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第二十八話「巨腕」

吉田さんの出演作品は流通に乗ってません。(*´∀`*)





-1-




 というわけで、初となる俺以外の使徒との面談は無事終了した。色々あったものの、全体としてみれば丸一日近い時間を費やした以上の価値はあったと思われる。超どうでもいい情報も多々あったわけだが、それとは別に重要な情報も想定以上に得る事ができた。

 吉田さんの色々なアレは心の棚にしまっておく事にしても、システムの根幹部分、あるいは異世界から流出した概念の存在などは今後の指針にも大きく関わってくるに違いない。

 大体、忘れたい事と重要な事のインパクトが半々といったところだろう。


「御主人様の理解者になってもらえそうなのかね? 同性で、年代の近い同業者なわけだが」


 そんな事実を知らないリョーマは当たり前のように問いかけてきた。


「……同業者」


 当初はそれに期待していた面は大きい。というか、将棋をしながらリョーマとどんな人だろうと話していたくらいだ。

 しかし、いざ会った身としてはそのほとんどがかすりもしていないという異常事態だ。性別は変わっていて、異様に若く、使徒としての役目もまるで違う。


「なんだ。その様子だと、あまりよろしくない人格だったとか」

「いや……まあ、なんだ。精神的に弱そうな人ではあったが、悪い人ではないな」


 どちらかといえば善人に分類される人だろう。深い付き合いは望まないが、時々会うくらいの友人なら問題はない。仕事相手としてなら無難な範疇だ。しかし、性格以外の部分を加味すると友人どころかあまり近づきたくない存在ではある。


「アレだ。履歴書だけじゃ、あまり伝わらないって事の見本だな」

「真理だな。私もカードを見ただけで判断されたくはない」


 そりゃ、お前のカード見ても< チワワ >って事しか分からんしな。全力で愛でようとしていた過去もいい思い出だろう。


「そういえば、喋るペットっぽい奴がいたな。お前の同類的な」

「ほう。是非同じペットとして意見を交わしたいところだな。私と同じ犬かね? それとも猫とか」

「マグロだ」

「……さすがに喋るだけで魚類に同族意識は持てないのだが」


 いや、仲良くしろという話ではないし。


「要するに世の中色んな人がいるって話だ。ちょっと想定外過ぎて俺の中でも処理し切れていない」

「御主人様がそう言うとは、よほどの事なのだろうな。……マグロか」


 リョーマは勘違いしてるっぽいが、それを正すつもりはない。


「本題については?」

「ああ、そっちは問題ない。第十層で次のダンジョンが解放されるらしいから、とりあえずはそれを目標にしようと思う。加えて、期間ごとに課題と報酬も出る事になった」

「それでやる気になると」

「必要だったのは明確な短期目標だろうからな。今のところ、俺の目標って必要な時のために力をつけろ程度のぼんやりしたものだからさ」


 短期の目標を繰り返して結果が出ればモチベーションは維持できる。目に分かりやすい結果が伴うというのは重要なのだ。

 実際、でかくて遠い目標に向かって努力を続けられるのはその手の才能がある奴だけだ。一年に一度の試験を受けるために年間通して試験勉強続けられる奴がどれだけいるというのか。大抵は短期、中期でなんらかの結果を求めるもので、少なくとも俺はその手の才能はないと思っている。


「中期目標は?」

「色々考えてみたんだが、自衛できる力をつける事かな。基準としては九十九世界で会った待雪。彼女と正面から戦って瞬殺されないくらいの力があれば、第五次世界大戦が起きてるような世界でも生き抜ける可能性が高い」

「今判明している中で最も危険地帯という事か」

「そういう事だな」


 ミュータントソルジャーなんて、字面だけでヤバそうな連中が跋扈している世界で生き延びられるなら、大抵の世界でどうにかなるだろう。九十九待雪に『勝てる』実力ではないのがポイントだ。


「というわけで、景気付けというか心境の変化で影響があるかどうか確認するためにガチャりたいと思います」

「最近、調子悪かったからな。ただの運だと思うが」

「次こそは何かいいものが出る気がする。そういう風にガチャの可能性が収束するのだと証明しなければならない。ガチャの使徒なわけだし」

「確率も中身も公表されていないものに収束もクソもない気がするのだが」

「いいんだよ、そういう意気込みなんだから」


 というか、課金額にビビって後退を選択できるユーザーと違って、俺はどうせ回すしかないのだ。だから運勢試しのようなものでも問題はないのである。


「さあ来いっ! 特に狙ってるものねーけど、なんか良さげなもん!!」


 そう念じつつ、ウエポンピックアップ十連を回す。決して後退などしないという強い意志で踏み出すのだ。



[ ゴブリンの棍棒 コモン イクイップ/ウエポン ]



「超撤退したい……」

「これはひどい」


 一発目から心を折りにきた。しかも、ゴブリンチケットによるピックアップとウエポンピックアップのどちらにも被る、ある意味素敵な出目だ。

 ……まあいい。別にこういうのは不調とは関係なしに出るのが俺の運だ。言ってて悲しくなるが、いつもの事である。要は十連の中で当たりがあればいいのだ。


[ 猫耳 コモン イクイップ/アクセサリ ]

[ ハンドソープ コモン ノーマル/アイテム ]

[ 強化+ コモン ノーマル/マテリアル ]

[ バトルポーション アンコモン ノーマル/アイテム ]

[ 輝く竹光 アンコモン イクイップ/ウエポン ]

[ 石の靴 コモン イクイップ/アーマー ]

[ 六法全書 平成27年版 コモン ノーマル/アイテム ]

[ 梅干し コモン ノーマル/アイテム ]


 排出されたラインナップを見つつ、やっぱりまだ調子悪いのかもしれないと思い直しかけていた。

 そう、思いかけていた。


「……え?」

「……特殊演出?」


 しかし、その最後で急にド派手な演出が始まる。確定ピックアップの時のような、如何にも特別感のあるものだ。

 文字が出てない以上、ピックアップリーチではないと思うが、これはまさか初見のレアリティ……。



[ 棍棒 ウルトラレア イクイップ/ウエポン ]



「……あれ?」


 まさかの初ウルトラレアであったが、その結果は盛大に肩透かし感の伴うものだった。


「これはイベント紹介にあったURの未強化武器では?」

「馬鹿な」


 なんでよりにもよってそんなところで運を使ってしまうのか。これでは確率が収束しても無意味だ。


「いや、まだだ。嘆くのは鑑定してからでも遅くはない」


 実は何かすごい棍棒だったりするのかもしれない。これで強化値の空きが多いだけとか、そんな事あってはならないのだ。



< 棍棒 >

 分類:イクイップ/ウエポン/片手槌

 レアリティ:UR

 強化値:☆☆☆☆☆


 鈍器として加工された木の棒。



「おおおぉぉーーー」


 初のウルトラレアは即記念館行きとなった。




-2-




 いや、棍棒が武器としてどうだという話ではないんだ。俺が愛用していた蛮族棒だって棍棒だし、というか多分棍棒を何かで強化したものだろうし、役に立たないと言ってるわけではない。

 拡張性だけ見れば一級品で、ひょっとしたらレアリティによる性能強化なんかもあるかもしれないわけだが、何分今の俺にはこれを強化する術がないというのが問題なのだ。

 アンコモンなら強化次第では予備武器として使い道があるかもしれないし、レアならまだ近々で強化する環境を得られた可能性もあったろうが、ウルトラレアはさすがに遠過ぎる。そして、ウルトラレアが強化できるような環境になる頃に果たして棍棒が使えるかといえば、多分そんな事はないだろうと予想もつくのだ。無理やりコレを強化するくらいなら他の候補だってあるだろう。

 つまり、これを今の環境で最大限有効活用できるのはカード記念館という事になるのだ。補正がどれほどかかるか分からないが、多分コモンよりは影響があるんじゃないかなと思っている。




「ギャーッッッ!!」


 憂さ晴らしとばかりに乗り込んだ< 修練の門 >第五層にて、ゴブリン十六魔将第十四席 伸縮自在のバルンを念入りに追い詰めて倒す。八つ当たりといえば間違いではないが、あまり存在していてほしくもない連中なので結果としては同じ事だ。相変わらず異様に伸びる手足は不気味だったが、別に大して強くもないし。


[ フィールドボス ゴブリン十六魔将第十四席 伸縮自在のバルン撃破! アシスタントゾーン+1! ]


 そして、その撃破ボーナスはセットするカードを持ってない枠の追加だ。やっぱりいまいち噛み合ってないのは変わらんな。遭遇すらできずにトラップで死んでた頃よりはマシだが。

 以前リョーマから聞いているが、アシスタントというのはユニットのサブゾーンである。メインのユニットゾーンすら余ってるのに専用ゾーンが増えても意味はない。いるかいらないかで言えばもちろんいるんだが、最も優先度が低い対象だ。


「しかし、ユニットゾーンだけが余ってるんだよな」


 フライングバインダーとリョーマを常時セットしても、現在の三枠ですら埋まらない。どちらも比較的入れ替えが容易なカードだし、リョーマに至ってはダンジョン探索中に外していてもまったく問題はない。今は留守番中も読書なり将棋なりカードの検証をしているが、入れ替え対象があるなら探索中にカードを外す事に反対したりはしないだろう。現状、常時セットしているのは選択の余地すらないだけである。

 単にユニットカードであればいいというわけでもない。虫のペットカードをセットする気はないし、かつて出オチの如く死亡したゴブリンが生きていたとしても使ってはいないだろう。

 質問フォームで確認したのだが、どうもユニットカードはレアリティによって強化値の他に専用の追加ゾーンを持つらしいのだ。コモンならなし、アンコモンならイクイップ二つとスキルといったように高レアリティなほど拡張性が増す。つまり、コモンカードのユニットなどほとんど役に立たないというわけである。実際にはコモンでも使い道はあるのだろうが、普通にパーティメンバーとして見るなら論外と言わざるを得ない。

 この際、ちょっとだけ有用なだけのサポートでも十分選択候補なのだ。フライングバインダーと同機能で半分の容量のユニットでも枠を余らせているよりはいい。

 そろそろここら辺にもテコ入れが欲しいところだ。



 そんな感じでイマイチ噛み合わないまでも、以前よりはマシな感じで第五層の攻略を完遂した。

 ボスであるデカ過ぎるゴブリンも二度目なら視覚的なインパクトも薄れて対応し易くなっている。丸見えな弱点を下から突付いてやれば内股になって動きが鈍くなるボスなど、いくら力が強かろうがもはや敵ではない。精神ダメージはともかく。


「さて、ここで戻るなら今までと変わらないわけだが」


 六層手前の中継地点で帰還陣と下り階段を見比べる。

 カードはチケットのみでパンパンになっていてすでに枠はないから、ここから探索を続行しても実利的なメリットは薄くなる。その上、進めば層クリアか帰還陣を見つけるまで帰れないという安全面の問題もある。

 しかし、ここに来るのに結構な手間をかけている以上、一切の進展なしというのもイヤだった。チケットだけなら上の層で乱獲していたって大差はないのだ。とりあえずの目標として第十層を目指すのなら、先に進んでいるという実感が欲しい。

 今のところ第六層はまったく情報がないというのも問題だ。準備をするにしても、様子見だけでもしておいたほうがいいんじゃないかという気持ちもある。

 俺が懸念しているのは、層が変わる事による変化だ。第一層から第二層になって大きく変わったほどの変化は第三層以降に見られていないが、それでも各階に結構な違いはある。その違いは攻略難易度にも直結するものだ。つまり第六層でも何かしらは変わるというのが当然で、どう変わるかの情報がなければ準備のしようもない。持ち込み枚数や選択に幅のあるノーマルカードなら余計にだ。

 死ぬのはイヤだが、今後の生存率を上げるためにはそれを前提としてでも情報が必要なのだ。


「よし、行こう」


 攻略は別としても、第六層の違いだけは確認したい。もちろん攻略できるならするが、基本は帰還陣が見つかり次第撤退の方針で。

 そんな事を考えながら、いつもの如く長い下り階段を降りていく。


「……何か様子が違うな」


 第六層の入り口が見えてくると、なんとも奇妙な違和感を感じた。

 更に降りてみてはっきりしたが、フロアから漏れ出す光量が違う。

 ここまでの層は真昼の屋外ほどではないが、それでも活動に支障のないほどの光量があったわけだが、漏れている光はそれに比べて明らかに弱い。


「うわ」


 そして、実際に降り立ってみると違いは更に際立っていた。

 そこは洞窟だ。これまでのような石造りの床や壁ではなく、土と岩が露出した洞窟になっている。

 一応、ある程度の広さのある部屋があって、通路が繋がっている構造はそのままのようだが、その形も完全な四角形ではない。辛うじて通路が真っ直ぐなのは助かるが、これまでとは随分違う様子だ。

 というか、足が痛い。地面はボコボコしていて小石が散らばっているから、素足のままでは厳しいだろう。ブーツ自体は持っているが、イクイップゾーンが足りてない。次回は優先したいところだ。


「まあ、それはなんとかならなくもないが……」


 歩き辛くとも、それは慣れるだろう。洞窟に変わってフロアが歪んでいるのも直接的な影響はない。それ以上に問題なのは、階段から確認できていた光量だ。

 壁や天井に光る石や苔のようなものがあってぼんやりと光ってはいるものの、その間隔が不均等。この部屋は問題なく視界に不自由しない程度には照らされているものの、そこから伸びる通路はすでに見えない場所がある。そこから導き出される最大の懸念は、敵や通路ではなくトラップの見落としだ。

 ただでさえ注視しなければ見落としがちなトラップのスイッチの発見が更に困難になる。その難易度は第五層までとは比べ物にならないだろう。小石に偽装されるだけでも見分けられないかもしれない。


 とはいえ、降り立ってしまった以上後戻りはできない。盛大に不安を抱えつつ、慎重に移動を開始した。


「普通にしんどいぞ、これ」


 暗い。歩き辛い。敵はやっぱりゴブリンしかいないが、暗がりや死角になっている場所から不意打ち気味に飛び出してくる事があると、それだけでもう気が抜けない。

 ただでさえトラップ対策に精神を消耗していたのに、それと比較にならないほどのストレスに晒される。結果、どうしても休憩が多くなり、探索も遅れる事になる。

 その分、水や食料の消費も激しいだろう。ノーマルカードの補給品はコンスタントに補充できているとはいえ、潤沢というわけでもない。特に水分は深刻で、長期探索の度に消費してしまっている状態だ。今回も一枚消費してしまって、チャージカードのミネラルウォーター以外は在庫切れの有様である。せめてこれが2リットルなら、かなり節約できるのだが。

 時間感覚もかなり怪しくなってきた。体感的には結構な時間が経っているように感じるのに、スキルのクールタイムを利用して実時間を確認してみれば驚くほど時間が経過していない。

 ただ、薄暗い洞窟になっただけというのに、ダンジョン攻略というものは本来こうあるべきなのかもしれないと思うような難易度だった。


 こうなると、ゴブリンしかいないというのはむしろ助かる。これで洞窟に有りがちな虫やコウモリや蛇がメインだったりしたら発狂するかもしれない。

 そんな事を考えていたら急に別のモンスターが……なんて展開も考えられるが、コレに関してはないような気がする。出るとしてもゴブリンの亜種だろう。ゴブリンスパイダーとかそういう意味不明なやつだ。


 第六層探索開始から一時間ほどで、戦闘行動に支障をきたすほどに疲労が溜まっていた。

 暗がりに紛れたゴブリンの不意打ち。いくら弱いとはいえ、複数に襲撃された場合は細かいダメージを受ける事も多い。小さいダメージが積み重なってHPを削られる。モンスターを排除した後の安全地帯で自然回復を待つ事はできるが、それはただでさえ遅延気味な探索速度を犠牲にする事になる。すぐにどうこうという事はないが、一時間の消耗と考えればかなり深刻だろう。

 トラップも躱し切れていない。致命的なモノにはまだ当たっていないが、発見できずにいくつもスイッチを起動させてしまった。

 ヤバいな。想像以上にハードだ。しかも、奇をてらった理不尽な難易度ではなく、極々真っ当に難易度が高い。まるで、面と向かって俺の経験が足りていないのが悪いと言われているようだ。


「っ!?」


 足に痛みが走る。それはトラップでもなんでもなく、単に鋭い石を踏みつけてしまっただけの事だ。足の裏にもHPの壁はあるはずなのだが、時々こうして抜けてくる事がある。

 多分だが、HPの壁はどこにダメージを受けても防御してくれるわけではなく、部分部分で厚みの差があるのだろうと思う。だから、鋭利なモノで一点に集中した被害には対応し切れないのではないかと。

 その推測が正しいのなら、HPは減れば減るほど薄くなる。薄くなれば抜けてくる攻撃が増える。傷を治すのもHPを消費しているっぽいので、更に壁は薄くなるわけだ。確かに強力な力ではあるが、過信してはいけないという事なのだろう。

 実際に合ってるかどうかは後で改善された質問フォームを使って確認するにしても、戦闘以外の場所で気づけたのは不幸中の幸いなのだろう。

 戦闘中、レイピア的な武器でいきなり貫通してきたら立て直しができずにそのまま負ける事すら有り得る。そういう事があるかも、と思っていれば対処もし易いはずだ。


「……これも質問フォームいきの案件かな」


 通路の途中で足を止める。

 その先には、如何にもとって付けましたと言わんばかりのボロい扉が道を阻んでいた。頑張れば壊す事もできそうだが、見た目以上の頑丈さを秘めているコレもこの層から突然散見されるようになった仕掛けの一つだ。

 多分だが、この鍵穴に< 魔法の鍵 >か何かを使って開けろという類のギミックなのだろう。あるいはそういうスキルがあったりするのかもしれない。

 とりあえず分かるのは今の俺にこれを通過する手段はなく、破壊するのもかなり厳しいだろうという事だ。ピックアップの紹介で触れていた< 壁壊し >系の装備があれば壊せるのかもしれないし、最悪でも周りの壁を壊して迂回する事はできそうである。


「はあ……」


 これまでもいくつか確認できていたが、こうして完全に行く手を遮られたのは初めてだ。実際に体験してみると、通路の先が行き止まりというのはちょっと堪える。それが完全に行き止まりでなく、手段があればそのまま進める通路が続いているだろうというのも萎える要因の一つだ。




-3-




 ここまで歩いてきた通路に注意を払いつつ、扉を背にして座り込む。休憩だ、休憩。

 通路の安全性について確認は済んでいないが、もしモンスターが通路を徘徊する事があったとしても一方向だけに注意していればいいという条件は大きい。いや、いきなりドアを開けてくる奴がいるかもしれないが、それはそれで解錠の振動などの反応があるだろう。


「いきなり本格的になり過ぎだろ」


 あるいは、これが本来想定していたダンジョンの形なのかもと思うほどに、この層は本格的に侵入者を阻んでくる。敵は相変わらずゴブリン一択だが、間違っても散歩気分で周回とはいかない。

 まず第一に暗い。光る謎の石などの光源がところどころに見られても、光量が絶対的に足りていない。場所によってはそれすらも見当たらず、真っ暗なところもある。十分な視界が確保できないという事は、先がどうなっているのか分からないという事だ。確認のために進んでみたらただの行き止まりでしたという事が多々あった。

 次に歩き辛い。舗装されていないでこぼこした通路は予想以上に体力を消耗する。俺が素足な事もあって、余計に問題が大きくなっている。歩き辛いという事は、戦い辛いという事にも直結する。俺だけが被るデメリットではないが、地味に疲労の原因となっている。

 今、背にしている扉もそうだが、構造の違いも大きい。視界に収まらないくらい広い部屋や、室内に岩などのオブジェクトがある部屋もあった。その部屋にしても、切り取ったような四角い構造だけでなく歪なものも見られている。

 注意を払う要素が多すぎて、俺一人では飽和気味になっている。フライングバインダーの探知機能だけでは明らかに足りない。本格的なサポート要員が切実に欲しいところだ。

 第三層から第五層までの長丁場を抜けた先でコレというのも厳しい。気力も体力も尽きるというものだ。

 課題を見つけるための偵察のようなものだったから、その目的は果たしてるが。


「とはいえ、メリットがないわけでもないと」


 実をいえば、この層特有のメリットはあった。それもガチャに直結する部分で、である。

 ゴブリンどもがチケットをドロップする確率が上がっているのはこれまでも見られていた違いだが、この層からはそれに混じって別なチケットもドロップしているのだ。

 レア扱いらしい< ノーマルチケット >ではなく、新たな< カテゴリチケット >である。

 < カテゴリチケット(イクイップ) >、< カテゴリチケット(ベース) >といった細分化された名前のチケットがドロップするのだ。ついでにいえば、細分化された部分には(ウエポン)、(ライフ)などのサブカテゴリまで指定しているものがあった。まだ確認できていないが、ひょっとしたら三つ目のカテゴリである(料理)や(短剣)といった分類のものもあったりするのかもしれない。

 正確なところは鑑定の必要があるものの、名前だけで想像するなら、コレは特定カテゴリのカードが出やすくなるチケットなのだろう。そこまで甘くはないだろうが、確定なら尚いい。

 まあ、これまでの傾向なら、単純にそのカテゴリのカードが排出しやすくなるチケットといったところだろうか。十連なら更に確率が上がりそうだ。

 たとえ確率が上がるだけだとしても、無数に存在するカードの中で狙いが絞れるのは大きい。特に数の多そうなノーマルカードの確率が下がるというだけでも十分だろう。

 上の階で< ゴブリンチケット >を満載していたフリーゾーンも、すでにいくつかはこのカテゴリチケットに入れ替わっていた。早く鑑定して効果を確認したい。


 このメリットが難易度向上のデメリットを上回るかは非常に微妙なところだろう。なにせ、今のところこの層に至るまでで< ゴブリンチケット >は埋まっているのだから、数を回すだけなら上を狩場にしているほうがいい。

 しかし、たとえばこれが第六層から開始できるという事であればどうだろうか。理想としては第六層手前の中継地点。そこに転移できるとしたら、上に向かうか下に向かうかはかなりの悩みどころになる。

 環境の違いによる難易度の差だって、俺が慣れて習熟する事である程度は埋められるだろう。ノウハウが確立できればこちらのほうが美味しい部分はある。

 ついでに俺の経験値にもなるだろう。厳しい環境に身を置く事で使徒としての成長を促すという、目標に繋がるメリットも一応ある。……一応な。今はまだ即物的なメリットのほうが大きいし。

 結論として、選択肢の一つとしては『アリ』だ。転移手段が用意できるならもっとである。


「これで、死に戻り以外なら万々歳なんだがな」


 今、最大の懸念は、この層を突破できる気がしないという事である。脳内マップを思い返してみても、探索が全然進んでいない。なのに、時間ばかりが多くとられている。

 このままだと餓死か渇死の二択が待っているだろう。それが見えてきたら苦しむ前に死んでデスルーラのほうがマシかもしれない。自殺するのに当然躊躇はあるが、その二つは明らかに苦しいしな。

 もちろん帰還陣を見つけたり層を攻略するほうがいいが、あまり楽観視もできない。実は、この背にしている扉の向こうに帰還陣があるという事だって有り得るのだ。単純に発見の難易度は上がっているとみたほうがいい。


「……意外に前向きだな、俺」


 ここまで色々考えていて、問題は多々ありつつもこの層の攻略に意欲的なのは自分でも意外だった。以前なら< カテゴリチケット >という飴があっても挑戦するにはハードルが高過ぎただろう。

 色々あって、意識の面でも成長したという事だろうか。それが本当に成長なのか変化なのかは分からないが。


「さて、休憩終わり」


 必要以上に休憩していると、補給切れの死が近付いてくる。ここは足を動かして、その可能性を潰していくところだろう。

 そして立ち上がり、通路を引き返す。戻る先は途中にあった通路が三方向にある部屋だ。ゴブリンは排除済なので、トラップにのみ注意しつつ未見の通路へと足を運ぶ。




 中々探索は進まない。精神的に消耗しながら探索を続けても、脳内マップはほとんど開示されないままだ。

 不注意でトラップを踏み抜くケースも増えてきた。不注意ではなく、ゴブリンの手で起動されるトラップも増えてきた。致死性のものはないが、体力的にもそろそろ厳しい。

 それを見つけたのはその時だった。


「明るい」


 通路の先が明るかった。俺の立っているT字路の先、右側の道から明らかに強い光が漏れている。

 それはボス部屋なのか、それ以外の何か特別なものがあるのか。分からないが、とにかく確認する以外の選択肢はない。当然の如く、右折した。

 そこにあったのは光り輝く帰還陣だ。周りが暗い事で相対的に光量が違って見えるのか、光り輝いて見えた。あるいは、心理的なものもあったのかもしれない。


「……馬鹿な」


 俺はそれを前にして立ち尽くしていた。決して届かない僅かな距離が、あまりにも遠く感じられる。

 帰還陣の前には牢屋などで見られる檻の扉があり、その隙間から光が漏れているのだ。


「ふざけんなっ!!」


 その可能性は考えていたが、まさか本当にやってくるとは思っていなかった。しかも、わざわざ向こう側が見える扉まで用意する演出付きだ。

 衝動的に扉を叩くが、壊れる気がしない。物理的なダメージは通っていても、頑丈な扉を壊せるほどではない。なんとか隙間から通れないかと挑戦してみるが、手足が一本通る程度だ。

 今ほど切実に< 魔法の鍵 >をフリーゾーンに入れておけばと感じる事はなかった。

 諦める……のか。諦めるしかないんだろうが、目の前にこうもはっきりと希望をチラつかせられると葛藤で気が狂いそうになる。足が動かない。


「……くそ」


 どれくらい葛藤したのか。体感的にはそれほどでなくとも、結構な時間そこに立ち尽くしていた気がする。

 盛大に後ろ髪を引かれつつ、T字路の逆方向へと足を進める。足取りは重い。明らかに精神的ダメージが甚大だった。


 だから、その罠を踏み抜くのは必然だったといえる。


「しまっ!?」


 その先にあった中規模サイズの部屋。その中央あたりで、分かり易い、いつもなら絶対に踏まないだろうスイッチを踏んでしまった。

 直後、入ってきた通路を含めて部屋にある入口がすべて石の扉に塞がれ、足元に部屋の半分はあろうかという魔法陣が浮かび上がる。

 次々と出現するゴブリン。それは、モンスター召喚のトラップだった。




-4-




 やっちまった。

 疲労したところで初歩的なミス。万全なら当然の如く回避できるものでも、あのぬか喜びの直後では注意力が散漫になる。俺の未熟さを体現するような不注意だ。


 所詮はゴブリン。上の層よりも武装は充実し、僅かだが身体能力も上がっている気はするものの、基本的に雑魚だ。

 この層に来てダメージを受ける機会は増えたものの、それは環境差による不意打ちが主なものである。魔法陣が光り、障害物もほとんどないこの部屋では関係ない。

 しかし、数が多い。部屋を埋め尽くすほど、という規模ではないが、倒す先から次々に補充されるゴブリンの処理が追いつかない。

 床に散らばる無数のカードに戦闘後の期待が膨らむよりも、アレを踏んで体勢を崩したらどうしようという不安が先立つ。カテゴリチケットは欲しいが、チケット自体はすでにフリーゾーンが埋まるほど確保しているのだ。そこまで重要ではない。今大切なのは、変なイレギュラーを起こさずにこの状況を切り抜ける事。


「うりゃっ!!」


 ボウガンなどで遠距離攻撃を仕掛けるゴブリンを警戒しつつ、とにかく数を処理していく。増える一方ではあるが、身動きとれなくなったら遠距離攻撃の餌食だ。奴らはあまりフレンドリーファイアを気にしない事を知っている。

 幸い魔法を使う奴はいないが、出現するなら最優先で処理すべき相手だ。もろともという事態は避けないといけない。

 数が多くなってくるとさすがに無傷のままとはいかない。しかし、それでも致命傷は負わない。この場だけ見ればいくらなんでも多勢に無勢な光景にしか見えないだろうが、こんな状況下でも戦えるようにここまで鍛え上げてきた。弱小モンスターのゴブリン限定とはいえ、正に無双を体現している。随分強くなったもんだと自画自賛が浮かぶほどに。


 しばらくして、ゴブリンの出現が止まった。未だ生き残っている数は多いが、この召喚トラップも打ち止めらしい。


「ああっ!!」


 大声を上げつつ目の前のゴブリンを肩口から両断すると、周囲のゴブリンが怯んだのが分かる。

 問題ない。このままいけば問題なく処理できる。帰還陣が見つかっていない事態は一切好転していないが、不注意からくる突発的な事故は避けられそうだった。

 そんな中、閉じていた扉が開放された。このまま通路へと逃げ込む選択肢もあるが、俺がとった選択は殲滅だ。勝利は確実に近く、どうせなら足元に転がる大量の戦利品も吟味したい気持ちもある。

 実際、それは選択ミスではないだろう。むしろ、堅実な行動といえる回答だったかもしれない。


 しかし、事態は斜め上の方向から転がりだした。

 開放された通路の内の一つで、突如巨大な崩落音が鳴る。


「なっ……っ!?」


 何事か。警戒も忘れるほどに驚愕してその音の方向を見た。

 規模は分からないが、おそらくは通路自体が崩落した結果と思われる土煙。その奥から一体のゴブリンが姿を現す。

 それは、はっきりと見て分かるほどに異常な体躯をしていた。巨大な体躯とはいえ、身長はせいぜい150センチほど。しかしその両腕が異様に太い。両方を合わせれば胴体よりも太いのではと思わせるような異形の両碗だ。

 見て強さを感じられるほどに戦士として習熟しているわけじゃない。しかし、この場にいる無数のゴブリンを無視してでも意識を向けなければならないほどに危機感を覚える。

 のそり、と歩み寄る速度は遅い。両腕とは異なり、下半身はほとんど鍛えられてないのかもしれない。


「っ!!」


 しかし、そいつは両腕を地に降り下ろすと、その反動で急激に距離を詰めてきた。

 空中で縦回転しつつ振り抜かれる右腕にハルバードを合わせる……が、腕を斬る事も抑える事もできず、弾かれた。続けてその反動を受けた左腕の一撃が迫る。


「っが!!」


 咄嗟に肩でガードするが、その一撃はガードの上から俺の体躯ごと吹き飛ばした。

 そのまま勢いをつけて転がりつつ、即座に立ち上がる。追撃を警戒していたが、視界に映るそいつはその場から動いてはいなかった。


「くそっ!」


 なんだあいつは。

 明らかな異形は、正しくそのゴブリンが特別である事を示している。普通とは異なるその異質さは、奴がゴブリン十六魔将である事の証左なのかもしれない。

 しかし、強い。ここまで出会い、粉砕してきたネタまみれな十六魔将とはまったく異なる正統派の強敵だ。むしろ、ここまで真っ当だと違うグループなのではと思うほどに。

 というか、マジで違うのかも。名鑑見れば名前は分かるだろうが、もちろんそんな余裕はない。


 起き上がりを狙った普通のゴブリンを横薙ぎにしつつ、視線は巨腕から離さない。ここにいる残党よりもあいつ一匹のほうが余程脅威だ。

 ハルバードの本来の使い方ではないだろうが、剣を扱うように正眼に構えた。一点を突く攻撃よりも対応がし易いかもしれないという考えからだ。

 再び地面を爆砕させての跳躍。二度目でもやはり速い。突きの構えなら距離も取り易く当てやすいのかもしれないが、こいつはそれを無視して突っ込んでくる気がする。

 武器を弾かれて崩れそうになる体勢を踏ん張ってこらえる。やはり馬鹿なのか、それとも余程の自信があるのか、続けて放たれる左腕の攻撃を躱す。


「うぉらっ!!」


 空中にいる巨腕に向かいハルバードを横薙ぎ。他のゴブリンより多少は重いと感じる体を地面に叩き落とす事に成功した。

 しかし、ダメージは然程でもなかったのか、巨腕はバウンドすら利用して距離をとり、そのまま立ち上がった。

 やばい、強い。なんというか普通に強い。それがこれまでの経験からすれば異常に過ぎた。


「ギャッ!!」


 そして、次の行動を窺っているところに鳴き声を発した。次の瞬間、動き出したのはそいつではなく周りのゴブリンたちだ。

 全方向からの一斉吶喊。明らかに命令された統一された行動に反応が遅れた。

 やり辛い。いくら弱いとはいえ、後ろに督戦隊でも背負っているかのような猛突撃はそれまでとまったく異なるものだ。

 四方八方を囲まれ、悪戦苦闘。そして、その上からなんかゴブリンが飛んできた。まさか、投げ飛ばされたのか?

 それを振り払って叩き落とし、迫る周囲のゴブリンに対応していると、何度もゴブリンが宙を飛んできた。


「くそ、面倒臭えっ!!」


 俺が叫びながら正面のゴブリンを一閃。その不必要な大振りに合わせるようにして、右側に空間が開けた。そこにいたのはやはり右腕を振りかぶった巨腕だ。

 やばい。回避……間に合わ……っ!!


「があああっ!!」


 甚大なるダメージ。横からの全力攻撃をモロに受けて足が浮く。まずい。このままだと追撃が来る。……あれ?

 走馬灯のようなゆったりした意識の中、感じたのは猛烈な違和感。

 え、ちょ……どういう事だ?


 手に持っていたはずのハルバードの感触がない。

 破壊された? いや、有り得ない。それならもっと盛大に音を立てて壊れるのが見えるはずだ。

 つい放してしまった? いや、セットしたカードが解除できないのと同じで、装備は勝手に手から離れたりしない。握ったまま手が開けないほどではないが、最低限持っていないといけない。そういう仕様がある事は確認済だ。

 大体、セットされたカードはそのままで武器を手放したらどうなる。ダンジョン内でカードを外せない以上、武器を手放せるのはシステムに矛盾する。

 ……外せない以上?


 ふと、視界の端に宙を舞うカードが映った。

 馬鹿な。外部から強制的に解除されたとでもいうのか。セットされたカードごと弾き飛ばしたと。

 まずい。まずい。まずい。

 追撃が来る。対応するための武器はカードのまま宙を舞った状態。周囲には身動きとれないほどのゴブリン。ここから導き出される最適解は……。

 ……分からんっ!!


「ぐあっっ!!」


 受けた瞬間に大ダメージと分かる、ゴブリンらしからぬ強烈な一撃。モロにそれを喰らった俺はカードがどこに飛んでいったかも見失い……。

 ……意識を手放した。





ハルバード+が。(*´∀`*)

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― 新着の感想 ―
[一言] チュートリアルの洗礼の一部かこれ? まさかの装備メタ攻撃とか……想像しただけで辛いんじゃがw
[一言] なんだこの普通に強いゴブリン!?(驚愕)
[一言] このゴブリンとサロの戦いが凄く楽しみです!
感想一覧
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