙句、海に落ちなくてはならないのか……


「アイリさ……アイリ! 寒いだろう今火を起こす! 艦長室を使うか!? アイリ! 大丈夫か何でも言ってくれ!」

「寒い……裸になって裸の船長に抱き着きたい……」

「あ……出来ればそれ以外で……」



 終始頬被りをしたままだった不精ひげは結局頬被りをしたままお腹が痛いと言い出して船員室に立て篭もってしまった。もう知らん。

 アレクとロイ爺とウラドにはフォルコン号の点検を御願いした……ミシミシとかパキッとか、嫌な音をたくさん聞いた気がする……この船、大丈夫かしら……


「船長! 俺もう一人前のなまこ。何でも言ってぽい」


 そしてヨーナスは鼻高々だった。あの怪物に一太刀浴びせて仲間を助けたのだ。高くていいと思う。その分エッベは少し落ち込んでいた。


「俺もアニキみたいに役に立ちたいニキ」

「君もよく働いた。焦る必要は、無い」


 私は自ら舵を取り、カイヴァーンに操帆してもらい船を少しだけコルベット艦に寄せる。



 超巨大タコは消えた。

 アイリやカイヴァーンやウラドに接近戦で切り裂かれ、最後はコルベット艦の片舷斉射を喰らい、命からがらの体で逃げ出した。

 逆に言えばこちらも仕留める事が出来なかった。コルベット艦のかなり大きな大砲を何発も直撃されたのに、大変な生命力だと思う。


 コルベット艦はボロボロだ……海に落ちた乗組員達も順次引き上げられて行くが、海に落ちなかった乗組員も、士官から見習い水夫まで皆ずぶ濡れのようだ。


 フォルコン号とコルベット艦は、10mの距離を置いて並んだ。

 私は舵から離れ、舷側に立っていた。



「おい。何とか言ったらどうだ? さぞや愉快だろうがこのクソが!」


 向こうの多分艦長……マカーティはやはりずぶ濡れで、酷く興奮した様子で何か叫んでいる。それをあの時も居た額の広い副官らしき人がたしなめている。


「おかしくてたまらねえんだろうが! 笑えよストークの馬の糞野郎! それで俺達をどうする! こっちは見ての通り動けやしねえ! その豆鉄砲で嬲り殺しにでもするのか? ああ!?」

「艦長! 艦長、有り得ません、今は誠心誠意彼等に協力を要請すべき時です! 艦長、我々は苦しんでいます!」


 そこへウラドがやって来て、彼等のやりとりを程よくマイルドに訳してくれる。


「うるせえハロルド! こいつが何を考えてるのかまだ解らねえんだぞ! そうだろう! 俺達はストークの馬の糞野郎をとっ捕まえようとした、そこに糞タコが襲い掛かって来て俺達は死に掛けた、するとさっきまで俺達に追いまわされていた馬の糞が助けに来た……ふざけんなそんな御伽噺が信じられるか!! 聞いてんのかクソチビ! てめえ一体何を考えてやがる! 黙ってねえで何とか言いやがれ!」


 ウラドは途中まで精一杯それを無難な訳に変換して伝えていてくれたようだが、途中からは諦めて直訳してくれるようになった。


「船長……そういう訳だが……それと、相手は未だに船名も船長名も言っていない。さすがにその事はそろそろ指摘すべきではないかと思うのだが、どうか」


 私はレイヴン語は殆ど出来ない。特に聞き取りは駄目だ。だけどレイヴン語で適当に言いたい事を言うくらいなら出来るような気がして来た。


 私は適当なレイヴン語で言う。


「レイヴンの友人の皆さんこんばんは。私は服屋のフレデリクです。スヴァーヌの海はとても寒いです。私はとても暖かい服を持っています。レイヴンの友人の皆さん、濡れてない暖かい服を買いませんか?」

 今回の戦いではフォルコン号にも様々な被害が出た。船のダメージも未知数だし私はアイリさんが嫌々魔法を掛けてくれて愛用していた短銃を過熱による焼き付きで壊してしまった。それで得た物と言えば、タコがフォルコン号のマストに巻き付けて置いて行ったタコ足の先端だけだ。このままでは大損である。

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本作はシリーズ四作目になります。
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マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
[一言] 私掠許可証持ちの商船の前に航行不能な敵国の軍船。 マストは失っても船体そのものは無事で、搭載砲も揃ってるお得なセット。 あとはわかるね?
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