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第二十七話「翠玉の海中庭園」

平原を彷徨って遅れたわけではない。(*´∀`*)




[ Q.なにきていけばいいんでしょう ]

[ A.確認しましたが、ドレスコードの類はないそうです。いつも通りでいいのでは? ]


 いや、良くないだろ。主に俺が気にするし、向こうも全裸で現れるとは想定してないんじゃなかろうか。ドレスコード以前の問題だ。

 くそ、書き込みが面倒臭い。いつになったらこれは改善するんだ。


[ Q.ふくよういして ]

[ A.気にしないらしいですが ]


 上司が客先に変態ルックか全裸で行けと無茶を言う。

 回りくどい事を言わず、端的に要求を出しても理解してもらえない。ただでさえメールでの意志疎通は難しいと言われるのに、価値観の違う相手だと余計だ。


[ Q.ふくよういしろ ]

[ A.先方が用意してくれるそうです ]


 どうやら、ウチの神様はどうあっても使徒の服を用意する気はないらしい。結果としては要求が通っているが、訪ねていく相手に服を用意させるのは色々問題ある気がするんだが。

 吉田さんとやらがこっちの事情を汲んでくれればいいんだが……いや、ちゃんと俺が説明するべきだろうな。




-1-




「じゃ、行ってくる」


 というわけで、特に時間指定をしなかったからか、日付が変わってすぐの深夜に面談場所へと向かう事になった。

 使徒にとって時間帯など関係ないと言わんばかりだが、俺的にも特に問題はない。ダンジョンの入場規制中だったし、直前までリョーマと将棋していたくらいだからな。

 今、リョーマが眺めている将棋盤は帰省前にガチャから出た脚付きの高級品で、リョーマがやってみたいと言い出してマテリアライズしたものだ。同じタイミングで出た< 人生ゲーム~ブラック企業編~ >や、結構前に出たリバーシも試してみたのだが、奴が気に入ったのはコレらしい。< 高級麻雀セット >は人数の関係から保留中だ。

 まだ慣れていないのか勝負らしい勝負にはなっていないが、結構な速度で上達が見られるのがちょっと怖い。まさか今も脳内棋譜を反芻してたりするのだろうか。


「お土産を期待する」

「物理的に不可能なんだが」

「言ってみただけだ」


 今回の移動方法は実家に帰る時と同じく神様の《 ゴッドワープ 》である。《 Uターン・テレポート 》のように自動帰還の条件付きで、今回設定してもらった制限時間も前回同様丸一日。それより早く帰りたければ先方に依頼するか、質問フォームで神様にお願いすればいいらしい。つまり、お土産と言われてもカード以外のものを持ち出す事も持ち込む事もできない。訪問先はこのシステムの開発担当者でもあるらしいから絶対ではないが、神様の方針的にないと考えたほうが無難だろう。

 そして指定した時間になったらしく、急に視界が切り替わった。




「……明るいな」


 深夜のはずなのに、転移した先は明るかった。電灯の点いた部屋に飛ばされたわけではなく外だ。屋根とベンチがあるだけの簡易休憩所のような場所に立っている。

 周りは公園のような風景が広がっていて、広い。しかし果てが見えないほどではなく、俺の視界にはこの空間の端らしき部分がはっきりと映っていた。目算では東京ドーム程度の広さだろう。

 上を見上げれば雲のない青。しかし、おそらく空ではない水のような深い青が広がっている。目視可能な空間の端と合わせて考えるに、ここは水中に設置された球状の空間なのだ。現実では有り得ないファンタジーな光景である。


 脇を見れば、ベンチの上に先方の用意してくれたらしい衣類とメモ書きがあった。念の為にファウルカップだけは着けて来たのだが、どうやら杞憂だったらしい。

 用意された衣類はスーツのような畏まったものではなく、普段着のような簡易なものだ。というか、普通のTシャツとチノパンである。この面談は気軽なものだという表れでもあるのだろう。ある程度大き目のサイズなのは、こちらの正確な体型が伝わっていないという事なのかもしれない。履き物に至ってはサンダルだ。

 それらを身に着けてベンチに座り、メモ書きに目を通すと、そこにはここの簡易情報と次の移動先が記載されている。


 メモ書きによれば、ここは[ 翠玉の海中庭園 ]という吉田氏の自室らしい。つまり、俺の拠点のようなものという事なのだろう。一概には判断できないのだろうが、なんというか格差を感じる。

 案内人を用意しなかったのは理由があったらしく、どうやら俺が全裸で来る事を見越して恥ずかしいだろうと気を使ってくれたようだ。


「……く、なんていい人なんだ、吉田さん」


 最近、そういう気遣いに触れる機会のなかった俺は、思わず目頭が熱くなってしまった。

 家族は置いておくにしても、最近は神様やらホムンクルスやらゴブリンといった人間ですらない価値観の違う相手ばかりだったから、こうした普通の気遣いが嬉しい。そんな中で九十九花は一応人間だが、彼女の場合また違った意味で独特の価値観を持つ。加えて、何歳だかは知らないが、あれくらい年が離れるともはや別の生物のようなものだろう。

 その点、吉田晶氏は俺に近い存在と言える。年代もそこまで離れておらず、社会人経験もあり、似たような境遇に置かれた身だ。ひょっとしたら真の理解者になってくれるのではという期待すらある。そこまで頼りにする事はできないだろうが、近い境遇の存在がいるというだけでも幾分か気は楽になるというものだろう。これで、異様に優遇されていていわゆる勝ち組オーラが出ていたら、むしろ毛嫌いしてしまうかもしれないが。


「翠玉宮ってのは……アレだろうな」


 メモ書きに書かれた次の目的地は[ 翠玉宮 ]、現在位置から見て高台にある緑っぽい建物がそれらしい。ちょっと距離と勾配はあるが、せいぜい数百メートル程度のものだから、散歩のようなものだ。

 その分かりやすい目的地に向かって歩き出した。


 全体的にファンタジックな風景ではあるものの、翠玉宮に向かう道はアスファルトっぽい何かで舗装され、案内表示板まで用意された近代的なものだ。普通に車も往来できそうな造りである。こうして比べてみると、同じ石造りでも< 修練の門 >とは歩きやすさが全然違うと感心する。多分だが、現代日本の道路より上等なんじゃないだろうか。

 ちなみに、道を歩いているのは俺だけだが、実は行き来している存在は別にいた。なんか、魚が泳ぐように空中を浮遊しているのだ。吉田氏のペットのようなものか、あるいは別の何かなのかは判断がつかない。リョーマのように喋れる可能性もあるが、向こうから話しかけてくるわけでもないのでスルーする事にした。もしも普通に喋ったりしたら、今後魚を食べる時に美味しく頂けなくなってしまうかもしれないからだ。

 たとえば、活造りにされた魚が、『お、俺を食うつもりかっ!?』とか言い出したら確実に箸が止まるはずだ。活造りにされてから、食うつもりかも何もないだろうが。


 翠玉宮が近付いてくると、その目の前が神社のような長めの階段になっている事が分かる。道を間違っているとは思わないが、確認の意味も込めてその手前にあるインターホンらしきものを押してみる。

 このファンタジックな光景の中に普通のインターホンである。鳴らしてみたら音も普通だ。急に現実に引き戻された感があるな。


『はい』

「すいません、今日こちらに伺う事になっていた加賀智ですが。吉田様はご在宅でしょうか」


 時間指定までして呼んでるんだからそりゃいるだろうが、念の為に確認だ。だって、少なくとも声の主は女性のものだし。十年使徒やってれば部下とかメイドとか愛人的な人もいたりするんだろう。

 べ、別に羨ましくなんかないんだからね。負け惜しみは多分にあるが、実際問題今の環境で女性を住まわせるというのは無理がある。家主の俺にしても気が休まらない。そう考えるとイーリスは当たらなくて正解だったのかもしれないと自己弁護をしてみた。当たっても神様行きだっただろうが。


『はい、ご在宅です。そのまま階段を登って頂いて、表玄関までどうぞ』


 思っていたよりは軽いノリだが、無礼な態度をとるかもと警戒するほどではないと。受付がこの対応なら、主人も期待できそう。というか、したい。


 幾分か安堵しつつ、階段を登る。段々と露わになってくる翠玉宮の全貌に飲まれそうになるが、こらえて先へと足を進めた。豪華かつ趣味はいいのかもしれないが、落ちつかなそうな自宅だ。

 階段を登り切ると正面に巨大な門。もう一度呼び鈴を鳴らそうかと探していたら、勝手に扉が開いた。そのまま中に入れという事だろう。

 表玄関から建物までは整備された庭園が広がっていた。そして、その庭園の半ばくらいの場所の脇に小さな休憩所のような屋根付きの場所がある。俺はそこで足を止めた。


「こっちだ」


 そこでお茶していたらしい存在は、二十歳に届いていなそうな年代の女性だ。もはや年齢など関係なさそうという世界にあっても、見た目の印象というものは大きい。

 その少女が呼んでいるのはまあいい。別に警戒するような場所ではないし、呼び止められれば足を止めもする。しかし、近づくのはちょっと躊躇われた。

 どういうわけだか知らないが、一応屋外にも拘らずその子は裸Yシャツなのだ。パンツは履いてるっぽいが、ブラジャーは多分着けてない。なんでそんな格好をしているんだ。俺へのサービスのつもりなのか。

 くそ、ポジションを修正したい。下手にファウルカップを装備しているから、ポケットに手を入れて位置修正もできない。何故俺はファウルカップを着けて来てしまったんだ。そりゃ念の為であると分かってはいるが、こんな唐突なエロが視界に入るとは想定していないのだ。いや、もしも全裸だったら俺のAK-47がエイブラムスになっているのを見られてしまうから、念の為の準備は無駄ではなかったはずだ。


「えーと、目のやり場に困るんですが」

「自宅でどんな格好をしていてもいいだろ、加賀智君」


 当たり前なのかもしれないが、どうやらこの子は吉田氏の同居人か何からしい。俺の事も知っていると。声から察するに、多分先ほどインターホンで応対したのもこの子だ。


「吉田さんはここで待っていればいらっしゃるという事で?」

「いらっしゃるというか、私が吉田だ」

「は?」


 一瞬何を言ってるのか分からなかったが、直後に一つの可能性に思い至る。


「ああ、奥さんですか」


 結婚制度があるのかどうかすら知らないが、日本準拠ならそういうシステムがあってもおかしくはない。それで同じ名字を名乗るのも不自然ではないだろう。あるいは娘という線も有り得る。

 どちらにしても、初対面の相手の前でそんな格好するのはどうなんだとは思うが。


「いや、私が君が訪ねて来た吉田晶本人だ」

「…………」


 しかし、否定された。その姿で本人と言われても……あまりの事態に次の言葉が上手く出てこない。ここまで数々の超常現象を見てしまっているから有り得ないと否定できないのがまた困る。


「すいません。ここに来る直前に、吉田さん……吉田晶さんのプロフィールと顔写真も見てるんですが」

「それも私だ」


 いや、そんなすべての黒幕のような言い方をされても。


「まあ、とりあえず席にどうぞ。お茶は何がいいかな? 紅茶? コーヒー? アルコール類でもいいけど」

「……コーヒーで」


 とりあえず、色々なものを飲み込んで注文を口にした。いっそ酒でもいいような気もしていたが、冷静さを失うにはまだ早い。

 頼んだコーヒーは、使用人ならぬ使用魚が持ってきてくれるらしい。




-2-




「改めまして、私が吉田晶です。よろしく」

「……加賀智弥太郎です」


 席につくと、先ほどまでの衝撃がなかったかのように自己紹介が始まる。会話だけ抜き取ればお互い名刺でも出していそうだ。


「今回の面談に私の身の上話は関係ないが、興味あるって顔をしてるね?」

「えーと、そりゃ……聞いていいもんなんですかね?」


 先輩だという男性に会いに来たら、女の子だったのだ。混乱もするし、気になるかと聞かれれば当然気になる。しかし、それがまともな事情である気がしない。性転換……かどうかは知らないし、ひょっとしたら極めて高度な女装という線もあるかもしれないが、どちらにしてもデリケートな話題だろう。


「隠してるわけじゃないし、ちょっと調べれば分かる事ではあるんだが、君はなりたてだからそういう権限がないんだろうね。まだ一ヶ月未満だっけ?」

「あーはい、まだ一ヶ月経ってません。吉田さんの現状については簡易プロフィールくらいで……ウチの神様からは他に何も」


 連絡事項が足りていないのはいつもの事だ。俺を驚かせるためというよりも、単に重要情報と捉えていなかった可能性が高い。神様なら、吉田さんが女体化してても気にも止めないであろう事は想像がつく。


「そちらの神とはこの案件について指示を受けている関係だし、実際に顔を合わせた事もあるが、どうでもいい事と判断したんだろうね。神には良くある事だし」

「ウチだけじゃなく、一般的に?」

「一般的に。人と違って視野や興味が権能に合わせて一直線なんだよね。私たちが複眼で見た世界を想像できないのと一緒で、ズレているというか元から視点が違う。特に長く生きているほどその傾向があるらしい……と聞いてる」


 ウチの神様特有の性格かと思っていたが、みんなそんな感じなのか。見た目が近いから誤解しがちだが、根本的に別の生物なのだから、納得できなくもない。


「つまり、そちらの神様もそんな感じと」

「そういう傾向はあるね。そんなのがどうでも良くなるくらい、別の部分がアレなんだけど」

「……アレ?」

「あー、ちなみに加賀智君は時間がない感じ? 制限時間あるとか。愚痴みたいなものだから、手短にと言われればそうするけど」

「制限時間は一日なんで、余裕はありますけど」

「なら順に。でないと、意味不明な事になる」

「あー」


 それは俺自身が痛感している事でもあった。ここに至るまでの体験は、端的に説明しようとすればするほど意味不明になるのだ。吉田さんにしても似たようなもんなんだろう。


「私は元々プログラマーをやっていたんだけど、ある日突然やった事もないプロマネに抜擢されて破綻プロジェクトの尻拭いをさせられたんだ」

「そこら辺は簡単にですが聞いてます」


 あまり知りたくはなかった事情だが、プロフィールの最初にあるんじゃ避けようがない。


「まあ、良くある話といえば良く話なんだけどね。『将来的なステップアップのために経験しておいたほうがいい』と言われれば、怪しくても下っ端に逆らう術はないし。それで失敗した……というか、私に押し付ける以前に破綻してたわけだけど、既定路線とばかりに責任を負わされたわけだ。その後、関連企業が倒産してそこの社長が首吊ったり、告発しようとしたら総務部の連中に監禁されかけたり、元々のプロマネが横領で捕まったりと……まあ、色々あって精神病むくらい追い詰められた末に、別に失うモノもないしと自殺しようとしたら、唐突にウチの邪神から声がかかったわけだ。使徒やってみないかって」


 随分軽いノリだが、俺も似たようなモノだ。こっちは選択肢もなかったが、どうしようもないタイミングであったのは確かなので置いておく。


「自分のところの神様なのに、邪神って……」

「その時はまだ変な神様ってだけの認識だったけどね」

「なんの神様だったんですか? なんかヤバい系の権能を持ってる感じの?」


 神道の神様感そのままとは思えないが、日本では古来より善悪関係なく強大な存在であれば祀る傾向がある。だから、他宗教なら邪神と呼ばれるような存在が含まれていてもおかしくはないだろう。

 あんまりタチの悪い相手なら関わりたくないな。


「企画モノAVの神だ」

「…………は?」


 しかし、返って来たのは予想の遥か彼方をぶっ飛んだ回答だった。


「その反応は分かる。私も初めて聞いた時は似たような反応だったし」


 ガチャの神も相当にニッチな神様だが、企画モノAV限定の神様も相当だろう。ひょっとして、その上にAVの神様がいるのか。AVだって動画の一種だぞ。


「まさか、AVに出演させるために女体化させたって事ですか?」


 存在自体はアホみたいだが、もしそうならドン引きだ。悪辣ってレベルじゃないだろう。


「いや、あの邪神もそこまで……そういう方面には外道じゃない。もしそのつもりだったら最初からそう言って勧誘していたはずだし。私にとっては邪神でも、基本的に神は人類……日本人にとっての悪神ではないし。……視野が違うだけだから。ふふふ……そうなんだよな、悪意があるとか、私を陥れようとかそういうつもりがあるわけじゃないんだよな。結果的にそうなってるってだけで」


 そう言って小さく笑う吉田さんの目は暗く沈んでいた。聞く限り騙されたわけではないと。とはいえ、女体化は想定してなかったっぽいが。


「私の使徒としての初仕事はAV男優というか、汁男優としての出演だったんだ」

「あの……すいません。その姿で汁男優とか言われるのはちょっと反応に困るんですが」

「そんな事を言われても」


 いや、他にどう言えばいいのかって聞かれても困るんだけど。中身はともかく、普通にうら若きビジュアルの少女が汁男優とか言い出すのは違和感しかないのだ。

 ちなみに汁男優というのはAVにおいて女優に精液をぶっ掛ける専門の男優だ。さすがに俺は経験ないが、参加企画モノに応募して出演した奴が知り合いにいたりもする。基本的に顔が出るような役ではないから、該当の動画を見せられてコレって言われても判別など出来ないのにわざわざ見せられたのだ。というか、俺に他人とAV見る趣味はないので持って来ないで欲しかった。


「やりたいかって聞かれたら進んでまでやりたい仕事ではなかったけど、まあ仕事なら別にいいかくらいの認識だったんだ。どういうものかは知っていたし、そういう現場にも興味はあったから。ついでに言えば、女優だって人間界ではまずお目にかかれない美女だ」


 確かに、その条件なら俺でも参加してしまうかもしれない。あわよくば女優さんと仲良くなったりと期待もするだろう。


「……しかし、ウチの邪神は加減を知らなかった。もう出ませんって言っても無理やり出させようとするんだ」

「実にコメントに困る」


 普通、健康な成人男性でも一日に何回も射精できるわけではない。だからこそ、汁男優なんてカテゴリが存在しているともいえるのだが、神様には理解できないのかもしれない。

 単に製造が間に合わないだけではなく、実は関連器官の消耗も激しい。ハナからそんなに連発できるようなものではないのだ。それは、たとえるなら初期世代の戦車にも良く似ている。装弾に時間がかかり、何発か撃ったら故障する感じのアレだ。

 そういう意味では一部のエロゲ主人公は超人といえるだろう。


「仮にも神様ならなんとでもなりそうな気がしますけど。その辺にパッと作るとか」

「ウチの邪神的には、そういう撮影の様式美を含めてこそらしい。リアリティに欠けると言われれば反論は難しい」


 そりゃそうなんだが、確かに視野が違うな。ベクトルがどうというよりも、根本的に違う気がする。複眼にたとえるわけだ。


「神の権能を使って無理やり出させようとするから、実際に男性機能の限界を超えて酷使された。まさか、自殺を思い留まった末に射精のし過ぎで死を覚悟する事になるとは思わなかった」

「あの……汁男優って普通複数人数用意するって聞いた事が」

「いたよ。全員同じような状況だったけど」


 絶対に目視したくない地獄の光景である。超イカ臭そう。


「そしてウチの邪神は言うわけだ。『出すのが無理なら、出される側なら問題ないな』と」

「いや、その理屈はおかしい」

「そんな事は分かってるが、その時点で反論する気力などなかったんだ。とにかく目の前の地獄から抜け出したかった。その結果がコレだ」

「おおぅ……」


 ひどい経緯を聞かされてしまった。

 しかも、追い詰められた末とはいえ自分で決断してしまっている。これが最初から予定されていたなら極めて悪辣だが、多分その場の流れなんだろうな。これが自分の事だとしても絶対頷かないという自信はないし。


「それで女性に固定されてしまったと」

「いや、別に固定はされてない。戻してくれと言えば戻してもらえるはずだ」


 戻れんのかい。


「奴も別に女優不足で私を女にしたわけじゃないしね。性欲もないらしいから、私が男だろうが女だろうが気にしないと思う。奴にとって興味があるのは企画モノAVという概念そのものだし」


 物分りがいいのか悪いのか良く分からん神様だ。とりあえず、会いたくはないな。


「じゃあなんで……」


 今は女なんだろうか。頻繁に性別を切り替えていて、タイミング的に女性の時期だったとかじゃあるまいな。


「何度か苛烈なメス落ちを体験したら戻る気がなくなった」

「それを聞かされて、俺は一体どんな反応をすればいいんだ」

「笑えばいいと思うよ」


 かつて、ここまで反応に困る昔語りを聞いた事がない。つまり、この人は酷い経緯はあっても最終的に自分の意志で女性のままでいると。同情の余地は……ない事もないが、それを求めてはいないだろう。そりゃ自虐的にもなる。


「じゃあ、昔はともかく、今は待遇に満足していると?」

「……そうだな。別に生活に不自由はしてないし、この体だってスペック的には相当なものだ。ほとんどケアもなしにこの状態を保ってさえいられるし、いくら弄っても黒乳首にはならない。加えて、望んだモノは大抵手に入るし、限界を超えた射精要求もない」


 射精要求がないのは当たり前だ。


「隣の芝生は青く見えるというが、人間だった頃の生活に戻りたいとも思わないし、君みたいな深夜番組もどきの生活もゴメンだ」

「喧嘩売ってます?」


 深夜番組もどきの生活なのは否定はしないし、できないが。


「もう十年だ。まだ男性だった期間のほうが長いものの、もうどんな感じだったのかも良く思い出せない。今となってはあの苛烈な汁男優経験も、幾度となく繰り返されたメス落ちもいい思い出として……済ませられるかボケッッッ!!!!」


 突然、立ち上がって叫び始めた。なんだこのノリツッコミは。


「ええ……」

「ドレもコレも思い出しただけで震えるくらいの悪夢だっ!! あんな邪神を認めてたまるかっ!! ふざけんなーーっ!」

「えーと、神様ぶっ殺したいとかそういう事ですかね?」


 俺も殴りたいと思った事くらいはあるから、その憤りは理解できなくもない。思惑や待遇は別にしても、おもちゃにされているようなものだ。悪意がなかろうがたまったものではない。


「……い、いや、殺しはちょっと……というか、どうせ無理だし。そもそも、逆らう意志さえ持てないくらいに調教された後なんで」


 急に萎み込むように椅子に座った。……情緒不安定なんだろうか。


「元々小市民の事なかれ主義で、長いものには巻かれる性格なんだ。立ち向かうべき気力は最初からない。だから、こんな異常な生活も受け入れてしまう。周りを変えるよりも、妥協の理由を探してしまう弱い人間なんだ。頭の中にあるのはいつも『~だから仕方ない』ばっかりだよ。それがプレイの幅を広げるのも確かだし、そういう心理公開系の企画モノにも参加した事がある」

「いや、本人がいいならいいんじゃないですかね」


 そういう人は結構いるし。俺も人の事はあまり言えない。


「だけど、立ち向かえないならせめて逃げ出したい。いざ逃げ出せるとなると躊躇して動けなくなるかもしれないけど、逃げ道を探さないほどに諦めてしまったらただの木偶人形の完成だ」

「日本限定の神様なんだから、海外に逃げるとか」

「海外でも世界は繋がっている。追跡されなくても、間接的に手が届く範囲にいるというだけで恐怖に襲われるだろう」


 どうしようもないがな。

 企画モノAVの神に会った事はないから判断できないが、たとえ逃げる者を追わない方針だったとしても、この考えでは安心はできない。太陽を見る度に焼き尽くされるかもしれないと怯えるようなものだ。


「だから、あの邪神の手が届かない異世界があるかもしれないと聞かされた時はコレだって思ったんだ」

「……ああ」


 そういう流れなのか。確かに、理屈には適っていると言えなくもない。




-3-




 とはいえだ、多分この人は逃げ道があったとしても逃げないだろうなと思う。逃げる事ではなく、単にそれを探す事が目的になっているのだろう。だから、最初から期待もしていない。そんなものがあるはずないと思っている。

 たとえ、俺が何を提示しても動く事はないだろう。そもそも、その必要すらないのだ。

 と、そんな事を考えながら使用魚のマンボウが宙に浮かべて運んで来たコーヒーを啜る。


「確かに、突破口はありそうですね」

「……え、あるの?」


 さて、どこまで口にすべきか。今後の付き合いを考えるとまったくの不干渉というのも厳しい。

 根っこの部分で妥協が完成してしまっているけど、それを認めたら動けなくなるから抗っているフリをしているだけ。元からそうなのかもしれないが、なんというか……弱い人だ。人間らしい駄目な思考。逆にいえば、抗っているフリをしている内は人間でいられるという事なのだろう。


「可能性としてなくはないというレベルですけど」

「え、ちょ……まだ平行世界に行ったのは一回だよね? なんでそんな事が……」

「どこまで聞いてるか分かりませんが、向こうで更に別の世界から来た九十九花って奴に遭遇してます」

「う、うん。それは聞いてる」

「つまり世界を渡る手段はある。博打みたいなモノって認識でしたから、それ自体の利用が出来なくても手段としては存在するわけです。似たような手段が他にないとも限らない。というか、あるんでしょう」


 神の権能を使わずとも世界を渡れる手段は実際に存在していて、それを成功させた奴がいる。なら、難易度はともかく理屈の上ではできるって事だ。


「この計画が未知の世界を観測し、手を伸ばす事を目的としている以上、単に異世界に行っただけなら追いつかれる可能性はありますけどね」

「ああ、うん。そりゃそうだよね……」


 とはいえ、システムの根幹部分がランダム性に頼った未知の観測である以上、行き先の安全のみを確認してランダムに逃げてしまえば探しようはない。同じように偶然に頼って捜索する事はできるものの、それが一致するのは正しく天文学的な確率だから気にするような不安要素ではない。だから、突き詰めるならこの計画の先には彼……彼女が求める逃げ場はあるんだろう。

 しかし、わざわざそれを提示するつもりはなかった。現時点で形のないものではあるし、義理として口にはしたがそもそもこんな簡単な事に気付かないはずがないのだ。

 この人は不安定に見えるが、不安定でいる事によって安定しているタイプの人間なのだろう。可能性を提示するくらいならともかく、下手に道筋を用意したらそれがトドメになって人格ごと崩れかねない。俺はあんまり引き金を引きたくないし、多分必要な事ですらない。


「俺への面談ってそれが目的ですかね?」

「そう。まあ、九十九世界や彼女たちの元世界の情報はあまり開示されていないから、純粋にそちらの興味もある」

「開示されないのなら、俺から聞くのもまずいんじゃ」

「そうでもない。規制に引っ掛かるなら伝えられないか伝わらない。聞いちゃいけない事なら、伝えようとしている事を含めて規制される。ちなみに九十九世界の情報に関しては、現時点で取り扱い審議中ってだけだから、しばらくすれば公開されると思うよ」


 なるほど。なんかそういう超常的な力で認識ごと規制されてるのか。神様が何言っても問題ないって言ってるのは、それを考慮しての事なのかもしれない。


「たとえば俺のウインドウにある情報開示レベルのような?」

「アレはまた違う。君を混乱させないための処置だったはず」


 ああ、昨今のゲームで最初からチュートリアルが全開放されていないようなものか。説明の必要性は認めるが、いきなりそんな膨大な情報渡されてもと困る事があったりする感じのアレだ。


「という事は、情報開示レベルに引っ掛かってても、吉田さんに教えてもらう分には規制もかからないと」

「言えるなら問題ないけど、何か開示レベルに引っ掛かって聞けないものでも?」


 上手く話を逸らせたかな。実際気になっている事ではあるんだが。


「たとえば……すぐに必要っぽいものじゃないんですが、< 幻装器手 >ってなんだか知ってます? 開示レベルがギリギリ足りないんですが」

「< 幻装器手 >?」


 聞き覚えがないような素振りだったので、実際にウインドウを開いて見せてみた。

 ……あの、あんまり身を乗り出さないでもらえますかね。目のやり場に困る。


「ああ、なるほど。多分だけど、開示レベルが足りてても『詳細不明』って回答が返ってくると思う」


 それじゃ、質問フォームの意味がないがな。


「……すいません、ちょっと意味が分からないんですが」

「簡易な回答でいいなら、『そのカードシステムを扱えるクラス』だけど、それは本質の一部でしかないから詳細な回答はできないって事」

「分かっている以上に未知の部分が多いから詳細不明って事ですか?」

「そういう事だね」


 なんだそれは。どうしたらそういう事になるんだ?


「なんでそんな意味不明なものが俺に?」


 これまでの人生でそんなものになった覚えはないし、ガチャでクラスのカードが出たわけでもない。そもそも、これはカード枠の外にある固定の情報だ。


「それは多分、因果関係が逆で……君が< 幻装器手 >だからこそガチャ神に選ばれたんだと思うよ」

「なんで俺が選ばれたか分からないままだったんですが、使徒ってのはそういう条件で決めていると?」

「……それはどうだろう。別に私はそんなのないし」


 それはそうか。企画モノAVの使徒に必要な素養ってなんだって話だし。今回の俺だけに当てはまるケースって事か。


「ガチャのシステムが作られて、ある程度システムが動き出した時点で情報や効果も確立され、それっぽい効果を持つようになったのがクラス……というかカード全般の話。これは元を辿ればこの世界の情報やあるかもしれない世界の情報から創られた概念なんだけど、その中にこのカードシステムを操作するクラスは存在しなかったんだ。だからその未知の型に嵌るような適性を探し出した結果、見つかったのが君って事なんだと思う」

「…………」

「そのシステムをある程度でも形にしたのは君のところの神様や私たちだけど、それは一から開発したわけではなく、元々あったものを解析して解明できた部分に形を与えたに過ぎないんだよ。フロントエンド……いや、シェルって言ったほうが近いのかな」

「このシステムの原型は別にあった?」

「定義付けすらされていなかったモノを原型って言っていいのかは分からないけどね。多分だけど、それの正体は異世界から流入した未定義の概念なんだ」


 やばいな。どう考えても理解が追いついてない。

 だが、何故だ。何故だか、感覚的に分かる。この情報を識った事で、このウインドウが……いやシステムがどこかに繋がっていると感じている。

 < 幻装器手 >は、このシステムに……この世界や異世界を問わず、カード化した概念へ干渉できる素養を形にしたものって事なのか。


「< 幻装器手 >って名前も、システム側で自動的に付けられたモノだ。それは未定義状態の本質から近しい意味の言葉で以て形に落とし込んだ結果だと思う。確定ではないけれど、その文字が割当てられた事にも意味はあると思う」

「幻装器ってのはカードかカードを置く場所で、それを扱う者って意味では?」

「君がそう感じるならそうなんだろうね。君はその役割を持つ者本人なわけだから。ただ、その意味だけなら< カードマスター >とかそういう名前だって良かったはずだ」

「……言われてみればそうですね。幻装器って文字だけを見てカードとは思わないでしょうし」


 案外、それっぽい文字を当てただけって可能性もあるが、ここで重要なのは< 幻装器 >って言葉そのものじゃない。このシステムが未知の概念を多く含んでいて、俺にはそれを利用する適性があるという事だ。

 その未知は元々この世界にはない概念で、これを解析する事は異世界を理解する事に繋がる。このカード枠の設けられた黒い透明なウインドウの先には異世界があるのだ。

 面倒臭いから説明しなかったのか、必要ないと思ったのか、敢えて言わなかったのかは分からないが、ここまで神様から説明のなかった各々の関連性に触れたような気がする。

 しかし、俺にそんな適性があった? それはどんな確率だというんだ。……いや、違うな。確かに希少な適性ではあるんだろうが……。


「……ひょっとして、未知の定義を形にしたものはコレだけではないとか?」

「そうだね。詳細は知らないけど、似たようなケースで未知の情報を元に実験しているチームは複数ある。だけど、そんな中で君はいち早く結果を出したわけだ」


 ガチャじゃない、あるいはカードでもないシステムが他にもあると。俺だけにやらせてると言われるよりは納得ができるな。

 尤も、全員が俺みたいなローグライク、ハックアンドスラッシュ的な深夜番組のノリとは思えないし、色々あるんだろうが。


 ふむ。求めていたものとはちょっと違うが、色々興味深い情報が得られたな。それ以外にも色々不要な情報が纏わりついているような気がするが、それは置いておく。




-4-




「って、あれ、ひょっとして君のほうの本題はその手の質問関係?」

「あ、すいません。本題は別です」


 会話の流れで聞いてしまっただけで、本題は俺のモチベーション関係だ。なんかやる気になるご褒美下さいという要求である。

 そんな感じの事を、これまでの経緯を含めて吉田さんに説明してみた。


「なるほど。面談の依頼をしたとはいえ、そっちの神様が私のところによこしたって事はガチャ以外の……システムに組み込む感じの話かな。それ以外に提示できる報酬といっても、企画モノAVの撮影に参加するとかそんな感じだし。あ、興味があるならウチの邪神を紹介するけど」

「興味はありますがノーサンキューで」


 撮影されるのは個人的嗜好に合わないものの、興味自体はある。しかし、それ以上に企画モノAVの神に面識を持ちたくなかった。何されるか分からん。

 ソープに行くような軽い気持ちで参加して、何故か俺がメス落ちさせられるような事態になったら目も当てられないだろう。


「加えて、そこそこ年代が近くて元とはいえ同性で、価値観が近いだろう私なら何を報酬にされれば頑張るか分かるだろうかって話か」

「ええ、まあ」


 その目論見は盛大に外れてしまった感が否めないわけだが、それでも神視点よりは俺に近いだろう。


「そういえば元プログラマーなんですよね。なんかその手の知見があったりしませんか?」

「確かにその案件を打診されたのはその経歴が理由らしいが、私が担当していたのは医療事務系のシステムだしな。派遣で同じ職場に来た中には経験者もいたが、連絡した事もないし」


 ゲームプログラマーか何かだと思っていたが、まったく関係ない分野の人だった。


「とはいえ、私もまったくゲームやらないわけでもないから、方向性としては正しい。たとえば、実績周りもそこら辺のゲームから参考にしたものだし」

「ああ、そういえばその実績関連で疑問点があるんですが……アレ、偏り過ぎじゃないですかね?」

「……そうかな? 内部の値が自動生成になるからある程度偏りは出るのは仕方ないにしても、汎用性の高い実績をメインにしてるはずなんだけど」

「枠としてはそうなのかもしれませんが、モンスターがゴブリンしかいないんで、それ以外の討伐実績を満たせません」

「…………ああ、そっか。いや、話は聞いてるよ」


 ゴブリン種何体撃破って実績がゴブリン以外で機能していない。段階的に設けられている実績だから、必然的に達成可能な実績も大幅に減る。


「なんでゴブリンしか出ないんだろうね」

「え、理由分からないんですか?」

「なにが出るかはランダム性に任せたものだから。……でも、一層あたり複数種類の種族は出るはずなんだよね。被る可能性はあるから有り得ない事ではないけど、ずっとっていうのはさすがに不自然かな。エリアボスやフィールドボスまでゴブリンだし。……君、実はゴブリンと深い因縁があったりしない? 子供の頃にゴブリンに攫われたとか」

「普通の現代日本人のつもりだったんですが」

「……うん、まあそうだよね」


 現代に生きていて、ゴブリンと因縁ができる機会などない。ゲームでは結構戦った事はあるが、それはゴブリンに限った話ではないし因縁もクソもない。


「直接出現テーブル弄るのは無理だから、そこは諦めるにしても……」

「え、ちょ……そこを諦めんの!?」

「ランダム性に任せたものだから手が出せないんだよ。それに、すでに動き出している既存のシステムに変更を加えたりするのはかなり厳しい。だから検討するとすれば、代替手段を新規追加するのが現実的な方法になる」

「マジか……俺はずっと、あのゴブリンたちと戦い続けないといけないのか」


 先の層まで決まっているかは知らないが、この分だとどこまで行ってもゴブリンしか出なそうだし。


「いや、< 修練の門 >以外のダンジョンなら、さすがに他のが出てくるんじゃないかな。その環境に合わせたモンスターが出るっていう基本仕様があるわけだし」

「え、あそこ以外にもダンジョンがあるんですか?」

「あるよ」


 あるのか。というか、それ言ってもいいんだ。


「どんなダンジョンになるかはやっぱりランダムだけど、< 修練の門 >の第十層クリアで繋がるはず。ひょっとして、これがやる気に繋がったりする?」

「そうなのか……あ、確かにちょっとやる気になったかも」


 自分の事ながらあやふやだが、多分変化がないのが問題なんだろう。何かしら目に見える変化があるだけでも結構違うらしい。

 十層を超えれば、これまでにない新ダンジョンに行けるってだけでも十分新鮮味があった。


「とはいえ、それだけだと何もしてないのと同じだからな……ゴブリンしかいないから報酬機会が減ってるのも確かなわけで……カードの枠も足りないんじゃない?」

「全然足りません。どれがってレベルじゃなく、全部」

「だよね。なら、その補填って形でなにか……期限付きのチャレンジミッションとか? そういうのなら追加できると思う」

「おお」


 今ある実績は恒久的なものだが、時期ごとに新規作成されるミッションを別枠で作るなら問題はないらしい。単に報酬を渡したり増やしたりするのは神様から止められているらしいが、運や時間、労力を必要とする報酬が増えてもいいって事だ。内容はやっぱりランダムにせざるを得ないらしいが、単純に報酬の獲得機会が増えるだけで助かる。

 結局、デイリー、ウィークリー、マンスリーの三種類と、突発時限式のミッションを組み込めないか検討してもらう事になった。


「稟議書作って、審査に回して、そこから組み込む事になるから、早くても実装は来週かな」

「一般的なモノの時間は分かりませんが、随分早いような」

「根本的に未知とはいえ、すでに解析できている部分しか使わないから、ライブラリありきのソフトに設定追加するようなものだし。審査に関しても君からの直談判って名目ならまず一発通過だろうしね」


 そういうもんなんだろうか。ソフトウェアの開発って、どんなに簡単なものでも結構かかるって認識なんだが。同じにしてはいけないのかもしれない。


「なら、ついでにコレもなんとかなりませんかね?」


 駄目元でいつもの質問フォームを見せてみた。以前から言ってはいるものの、一向に改善の兆しが見られないコレだ。


「ああ、ガチャの神様が手製で作ったっていう……即席とはいえ、これはひどい」


 キーボードもなしに空中で手書きする必要があるし、変換機能はないし、もちろんコピー・ペーストの機能もない。必然的にひらがなの短文になる質問フォームを見て、吉田さんは顔をしかめた。


「手製だし、ガチャの神様に許可とれば直で直せるかな。何時間かもらえるなら、この場で直すけど」

「え、なら、頼んでもいいですか?」


 というわけで、俺がしばらくそのエリア内を散歩している内に吉田さんが質問フォームの手直し……というか作り直しをしてくれる事になった。

 感触がないためあまり使い易いとは言えないが、宙空にキーボードを表示して入力する方式で、ちゃんと変換機能もある。コピーもできるし、定型文の登録も可能と見違えるような作りだ。

 人間的にはちょっと問題のある人だが、割り振られた仕事はできる人という事なのだろう。管理職には向かないタイプだな。


 そんな感じで、突発的な面談は概ね良い結果に終わったと言ってもいいだろう。主に精神的な意味で問題はあったが、些細な事だ。




『へー、あんさん、ガチャの神様の使徒さんでっか。色んな神さんおるなー』


 また、直接関係ない問題として、散歩途中に喋るマグロと会話してしまった事が挙げられる。

 これから先、鉄火丼などを前にして正気でいられるだろうか不安だ。


 ……変な気分になるかもしれないからと辞退したが、屋敷の中で待っていたほうが良かったかもしれない。




いつになく下ネタだらけの回だな。(*´∀`*)

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
[良い点] 裏山ですわ。企画者の神様にTSさせられたいです
[気になる点] 企画モノAVの神が動画配信の神(候補)より位階高いの納得いかねーw 込められた感情の質はまぁ違うだろうけどさ
[一言] 吉田さん関連のAVもガチャで出てきそうw
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