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第三十七話「第二ダンジョン」

攻略層が飛んだので主にリザルト回です。(*´∀`*)




-1-




「……どうも様子がおかしいとは思っていたが」


 さすがにいきなり十層まで攻略しておいてなんとなくでは納得しないだろうと、ちょっと冷静になって拠点に戻って来た俺は、リョーマに自分の精神状態について説明した。

 以前の俺なら決してやらない、明らかに言い訳できない結果を出してしまった以上隠していても仕方ない。そして説明してみれば、やはり俺の様子がおかしかったのには気付いていたようだった。


「仕方ないな、ここはペットとして一肌脱ごうではないか。……さぁ! 愛でるがいいっ!!」

「なんでやねん」


 そんな誇らしげに言われても。いくら愛玩動物だからって、他に色々あるだろう。何って言われても知らんが。

 そもそも、愛でるがいいっ!!(効果音:バンッッ!!)って感じで主張されても、こっちは困惑するばかりだ。これがペットじゃなく彼女かなんかでも同じだろう。……いや、そっちはアリかもしれないな。女の子とペットは別枠って事で。そもそもこいつはオスだし、声はおっさんだし。


「私はペットだ。その存在意義は愛玩にこそあると思わんかね」

「本来、そうあるべきとは思うが……」


 見た目だけなら癒やし系ペットでも、中身を知っていると一切そんな気が起きないから困る。それでいて、何故かこいつ自身は愛玩動物である事に誇りを持っているっぽいのが面倒臭い。喋らなければまったく問題ないのに。

 せめて、絵文字のウインドウが浮かぶくらいの自己主張だったら良かった。


「正直な事を言うと、私は御主人様のペットとして危機感を覚えている」

「お、おお」


 何言い出すんだこいつ。今は俺の精神状態について話しているつもりだったのに、何故かペットの悩みを聞く事になっているぞ。

 会社の上司に悩みを打ち明けて飲みに連れていってもらったら、その席でシャレにならない悩みをぶち撒けられたような感じだ。似たような経験があるが、会った事もない嫁さんの浮気話など聞かされても困るのだ。ひょっとしたら向こうも似たような感想だったかもしれんが。


「後輩のユニットカードであるフライングバインダーやモブ夫たちはそれぞれ活躍しているのに、私はペットとしての役割をまっとうできているのかとな」

「探索に連れて行くユニットと比較しても仕方ない気がするんだが」

「確かにペットの括りの中なら稼働率は高いが」


 お前以外、虫とかだからな。一応、溺れ死んだペットゴブリンやドナドナされていった負け犬もいるが、そんなのと比べられても困るだろう。


「当初の予定とは違うが、話し相手としては有能だから別にいいんじゃないか?」

「今は喋れるユニットがいないからそうかもしれんが、話し相手になる戦闘ユニットがいたら別だろう」


 ああ、確かにモブ夫とかが喋れたらそれでもいい気はするな。マネキンが喋っているようで不気味かもしれんが、じきに慣れるだろうし、人型だからこそできる事も多いだろう。あいつならトリプルアクセルくらいできそうだし。


「……などと、可愛らしいコンプレックスを吐露してみたら、そんな事ないぞと愛でたくならんかね」

「演技かよ!?」


 お前の声で愚痴聞かされてもおっさんが管を巻いているようにしか聞こえないんだよ。どっちかというと、とりあえず飲めって言って酒ついでやりたくなる。どんなに工夫を凝らそうが、お前が愛玩動物に路線変更するのは無理があると思うぞ。


「まあ、アイデンティティに悩んでいるのは本当だ。今のままだと、御主人様に聞かされた喋るマグロと何が違うのかと思ったりもするのだ」


 ギャップのせいで効果は半減してるが、視覚的な癒やし成分ならマグロよりは上じゃねーかな。あいつの場合、ひょっとしたら食用になるっていう役割があったりするのかもしれないけど、リョーマにそんなもん求めてないし。


「お前のアイデンティティについては置いておくとしてだな、とりあえずモブ夫たちと枠を競い合う必要はないぞ。そこは気にしなくていい」

「確かに、探索用ユニットとは被らないが」

「いや、そうではなく、ユニット/ペットの枠が増えたからペットが増えない限りはお前専用枠だ」


 実は、今リョーマがセットされているゾーンは追加されたペットゾーンである。


「そうなのか? 第十層までのボーナスかね?」

「ボーナスといえばボーナスなんだが」

「歯切れが悪いな」


 実を言えば、第七層ボスである< 負けたら処分されるゴブリン >のボーナスではある。そのボス名についてはあえて触れないとして、その撃破ボーナスが< ユニットツリーゾーン拡張 >だったのだ。

 おそらく、第六層で獲得した< ヒューマン >用の追加枠的な意味で配置されたものだろうが、それで追加されたのがユニット/ペットゾーンである。枠が足りているから問題ないが、ちょっとモヤっとする結果なのだ。そのタイミングで増えるなら、普通ユニット/サーヴァントだろうと。

 三人パーティになってつくづく思うが、やはり頭数の利点はでかい。たとえ四体目のエクスプローラーがいなくとも、先行して枠空けておきたいと思う程度には重要だ。戦力重視でフライングバインダーを外すという手はあるが、選択肢は多いほどいい。ダンジョンの広さを考えるなら、伝統的なダンジョンゲーやTRPGのように六人くらいまでは無条件で増やしてもいいくらいだ。


「そんなわけで、お前のライバルは同じペットだな」

「マグロか」

「マグロじゃねーよ」


 リョーマは勘違いしているが、俺は別にマグロへのこだわりは一切ない。たとえペットで喋るマグロが出てきても飼ったりはしないだろう。一回くらいは呼び出すかもしれんが。

 詳しく説明してしまうと吉田さんのアレな事情についても解説しなければいけない可能性があるから、口にはしないが。


「多分お前は気を使って話を脱線させてるんだろうが、本題に戻すぞ」

「む」


 やっぱりそうか。別に延々と雑談に興じてても問題ないといえばないんだが、こういう事はさっさと済ませておきたい。


「……つまり、今の俺はちょっと危ういところがあるって話だ。自覚症状がある分マシかもしれんが、色々ブレーキが利きにくくなっている」


 多分だが、今の俺がチキンレースをやっても崖の下に真っ逆さまだろう。恐怖を感じる器官がぶっ壊れてる。


「ガチャ以外でもという事か」

「確かに歯止めが利いていない気はするが、それとは別だ」


 そっちはガチャの使徒なんだからいいのである。

 今回は第十層まで攻略して区切りがついたから良かったものの、これが失敗してたりユニットを失ってたりしたらドツボにハマっていた可能性が高い。大学時代なら引き籠もりまっしぐらだ。上手く行かない中の失敗体験など、ロクなものではない。


「比較対象として考えるのに適当かは分からんが、私と創造主様のようなものだろう?」


 創造主と言われて一瞬誰か分からなかったが、要するに神様の事か。リョーマと神様、俺と化外の王……なるほど、イメージとしては近いのかもしれない。


「方向性としては正しいな。漏らすどころじゃなく下手したら見ただけで発狂するレベルだから、伝わりはしないと思うが」

「規模が違うとはいえ、創造主様に対する畏怖のようなものと言われれば納得はできなくもない。とりあえず、御主人様の状態については理解した」


 確かに、言われてみればこいつが一番理解し易いのかもしれない。なんせ、神様目の前にして漏らしたくらいだし。


「経験の少ない身で何を言っているのかと言われそうだが、割とどうしようもない気がするぞ。相手が同じ人類、あるいは生物として近しい獣、あるいは使徒が相手なら届き得る可能性はあるかもしれないが、化外の王というのは御主人様が限界まで鍛え上げればどうにかなる相手なのかね?」

「……無理だろうな」


 世界最強の格闘家に挑むとか、マンモスを相手に戦うとかならまだなんとかなる気はする。圧倒的な力量差はあるとしても、同じ土俵には立っているのだから、極論殴ればダメージは通るし、火力が必要なら銃火器で撃てばいい。

 しかし、アレに勝てるイメージが一切湧かない。対峙するどころか直視すら厳しいのだから、精神的に鍛えてもせいぜいSANチェックが有利になるくらいだろう。……それが重要なんだが。


「その焦燥感は上手く付き合っていくしかないモノだと私は思う。克服しようと考えるのは論外、誤魔化せれば御の字、利用できれば上々といったところか」

「……正論だな」


 言われて納得できるものではないが、それはリョーマだって分かっているだろう。こいつはそれを承知で口にしている。実にペットらしくないチワワである。

 しかし、もしもこの焦燥感を飲み込み、利用できるのならば、あの存在は俺にとっての福音にさえなるかもしれない。




-2-




「そちらについては分かったが、ダンジョンのほうの詳細はどうなのかね。十層まで攻略したというなら、他にも色々あるだろう。チケットだって……一回じゃ貯まらんか」

「チケットはゴブリンガチャ十連一回分だな。同じカテゴリチケットは集まってないし」


 持ち込んだアイテムは多いし、後半はカテゴリチケット優先だったので、あまり貯まってはいない。そろそろ< カテゴリチケット(アーマー) >と< カテゴリチケット(パッシヴ) >のゴールは見えてきたが。

 本当の事を言うと、せめて十連ガチャ一回は回したいと調整した面もある。


「確かに攻略が進んだ事でボーナスは色々手に入れた。本題に比べれば大した事じゃないがな」


 半ばヤケクソだったとはいえ、一気に< 修練の門 >第十層……というか、第十一層前中継地点まで到達した事によって得られたボーナスは大きい。


「一番でかいのはアレだな」

「アレ? ……おお、確かに今までのボロ具合から綺麗になってるな」


 俺の指差す方向には扉があった。拠点からダンジョンへ向かうための扉だ。

 リョーマの言う通り、吹けば飛びそうなくらいボロボロだったドアがいつの間にか修繕されている。相変わらず隙間風の入りそうな造りではあるが、多少マシになった。とはいえ、それが本題ではない。


「ここに住んでいる以上、視覚的な意味でソレは重要だが、そうじゃない」


 俺は立ち上がり、そのドアを開けに行く。


「なるほど、開閉も滑らかだな」

「そうそう……って、そうじゃねーよ」

「いや、言いたい事は分かった。本題はソレか」


 そう、入り口を出てすぐのところに新しい通路が追加されているのだ。一直線だった通路に左折路が追加されてT字になっている。一歩外に出るとまた着替えなくちゃいけないので、ドアはそのまま閉めた。

 何を隠そう、ここ最近の部屋着は主にイルカの着ぐるみパジャマなのだ。一体型だから、何回も着るのは面倒臭い。

 ちなみにこのパジャマ、何かモデルがいるのか知らんが、妙に目つきが悪いイルカだ。頭まで被るとリョーマや神様たちからも睨まれてるみたいと感想を頂いている。とはいえ、全身隠せる部屋着は他の選択肢がないのだが。


「つまり、新しいダンジョンの入り口ってわけだな」

「もう入ってみたのかね?」

「いや、まだだ。この先がどうなってるのかは良く分からん」


 第十層攻略ボーナスの本命。第二ダンジョンというだけあって、コンテンツが倍になるようなものだから、日付変更や週代わりの区切りで更新される事も考えていたのだが、こうしてひっそりと追加されていた。

 入ろうと思えば入れるが、中がどうなっているのか分からない……というか、どうせすぐに戻れる仕組みではないだろうから保留している状態だ。


「これで、ゴブリン以外のモンスターとも戦えるわけだな」

「……多分な」


 ヤツらの事だから当たり前のように出張してくるような気がしなくもないから不安は残るが、多分大丈夫のはずだ。いくらなんでも、第二ダンジョンまでゴブリン塗れって事はないだろう。

 ゴブリン以外のモンスターが出てきてちゃんと戦えるのかという不安もあるが、それだっていつかは克服していかないといけないハードルだ。できれば、あんまりグロくないのを希望。


「一番でかいのはコレで、あとは各層のボーナスくらいだ」


 各層のボスはともかく、雑魚敵でゴブリン以外が出てくる事もないし、ダンジョンの造りだって第六層以降は大して変わらない。


 まず、第七層は先ほども話に出たように階層ボスは< 負けたら処分されるゴブリン >、撃破ボーナスは< ユニットツリーゾーン拡張 >だ。これによってペットゾーンが増えた。

 ボスに関しては処分を免れようとしているのか妙に必死だったが、特に苦戦する様子もなく勝利した。俺に殺されるか処分されるかの違いくらいでしかないから葛藤すらない。

 ……再び第七層に行ってもボスが再出現しませんって展開になったら色々考えてしまうかもしれんが、どちらにせよ負ける気はないので同じだ。


 第八層のボスは< 廃棄ゴブリン 失敗作 >という傷だらけのゴブリンだ。色々改造された結果なのか、右腕だけが異常発達してたり左腕がなかったりしたものの、失敗作というだけあって普通のゴブリン以下の戦闘力しかない。かなり見た目がアレだったので不安に思って< ファイアボールの魔導書 >の一撃で牽制してたところ、その牽制だけで死んだという哀れな存在だ。ひょっとしたら、毎回失敗具合が違ったりするのかもしれない。

 撃破ボーナスはフリーゾーンNo.2の開放である。そう、俺も忘れかけていたのだが、いつも使っているフリーゾーンはフリーゾーンNo.1で、別のフリーゾーンが存在するという事実は初期のほうから示唆されていた。

 このフリーゾーンNo.2、枠は五枚で、単純に五枚分フリーゾーンが増えただけかと思えばそんなはずもなく、No.1と用途が異なるらしい。攻略中は増えた枠にカードを突っ込めずになんだこりゃって感じだったのだが、質問フォームに投げてみたら探索中に回答が返ってきた。

 回答としては、このフリーゾーンNo.2は拠点では自由に出し入れできるが、ダンジョンでは出す事はできても入れる事ができない。ダンジョン内で使うためのカード……消耗品のノーマルカードだったり、予備の装備を入れておくための探索用アイテム専用枠というものだった。

 フリーゾーンが増えるより不便というのは間違いないが、持ち込みカードが増えてきた現状、チケットの回収を気にせずに使える枠は普通にありがたい。コレが開放された時期から考えて、そういう意図があったのは間違いないだろう。ちなみに、まだ入れるところまでしか試せていない。


 続いて第九層のボス、< 過剰なまでにゴブリン >だが、こいつはどこからどう見てもただのゴブリンだった。ボスというだけあって多少強いのは強いが、それだけである。

 一体何が過剰だったのかと名鑑で確認してみれば、身につけている装備やスキルがすべてゴブリン用のものだったのだ。あらゆるものが< ゴブリン専用~ >というもので固められ、ドロップアイテムですら< ゴブリン専用ゴブリンチケット >という俺が使えないゴミである。当然、即記念館行きになった。

 撃破ボーナスは< ブロック食料生産機 >。まだ質問フォームの回答しか確認できていないが、ライフカテゴリのカードで、マテリアルカードや一部のアイテムカードなどを消費してブロック型の携帯食料を作れる機械らしい。これだけ聞くと、俺の食料事情に大きく貢献してくれるように感じるが、俺が持っているマテリアルって大体ゴブリンの部位なわけで、そこから食料を作っても美味くなる気がしない。


 そして最後が第十層。ボスは< ゴブリンザゴブリン >という見た目が普通のゴブリンで、結構強めのボスだった。俺もソロだと苦戦した可能性は高いくらいだ。

 とはいえ、こちらはフライングバインダーは戦力外としても三人パーティ。その内の一体は明らかに俺より強いモブ夫なのだから、苦戦しようがない。まあ、強かったかなという印象しか浮かばない相手だ。

 個人戦力は結構評価できるので、以前でかいゴブリン相手にやったように戦闘訓練の相手をしてもらうのはアリだろう。幸い、中継地点は近くの第十一層前だから移動にかかる手間もない。

 撃破ボーナスは複数で、一つは第二ダンジョン。そしてもう一つは称号< 脱初心者 >である。

 ダンジョンは置いておくとして、称号のほうは俺のステータスウインドウのほうに専用枠付きで追加されていたのだが、どうもこの称号は独自の効果を持っているらしく、タッチしたらその効果も確認できた。


< 脱初心者 >

 ド素人から半歩足を踏み出した証。決して誇れる事ではないが、あなたは確かに歩み出した。

 この称号を保持した者はステータス上昇確率が若干向上する。


 そう、煽られてる感じの解説は無視するにしても、ちょっと無視できない情報が含まれていた。

 HP/MPはそれぞれ100、各能力値はすべて10と、極めてフラットでここまでクラスカード装備くらいでしか変化のなかった俺のステータスだが、これが確率で上がるという事なのだろうか。

 別にこの数値が増えなくても体力がついている実感があるし、待雪が言っていたように体重増加した分は筋肉や骨になっているのだろうが、この数値に意味がないとは思っていない。質問フォームではこれまで回答を得られなかったのだが、ひょっとしたらここから先はこの数値が成長したりするのかもしれない。



「あとは、第十層の先にあった中継地点に転送施設が追加されて直行できるようになったのと、各中継地点を強化できるリレーカテゴリのカードが増えたくらいか。あ、マンスリーミッション達成したからアーマーゾーンも一つ増えた」

「道中のゴブリン十六魔将はどうしたのかね?」

「遭遇しなかったな。一応忘れてはいなかったが、積極的に探したわけでもないし、そういう事もあるんだろう」


 腹痛のゴンベエも未だトイレで苦しんでいる状態である。そのトイレも見つかっていない。積極的に遭遇したい連中ではないが、ボーナスを考えると見つけに行く選択肢は普通にアリだろう。

 毎回遭遇してるから勘違いしそうだが、あいつらはそもそもFOE枠で、確実に遭遇するわけではないのである。むしろ、これまでのほうが異常なのだ。


 あと、個人的に気になっているのは、階層到達実績だろうか。第四層で獲得して以降、まったく反応がない。リストを見る限り次があるのは確定なのだが、次は一体何層なのか気になる。


「悪いが、お前が留守中にやる作業が増えたな」

「< ブロック食料生産機 >か。作業が増えるのは気にしないが、どんなモノかは気になるな」

「実は俺もどんなもんか見てないんだが」


 実際に使ってみるのが早いだろうとセットしてみると、出現したのはコピー機のような機械だった。スロットは一つだけで、ここにマテリアルカードを入れると変換してくれるらしい。

 とりあえずという事で< ゴブリンの胴体 >を挿入すると簡易ディスプレイに処理時間と変換対象が表示され、変換するかどうかの選択を促される。ここで追加のカードを入れる事もできるようだが、今回はそのまま変換ボタンをタッチ。しばらく待っているとスロットからカードが戻ってきた。


[ ミートブロック(ゴブリン) コモン ノーマル/アイテム ]

[ オーガンブロック(ゴブリン) コモン ノーマル/アイテム ]

[ 容量がブロック化に達していないマテリアルは機器内に保存され、既定値に達した時点でブロック食料化されます ]


 排出されたカードには肉の模様をした正立方体のブロックが複数描かれている。これだけ見るとサイコロステーキのようなものに見えなくもないが……。


「どうしよう……普通に食いたくないぞ」

「ゴブリン肉を食べた経験者から言わせてもらえば、やめておくのが賢明だろうな。ひょっとしたらマシになっているかもしれんが、元々が死を覚悟する不味さだ」


 とはいえ、確認せずに放置というのもあんまり良くないだろう。誰か他に食わせるヤツは……と考えていたが、モブ二体もフライングバインダーも捕食機能はない。

 すごく嫌そうだったが自分が犠牲になるとリョーマが言い出したので、腹は壊すかもしれんが死ぬ事はないだろうとマテリアライズした< ミートブロック(ゴブリン) >を食べさせてみた。もちろん全部ではなく、大量に成形された3cmほどのブロックの内の一つだ。


「ど、どうだ?」

「……ご、< ゴブリン肉 >をそのまま食べるよりは遥かにマシだが、それでも壮絶な不味さだ。三日ほど絶食して他に食うものがなかったら口に入れる事を検討してもいいというレベルだな。このサイズなら、無理をすればそのまま飲み込めるというのが救いだ」


 割と普通に会話しているように感じるが、見た目からしてヤバい。立ち上がる事すら困難そうだ。

 どうやら食料と名前がついている以上、食えない事はないらしい。多分、それなりに栄養もあるのだろう。焼いたりしたらまた変化があるのかもしれないが、そんな食料を携帯したいとも思えない。

 ちなみに< オーガンブロック >のほうはまた違った方向で同程度の不味さらしいから、どっちもどっちだ。

 尚、この食料ブロック、マテリアルカードの容量をそのまま換算しているのか、マテリアル一枚からでも結構なブロックが成形される。変換処理時間もその容量によって決まるために結構バラバラだ。マテリアライズする前なら一枚のカードに収まった状態のため、携帯するには便利なのだろう。その上、ブロック状態でも保存が利くとなれば極めて優秀な施設と言える。

 言えるが……ゴブリン肉でどうこうするものじゃねーなとは思う。米とか小麦とかを利用する分には問題なさそうだ。


「記念館用のものとは別に、多少はストックを作っておこう。ひょっとしたら新たな発見があるかもしれんし」

「検証は任せた。できたモンを消費してもいいぞ」

「これほどつまみ食いしたくないモノもなかなかないだろうな」


 貧困地域に持っていくならアリかもしれん。今後の展開次第ではないとは言えないだろう。

 しかし……コレがもっと早い時期に出てこなくてよかったと思う。本気で食料に困っていた頃なら、手を出してしまったかもしれない。

 一応、質問フォームの回答ではマテリアルやアイテムなどって指定されていたが、多分コレ、食えるものだったらなんでも素材になるんだろうな。……ペットカードとかも。普通に怖いぞ。




-3-




< ブロック食料生産機 >

 レアリティ:アンコモン

 強化値:☆

 分類:ベース/ライフ/生産設備

 解説:食用加工可能なカードを元に、素材に合わせた携帯用ブロック食料(ノーマル/アイテム)を作成する装置。

 主にマテリアルカード、ノーマルカードを素材とする事ができる他、一部の他カテゴリーのカードも対象となる。

 基本的に角砂糖サイズのブロック一つにつき、その素材一食分の栄養を圧縮。加工比率もそれに準ずる。

 一枚のカードとして成形されるブロック食料の数は変換時に格納されている素材をすべて使用した場合のものとなる。(最大で一枚あたり二十個)




「……機能だけ見るなら、すさまじく有能な施設なんだよな」


 鑑定した< ブロック食料生産機 >を確認して溜息が漏れた。問題は素材として使えるカードのほとんどがゴブリンマテリアルなだけで。

 あと、地味な問題点としては一度カードを投入したら戻ってこないっぽい。キャンセルボタンもないし、表示されている個数も投入した直後に増えている。


「九十九世界に持っていかなかった< 米俵 >を使うというのは?」

「ああ、アリだな。普通の食材でどうなるかも確認しておきたいし」


 二号のお土産である< 玄米俵 >が目立たなくなるって事で候補から外れていた< 米俵 >だが、早速別の使い道ができた。多分、普通にマテリアライズして炊いて食う方が美味いのだろうが、単にご飯食べたいだけならぼっち食堂で定食食えばいいので俺の中での価値も下がっている。問題は、ブロックサイズの食料にするにしても俵一つは多過ぎるんじゃないかってところだが、大量にカードが作られてもそこまで問題はないだろう。

 そんなわけで、一枚の米俵から大量の< ライスブロック >が生成された。圧縮率が高いのか、枚数としてはそれほどでもない。


「食えない事はないってところか」

「……口の中が汚染されていて味が分からん」


 先ほどのゴブリン食料のせいかリョーマは良く分からないようだが、俺が食ってみたところ、さして美味くもないが忌避するほど不味くもないってレベルの食い物だった。

 常食したくはないが、携帯性に優れ、見た目以上に栄養もあるとなれば十分以上に有能な食料だろう。なんなら飯に拘らないならこれだけでいいって人すらいるかもしれない。ダンジョン時の補給事情を考えるなら、思った以上に有能な施設だ。


「多分だが、リレー施設と合わせて運用する事を考えてるんだろうな」

「中継地点でマテリアライズして保管すれば、補給も容易だな。その場で食べてもいいし、次のフロアで必要になりそうな分だけ持ち出してもいいと」


 これ単体でも十分優秀だが、大量の……たとえば二十個のブロックがカード化されたものだと一度の探索で消費し切れるかは微妙だ。一度マテリアライズしてしまえば持ち帰る事ができない以上、どうしても破棄せざるを得ない。しかし中継地点にそのまま保管できるのなら、そういう無駄もなくなる。

 多分吉田さんのバランス感覚による設定なのだろうが、進行状況に合わせたボーナスが設定されているという事なのだろう。


「こうなると色々試してみたくなるな。そのまま食うより味気なくなるとはいえ、保存食って考えるなら気にならないし、何より手軽だ」

「料理する気がないのなら、食材のカードも持て余すしな」


 以前、実家で食った最高級ステーキ肉などはさすがにもったいなくて対象にする気はないが、料理しない前提なら候補となる食材は多い。特に、米などの生で食うのはちょっと無理がある系だ。


「となると、補給問題は主に水に集約されるな。カードなら気にならないが、実体化させるとどうしてもかさばるし」

「……ひょっとしたら、水もブロック化できるのでは?」

「…………試してみる価値はあるな」


 リョーマの呟きは、水を保存食にできないという固定観念に囚われた俺にとって天啓のようなものだった。

 試しに< 北京市の水道水 >を投入してみれば、当たり前のように< ウォーターブロック(北京市の水道水) >が成形される。とはいえコレは飲みたくないので、溜めていた< ミネラルウォーター >から< ウォーターブロック(ミネラルウォーター) >を生成。マテリアライズすると肉や米と同じように手に持てる角砂糖サイズのブロックで、口に入れた時点で数倍の質量を持った水になるという驚くべき物体が完成した。

 尚、記念館ではカード名の()部分は反映されないので< ウォーターブロック(北京市の水道水) >は記念館行きだ。


「すげえな、コレ。驚くべきファンタジー食料だ」


 もちろん普通に飲み下したい時はあるから全部が全部コレにしたいってわけではないが、探索中の水分補給としては有能ってレベルじゃない。軍隊に売ったら大儲けできるだろう。

 口に入れた場合のみ元に戻るのか、温度や湿度、衝撃など、環境の変化で元に戻るのかは検証が必要だが、今の時点で十分以上に優秀だ。


「つい色んなモノをブロック化したくなるな」

「試行錯誤できるほどカードは潤沢ではないがな。傾向を見るに、< ベジタブルブロック >や< フルーツブロック >あたりは普通にありそうだ」


 ガチャが楽しくなってしまう。これまでなら大して嬉しくなかった食材系カードですら当たりに見えてきそうだ。

 というわけで色々試してみたが、料理などに加工済のものは素材として認識されないようで、素材そのものを使うのが普通の使い方らしい。素材は素材でも金属のような食べられないものもアウトだ。



[ Q.質問です。食材やブロック食料はレアリティによって味や品質の差はありますか? ]

[ A.食材に限らず、同名カードで比較した場合、基本的に高レアリティなほど品質が向上します ]



 多分そうだろうという疑問を確認する意味もあって質問フォームに投げてみたが、その回答は俺のモチベーションを上げるのに重要な回答だった。

 合成対象にならないとしても高レアリティなカードはそれだけで意味があるという事だ。


「つまり、同じ< チワワ >でも、コモンのチワワよりも私のほうが品質は上という事だな」

「チワワの品質って言われてもピンとこないが、……まあそうなんだろうな。だが、その理屈だとレアやハイレアな< チワワ >のほうがより品質が上って事になるんだが」

「その< チワワ >が喋れるとは限るまい」


 いや……ペットとしては喋れないほうが良いような気がするんだが。リョーマが喋る事で価値を上げているのは確かだが、それは愛玩動物としての価値ではないだろう。



「探索中の食料問題に関してはほぼ解決に近いな。リレー施設がないと万全とは言い難いし、食料以外にも必要なものは山ほどあるが、これまでとは雲泥の差だ」

「カード化する素材自体が足りないという問題は残っているが」

「それはガチャで集めるしかない。……ついでだから十連回しておくか」


 今回の十層攻略で手に入れたゴブリンチケットで十連ガチャを決行する。やはり、攻略を進めるのとチケット収集は別に考えておいたほうがいいな。効率が違い過ぎる。



< ゴブリンタックル コモン スキル/アクション >

< コーヒー飲料(2L) コモン ノーマル/アイテム >

< ジャグリング コモン スキル/アクション >

< ストリングプレイスパイダーベイビー コモン スキル/アクション >

< 木彫りゴブリン像 コモン ノーマル/アイテム >

< 象の鳴き声 コモン ベース/BGM >

< パワーグラブ アンコモン イクイップ/アーマー >

< 三人掛け本革ソファ コモン ノーマル/アイテム >

< 鉄鉱石 コモン ノーマル/マテリアル >

< 路傍の石ころ コモン ノーマル/アイテム >



「……うん、知ってた」


 なんとなく分かってたんだ。この流れでロクなものが出ないだろう事は。でも、出るかもしれないって可能性がある以上、抗う事はできない。つまり、どれだけ精度の高い予感だとしても意味はないという事だ。


「使えそうなのは< パワーグラブ >かな。鑑定行きで」

「了解」


 スキルピックアップだからか三つスキルカードも出ているが、どれもちょっと使えそうにない。時間が余ったら検証くらいしてもいいかなって感じのスキルばかりだ。

 字面だけなら< ストリングプレイスパイダーベイビー >はなんかすごそうだが、コレって確かヨーヨーの技だったはずだし。

 マンスリーミッションで増えたアーマーゾーンに< パワーグラブ >が使えそうなのが救いか。モブ夫には< ガントレット >があるし。


「はあ……」


 いきなり気落ちしたので、< 三人掛け本革ソファ >をマテリアライズして座ってみた。無駄に座り心地のいい高級品だ。これも、できれば取り回しの効きやすいベースカードで欲しかった。


「寝る」

「お、おお。お休み」


 ソファに座って一気に疲れが噴出したのか、眠気が襲ってきた。よく考えたら結構な時間活動してたのだから当然だろう。畳でもいいが、ソファも寝るには丁度いいサイズだ。

 起きたら第二ダンジョンに行ってみようと考えつつ、そのまま眠りについた。




-4-




 数時間後、目覚めた俺は早速第二ダンジョンへと向かった。どれだけ難易度が高いかは出たとこ勝負なので、モブたちも連れていきなり全力投入だ。様子見も兼ねているので、持ち込みカードも多い。

 拠点から出て左折、そのまま突き当たりの階段を下っていくのは< 修練の門 >と同じ。長めの階段の先に、光が見えた。


 色々想像してみたが、注意すべきはダンジョンの構造が変わる事よりも出現するモンスターの違いだろう。

 普通なら今の時点で様々なモンスターとの戦闘経験を積んでいるはずなのに、俺は人型……というかゴブリンしか相手にした事がない。武装や能力、あるいは見た目が違ってもヤツらは根本的にゴブリンであり、どうしても戦闘スタイルは近しいものにならざるを得ない。つまり、俺には人型以外との戦闘経験が圧倒的に不足している。これは多種多様な種族が出現する普通のダンジョンにおいては致命的とさえいえるだろう。


 たとえば獣。四足歩行で行動する獣型モンスターは人型と戦うセオリーが通用しない。そこら辺の野良犬を想定しても、俺がスマートに仕留められる気はしなかった。

 一応、四つん這いになってペット扱いされてるゴブリンは見た事あるが、アレはさすがにノーカンだろう。


 たとえば鳥。武器の届かない空中は、獣以上にセオリーが通用しない。一応、モブ次に< アイス・アロー >を持たせてはあるが、それが命中するかどうかは未知の領域だ。


 たとえば幽霊。現実感のない存在ではあるが、物理的な攻撃が効かない相手が出てくる可能性は普通にある。気配だって読みづらいだろう。


 たとえばスライム、たとえば虫、たとえば地中から這い出るアンデッド、たとえば魚などの水棲生物、どれが出てきても俺の戦闘経験は役に立たない。


 とはいえ、これは良く分からない仕様によって単に先送りされていただけで、本来克服しておくべき課題だ。

 俺自身の焦燥感に従っても、人型以外を相手にした戦闘経験は必須と考えられる。その経験が俺を強くするだろう。


 必要なのはイメージ。どんな相手にどんな戦い方をするか、より明確にクリアにイメージする事が強くなる秘訣。そんな事を、大学時代の飲み会でプロボクサーに聞いた事がある。

 漫然と鍛えるよりも、どんな風に、どんな意図を以て鍛えるのか。それを理解しているのとしていないのでは、トレーニングの結果からして変わってくるらしい。今思えばなるほどと思う。

 俺はこれまでそのイメージがなかった。単純に筋肉を鍛えれば、体力をつければ強くなる程度のものでしかなかった。もちろんそれにだって意味はあるだろうが、無駄も多い。


 あまりにも遠い目標ではあるが、多種多様なモンスターとの戦闘経験は確実に俺の血となり肉となり、頂に向かうための足場になるだろう。一つ一つが小さくとも、積み重なれば近づく事はできるはずだ。

 それがたとえ根本的に届かない距離だとしても、その行為自体に意味はある。無限に紙を重ねれば月へと至れると考える事こそ、今の俺に必要なもののはずだ。



「分かってると思うが、ゴブリン以外のモンスターに警戒。……行くぞ」


 念の為、モブ二体に注意を促してから最初のフロアへと足を踏み入れる。


「……洞窟か?」


 そこは壁に設置された松明で照らされた土の空間だった。< 修練の門 >第六層以降に近いが、自然発光する石やコケはないし、全体的に補強材が使われている。どちらかといえば、洞窟というよりも採掘場か何かに見える。


「いや、ダンジョンニュース見れば名前は分かるか」


 と、最近見ていなかったダンジョンニュースを展開する。


[ 採掘士の楽園 ]

 最高到達層:第一層


 ■第一層:探索完了領域1%/再構築まであと7日/宝箱(0/5)/フィールドボスなし



 表示内容からして、多分鉱山なのだろう。フィールドボスがなしって事はゴブリン十六魔将がこっちにも湧いて出るって事はなさそうだ。


「とはいえ、採掘場に出てくるモンスターってなんだろうな」


 ゴーレムとか? コウモリやネズミって線もあるし、スライムなんかもいそうだ。盗賊が根城にしているイメージもあるな。ゴブリンも普通に出てきそうだが、とにかくゴブリンだけって事はないだろう。

 モンスターではないが、採掘場といえばトロッコに乗れるギミックがあるRPGも多い。見たところトロッコもレールもないが。

 一応、情報収集を兼ねて最初の部屋を色々と調べてみるが、大した事は分からない。松明が壁から外せるので明かりは問題なさそうだ。モブ次にその松明を持たせ、探索を始める事にする。


「モンスターが出ないな」


 ある程度脳内で地図を描きつつ、ダンジョン内を探索。いくつか分岐路もあったが、比較的シンプルな造りである。

 モンスターが見当たらないが、良く考えたら< 修練の門 >第一層も似たようなものだったなと思い返す。

 という事は、ここの難易度も< 修練の門 >基準で考えたほうがいいのだろうか。ゴブリンしか出ない事は別として、通常想定されていた< 修練の門 >第一層と同等な難易度とか。油断はできないが、有り得ない話ではない。実際、向こうのダンジョンと同じように罠も見つからないし……。


「いや、おかしいだろ」


 一時間ほど彷徨って、さすがにこれはおかしいと思い直す。いくらなんでもここまでモンスターと遭遇しないというのは異常だ。これじゃ、ただ無人の炭鉱を歩いているだけである。

 攻略だけが目的なら別に構いやしないのだが、戦闘ができない上にチケットもなしじゃなんの意味もない。宝箱はあるらしいが、もっと大量に配置されているはずの< 修練の門 >でだってほとんど見た事ないのだ。そんな簡単に見つかるとも思えない。


 油断してはいけないと思いつつも、あまりに何もないダンジョンは徐々に警戒心を奪い去っていく。俺もそうだが、なんらかの技術で警戒を続けるモブ夫も一切反応がない。ゴブリン専用とはいえ、レーダーを積んでいるフライングバインダーもだ。松明係をやってるモブ次は良く分からん。

 注意深くダンジョン内を観察するも、どの部屋も通路も造りは似たようなもので、剥き出しの土に崩落対策の補強材と松明、時々穴を掘った跡と使い古しのツルハシが転がっているくらいだ。


「……掘ってみるか?」


 足を止めていた部屋には採掘跡が二つあった。ボロくて今にも壊れそうだが、ツルハシもいくつか転がっている。


「フライングバインダーは待機、モブ次は中央で松明係、俺はこっちを掘るから、モブ夫はそっちを採掘してみてくれ」


 イクイップカードの中に壁壊しの能力が付与されたものがあるのは知っているが、ここにあるのはカードでもなんでもないただのツルハシだ。実際振るってみても、期待以上の手応えはない。

 実験以上の意味はないので、そのまま適当に壁を掘り続ける。すると……。


「カード……?」


 なんか壁の奥にカードが埋まっていた。


[ 石 コモン ノーマル/アイテム ]


「これでどうしろっていうんだ」


 まったく使い道の思いつかないカードだ。ついさっきガチャから< 路傍の石 >も出たが、同じくらい意味のなさそうなアイテムである。

 それからしばらく続けて、似たような頻度でカードを回収できたが、大体< 石 >か< 土 >で、一枚だけ< 鉄鉱石 >が混じっていたくらいだ。ツルハシも三十分保たずに壊れてしまった。

 ひょっとして、自前でツルハシを持ってきて道を切り開いていくタイプのダンジョンだとか?

 鍛冶システムがあるRPGなどなら金属を採掘してっていう工程もあったりするが、俺の手持ちで金属加工できそうなものはない。辛うじて< マテリアルリサイクラー >や< カードラボラトリー >なら使えなくもないが、それならチケットを集めてガチャを回すほうが早いだろう。


「……分からん」


[ Q.第二ダンジョンに挑戦してみたところ、一切モンスターの出ない採掘場のような場所だったんですが、何かの不具合でしょうか ]


 悩むなら確認したほうが早いだろうと、質問フォームに投稿する。余計な情報を渡さないスタンス故か回答不可の事も多いが、こういう目の前にある疑問に対しては概ね回答をくれる印象がある。

 しかし、数分待っても回答はない。

 これは、向こう側に神様がいるパターンだな。自動回答の場合はすぐに返ってくるのだが、神様が直接入力したと思われる回答は大抵こういう感じでタイムラグが存在する。


 諦めて再度探索を開始するが、代わり映えしない空間が続くばかりだ。そうしてしばらく歩き続けていると、通路の先に帰還陣が見えた。

 それを見て、思わず脱力感に襲われた。


「……帰るか」


 新しいダンジョンだから、とうとうゴブリン以外のモンスターと会えると思ったのだが、新しいモンスターどころか何も遭遇しないダンジョンだった。死んだわけでもないし、様子見って意味なら役目は果たしたといえるが。……なんだコレは、どうしたらいいんだ。




「お、随分早かったではないか。二つ目のダンジョンはどんな感じだったのかね?」

「……どうもこうも、説明に困るな」


 いつもの帰還同様、拠点に戻されるとリョーマが話しかけて来た。しかし、伝えるべき感想がない。


「ゴブリンどころかモンスターもトラップもないただの炭鉱だった。落ちてるツルハシで壁を掘ると石が出る」

「なんだね、それは」

「俺にも分からん」


 アーサー・ブレイク博士を無責任と笑えない状況だ。

 ……あ、質問の回答が返ってきてるな。やっぱり神様が在席中だったらしい。


[ A.第十層で開放されるダンジョンはランダムで決まるので、たまたま収集系ダンジョンが当たってしまったものと思われます。まったくモンスターの出ないタイプはかなりレアなんですが、そこら辺は使徒さんの運ってやつですかね? 今の状態だと収集系ダンジョンの意味は薄いので、< 修練の門 >第二十層で第三ダンジョンの開放を目指すのが良いかと思われます。あと別件で、九十九蒲公英の様子がおかしいらしいですが、使徒さん心当たりありますか? ]


「…………」


 説明を求めて質問フォームに投げてみたが、返って来た答えは無情にも現時点で無意味なダンジョンというものだった。

 メイドの様子がおかしいとかどうでも良くなるくらいショックである。


 ……第二十層か。またゴブリンかよ。





たんぽぽさんに一体何があったというのか。(*´∀`*)

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
フライングバインダーってリョーマの先輩じゃないっけ
[一言] ABマンパンチが気になってあっちのヒーロー読んできました あんだけの回数パンチくらった蒲公英さんのお腹はもう・・・ 向こうもこちらも面白いので続き読みたいですわ
[気になる点] ガチャ太郎・モブ夫・モブ次ならトライアルのミノタウロス倒せる?
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