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第二十四話「再誕する悪夢」

間違って無限の次話で更新してしまった。(*´∀`*)




-1-



 特に波乱もなく帰還した俺は、休憩がてらリョーマと話し合っていた。内容はもちろん、見つけてしまった儀式場に関してだ。

 前回の主目的はあくまでフライングバインダーの新機能のテストだったわけで、こんな簡単にアジトが見つかるのは予想外といえる。だからというわけではないが、様子見だけして引き返してきたのはある意味既定路線だ。しかし、実際に突入するかどうかについても悩んでいた。

 理由はいくつかあるが、最大の問題は戦力である。相手側の戦力に未知の部分が多いのは仕方ないにしても、愛用の棍棒を失ってしまった俺の戦力は、正直万全と言い難い。


「ゴブリンというのは弱いのではなかったのかね?」

「基本的にクソ雑魚ナメクジだが、全部がそうってわけじゃないからな。あそこにいたのは新種ばっかりだし、用心に越した事はない」


 今では雑魚と大差ないが、でかいゴブリンだってそれなりに強敵ではあったし、オークっぽいゴブリンなんて今でも十分強敵だろう。

 詳細の分からない新種をゴブリンというだけでも警戒するには十分だし、魔法を使ってきそうなシャーマンや鎧を着込んだガーディアンなんて、油断していい相手とは思えない。

 というか、良く考えずに突っ込んでえらい目に遭ったばかりで油断なんぞできる筈もないのだ。


「あそこに乗り込むなら、最低限ちゃんとした武器が欲しい。番兵やってたゴブリン・ガーディアンの鎧の上からでもダメージが通るやつ」

「そういえば、第三層で愛用の武器が壊れたのだったか」

「ああ。代用武器もあるにはあるが、マジで代用だからな」


 矢のないロングボウやゴブリンボウガンは論外としても、普通の棍棒では正直頼りないし、銃剣は取り扱いに難が有り過ぎる。下手をすればガントレットつけた腕でそのまま殴ったほうがダメージが出そうだ。

 今思えば、頑丈で扱い易く精神補正までついた< ゴブリンの蛮族棒 >はめっちゃ優秀だった。実際に使って感じたのだが、< ゴブリンの棍棒 >は精神補正がないだけでなく、全体的なスペックも低い。特に頑丈さが足りないのが致命的で、何回か使っただけでも壊れそうなほどだった。


「最悪、< ゴブリンの棍棒 >に< 基本性能強化+ >か< 強化+ >をつけて使う事になりそうだが……それでも途中で壊れそうだ。予備は必要だろうな」


 戦ってる最中に武器がなくなるとか、絶望以外の何物でもない。

 確認できた限り、あそこにはシャーマン二体、ガーディアン二体、生け贄一体、最低でも合計五体のゴブリンがいる。ディディーも含めれば六体、見えない範囲にはもっといるだろう。

 確実に戦力になりそうな個体だけでも最低四体。これだけなら棍棒が壊れるほどではないだろうが、油断はできない。俺はまだ鎧などの防具に対して攻撃した事などないのだ。武器の耐久性もさる事ながら、戦力的にも自信があるわけじゃないし。


 また、場所の問題もある。奥に広がっている儀式場はそれなりに開けているっぽいが、その手前……ガーディアンが見張りをしている通路はゴブリンサイズなのだ。

 屈めば問題なく移動できるサイズではあるものの、大型武器を振り回すのはかなり厳しそうである。となると、使用する得物はナイフやショートソードのような小型武器が望ましい。ガーディアンたちが持っていたような槍もかなり制限はあるが、刺突ならば使えない事もないだろう。そう考えると、短槍あたりがちょうどいいかもしれない。

 奥から増援が来る事を考えると無理やり突破して広場で戦ったほうが無難なのだろうが、簡単に通してくれるとは限らないのが困ったところだ。入り口前の通路はそれなりに長く、奇襲はまず成立しないのも問題である。あいつらはアホだが、索敵能力は標準並だ。


「どの道、ずっと棍棒ってわけにはいかないんだよな」

「RPGでいえば最下級の常連装備で、装備に金を回す余裕がない時とりあえずで持たせる筆頭みたいな武器だからな。60Gくらいで売ってそうだ」

「具体例を出すな」


 多くのRPGに登場する武器ではあるが、メインウエポンとして使われる事はまずない。下手をすれば装備される事すらないのが棍棒の立ち位置だ。

 ずっと使い続けてきた俺的には、特に技術を必要としない、使い手を選ばない良い武器ではあるんだが、少なくとも見栄えはしない。格好良さを求めているわけではないが、蛮族感丸出しなのも否定できない。その不遇感は斧以上だろう。

 そんな俺にしてもできればもうちょっと良い武器は欲しい。理想を言うなら同じ鈍器。金属製のハンマーなんかが合ってるんじゃないだろうか。釘バットなんか持ち易くていいと思う。元々、銃以外の武器にそこまで思い入れないし。


「儀式の進捗率的に、来週のウエポンピックアップを待つ余裕はないしな」


 不可能ではないが、儀式の進捗具合を考慮するならかなりタイトなスケジュールになる。出目が運に頼り切りなガチャでそれは致命的だ。都合よく武器が出ると思えるような経験はしていないのである。ついでに言えば、せっかく見つけた儀式場が再構築で探索し直しになってしまうのも問題である。

 今後使い続ける武器はピックアップに期待するとしても、その前に繋ぎの武器は欲しい。


「再構築を考えるなら、今週中に挑むのが現実的だな」

「ちなみに、放置というのは?」

「…………」


 ……実をいうと、駄目ではない。その手も一応考慮すべきなんだろう。


「むしろ、復活させたほうが楽なのかもな。あの儀式はそもそも止める事を前提にしてないのかもしれない」

「儀式を阻害するのはイレギュラーだと?」

「神様が認識してない時点でイレギュラーなのは間違いないんだが……。それを置いても、中断させるより復活させたほうが楽な気はする。だって、多分ディディーよりあいつらのほうが強いぞ」


 あいつと初めて戦った時、金玉のみを執拗に狙う戦闘スタイルに恐怖して苦戦を強いられたが、その戦闘能力は他のゴブリンと大差ないものだった。

 そんな奴がいくら強化されたからといって、数倍程度じゃ戦力として考えられない。しかも、復活後にフィールドボスとして登場するなら多分個体だ。強襲さえされなければどうとでもなるだろう。儀式場にいる連中すべてを倒すよりは難易度は遥かに低いと思われる。ひょっとしたら、あそこにいた一体一体よりも弱いかもしれない。

 そもそも、なんでそんなヤツをわざわざ復活させようとしているのか。奴らの上下関係はさっぱり分からない。なんか弱みでも握られてるんだろうか。

 ……逆に、復活させてフクロにしようとしているという可能性も。


「強化を繰り返したら最終的に強くなるとか」

「可能性はありそうだが……わざわざ復活させる理由としては弱い。段階的に強くなるのなら、復活したディディーを殺さずにおくって対策もあるしな」


 フィールドを徘徊し、階層さえ超えてくるような奴を避け続けるのは難しいが、極論殺さなきゃ死なないわけで、段階強化を目論むにはハードルが高い。動けないようにして放置したっていいのだ。


「ついでに言うなら、中断させてもまた儀式は行われそうなんだよな……キリがない事になりそうだ」

「では、儀式はそのまま放置すると?」

「……そういうわけでもないんだが」


 悩ましいところだな。くそ、なんて面倒な連中なんだ、ゴブリン十六魔将。


「……よし、保留で」

「御主人様的にそれでいいのかね?」

「どの道、今の状態で戦う気はない。……そうだな、何回かガチャ回してそれっぽい武器が出たら挑むって事で」


 幸い、進捗度にはまだ余裕がある。単に問題を後回しにするだけなら問題だろうが、判断の材料となるガチャがそもそも運任せなのだ。なら、とりあえず回してから考えるというのもアリだろう。


「狭い通路でも扱える、それなりの武器か」

「いや、通路は最悪突破すればいいわけだから、頑丈ならそれでいい。とにかく、< ゴブリンの蛮族棒 >の代わりになるメイン武器って事だ」


 現状、まともな武器がないのだ。この悪条件の中で挑むよりは何かしら使える武器を期待したい。

 というわけで、十連ガチャに足りない分のチケットを稼ぐため、第二層の中継ポイントへと向かった。




-2-




[巨大な柿の種 アンコモン ノーマル/アイテム ]

[湿布 コモン ノーマル/アイテム ]

[ボディソープ コモン ノーマル/アイテム ]

[ランスチャージ コモン スキル/アクション ]

[ヒールポーション アンコモン ノーマル/アイテム ]

[高級砥石 コモン ノーマル/アイテム ]

[ゴブリンドリンク コモン ノーマル/アイテム ]

[猫パンチングマシーン コモン ノーマル/アイテム ]

[猫じゃらし コモン ノーマル/アイテム ]

[デンジャー桃太郎20XX~巻ノ六・バイオ赤オニの逆襲~ コモン ノーマル/アイテム ]



「やっぱり、そう都合良く武器は出てこないか」


 判断を後回しにして十連を回した結果はちょっと微妙な感じだった。色々気になるものも多いが、今すぐどうこうというものは少ない。

 強いていうなら< ヒールポーション >は使い道が多そうだというくらいだろうか。どれくらい回復するのかは鑑定結果待ちだが、儀式に乗り込むにもかなり有用だろう。

 なんだか良く分からない< デンジャー桃太郎 >はラノベらしい。個人的に非常に気になるタイトルではあるのだが、六巻単品というのが残念なところだ。時間が出来たら読んでもいいだろう。


「御主人様、この< デンジャー桃太郎 >を読みたいのだが」

「…………」


 くっ、リョーマに先を越されるとなると、先に読みたくなってくる。面倒な。


「……まあ、いいだろう。後で面白かったとかつまらなかったっていう漠然とした感想は聞くが、ネタバレするんじゃないぞ」

「承知した」


 俺はまたチケットを稼ぎにダンジョンへと向かわねばならない。拠点でヒマするリョーマが読みたいというのなら、飼い主として妥協する部分だろう。でも気になる……。




 そうして、俺は狩りに出かける。大体二時間ごとに戻ってくるのだが、リューマが本を読み終わったのは三周目が終わり、十連分のチケットが貯まったタイミングだった。


「んで、どうだった?」

「なかなか面白かった。ただ、あらすじを読んでも前後関係が意味不明過ぎるから、できれば一巻から読みたいところだな」

「タイトルからして意味不明だからな」


 色んな要素を混ぜ過ぎてどこへ向かっているのか分からない。バイオ赤オニという語呂の悪いネーミングも気になる要素だ。もうちょっとどうにかならなかったのだろうか。


「しかし、まさかバイオ赤オニと共闘する事になるとは……」

「ネタバレするんじゃねーよっ!」


 注意していたのにコレである。俺はネタバレを聞かされると、読んでいる間ずっとそのネタバレ部分が脳裏を過って気になってしまうタイプなのだ。


「続きが気になるから、早く当ててくれ」

「んな事言われても、完全に運だからな」


 単品で都合良く当たる気がしない。この手の続きモノの場合、全巻セットのようにまとまった形で欲しいところだな。

 というわけで、次のガチャである。個人的には< デンジャー桃太郎 >は出なくていい。




[鎖帷子 コモン イクイップ/アーマー ]

[ゴブリン用の手錠 コモン イクイップ/アーマー ]

[アザラシカレー缶 コモン ノーマル/アイテム ]

[鐙 コモン ノーマル/アイテム ]

[鰻のゼリー寄せ コモン ノーマル/アイテム ]

[異説・金太郎~碓井貞光殺害計画~ コモン ノーマル/アイテム ]

[ファイアボールの魔導書 アンコモン イクイップ/サブウエポン ]

[ジャズ コモン ベース/BGM ]

[青酸カリ コモン ノーマル/アイテム ]

[ハルバード アンコモン イクイップ/ウエポン ]


「おおっ!?」


 思わず目を疑うようなラインナップに、何度か見直してしまった。


「御主人様、この< 異説・金太郎 >というのが……」

「ちょっと黙ってて」


 それも気にはなるが、それ以上に他のものが魅力的過ぎた。もちろん、アザラシカレーや鰻ゼリーの事ではない。というか、鰻ゼリーは前にネタで食わされた事あるし。


「いや、落ち着け加賀智弥太郎。ここは一つ一つ確認していくべきだ」

「では< 異説・金太郎 >からだな」

「ま、まあ、それでもいいが」


 なんだろう、リョーマの奴は読書に目覚めてしまったのだろうか。

 < 異説・金太郎~碓井貞光殺害計画~ >をマテリアライズしてリョーマに渡す。< デンジャー桃太郎 >と同じ作者かと思えば違うらしく、ジャンルもミステリーだった。金太郎でミステリー?

 碓井貞光とやらが誰だかは知らんが、金太郎にそんなちゃんとした名前のキャラクターが出てきた記憶がない。しかし、良く考えてみたらそもそも金太郎自体を良く知らない事に気付いた。熊と相撲とったりする話だったと思うんだが。

 こんな知識でこの作品を読んで変な認識しないだろうか。


「碓井貞光は原作で金太郎をスカウトして連れて帰った人物だったはずだ」


 何故リョーマは俺よりも詳しいのか。いや、ランダムに知識が与えられている以上、俺が持っていない知識だって持っているはずだが。というか、そいつを殺害したらまずいんじゃないだろうか。そもそもスカウトってなんだ。


 そんな金太郎はさておき、気になるのは突如確変のように排出された装備群だ。変なネタっぽい装備ではなく……いや、一部そういうのも混ざっているが、有用そうなものがほとんどだ。特にハルバードである。俺に扱い切れるかは分からないが、ここまでで最もまともな武器だ。

 そう見せかけて……という展開はこれまでに何度も体験してきたものの、カードイラストを見る限りは俺の知ってる長柄武器である。


「とりあえず、装備してみてはどうかね?」

「それもそうだな」


 試着だけならすぐにできるのだ。鑑定をする前に試してみるのもアリだろう。

 早速< ハルバード >と< 鎖帷子 >を装備して拠点前の通路へ出てみる。


「……なかなかいいな。< ハルバード >は」

「< 鎖帷子 >は駄目か?」

「いや、駄目じゃないんだが……うーん」


 < ハルバード >はまったく問題ない。重量やバランスにかなり癖はあるものの、今の膂力なら振るう事は可能だ。十全に活かしきれるかどうかはともかく、単に殴打武器として見ても< ゴブリンの蛮族棒 >よりは上等な武器だろう。

 問題は< 鎖帷子 >である。RPGなどでは鎧として扱われているために俺もその認識でいたのだが、そういえばどちらかといえばインナー扱いの装備だった。

 ゾーンを一枠とるこのシステムなら鎧扱いだろうがインナー扱いだろうが関係ないのだが、問題は素肌の上から直接装備すると鎖の下の肌が見えて、どこかのエロ忍者のようになってしまうという。しかも、鎖の目は結構荒い。

 更に下に何か着ていればまったく問題ないのに、これでは変態ルックから脱却できない。フル装備でも着替えの途中にしか見えないのだ。


「だが、ないよりはマシだろう」

「待望の胴装備なわけだし、それはそうなんだがな」


 丈も上半身だけだし、相変わらず締まらない格好である。まあ、有用なのは分かっているのだ。少ないイクイップゾーンを埋める候補としては上位に入るだろう。多分、< ブレストプレート >よりは有用だ。


「ちなみに、それは激しく動いたら皮膚を挟んだりしないのかね?」

「ん? ……いや、大丈夫っぽいな」


 構造上、鎖の間に肉や皮や乳首を挟んでしまいそうだが、これは心配なさそうだった。元々そういう構造なのか、イクイップカードとして補正がかかっているのかは分からないが。

 ともあれ、これで武器も防具も充実した。これだけでも、ディディー復活の儀に乗り込むには十分なパワーアップといえる。


「あとはコレだな」


 < ファイアボールの魔導書 >である。待望の遠距離攻撃っぽいカードではあるものの、その種別はスキルではなくサブウエポンだ。

 どの道鑑定は必要だろうが、試しに装備してみたところ、左手に巨大な本が出現する。いくら遠距離攻撃できても、こんなでかい本抱えてハルバードは振れないと思ったのだが、この本、手を離してもフヨフヨ浮いたままなのだ。その上、移動するとフライングバインダーのように追尾してくる。

 使い方はいまいち不明瞭だが、ナンバーアンカーと同じ要領でファイアボールを使うと念じてみると、本が開き、その上にバスケットボール大の火の球が出現した。


「ぐっ……」


 そのまま放置していると、急激に体の中から何かが抜け落ちていくのを感じ、目眩を覚えた。


「大丈夫か、御主人様」

「……大丈夫だ」


 少し慌てて< ファイアボール >を解除。火の球が消えると、何かが抜け落ちる感覚も消える。抜けていったのはおそらくMPなんだろうが、ここまで実感できるほどとなるとどれほど消費するというのか。

 ステータスを開いてみれば、MPは半分以下に減っていた。他の装備品で減っているのもあるが、こいつを装備するための最大MPの減少量も多い。

 これだと、使えてギリギリ二発。これまで《 ナンバーアンカー 》、《 マテリアライズ 》と消費MPが少ないものばかり使っていたが、急激にMPを使うとこんな事になるのか。

 とはいえ、かなり強力な武器になるのは間違いない。暴発したら俺も黒焦げになりそうだから、そこは注意だ。


「久々の当たりガチャだったな。一気に装備が充実した」


 ゾーンが足りないのでどうしても取捨選択が必要になるが、モノがないよりは遥かにいい。


「< ジャズ >が残っているぞ」

「それも試しておくか」


 排出された中ではそこまで有用じゃないっぽい< ジャズ >だが、名前だけで大体効果の予想は付く。新カテゴリではあるものの、これほど分かり易いものもない。

 一時的にベースゾーンに空きを作って< ジャズ >をセットすると、どこからともなくBGMが流れてきた。店内放送のような感じだ。流れる曲はランダムのようで、ジャズに限定されてはいるものの飽きのこない仕様になっているらしい。また、BGMが流れるのはメインの拠点のみ、< スモールルーム >で流したい場合はそちらの空きゾーンにセットする必要があるらしい。


「なるほど……アリだな」


 リョーマ的には気に入ったらしい。俺が出かける時にゾーンに空きがあったらセットしていってもいいだろう。


「サックスでも手に入れたら練習してみるか?」

「御主人様が無茶を言う」


 トリプルアクセルは無茶ではないのだろうか。




-3-




< ヒールポーション >

 レアリティ:アンコモン

 強化値:★

 分類:ノーマル/アイテム/医薬品

 効果:服用する事でHPが即座に回復。ある程度の外傷も治癒する。

 追加特性:回復量UP

 解説:HP回復効果を凝縮した飲み薬。薬草などに比べて即効性が高く、瞬時にHPを回復する。服用後、僅かな自己回復効果が継続。


< ハルバード+ >

 レアリティ:アンコモン

 強化値:★

 分類:イクイップ/ウエポン/斧槍

 攻撃属性:殴打+/斬撃+/刺突+

 耐久:100%

 付与能力:強化+

 解説:中世ヨーロッパで使われた長柄武器の一種。斧と槍が取り付けられた形状で、複数の用途に合わせた戦いに使用できるが、十全に使い熟すには専用の訓練が必要。


< 鎖帷子 >

 レアリティ:コモン

 強化値:-

 分類:イクイップ/アーマー/帷子

 防御属性:斬撃

 耐久:100%

 付与能力:-

 解説:衣服の下に着用する防具の一種。鎖を組み合わせた形状で、補助的な防御能力を提供する。この鎖帷子は初期タイプであり、個々のリングはかなり大きい。



< ランスチャージ >

 レアリティ:コモン

 強化値:-

 分類:スキル/アクション/槍技

 対象・効果範囲:前方

 発動条件・制限:任意

 解説:刺突武器を構え、前方に突進するスキル。騎乗時でも使用可能。


< パワースラッシュ >

 レアリティ:アンコモン

 強化値:☆

 分類:スキル/アクション/剣技

 対象・効果範囲:前方単体

 発動条件・制限:任意

 解説:多くの斬撃軌道に対応した汎用的な剣技。発動前の溜め時間や発動後の硬直時間が短く、入門用として扱い易い。



< ファイアボールの魔導書 >

 レアリティ:アンコモン

 強化値:☆

 分類:イクイップ/サブウエポン/魔導書

 攻撃属性:殴打+

 耐久:100%

 付与能力:《 ファイアボール 》

 解説:《 ファイアボール 》の効果が付与された魔導書。持ち主の意志に従い、前方に火球を放つ。

 魔導書が持つ発動補助効果により安定したスキル発動を可能とするが、反面、柔軟性・拡張性に乏しく、消費MPも割増。



 武器が手に入ったからといって、完熟訓練もなしに吶喊するほど俺は無謀ではない。

 いつものように第二層で狩りをしつつ、新しい得物である< ハルバード+ >と< ファイアボールの魔導書 >の訓練を行っていた。

 < ハルバード+ >のほうは、長柄の鈍器としてならある程度使える手応えがある。殴打と払いに関しては十分戦力といっていいだろう。ただ、肝心の斧や槍の部分は、武器本体の重量もあって正直安定しない。槍や長柄斧を使った経験のない俺が言うのもなんだが、これは本当に実用されていた武器なんだろうか。まともな膂力じゃ振り回されるだけだと思うんだが。

 ちなみに、< ハルバード >ではなく< ハルバード+ >である。すでに< 強化+ >で合成済だ。

 < ファイアボールの魔導書 >の訓練についてはなかなか上手くいかない。発動可能な回数が限られているせいで慣れる事ができないのもあるが、発動直後の脱力感を考慮すると戦闘中の使用はかなり厳しいと言わざるを得ない。なんというか、戦闘中にも関わらず精神的に萎えるのだ。こちらが魔法で精神ダメージを喰らっているような気分になる。

 これが慣れれば安定するものなのか、MPの上限を増やせば気にならなくなるのかは分からないが、とりあえずディディー復活の儀では最初に牽制として一発撃って終了になるだろう。二発目は正直戦力として換算できない。

 ただし、威力のほうはかなり絶大だ。射程は最大で30メートル前後、弾速はボールを投げる程度、着弾部分から爆発するように広がって炎上する。とりあえずテストで撃ったでかいゴブリンは一発で消し炭になった。間違いなく、現時点での最高火力だろう。武器攻撃でこれを超えられるダメージを出せる気がしない。


 また、ちゃんとした武器を手に入れた事で《 パワースラッシュ 》などのスキルも試す事ができた。どうやら< ハルバード >は槍扱いでもあるためか、直近で手に入れた《 ランスチャージ 》も発動可能らしい。

 しかし、効果のほうはちょっと芳しくない。


「なんで体が勝手に動くんだよ」


 発声したり強く念じたりする事でスキルの発動はできたのだが、自分の意志とは裏腹に体が自動的にスキルを再現してしまうのだ。《 ABパンチ 》なら拳打に合わせて発動するだけだったのに。

 《 パワースラッシュ 》であればそこから繰り出せる斬撃に引っ張られる程度だが、《 ランスチャージ 》に至っては前方長距離に向かって突進してしまう。絶対に駄目とは言わないが、ちょっとコレを実戦で使用するには隙が大き過ぎる。

 威力は上乗せされている気がするものの、スキル枠を一つ埋めてまで使用する気にはなれなかった。ただの産廃とは思えないので、なんらか使い方はあるのだろうが、一朝一夕でどうにかなる気がしない。

 今のところ、汎用枠に< 闘争心 >、アクション枠に< マテリアライズ >が安定だろうか。加えて< ナンバーアンカー >くらいしか使い熟せていない気がする。枠が少ないから選択肢もないわけだが。

 ……< ゴブリンの蛮族棒 >がなくなった今、< 闘争心 >は重要なんだよな。シラフはまだまだ厳しい。



 そうして、とうとうディディー復活の儀に挑む時が来た。道中、一匹だけいたゴブリンはハルバードで薙ぎ払い、消耗すらなしに例の隠しアジトまで辿り着く。

 意味はないだろうが、フリーゾーンには少しでも使えそうなカードを詰めてきているので、万が一の長期戦にも耐え得る仕様だ。

 装備は残念ながらファウルカップ以外の防具はなし、ハルバードと魔導書を優先した。やっぱりイクイップ枠が少な過ぎる。



 まずは入り口に詰めているゴブリン・ガーディアンの処理だが、無策に突っ込むような事はせずに、まず誘き出してみる事にした。隠し壁の外側まで引っ張ってこれれば多少は戦い易い。

 かといって顔を出してこちらを認識させた場合、中にいる連中も一緒に引っ張ってしまう可能性が上がるだろう。なので、< ゴブリンの心臓 >をマテリアライズして通路に放り投げる作戦を採用する。

 アホなゴブリンだからか、二体のゴブリン・ガーディアンは心臓に注意を引かれ、持ち場を離れた。確かに突然目の前に臓器が放られたら気になるだろう。

 しかし、隠し壁を抜けて外まで出てくる事はなかった。奴らが注意深いとかではなく、単に通路が一つの部屋扱いになっていて移動できないらしい。実は、こうしている間もガーディアンは隠し壁の向こう側で首を傾げている。

 仕方ないので、そのまま壁を通して突く事にした。壁の向こうで悲鳴が上がるものの、安全地帯からの攻撃に対処はできないらしく、何度か突いている内に絶命した。

 用心を重ねて無駄に突きを繰り返した後、慎重に中を覗き込むとカードが二枚落ちていた。


「慎重になるのがアホらしくなるくらい馬鹿だな」


 せめて増援を呼べよという話なのだが、奴らの視点から見たら摩訶不思議な現象が起きているように見えるのかもしれない。

 ともあれ、さして労力もかけずに門番を処理できた事は大きい。俺はカードを回収して奥へと進む事にした。



 狭い通路を進み、ガーディアンたちがいた広場入口までやってきた。入り口付近に他の番兵はいないのでこっそり中を伺う。実は結構見通しが良く隠れる場所もないので、いつ見つかるかという感じなのだが、中の奴らは誰も気付かない。番兵が処理されているのに危機感のない連中である。

 広場はちょっとしたホール程度の広さで、天井は結構高い。中央部に祭壇のようなものがあって、その周囲には肉のプール。それを囲むように、ゴブリン・シャーマンが五体と、ゴブリン・ガーディアンが四体が確認できた。あと、拘束具で身動きとれなくなっている生け贄ゴブリンが十体くらい檻に入れられて吊るされている。祭壇に安置されているゴブリンの死体はディディーなのだろうか。倒したら消滅するはずなのに何故死体があるのかは謎だ。

 ……よし、行くか。あんな劇物を復活させようとしている連中にお仕置きだ。


「おぉおらっ!!」


 まずはゴブリンが密集している場所にファイアボールを放つ。その瞬間、ようやく気付いたのかこちらに視線を向けるゴブリンたち。その姿が炎に包まれた。炎が燃え盛る轟音に合わせて、ゴブリンたちの悲鳴が上がる。

 ファイアボールの範囲に肉のプールが含まれていたのか、腐った肉が焼けるような臭いが室内に充満した。


「くさっ!?」


 踏み込んだ時点でかなり臭かったのだが、ファイアボールのせいでガス兵器の使用を疑うような臭いが充満した。作戦を中断しようか迷うほどである。

 しかし、幸か不幸かその臭いでファイアボールの脱力感を誤魔化す事ができた。俺はハルバードを構え、迎撃に動き出したゴブリンたちと対峙する。

 こちらに向かっているのはガーディアンが二体。しかし、ファイアボールの成果が確認できない。死んでればいいが、油断はできない。


 真正直に突き出された槍を半身で躱し、お返しとばかりにハルバードを遠心力と重量に任せて一閃。小柄なゴブリンだからか、そのまま吹っ飛んだが、手応えが硬い。仕留められていないだろう。

 その結果を確認する前にもう一体のガーディアンが突っ込んできた。槍を突くのではなく振りかぶったガーディアンに対し、俺は最短距離でハルバードを突き込み、引き戻す。よし、こっちは手応え十分。おそらく仕留めた。


 続いて戦果の確認。ファイアボールはまだ燃え盛っている。何体かシャーマンが倒れているのは確認できるが、立ったままの影も見えた。

 最初に薙ぎ払ったガーディアンが立ち上がる。距離的に最も近いこいつにトドメを刺すべく踏み込む。


「っ!?」


 直後、それを阻むように何かが飛来し、爆発、炎上した。俺のものよりも遥かに小さいが、おそらく《 ファイアボール 》。それが数発。何発かは立ち上がろうとしていたガーディアンに直撃し、そのままトドメとなった。


「同士討ちしてんじゃねーよ!!」


 最初の炎が晴れ、視界が確保された先では何体かのシャーマンがこちらに向かってギャギャギャと騒いでいる。一体、二体……くそ、地面に倒れているシャーマンの数が合わない。どこに行った!?


「うおっ!?」


 今度は認識外からの射撃。いつの間にか移動していたらしきゴブリンシャーマンの《 ファイアボール 》だ。直撃は避けたものの、わずかに体勢を崩された。

 追い打ちをかけるように、再度《 ファイアボール 》が飛んでくる。くっそ、これだから遠距離攻撃は……。

 数発の内、左腕に一発直撃をもらってしまった。ゴブリンのものとは違う肉の焦げる臭いが鼻につく。動かせないほどではないが、何度も喰らうわけにはいかない。

 余裕があるわけではないが、咄嗟にステータスを開き、瞬時に確認、ウインドウを閉じる。肉体への直接ダメージはあったものの、HPがゼロになったわけではない。HPの壁を完全に抜いてきたわけではなく、何割かがダメージになったって事か。


 距離を詰めるために駆ける。遠距離攻撃持ち相手に離れたままでいるのは自殺行為だ。

 幸い、クールタイムか何かがあるのか《 ファイアボール 》が飛んでくるのは散発的だった。予測のし易いそれを大きく躱しつつ、シャーマンたちへ肉薄する。


「うおらっ!!」


 逃げようとするシャーマンの脳天に向けて振り下ろし。頭蓋の砕ける感触で、仕留めた事を確信する。あと二匹。

 そのまま比較的近場にいたシャーマンに接近。《 ファイアボール 》の準備をしている動作に割り込むように蹴り飛ばし、そのまま倒れたシャーマンにハルバードを突き刺した。あと一匹。


 最後の一匹の位置を確認しようとしたところ、大量のゴブリンの鳴き声が響いた。

 増援か何かと思ったが、その声は檻に入れられた生け贄ゴブリンたちのものだと気付いた。なんか暴れてると思ったら、檻を吊るしているロープが複数本千切れている。良く見れば、別の場所から最後のシャーマンが《 ファイアボール 》で狙っているのが見えた。まさか、あの檻を落とすつもりなのか。……なんのために?


 その瞬間、嫌な予感が全身を走り抜けた。

 この儀式の仕組みがどんなものかは知らない。しかし、進捗度が示されている以上、なんらかの手順があるわけで、生け贄ゴブリンはそのために用意されているもののはずだ。

 それを肉のプールに落とすという事は、無理やり儀式を進行させようとしているのかもしれない。それが正しい手段なら最初からやっているだろうが、リスクはあっても強引に事を運べるのだとしたら。


 全力で最後のシャーマンの元へ駆ける。

 その勢いのまま、杖を掲げたシャーマンへハルバードを叩きつけた。


「くそっ!!」


 しかし、攻撃が成立する直前に杖から放たれた《 ファイアボール 》が檻に向かって飛んでいく。それは吊るしているロープにこそ当たらなかったものの、檻自体に直撃して大きく揺らした。

 生け贄ゴブリンたちの悲鳴が響く。お前らはどうでもいいが、儀式が進行するのは困るんだ。

 無情にも揺れる大質量に耐えきれずロープが千切れ、檻はそのまま落下。肉のプールが大きな飛沫を上げる。超臭い。


「まさか、マジで復活するんじゃあるまいな」


 いつでも復活できるなら、わざわざ進捗度を公開する意味などないし、長々と儀式をやる必要もない。

 肉の波が収まり、場が静かになった。プールの嵩がどれくらいかは分からないが、檻は完全に沈み込んだのか見えなくなっている。

 ひょっとしたら、特に何もなく終わったのだろうか……。道連れが欲しかったとか。

 アナウンスの類はないが、そもそもこれは神様にとってもイレギュラーならなくてもおかしくはない。


 しかし、そんな楽観的な期待を無視するように、次の瞬間、肉のプールが盛り上がり、中から何かが出現した。




-4-




 それは溶けた肉の巨人だった。

 明らかにディディーのサイズではないし、ゴブリンのサイズでもない。記憶があやふやだが、第三層の超でかいゴブリンを思わせる巨体だ。

 儀式は完全とは思えない。しかし、おそらくはなんらかの方法で無理やり進行させ、不完全ながらも"何か"を復活させたのだ。


 肉の巨人がこちらを向き、肉の塊を吐き出した。

 形だけならファイアボールに見えない事もないが、中身は溶けた肉である。それは自身の質量にも耐えきれず、空中で分解し、周囲に散らばった。酸だとか毒というオチはなく、威力も然程ではなさそうだが、とにかく汚い。臭いもあってうんこを吐き出しているのと変わらない。

 ビチャリビチャリと飛び散る肉を避けるように逃げ回る。


 どうする。強いかどうかは分からんが、戦うにしてもあんなのに近寄りたくない。《 ファイアボール 》はあと一発撃てるが、精神的な継戦能力は著しく落ちる以上、トドメ以外には使い難い。

 肉の巨人が足元の肉のスープから何かを拾い上げた。その形状は大きさこそ違うものの、見覚えのあるものだ。


「……ナッツクラッシャーだと」


 肉に塗れた鈍器は、忌まわしき呪いの武器のそれに酷似している。

 つまり、原型は留めていないものの、あの肉の巨人はあくまでディディーであるという事なのか。


 肉の巨人がナッツクラッシャーもどきを振り下ろし、地面に叩きつけた。

 威嚇攻撃なのか、単に暴れただけなのか、自身の得物に臭い肉がついてるのが耐えられなかったのか。理由は分からないが、その一撃は周囲の地面を振動させるほどに強烈な力が込められていた。とても金玉を破壊するために使う力ではない。


「ウボァアアアッッ!!」


 妙な雄叫びを上げつつ、肉の巨人が動き出す。その動作は緩慢だが力強く、なんか色々犠牲にして強化されているんじゃないかと思わせるものだった。正直、あまり正面から相手をしたくない。

 目標は明らかに俺だ。おそらくは、この場で唯一金玉を持つ俺を狙っているっ!?


「くっ!!」


 一瞬、逃走を考えたがまだ早い。まだ、俺にはできる事がある!!

 即座にウインドウを開き、モンスター名鑑を選択。そこに新たな名前がある事を確認した。アレがあるディディーかそうでないかで勝機が変わってくる。


 < 早過ぎたディディー >


「よしっ!」


 早過ぎて腐ってやがるらしいが、どうやらディディーではあるらしい。それならば、用意していたアイテムが役に立つかもしれない。

 できれば使いたくなかったが、背に腹は代えられない。


「《 マテリアライズ 》ッッ!!」


 フリーゾーンから取り出した複数枚のカードを物質化し、投げつけた。早過ぎたディディーに対してではなく、適当な方向へだ。

 そして、想定していた通り、早過ぎたディディーは投げたモノの方向へと誘導されるように動き出し、攻撃を始めた。

 そう、俺がマテリアライズし、投げ放ったのは< ゴブリンの睾丸 >だ。奴は、あんな姿になっても睾丸を親の仇とばかりに狙っているのだっ!


「全力だ! 持っていきやがれっ!!」


 魔導書で発動する《 ファイアボール 》は、ある程度軌道や消費MPを操作できる事が分かっている。おそらく他のスキルもそうなのだろうが、意識的にMPを注ぎ込む事で威力を底上げする事ができるのだ。

 俺が火球に費やすのは気絶しないギリギリ。この戦闘中に自然回復した分を含め、限界までMPを注ぎ込むイメージでスキルを発動した。

 これでトドメにならなければ撤退する。放置していいものなのかどうかは分からないが、あの巨体では入り口を抜けてくるのは不可能だ。


「くらえっ!」


 俺が投げた睾丸に夢中になり、完全に無防備な背中へ《 ファイアボール 》を撃つ。

 その途端、立っているのも億劫になるほどの脱力感が襲ってきた。だが、意識を失うほどではない。奴が走りでもしない限りは入り口に逃げ切れるはずだ。


「ウボァオオオーーーーッッ!!」


 着弾に合わせ、弾けるようにディディーを構成していた肉が飛び散る。体躯の三割は削れたのではないかという威力にちょっとドン引きしたが、高威力なのはいい事だと自分を誤魔化した。

 肉の巨人が崩れ落ちる。しかし、それでもまだ動き続けていた。


「……駄目か」


 撤退だ。なんであんな化け物になったか分からんが、手に負える相手じゃない。

 この後に及んで通用するか分からないが、誘導用の< ゴブリンの睾丸 >をマテリアライズし、適当に放り投げる。肉の巨人は直前の大ダメージを与えた俺を無視して飛んでいった金玉に反応した。やはり馬鹿なのか。

 ……その直後だった。


「な……なんだ?」


 唐突に巨人を構成していた肉が崩れ始めた。断末魔のような唸り声を上げ、ディディーだったものが溶解していく。

 そして、肉の大質量はそのまま再び肉の湖へと還った。


「……どういう事だ?」


 状況が飲み込めない。

 これはつまり、早過ぎて正常な状態で復活できなかったから自壊したとかそういう事なのだろうか。不完全であるが故に短時間しか姿を保っていられないなら、デメリットとしては理解できるが。



[ フィールドボス ゴブリン十六魔将第一席 睾丸破壊のディディー撃破! ]

[ 報酬はすでに受け取っています! ]



 アナウンスが流れる。やはり想定外の仕様なのか、実績報酬はすでにもらった扱いのようだ。

 報酬がないのはともかく、倒したという確認の意味ではありがたい。本当に倒したかどうか良く分からん最後だったからな。


 そのアナウンスからわずかに遅れて、儀式場に散らばっていた肉が光りながら消滅していく。後に残ったのは普通の石床で作られた広場だけだ。祭壇すら消えてしまった。

 夢だったのかというほどに痕跡が残っていない。戦いの痕として残る数枚のカードが、体験が現実であった事を示していた。


「……あいつのユニットカードなら、永久封印するんだが」



[ 脅迫観念(睾丸破壊) レア スキル/パッシヴ ]



 拾い上げたディディーのものらしきドロップカードは、間違ってもセットしたくない外れカードだった。








ちなみに、早過ぎたディディーは攻撃しなくても自壊します。(*´∀`*)


追記)サイバー桃太郎は同名作品があるらしいので、デンジャーに変更しました。(*´∀`*)

20XX付いてから別物と言い張れなくもないが。

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
[気になる点] 鎖帷子がガチャ入手時コモン、後の説明時にはアンコモンになってます。強化値を見るにアンコモンが間違いの様子。 [一言] サイバー桃太郎とデンジャー桃太郎では、やはりサイバー桃太郎のほうが…
[一言] ランスチャージは飛ぶんじゃなくて 自分の足で走るんだろうか ゲームだと斜め上に対空攻撃とかできるけど…… ジャンプ中にやったらコケそう
[良い点] 睾丸投げて勝利に導く話なんて恐らくこれまでもこれからもこの作品だけだろうな
2020/02/03 04:30 退会済み
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