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第二十一話「吾輩はペットである。名前はまだない」

いざペットが喋りだしたら、何言われるか分かったもんじゃないと思う。(*´∀`*)




-1-




 可愛い癒やし系ペットを求め、狂ったようなペースでゴブリンを撲殺し、ようやく手に入れたチワワが野太い声で話しかけてきた。

 思わず幻聴を疑うような展開である。



「な、名前?」

「うむ」


 うむ、じゃねーよ。

 どうしよう、喋ってる意味は分かるが、何故喋っているのかが分からない。なんでそんな無駄にダンディな声と口調なんだよ。声だけ聞いたら歴戦の兵士か何かと勘違いするぞ。

 とりあえずなんで喋っているのかを確認したいのだが、先に要求されている以上、それを無視するのは印象悪いだろう。ペットとの間柄にそんなもん気にしてもしょうがないだろうが、ここは無難に対応したい。

 実際、名前は必要だ。しかし、何が当たるかなんて分からないんだから、名前なんて候補すら考えていなかった。えーと、チワワ、チワワ……犬か。


「ぽ、ポチとか?」

「名前を所望する」


 気に入らなかったらしい。ノータイムでなかった事にされてしまった。選択肢に無限ループ設定されたNPCが如く、妥協を許さない構えだ。


「えーと、全然考えてなかったからちょっと時間をくれ。……一応聞くが、オスだよな?」

「うむ。見ての通りオスだ」


 声で判断しているだけで、見た目じゃ分からん。そもそも、チワワがオスとメスで並んだとしても見分けられる自信はなかった。

 犬ってどんな名前がいいんだろうか。ペット飼った事ないから、ポチとかハチとかシロとかそういうありきたりな名前しか出てこない。


「なんか要望はあるのか? 実は候補があるとか、洋風な名前がいいとか」


 普通ならペットに名前の希望を聞くなど有り得ないが、喋れるなら聞いたっていいだろう。


「できれば没個性的なのは避けたいが、よほどでなければ気にしない。格好良い名前がいいな」

「分からんでもないが……ポチはよほどって事なのか」

「主従関係無視しても、素直に嫌だと断言する」


 人間なら太郎とか一郎並みに没個性な名前だからな。ただポチという名前だけ聞けば、普通の日本人なら犬を連想するくらいに。

 しかし、ペット飼ってる知り合いもいなかったし、参考になるような例がない。

 参考にするだけなら犬の名前に拘る必要はないが、いざとなるとパッと浮かぶ名前はあまりない。ここで死んだ後輩の名前付けるのは不謹慎に過ぎるし……あとは十六魔将と九十九姉妹、あとはABマン……。何の略かも分からないABマンやイメージの悪過ぎる十六魔将は却下するとして、九十九は……花か。名前の方向性としてはアリかもしれないが、間違ってもこいつに可愛らしい名前は付けたくない。十二人の内二人しか聞いてないから、後で被ってても嫌だし。

 一匹だから統一性は考える必要はないが、何かから連想できる言葉というのがいいのかもしれない。しかし、風貌から連想するのは難しい。どう見ても見た目は普通のチワワである。ペットショップを巡ればどこにでもいそうな風貌だ。どうしよう、チクワとかしか浮かんでこない。


「じゃあ、リョーマとか」


 少し考えて、連想が行き着いたのは俺自身だった。


「何か意味はあるのかね?」

「俺が弥太郎だからな。元々岩崎弥太郎に肖って付けられたわけだから」

「坂本龍馬か。……悪くない。よし、私はこれからリョーマだ」


 犬の癖に、妙に博識である。こいつに坂本龍馬のような活躍を求めているわけではないが、俺にしても似たようなもんだから問題はないだろう。暗殺されても困るし。


「それでリョーマよ、まず聞きたいんだが、なんで喋れるの?」

「犬が喋ったらいけないのかね」

「あかんやろ」


 ペットと意思疎通したい飼い主さんはたくさんいるだろうが、実際に喋りだしたらウザい事この上ないと思われる。ましてやエサや待遇にダメ出しされたり、去勢して恨み事を聞かされたりすれば、一気に飼う気はなくなる。

 こいつに今更喋るなとは言わんが。


「どうもスキルで強化されているらしい。私のレアリティはアンコモンで強化スロットは1だが、その1枠を費やしているという事だろう」


 そういうスキルがあるって事か。鑑定すれば結果に出てくるって事なのかね。……こいつ、俺よりもシステムに詳しいんじゃないのか。


「何故そんな知識を持ってるんだ? まさか、カードで出てくるペットはみんなそんな感じとか」

「我々は基本的にガチャのシステムによって創り出される。言語能力に付随している部分が大きいようだが、知識は最低限のものを除けばランダムで与えられるらしい」


 みんながみんなこんな感じではないと。……めっちゃ喋るミジンコとか嫌だし、そのほうがいい。いや、可能性としてはそういうのも存在するって事なんだが。


「ちなみに、お手や伏せなどの芸は必須で仕込まれている」

「それが必須なのか……」


 こんだけ頭良いならわざわざ仕込まんでもできそうなもんだが、ガチャシステム的にはそれがペットとしての基本という事なのだろう。


「火の輪くぐりやトリプルアクセルも得意だ」

「げ……い?」


 どこの世界にトリプルアクセルを得意とするペットがいるというのか。スケートくらいならできるヤツもいるだろうが。


「とはいえ、実際に与えられる知識は千差万別だ。システムの基本的な部分やこのシステムの根拠地である現代日本での常識、あとは呼び出した者の持つ知識に由来する情報からランダムに、というわけだ。顕現した時点での情報公開レベルにも依存しているらしい」

「俺基準って事は、一般的な日本の成人男性と似たような知識は持っていると」

「あくまで最大値でだが、その認識で問題ない。もちろん抜けや偏りはあるが、私の場合は明治維新も大雑把には理解しているというわけだ」


 まあ、坂本龍馬は日本では有名だしな。一般的な知識を持っているのなら、知っていてもおかしくはないという事か。むしろ岩崎弥太郎のほうが知名度は低いだろう。

 自己紹介して反応するのも大抵おっさんばかりで、新卒の社員とかだとおっさん臭いとか言われるのだ。それでもガチャ太郎呼ばわりよりはマシだが。


「って事は、アドバイザー的な役割はできないと?」

「あくまでペットだからな。補助的な言動や忠言程度ならできるだろうが、そういった役割はアシスタントや一部の特殊なユニットに任せるべきだろう」

「アシスタント?」

「ユニットカードの種別だ。ユニットカテゴリーの中に、アシスタントというカードが存在する。彼ら……彼女らかもしれんが、アシスタントは権限に応じて情報を得る能力や検索する能力を素で保有しているのだ。そういう存在なら、ご主人様の知見を超えて情報提供ができるやも知れん」

「ほう……」


 そんなカードがあるのか。というか、神様のスタンス……性格のせいで、未だ手探り状態なのだから、こいつの持ってる知識だけでも十分に有用そうだ。

 問題は……せっかく手に入れたペットなのに、あまり可愛くないという事だろう。なんでそんなダンディな知識人っぽいキャラしてるんだよ。今でもハッハッしながら尻尾振る様は可愛いとは思うのだが、外見と中身が乖離し過ぎである。こうして目の前に現れると実感するが、理知的に話すペットというのは癒やされない。人間の幼児くらいならまだしも、同年代かそれ以上……口調や声質を考えれば上司と話しているような感覚まで覚えてしまう。こんなのを相手に抱きかかえて一心不乱に撫でるような真似はしたくない。


「なんだ、この愛らしい体を撫でたいというのなら吝かではないぞ。毛並みには自信がある」

「…………」


 そんな事を考えながら、目の前の不可思議生物をジッと見つめていたら、半分くらい思考を読み取ったような反応を示された。

 ……実に撫でたくなくなる存在である。今更黙ってペットのフリをされても定着したイメージは変わらないし、話し相手ができた程度の認識でいいのかもしれない。




-2-




「まあ、いいか。……お前、飯とか生活習慣とかどうなってんの? チワワと一緒?」


 一応ペットフードは大量にあるんだが、体質的に摂取したらまずいものもありそうだ。


「言いたい事は分かるが、私もチワワに違いはないのだが」

「お前をチワワと認めたくない」

「そんな事を言われてもな。私に限らないが、ご主人様と同じで最悪食べなくても死にはしない」

「……え、ちょっと待って」


 今後の生活スタイルについて話し合おうとしたら、いきなり爆弾発言が飛び出してきた。


「……食べなくても死なない?」

「空腹は覚えるが、餓死したりする事はない。できれば飢えない程度にはエサをもらいたいところだが」

「いや、お前もそうなんだが……俺も?」

「……知らなかったのか」


 聞いてねえよ。また、神様のいつものアレか。


「待て……確か俺は、神様に餓死した場合にどうなるかのも聞いてるぞ」


 確か、餓死する直前の状態で復活するという回答だったはずだ。それで、無限に死に続けるんじゃないかと恐怖を煽られて、食料確保に躍起になった一面もある。


「それはダンジョンの話ではないのかね」

「……確かに、どこでって限定はしてないな」

「あくまでも最低限で、食べなくてもいいという事はないが、拠点内に限れば最低限の生命機能の保証はされているはずだ。そして、我々ペットは基本的に拠点内でしか活動できない」

「なるほど。とりあえず分かった。一応、お前を当てる前に大量のペットフードを手に入れてるから、しばらくはコレ食ってくれ」


 そして死蔵していた< 自動給餌器 >と< ペットフード >をマテリアライズし、早速使ってみようと思ったのだが。


「御主人様、ここは電気が使えるのかね?」

「……ない」


 良く見れば、< 自動給餌器 >は要電源タイプだった。一応乾電池でも動くようになっているようだが、福袋に入っていた単3電池は使えない。これではただの容器だ。


「まあ、適当に何かの容器にでも入れておいてもらえれば、問題はないが」

「お前ならそうだろうな」


 極めて遺憾ではあるが、リョーマならこの手の世話は一切必要としないのは容易に想像がつく。物理的な問題……たとえば犬の前足ではモノがつかめないとかそういう問題を抜きにすれば、放っておいても問題ないくらいだ。幸い、< 自動給餌器 >に付属していた給水器のほうは無電源でも使えそうなので、自動でない給餌器として活用する事になった。


「トイレは……すまんが< 屋内用簡易農園 >にしてくれ。ペット用のトイレはまだ手に入ってないんだ」


 後付けのシャワートイレはあるのだが、本体も電気もないので宝の持ち腐れ状態である。

 とはいえ、普通のトイレがあってもリョーマに使わせるかどうかは微妙なところだ。使えない事はないんだろうが、便器の中に落ちてしまうかもしれない。


「仕方ないと思うが、御主人様はどうしているのだ」

「俺も同じだ」

「……そうか」


 そんな憐れむような目で見ないで。

 ベースゾーンの枠は極端に少ない上に< かんてい >がほぼ常駐している事から、< 水飲み場 >を撤去、スモールルームの中にトイレ……< 屋内用簡易農園 >を常設する事にした。

 こうすれば、一応プライベートゾーンを確保できるし、水が足りなくなれば< かんてい >と< 水飲み場 >を一時的に切り替えて飲用水を個別に保管するという手も使える。幸いペットボトルはあるのだ。


「となると、寝床はこの床に直でという事になりそうだが」

「お前のサイズなら、一応玄関マットがあるが……そういえば、前に何か出てたな」


 ムキになって周回していたからスルーしていたが、詳細を調べていないカードの中に気になるものがあった。< 畳床 >である。どんな形で反映されるか分からんが、畳なら石よりは寝床に使い易いだろう。未知のカードカテゴリーだから、できれば鑑定したいところだが……。


「お前、リフォームカードってどんな仕様か知ってる?」

「確か、壁や床を一括変更するためのものだったと思うが」

「なら、鑑定後回しにして使ってみるか」


 枠に余裕のないベースカードな以上、これが有用でも使い道に困ってしまうのだが、とりあえずという事で< かんてい >の代わりに< 畳床 >をセットしてみた。


「お……おおおおおーー!」


 セットした瞬間、石造りだった部屋の床すべてが畳に置き換わった。触れてみても、良く知っている畳と遜色ない。

 床の上に畳が敷き詰められたのではなく、床そのものが畳に変わったのか、部屋の全高にも差はないようだ。


「やべえ、畳最高なんだけど」


 ただの石畳に比べたら大抵のものは良く感じるだろうが、日本人の魂が訴えかけてくる。単純に寝転がっているだけでも、異様に癒やされるのだ。


「難儀な話だな。これなら寝るのにも過不足ないが、枠が足りない」

「……だな」


 布団があれば尚いいが、これならザコ寝でも十分快適だろう。しかし、リョーマが言うようにベースゾーンの枠が足りない。

 出来れば常時畳にしておきたいくらいなのに、利便性を考えればどうしても二の次になってしまう。トイレも水も常時必要なものではないが、それなりに入れ替えが必要になるし、< かんてい >に至ってはセットしないと鑑定処理やクールタイムが進まない。無理ではないが面倒臭い。


「お前、実はベースゾーンの枠増やす方法とか知ってたりしないか?」

「最初に言ったように、私はただのペットだ。アシスタントならいい助言ができるかもしれんが、知らん事を提案はできない」


 そりゃそうだ。俺もなんとなく聞いてみただけだし。畳に寝っ転がりながら会話していると、妙に眠くなってきた。しばらくダンジョン行きたくない。

 ……いかんな。どうにかしてこれを常時セットできる環境を作りたい。水汲んだりトイレ行ったりするのにいちいちカードを変更しないで済むように。


「一応、ベースゾーンが増える実績は開放されてるんだがな」

「それを狙うというのは駄目なのか?」

「無理じゃないが……」


 現在、条件が公開されている実績リストの中でベースゾーン枠がボーナスとして提示されている実績は一つ。モンスターハウスのモンスター全滅だけだ。

 モンスターハウスを見つけるところから始めないといけないのなら運任せで遭遇を待つしかないわけだが、大凡でも位置が判明しているモンスターハウスがある。以前、俺が二重の落とし穴で落ちた先にあった第四層のモンスターハウスだ。確実ではないが、再構成される前なら位置は変わってないんじゃないだろうか。

 問題はそこに辿り着く事ができるかどうかと、辿り着けてもあの物量を全滅させる事ができるのかどうか。あの時は状況も良く分からず混乱していた上に落とし穴の落下ダメージで瀕死だったが、今現在ならばどうだろうか。

 ローグライクでのモンスターハウスの基本的な対処方法は通路に逃げ込んでの一対一を繰り返す事だ。ゲームのように一マス通路を陣取れないリアルダンジョンでそれをやるのは不可能に近いが、閉所を利用して相手を限定するなどの近い事はできる。

 ただし、それも第四層の敵が通路に出てくればという前提だ。少なくとも第二層までのモンスターは部屋から出てこない。部屋の外から遠距離攻撃できるなら、また話は変わってくるんだが……。


「ああ一応あるな、遠距離攻撃」


 < ロングボウ >と< AK-47 >、時代は違えど活躍した遠距離武器二つが手元にある。これらなら、通路からチクチク中のモンスターを狩れるだろう。ただし、使えるなら。

 矢弾がカードに含まれるかどうかも含め、実際に使えるかは検証の必要がある。


「矢や銃弾はサブウエポン扱いだぞ」

「…………」


 しかし、速攻でリョーマからツッコミが入った。つまりこれらは現時点で無用の長物というわけだ。鈍器としては使えるかもしれないが、それなら棍棒でいい。

 一応試しにという事で拠点前通路でのテストはやってみるが、言われた通り矢も弾もない。

 ……これが、AK-47の実物新品か。銃剣が付いてるから多分III型だと思うが、派生型かもしれないし自信はない。弾はなくともこの銃剣で戦えない事もないが……普通の剣以上に技能を要求されそうだ。銃剣術なんて武術が存在する以上、素人が簡単に扱えるものとも思えない。


「気に入ったのかね?」


 AKを持って構えたり、撃つ真似をしてみたりしていたら、拠点内からリョーマが声をかけてきた。

 振り返りざまにジェスチャーで撃つ真似をしたら、撃たれた真似をしてくれるあたり、こいつもノリのいいヤツである。


「ガンマニアってほどじゃないが、FPSプレイヤーとしてはやっぱり実銃は気になるんだよな」


 棍棒ばっかり使ってるが、性能的にも趣味的にもやはり銃器を使いたい。もちろん練習は必要だろうが、戦力化は剣や槍よりも容易なはずだ。ゴブリンだって、これを使ってくるならかなりの脅威である。

 とはいえ、弾がないのはどうしようもないし、手に入るとしても消耗品というのは厳しい。あと、銃弾のサイズも分からない。銃器のカタログが欲しくなってくるところだ。


「実は銃弾のカードがあれば使い放題とかだったりしないか? サイズ無視とか」

「すまんが、矢や銃弾がサブウエポン扱いになっているという事しか分からない。盾や鞘などもこのカテゴリーだとか、そういう事は分かるが」


 盾は知っていたが、鞘か。単に持ち歩く分には抜身のままでも問題ないが、何か特殊な効果があったりするんだろうか。居合術とか鞘の存在前提の技術もあるといえばあるが、それだけとは思えない。


 ちなみに、ロングボウのほうは上手く弦も引けなかった。この有様では戦闘行動中につがえて、引いて、狙って、射つというのはかなり現実味がない。動かない的でも当たる気がしない。

 弾の仕様についてはQAに投げる事にして、リョーマの横で悪銭苦闘ししつ文字入力する。リョーマがこれを代行してくれるならいいんだが、犬の前足では厳しいだろう。

 そうして、QAを送信した直後、唐突にインターホンが鳴った。



「サイズ無視の弾丸や弾数が無制限、あるいは自動補充されるカードはありますね。コモンだと規格ごとにバラバラですが」


 ドアを開けば神様がいて、たった今投げた質問の答えを返してきた。




-3-




「もう少し早く来てくれれば、あのクソ面倒な入力をしなくてすんだんですが」

「いや、因果関係が逆です。投稿があったから不在でないと確信して訪問したわけでして。昨日何回か来てたんですが、ずっと不在でしたよね?」

「あー……」


 一昨日は入場制限を受けて引き籠もってたが、昨日は無茶なペースでダンジョンを往復していたからタイミングが合わなかったのだろう。


「ひょっとして、< 負け犬 >の引取りですか?」

「はい。……ん? あれ、< 負け犬 >ってゴブリンじゃありませんでしたっけ? チワワに見えるんですが」


 俺の後ろにリョーマがいるのが見えたのか、変な勘違いを始めた。


「それはチワワです」

「いや、見れば分かりますけど」

「そうではなく、負け犬とは別に引き当てたペットです」

「……おおー、使徒さんはなんだかんだでペット当たらないんじゃないかと予想してたので、頭から抜けてました」


 どういう意味だ、おい。確かに虫ばっかりだったし、数打ちゃ当たる的な当て方ではあったが。


「おーおー、ワンちゃんは可愛いですねー」


 唐突にそんな口調になった神様が、リョーマに近寄って頭を撫で始めた。

 ……おかしいな。リョーマのヤツ、なんで黙ったままなんだ。チワワの癖に猫被っているという可能性も考えたが、それにしては様子がおかしい。


「私はどっちかといえば猫派なんですが、こういう犬も……おわっ!? な、何事!?」


 大人しく撫でられるままだったリョーマが唐突に震えだし……真新しい畳に巨大な染みを作り始めた。……っておいっ! なんでこいつ漏らしてんだよっ!!


「お、おいっリョーマ!! 何してんだ!」


 せっかくの畳がえらい事に……。


「そ、そ、創造主様におかれましては大変ご機嫌麗しゅう……」

「喋った……」

「しかし、私のような矮小な存在などお気になさらず、路傍の石とでも思って頂ければ……」


 失禁しているのにも拘らず、広がった尿溜まりの上で唐突に土下座を始めるリョーマ。そのダンディボイスと裏腹に一切のプライドを投げ捨てた姿が俺を混乱させる。

 なんだ、何が起きてるんだ?


「あの、使徒さん……この子あんまり可愛くないです」

「可愛くないのは分かってますけど……、これは一体。リョーマ、とりあえず隣の部屋に行ってろ」

「は、はい」


 そう言うと、リョーマはよたよたとした足取りでスモールルームに移動した。いつでもトイレを使えるようにと半開きにしていたドアの隙間から、こちらを窺うように覗いている。

 いや、覗くなよ。何が怖いのか分からんが、そのまま隠れてろ。


「あーもう、マジか……せっかくの癒やし空間が……拭いても匂いとれなそうなんだけど」


 ペットの糞の後始末は飼い主の仕事とはいえ、いきなり畳にぶちまけられるとは……。下手したら廃棄も考えないといけない。


「リフォームカードなら、セットし直せば元に戻りますけど」


 え、本当に?

 半身半疑でウインドウを開き、言われた通りカードをセットし直してみれば、そこには何事もなかったように真新しい畳が。アンモニア臭も……残り香くらいしかしない。生まれたばかりの乳児のようなものなのか、尿自体大した臭いではなかったから、結果的には問題はなさそうだ。


「良かった……また石床の生活に戻るのかと。しかし、なんであいついきなり粗相を……」

「私の神格を感じ取ってしまったんでしょうね。普通の動物なら従順になるくらいですが、喋れるくらい知能があると誤魔化せないのかもしれません」


 なんか神様が変な事を言い出した。これが単なる自画自賛なら痛い人だが、仮にも神様なのだから冗談でないのかもしれない。

 見た目にそぐわない、信用してはいけない類のオーラは感じるのだが。


「俺は特に何も感じてないんですが。……いや、別に神様が神様っぽくないと言いたいわけではないんですが」

「使徒さんは使徒ですからね。存在の格が上がってるので気にならないんでしょう。実は、漏らしはしないまでも、普通の人間ならかなり緊張するらしいです」

「俺、マジで人間辞めてたのか」


 地味にショックである。異様に燃費が良く、猛烈な勢いで発達する筋力、それ以外にも怪しい部分は多々あったが、はっきり言われるとまた違った衝撃を受ける。

 ひょっとして、二号と相対した九十九たちも似たような感じだったのだろうか。あいつは候補だからまた別って可能性はあるが。


「まさか、俺が普通の人間と相対した場合も変なオーラが出てるとか……」

「ちょっとはあるかもしれませんが、せいぜいスターとか偉人程度のものかと。少し目立つ的な?」

「それくらいならまあ……」


 日常生活送れないってほどではないと。どっちかといえば、長所に分類される特徴だろう。戻る気はないが、営業でも役に立ちそうだ。


「じゃあ、あいつには今後インターホンが鳴ったら逃げるように言っておきます」

「その対応は遺憾ですが、仕方ないですねー。それじゃ、居座ってあんまり怯えさせるのもアレなんで、本題のカードを下さい」

「あ、はい」


 提供するのは確定だったので、他のカードと分けていた< 負け犬 >のカードを渡す。相変わらずひどいカードイラストだが、神様は顔色一つ変える事なく受け取った。


「そういえば、情報収集目的ならああいう喋れるペットとかも対象だったり?」

「喋れると楽なのは確かですが、肝心の情報を持っている可能性があるのは……一番分かりやすいのは解説に特殊な背景が見られるようなユニットですかね。あの子の場合は完全にガチャの産物ですから対象外です」


 リョーマに視線を向けたら瞬時に顔を引っ込めたが、どうやら神様的にはおよびでないらしい。


「というと、ゴブリン十六魔将とか?」

「意味不明な存在過ぎて判断に困りますが、多分。手に入ったら引き取りますよー。フィールドボスなんて、一回しか戦えないわけですからレアリティ以上にレアですし奮発します」

「…………」

「あれ? 私、なんか変な事言いました?」

「いや、そうではなく……一回しか戦えない?」

「フロアボスと違って、エリアボスやフィールドボスは一度倒すとそれっきり出てこなくなる仕様なので。……まあ、負ければ再戦って形で二度目はありますが、ドロップチャンス自体は一回です」


 神様は俺が言葉のニュアンス的な部分を気にしていると勘違いしているようだが、気にしているのはそんな細かい部分ではない。


「十六魔将……いや、第一層のフィールドボスで睾丸破壊のディディーってヤツがいたんですが」

「はい。前に見せてもらいましたね」

「今、そいつが復活しようとしているんですが」

「…………すいません。使徒さんが何を言ってるのか、ちょっと分からないんですが。その言い方だと再遭遇したとかじゃないですよね?」

「これ見てもらえますかね?」


 ウインドウを開き、ダンジョンニュースのバナーから一覧を開く。


「ダンジョンニュース機能……ああ、システムチケットで開放されたんですか……ふむふむ……???」


 ニュースを順番に読んでいたらしい神様だったが、途中でその動きが止まった。


「あの……復活の儀式ってなんですか?」

「いや、俺が聞きたいんですけど。ひょっとして仕様上想定していないイベントだったり」

「私が設定したものじゃないです。仕様上というなら、八層のトイレに籠もってるのもそうですが、こんな情報がなんでニュースとして表示されるのかも分かりません……バグ?」


 あまりに自然に表示されていたんで疑いもしなかったが、バグって線は有り得るのか。


「……なるほど。これならドロップチャンスは最低でもあと一回は存在する……ひょっとしたらそれ以上」

「この分だと、他のヤツも儀式で復活しそうな気がするんですよね」

「ラッキーですね」

「ラッキーじゃねえよ」


 レアカードを手に入れるチャンス以上に、こんな面倒臭くて怖い連中、再会したくねえんだよ。


「いくら弱くても執拗に睾丸だけを狙い続けてくるヤツとか、怖くて仕方ないわ。しかも、それが強化されるとか……」

「その恐怖は分かりませんが、事実として復活しようとしているのは変わらないですし」

「いやまあ、そうなんですが」


 システム的に想定外な事態だとしても、事実は変わらない。


「誤報って可能性はないですかね?」

「うーん……これ自体が想定外なんでなんとも……でも、はっきり表示されている以上は実際に起きてるって思ったほうが」


 誤報だって決めつけて、ある日突然睾丸を襲撃される羽目になったら目も当てられない。特に、こいつらはいつ遭遇するか分からないのだ。

 ボス部屋に隠れてたりするんだから、先に発見されてアンブッシュされたりする可能性だって十分にある。


「ひょっとして、復活させてドロップさせたほうが神様的には助かったりとか」

「俄然興味は湧いてきたので、嬉しいのは嬉しいですけど、その判断は使徒さんに任せます。引き取る場合の報酬も上乗せしましょう」


 また判断に困る事を……。俺としては復活前に儀式を止めるので確定していたんだが。いや、復活した瞬間にトドメを刺せるならそれでも……。しかし、そんなに上手くいくわきゃないのである。


「そういえば、< 負け犬 >の報酬はどうしますか? カードのレアリティに合わせて、シルバーチケットかブロンズチケット十枚を想定してたんですが。ちなみに、十枚貯める気がないならブロンズの十枚のほうがお得です」


 そりゃどっちでもレア一枚は確定だからな。九枚余計に引ける分ブロンズのほうがお得だろう。十枚集める気ならまた話は変わってくるわけだが。


「他にも選択肢が?」

「選択肢というか、希望があれば聞きます。この前話した実家に帰る云々は五層の報酬にしたから駄目ですけど」


 それについては選択する気はなかったからいい。まだ、家族に対してどう説明するかも決めてないし。


「他のチケットでも? ペットチケットとか、システムチケットとか」

「レアリティの調整はいりますが、基本的に問題ありません。ただ、システムチケットは駄目です。あれはレアリティ高いので」


 アレ、レアリティ高かったのか。チケットってレアリティ書いてないから判断出来ないんだよな。


「チケットチケットって手もありますね。アレは比較的レアリティが高いチケットが出やすくなってますから」

「最近、比較的とか高確率って言葉は信用しない事にしてるんで」


 俺の場合、99%でも外しかねない自信がある。リョーマを引いた時のように数打ちゃ当たる戦法のほうが確率は高そうだ。あいつが当たりかって言われると微妙なところなんだが。


「チケット以外でもいいですよ。人間界で何か買ってきて欲しいとか、< Uターン・テレポート >のクールタイムを完了させるとか」

「今一番欲しいのは……ゾーン枠かな。特にベースゾーン。この畳を常設したいんで」

「じゃあ、コレですね」


[ ベースゾーン拡張 レア ベース/システム ]


「…………」


 めっちゃ欲しい。一瞬即決しかけるくらいに。


「もしくはコレを……三枚とか?」


[ ベースツリーゾーン拡張 アンコモン ベース/システム ]


「……簡単でいいんで、それぞれの効果を聞いても?」

「< ゾーン拡張 >は、単純に対応した枠が増えます。これの場合はベースゾーンですね。< ツリーゾーン拡張 >は各ゾーン配下のツリーゾーン限定で、ランダムに枠が追加されます」

「ツリーゾーンっていうのはイクイップ/アーマーみたいな限定的なゾーンって事で?」

「そうです。ベース/インテリアとかベース/ライフとかですね。他のゾーンもありますから、そっちでもいいですし、< ツリーゾーン拡張 >ならゾーンごとにバラバラで三枚でも」


 ……悩む。俺の中ではすでに拡張以外の選択肢はなくなっているのだが、どれをとなると話は変わってくる。

 今一番欲しいのはベースゾーンだが、ベース/インテリアとかは別に必要としていない。< ベースツリーゾーン拡張 >でコレが拡張されてしまったら大失敗もいいところだ。

 しかし、他のゾーンがいらないわけでもない。そろそろイクイップもちゃんとしたいところだし、ユニットだって必要になってくるだろう。スキルもあればあるだけいい。悩ましい。


「< ツリーゾーン拡張 >を選んだとして、この場で一枚ずつ使ってもいいですかね?」

「意図が……ああ、どのゾーンが追加されたか確認してから次のを決めたいと、そういう事ですか。なんと小狡い真似を……別に構いませんよ」


 小狡いとか言われても、生活レベルに直結するからこっちだって必死なのだ。


「なら、< ツリーゾーン拡張 >三枚で、一枚目は< ベースツリーゾーン拡張 >にします」

「あ、ちなみに全ゾーン対応型なら交換枚数増やせますけど」

「ベース用で」


 そんなランダム性の高いもので、俺が望んだ結果が出るわきゃないのである。

 ゾーン限定なら、そこまで分は悪くないはずだ。おそらく二つ目のカテゴリに相当するだけツリーゾーンが存在するのだろうが、インテリア以外ならライフでもルームでもリフォームでも問題はない。カテゴリーの数が分からない以上確率は出せないが、最低でも当たり目が三つ存在しているというのは大きい。問題があるとすれば、それ以外の未知のカテゴリーだ。

 そうして神様からカードを受け取る。


「これ、どうやって使えば……」

「対象のゾーン、この場合はベースのメインゾーンにセットすれば反映されます」


 というわけで、全部埋まっているベースゾーンの中から< スモールルーム >を一時的に外して……外れない。なんでだ? ……ああ、中にリョーマがいるからか。

 システム的な制限に苦慮しつつ、< 畳床 >を外して< ベースツリーゾーン拡張 >をセット。すると、セットしたカードが光りながら消失し、新たな枠が出現した。


「……ベース/エリア」


 しかし、増えたゾーンはまさかの新カテゴリーである。セットするカード自体が存在しない。

 うん、分かってた。俺がそういう運命の元にいるって事は。


「使徒さんはさすがですねー」


 何がさすがやねん。絶対、分かって言ってるだろ、この神様。


「二枚目下さい。今度もベース用で」

「はい、次はお目当てのになるといいですね」


 くそ、なんでガチャ以外でも似たような経験をしなくちゃいかんのだ。

 だがしかし、振り返ってみればここまで俺の変な運が発動するのは大抵が初回に限るという法則がある。二回目以降にそんな傾向が一切ないとは言わないが、大抵は無難な結果になっているのだ。

 大丈夫、次は多分普通の結果に……。


「それで増えるのがベース/インテリアと。狙ってやってるんじゃないかと思うレベルですね」

「おのれ……」


 確かに未知のものではない普通の結果だが、普通は普通でも、一番必要としていないゾーンである。カードはあっても飾りたいものなんかないのに。


「あ、あの……最後の一枚を全ゾーン対応のやつにしたら枚数増えますかね?」

「そこでヘタれるんですか。五枚にするつもりでしたからちょっと足りませんけど、別に二枚にしてもいいですよ。どうします?」

「…………三枚とか」

「駄目です」


 くそ、どうすればいいんだ。一枚目はどうせ無理、二枚目で無難な結果を出して、三枚目はイクイップなりスキルなりで戦力アップを計るつもりだったのに。

 こういう事を考えているから運に見放されてるのか。傾向なんかで運勢を見切ったつもりになるなど猪口才なと。何故俺は無難にベースゾーン一枠にしておかなかったのか。

 次こそはと思う。この流れは、次は無難に収束する流れだ。なんかそんな気がする。しかし、それに身を委ねるのは厳しい。なまじ、他への逃げ道が用意されている事で余計に決断し難くなっている。むしろ、それこそが神様の狙いなのではないかと疑うほどに。


「……ベース限定でお願いします」

「あれ、いいんですか?」

「ファイナルアンサーで」


 俺は俺の決断を信じる。自分の運勢を信じる事はできないが、ここは初志貫徹だ。どうせなら、選択肢に紛れのおきないベース/リフォームあたりでいい。


「さあ、いざ尋常に勝負!」

「盛り上がる場面ではない気が」


 いいんだよ。当事者にとって割と死活問題なんだから。

 最後の一枚をベースゾーンにセット。祈るような気持ちでカードエフェクトを見る。そうして増えたカードゾーンは……。


「おぉしっ!!」


 ベース/リフォームゾーンだった。別にそこまでいい結果ではないはずなのに、勝った気になる。でもいいんだ、目的は果たせたから。


「なるほどなるほど。使徒さんは面白いですね」

「人の苦悩を見て楽しむのはどうかと」

「いや、そういう意味ではなく。まあ、そういうわけで、次があったらよろしくお願いします。十六魔将の場合はレアリティ一段階引き上げて報酬出しますので」

「考えておきます」


 十六魔将はともかく、ユニークカードがすべていらないモノってわけではないのだ。むしろ、本来ならそういうモノこそ重要なのである。

 なんか俺の場合はいらないユニークばっかり手に入りそうだが、まさかそんな事はないはずだ。


「そういえば、< 負け犬 >から情報引き出せたら俺にも教えてもらえるんですか?」

「情報公開レベルに引っかからない範疇でしたら共有します。まあ、引き出せる可能性自体が低いので、期待せずに」

「はあ……」


 どうやって引き出すのかについても気になるところではあるが、聞きたくないという気持ちが大きい。想像を絶する苛烈な尋問だったりしたら、俺の行動にも色々支障が出てしまいそうだ。これがディディーだったら、いくら苛烈でも構わないのに。




-4-




「いやはや、知識として知ってはいたが、想像以上の神々しさだったな。理解できる知能があるのを後悔するとは思わなかった」


 神様が帰ってから、しばらくこちらを窺うようにして、リョーマがおずおずと隣の部屋から出てきた。


「俺には感じられないから分からんが、漏らすほどなのか」

「神という位階の問題もあるが、私にとって造物主という点も大きいのだろうな。御主人様でたとえるなら、理知的なティラノサウルスが目の前にいて興味を持たれてるよりも怖い」

「なるほど」


 それは怖い。どうしようもない上に何されるか分からないという多重の恐怖だ。食おうとしているならいっそ諦めもつくだろうが、下手に希望があるだけに諦めるのも難しい。それより怖いというのは一体どういう領域なのか。クトゥルー系の神格と遭遇してしまった感じか?


「超常の存在である事は間違いないから、怖がるのは分からんでもない。新品の畳が元に戻らなかったら、折檻が待っていたわけだが」

「そこは本当にすまない。排尿の経験がないので止めようがなかった」

「いやまあ、そうなんだろうがな」


 排尿経験とか言われても困る。


「あの神様の他にも、動画実況の神候補とか来たりするから、その時はトイレに逃げとけ。あのインターホンは鳴ったらダッシュだ」

「そうする。ペットの私に用があるという事もないだろう」



 というわけで、早速増えたゾーンの整理を始める。

 新しく増えたリフォームゾーンには< 畳床 >、これはしばらく固定になるだろう。他に選択肢がないというのもあるが、畳が快適過ぎる。

 そして、同じくほぼ固定なスモールゾーンとその追加枠には< 屋内用簡易農園 >。変更の余地はあるものの、トイレというプライベート空間には隔離が必要だから、これもほぼ固定になる。

 必然的に残り一枠は< かんてい >と< 水汲み場 >が入れ替えで置かれる事になる。クールタイムを考慮すれば、< かんてい >がセットされる時間がほとんどになるだろう。

 ガチャマシンはどの道固定だから考えるまでもないし、エリアゾーンもカード自体が存在しない。

 そして問題はインテリアゾーンなのだが……何置こうか。


「< アクアリウム >に< 動きそうな彫像 >に< 校長の銅像 >に< サンドバッグ >と……別にどれ置いても関係ないな」


 試しに全部セットしてみたが、どれもそれなりに場所をとる。いっそ何も置かないという手もあるが……。


「リョーマはなんか希望あるか? 俺がいない間、サンドバッグで鍛えたいとか」

「なんでもいいが、無難にアクアリウムでいいのではないかね。専用ゾーンに< アンモナイト >でも入れておけばオブジェになる」

「……それでいいか」


 セットしてみて判明したのだが、アクアリウムには追加のカードスロットが存在した。スモールルームのようにウインドウに追加枠が表示されるのではなく、アクアリウムの筐体にカードを入れる枠があるのだ。

 どうも、完全密閉されている中に後から魚などを入れるための枠らしく、ここにペットカードなどを入れると中に実体化する。マテリアライズの必要もなく、カードのままセットできるから入れ替えも容易だ。ただ、セットできるカードはかなり限定的で、俺の手持ちでは< アンモナイト >と< 巨大なミジンコ >、あとは< 水草 >くらい……。

 ……実は< ペットゴブリン >も反映はされたのだが、中に出現したゴブリンはそのまま溺死して消滅してしまった。試してないだけで他にもあるかもしれないが、合いそうなカードはそれくらいなのだ。


 アクアリウムという環境に対応するカードは少ないものの、これが別のカードならば話は変わってくる。特に使い道がないと思っていたフィギュアなども専用のラックで飾れるかもしれない。

 いざ、そういう使い道が出てくると集めてしまいたくなるのは困りものだ。たとえば< 三国武将専用フィギュアラック >的なインテリアがあって、シリーズ分の専用枠が用意されてたりしたら、無駄に埋めたくなってしまうだろう。

 これがコレクター魂というものか。まあ、優先する気はないのだが。

 ペットにしても今はユニットゾーンの枠を使っているが、ペットを複数放し飼いにするベースカードがあったりするかもしれない。


 ここで重要なのは、そういう具体例ではなく使い道の可能性である。

 俺の手元には単にマテリアライズしても使えないだろうというカードが山ほどあるわけだが、これらにもひょっとしたら使い道があるのかもしれない。ないのかもしれないが、可能性としては十分に有り得るのだ。

 直接ダンジョン攻略や異世界侵略に関わる話ではないが、妄想が膨らむ話である。生活レベルの向上って大事。



 さて、そんな妄想はさておいて……今後の方針はどうするか。

 イベントの目的だったペットは一応手に入れた。……本当に一応で、まったく愛でたくない存在ではあるが、話し相手として、あるいは友人としてなら及第点ではある。


「……何かね? 御主人様」


 そんな事を考えつつ、リョーマをじっと見つめていたら、怪訝な顔で問いかけてきた。


「いや、もうちょっと可愛げのあるペットが欲しいなと」

「失敬だな。私になんの不満があるのだね」

「おもらしするし」

「そ、それは生存本能の発露というやつであってだな。決して私の尿道が特別ヤワだとしかそういう事では……」


 お前、神様にも可愛くないって言われてただろうが。実際、可愛くはないし。

 だがまあ、いらないってわけでもないんだよな。すでに愛着のようなものは生まれているのも確かだ。


 リョーマが当たる以前の情熱は薄れてしまったが、イベント期間はまだあるわけだし、もう少し頑張ってみるか。





カタカナでリョーマだと越前しか出てこない。(*´∀`*)

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
[一言] つまり理性的なティラノサウルスを引くんですねわかります
[一言] ルーム内をイメージしてみたらどこかで見た気がする?と思ったら、昔のすすめ電波少年のなすびの懸賞生活でみた光景でした。色々不必要な物が大量に増えながら全裸だったりとか。ガチャ太郎はパンツは履い…
[良い点] 神様の怖さ=理知的なティラノサウルスに興味を持たれてる怖さ。 ……ストンと納得した。 なんという適格で分かりやすい表現だよ。驚愕したわ。 天才か。 [一言] 相変わらず、恐ろしいまでの情…
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