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第七話「幻装器手」

実はヒーローが着けているマスクもパンツだった可能性が。(*´∀`*)




Q.『パンツはあたまにかぶるものではない』

A.『そうですね』




-1-




「……おのれ」


 抗議のつもりでQAにメッセージを送ってみたら、反応に困る回答が返ってきた。意図が読めない。

 これは分かっててバカにしてるのか、何言ってんだこいつみたいな意味なのか、はいはい分かりました的なものなのか。

 普通ならバカにしてるんだろうなって結論になるが、まだ俺の中であの幼女の立ち位置は掴み切れていない。俺の脱糞ショーを覗いてしまったイベントで見せた反応が演技でない前提なら、あの幼女はこの部屋を監視しているわけではないらしいが、となるとガチャで何が排出されたかについても情報を持っていない可能性はある。単に見ていない、知ろうとしていないだけで、自分でフィルターをかけているだけに過ぎないのだろうが、その前提によって随分回答の裏に見えてくるものが変わってくるのだ。ボーナスなどで確実に取得するカードについては当然把握していても、ランダムで排出されるものに関しては、この時点ならこういうものを手に入れているだろう的な、大雑把な情報しか持っていないのかもしれない。

 それならば、俺の質問がイクイップカードのパンツに関するものとは捉えられない。つまり、俺の出した質問は向こうにとっても意味不明なものになるわけで。実は……。


Q.『パンツはあたまにかぶるものではない』

A.『(何言ってるんだこいつ、パンツは履くもんだろ……)そうですね』


 ……こういう意味合いの反応だったという可能性もあるのだ。

 あまりの理不尽さと入力フォームの使いづらさに端的にし過ぎてしまったが、本来であれば抗議にしても詳細が分かる内容にしなければいけない。自分が分かってる事が相手にも伝わっていると考えるのは大きな間違いなのだ。特に文面でのやり取りなど、ほとんど意図は伝わらないと思ってもいい。

 特にビジネス文書や仕事上でのメールなどは顕著だ。所属、役職を含む宛名から始まり、挨拶、メールの概要、記書きにこちらの情報を伝えるためのフッターと、面倒なフォーマットは一応意味があって慣習化されてる。

 それでさえ伝わらない事は多いのだから、こんなポンコツフォームでは意図を汲み取ってくれというのは無理があるだろう。


Q.『イクイップカードのパンツセットしたら、頭に装備されてたんですけど。おかしくないっスか? パンツって履くモンだと思うんですけどー』


 ちゃんと書くなら、せめてこのような形にすべきだ。それはそれで同じ回答が返ってくる可能性がないわけでもないが、こちら側の判断材料は増える。その上で……。


A.『パンツは頭にかぶるものでは?』


 という反応が返ってきたら、こっちが何言ってるんだって感じではあるが、そういう常識の元に回答していると最低限分かるのだから発展しようもあるだろう。

 つまり、面倒でも内容はちゃんと書くようにしないと意図の汲み合いですれ違いが生まれてしまうという事だ。実はそれを利用したギャグのつもりかもしれないが、そんなギャグを付き合ってやるつもりもない。


 あるいは、あの幼女がガチャの中身についてすべてを把握していない可能性もある。

 神様といっているのだから、多分システム的な部分については把握しているだろう。ガチャじゃなく、ダンジョンについても同じくだ。権限についてもトップである事はほぼ間違いないと考えるべきだろう。

 しかし、そこから排出される中身まですべてあの幼女が管理しているというも些か無茶ではないかと思うのだ。

 意味不明なレベルで多種多様なものが排出されるガチャの中身をすべて監査して、レアリティを振って、問題のあるものについては除外してという膨大な作業を一人でやるだろうか。特別なモノだけならともかく、重要でもなんでもないコモンアイテムまでだ。ある程度自動化しているか、別の担当者がいるというほうが自然だろう。どちらにしても認識の齟齬は起こり得る環境だ。


 まあ、結局のところ、この質問はあまり良くないという結果に落ち着く。お互いに情報が足りていない。俺が端的過ぎるな書き方をしてしまったから、あちらも情報が足りずに肯定しか出来なかったのかもしれない。

 ……そういう事にしておく。実際、俺も少し感情的になり過ぎた感はあった。ここは大人になるべきだろう。




「……これも、今後の課題だな」


 心を落ち着かせるためにおっぱいマウスパッドを弄りながら、俺はそんな結論に達していた。頭にパンツを装備してしまってから数十分後の出来事である。

 俺の苛立ち具合は、おっぱいに残る指の痕で察してほしい。……いかんな、おっぱいはもっと優しく揉むべきなのに。


 何故、わずかそれだけの時間で一日一回の質問が行えているのかといえば、実は今は夜中の二十四時を回ったところらしいという事が判明したのだ。

 つまり、この生活は三日目に突入した。別に時間が飛んだわけではない。単に俺の生活リズムがおかしかっただけの事である。

 時系列的には……。


<1日目開始>

・チュートリアル

・もどきと死闘

・すったもんだでゴブリン撲殺周回

・脱糞ショー

・幼女襲来


<2日目開始>

・二日目のログインボーナス

・質問フォームが出来る。

・幼女帰宅

・Q1.リストくれと要望

・ゴブリン撲殺ループ

・おっぱい揉む

・ゴブリン撲殺ループ

・寝る

・Q1への回答

・寝起きのゴブリン撲殺

・Q2.戦闘に対する忌避感についての質問

・Q2への回答

・トランクスの悲劇

・おっぱい揉む


<3日目開始>

・三日目のログインボーナス

・Q3.パンツの取り扱いに対する抗議

・Q3への回答

・今ここ


 ……となるのだが、まず気付くのは二日目の質問が二回行われているという事である。寝起きという条件が手伝った事と回答があった事でつい自然に投げてしまったが、いきなり一日一回の原則に反している。

 一日一回と言いつつ何度でも投稿出来てしまう不備かとも思ったが、三回目の質問を投げた直後の今は入力自体が出来ないようフォームがグレイアウトしている状態だから、二回投稿出来てしまったのはやはりおかしい。

 まあ、普通に考えるならおそらくそれ以前の一日目の分とかそういう意味なんだろう。神様や更にその上、あるいはスーパーメタ的なモノのミスかもしれないが、これについては多く回答を貰えているのだから別にいいとする。……いいとする。

 回数制限のかかっていない状態なら、これについても質問を投げていたかもしれないが、少ない質問権をわざわざ消費するようなものでもない。

 そもそも、気にすべき部分は別にあるのだし。


 ここでの最大の問題は、寝て起きてから数時間しか経っていないのに、すでに三日目に突入しているという事実だ。延長に継ぐ延長で寝ずに撲殺ループを始めてしまった俺も俺だが、それ以上に一体どれだけおっぱいを揉んでいたのかという話である。少なめに見ても数時間は確実だ。……恐ろしい。

 というか、生活リズムが目茶苦茶過ぎる。辛うじてログインボーナスで今が三日目の深夜0時直後くらいという事は分かるが、それがなかったら昼夜の感覚を完全に喪失していた。

 規則正しい生活を心掛けているつもりなどなかったが、社会人であり、基本的に日中の業務に勤しんでいたのだから、ある程度は正しいリズムで生活していたはずなのに。

 ここは、スケジュールを立てるためにも時計か何かが欲しいところである。と、一応心の中の欲しい物リストに加えておいた。

 腹時計以外の時間感覚は文明人に必要なものなのだ。




-2-




 というわけで、気を取り直して今日の活動を始めたいと思う。偶然ではあるものの、ちょうどログインボーナス配布時間というのも切り替えするタイミングとしてはいい。

 日本の一般的なサラリーマンは深夜0時を起点にしたりしないだろうが、そこは置いておく。

 プロジェクトマネージャー経験はないが、スケジュール管理には区切りというものは重要なのだ。ただ漠然と作業をこなすだけで進捗管理出来ていないプロジェクトは破綻するのが目に見えているのである。

 はっきりいって苦手分野だが、幸い管理する工数は俺一人分なのだからどうとでもなる。見積もりに失敗しても自己責任。気分は個人事業主である。


 反省すべき問題点がいくつか出た事もあるし、ここはちゃんとした形で目標ややるべき事をはっきりさせておいたほうがいいだろうと、早速ルーズリーフをマテリアライズ。すでに用意してあったボールペンを使い、これまでの情報と共に目標を書き出していく。机などはないが、メモ書き程度ならどうとでもなる。

 漠然と過ごすのではなく、こうやって記録に残す事は大事なのだ。

 ……いかんな。なんか文字を書いているだけで、俺が文明人に戻れた気がして感動してしまっている。


 まず、長期目標は元の世界への帰還だ。その手段をガチャから得る事が当面の目的となる。これは変わらない。

 しかし、これが最終的な目標になる事はおそらくないだろう。どうやら幼女の神様は俺を帰す気はあるようだが、それだけで終わるとは思えない。案外テスト出来たんで帰っていいですよと言われる事も有り得るのかもしれないが、それを期待するのは楽観的に過ぎる。あくまで暫定的な長期目標と考えるべきだ。

 出来ればその先でどんな無茶振りがきてもいいように態勢を整えておきたいところだが、それについては今後の課題としよう。


 そして、その長期目標に向かって俺がすべき事、出来る事は何か。単純にして明快、帰還手段が当たるまでガチャを回す事。それは当然だろう。では、その数を稼ぐためにはどうするかが中期目標になる。

 なんの情報もない初期の段階であれば、単にモンスターを倒してチケットを集めてガチャを引くのを繰り返すというシンプルな結論になっていたが、今はある程度情報が集まっている。何をどれくらいすれば何回ガチャを回せるという見込みだって立てられるのだ。


 たとえば、今のゴブリン撲殺周回のみで回していく事を考えてみよう。

 現在、ダンジョン一周あたりに要する時間は体感で二時間程度。回収できるカードは最大13枚。その内、チケットが出現する期待値は3枚ほど。2枚や4枚だった事はあるが、ここまでチケットが1枚もドロップしなかった事はないから無難な期待値といえるだろう。

 次に時間の割り振りだ。肉体労働である以上、睡眠時間は最低限というわけにはいかないから多めに見積もって8時間とする。

 通勤時間が必要ない以上、即仕事に移れるのがこの仕事の強みだ。活動時間をそのまま勤務時間へと変換可能である。しかし、だからといって睡眠時間以外のすべてを活動に割り当てる事は無謀極まる。普通の仕事でもそうだが、一切の休憩なしに人間は働き続ける事は出来ない。いや、出来るのは出来るのかもしれないが、効率は果てしなく落ちる事だろう。ましてや、いくらゴブリンが弱いといっても殺し合いを繰り返す現場では無茶が過ぎる。

 現実的に考えて一日4周の八時間。期待値としてゴブリンチケット8~14枚とログインボーナスのノーマルチケット2枚が一日の成果の目安といったところだろう。多めに見積もればガチャ16回である。

 ここまでガチャを回してきて、それくらい回せれば極端に飢えるという事はないと思う。つまり、無限に餓死し続けるという恐怖からは、ある程度脱したと考えていいだろう。

 これだけ見ても、多少だが状況は改善しているのが分かる。食料に余裕はないが、頑張れば蓄えられない事もない。カードのままなら保存期間を気にする必要もない。

 装備だって無手の全裸からは進歩した。カードをモノに変えられないなんて事もない。最低限……と言っていいのかも怪しいレベルではあるが、最低限の生活環境は確保している。拠点だけではあるが、パンツも手に入れた。


 ただ、この周回を続けている限り大幅な効率アップは見込めない。余裕を持った見積もりだから周回を増やす事は出来るが、根本的にはまったく変わらない。

 正直、ゴブリンは弱い。俺の筋力や体力が劇的に向上した事、殺し合いに慣れた事で半ば作業的に撲殺出来るようになっている。イクイップゾーンの枠が増えてブレスト・プレートを手に入れはしたが、これすら必要ないと断言出来るほどだ。心理的な壁を乗り越えてしまえば、すごく安全で誰でも出来そうな仕事である。自動車工場の期間工さんとかにオススメだ。

 しかし、チケット収集という目的で考えると、この周回の効率が良くないのは明らかである。このままルーチンワークを続けている限り、能動的に中期目標を達成する事は不可能と考えるべきだろう。運任せもいいところだ。


 このルーチンワークにおける最大の問題はモンスターの数が少な過ぎる事だ。現在のルートでの周回でエンカウントするのは二十匹より若干少ない程度で、実のところ二時間の周回のほとんどは移動時間なのである。

 そして、ドロップ的にも効率がいいとは言えない。用途不明のマテリアルカードが出る事自体は構わない。フリーゾーンを圧迫するというのなら捨てればいいだけだ。しかし、現状はチケットとゴミの選別をするまでもなく持ち帰れてしまっている。仕様だけ見れば13枚のチケットを持ち帰るキャパシティがあるのに、そこに大量のゴミが含まれたままだ。カードショップに売りにいけばロクな値段が付かずにワゴン行きになる事だろう。


 結局のところ、目標を達成する現実的な方法は探索範囲を広げる事という結論に落ち着いてしまうわけである。

 俺でも余力を持って倒せそうな敵、かつ数をこなせて、周回可能な狩場を見つけるのが今後の課題……中期目標となるだろう。


 最後に短期目標だが、これは大量に思いつく。

 大部分は生活環境の改善だ。少しでもいい生活を送る。食料なり衣服なり住環境なりに余裕を持つ。備蓄食料が欲しい。服を着たい。布団が欲しい。時計が欲しい。メモ帳が欲しい。それらの細かい改善を繰り返す事で、結果的にガチャを回す回数も増やしていけるはずだ。……あ、あと簡易農園じゃないトイレも欲しい。

 何も考えずに周回だけを繰り返してもこれらの改善は見込めるが、少しでも早く、少しでも良い環境をという条件を追加するなら必然的に中期目標の達成を目指す事になる。

 やはり探索範囲の拡張は必要なのだ。今の決まった道順を辿る周回ではなく、その先に目を向ける時期が来たというわけである。今の俺には、その余力がある。




 とはいえ、周回がパターン化してくると、そこから抜け出し難いというのも事実だった。ルーチンワークに慣れた社畜的なイメージが強いのがまた俺の反骨心を煽るのだが、俺自身も社畜に過ぎないという事なのかもしれない。別に前の会社がブラックとか、そういう事実はないのだが。

 必要なのは切っ掛けだ。どこかで行動の方向転換をする区切りがいる。


「というわけで、区切りを決める事にしました」

「ギッ?」


 思わずゴブリンに向けて口にしてしまったが、別にこいつに言ったわけではない。ただの独り言である。


「ふんっ!!」


 と、何言ってるんだこいつ的な顔をしたゴブリンに向けて棍棒を振り、目撃者を消す。死人に口なし。


[ ゴブリンの舌 コモン ノーマル/マテリアル ]


 ドロップしたカードにダイイングメッセージ的な深読みをしてしまうが、偶然だろう。いつものハズレドロップだ。


 というわけで、このルーチンワークを抜け出すために極短期の目標を掲げる事にしてみた。これらは現在に検証が必要と考えていて、ルーチンワークの中でも達成が出来ると判断したものだ。

 これらを達成した段階で探索範囲を広げる。そう決める事が大事なのだ。


・アイテム/チャージの検証

・チケット複数枚を一度に使用した場合にボーナスが付くかどうか

・ゴブリン300体討伐実績達成。次期実績内容の確認


 一つ目は、ブレストプレートやトランクスに紛れて排出されたイクイップ/チャージの検証である。これについては単純に装備して一周すれば検証終了する問題だ。実際に検証してみれば一周するまでもなく効果は確認出来たわけだが。

 まず、カードをセットして拠点を出ると、ステータス画面のイクイップゾーンからアイテムが取り出せるようになった。挙動はマテリアライズした時と同じだが、取り出してもカードそのものはなくならない。また、取り出したアイテムを戻す事も出来ない。実体化したアイテム……今回は500mlの水だが、これはマテリアライズしたものと変わらず普通に飲用可能だ。常温ではあるが、どこにでも売ってるミネラルウォーターである。

 そして、一度拠点に戻り、再度通路に出てみるとあら不思議。ミネラルウォーターが再度取り出せるじゃありませんか。水を生み出す無限機関と化したわけである。ちなみに通路に放置したペットボトルは繰り返す度に増殖するが、ダンジョンから戻って来たタイミングで消えるのでゴミ捨ての問題はない。拠点に持ち帰る事が出来ればリサイクル的な使い方も出来ただろうが、そちらもシステム上不可能である。

 この段階で大凡の仕組みは理解出来たといえるだろう。そして、念の為にいつもの周回をして戻ってみるが、その際の挙動もまったく一緒だ。要するに名前から最初に想像した使いまわし出来る装備品という認識で問題ないらしい。

 ただ、使い道については色々と工夫が必要だろう。便利ではあるもののイクイップゾーンを一つ占拠する事には違いないし、アイテムを実体化させた際の取り扱いにも注意が必要だ。

 今回は500mlペットボトルだから問題はないが、これが大容量の場合は持ち運び方法を別途検討しなければいけない。ベルトにぶら下げるタイプのペットボトルホルダーなどが便利じゃないだろうか。今はホルダーどころかベルトすらない状況なわけだが。

 まとめると、イクイップ/チャージは正に繰り返しダンジョン探索をする事を前提に作られた装備品という事になる。この環境において、使いまわし出来る消耗品というのは便利だ。

 おそらくだが、ポーション的な消費アイテムなども同じ分類で存在するんじゃないだろうか。エリクサー病にかかっていても安心して使えるハクスラならではの仕様である。これで食料品などが出てくれば飢える心配がなくなるのだが、そこまで都合良くはいかないだろうとは思う。


 次にチケットの同時使用ボーナスについて。

 これは、ソシャゲのガチャって確か10回分のガチャで11回引けたり、一枚だけ高レアリティが確定するような仕組みが多かったよなと思い至り、試してみる価値はあるんじゃないかと思ったための検証だ。

 先日までであればそんな余裕はなかったし、食料や紙を確保するためにガチャを回さずにおくという選択肢がとれなかったが、今なら10回分くらいのチケット貯蓄は可能と判断した。

 そして、その検証過程で別の問題が発生してしまうわけだが、それはどちらかといえば三つ目の目標による問題であるといえるだろう。


 三つ目の目標。ゴブリン300体討伐。すでに条件が開放されている実績をクリアするだけの目標だ。

 やり方は簡単で、ダンジョン周回してゴブリンを薙ぎ倒していくのを繰り返すだけでいい。必要なのは根気くらいである。


 しかし、この目標とついでに二つ目の目標であるチケット収集を行っている時に問題に気付いてしまった。




-3-




Q.『ダンジョンにはいちされているモンスターのかずがへっているようなきがするんですが』

A.『ダンジョンはフロアごとにリスポーン回数が制限されています』


「マジで……」


 四日目の質問に対する回答を見て、自分の懸念が正しかった事を認識させられてしまった。

 気付いたのは今日何度目かの周回終了時だ。これまで一周すれば大体フリーゾーンが埋まるくらいのドロップがあったのに、その周では空きがあった。

 その時は、チケット自体は三枚出たし、そういう事もあるだろうという感覚でいたのだが、次の周から明らかにゴブリンの数が減っている事に気付いたのだ。

 まったくいないわけではないが、体感的に半分程度。次の周回では更に減少が見られた。脇道に入るなどしてゴブリンを探索し、一応フリーゾーンを埋める程度には稼いだが、一度の周回時間は比較にならないほどに長くなってしまったのだ。ここから更に減るようなら、これまでのような周回は成立しない。餓死の危機再びである。


A.『出現がゼロになる事はありませんが、最減少時で通常の三割程度までフロアの総数が減少します。この制限は一定時間……第一層の場合は二週間に一度リセットされ、元に戻ります』


「…………」


 つまり、同じ場所で延々と経験値稼ぎせずに先へ進めって話なんだろう。全滅は不可能で三割程度残るならば足踏みも出来ない事はないが、効率は極端に落ちる。加えて、制限される範囲はフロア全体というのも問題だ。モンスターがリスポーンするタイミングや条件は分からないが、もし拠点移動などでリセットされないのだとすれば、全体の配置に偏りが生まれる。

 少なくとも第一層のゴブリンたちは出現している部屋から移動しないのだから、偏りが出来たら同じ道順の周回など成立するはずがないのだ。


 いよいよ、本格的に探索を始める時が来たという事だ。出来れば万全を持して挑戦したかったところだが、そういうシステムだというのならば仕方ない。

 煮え切らずに足を踏み出せない俺の後押しをしてもらったと考える事も出来なくはない……いや、それは前向き過ぎる気がしないでもないが、とにかく必要な状況に追い込まれたという事である。

 これがボカした回答であれば悩みもするが、ここまで明言されたのなら足踏みする気もなくなるというものだ。




「なら、余計にこのガチャが重要になるな」


 目の前で点灯しているガチャマシンの画面には『ゴブリンピックアップ10連ガチャ』と表示されていた。いつもの無機質なメッセージではなく、演出としてメッセージ欄外に表示されているのだ。


[ 高レア排出率UP! UC一枚以上確定! ピックアップ確率3倍! ]


 と、解説付きである。ガチャチケット10枚まとめて使用する事でこういった特典があるという事がはっきりしたわけだ。

 問題は同時に使う10枚にノーマルチケットとゴブリンチケットは混在出来ないという事。あくまで同じもの10枚でないと駄目らしい。

 加えてピックアップ確率3倍というメッセージだ。普通ならば喜ぶべきなんだろうが、たしか幼女二号がゴブリンチケットを使ったガチャはゴブリンピックアップになるとか言っていたはずだ。

 それはつまりゴブリン由来のものが出る確率が大幅に上がったという事で、高レアリティのものが出てもゴブリンなんちゃらである確率が高いという事なのだ。

 いや、蛮族棒はそのイメージ以上に役に立っているといえるのだが……こう、イメージがあんまり良くない。レアなゴブリンアイテムとか言われても微妙な印象しか抱けないのだ。


「この際、有用であればゴブリン由来のものでもいいんだが……南無三っ!!」


 と、いつもより割増しで祈りつつ、ガチャを回すボタンに触れる。


[ ゴブリンの腰巻き アンコモン イクイップ/アーマー ]


「Oh……」


 初っ端から目眩がするような結果だった。まさか、これが確定のアンコモンなのか。……というか、腰巻きってコモンじゃなかったっけ。


[ ゴブリンの棍棒 コモン イクイップ/ウエポン ]

[ サンドイッチ コモン ノーマル/アイテム ]

[ ゴブリンの秘薬 コモン ノーマル/アイテム ]

[ ゴブリンキック コモン スキル/アクション ]


「…………」


 半分ほど結果を確認した時点で手を止めていた。

 やばい。ゴブリンピックアップ三倍舐めてた。まさか、ここまで露骨にゴブリンアイテムが出るなんて……。しかも、使い道は要検証としても、一見して役に立たなそうなものばかりである。

 今の環境で再度ゴブリンチケットを10枚集めるのは容易ではないのだから、せめて一歩を踏み出す切っ掛けとなりそうなアイテムを排出してくれ!


[ ゴブリンの思い出 コモン ノーマル/アイテム ]


「いや、マジで頼む」


 何の思い出だか知らんが、ノーマル/アイテムじゃ期待しようもない。


[ パワースラッシュ アンコモン スキル/アクション ]


「おお……っ!! お?」


 おお、なんかちょっと良さげと思ってしまったが、次の瞬間何でスラッシュするんだよって自分にツッコミを入れてしまった。俺の使用武器は棍棒なのに。

 いや、きっと有用だ。役に立つと思わないとやってられない。これは最低限は確保したという心の防波堤なのだ。


[ 戦士 コモン イクイップ/クラス ]

[ 闘争心 コモン スキル/パッシブ ]

[ ナンバーアンカー アンコモン スキル/アクション ]


「これは……どうなんだ?」


 最後の最後で良く分からないものが大量に排出された。レアリティだけ見るなら大したものではないが、これまで見た事ない分類のものばかりである。


[ はじめての10連ガチャ達成 実績ボーナスを獲得しました! ノーマルガチャチケット1枚 ]

[ クラスカード初獲得達成 実績ボーナスを獲得しました! イクイップ/クラスゾーン+1 ステータスウインドウにクラスの項目追加 ]


 ついでに未知の実績解除が報告されて終了だ。こうして、俺の初10連ガチャは判断の難しい結果に終わった。




-4-




決して悪い結果ではない……と思う。思うが、良く分からない部分が多過ぎる。元々未知の部分が多いシステムではあるが、それにしてもだ。

特に分からないのが、< 戦士 >である。これがユニットカードなら分からなくもないのだが、カードの分類はイクイップ/クラスである。つまり、装備するものだ。


「クラスってなんだ?」


 ゲーム的に考えるなら、職業的なアレだろうか。

 今の俺は蛮族的な生活をしているが、一応営業マンだ。あるいは神の使徒かもしれない。そういった役割めいた肩書を変更するカードって事かもしれない。

 ただの営業マンよりは戦士のほうが戦闘には強いだろう。ひょっとしたら、そういう戦闘に関するボーナス的な能力が付与されるかも。


 などと色々思案してみるが、現物があるのだから検証すればいいとウインドウを開く。専用ゾーンっぽいものも追加されたようだから、単純に強化になりそうだ。

 メッセージで言われたように、ウインドウのイクイップゾーンにはこれまでの2枠に加えて、枠の付いたゾーンが追加されていた。ご丁寧に[ イクイップ/クラス ]という説明付きだ。

 一応、クラスカードと他のイクイップカードを使ってセットに関する検証も併せて行ってみる。

 結果としては、イクイップ/クラスカードはイクイップゾーンとイクイップ/クラスゾーン双方にセット可能。棍棒などのイクイップカードはイクイップ/クラスゾーンにセット不可という分かりやすいものだった。

 つまり、これはその名の通りクラスカード用の専用ゾーンだという事だ。ついでにイクイップゾーンを使って複数枚セットする事も可能っぽい。

 肝心の効果については……体感的な意味では良く分からなかった。しかし、クラス情報が反映されているかを確認するためにステータスウインドウを開いてみれば、そこには明らかな違いが見られた。


「なるほど。ステータスの調整が出来るって事か」


 これまで一切変動せず、すべて10というフラットな値だったステータスが変化している。

 力が+1、器用+1、代わりに魔力と抵抗がそれぞれ-1されている。そもそも、このステータス自体がどう反映されているのか分からないのだが、目に見える変化はあるというわけだ。どこまで有用かは分からないが、基本物理戦闘しかしない現状なら有用っぽくは見える。

 無意味だったとしても別段損になりそうな変化でもないし、問題があるようだったらカードを外せばいい。それはいいのだが……良く分からない事になっていた。


「< 幻装器手 >……?」


 ステータス画面に新たにクラスの欄が追加されていて、そこには< 戦士 >という表記があった。それは想定通りだ。しかし、表記されているのは< 戦士 >だけではなかった。


クラス:< 幻装器手 >

クラス:< 戦士 >


 表記上ではこうなっている。試しにクラスカードを外してみても< 戦士 >が消えるだけで、< 幻装器手 >のほうはそのままだった。

 固定されているガチャマシン以外何もセットしていない状態でも消えない。これは、俺の元々のクラスが< 幻装器手 >とやらだったという事なのだろうか。俺、営業マンだったはずなんだが。

 出来れば質問を投げたいところだが、今日の分の質問権は使用済である。


「……とりあえず、放置」


 良く分からないものを分からないままにしておくのは柄じゃないが、考えて分からないものは仕方ない。ここは明日、専門家に回答を貰うとしよう。




「あーーっ、気持ち悪い!!」


 だが、それはそれとして、モヤモヤするのには変わりないのである。





久しぶりに《 パワースラッシュ 》しようぜ。(*´∀`*)

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
確かにこれ無限回廊じゃん
[一言] 薄々思ってたっすけど…… これ、無限迷宮っすよね? ロリ達は何者なんだ……!!()
[一言] お姉ちゃんのジョブこれかー! ということは無限回廊案件?
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