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アイリと不精ひげ「ああ……そういう考え方もあるんだ……」

「有り得ないわよ船長! さっきの一人で降伏するって話も有り得ないけど、あいつらを助けに行くって正気なの!?」

「船長さすがにこれはお人好しが過ぎないか、あの軍艦は今さっきこっちを撃って来たんだぞ」

「あのタコが僕らを助けてくれたと考える方がお人好しだよ! あいつはタコを獲ったり食べたりしないレイヴン人の船を襲ってるんだよ? ちなみに僕はストーク人でありながらタコ料理が大好きで、あのタコには僕らを助ける義理は全く無い。きっとあいつは単に船が嫌いなんだ、だからコルベット艦を片付けたらフォルコン号も襲うかもしれない。僕らだけであのタコと戦うのは無理だ」


マリーの一人称に戻り、戦いは続きます……

 何とかしてあのタコをレイヴンの軍艦に倒して貰えなければ、私達は船を捨てて陸に逃げるしかなくなってしまう。そしてにせストーク人のフレデリク君がこのへんの極寒の無人島で春まで生き延びられる可能性はゼロだ。

 助けて! 助けてレイヴン海軍!

 舵はロイ爺に御願いした。私は艦尾楼の上の物陰に隠れて指揮を執る。

 フォルコン号は真っ直ぐにタコとコルベット艦目掛け進んで行く。残り50m……


「不精ひげ、自分のタイミングで、絶対に当たるって所で撃ってくれ!」

「アイ、キャプテン!」


 サッタル船長の海賊船から奪ったフォルコン号の艦首砲には照準器もついていなかったそうだ。一応アレクが自作したのをつけたのだが、演習なんかしてないからどこまで信用していいかはアレクにも解らないとか。


―― ドン


 不精ひげの手により、フォルコン号の豆大砲が火を噴く……初めて聞いた時は何と大きな音かと思ったが、実際の所フォルコン号の大砲は大砲としてはかなり小振りな物らしい。

 オーロラが照らす海面の上を飛んで行った砲弾はどうやら、タコの後頭部にボヨンと当たったようで……暗くてよく見えないが、どうやら突き刺さりもしなかったらしいという事だけは解った。


 次の瞬間。タコの水平に線のある黄色い目の片方が……フォルコン号の方をギロリと睨んだ……ああ……怒ったタコがコルベット艦から手を離した。コルベット艦がめちゃくちゃに揺れている。

 ここまでは予定通りだ。予定通り過ぎるよここまでは!


―― ベキベキベキベキ!!


 ヒエッ!? 何?? ああっ!? コルベット艦の残っていたもう一本のマストが根元から折れる!? ぎゃあああああどうすんのこれは予定に無いよ! あれじゃあのコルベット艦動けないじゃん!?


 だけどもうやるしかない……もう賽は投げてしまった。


「来るぞあいつ! マスケット撃て! 舵は面舵10分!」


 撃てといってもマスケットは二丁しかない。それはウラドとカイヴァーンが持っていた。これに私の短銃を加えた三丁がフォルコン号の残りの攻撃力だ。


―― タン……タン! タン!


 これは私のただの勘で、根拠もないし理由も想像出来ないが、あのタコは多分大砲の音が嫌いなのだ。

 私のこの勘が当たっているなら。今頃タコはフォルコン号を襲おうと水中を移動中のはず……ぎゃあああ怖い怖い怖い怖い! 震えが止まらない!


 だけどどうしよう、最初の予定ではフォルコン号が攻撃してコルベット艦からタコを剥がす、タコがフォルコン号に組み付く、動けるようになったコルベット艦が大砲でタコを狙い撃つ……そんな事を考えていたのに、コルベット艦はマストを折られてしまった。あの船はあれで動けるのか? 一体どうするの!?



王国海軍兵士ロイヤルネービーよ!」


 その時不精ひげが。両手をかざし、コルベット艦に向けて叫んだ。


「諸君らは誰よりも頑丈である! 諸君らは誰よりも執拗である! 諸君らは誰よりも諦めが悪い! 黒き翼の旗を見上げよ、国王の敵は今見えり、立ち上がれ! 世界最悪の強者共よ!!」



 それはまるで魔法のようだった。

 不精ひげのレイヴン語の何かの言葉に反応し、甲板に倒れて震えていた水夫達が機敏に立ち上がって行く。冷たい海に落ちて絶望していた兵士達が必死に泳ぎ出す。



 タコはコルベット艦を離れ水面下に消えていた。いくらオーロラが照らしていても、さすがにこの明かりでは水中の様子までは見えない。

 先程までコルベット艦に真っ直ぐ向かっていたフォルコン号は面舵を切り、コルベット艦の左舷側をすれ違うように通過するコースを通る。

 そして私は黙っていると泣きそうだったし強がっていないと今にも艦長室に駆けこんでしまいそうだった。


「不精ひげ、空砲でいいからもう一発撃ってくれ! 僕らはここだとタコに教えてやれ!」

「アイ! キャプテン!」


 私は舷側の手摺りに足を掛け海面に目を凝らす……タコはどこだ……

 一瞬静かになった海。コルベット艦の艦長が何か言ってるのが聞こえる。


 撃て……? コルベット艦の方がダミーの空砲を撃とうとしている?


 ちょっと待った!! 自分の方が囮になるつもり? 冗談じゃない! それじゃどっちも助からないよ、何考えてんの向こうの艦長!


「撃つなー!! こっちが今撃つから!!」


 私はアイビス語で叫んでいた。通じるのこれ!? わかんない、早く、不精ひげ早く!


―― ドン


 ああ……良かった。空砲でも緊張感の無いフォルコン号の大砲が先に、頼りない火を噴いた……これで大丈夫かなあ。うん。



―― ザバアアアァァァアアアア!!


 ぎゃあああ゛ああああ゛ああああぁぁああででで出たああああタコタコタコタコタコが、超巨大タコがフォルコン号にのしかかる勢いで大木のような腕を伸ばしながら現れた! フォルコン号の舷側に現れた、そしてべったり組み付いた、ぎゃああああ目玉もでかいでかい怖い……


「来たわねぇぇええ!!」


 次の瞬間、私の後ろから、厨房用の白い上着と黒い長ズボン姿のアイリさんが飛び……


―― バサァァッ!!


 肩に担いでいた小麦粉の袋をぶちまけた!? アイリさんによればタコは海の生き物の中では最悪クラスに目がよく、故郷ラビアンでは養殖業者がタコによる生簀への侵入被害に困っていたのだと。しかし目が良いという事は、目が弱点にもなるはずだと。


「うらァァア!!」


 そしてああっ!? アイリさんがそんな蛮声をあげるなんて!? しかしアイリのあの服も船酔い知らずなのだ。アイリはそのままなんとタコのぬるぬるとしてそうな頭の上に飛び乗ってしまった! 小麦粉は滑り止めでもあるのか!?

 そしてその手の、刃渡り40cmを越える大型の鮮魚用包丁を……超巨大タコの頭に突き立てた!

 ああっ、違った、アイリさんが飛び付いたのは本当だけど蛮声を上げていたのはその向こうのカイヴァーンだった!

 カイヴァーンは勿論船酔い知らずを着てないが、見張り台から跳躍してタコの頭に見事飛び乗り、その天辺に……三つ又の銛を想いきり突き刺した! そしてその怪力で捻り回す!


「うおおおおおおお!!」


 ウラドまで!? あの暴力嫌いで戦う時も静かーに戦うウラドが気合を入れて、非常時に船体を解体する為の大斧を、タコの眉間に想いきり……!


―― ザクゥゥウ!!


 ギャッ!? 深々と突き刺さった大斧の周りからタコの何か解らない液体が……次の瞬間!


―― ブシュウウウウウウ!!


 ぎゃああああ墨がああああタコの墨があああ!! 甲板が真っ黒に染まる!? 私は慌てて飛び退く、あんなの食らったら死ぬ! 精神的に!


 タコは足をめちゃくちゃにくねらせていて、それがあちこちにぶつかる! どうやらアイリの目くらまし作戦が効いていて、こちら側の目が見えてないらしい。だから狙いはついてないけど! この暴れ方は危険だよ!


―― ドン! ドン! ドン!


 私はタコの足に向け立て続けに短銃を向け引き金を引く。少しは牽制の役に立っているのだろうか。


「うらああああああ!」

「この! このーっ!」


 カイヴァーンが、ウラドが、アイリが、分厚いタコの皮を何とか解体しようとするが……ああっ!? まずい、暴れ狂うタコの目のあたりが海水に浸かり小麦粉が取れて……その途端! タコは一本の脚を真っ直ぐに、フォルコン号の一本しかないマストに伸ばし、絡みついた!


「離せこの!」


 タコの足は根元は太いが先端はそこまででもない、私はメンマストに絡んだタコの足の途中を至近距離から撃ちまくる!


―― ドン! ドン! ドドン! ドドン!


 熱……熱いッ!? 引き金がだんだん熱くなって来て、ぎゃぎゃっ!? 銃身から煙が!?

 だけどタコの腕の先の方の太さ20cmくらいのこの部分は、あと少しで千切れそう……御願い! せめてあと5発……!


「危ない!」


 ぎゃっ!? 誰かが私を後ろから突き飛ばした!


―― ミシミシミシ! ペキッ……ペキペキッ……


 ちょっと! どこかから木材の砕ける音が! やめてぇぇ! フォルコン号が壊れる! だけど私は甲板に転がっていて見えない、何が起きて……


「ぬおおおっ……!」


 不精ひげ!? 不精ひげがタコの別の腕に絡め取られて締め上げ、吊り上げられている! 危ない!! 首が締まる、嘘でしょう!? あいつ私を突き飛ばして身代わりに……

すみません、タコとの戦い、まだ続きます……

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本作はシリーズ四作目になります。
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マリー・パスファインダーの冒険と航海
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