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第三十九話「アシスタント」

決して、(*´∀`*)が色々忘れていたからではない。




-1-



 未だ文明人らしい生活には程遠いものの、それなりに環境が充実してきたのではないかと自画自賛する今日のこの頃。

 カードの枚数も増えてきて、なんのカードが足りないのか、なんの枠が足りないのか、なにをするためにそれが必要なのか、それらが猥雑になっている感がある。ここでちょっと現在のカード関連の情報を整理してみよう。


■ フリーゾーン

 現在のゾーン枠はNo.1が16枚、No.2が5枚。それに加えて< フライングバインダー >が持つ枠が10枚、< 探索用ウエストポーチ >が5枚。合計すれば、最大で31枚と持ち込み専用5枚になる。


 特に問題はない。もちろん増えれば増えただけ助かるし、いっその事無制限でも問題ないくらいだが、そこまで数が足りていないという気もしない。

 予備装備や消耗品などの探索用アイテム、カード回収可能な数に関わる重要な枠ではあるものの、これを増やすよりも他の枠の開放のほうが重要だ。

 長時間探索の場合、この枠が足りなくてチケットを捨てる事になる事も多いが、階層攻略とチケット収集を目的別に分けて考えれば問題ない。

 持ち込み専用の枠であるNo.2が開放されたのも大きい。用途がはっきりしているから、念の為にとカード枠を削って用意していたアイテムを検討の必要もなくここに放り込めるのだ。


 今後増えてきそうなのは、< フライングバインダー >のように独自枠を持つユニット。エクスプローラーなら荷役的な存在がいるんじゃないかと思っている。

 そして< 探索用ウエストポーチ >のような装備。普通に考えたらリュックなどの背負鞄や手持ちのバッグなどもあるだろう。キャリーのついた旅行鞄でもいいが、ダンジョンではちょっと使いづらそうだ。


□フリーゾーンNo.1[ ×16 ]

□フリーゾーンNo.2[ ×5 ]



■ マテリアライズゾーン

 拠点でマテリアライズするためのゾーンで1枠。多分増減もしないし、効果が変化したりもしないだろう枠。何も問題ない、語るべき部分もない。



■ ユニットゾーン

 現在のユニットゾーンは3枚。それに加えて、ペットゾーン1枚とアシスタントゾーン1枚。

 アシスタントゾーンは対象が存在しないため空のまま、ペットゾーンはリョーマこと< チワワ >が専有している。他にもペットはいるが、虫をセットする気はないので事実上リョーマの専用枠だ。

 通常のユニットゾーンで使用しているのは< フライングバインダー >、モブ夫こと< ヒューマン・ファイター >と、モブ次こと< ヒューマン >の3枚。これ以外、選択肢に入りそうなユニットカードがないため、検討の余地はない。


□ユニットゾーン①[ フライングバインダー ]

□ユニットゾーン②[ ヒューマン・ファイター(モブ夫) ]

□ユニットゾーン③[ ヒューマン(モブ次) ]

□ペットゾーン[ チワワ(リョーマ) ]

□アシスタントゾーン[ ]


 新たに探索可能なユニットが増えた場合、交換の可能性が高いのは< フライングバインダー >か< ヒューマン >の二択だろう。モブ夫は間違いなく最優先で検討の余地はなくスタメンだ。増えたユニットのタイプにもよるが、カード回収用に< フライングバインダー >、少しでも戦力を優先するなら< ヒューマン >という使い分けになるだろうか。



■ イクイップゾーン

 現在、俺自身が持つイクイップゾーンは3枚、アーマーゾーンが2枚、クラスゾーン、チャージゾーンがそれぞれ1枚ずつ。明らかに枠不足で、どう頑張ってもネタ的な格好にしかならない。モブ夫たちとの兼ね合いもあって、装備の選択肢も乏しい。


< 加賀智弥太郎 >

□イクイップゾーン①[ ウォーアックス+ ]

□イクイップゾーン②[ スタテッドレザーブーツ ]

□イクイップゾーン③[ 鎖帷子 ]

□アーマーゾーン①[ ファウルカップ ]

□アーマーゾーン②[ パワーグラブ ]

□クラスゾーン[ 戦士 ]

□チャージゾーン[ ミネラルウォーター ]


 アーマーゾーンは< ファウルカップ >と最近手に入れた< パワーグラブ >。クラスは< 戦士 >、チャージは< ミネラルウォーター >とほぼ専用枠のようになっている。

 自由度の高いイクイップゾーンは武器の< ウォーアックス+ >は鉄板として、< スタデッドレザーブーツ >、< 鎖帷子 >が候補に上がる。モブ夫の装備を捻出するために、ほとんど固定になっているのが寂しいところだ。


 一方、モブ夫の持つ枠は俺自身よりも優秀で、イクイップ3枚、ウエポン1枚、サブウエポン1枚、アーマー3枚、クラス1枚と充実している。この内、サブウエポン1枚とアーマー1枚は< 戦士 >が合成されている事による追加枠らしい。実のところ、これでも足りない気もしているから困ったものだ。

 装備は候補不足故に選択肢がほとんどなく、ウエポンは< ハルバード+ >。サブウエポンは以前< アイアンソード >を装備させていた時は< ゴブリンレザーシールド >を着けていたのだが、現在は長柄の< ハルバード+ >を扱う関係から空きになっている。

 イクイップには< ガントレット >、< トゲ付ショルダーパッド >、< サンタ帽 >、アーマーには< ブレストプレート >と< ゴブリンレザージャケット >、あと1枠は空きだ。

 クラスゾーンはモブ次が来るまでは< 見習い魔術士 >だったが、現在は装備するものがない。


< モブ夫 >

□イクイップゾーン①[ ガントレット ]

□イクイップゾーン②[ トゲ付ショルダーパッド ]

□イクイップゾーン③[ サンタ帽 ]

□ウエポンゾーン[ ハルバード+ ]

□サブウエポンゾーン[ ]

□アーマーゾーン①[ ブレストプレート ]

□アーマーゾーン②[ ゴブリンレザージャケット ]

□アーマーゾーン③[ ]

□クラスゾーン[ ]


 モブ次はイクイップゾーン2枚と非常に少ない。

 そのため、ほぼ固定で< ファイアボールの魔導書 >と< 見習い魔術士 >を装備している。

 後衛の固定砲台役で近接攻撃手段なし、防具なしという非常に割り切った構成だ。強化値が一つ空いているからカード名が変わって枠が増えるだろう< 見習い魔術士 >を合成してもいいのだが、まだ踏み切れていない。不可逆的な合成をするならもうちょっと良いカードを合成してやりたいというのが本音だ。


< モブ次 >

□イクイップゾーン①[ ファイアボールの魔導書 ]

□イクイップゾーン②[ 見習い魔術士 ]



 この他、ウエポンピックアップで一〇〇連を回した際に予備になりそうな武器も多く確保してあるため、最悪武器が壊れてもなんとかなる。

 ラインナップも< ポールハンマー >、< ジャイアントメイス >、< オークアックス >、< ゴブリンウォーアックス+ >と、脳筋かつ豪快な武器たち……いや、他にも色々あるんだが、俺が使い易いのはこのあたりなのである。

 とりあえず力で叩き潰せといわんばかりの武器は技術のない初心者の味方なのだ。上手く刃を立てられない< アイアンソード >など、俺にとっては鈍器と同じだ。

 人数が増えた今、足りないのは防具なのだ。


 また、ここで触れていない装備の中で、< ウエポンブースター >というアクセサリが存在するのだが、これは今のところ候補に入っていない。

 これは対象の装備する武器の攻撃属性を一段階引き上げる効果を持つアクセサリなのだが、同時に防具の防御属性も一段階引き下げられてしまうらしいのだ。

< ハルバード >のように複数の攻撃属性を持つモノでもすべて強化されるが、防御属性の対象はすべての防具なので、正直割に合わない。余程攻撃力に偏らせたいのでない限りは使い所が難しい。

 属性が一段階違う事でどれほど違いがあるのか分からないが、ゴブリンばかりが相手になる現状、俺たちに足りないのはどちらかといえば防御力なのである。かといって、攻撃と防御が逆でも使い辛い気はするのだが。



■ スキルゾーン

 現在のスキルゾーンは1枚、アクションゾーン1枚と貧弱過ぎる状態だ。ほぼ固定でスキルゾーンに< 闘争心 >、アクションゾーンに< マテリアライズ >という構成になっている。


< 加賀智弥太郎 >

□スキルゾーン[ 闘争心 ]

□アクションゾーン[ マテリアライズ ]


 モブ夫のスキルも似たようなもので、2枠あるスキルゾーンに< ナンバーアンカー >と< ランスチャージ >を装備している。以前は< パワースラッシュ >を装備していたが、どちらにしてもモブ夫はアクションスキルをあまり使わない。俺自身にも言える事だが、アクションスキルをあまり使い熟せていないのだ。


< モブ夫 >

□スキルゾーン[ ナンバーアンカー ]

□アクションゾーン[ ランスチャージ ]


 ちなみにモブ次はもっと貧弱で、< アイス・アロー >のみを装備している。


< モブ次 >

□スキルゾーン[ アイス・アロー ]


 実を言えば、スキルカードは意外に候補が充実している。< 強迫観念(睾丸破壊) >とか< ゴブリンキック >のような明らかに使わないものを除いても、< パワースラッシュ >、< ワンツー・コンビネーション >、< ストロングアーム >、< リミテッド・ウエポン・チェンジ >など使えそうなものが揃っているのだ。ついでに< ABパンチ >。

 しかし、これらは検証が足りず上手く使えていない事もあって、使い易い、汎用性の高いものを優先してしまっている状態だ。

 < パワースラッシュ >などの体が勝手に動く系は使い熟せず、< ワンツー・コンビネーション >などの装備を限定される系は状況に合わない。< ストロングアーム >などの能力強化系は選択肢としてアリではあるのだが、消費MPと継続時間、発動タイミングの問題がある他、強化された状態でバランスが変化する事によって動きに違いが出るという問題がある。

 < リミテッド・ウエポン・チェンジ >は咄嗟に交換して有用な武器が存在しないために優先度が低い。たとえば< 炎の剣 >と< 氷の剣 >的な属性付きの武器があったりしたらまた違うのだろう。


 訓練時間をとって< パワースラッシュ >などのスキル検証をしていると、これらが単に勝手に体が動くだけのスキルでない事が薄々分かってきている。

 ダメージが視覚的に確認できる< 武装訓練場 >のカカシ相手だと、単純に身を任せて発動するよりも、その動作に乗るように自発的に動かしたほうがダメージが出るのだ。コンマ秒以下だが、おそらく発動時間も異なる。



■ ベースゾーン

 現在のベースゾーンは4枠、リフォームゾーン、インテリアゾーン、エリアゾーンがそれぞれ1枠。構築に悩みが多く、入れ替えが最も頻繁に行われるゾーンである。ベースゾーンの1枠は最初から< ガチャマシン >が埋めていて固定状態にあるので、実質3枠ともいえる。

 その内1枠は< 武装実験場 >で、ここに< 水汲み場 >付きの< スモールルーム >を合成し、< スモールルーム >が持つ追加スロットに< ニーハオトイレ >をセットしてある。

 残り2枠は汎用枠だ。< カードラボラトリー >や< マテリアルリサイクラー >、< ブロック食料生産機 >、< カード記念館 >、< 鑑定部屋 >など留守中にリョーマが作業するものはここを入れ替えて使う事が多い。

 ちょっと前までなら< かんてい >もこの枠で使っていたのだが、< 天眼司教 >になって以降どうするかは検討中である。

 インテリアゾーンはセット可能なカードこそ多いものの、基本的に< アンモナイト >が入った< アクアリウム >が専有している。< アクアリウム >でなくとも構わないのだが、正直これといったものがない。

 エリアゾーンは汎用枠としても使えるが、セットしておかないと料理が出てこない< ぼっち食堂 >が常駐している。一日に一度の、数少ない楽しみである。カード変更するにも一日必要なので< レバニラ炒め定食 >ばっかり食ってるが、ご飯や味噌汁や漬物が付いてくるのが大きいのだ。飽きたら< 鬼盛りラーメン(濃厚味噌) >に手を出したい。ご飯が付いてくる< ラーメン定食 >も捨てがたい。



□ベースゾーン①[ ガチャマシン ]※固定

□ベースゾーン②[ 武装実験場(+スモールルーム) ]

 └□合成[ スモールルーム(+水汲み場) ]

   └□[ ニーハオトイレ ]

□ベースゾーン③[ 汎用①※ ]

□ベースゾーン④[ 汎用②※ ]

□リフォームゾーン[ 畳床 ]

□インテリアゾーン[ アクアリウム ]

□エリアゾーン[ 汎用3 ](主にぼっち食堂)


(※鑑定部屋 or カードラボラトリー or マテリアルリサイクラー or ブロック食料生産機 or カード記念館 or 天眼司教など)


 ここで触れていないカードの中で、< ウエポン強化マシン >という武器専用の強化施設も存在する。これは強化値を1消費する事で、対象武器のメイン攻撃属性を一段階引き上げるという効果を持つ施設だ。

 この説明だけだと有用な施設に聞こえるが、この強化には専用のマテリアルが必要で、要求されるのはこれまで一切目にしていないカードだったりする。おそらく、例の第二ダンジョンなどで採掘して手に入れるか、そこで手に入る素材を元にして作るのだと思うのだが、今のところは出番がない代物だ。

 アクセサリの< ウエポン・ブースター >同様、攻撃属性の違いでどれほどダメージに差が生まれるのかは正直検証不足なので、出番はまだまだ先のような気がする。




-2-




「……実に困ったな」

「情報があるというのも考えものだな」


 俺が現在悩んでいるのは、カード合成についてだ。それも、< 強化+ >の扱いが主になる。

 原因としては開眼してしまった司教こと< 天眼司教 >の鑑定結果によるものだ。

 これまでの簡易鑑定結果とは異なり、こいつで鑑定した場合、追加で合成などで+を付けた場合に強化される方向性、ついでに既知の合成パターンについて確認できるのだが、この+合成の情報が厄介なのだ。

 いや、知って損をするわけではなく、今回の問題は知った上で何を強化するかを迷ってしまうという意味でなのだが。


 まず最初にこの鑑定を行ったのは< 天眼司教 >の合成先として有力な< 鑑定部屋 >である。合成したらこれそのものを鑑定する事ができなくなるためだ。結果として、狙ったわけではないのにこれからの合成の指針を決めかねない内容が判明した。



< 鑑定部屋 >

 レアリティ:アンコモン

 強化値:☆

 分類:ベース/ルーム/小規模鑑定施設

 解説:カードの簡易鑑定を行う施設。同時に3枚の簡易鑑定が可能。

 強化+:鑑定時間、及びクールタイムの短縮(10%)/追加スロット+1

 強化++:鑑定時間、及びクールタイムの短縮(20%)/追加スロット+2

 強化+++:鑑定時間、及びクールタイムの短縮(30%)/追加スロット+3



 これを見て分かるのは、< 鑑定部屋 >を< 鑑定部屋+ >に強化する事で、鑑定時間とクール時間が一割短縮され、鑑定枠が一枚増えるという事だ。+を一つ増やすごとに同じように強化されるらしい。

 とはいえ、今のところ別に< 鑑定部屋 >を強化するつもりはない。おそらく、予定通り< 天眼司教 >を合成して、簡易鑑定×3+鑑定×1の4枚体制になるだろう。


 < 天眼司教 >の鑑定ならともかく、取得枚数の増えてきた現時点でも同時に4枚処理できれば十分だろうし、ここから更に枠を増やす必要性は正直ないような気がする。

 < かんてい >、< 天眼司教 >、< 鑑定部屋 >も無強化の場合の鑑定時間やクールタイムは同じだ。つまり、コモン一枚を鑑定するのに合計二時間必要なわけだが、カード入れ替えにかかる時間を無視するなら一枠で一日12枚のカードを鑑定できる事になる。四枠なら48枚だ。レアリティによって鑑定時間に差ができるとはいえ、一度鑑定したら同名カードは共通して情報が残る以上、入手したカードすべてを鑑定する必要もない。

 これで鑑定の枠が足りないというのはよっぽどだろう。毎日一〇〇連ガチャ回すなら足りないが、十連ガチャなら数回でもまず問題ない計算だ。九十九世界に行ったり、吉田さんの拠点に行ったりしてる間もリョーマが入れ替えているというのも大きい。

 ……まあ、鑑定の処理速度に関しては直接関係ないので置いておく。


 では何が問題なのかといえば、この鑑定結果から分かる< 強化+ >の有能っぷりである。

 これまで、+が付いたカードは< ハルバード+ >と< ウォーアックス+ >、あとは最初から強化済だった< ゴブリンウォーアックス+ >や適当に作った< ゴブリンの腰巻き+ >くらいで、これらの装備品はただ使っているだけではそこまでの恩恵を感じられなかった。

 実際には攻撃属性が強化されていたり耐久性が上がったりするようなのだが、攻撃力のような明確な数値が存在しない以上、比較対象がなければその差は実感し辛い。だからこそ換えのきき辛い武器のみに合成しただけで、他のアンコモンは手つかずのままだったのだ。


 モザイクと謎の光に晒されつついくつか< 天眼司教 >で再鑑定を行ってみたところ、カードによって強化される部分は異なるものの、概ねそのカードの重要な部分が一割くらい向上すると判明している。消費税で考えてみれば実感できるだろうが、10%って結構な数字だ。

 スキルは候補そのものが少ない上にそもそもが使い熟せていないから除外。ノーマルも意味がないとは言わんがそこまで効果は見込めないだろうから除外。ユニットは< ヒューマン >には合成できないようなので、対象外っぽい。イメージ的にはマシンならいけそうな気がするのだが候補がない。だから優先度の高い候補はイクイップかベース、特に追加スロットを増やせるカードはそれ以上の意味があるだろう。

 もちろん有用な合成方法は他にもあるのだろうが、とりあえずで合成するなら強化は極めて優秀な合成といえた。そのまま一割強化されるのだからハズレを掴み難い。


 カードを+にする場合、< 強化+ >を合成するか同名カード二枚で合成するという手段があるわけだが、基本的には手に入れ易い< 強化+ >を使う事になるだろう。

 その上……++や+++をどうやって作るかははっきりしないが、多分+までを含めた同名カード二枚合成になるのだと思う。……思うというのは単純にこの合成をできる素材が存在しないからだ。ウチの拠点で合成できるのはアンコモンまで。その強化値は☆か★で、合成回数は一回に限られる。合成したアイテムに更に合成するという事ができないのである。

 ただし、これは同名カード同士の合成による方法であって、合成素材……< 強化+ >を使った方法はまた別である。

 < 強化+ >を合成するのに強化値を一つ使うのなら同じじゃねーかと思うかもしれないが、< 強化+ >自体を二枚合成する事で< 強化++ >になる事はすでに判明しているのだ。多分、これで強化値1消費で++のカードを作る事が可能になる。残念ながらアンコモンの< 強化+ >が一枚しかなかったために、< 強化++ >は一枚しか作れていないが、多分大丈夫だろう。

 試せてはいないが、多分だが、+++も同様の法則なのだろう。


 現在の手持ちは< 強化+ >2枚に、合成した< 強化++ >1枚。カード名に+を付けるなら、この3枚が強化に使える事になる。


「さて、これらを何に使うか」

「保管しておくという手もあるが」

「……ない。全部使うんだ」


 俺は前を向いて生きていきたい。

 本当なら、俺としては何を置いても< ぼっち食堂 >を強化したい。できれば< 強化++ >で。そうすれば、料理の待ち時間に加えてカードスロットが増え、一気に俺の食事事情が改善するだろう……などと思ったりもしたのだが、実は< ぼっち食堂 >は最初から強化済である。ガッデム。

 良く分からないが、付与能力部分にある《 ぼっち食堂一式 》が強化部分なのだろう。おそらくは< ぼっち食堂一式 >とかいうカードがあって、< スモールルーム >かなんかと合成した結果が< ぼっち食堂 >だとかそういう事なんじゃないかと思う。< スモールルーム >を鑑定してもこの合成結果は出ないので、実際に合成結果を確認しないと記述されないか、この推測が間違っているのだろうが、どちらにしてもそう遠くはないと思っている。


「今さらだが< スモールルーム >の場合でも、追加スロットが増えるのだな。すでに< 水汲み場 >で埋まっているが」


 ちなみに、< スモールルーム >を強化した場合は一段階につき追加スロットが1増えるだけだったので、候補としてはちょっと弱い。

 強化枠を使って追加スロットを一つ増やしたら±0じゃねーかって思いがちだが、一応いつでも入れ替えできる枠が二つになるというメリットはある。++なら単純に増加だ。


「アンコモンで強化値の空いているものがそれほど多くないというのが厳しいな」

「< カードラボラトリー >を強化できりゃよかったんだけどな」


 < 鑑定部屋 >を手に入れるまで< かんてい >を鑑定する< かんてい >がなかったように、< カードラボラトリー >を合成する< カードラボラトリー >が存在しない。

 < 天眼司教 >の鑑定結果を見れば、一段階につき上限レアリティも一つ上がると分かっているのに。同じものでいいから< カードラボラトリー >が欲しい。


「候補としては< 簡易転送ゲート >か< 探索用ウエストポーチ >……が優先かな。あと一つは……< ファイアボールの魔導書 >?」


 第十一層前の中継地点で手に入れた< 転送ゲート >は元々転送先が決まっているからなのか、強化内容も一日の使用回数増加なのであまり魅力はない。< ブロック食料生産機 >は変換効率Up、< リレーポイント・ドレッサー >はそもそも強化対象外な上に何が合成できるのか分からない。

 その点、これらの候補は< 簡易転送ゲート >は使用後のクールタイム減少と登録先追加、< 探索用ウエストポーチ >は専用スロット+1と、どれも分かり易い強化内容だ。< ファイアボールの魔導書 >は現在の最大火力でもあるし、他の装備品と違って威力Upと消費MP軽減という分かり易い強化がメリットだ。

 まあ、色々悩んだが、なんでもかんでも< 強化+ >を合成すればいいってわけじゃないし、使ってもいいだろう。装備品は同じ合成素材の< 軽量化 >などもあるわけだし。


「< 強化++ >はどれに?」

「……< 簡易転送ゲート >だな。二箇所追加はでかい」


 第十一層前に行けるようになった今はまだマシだが、少し前まで第三層前からずっと転移先が存在しなくて長期探索をしなければ先に進めない状況だったのだ。今すぐ登録する気はないが、今後定期的に転送先が追加できるというのは気持ち的にも楽である。


 というわけで、合成によって< 簡易転送ゲート++ >、< ファイアボールの魔導書+ >、ついでに鑑定部屋( +天眼司教 )が完成した。

 < 探索用ウエストポーチ+ >だけはすぐに合成できないのでちょっと待機である。

 問題ないだろうとは思っていたが、< 強化++ >が☆一つ消費で合成できて一安心だ。


「少し気になるのだが、未合成のカードを合成しても、合成したカードを合成しても☆一つしか消費しないのなら、入れ子して無限に強化できてしまうのでは?」

「それは俺も気になったが、そんな穴を残す気がしないんだよな」


 リョーマが言っているのは、複数の効果が付与されたカードを合成素材として使用し、更にそれを別のカードに合成するという意味だ。

 今回は< 強化++ >だから分かり辛いが、たとえば< 超重化 >と< 重量化 >を合成して< 超重化( +重量化 ) >を作り、更にそれを別のカード……例があまりないから< ゴブリン最適化 >の合成素材をとすれば、< ゴブリン最適化( +超重化/+重量化 ) >ができて無限に強化できてしまうのではという懸念である。

 もちろん膨大なカードが必要になるが、一応アンコモンでもできなくはない仕様に見える。そんな少し考えれば分かるような穴を残すとも思えないのだが。



[ Q.入れ子合成を連続して行った場合、無限に付与能力が増やしていく事が可能な気がするのですが、これは仕様でしょうか ]

[ A.仕様ですが、付与できる能力はコモン、レジェンド、エクストラを除きレアリティ依存……☆の数と同じなので、限界はあります ]


[ Q.< 強化+ >が合成済のカードに< 強化+ >をつけた場合は? ]

[ A.付与能力は強化+/強化+となり、カード名に++が付きます ]


[ Q.では、それに更に< 強化++ >を合成した場合は? ]

[ A.付与能力は強化+/強化+/強化++となりますが、強化限界は+++が最大なのでカード名は+++になります。尚、ここに更に追加すると付与能力を消す必要があります ]


[ Q.付与能力数の上限オーバーで消す能力は選択できない? ]

[ A.合成時に選択可能です。そのカードが持つ固有能力は消去できず、上限数と別に扱います ]


[ Q.同一の能力を複数付与した場合、それぞれ別の扱いになるという認識でいいでしょうか? ]

[ A.はい。ただし、合成対象が< 強化 >や< 軽量化 >などの合成素材の場合、また別の合成ルールになります。これら合成素材は単一の効果しか保有できず、同一の効果を持つカード同士で合成した場合は一段階上の能力に昇華されます。< 強化+ >と< 強化+ >なら< 強化++ >ですね ]



「……なるほど」


 他にも色々分かってしまったが、とりあえず無限強化は不可能という事は分かった。

 ついでに、カード依存の固有能力が存在していたり、それを加味すれば上限以上に付与能力が追加可能な場合があると。

 最後の質問を確認するために< ゴブリン最適化 >と< 重量化 >を合成しようとしても合成不可だった。これらは単一の効果を付与するか、昇華するための同一合成のみを行う素材と。


 上限一杯の付与能力を持つカードの強化値が空いていても、上書き消去くらいしかできないな。なんか他にも使い道がありそうな気はするが。




-3-




[ あと、合成には関係ありませんが、ガチャ太郎ウインドウにプレゼント受け取り機能を追加しました。以降、ログインボーナス、実績ボーナスやミッション達成の報酬はここに格納されるようになります ]


 カード合成についてリョーマと話し合っていたら、質問してもいないのに神様から連絡があった。

 内容は、これまで適当に拠点のど真ん中に降ってくる形だった各種報酬をウインドウから受け取れるようにしたというものだ。確かにマテリアルゾーンの下にそれらしい枠が増えている。

 そして、その枠には< ブロンズチケット >が3枚入っていた。


[ テストを兼ねて、渡し損ねていた< 界間通信塔 >設置ボーナスの報酬を送付します。尚、プレゼントの格納後三十日経過すると、自動的に拠点へ排出されます。また、拠点内でしか受け取れません ]


「忘れてた」

「御主人様も色々あったようだから仕方ない」


 実績解除でもミッションでもなく、神様の口頭で依頼されてものだから、頭から抜け落ちていた。

 十枚貯めにくい< ブロンズチケット >だし、ちゃんと支払われるのなら問題はない。こっちから気付いたら更に補填を要求してたかもしれないが。

 追加されていたプレゼント機能に関しては可もなく不可もなく、ないよりはあったほうがいいかなというくらいだ。これまでも拠点のど真ん中に置かれていて見失った事などないし、リョーマが留守番している時はちゃんと回収してくれていたからだ。


「ガチャで爆死した直後に渡されていたら危険だったな」

「……マジで使ってしまいそうだから困る」


 できれば、< ブロンズチケット >も十連で回しておきたい。一枚確定するレアは正直持て余しそうだからアンコモン確定ってだけで回したくなるが、そこは我慢である。


「ミッションで結構稼いだからな。この3枚と合わせたら7枚だから、かなり十連が近付いた。問題は獲得手段が限られるって事だが」

「スペシャルミッションは継続中だから、あと三階層進めばボーナスで揃うな」

「無茶を言うな」


 第十一層の分を含めて7枚なのだから、それだけで10枚集めようとしたら十四層まで攻略しないといけなくなる。もう一回第十一層を攻略しろと言われても無理なくらいなのに。

 一応、第十二層前中継地点に< 簡易転送ゲート >の転送先を追加すればショートカットは可能だが、たった一層のために追加枠を消費したくはない。どうせ、第十二層も極寒地獄だろうし。


「そういえば、< チケットチケット >をまだ使ってないだろう? 案外、< ブロンズチケット >が出るかもしれん」

「……確かに」


 ちょっとありそうだった。前回は< システムチケット >が当たったが、俺の運を鑑みれば二回目以降は無難なモノが出る確率は高い。それを考えたら< ブロンズチケット >は超無難だろう。

 でも、一枚しか増えないんじゃもっともどかしい思いをするだけじゃなかろうか。……3枚とか当たったりしないかな。そういう仕様じゃないのは知っているけど。


 しかし、< チケットチケット >を使わない理由もないのでガチャを回してみる事にした。


[ シルバーチケット ]


 バーン!と効果音と合わせるような演出で排出されたのはまさかの< シルバーチケット >である。

 確かに< ブロンズチケット >より格上ではあるのだが、これだけじゃレア確定の単発ガチャにしか使えない。


「どうしよう、コレ。……まともな結果が出る気がしない」

「しかし、さすがにコレを10枚集めるのは無理があるのでは?」


 入手手段がいくつか提示されている< ブロンズチケット >と異なり、正真正銘これが初入手というのも問題だ。単発で回す他ないぞ。


 降って湧いた幸運なのか良く分からないチケットを睨みつつ思案していると、拠点の一部が光り、そこからモブ夫、モブ次、フライングバインダーの三人組が現れた。


「お、おかえり、首尾はどうだ?」


 問いかけてはみるものの、当たり前だが回答がない。だが、そんなに反応は悪くない気がした。

 実はといえば、拠点で色々やる間の時間を有効活用すべくモブ夫たちを俺抜きでダンジョンへ向かわせていたのだ。本体のいない自動探索である。

 もちろん、ロストの危険性を鑑みて第二層、第三層に限定して、フリーゾーンが一杯になったら戻ってくるという指示を出してある。さすがにこいつらがそんな浅い層で死ぬ事はないだろうし、事故の塊のようなゴブリン十六魔将と遭遇する危険もない。今のところ出会ってもいないから階層を移動して現れる事もないはずだ。


「……って、まあそうなるよな」

「ほとんどゴブリンパーツだな」


< 探索用ウエストポーチ >に入ったカードを覗いてみれば、ほとんどがゴブリンの部位で、一枚だけが< ゴブリンチケット >だった。


「チケットだけ回収って言えば、厳選してくれるのかね……って、こっちは、そこそこ……」


 フライングバインダーのフリーゾーンにはいきなり< ゴブリンチケット >があった。これは期待できるかもと確認していけば、やはりゴブリンパーツの山。やっぱりそうなるよなと、最後の一枚を見てみれば。


「ぶ、< ブロンズチケット >……?」


 馬鹿な。一体どういう方法で手に入れたというのだ。ゴブリン共のドロップテーブルにはこんなものないぞ。いや、一応?になってる部分はあるが、少なくとも俺は見た事がない。


「え、ちょ……お前ら、コレどこで手に入れた?」

「御主人様、錯乱してるのか。モブ夫たちは喋れんぞ」


 辛うじてフライングバインダーはピッピッ言っているが、それじゃ分からん。一体どうすればこんなものを第二、第三層で見つけられるというのか。

 なんとか意思疎通できないかと筆記用具を渡してはみるが、字は書けないらしい。しかし、代わりに絵が描いてあった。


「宝箱?」


 そこに描いてあるのは、パッと見た感じ落書きにしか見えないが、前提情報があれば多分宝箱だろうと思い至れるものだった。

 それなら確認できるとダンジョン・ニュースを確認すれば確かに獲得宝箱の数が増えているのが判明した。


「マジかよ……俺はこんなに探索しても二つしか見つけてないのに」


 しかも、一つは< 魔法の鍵 >を使って< 魔法の鍵 >を得るというネタじみた機会だったのに。正直、嫉妬せざるを得ない。


「実は、こいつらだけで行かせたほうが実入りがいいとかないよな」

「さすがにそれはあるまい」


 フリーゾーンの数から考えれば当然なのだが、納得がいかないものがあるのも確かだった。


「というか、彼らも休ませたほうがいいのではないか?」

「休……む?」


 リョーマに言われるまで考えもしなかったが、こいつら疲れるんだろうか。


「疲れるし、未セット時だと時間が飛ぶから休息にならんぞ。< 武装実験場 >でマラソンした時に思い知った」

「マラソンというか、アレは……」


 お前、ただちょっと走っただけやがな。

 しかし、当のカードであるリョーマが言うなら、こいつらも疲労という概念があってもおかしくはない。


「えーと、実は疲れてたりするか?」


 モブ夫は首を振った。


「……質問を変えよう。お前らって探索や戦闘で疲れたりするのか? それでパフォーマンス落ちたりとか」


 今度は頷いた。……マジかよ。確かに言われてみれば体温があったり、寒がったりしていたのだからそういう概念があってもおかしくはないのか。

 そうなると、こいつらだけを単独でダンジョンに放り込んで延々とグルグル自動回収ってのは厳しいって事だ。そう上手くはいかないもんだ。

 再び質問フォームを使って色々分かったが、エクスプローラーは普通に疲労し、それが積み重なれば能力値にマイナス補正が入る事が分かった。フライングバインダーはマシンだから疲れないようだ。別に食事も睡眠も必要なく拠点にいるだけで回復するようだが、ずっと探索ってのは厳しいらしい。


「致命的な事になる前に気づけて良かったな」


 最悪の場合、疲労がピークの時にゴブリンに殴り殺される……事はないだろうが、罠にかかってロストしていた可能性は否めない。

 とりあえず今は疲れていないようだから、< 探索用ウエストポーチ+ >を合成してから再度ダンジョンに放り込んだが。


「御主人様も鬼だな」

「だって、ひょっとしたらまた< ブロンズチケット >拾ってくるかもしれないだろ」


 多分偶然だろうが、もう一回くらいはあるかもしれない。俺がいない事で運勢的な何かが働いているかもしれんし。


「しかし、疲れてパフォーマンス低下しようが、< 採掘者の楽園 >のほうなら別に問題はないな」

「本格的に鉱山奴隷ではないか」


 字そのままだな。まあ、今のところやる意味はなさそうだが、検証の意味も兼ねて放り込んでみるのはアリかもしれない。ゴブリンとかなら良心の呵責もなく放り込めるんだが。

 というわけで、期待したモブ夫たちの第二アタックは< ゴブリンチケット >3枚という普通の結果に終わってしまった。やはり物欲センサーなのか。

 とはいえ、安全性の高い層ならユニットに任せた自動探索はアリだな。時間効率がいいとは言えないが、ゼロよりは遥かにいい。多分、最初の頃の俺と同じくらいだ。


「これで< ブロンズチケット >8枚か。こうなると後2枚どうにかならんかな」

「何か創造主様に売れればいいのだがな」


 そんな事言っても、今のところ引き取ってくれそうなのは応相談で< ABパンチ >くらいだしな。いらないといえばいらないが、それじゃ1枚にしかならんだろ。

 プレリリース期間だからか、デイリーミッションも更新されないみたいだし。


「いや待て、ひょっとしたら< 先代ゴブリン十六魔将の集合写真 >を提供すれば……」

「さすがに無理があるような気がするのだが」

「聞くだけなら質問権だけだし」


 そろそろその権利の回数も怪しい事になってるが、毎日増えるモノなのだから惜しむ必要はない。


[ A.いらないです ]


 結果は無残なものだったが。……そうだよな、< 先代ゴブリン十六魔将の集合写真 >があったところでなんの情報にもならんしな。写真を取れるくらいの文明レベルがあるっぽいのは分かるが、それはカード名見れば分かる事だし、そもそもガチャが捏造したアイテムかもしれんし。鑑定しても、解説は[ 古き日の思い出 ]しか書かれてないし。


「仕方ない。ブロンズ十連は諦めて、ゴブリン十連とノーマル十連を回そう」


 こっちは普通に足りているから問題ない。端数があっても、単発を引かないくらいに自制も効くはずだ。

 まずはゴブリンガチャ十連。


< 食べられないプリン コモン ノーマル/アイテム >

< 超リアル!大胸筋マウスパッド レア ノーマル/アイテム >

< 肉巻きおにぎり コモン ノーマル/アイテム >

< 全身タイツ コモン イクイップ/アーマー >

< ゴブリン松明 コモン イクイップ/チャージ >

< ネグリジェ コモン ノーマル/アイテム >

< 汚れないバスタオル アンコモン ノーマル/アイテム >

< エレキギター コモン ノーマル/アイテム >

< 巨大な庭石 コモン ベース/エクステリア >

< 膨張する大腿四頭筋 コモン スキル/アクション >



「超微妙!」


 全部が全部駄目ってわけじゃないが、必要ないモノばかりだ。今のイルカパジャマがなくとも< ネグリジェ >は着ないし、< 食べられないプリン >など目と食欲に毒なだけだ。

 一応レアではあるが、おっぱいマウスパッドの亜種らしい< 超リアル!大胸筋マウスパッド >も手を出したくないし、< 膨張する大腿四頭筋 >は一応検証くらいはするが、果たして意味があるのか分からない。

< 肉巻きおにぎり >と< 汚れないバスタオル >は素直に喜ばしいが、影響はなきに等しい。

< ゴブリン松明 >は……良く分からないから鑑定だな。松明とかいってるのに、腕が燃えているように見えるし。

< 巨大な庭石 >は新カテゴリであるエクステリアだが、これは単純にインテリアの屋外版という事だろう。


「全裸に比べたら、< 全身タイツ >は有りでは?」

「あんまり触れたくなかったが、駄目じゃないんだろうな。……試してはみるか」


 リョーマが言わなかったらスルーするつもりすらあったが、触れてしまったのなら仕方ない。

 そりゃ、一応防寒性能はあるだろうが、アメコミヒーローみたいになってしまう。彼らはあんな格好で街を出歩いて恥ずかしくはないのか。


「……インナーとして考えるならアリかもしれんな」


 しかし、実際に装備してみたらそこまでひどいモノでもなかった。防御力は大して期待できないが、防寒具としてはアリだ。見た目だって、裸よりはいい……と思う。某キャップや初期リーダーのように頭まで被るタイプのタイツだが、首から上を外す事も可能みたいだ。コレを着たところで第十一層の攻略は無理があると言わざるを得ないが、ないよりは遥かにマシである。なんなら、この上から< ゴブリンレザージャケット >を羽織れば、見た目もマシになるかも。問題は、それほど頑丈そうではないという事か。攻撃されたら結構簡単に破けてしまいそうだ。


「総評、次に期待!」


 というわけで、続いてノーマルガチャ十連である。



< スティックのり コモン ノーマル/アイテム >

< フルーツジュース(500ml 12本セット) コモン ノーマル/アイテム >

< コンビニの廃棄弁当 コモン ノーマル/アイテム >

< ビキニアーマー コモン イクイップ/アーマー >

< 五つ葉のクローバー コモン ノーマル/アイテム >

< 無脂肪乳(1ガロン) コモン ノーマル/アイテム >

< 骨壷 コモン ノーマル/アイテム >

< エレキショック コモン スキル/アクション >

< オートモザイク アンコモン イクイップ/アクセサリ >

< ひたすら伸びる豆の木 アンコモン ノーマル/アイテム >



「実に反応に困るラインナップだな。いつも通りとも言うが」

「< エレキショック >あたりは普通に使えそうだが 」

「検証次第だが、確かにな」


 これはネタっぽくないし、コモンで強化できないのか残念なくらいだ。

 扱いに困るのが< ビキニアーマー >と< オートモザイク >、< ひたすら伸びる豆の木 >だな。検証するのにも抵抗がある。前二つは俺の精神状態的に、最後のは植えたら最後、拠点が崩壊してしまう気がしてならない。

< コンビニの廃棄弁当 >は、多少賞味期限切れくらいなら普通に食うし、あまり美味くはなさそうだが< 無脂肪乳 >だって水代わりに使えない事もない。< 五つ葉のクローバー >は突然変異か何かだろうが、珍しいだけだ。


「うーん……」


 これまでの経験から考えれば、三分の一くらい使えるモノが含まれていれば当たりの部類だからナシではないが。


「コレっていうモノがないのがあんまり」


 過去にモブ夫を当てた時ほどではないが、もうちょっとコレっていう目玉が欲しいというのは贅沢だろうか。贅沢なんだろうな。

 完全に爆死ならそれはそれで諦めはつくのだが、微妙な結果が煮え切らない感じになっている。


「完全にギャンブル依存症の症状だな。ドーパミンに支配されている」

「人聞きの悪い事を」


 しかし、自覚症状はあった。ガチャの使徒としてなら正常なのかもしれないが、人としてはかなり問題だろう。


「つまり、御主人様が自力でドーパミンを放出できるようになれば改善するな」

「人間辞めるどころの騒ぎじゃないな。年中アヘ顔晒す事になるぞ」

「使徒なら大丈夫ではないか?」


 意識して脳内物質を生成して排出するのは化け物ってレベルじゃないだろう。体質的に量が多いくらいなら結構いそうだけども。


「しょうがない。どうせ攻略が行き詰まってるんだ。ここはチケット回収マラソンに挑戦しよう」

「一〇〇連かね?」

「いや、十連」


 十連分チケットが貯まったら即ガチャにしよう。一〇〇連はちょっと精神的なハードルが高すぎる。ぼぼ一日かかりというのもそうだが、十枚単位で貯まっているのに引けないのが精神衛生上良くない。


「ついでに< リレーポイント・ドレッサー >の感触も見てくる。リョーマは鑑定の入れ替えを頼む」

「承知した」




-4-




 というわけで< 武装実験場 >で休憩していた寡黙なパーティメンバーを引き連れて、終わりの見えないチケット回収マラソンに挑む。

 ぶっちゃけマラソンなら俺とフライングバインダーだけでも最大効率になるんだが、モブ二人を連れていくのはなにも俺が働いているのに休んでいるのが許せないとか駄目な上司のような理由ではない。


「やっぱり、お前らって経験積んでるよな?」


 俺の質問にモブ夫とモブ次が頷く。

 そうなのだ。前々から薄々感じていたが、こいつらは個々に情報や経験を蓄積している。戦えば戦うほど強くなる。それは人間のそれと大差ない速度で決して劇的なものはないが、バカにできないものだ。

 だから疲労で動けないというのでもない限りは動かしていたほうが成長する。模擬戦ばっかりやってたら模擬戦番長のようになってしまうかもしれないが、適度に色んな行動させるのはプラスに働くだろう。

 ……問題は、そうやって成長し続けて人間味が増すと感情移入してしまいかねないのだが、これは諦めるしかないのかもしれない。狙ってモブなんて名前にしてみたが、ロストした時の事を考えると心が痛い。普通に泣くかもしれん。


 そして二時間後。別段語る事もなくマラソンが一周終了した。

 < リレーポイント・ドレッサー >は中継地点にドレッサーがポツンと置かれていて、観音開きなドアを開けると中にいつものウインドウが表示されているという代物だった。実は普通にウインドウを開いても編成できるようなので、本当にただの演出だ。


「それではゴブリンガチャ二十連いってみたいと思います」

「おー」



< フリスビー コモン ノーマル/アイテム >

< サッカーボール コモン ノーマル/アイテム >

< ゴブリンパンツ イクイップ/アーマー >

< 筋力増強ギブス アンコモン イクイップ/アクセサリ >

< 流れなかったトイレットペーパー ノーマル/アイテム >

< 置き時計 コモン ノーマル/アイテム >

< スプリットフィンガーファストボール コモン スキル/アクション >

< 屋内プラネタリウム アンコモン ライフ/リフォーム >

< ビスケット コモン ノーマル/アイテム >

< ゴブリンの勇者の冒険 第3巻「氷炎竜の復活」 コモン ノーマル/アイテム >


< スプリント コモン スキル/パッシヴ >

< ゴブリンメダル コモン ノーマル/アイテム >

< アイスティー(500ml) コモン ノーマル/アイテム >

< 暗視 アンコモン スキル/パッシヴ >

< 山脈カレー アンコモン ノーマル/アイテム >

< 銅鏡 コモン ノーマル/アイテム >

< リフティング コモン スキル/パッシヴ >

< ゴブリン最適化 コモン ノーマル/マテリアル >

< ロッカールーム コモン ベース/ルーム >

< ゴブリン・ワーカー アンコモン ユニット/ワーカー >



「あれ、意外に悪くないな」

「普通に使えそうなラインナップが並んでいるな。ところで御主人様……」

「お前、本ならなんでもいいのな」


 とりあえず< ゴブリンの勇者の冒険 >はマテリアライズするとして……。

 駄目駄目、はいはいマラソン二周目ねーって感じで立ち上がる気マンマンだったのに、ちょっと有用そうなモノが沢山出てしまった。これが物欲センサーだというのか。もちろん、いらないモノも多いが。

 あと、意外にスキルピックアップが仕事してる。


 優先して鑑定するのは< 筋力増強ギブス >、< スプリント >、< 暗視 >、< ロッカールーム >……かな。

 そして、素晴らしいのが< 山脈カレー >だ。ハズレの少ないカレーという料理な事に加えてアンコモン。< ランダム小鉢 >などを合成できる。ついに< レバニラ炒め定食 >ループから外れる時が来たか。


「良く分からないのが< ゴブリン・ワーカー >だな。なんだワーカーって」


 この際ゴブリンなのは置いておくとして、地味に初出のカテゴリである。


「ダンジョン探索に連れていけないユニットの一種だな。詳細は分からんが、ベースの中で作業させたりするらしい」

「ほー」


 どんな効果があるかは知らんが、ひたすら労働させたりできるって事かな。ダンジョンが駄目なら< 採掘者の楽園 >で鉱山奴隷にするのは無理っぽいが。


「じゃあ、こいつも優先で鑑定。次行ってくる」

「忙しないな」

「なんか微妙に良い方向に運気が向いてるっぽいから、コレを逃したくない」


 完全にガチャ中毒者の理論だが、どの道チケットは集めるのだからモチベーションが上がる要因として考えれば前向きだ。




 更に三時間後。


「それではゴブリンガチャ三十連いってみたいと思います」

「チケットがぴったり三十枚なのは厳選したのか」


 その通りだった。ちょっとだけ足りなかったので、ゴブリンパーツを捨てつつチケットを回収したのだ。そんな時に限って< ノーマルチケット >が出たりするのだが、損はしていない。



< オートバイ(無限燃料仕様) アンコモン ユニット/マシン >

< 集中力 コモン スキル/パッシヴ >

< 腐葉土 コモン ノーマル/アイテム >

< ゴブリン行進曲 コモン ベース/BGM >

< 芝生 コモン ベース/リフォーム >

< 小松菜 コモン ノーマル/アイテム >

< 遠距離恋愛中の恋人から送られてきたNTRビデオレター コモン ノーマル/アイテム >

< 謎の液体 コモン ノーマル/マテリアル >

< 筆ペン コモン ノーマル/アイテム >

< マジック冷蔵庫 レア ノーマル/アイテム >


< 甘酒 コモン ノーマル/アイテム >

< 土嚢 コモン ノーマル/アイテム >

< ハンドボール選手 コモン イクイップ/クラス >

< 巨大なレタス コモン ノーマル/アイテム >

< 野球選手のサイン色紙 コモン ノーマル/アイテム >

< Tシャツ(無地5枚セット) コモン ノーマル/アイテム >

< 龍鱗 レア ノーマル/マテリアル >

< 備長炭 コモン ノーマル/アイテム >

< ベンチ コモン ノーマル/アイテム >

< 方向感覚 コモン スキル/パッシヴ >


< ポテトチップス(コンソメ味) コモン ノーマル/アイテム >

< 強制排便剤『よし、出ろ!』 コモン ノーマル/アイテム >

< もやし栽培キット コモン ノーマル/アイテム >

< たんぽぽ コモン ノーマル/アイテム >

< 素人の読経 コモン ベース/BGM >

< インゲン豆 コモン ノーマル/アイテム >

< アーマー・ブレイク アンコモン スキル/アクション >

< 火星の土 コモン ノーマル/アイテム >

< マグナムストレート アンコモン スキル/アクション >

< ドスケベ清純派アシスタント あかり レア< ユニーク > ユニット/アシスタント >



「ん?」

「ん?」


 前回に引き続き、安定した確率で有用っぽいモノが排出されるラインナップを眺めていて、これならもう一回マラソンコースかなと気を高ぶらせていたところに、ちょっと予想外のモノが排出された。

 目を擦って二度見してみるが、間違いではないらしい。


「ユニーク?」

「……だな。ピックアップとは全然関係ないが、ゴブリン十連で出るモノなのだな」


 そりゃそうだとは思う。ピックアップは確率的に優遇されているというだけで、他にユニークが出ないという設定はないはずだ。


「良く見たら、なんだこの名前」


 清純派AV女優みたいな、両立させたら対消滅しそうなネーミングしやがって。


「とりあえず神様に報告かね?」

「い、いや、ちょっと待て」


 ユニークだからと言って、神様が望む異世界産のモノとは限らない。これは単純に一枚しか存在しないという意味だ。だから、神様が交渉しに来るかはまた別なのだ。

 マテリアライズするわけでなければ、いくら使ってもカードは残る。交渉するのは一度確認してからでも遅くはない。ここは、とりあえずセットしてみるべきなのでは?

 いや、決してドスケベさんを呼び出して色々したいと考えているわけでない。そんな邪な事は……あるっ!! あるに決まってんだろ、ちくしょうっ!!

 男ならこんなモノである。俺は別にそこまで女好きというほどではないが、女体は間違いなく好きだと断言できる。面倒臭くない女とか最高である。


「うっ……トラウマが」

「一体なんなのだ」


 連想して嫌な事を思い出してしまった。こんなどうでもいい場面でトラウマが刺激されるなんて。


「せっかくの初アシスタントだ。まずは鑑定してみようじゃないか。あ、< 天眼司教 >のほうな」

「何故、急にシリアスな表情になるのか」


 リョーマを初めて呼び出した時のような事もある。人型のアシスタントが喋ってもまるで問題はないが、というか喋るべきだろうが、変な地雷を抱えてないとも思えない。

 ここは慎重に鑑定してから呼び出してみるとしよう。結構時間はかかるが、この時間を使ってダンジョンに……いや、無理だな。不注意でミスしそう。

 リョーマと将棋でもして心を落ち着けつつ、ドスケベさんの降臨を待つとしよう。


「……お前、妙に強くなってね?」

「成長期だからな」


 鑑定結果を待ちつつ、リョーマと将棋を指す。リョーマ自身は駒を持てないので、指示された場所に俺が指すのだが、時折別の場所にしたくなるくらい強くなっていた。

 俺の将棋レベルは高くもないが素人というほどでもない。営業のネタとしておっさん相手に話ができる程度には腕があるつもりだ。そんな俺が、ヒヤヒヤする場面が結構ある。

 というか、この局かなりマズいような……。下手すれば詰んで……。


「……お、鑑定終わったな。早速確認しよう。この局は無効で」

「御主人様が虐める」


 主人として、人間として、ペットの犬に簡単に負けるわけにはいかんのだ。字面だけ見たら、イメージが悪過ぎる。

 さて、そんな人間の尊厳を失いかねない対局は忘れるとして、期待の鑑定結果である。




< ドスケベ清純派アシスタント あかり >

 分類:ユニット/アシスタント/ダンジョンオペレーター

 レアリティ:R

 強化値:☆☆

 性格:ドスケベ

 追加カードゾーン

 イクイップゾーン:[ ][ ]

 スキルゾーン:[ ]

 解説:あくまで清純派を気取るムッツリドスケベなアシスタント。

 ダンジョンオペレーターとしての格は並程度。お触りは禁止である。


 強化+:ドスケベ+/《 ミニサイズ 》

 強化++:ドスケベ++/《 ジャストフィット 》

 強化+++:ドスケベ+++/《 マイクロサイズ 》





そりゃ報告前にセットするわ。(*´∀`*)

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
[気になる点] この時点でフリーゾーン1はまだ16枚なんですね とっくにゴブリン1000体とかはクリアしてるんじゃないかと思うんですが
[気になる点] 防寒装備が欲しいけどガチャから出ない 出ても枠がカツカツで装備できない 枠を増やしたくてもゴブリン地獄で実績つめず 枠を増やせない これどーするの?気になる
[気になる点] 読み直していて気付いたのですが、現在のベースゾーン(無印)は3枠ではなく4枠では? 最初から3枠(うち1枠はガチャマシン固定) 睾丸破壊のディディーの撃破ボーナスがベースゾーン+1なの…
感想一覧
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