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第三十話「一〇〇連ガチャ」

意外と大変だった。(*´∀`*)




-1-




「カテゴリチケットはまとまった数が集まるまで使わん」


 試行回数が少ないとはいえ、悩んで回した末にあの爆死は正直キツかった。心の弱い人……たとえば吉田さんなら爆死に心を痛めてマゾに目覚めてしまいかねないダメージだ。ひどい風評被害もあったものである。


「というわけで、頑張って集めてきたぞ、ゴブリンチケット」

「さすがにこれだけあれば何か有用な武器が当たりそうだな」


 神様から< 質屋 >というハルバードの回収手段とついでに引換券が提示されたとはいえ、その< 質屋 >そのものの入手が確約されたわけではない。

 早ければ来週という話は聞いているが、入手手段であるところのミッションシステムが導入される時期が正式に公表されているわけではないし、ミッションをクリアするために戦闘が必要かもしれない。

 そもそもミッションや質屋に関係なく、有用な武器はあって困る事はない。というわけで、第二層と第三層をヘビーローテーションしてチケットを集めてきたのだ。


 真っ当な戦闘にならないゴブリンを一方的に撲殺しつつ、集めに集めたゴブリンチケットは、これまでの貯金と合わせて一〇三枚。途中から一〇〇連ガチャを回してみたいという欲求が生まれたために無理したところもあるが、一〇〇連という目標がなかったら途中で十連を回す欲求に耐えられなかっただろう。ノーマルチケットのほうは13枚と、こちらも十連に足りる結果だ。

 攻略や訓練を考えず、ただひたすら無心になってチケット回収だけを目的とするならこれくらい可能という事だな。ダンジョンの入場規制が解かれた直後から開始して、もうすぐ日付が変わるという超ハードスケジュールなのでそうそうやりたくはないが。ほとんど二十四時間ぶっ続けである。

 思い立ったのがウエポンピックアップ最終日でなければもうちょっとまともなスケジュールで頑張ったのに。何故俺は夏休みの宿題を溜め込んだ小中学生のような真似をしているのか。


「まあ、一〇〇連は十連以上に補正がかかるらしいから、さすがにウエポンピックアップは引っ掛かるだろうな。むしろ、武器だらけになってしまうかもしれないという懸念のほうが強い」

「なんなら、スキルピックアップ用に回すという手もあるが。たったの半日後だ」


 良く考えてみたら、一〇〇連にはそういう問題もある。一度始めたら、途中で有用なものが出ても止められない。それ以外のものも含まれるとはいえ、武器だけがピックアップ対象だと無駄になってしまう可能性は高いわけだ。

 その点、スキルは無駄になりにくいという利点がある。武器と比較しての印象でしかないが、イクイップの中のウエポンに限定されているのとスキルという大カテゴリでピックアップされているのでは排出されるものの幅も異なるだろう。先週のペットや今週のウエポンと異なり、明日からのスキルピックアップは中カテゴリの指定はないのだ。


「……ノーマルの十連回してから考えるか」


 ノーマルチケットの十連、あるいは端数のゴブリンチケットで良い物が出たら、一〇〇連は明日に回す事も検討しよう。

 しかし駄目なら駄目、使うなら使う。どんな中途半端な結果でも、小出しに十連を十回などという手段はとらない。俺が一〇〇連を楽しみにしていたという事もあるが、その流れで俺が良い物を引ける気がしないからだ。



< 先代ゴブリン十六魔将の集合写真 レア ノーマル/アイテム >

< 死ンデレラ殺人事件 コモン ノーマル/アイテム >

< 武器の飾り棚 コモン ベース/インテリア >

< リミテッド・ウエポン・チェンジ(同種武器) コモン スキル/アクション >

< アイアンネット コモン イクイップ/サブウエポン >

< 重量化 コモン ノーマル/マテリアル >

< 鋼板コイル コモン ノーマル/アイテム >

< 刺身包丁 コモン ノーマル/アイテム >

< カンガルー肉 コモン ノーマル/アイテム >

< 精巧なネジ アンコモン ノーマル/マテリアル >


「う、うーん……」


 期待はしていなかった。期待はしていなかったのだが、恐ろしく微妙な結果だ。途中、なんか精巧な刃物が出た時はおっと思ったが、中身はイクイップでない刺身包丁である。

 突っ込みどころしかない< 先代ゴブリン十六魔将の集合写真 >は確かにレアなのだろうが、有用性は間違いなく皆無だ。とりあえず神様に回せないか検討する。同じく、ネジがアンコモンで出てしまっているのもレアリティの無駄遣いだろう。いらん。

 < リミテッド・ウエポン・チェンジ >は多分同種の武器同士なら交換できるとかそういうスキルなのだろう。鑑定結果次第ではあるが、これは有用。

 他には合成用素材らしき< 重量化 >もあるし、全体的に見たら微妙だが爆死とは言えないといういつもの結果だ。

 直接関係ないが、< 鋼板コイル >の絵柄を見る限り、どうみても工場に置いてあるような巨大コイルなのだが、これってマテリアライズしたらまずいモノではないだろうか。部屋が埋まる。


「これは一〇〇連確定かな」

「い、いや、まだ端数のチケットあるし」


 ゴブリンチケットとノーマルチケットがそれぞれ3枚ずつある。十連分貯まるまで待ったほうがいいのは分かるが、重要な分岐点なので使ってしまおう。

 とはいえ、ノーマルチケットはできればとっておきたいのでゴブリンチケットから。


< 七味唐辛子 コモン ノーマル/アイテム >

< 宅配便不在通知 コモン ノーマル/アイテム >

< ボクシンググローブ コモン ノーマル/アイテム >


「ウエポンピックアップにかすりもしねえ」


 敢えて言うのならボクシンググローブがそれっぽいものの、これはノーマルだ。装備はできない。

 やっぱりノーマルチケットの端数を使うのはやめようかなと思い直しつつ、でもやっぱり使おうかなと考え直し、結局は使う事にした。この間、実に三分ほど。


< 山盛り千切りキャベツ コモン ノーマル/アイテム >

< ショートソード コモン イクイップ/ウエポン >

< サバイバルナイフ コモン ノーマル/アイテム >


 しかし、結果は例の如くクソ微妙だった。キャベツはいいとして、ショートソードはすでに在庫があるし、サバイバルナイフはノーマルだ。


「大体予想していたが、決まりだな」


 リョーマの反応は冷たかった。

 確かに一〇〇連を回すのは確定と言えなくもないが、果たしてこんな運気のままで回してしまっていいものか。回さないという選択肢はほぼほぼないといえ、このままだとあっさり爆死する未来しか見えない。


「ガチャにはジンクスというものがある」

「いきなり何を言い出すのだ」

「まあ聞け。ガチャに限らないが、こういった運否天賦を試すが如き行動は目に見えないオカルト的なモノに縋りたくなるらしい」

「分からんでもないが、祈るのか」


 神様がいるのは確定なのだから祈ってもいいが、それはいつもの事であるし、どっちかと言えば俺も祈られる側だろう。今はそういう事を言っているわけではない。


「乱数とか、確率の偏りというものに期待して、特定の時間にモンスターを倒すとドロップするとか、確変が出た直後のパチンコ台は使わないとかあるわけだ」

「本気で藁を掴むが如きオカルトだな」

「というわけで、ピックアップ終了の直前に合わせて回してみたいと思います」

「……成功例などはないわけだが」

「ただの気分だ。なんか特別な回し方をすれば上手く操作できるかもしれないっていう願望に近い」


 とはいえ、これで上手くいったら次からもギリギリに回したりするんだろうなとは思う。そう、これは前例を作るための儀式なのである。


「御主人様がそれでいいというなら、いいんじゃないだろうか。どうせもう十分くらいしかないし」


 画面に表示されているウエポンピックアップの残り時間は九分ちょっと。そう、この表示があるのもオカルトに縋りたくなった原因の一つなのである。

 とはいえ、ミスって時間オーバーして引けませんでしたーとなるのは嫌なので、チケットを投入して引く直前までは準備しておく事にする。


 などと考えてチケットを纏めて投入、ウエポンピックアップの一〇〇連ガチャのボタンが表示されたのを確認して、それをタッチしたところ、ちょっと想定外のメッセージが表示された。いつもの回しますか?とは別のものだ。



●一〇〇連ガチャの結果表示仕様変更について

 一〇〇連の結果について、ユーザーの要望により一枚ずつ表示する形式からレアリティごとにまとめて表示、個別演出をスキップできるように仕様が変更になりました。

 コモンのカードについてはまとめて表示、アンコモン以上は枚数表示の上、任意でスキップが可能となります。この仕様変更に伴う排出確率の変化などはありません。



「……なんだこりゃ」


 初めて利用するガチャのはずが、何故か仕様変更されていた。ユーザーといっても、俺以外にユーザーはいないはずなのだが、他にもこれを回している奴がいるというのだろうか。

 別におかしな話ではない。吉田さんのように開発者がいるのだから、デバッグレベルではそりゃ動かしてはいるだろう。しかし、これはユーザーだ。神様や開発側が自発的に仕様変更をしてユーザの要望という言葉を使う気がしない。


「俺がいない間にリョーマが回したとか?」


 と、リョーマに視線を向けると無言で首を振られた。……だよな。細かい数まで覚えているわけではないが、チケットの数が合わなかった事はなかったはずだし。そもそも一〇〇連だし。

 なんとなく気持ち悪いので質問フォームに投げてみたところ、すぐに回答が返ってきた。どうやら幼女二号が運試しか何かで回したらしい。その際に演出が長いと言われたそうだ。

 確かに十連のような演出でそのまま一枚一枚表示されたら冗長ってレベルではない。別に何も知らない俺に伝達する必要はなかったような気がしないでもないが、仕様変更については納得だ。


 そうして、ウエポンピックアップの終了時間が近付いてきた。変な操作をして強制的に普通に一〇〇連になったりしないかと不安になりつつ、ガチャを開始する。

 よし、反応はした。これで処理には入ったはず。……はず。

 俺の不安をよそに普通に演出が始まり、それは終了時間を過ぎても普通に継続した。実はこれで想定外の処理がされたらバグ報告か何かで詫びチケットを要求しようと考えていたのは秘密だ。

 というわけで賽は投げられた。後は結果を信じるのみ。


 排出されたらしいレアリティに合わせたカードがそれぞれ表示され、そこに詳細な枚数が表示されている。


[ コモン ×81枚 ]

[ アンコモン ×15枚 ]

[ レア ×3枚 ]

[ ハイレア ×1枚 ]


 内訳としては、まあこんなもんだろうという枚数だ。悪いとは言わないが、特別良い出目とも思えない。ハイレアも当たっているようだが、そりゃ百回回せば一枚くらい出るよなって感じである。

 とはいえ、これで分かるのはレアリティのみだ。コモンかアンコモン以上かは重要だが、それ以上に重要なのは中身である。レアだろうが、ただの棍棒のようなカードでは意味がないのだ。


 レアリティ内訳画面の右下には『NEXT』と書かれた矢印が表示されていて、これを押すと次の結果に進むらしい。

 それをタッチすると、今度はコモンカードの一覧がサムネイル形式で表示された。排出順ではなく、カテゴリごとに色分けされた分かりやすいものだ。すべては表示されておらず、画面をスクロールできるらしい。

 ガチャマシンの画面解像度は割と高いのか一応サムネイルのままでもカード名と絵柄は把握できるが、それぞれのカードをタッチするとそのカードが拡大される。これまでは単に排出された順にカードがデカデカと表示されるだけだったので、随分バージョンアップした感がある。

 そして、画面を下へスクロールさせていくと前画面と同じ矢印がある。これでアンコモンの結果へと映るのだろう。


「なるほど。これは見易い……んだろうな」


 比較対象がないので分かり辛いが、こうして一覧化されるのは把握し易い。

 大中カテゴリの色分けだけではなく小カテゴリでも分類されているのか、それっぽいカードが続けて並んでいるのも良い感じだ。


■コモン(ノーマル/アイテム)

 < オーストラリア産ステーキ肉 >< 長ネギ >< パン粉 >< 本わさび >< ブラックペッパー >< かき氷シロップ(ブルーハワイ) >< 卓上塩 >< 納豆用醤油 >< リラックスハーブ(合法) >< 屋内用大麻栽培セット >< バナナ(一房) >< 今日のお通し >< アルミ缶の上にあるみかん >< ポテトチップス >< チョコレート >< 焼きそばパン >< かち割り氷 >


 < 甲類焼酎(2リットル) >< コーヒーメーカー >


 < 成金腕時計 >< 蝶ネクタイ >


 < 電動ドリル >< 使用済み注射器 >


 < 経口補水液 >< 超強力下剤『悶絶くん』 >


 < 人生ゲーム~自称ホワイト企業編~ >< 十六面体サイコロ >< 爆撃されたゲームボーイ >< ニンテンドー64純正コントローラー >< 環境音CD『おっさんの呼吸』 >


 < スターティングブロック >< 砲丸 >< 甲子園の土(偽物) >


 < 修学旅行の記念写真 >< 誰かのレントゲン写真 >< 幽霊写真 >


 < 斎藤裕也(38歳)の黒歴史ノート >< ゴブリンの黒歴史ノート >


 < デンジャー桃太郎20XX~巻ノ弐・未来からの使者~ >< 病ンデレラ >< 神話伝承シリーズゴブリン編下巻 >< 週刊少年マガジン2000年度セット >


 < 選挙事務所の裏帳簿 >< モンスタークレーマー用応対マニュアル >< 離婚調停議事録 >< 婚姻届 >< フィリピン非合法売春宿の顧客リスト >< ソマリア氏族一覧表 >< 隠滅したはずの証拠物件 >< 脳内嫁のイメージラフ >< レシート >


 < 円座 >< 便座カバー >< メタルラック >


 < 誰かの筋繊維 >< 防腐処理された腕 >


 < 粉塵爆発用小麦粉 >< 偽造100$紙幣 >< 超リアル!おっぱいマウスパッド用洗濯ハサミ >< ゴブリン用トラバサミ >< ゴブリン用アイアンメイデン >< ゴブリンの思い出~日常崩壊編~ >


■コモン(ノーマル/マテリアル)

 < 強化+ >×3< 軽量化 >< 重量化 >< 棘 >< ゴブリン最適化 >×2< オーク最適化 >


■コモン(イクイップ/ウエポン)

 < 棍棒 >< ポールハンマー >< ゴブリンソード >< ゴブリンボウガン >< ジャイアントメイス >< ゴブリンブーメラン >< バリスタ >< オークアックス >


■コモン(イクイップ/サブウエポン)

 < 手榴弾 >< ボウガン用ノーマルボルト >



「……まあいいか」


 想定の範疇と言えば嘘になるが、爆死といえるほどでもない……ような気もする。良くある微妙な出目だ。

 一つ一つを見れば突っ込みたくなるモノが多いとはいえ、これは所詮コモンである。そこまで気にしない。問題は次だ。今、一番重要視しているのはコモンでもレアでもそれ以上でもなくアンコモンなのだ。



■アンコモン

 < ウォーアックス アンコモン イクイップ/ウエポン >

 < 伝説の棒 アンコモン イクイップ/ウエポン >

 < ゴブリンロングボウ+ アンコモン イクイップ/ウエポン >

 < 人を駄目にするクッション アンコモン ノーマル/アイテム >

 < 神戸市交通局2000形電車 アンコモン ノーマル/アイテム >

 < ウエポン強化マシン アンコモン ベース/ライフ >

 < 汎用機銃 アンコモン イクイップ/パーツ >

 < エロ競泳水着 アンコモン イクイップ/アーマー >

 < 小型電動フォークリフト アンコモン ノーマル/アイテム >

 < 完全遮光カーテン アンコモン ノーマル/アイテム >

 < 湧き出す(ワイン) アンコモン ノーマル/アイテム >

 < 週刊少年チャンピオン最新号 アンコモン ノーマル/アイテム >

 < 鬼盛りラーメン(濃厚味噌) アンコモン ノーマル/アイテム >

 < ウエポンブースター アンコモン イクイップ/アクセサリ >

 < 武装実験場 アンコモン ベース/フロア >


「あれ、なんか悪くなくない?」

「そこまで御主人様の需要と離れていない気がするな」


 気になるモノは鑑定による詳細待ちとしても、カード名だけで見ればそこまで悪くないと思える。しれっと電車とか混ざってるが、不要なモノが紛れているのは今に始まった事じゃない。

 たとえば、< ウォーアックス >は俺が一番求めていた武器そのものだ。< ハルバード+ >を回収するまでの短期間の繋ぎにさえなればと思ったが、あるいはこちらのほうが使える可能性まである。

 それ以外にも< ウエポン強化マシン >など、名前だけ見てもチラホラと使えそうなモノが混ざっていた。悪くない、悪くないぞ。


 この分なら、レアも期待できるかも。

 NEXTの矢印をタッチしてレアの画面へと移行すると、これまでにない演出が始まった。レア以上は一枚ずつ、強調された演出で結果を表示するというわけか。十連ガチャで一枚一枚一喜一憂していたのを、一〇〇連ガチャではレア以上に絞ったというわけだな。


■レア

 < ゴブリンウォーアックス+ レア イクイップ/ウエポン >

 < 超重化+ レア ノーマル/マテリアル >

 < 地獄の拷問部屋 レア ベース/ルーム >


■ハイレア

 < ヒューマン・ファイター ハイレア ユニット/サーヴァント >


「お……?」

「お」

「おおおおおっ!!」


 似たような< ゴブリンウォーアックス >が被ってしまった事で見間違いか何かかと二度見してしまったが、まさかの高レアユニットである。


「え、マジで? 欲しかったけど、多分出ないだろうなと思っていたもんが出たぞ」

「物欲センサーというやつかね」

「如何にもありそうだが、ちょっとどうでもいいわ」


 詳細は確認の必要があるものの、これは俺の探索スタイルが大幅に変わる代物だ。強化手段がないのは問題だが、質問フォームの回答ではユニットはレアリティに応じて独自の装備枠を持つ。つまり、このままでも十分モノになる可能性が高いという事である。ちゃんと俺の命令を聞くかとか、名前や性別も表記がない事は気になるものの、それこそ鑑定の出番である。


「とりあえずコレ< かんてい >行き。突っ込んどいて」

「おうさ」


 排出されたカードの一番上に置かれた< ヒューマン・ファイター >のカードをリョーマに渡す。リョーマも< かんてい >の扱いは手慣れたものだ。

 次は結果に合わせて何から鑑定するかを悩むターンだと思っていたが、さすがにコレは最優先である。とりあえず一度セットしてみるというのも考えたが、慎重さは重要である。

 しかし、これは純粋に運なのだろうか。ゴブリン関連でもなければウエポンでもないぞ。敢えて言うなら武器を使う存在ではあるが、そこまで範囲が広かったりするんだろうか。




-2-




[ はじめての一〇〇連ガチャ達成 実績ボーナスを獲得しました! 一〇〇〇連ガチャ機能開放! ]


 ユニットカードの衝撃で気付かなかったが、どうやら一〇〇連ガチャを利用した事によって実績ボーナスも開放されたらしい。

 十連の時はノーマルチケット一枚だったから、一〇〇連の今回は十枚とかなら良かったのだが、ボーナスはまさかの一〇〇〇連ガチャ機能である。一〇〇連ですら苦行だというのに、その十倍も集めろというのか。

 また実績ボーナスの開放もあるだろうから、初回に限るならやってみる価値はあるかもしれないが、それで貰えるボーナスが一〇〇〇〇連ガチャとかだったらと思うと不安しか感じない。


「一〇〇〇連ガチャとか、結果を見るだけで日が暮れそうだな。一〇〇連だって大変そうなのに」


 アンコモン以上に限るならすぐに吟味できるが、コモンの確認作業はカード名と絵柄だけでも大変だ。とはいえ、コモンにだって生活水準向上に寄与するものは多いから無視もできない。

 その上、鑑定作業まで考えるなら時間がいくらあっても足りないだろう。


「これだけあればしばらくは鑑定三昧だな」


 しかし、それをする役目を担うリョーマの声は弾んでいた。


「お前の作業が増えるっていうのに嬉しそうだな」

「肉の加工業者よりは鑑定家のほうがマシだ」


 ここしばらく、鑑定作業はリョーマの仕事になっている。鑑定結果は直接カードに反映されるため、俺自身がやる必要はなく、とりあえず突っ込んでおけば記録の必要がないというのも大きい。

 それに加えて、< カードラボラトリー >を使った合成の総当たり実験。そして肉の加工こと< マテリアルリサイクラー >の変換作業が待機時間にリョーマが行っている作業のすべてだ。

 全部ベース/ライフのカードなので、元々のライフゾーン一枠と< スモールルーム >の一枠の二枠を回して作業を行っている。

 < カードラボラトリー >の確認はともかく、残り二つは処理時間が発生するため、その間リョーマはトイレもマテリアライズされたペット用のモノを利用しているほどだ。農園があったところで、大した違いはないと言えばそうかもしれないが。


「あ、そういえば、追加のチケットは?」

「ない。あればその時点で渡しているだろう。ほとんどは肉塊だ」


 第五層ボスのボーナスであるところの< マテリアルリサイクラー >だが、これは< ゴブリンの右腕 >などのノーマル/マテリアルのカードを変換してくれる機械だった。

 それだけ聞くと、ゴミを処分できる素晴らしい機械に感じてしまうが、そこまで都合の良いものではなかったのである。

 有用性という意味では、ゴブリンスーパーピックアップになるという鑑定結果を見て、即記念館行きになった< ゴブリンチケット+ >と似たようなものだ。



< マテリアルリサイクラー >

 レアリティ:アンコモン

 強化値:☆

 分類:ベース/ライフ/変換設備

 解説:マテリアルカテゴリーのカード10枚を別のマテリアルかチケットに変換する装置。



 変換に必要な枚数は10枚。変換対象は別のマテリアルかチケット。変換時間は一回当たり一時間かかるが、この鑑定結果を見て歓喜した俺はすぐにゴブリンパーツを放り込んだ。

 結果は初回のご祝儀か何かなのか< ゴブリンチケット >で、これは常時起動させておくべき神装置かと思ったのだが、それ以降は二回ほどしかお目にかかっていない。ゴブリンパーツを変換して出てくるのは主に< ゴブリンの肉塊 >で、時たま< 強化+ >や< ゴブリン最適化 >のような合成用カード、更に極稀にチケットという感じなのだ。

 時間がかからないなら全部纏めて処分するだけなのだが、処理時間の関係でリョーマの空き時間を使って作業してもらっているというわけである。

 変換するマテリアルカードは大量に先行投入できてリョーマの作業はボタンを押すだけなのだが、結果のほとんどが< ゴブリンの肉塊 >では肉の加工業者になった気分になるのも仕方ないだろう。マテリアライズして食べたいと思わないし。

 実は以前に一度マテリアライズして一口だけリョーマに食べさせてみたのだが、その感想は『死にたくなかったら口にしないほうがいい』だったのだ。どれだけまずいんだ、ゴブリン。


「ああ、報告し忘れていたが、< ゴブリンの巨大な肉塊 >も出たぞ。強化値は埋まっていたが、なんとアンコモンだ」

「その報告は忘れてても良かったかな」

「一応、記念館に飾れるではないか」

「そりゃそうだが、飾れるのは一枚だけだろ」


 少しレアかもしれないが、その名前なら今後頻繁に出てきそうだ。そうしたらまた変換材料になるだけである。強化値が空いていても使い道はない。そして、使い道ができる未来も浮かばない。

 ついでに、カード名がほぼ被る事がない現状では記念館行きのカードが一枚増えたところで大したメリットには成り得ないのである。



「さて、鑑定の待ち時間でカードの吟味をするか」

「ガチャが終わったら寝るつもりだったのでは?」

「鑑定結果が気になるから、寝るのはその後だな。ひょっとしたらそのまま連れてダンジョンに行くかも」

「ほぼ丸一日探索していたのに、御主人様も大概タフだな」


 自分でも化け物染みてきているとは思う。この一週間は待機時間が多かったためにそこまででもないが、補給体制さえ整っていれば二十四時間連続の探索だって可能だろう。普通に運動するだけならもっとだ。

 ハイレアカードの鑑定時間にかかる四時間が増えたところで特に支障はない。


「とりあえず、お前は何か欲しいものある?」

「気になるのはやはり< デンジャー桃太郎20XX >だな。第二巻なのは残念だが。あとは< 週刊少年チ○ンピオン最新号 >か」

「桃太郎はともかく、お前が最新版の漫画雑誌見ても訳分からんだろ」


 看板タイトルくらいなら知っているが、元々追いかけていた漫画はないし、俺は特に興味ない。都合良く過去の号が手に入るはずもないし、コミックスだって手に入れるのはかなり厳しい確率だ。


「いや、気になるのは内容ではない。最新号の扱いだ」

「そりゃ直近で発売された号って事じゃ……いや、そういう事か」

「ずっと最新号かも知れないという事だな」


 そうだよな。以前にも漫画雑誌が出た事はあるが、あれは年度と号まで指定された表記だった。単に最新号というだけなら同じ形式の表記でいいはずだ。

 ひょっとしたら、マテリアライズしたら最新号に合わせて内容が切り替わるかもしれないという事だ。単にマテリアライズ時点の最新号というだけかもしれないが、確認はしておきたい。


「それなら、今からでも連載を追える」


 結局はリョーマが読みたいだけの話ではあるのだが。

 ただ、鑑定してからのほうがいいだろうという事で、マテリアライズは保留する事になった。デンジャー桃太郎はそのままマテリアライズしたが。




「色々気になるものはあるんだが、確認が大変だな」


 とりあえず、< アルミ缶の上にあるみかん >をマテリアライズして食いながらカードを物色する。ちなみに、コレは謎のアルミ缶がついてるだけの単なるみかんだ。

 < 鬼盛りラーメン >と< 今日のお通し >は食堂用に確保。< 超リアル!おっぱいマウスパッド用洗濯ハサミ >は……ただの洗濯ハサミだよな、これ。何か特殊な効果があったりするんだろうか。あとで試してみよう。


「そういえば、そろそろ棚が欲しいな」


 インテリアカテゴリのカードでもあるんだろうが、棚なら別にマテリアライズしてもいいだろう。

 と考えて< メタルラック >をマテリアライズしたら、組み立て前のものが出現した。面倒だが、組み立てる事にする。


「九十九世界とやらに持っていくモノは決まってるのかね?」

「ああ、それも吟味しないとな」


 ラックを組み立てつつ、リョーマの問いについて思案を始める。

 食料関係はある程度改善したから捻出できなくもないが、二号が用意した< 玄米俵 >があれば割とどうにでもなりそうだ。炊く手段はあるわけだし。


「いらないモノで向こうが喜びそうなもんってなんだろうな。一応、シャワートイレとか考えてたんだが」

「シャワートイレくらい向こうにもあるのでは?」

「完動品が残ってるとは限らないし、奴らが存在自体を知らない可能性もある。何よりウチでは持て余してるものだ」


 ウチには設置すべき洋式トイレどころかトイレ自体がない。トイレ代わりの農園はあって、紙もあるわけだが、基本的に野グソと一緒だ。今後トイレが手に入る場合でもシャワー機能だけがないというピンポイントなものが出てくる気がしない。多分、トイレルーム的なある程度機能が一体化したものが出てくる気がするのだ。

 相手は女性ばかりだし、デリケートな問題でもそれなりに喜ばれるんじゃないかと思う。ついでに言うなら、俺も久しぶりにケツを洗い流したい。なんか物騒な名前が付いてるけど、威力調整くらいはできるだろうし。


「まあ、確かにいらんよな。便器もなければ電気も水道もないのだから。それで印象が良くなるならアリか」

「あとはこの< チョコレート >とかかな。ある程度保存利くが、残ってないだろ」

「酒は?」

「ああ、俺もあんまり飲まないし、そもそも奴らが甲類焼酎をお気に召すか分からんが、持っていってもいいかも」


 アルコール類なら保存状態がいい場所なら残ってる可能性はあるが、それ以前に略奪されているような気もする。


「ワインが湧き出すっぽい瓶は?」

「それは俺が使う」


 半恒久的に使えそうなモノはさすがにもったいない。俺だって酒類が嫌いなわけではないのだ。まずいならいらないが、マテリアライズしたら持っていけないし。


「そういう誰でも使い道のありそうなモノは基本的にこっちで使う。基本こっちでいらないモノで喜びそうなモノはないもんかね」

「……電車とか?」

「ああ。ひょっとしたらってレベルだが……いや、ねーだろ」


 電車持ち込んで喜ばれる意味が分からん。枠の制限はそこまで厳しくないし、とりあえず持っていくくらいならいいが。いるっていうなら渡せばいいだけだ。ついでに< 鋼板コイル >も持っていくかな。

 < 便座カバー >はさすがにあるだろうし……いや、向こうでカードが増える心配はないから、枠の許す限り候補は持っていこう。


 そうして、カードを吟味したり、部屋の片付けをしたり、通路で新しく手に入れたカードのテストをしていたら鑑定が終了した。




-3-




< ヒューマン・ファイター >

 分類:ユニット/サーヴァント/エクスプローラー

 レアリティ:HR

 強化値:★☆☆( クラス:戦士 )

 戦闘評価:力:C/敏捷:C/器用:C/体力:C/魔力:E/抵抗:D

 性格:従順

 クラス:《 ファイター 》

 追加カードゾーン

 イクイップゾーン:[ ][ ][ ]

 ウエポンゾーン:[ ]

 サブウエポンゾーン:+[ ]

 アーマーゾーン:[ ][ ] + [ ]

 クラスゾーン:[ ]

 スキルゾーン:[ ][ ]

 解説:人間の冒険者を模したユニット。汎用的な能力と追加カードゾーンを持つ。

 クラス< 戦士 >が合成されている事で、クラス特性としてサブウエポンとアーマーのゾーンが追加されている。



「…………」


 その鑑定結果を見て、俺は絶句していた。


「つ、強いな。御主人様よりカードゾーンに余裕があるぞ」

「え、ちょっと待って!? 強過ぎない?」


 なんか、期待の新規ユニットは俺をゆうに超える追加ゾーン数を持っていた。

 コモンではゼロ、アンコモン以上はレアリティによってゾーンが追加されていくのは聞いていたが、想像以上にレアリティの差が大きかったらしい。しかも、こいつはすでに< 戦士 >のカードで強化されているらしく、特性として更にサブウエポンとアーマー用のゾーンが追加されると。つまり、盾や弓矢も選択肢に入るのだ。

 俺がクラスカードをセットしても枠が増えたりしないのに……いや、クラスの枠は別にあるから強化値を使った合成の場合のみの処理か、あるいは名前が変わっている事が重要なのか。

 こいつはHRではあるが、ユニークでもなんでもない汎用カードだ。つまり、これは特別でもなんでもなく、HRのユニットとしては普通の強さであるわけで……。


「やばい。劣等感が刺激される。なんだこのカード枠」

「いやいやいや、御主人様の場合は増えるからな。将来性に期待だぞ」


 すかさずフォローを入れてくるリョーマだが、異様な劣等感に心が沈んでいた。

 リョーマの言うように俺のゾーン枠は増えていくものだから、割と簡単にこれを超える気はする。しかし、今現在では圧倒的大差で負けている気がするのだ。実際、イクイップゾーンがカツカツな俺と余裕のあるこいつでは並んで見た際の見栄えにも差が生まれるだろう。何故、主人である俺のほうが見窄らしい格好をしているのか。


「……とりあえず、実際に見てみるか」


 鑑定結果だけを見て評価するわけにもいかない。実際に使ってみてこそだろう。


「ふむ。なんというか、マネキンっぽい」

「顔もないのだな」


 実際にユニットゾーンにセットしてみると、リョーマやフライングバインダー同様、拠点でもその姿が出現した。

 それで現れたのは、俺と同じくらいの背で中肉中背の性別が良く分からない人間のカタチをした人体模型のようなモノだった。それっぽい凹凸はあるが、顔もなく髪や体毛ない。良く見ると爪もないな。

 人間っぽい要素を最低限詰め込みましたって感じの存在だ。真理の扉を開いたら出てきそうな感じ。


「目も耳もないが、こっちの言ってる事分かるのかな」


 と、命令を聞いてくれるか不安に感じていたら、そのマネキンは反応して頷いた。普通に聞こえているらしい。

 なんというか、ザ・汎用ユニットって感じだな。モブってレベルですらない。背景にいる大衆レベルの書き込みである。


「右手上げて、左手上げて、右手下ろして、しゃがんで、ジャンプだ」


 適当に命令を出してみれば、モブは滑らかな動作で応えてみせた。なんなら俺よりもキレがいいまである。


「直接の命令は聞く。なら抽象的な命令は……」


 そこで気付いたが、以前ダイナミック自殺させてしまったゴブリンも命令には従順だった。ここであの扉の向こうに行けと言ったら、同じように階段を降りて行ってしまうかもしれない。


「よし、適当にダンスを踊ってみろ」

「そんな無茶な」


 モブは一瞬困惑した素振りを見せるが、その直後から盆踊りを始めた。……話せないものの、リョーマと同じくらいの理解力を持ち、柔軟に対応すると。

 ちなみにブレイクダンスを命令したら、普通に失敗した。なんでもできるわけではないらしい。逆に言えば、技術の必要がない事はなんでもやらせられるわけだ。


「実際に戦闘させてみたいが」

「さきほど、それっぽい< 武装実験場 >が出たが」

「いや、それは鑑定してからにしよう。ちょっとこいつ連れて第一層ウロウロしてくるわ」

「それはいいが、こいつの名前はつけんのかね」

「じゃあ、モブ夫で」


 それを聞いてマネキンはピクリと反応したが、次の瞬間には頷いていた。リョーマのように拒否ができないだろうと適当に付けてしまったが、好感度は下がってしまったかもしれない。

 そうして、モブ夫に適当な装備を持たせた俺は第一層へと降り立った。適当に歩いていると、程なくして雑魚ゴブリンと遭遇。


「よし、やってみろ」


 俺が促すと、モブは頷いて戦闘を開始する。

 生まれたてで経験のない存在がどの程度のものか見極めようと身構えていたら、ゴブリンは一瞬の内に< アイアンソード >を持ったモブ夫に真っ二つにされてしまった。

 ……強い。単にゴブリンが弱かっただけという可能性もあるが、動きがすでに洗練されている。少なくとも俺よりは技量がありそうな雰囲気だ。


「何度か戦闘確認しつつ、どこまでやれるか確認しよう」


 ひょっとしたら、このままマッシの奴を倒しにいけるかもしれない。俺だけでもなんとかなりそうなのに、こんな生粋の戦士を連れているのだ。単純に戦闘力だけなら二倍じゃ効かないはずだ。

 そうして、モブ夫の戦闘力を確認しつつ、俺も新しい< ウォーアックス >の使い心地を確認、順調に探索を続けた。結果として、少なくとも第一層の攻略はまったく問題がない事が判明する。




「よし、ちょっと第六層行ってくる」

「は?」


 中継地点から拠点に戻った俺が告げると、リョーマは訳も分からずそんな声を上げた。


「いやいや、テストはどうしたのだ」

「まったく問題ない。というか、多分俺より有能」


 なんせ、俺が気付かなかった罠まで察知するくらいだ。本職でないのにコレなら、少なくとも現時点では不足はない。第六層でも十分に通じるだろう。

 むしろ俺がいらん子になりかねない危険はあるものの、俺は戦闘がしたいわけではないのでそこまで気にしない。使徒としての成長の為にまったく戦わないというのは無理があるとしても、ある程度は任せても大丈夫だろう。

 ここまでの道程でそう確信した。


 改めて、第三層手前の中継地点に飛び、探索を開始する。

 初体験の層で最初はぎこちなかったモブ夫も、すぐに対応に慣れた。


 道中、最も重視したのは俺との連携だ。実際にやってみるまで実感は湧かなかったが、ソロの時とは比較にならないほど戦術に幅が出る。しかも、モブ夫は単に指示待ちするだけではなく、ある程度俺の動きを読んでサポートしてくれるのだ。剣と盾を持たせているからなんとなくタンク寄りの行動になっているが、こいつは装備によってスタイルを変える事もできるだろう。

 ここまで有能だと、モブ夫なんて名前をつけた事を後悔してしまいそうだ。


「あー、今からでも名前変えるか?」


 途中、そんな事を聞いてみたが、モブ夫は何も言わずに首を振った。何も言わないのは単に口がないからなのだが、明確に否定である。本人がいいというなら別にいいだろう。

 ある程度道順は分かっている層だ。第三層を苦もなく攻略し、続けて第四層も突破。第五層に辿り着く。


「すげえな、こいつ」


 攻略を進めて気付いたが、モブ夫の能力の高さはボスのような相手との戦いでより顕著になった。

 俺一人でも倒せる相手、すでに討伐済の相手ではあるが、傍から見ていると、その動きはどれも参考になる。実際、第五層ボスですら特に苦戦もなく仕留めてしまった。

 これが戦士のスタンダードなのか。いや、あくまでハイレアのスタンダードでアンコモンなどはもう少し弱いのかもしれないが、十分以上に強い。ぶっちゃけもう一体か二体欲しいくらいだ。

 すぐに第十層クリアも見えてくる事だろう。




-4-




 第六層。随分とあっけなく辿り着いた最前線は相変わらず暗かった。

 環境についてはあまり対策はできていないが、今回に限っては< 輝く竹光 >をマテリアライズして対応する事にする。使い捨てになってしまうが、そこまで重要なものでもないので構わないだろう。

 前回、かなり慎重に探索をしたため、道順に関しては大分覚えている。必然的に帰還陣の場所も分かる。今回は< 魔法の鍵 >も持ってきているので利用可能なはずだ。


 微妙に行動し難い環境に多少悪戦苦闘しつつも、モブ夫はすぐに慣れ、俺とフライングバインダーの三人パーティは奥へと進む。

 問題なく帰還陣のあった場所を確保。< 魔法の鍵 >はまだ使用しないが、ここまで戻ってくれば帰還できる体勢が整った。あとはリベンジ対象のマッシを見つけるだけだ。


「いいか、このダンジョンにはゴブリン十六魔将という頭おかしい連中がいるんだが、その中で珍しく正統派なモンスターがこの層にいる。そいつが今回のターゲットだ。気をつけろよ」


 一応、情報共有も兼ねてモブ夫にマッシの事を話しておく。あいつらの異様さは話して理解できるとも思えないが、マッシに関してだけは戦闘力に注意しておけばこと足りるはずだ。


 探索を進め、前回マッシと出会った場所まで辿りついたが、奴の姿はない。フィールドボスである以上、歩き回る存在なのだから、別におかしな事ではない。下手をすればこの層にいない可能性だってある。

 それは最初から分かっていた事だ。このまま第六層を攻略してしまっても、それはそれでいい。奴を警戒しつつ、できれば遭遇する事を願って攻略するのだ。


 そんな事を考えつつ歩みを進めていると、不意に後ろから肩を叩かれた。モブ夫が何かに気付いた場合、こうやって伝えてくるのだ。


「……なんだ? 壁?」


 振り返るとモブ夫は壁に指を向けていた。なんの変哲もない、ただの土壁だ。


「ひょっとして隠し部屋とか?」


 モブ夫は黙って頷く。マジかよ。そんな事まで分かるのかよ。有能過ぎるだろ、こいつ。

 半信半疑でその壁を調査してみると、確かに周りの壁と違う部分があるように見えた。しかし、それは普通に探索していたら絶対に気付かないものだ。


「ああ、そういう話か」


 良く見れば、フライングバインダーが壁の方向に向いている。モブ夫はそれを伝えてくれたらしい。つまり、中にゴブリンがいるという事。確かに途中でその機能についての説明はしたが、俺だけなら見過ごすところだった。

 というわけでしばらく壁を調査するが、開ける方法は見つからない。ディディー復活の儀式場のようにすり抜けるわけでもない。

 やがて、モブ夫は身振り手振りで壁を破壊するように伝えてくる。


「確かに、この層なら掘れるかもしれない」


 幸い、俺が使っているのは< ウォーアックス >だ。おそらく薄いであろう壁なら粉砕できるかもしれない。


「いくぞ、中から出てくるのを警戒」


 斧を振りかぶり、全力で叩きつける。やってみて分かったが、壁を叩いている感触ではなく、向こう側に空間があるようだ。

 そして、それを裏付けるかのように、壁の向こうから微かにゴブリンの鳴き声のような音が聞こえる。


「うらあっ!!」


 二度、三度と叩きつけ、壁が削れると鳴き声は更に明確に聞こえるようになってきた。

 堪りかねたのか、内側から壁を開いてゴブリンたちが飛び出してきたのがその直後。不意をつかれたカタチになったが、モブ夫がそれに対応した。

 飛び出してきたゴブリンは五匹。そして、壁の向こう側に明らかな異形……巨腕のマッシがいる事も確認できた。こんなところに隠れてやがったのか。

 幸い、袋小路だ。絶対に逃さん。


「モブ夫! あいつだ。絶対に逃すなよ!」


 そう叫び、手前のゴブリンどもと戦闘を開始すると、モブ夫もそれに続いた。狭い通路、しかも隠し部屋は更に狭く、両手斧であるウォーアックスは振りづらいものの、それは相手も似たようなもの。同じように長柄の大型武器を構えたゴブリンを両断した。

 よし、このままマッシの奴を……。



[ フィールドボス ゴブリン十六魔将第三席 巨腕のマッシ撃破! イクイップゾーン+1! ]



「……あれ?」


 俺まだ、あいつと戦ってないんだけど。

 見れば、部屋の奥にいた奴の前にモブ夫が立っていた。……ああ、うん。倒しちゃったのね。


「えぇ……」


 なんだこれ。




考察通り、能力値や技量はレアリティの補正を受けてます。(*´∀`*)

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
[一言] モブ夫Tueeee! 頼れる相棒になりそうなのに、本当にこの名前で良いんですかね(ノ∀`)
[良い点] 更新ありがとうございます [気になる点] 一般的冒険者?昔の地球規準では無さそうだし、別世界(別作品)なんだろうか?没収されそう [一言] 更新ありがとうございます
[良い点] おっぱいマウスパッド専用は用途が限られすぎてて草 [一言] えぇ… 強すぎィ!
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