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第二十話「新たなる住人」

バックアップはこまめに取りましょう。(*´∀`*)




< ABパンチ >

 レアリティ:ハイレア

 強化値:★★★(効果+/効果+/効果+)

 対象・効果範囲:一体

 発動条件・制限:任意発動

 分類:スキル/アクション/必殺技

 解説:ABマンの必殺技




-1-




 鑑定しても< ABパンチ >は良く分からないという結果に終わった。


「必殺技なんてカテゴリに含まれてるくらいなんだから、弱いはずはないと思うんだがな」


 未だ謎な部分は多いが、鑑定して初めて判明する三つ目の分類がそのカードの性質に近いものを表しているといえる。それが< ABパンチの場合 >は必殺技だ。解説文でもはっきり定義されてるけど。

 なんせ、必ず殺す技と書いて必殺技である。格ゲーなどでは単にコマンド入力式の技をそう呼び、その上には専用ゲージを消費する超必殺技もあったりするから絶対ではないが、必殺技とは基本的に相手へトドメを刺す切り札的な存在のはずだ。なのに、今の《 ABパンチ 》に必殺技と呼べるだけの威力がない事は明らかだった。ぶっちゃけ、ただのパンチだし。

 しかし、その定義を前提に考えると、威力以前に発動条件からしておかしい気もする。今の俺が使っているようにパンチに合わせて発動というだけでは、必殺技というにはお手軽過ぎるだろう。消費MPだって大した事はないし、若干のクールタイムは必要になるものの連発も可能だ。こんな簡単にトドメをさせるなら巷のヒーローは苦労していない。

 いや、某光の巨人のように、なんで最初から必殺技使わないんだよ的な疑問が生じるヒーローもいるが、彼らだって実は簡単に撃たない理由はあるのだろう。たとえば戦闘中に溜め動作を行っているとか、相手を殴る事でゲージを溜めてるとか、実はアレは排尿に相当するもので尿意が溜まるのを待っているとか、そういう前提があるのかもしれない。もしくはできれば撃ちたくないからギリギリまで我慢する的な問題なのかもしれないが、それだって前提条件には違いないだろう。光の巨人にとって、アレは性的に恥ずかしい動作だったり、撃ったら猛烈な便意に襲われるとかだったりしたらさっさと飛んで帰ってしまうのも納得だ。

 まあ、そんな妄想はどうでもいいのだが、とにかく鑑定結果を見る限り< ABパンチ >が必殺技なのは確実で、それを必殺技たらしめる威力を出すには、単に発動するだけでなく別の条件が必要なのではないかという事だ。

 パッと思いつくのは、発動する場所、時間、対象の制限。あるいは発動するのがABマンとやらでないといけないという可能性もある。そんな汎用性のないモンをガチャで出すんじゃねーよとは思うが、自動で情報収集しているだけというなら有り得ない話でもないのだ。

 いや、ひょっとしたらだが、実は特にそんな前提は必要なくとも正常に発動していて、俺がその効果に気付いていないだけって事も有り得るのか。簡単に殴り殺せてしまうゴブリン相手だから分からないだけで、もっと頑丈な……俺がダメージを与えられないような相手でも関係なく極小の固定ダメージを与えられるとか。考えようによっては立派な必殺技といえるだろう。


「うーん、分からん。保留!」


 今のままでは枠を使う理由はないし、その枠だってまったく余裕はない。ならばバッサリと切り捨てて、検証可能な環境が整うのを待つべきだ。

 九十九姉妹に会う前にスキルの解析用のアイテムが手に入る事だってあるだろうし、効果が目視できるようなサンドバッグ的なものがあるかもしれない。何が出るのか分からないガチャなのだから、期待したっていいはずだ。

 つまり、今必要なのはガチャである。ここは、気をとり直して十連ガチャといきたい。


 はっきり言って前回のガチャが爆死なのは認めるしかない。ペットは手に……入るには入ったがどう考えても癒やされる類のものではないし、< ABパンチ >だって少なくとも今は戦力外だ。ファウルカップはアリだし、プロテインとステーキはありがたいものの、それだってちょっとうれしいな程度のものでしかない。

 できれば前回のガチャ運に引きずられないようにしたい。そのためにどうするかなんて分からないが、幸いウチの上司はガチャの神様だ。神様、仏様、ガチャ子様、我にガチャ運を与え給え!


 そんな十連ガチャの方向性を決めるといっても過言ではない一枚目。画面上に表示されるそのカードを見た瞬間、目が点になった。



[ ゴブリンチケット ]


「なんでやねん」


 ゴブリンチケット使ってガチャ回したらゴブリンチケットが出た。なんだこれは、無限機関か何かなのか。別のチケットならともかく、同じもの出すんじゃない。終わんねえだろ。

 別に損をしたわけではないのに出鼻を挫かれた気がした。これはまた爆死コースだったりするんだろうか。勘弁してくれ。



[ ゴブリンの腰巻き アンコモン イクイップ/アーマー ]

[ チャーハン(半チャーハン付) コモン ノーマル/アイテム ]

[ アフリカマイマイ コモン ユニット/ペット ]

[ 玄関マット コモン ノーマル/アイテム ]

[ サンタ帽 コモン イクイップ/アーマー ]

[ ゴブリンの思い出 コモン ノーマル/アイテム ]

[ 揚げバター コモン ノーマル/アイテム ]

[ 零細スーパーの福袋 コモン ノーマル/アイテム ]



 そんな予感が当たったのか当たっていないのか、続くラインナップは判断の難しいものばかりだった。

 とりあえずチャーハンはいい。なんで半チャーハンが付いてるのか良く分からんが量が増える分にはお得だし、イラストを見る限りでは皿も付いているっぽい。スプーンがないのは気になるが、それでも温かい食い物には違いない。玄関マットも、本来の用途は別として普通に敷いて使えばいい。こんな石床に直で寝たり座ったりするよりは全然マシだろう。サンタ帽の使い道は思いつかないが、マテリアライズして中に何か詰めれば枕代わりくらいにはなりそうだ。

 揚げバターは……多分、アメリカで売られているという狂気の揚げ料理だろうな。普通に生活してたらネタ以外に食いたいものではないが、カロリー補充目的なら一度くらいは食ってみてもいい。胸焼け必至である。

 そして、肝心のペットも一枚出ているが……またしても虫である。そこに癒やしはない。グロいし。

 ここまでで十連の内の九枚。


「くそ……最後くらいは何かいいものを……」


[ 超高精密戦国武将フィギュア 最上氏編 延沢満延 アンコモン ノーマル/アイテム ]


 ……誰だよ。歴史ゲーとか結構やってる方だと思うが、最上家なんて義光くらいしか知らねえよ。微妙に読み方も分からないし。

 なんかでかい木を担いでるから頼りになる武将なんだろうが、ユニットならともかくフィギュアじゃ意味がない。それとも、この木にしがみついてるほうが延沢なんちゃらだったりするんだろうか。謎だ。

 どこかの商品でフィギュアの箱があるなら、そこに詳細が書いてあるのかもしれないが、これは多分ガラパゴスリクイグアナと同じ系統だろう。つまり、マテリアライズしても実物のみが出てくるタイプだ。いくら精巧に作られていても、それでは詳細が分からないのである。マテリアライズする気もないし。



 うーむ、結果としては微妙だが、一応ゴブリンピックアップも反映されているっぽい事が分かったのは収穫といえば収穫だろうか。……無理やりいいところを探しているようにしか感じられない。やっぱりゴブリンピックアップが邪魔だ。腰巻きも思い出もいらんのになんで被るんだよ。


「あとは福袋……中身が分からんのは気持ち悪いが……」


 福袋など基本的にいらなかったり売れ残ったりしたものを放出するだけの、店側にだけ都合のいい商品でしかないと思っているが、今の俺にとって商品人気や値段はあまり関係ない。これがゲームショップの福袋だったりしたら期待も持てないが、スーパーなら俺の求めている食料品がメインになっている可能性は高い。零細スーパーが勘違いして奮発してみました的な豪華な食材がたくさん入っているという事も……いや、食材はないか。日持ちしないし。

 そんな淡い期待を寄せて福袋をマテリアライズ。中身を確認してみれば……。


「おおー」


 ポテトチップスにクッキーに飴、酒のツマミになりそうな乾物類、あと缶詰少々。乾電池と食玩はいらないが、今の俺には見事にヒットする内容だった。なんかちょっと売れ残りそうなラインナップではあるが、そんな事は問題ではないのだ。飢えた加賀智弥太郎に菓子というのが重要なのだ。普段は別に菓子とか食わないくせに、嗜好品というだけで機嫌が良くなっている。

 プラスかマイナスかで言えば絶対にマイナスなのに、ちょっと得した気分になってしまう。まさしく店にとっての都合が良い客の心理状況だった。




-2-




「ふんふんふーん、ふんっ!」


 鼻歌混じりで、現れるゴブリンたちを撲殺していく。十連ガチャの出目はともかく、福袋の中身に機嫌が良くなっていた。今なら何匹でも撲殺できそうな気がしている。

 しかし、肝心なペット……愛玩できるペットが手に入っていない以上、休むわけにはいかない。

 一週間というイベント期間の内、一日目はもう終盤だ。一周二、三時間という事から考えても、次の十連が貯まる頃には日が変わっている計算になる。いくら俺が超人になりつつあるとはいえ、不眠不休で狩りを続けるわけにもいかないし、ドロップするカードも運に左右されてしまう。ゴブリンの数が確保できるのは幸いだとしても、この勢いで狩り続けたら第二層からゴブリンが枯渇し始める可能性もある。そうなれば第三層の探索も視野に入れなれければならず、効率や安全性の問題も出てくるだろう。もしも死んだりしたらその日の探索は終了なのだから、最悪探索時間が丸々一日潰れるというという事も十分に有り得るのだ。

 死ぬ事自体に頓着せず、探索時間のほうを問題視しているあたり、俺もこのダンジョンに毒されつつあるなと感じる。


 最初にでかいゴブリンと腕試しをして、ゴブリンを撲殺して、ついでにペットゴブリンも蹴散らしてチケットを回収、ついでに未だ使用用途のないゴブリンのパーツ類も回収する。両腕、両脚、胴体に眼球、各種内臓、脳、骨、爪、あとは睾丸など、すでに何種類あるのか確認するのも諦めたマテリアルカテゴリーのカードだ。マテリアライズすればそろそろリアルゴブリン模型ができそうな多様っぷりである。そんなグロいものを組み立てる気などさらさらないが。


「そういやコレ、なんの役に立つんだろうか」


 今更な感想ではあるが、そろそろ邪魔になってきている。一枚一枚は大した事なくとも、百枚以上になれば結構な存在感だ。もっと邪魔なものは沢山あるが、このまま意味もなく積み重なっていくというのは避けたい。

 今だって枠が溢れるようなら捨てたりもしているが、もったいないからと、どうしても回収してしまう。完全に不要というのなら最初から回収せずに済むのに。

 それは、RPGで換金アイテムとしてドロップしたものでも、ひょっとしたら後半別の意味があったりするかもと売れない状況に似ている。換金用だからイベントが進むごとに価値が減少して、結果倉庫の肥やしになるのだ。アイテムコレクター的な性格ならそれでもいいかもしれんが、俺はあまりそっち方面の趣味はないのである。

 一応、ゴブリンの牽制や罠の確認に使う事はできるものの、せいぜい数枚だ。高確率でドロップする一部に過ぎない。


「とはいえ、意味があるっぽいのが示唆されているのがな」


 今はまだ回答をもらえないが、回答をもらえないというのは意味があるという事とほぼ同義だ。隠しているものに意味がないって事は……絶対にないとはいわないが、まずないだろう。チケットほどとは言わなくとも、回収しないのはもったいないってくらいの価値があればいいんだが。


[ ゴブリン討伐三百体達成! 実績ボーナスを獲得しました! フリーゾーンNo.1の上限3Up! ]


「お?」


 そんな事を考えながら狩りに勤しんでいたら、忘れかけていた討伐実績達成のアナウンスが流れた。そういえば、目標の一つに挙げていたのに数えてなかったな。

 とうとう三百……結構な数だ。あまり罪悪感は湧かないが、もしもコレが人間と考えればすさまじい大量殺人である。長年従軍している兵士だって、なかなか稼げないキルスコアだろう。武器が銃でなく棍棒ならもっとハードルが上がる。我ながらえらい事やってるなと思う。


 今回のボーナスを加えれば、フリーゾーンの枠はこれで16枚。フライングバインダーと合わせれば26枚。フリーゾーンの枠が増えるというのは、探索一回分の成果に直結するものだから地味にありがたい。

 討伐実績リストに見えてしまった次の実績……ゴブリン討伐千体はちょっと気が遠くなるものの、そのボーナスもフリーゾーンの上限5Upだから、獲得しないという手はないだろう。

 というか、ゴブリン以外の実績もあるっぽいから、そいつらが出てくるならもうちょっと早く上限を増やせそうなんだが。

 弱いから助かってる部分もあるが、こいつらばっかりというのは正直飽きる。でかいヤツとか寝てるヤツとか十六魔将とかいるからバリエーションに富んではいるんだが、結局のところゴブリンなのだ。落とし穴に落ちた時のモンスターハウスの様子からして、第四層も似たような感じになりそうなのは困ったものだ。


「そういや、このフリーゾーンNo.1っていうのも疑問だな」


 今後、フリーゾーンの枠自体が増えるという事なのかもしれないが、それは上限が増えるのと何が違うのか。……整頓しやすい?

 今更ながらに地味な疑問はたくさんある。すぐに知りたいというほど気になっているわけではないが、あとでまとめてQAに投げてみよう。アレも、入力デバイスがあればもう少し気楽に書けるようになるんだが。




 そうして、特に波乱もなく再び十連ガチャ分のゴブリンチケットが貯まった。前回排出分の1枚と合わせて12枚である。

 また、ようやくペットチケットも1枚ドロップした。これについてはどうするか検討中だ。ペット確定なのか、ペット関連カード確定なのか分からないのも問題だが、さすがにこれで十連回してまともなペットがこないという事はないだろう。そこまで貯めるか否か。

 内容はともかくとして、ペット自体はここまででも出ているのだ。確率的にはそこまで悪いものではない。ならば、補正のかかったペットチケットなら結構な確率で当たりが出るのではないかとも思う。その一回で変なものが出るのが俺なわけだが、毎回変な運が働いているわけではない。すでに< 負け犬 >が出ているのだから、俺の変運は使い切っているという考えもあるのだ。

 ……とりあえず鑑定行きかな。一枚だけ浮いていると、つい使ってしまいそうだ。


 また、日が変わった事でログインボーナスのノーマルチケットも一枚追加されている。

 ……振り返ってみて、イベント初日が残念な結果であった事は認めざるを得ない。ペットはもちろん、普通にガチャとして見た場合でも平均以下のような気もする。

 ここは日も変わったところで、気分を一新していきたい。さあ、イベント二日目のスタートとなる十連ガチャだ!




[ ハリガネムシ コモン ユニット/ペット ]


「呪われてんのか、俺」


 いきなりペットが出たものの、また虫である。ここのガチャはどれだけ虫押しなのか。この際、可愛ければ虫でもいい気がしてきたものの、ここまで出た虫はどれも視覚的不快感を伴うラインナップである。せめて、カブトムシとかセミなら検討の価値もあろうというものなのだが……。こいつは確か寄生虫かなんかだった思うが、カマドウマに寄生させればいいんだろうか。まったく心が揺さぶられないペットである。

 気分を一新したつもりだったのに、一気に先行き不安になってくる。次だ、次。



[ 夢の再現デスマッチシリーズ 力道山 VS ウサイン・ボルト アンコモン ノーマル/アイテム ]


 続けて出た二枚目はペットにも食料にもダンジョン探索にも関わらないシロモノだった。

 くそ、意味は分からないがものすごいインパクトだ。一体なんの種目で勝負をするのかすら謎なのに、そんなの関係なしに超見たい。ぶっちゃけ、この二人が腕相撲しているだけでも面白いだろう。だが、再生機器がない。イラストを見る限りVHSだから、環境が揃ったら是非見たい動画だ。これでただのそっくりさんだったら萎えるにもほどがあるが、ガチャから出てくるものなら期待できる。

 似たような感じで、絶対脱がない系アイドルの再現AVなんかもあるとしたら……ちょっと興味が惹かれるな。ちょっとだけ。



[ 超高精密三国武将フィギュア 蜀編 姜維 アンコモン ノーマル/アイテム ]


「いや、知名度の問題ではない」


 延沢なんちゃらのように知らない武将なのもアレだが、知っているからといって欲しいわけではないのだ。

 姜維って確か北伐マシーンの人だよな。蜀視点で見れば終盤の主役とも呼べる人物ではあるが、そもそも三国志の終盤とかまったく興味ない。アル中になって老害化した孫権とかなら、別の意味で見てみたい気もするが。

 いや、三国志なだけマシなのか? これが五胡十六国時代の武将だったりしたら一切分からないぞ。そんなの平然と出てきそうだから困る。そもそもフィギュアがいらない。


 ……やばい。明らかに調子が悪い。いつも以上に碌なモノが出ない気がビンビンしている。しかし、すでにチケットは消化済で俺にできるのは確認する事だけなのだ。


[ 消臭スプレー コモン ノーマル/アイテム ]

[ ゴブリンの腰巻き コモン イクイップ/アーマー ]

[ ペットゴブリン コモン ユニット/ペット ]

[ ペット病院 レア ベース/ライフ ]

[ ゴブリン コモン ユニット/モンスター ]

[ ロングボウ コモン イクイップ/ウエポン ]


[ ジャイアント・ウェタ コモン ユニット/ペット ]


「気持ち悪っ!?」


 微妙なラインナップが続いた中で十連の〆がまた虫かよという思う以前に、見た目が怖過ぎる。命狙って襲ってくるゴブリンのほうがはるかにマシだ。絶対こんなの飼ってるヤツいねえだろ。

 ここまでの傾向としてノーマル/コモンって大体ガチャの手が加わっていないものだと思うんだが、まさかこんな生物が地球上にいるのか? このままで? 絶対遭遇したくないぞ。地球って怖い。

 今はゴブリンだらけで微妙な気分になっているが、こういう虫のモンスターだらけのダンジョンよりはマシなのかもしれない。正気を保てる自信がない。



「くそ……結局、更に微妙なラインナップに……」


 まともなペットどころか、食料すらないひどい結果に終わってしまった。ラインナップの中で再現デスマッチのビデオが一際異彩を放っていて、これ一つで他がどうでも良くなるくらい見たいが、今求めてるのはコレではないのだ。またしても腰巻きが被ってるし、ペットも虫ばかり。このまま虫の博物館でも開けというのか。

 数少ないまともなカードは、ペット病院とロングボウくらいだろうか。武器らしい武器だが、棍棒でさえ怪しいというのに専門技術が必要な弓矢とか扱える気がしない。一応検証はするが、どうせ矢は別だったりするんだろう。ペット病院は鑑定行きだ。おそらく即戦力ではない。


「あとは……」


[ ゴブリン コモン ユニット/モンスター ]


 字面で埋もれて目立たなくなっているが、コレだろう。地味に初のカテゴリー。ペットではないユニットカードだ。おそらく、ユニット/マシンのフライングバインダーのように、ダンジョンに連れていけるユニットを呼び出す事ができるのだろう。

 ゴブリンが果たしてなんの役に立つのかとか、ユニット枠を潰して使う価値はあるのかとか、色々思うところはあるが、未知のカテゴリーのカードである以上、試さないわけにはいかない。今後ずっと俺一人で攻略する事を想定しているとは思えないし、できるとも思えない。どこかで俺以外の戦力が必要になってくるのは確実で、その有力候補がユニットカードなのだ。

 というわけで、呼び出したゴブリンが暴れだしてもいいように準備だけは整えた上でカードをセット。光の粒子が集まる演出とともに、ゴブリンがその姿を現した。


「ギッ!」


 呼び出されたゴブリンは意外にも大人しく、また混乱している様子も見られなかった。だが、その姿は予想していたものと少し違った。


「なんで全裸なんだ」

「ギッ?」


 ダンジョンを徘徊しているゴブリンはみんな腰巻きを着けているというのに、こいつは全裸だった。それは、ここに初めて呼び出された時の俺を彷彿とさせる。

 それだけなら単に服……というか余ってる腰巻きを着せればいいだけの事なんだが……こいつ、どうやって戦うんだ?

 マテリアライズした腰巻きを着せる事はできる。棍棒だって同じだ。しかし、拠点でそれをやったところで、ダンジョンに持ち出す事はできない。あくまで俺と同じ仕様であればという話だが、ダンジョンはダンジョンで装備を用意する必要がある。それをクリアするためのシステムとして、俺にはイクイップゾーンという専用の枠があるが、ウインドウを開いても< スモールルーム >の追加スロットのような枠はないのだ。まさか、毎回使い捨ての武器をマテリアライズする必要があるとかじゃあるまいな。

 いや、ひょっとしたら、俺とはシステムが違うのかも。拠点で装備したモノがそのまま持ち出せるって事も……。そういえば、装備の必要がないフライングバインダーでは試した事はなかった。こいつでちょっと試してみるか。


「よし、お前ちょっとコレ持ってみろ」

「ギッ! ……ギッッッ!?」

「あ、悪い……まあ、気にするな」


 テストのために、とりあえずいらないモノ筆頭という事で< ゴブリンの右腕 >を出してしまったが、冷静に考えれば同種の腕とかビビるよな。俺も突然人間の腕出されたら固まる自信がある。


「それを持って、あのドアの向こうに行くんだ。いいか? 俺の言ってる事分かるか?」

「ギッ!」


 俺の言っている事は伝わるのか、ゴブリンは元気に頷くと、ゴブリンの腕を持ったまま拠点出口へと歩いていった。命令されれば嫌悪感のあるものでも平然と持つ素直なゴブリンだ。

 これで右腕を持ち出せたら、装備の問題はなくなったも同然だ。サイズ調整が効かないという問題はあるものの、毎回在庫を減らすよりはいい。ついでに、ゴミも問題も解消できる。

 しかし、やはりというかなんというか、ドアの向こうへゴブリンが消えるのとほぼ同じタイミングで、拠点中央に腕だけが戻ってきた。


「……俺と同じって事か」


 そうなると、装備する手段が拠点から出てからのマテリアライズしかないという事になる。不可能ではないが、在庫が潤沢でない今、その方法をとる事は厳しい。しかし、ただでさえ弱いゴブリンが無手の全裸など、戦力として見るなら論外と言っても過言ではないだろう。


「色々試してみるか……おーい、戻って来い」


 ゴブリンを呼び戻そうと声をかけるものの反応がない。おかしいな。拠点内外でシステム的な区切りはあるが、別に音を遮断しているわけではないはずなんだが。


「おーい……?」


 ドアを開けてみても、そこにゴブリンの姿はなかった。いたずらでドアの反対側に隠れているわけでもない。

 時間差で拠点内に戻ったのかとも思ったが、振り返っても誰もいないし、ウインドウのユニットゾーンにはゴブリンがセットされたままだ。


「消えた……どうなってんだ?」


 いや、ちょっと待て……この通路は一直線だ。ここから移動できる場所など、物理的には前か後ろしかない。転送されるにしても拠点へ飛ばされるはずだ。

 何気なくセットされたカードを外そうとしても、固定化されている。つまり、拠点の外にいるって事なんだろう。だとしたら、あいつが消えるのは前しかない。……つまり、この階段の向こうに。


「……まさか、ダンジョンに入っちゃったのか?」


 確かに俺はドアの向こうに行けとしか言っていない。テストのつもりだったが、それをあいつに伝えてもいない。言われた事をそのまま実行するなら、ひたすら直進する可能性は十分にある。多分バカだし。

 どうする。追いかけるか? 幸い、ユニットゾーン以外の俺の装備はそのままだ。急げば容易に追いつけるだろう。

 迷いがあった。別の可能性はないかとか、本当に準備は足りているのかとか、無駄に数秒の時を過ごしてしまった。


「え?」


 次の瞬間、目の前の通路が消えた。いや、俺のいる場所はそのままだ。消えたのは、階段とその手前の数メートルだけ。そこが壁になった。

 その壁にはいつか多重落とし穴トラップ&モンスターハウスで死んだ時のように紙が張られている。


[ ダンジョン・アタック中 ]


 やばい。俺以外がダンジョンに入った場合は締め出されるのか。つまり、直前まではまだダンジョンに入っていなかったという事で、急いで階段を降りれば間に合ったのだ。逡巡している内に期を逃してしまった。

 全裸のあいつがどれだけダンジョンを生き延びられるかなど分からないが、おそらく一戦するのですら厳しいだろう。今の俺なら全裸でも生き延びられるが、あいつはゴブリンだ。ダンジョンを徘徊しているのは武器を持った同じゴブリンなのだから明らかに不利である。プレイヤー側のユニットとして多少の補正を受けていたとしても、なんの指示もなしに帰還ゲートまで辿り着ける気がしない。そもそも、ゲートの存在を知っているのかも怪しい。


「そうだ、中継地点から逆走すれば……」


 距離はあるものの、道順は頭に入っている。< 簡易転送ゲート >から中継地点に飛んで逆走、第一層まで行って行きそうな道を手当り次第に探せば……

 そう考え、設置済の< 簡易転送ゲート >を開こうとするが。


「開かない……ダンジョンそのものに規制がかかってるのか」


 ダンジョン・アタック中は層に関係なく締め出されるって事か。

 ……どうする? ただ傍観していても事態が解決すると思うほど楽観的じゃない。ひょっとしたら、同じゴブリン同士という事で馴染んでダンジョンに住み着いてしまうかもしれないが、それはそれで問題だ。俺がダンジョンを使えなくなってしまう。おそらく再構築時に強制退出されるだろうが、何日も締め出されるのは死活問題だ。何よりイベントが終わってしまう。

 くそ、もっと良く考えて行動すれば……。あいつ、やけに素直だったから、命令の意図も理解してくれると楽観視していた部分もなくはない。普段戦ってるゴブリンがどれだけバカかは俺が良く知っているはずなのに。

 いっそ神様に報告してなんとかしてもらうか? 最早その手しかないような気もするが、QAに書き込んでも読むまでにどれくらいの時間がかかるかすら曖昧だ。あいつにそんな時間は残されていないはず。


[ ユニットカード初戦闘破壊 実績ボーナスを獲得しました! ユニットゾーン枠+1! ]


「はへ? ……うおっ!」


 対応を苦慮していたら、突然未知の実績ボーナス獲得アナウンスが流れる。そして次の瞬間、ウインドウにセットされていたゴブリンのカードが割れるような音を立てて消滅した。


「…………」


 死んだ? マジで? あいつが生き延びられるとは思ってなかったが、あまりに突発的な出来事に実感が追いつかない。

 俺の不注意で死んだ。あいつに何かの思い入れがあるわけでもないが、逆にいえば死んで欲しいと思っていたわけでもない。これまで散々撲殺してきたゴブリンと違って、妙に素直だったのも俺の心を痛める一因になっている。少なくとも実績解除されてラッキーとは素直に喜べなかった。


「後味悪い……」


 マジで謝りたい。しかし、以前から言われていた通り、ユニットカードは消滅してしまった。もう一度ゴブリンを呼び出しても、それは別の個体だろう。味方として接するだけで、ここまで印象が変わるのか。

 あまりの喪失感に、しばらく呆然と立ち尽くしていた。


 しばらく経って、何気なくダンジョンの入り口まで移動した。あいつが殺された痕跡が確認できるとかそういう事を考えていたのかもしれない。


[ ダンジョンで死亡した場合、同日中の再挑戦はできません ]


 いつか見た張り紙に既視感を覚えつつ、今日の予定が大幅に変わる事を認識した。




-3-




 加賀智弥太郎、イベント二日目にして探索権を一日分失う。

 日が変わったばかりなので、ほぼ丸一日分だ。多方面から大ダメージを喰らって、俺の心はノックアウト寸前だった。

 同種を三百体も撲殺しておいて今更と言われるかもしれないが、あのゴブリンの死で想像以上にダメージを受けている。いつもだったら、ダンジョンに潜ってゴブリンを虐殺する事でストレス解消していたが、今回はそれもできない。

 一応、これまでだって想像はしていたのだ。ユニットゾーンがあるって事はパーティプレイ前提なわけで、よほど運が良くない限りは仲間を失う体験は待っているだろうと。そんな妄想上でも俺は精神ダメージを受けていたが、実際に体験するのはまったく違った。

 あのゴブリンはポッと出もいいところで、出会って数分で死に別れしたような関係だ。損失はまったくないと言ってもいい。ユニット周りの仕様が判明した分、プラスと捉える事だってできるだろう。しかし、現実的にはそう割り切れるものではないのだ。あんなモブキャラみたいなヤツでさえ、失えばこれほどのダメージを受ける。これが長年共に戦い続けた戦友なら、一体どうなってしまうのか。きっと想像できないほどのトラウマが植え付けられる事だろう。

 くそ、やはり俺には癒やしが必要だ。


 マテリアライズした半チャーハン付チャーハンを流し込むように食いながら、そんな事を考えていた。スプーンも箸もないので皿を抱えての犬食いだ。

 切り替えるしかない。しかし、やれる事は少ない。現在、俺の活動時間の大半はダンジョンに費やされている。そんな俺からダンジョンを取り上げたら、定年を迎えたワーカーホリックのようになってしまう危険がある。

 これが今回限りという事はまずないだろう。今後もダンジョン攻略を続けていくなら、どこかで避けられない死が待っているだろうし、それが当然なのだ。


「……なんか、趣味が必要だな」


 できればダンジョンとはまったく関係ないやつ。おっぱいマウスパッドでもいいが、アレはアレで帰ってこれない危険性がある。できれば、他人に……というか神様や九十九姉妹に堂々と明かせる程度のものがいい。

 成人男性だから仕方ないと思える程度のものなら、嫌がられても『これだからおこちゃまは』と言い返せるが、エネマグラ後輩のように一般人が確実にドン引きするようなのは駄目だろう。

 たとえば、映画鑑賞とメディア媒体の収集が趣味ですと言えば普通に受け入れられるだろうし、これがAV鑑賞と収集が趣味ですというのでもそういうヤツもいるんだ程度の反応だろう。これがAVの出演者やスタッフのデータベースを管理して傾向を分析、広範囲に渡る性癖に対応すべく日々精進しています、というレベルまでいれば距離を置かざるを得ない。現実はオタクに厳しいのだ。

 超分かりづらいたとえだが、そういう境界線はあるのだ。俺の趣味がゴブリン撲殺にならない内に、真っ当な趣味を見つけるべきである。


 俺の元々の趣味はPCゲーだ。それも戦略シミュレーションやRTS、FPSなどのジャンルが主、もっといえば洋ゲーが多い。エロゲーに手を出した事がないとは言わないが、その割合はかなり少ない。

 しかし、この環境でそれを趣味にするのはかなり厳しいと言わざるを得ない。PCどころかコンシューマー機ですら、プレイできるようになるまではかなりの時間を要するだろう。だってテレビないし、電気もない。

 そのものだけで完結する趣味といえば読書があるが、今のところ読みふけりたいと思う本は手に入れていない。< 世界のペット大図鑑 >などは、読み始めたらますますペットが欲しくなってしまうだろうから却下だ。

 できれば体動かす類のものがいいんだが、その手のものはまだ手にいれていない。サッカーボール一個だけでも随分ヒマは潰せそうなんだが。今なら、めっちゃリフティング上達する自信がある。

 というか、テレビが欲しい。電波と電気も込みで。近年、あまり見る事はなくなってしまったが、点けたら何かしら番組がやっているテレビはヒマ潰しという面で見ればかなり優秀だ。今なら、CMだけ垂れ流しにされても楽しめるだろう。ネットがあれば更にカバー範囲が広がるが、それはPCゲー以上にハードルが高い。というか、テレビもそうだが外部の情報を手に入れられるアイテムは許されるのだろうか。事故のニュースなどは見せてくれたが、遮断されそうな気もする。

 相手がいるならボードゲームの類でもいいんだが、相手してくれそうな二号も、入り浸られたらそれはそれでウザそうだ。ゴブリンが将棋を打てるなら……って考えると思考が最初に戻ってしまうので忘れる。


「というか、マジで何しようか」


 ヒマだ。寝てもいいが、確実に数時間で目が覚めてしまうだろう。規制はあと二十時間以上もあるのだから、まったく足りない。となると筋トレ……。プロテインも手に入ったし、アリかナシかでいえばアリだが……。

 ふと、現在浮いてしまっているチケットに目がいった。……ガチャるか。ひょっとしたら、何かヒマ潰しのアイテムが出るかもしれないし、ペットだって期待できないわけじゃない。まだ鑑定中だが、ペットチケットだって一枚あるのだ。

 現在十連に使えずに浮いてしまっているのはゴブリンチケット二枚、ノーマルチケット二枚、鑑定中のペットチケット一枚である。これだけ回せばなんとか……。

 いや、いかん、完全に頭がガチャ脳になりつつある。どう考えても十連まで待つのが正解だというのに、何か理由をつけてチケットを使いたくなっている。

 ダメだ、駄目だ。いくらダンジョンに行けないとはいえ、そんな誘惑……。




[ 派手なゴブリンの腰巻き アンコモン イクイップ/アーマー ]

[ 巨大なミジンコ アンコモン ユニット/ペット ]


「あああぁあーーー!!」


 悲鳴にも似た絶叫が上がった。

 誘惑に負けて、すぐに手に入るゴブリンチケット二枚を使ってみればこの有様だ。なんだよ、派手な腰巻きって。アンコモンでも嬉しくもなんともねーよ。

 巨大なミジンコもそうだよ。気持ち悪いわ。なんで比較対象のタバコよりでかいんだよ、お前。


 ちくしょう、やっぱり駄目だ。単発で引いたところで、碌なものが出る気がしない。十連で回したって、有用なものが出るのは一、二枚程度なのだから当たり前の話なのだ。

 しかし、ペットチケットとノーマルチケットで十連に届かせるのは結構厳しい。確かに予定よりは集まってきたが、それでも十枚は……そもそもペットチケットのほうはもっと……。



[ カタログギフト コモン ノーマル/アイテム ]

[ 四季報 2017年3集夏号 コモン ノーマル/アイテム ]


「……あぁもう」


 出るわきゃねーと回して、やっぱりと項垂れる、想像通りの結果に終わった。分かっている。分かっているのに、ひょっとしたらという期待が手を動かすのだ。

 恐ろしい、これがガチャ中毒というヤツなのか。そりゃ社会問題にもなるわ。



< ペットチケット >

 レアリティ:コモン

 強化値:-

 分類:チケット

 解説:ペットピックアップガチャを引くためのチケット。高確率でユニット/ペット関連のカードが排出される。

 十連ガチャの場合、アンコモン以上のペット一枚確定。


 ペットチケットの鑑定結果が出たので見てみたが、大体予想通りの代物だった。ゴブリンピックアップと同じく、単にペットピックアップになって関連カードが引きやすくなるというだけのものだ。

 十連で使えばペットが一枚確定するが、それは今は関係ない。そもそも、虫やゴブリンばっかりという事実さえ無視すれば、ペット自体は今まででも出ているのだ。

 ゴブリンチケットの十連ガチャを回した際、その結果にはイベントのペットピックアップとゴブリンピックアップの両方がかかっているように思えた。ならば、これで回せば二重でペットピックアップになるという可能性は高い。

 ならば、単発でも期待はできる。自然とそういう結論が出てくるあたり、もう俺は駄目なのかもしれないが、そこまで間違ってはいないはずだ。


「南無三っ!!」


 色々理屈はつけたが、もうここまで来たら使っても構わんだろうと、半ば自暴自棄になりつつガチャを回す。どうせ爆死である。分かっているのだ。これを使い切れば葛藤しようもないから、これは諦めるための一手なのだ。


[ ゴブリンの遺影 コモン ノーマル/アイテム ]


 あまりにブラックなジョークの効いた結果に、俺は無言で地に伏した。




-4-




「うがああああっ!!」


 長い謹慎期間を終え、ようやく解禁されたダンジョンで棍棒を振るう。でかいゴブリンは発狂気味な俺の姿に動揺しているような気もするが、相手の事を気にしても仕方がない。

 まずい。ダンジョンから締め出されて確信したが、俺は予想以上にここの環境に慣れ切ってしまっている。ガチャを回すのも、それを回すために必要なチケットを稼ぐのも、ダンジョンを探索する事もゴブリンを撲殺する事も生活の一部として染み付いてしまっているのだ。

 繰り返している内はほとんど自覚がない。しかし、いざそれを取り上げられると、とてつもないストレスが襲いかかってくる。ガチャを引きたいのにチケットがない。チケットを稼ぐ手段がない。< 簡易転送ゲート >を手に入れてからはお手軽になっていた分、余計にそれができない事がストレスになる。これは人として問題があると言わざるを得ない。

 抗う術がない。なまじ、生活に直結しているのが問題だ。稼がないと食料は手に入らないのだから、ガチャもダンジョンも必須。常習性のある中毒の対処法として、そのものと引き離すという手段が使えない。

 怖過ぎる。このままではガチャとダンジョンに生活を支配されて、それがなくては生活できない体に調教されてしまう。

 どこまでが神様の意図なんだ。神様として願ったり叶ったりな状況なのだから、最初からコレを狙っていたと言われても驚かない。


「くそ、どうすればいいんだ」


 そう悩みながらも体はゴブリンを撲殺している。ほとんど全自動ゴブリン撲殺マシーンだ。北伐マシーンの姜維を笑えない。

 考えても結論はでない。どう考えても袋小路だ。むしろ最適化する事が健全なのかもしれないとさえ思えてくる。とはいえ、最適化してしまったら、いざダンジョンを取り上げられた時にどうすればいいのか。

 やはりペットと趣味が必要だという結論に落ち着く。このままではワーカーホリックか戦場からの帰還兵のようになってしまう危険性がある以上、深刻だった。


 そのためにも、ゴブリンを殺して殺してチケットを収集していく。




[ ゴブリン探知機 コモン イクイップ/パーツ ]


 そうして再度十連に挑戦したら、今の状況にうってつけではないかという名前のカードが排出された。しかし、使い方が分からない。分類的に何かのパーツなのか。とりあえず鑑定に回す。


[ 箸 コモン ノーマル/アイテム ]

[ 大人しいペットゴブリン アンコモン ユニット/ペット ]

[ ガントレット アンコモン イクイップ/アーマー ]

[ 再現茶器シリーズ 九十九髪茄子 アンコモン ノーマル/アイテム ]

[ ゴブリンレザーシールド アンコモン イクイップ/サブウエポン ]

[ アクアリウム コモン ベース/インテリア ]

[ ゴブリンレザージャケット アンコモン イクイップ/アーマー ]

[ シルデナフィル コモン ノーマル/アイテム ]

[ 高出力シャワートイレ ダイナマイト・インパクト アンコモン ノーマル/アイテム ]


「またこんな感じだよ」


 恒例ともいえるガチャのラインナップに、諦めの境地に達していた。大人しくてもゴブリンはペットにしたくないし、アクアリウムも入れる魚がいないんじゃ意味がない。

 まあいい、またダンジョンを回ればゴブリン十連ガチャはできるのだから。


 気になるものといえば、ゴブリンレザーシールドだ。盾はあるだろうと思っていたが、イクイップ/アーマーとは違うサブウエポン扱いである。手に持って扱うものだから、おかしくはない。

 あまり考えた事はなかったが、盾を持つというのは意外にアリかもしれない。装備枠の問題があるから今は手を出し辛いが、選択肢としては考えておこう。


「盾を使うのはともかく、この盾はあまり使いたくないけどな」


 一緒に出てきたジャケットもそうだが、ゴブリンレザーである。イラストでは一見、普通のレザーシールドに見えるものの、コレはまさかゴブリンの皮をなめして作られた盾なのだろうか。実用性云々以前に印象が悪い。

 レザーシールドやアーマーなど、革製の装備が存在する事は分かる。歴史上当たり前のように使われていたものだし、現代だって靴や財布などの革製品は普通に流通している。それを考えるなら、ゴブリンの革製装備だっておかしなものではないのかもしれないが、身に着けたいとは思えなかった。

 家畜ならいいのか、ワニならいいのか、リザードマンなら、ドラゴンならどうだと、素材の種族で線引きするのは間違っているのかもしれないが、とりあえずゴブリンは別に強そうではないというのが一番の理由である。

 と言いつつ、枠が余ってたら普通に使っていた気がしないでもないが。ここら辺の倫理観もどうにかすべきかもしれないな。人間の皮を使って作ったヒューマンレザーアーマーは確実にアウトだが、有用なものが出てきて嫌悪感で使わないのはもったいないだろう。


 あとは物騒な名前のシャワートイレだが、シャワートイレ自体はありがたい。設置型なので、電気もトイレ本体もない今使えるものではないが、いずれ役立つ事だろう。なんなら九十九たちにおみやげとして持っていってもいい。トイレはあるだろうし、電気も問題ない。家電量販店にシャワートイレは転がっているだろうが、経年劣化している可能性も否めないからな。


「で、この薬品はなんだ?」


 知らない名前の薬品だ。イラストだと細かくて読めないが、箱には日本語が書いてあるっぽいからマテリアライズすれば分かるだろう。

 正体不明なのは気になるし、薬なら場所もとらないだろうとマテリアライズして確認してみる。


「バイアグラじゃねーかっ!!」


 勃起不全薬だった。

 必要ねえよ。いくらでも勃つわ。十代の頃から比べたら衰えたかもしれないが、二十代舐めんな。

 いや……しかし、正常な場合でも飲んだらどうなるのかは気になる。あまりいい使い方ではないのだろうが、興味があるのは否定できない。今はやる事があるからいいが、ヒマになったらつい手を出してしまうかもしれない。


 何故か後ろ髪を引かれる思いだが、爆死には違いないのだから次に行く。余ったゴブリンチケットを使ったりもしない。これは次の十連のための貯金に回すのだ。

 そうして、俺の苦難の戦いは続く。




[ ゴブリンの思い出 コモン ノーマル/アイテム ]

[ 高級麻雀セット コモン ノーマル/アイテム ]

[ レバニラ炒め定食 コモン ノーマル/アイテム ]

[ 畳床 アンコモン ベース/リフォーム ]

[ アンモナイト(再現種) アンコモン ユニット/ペット ]

[ パチンコ台 コモン ノーマル/アイテム ]

[ 箱枕 コモン ノーマル/アイテム ]

[ AK-47 コモン イクイップ/ウエポン ]

[ ゴブリンの思い出 湘南編 コモン ノーマル/アイテム ]

[ 犬用リード コモン ノーマル/アイテム ]



「くそ、次だ。次こそは……」



[ ホイップクリーム コモン ノーマル/アイテム ]

[ ハンドタオル(5枚セット) コモン ノーマル/アイテム ]

[ レタス コモン ノーマル/アイテム ]

[ 水草 コモン ノーマル/アイテム ]

[ リバーシ コモン ノーマル/アイテム ]

[ 動きそうな彫像 コモン ベース/インテリア ]

[ ゴブリン・ゴブリン コモン スキル/パッシヴ ]

[ ゴブリンの秘薬・改 アンコモン ノーマル/アイテム ]

[ 通りすがりのブロマイド コモン ノーマル/アイテム ]

[ ゴブリンの睾丸煮込み鍋 コモン ノーマル/アイテム ]



「おのれ……いい加減吟味する気もなくなってきたが、何度だって挑戦してやる」



[ 校長の銅像 コモン ベース/インテリア ]

[ ワンツー・コンビネーション コモン スキル/アクション ]

[ サンドバッグ コモン ベース/インテリア ]

[ チワワ アンコモン ユニット/ペット ]

[ ラーメン定食 コモン ノーマル/アイテム ]

[ トゲ付ショルダーパット コモン イクイップ/アーマー ]

[ 本革ベルト コモン ノーマル/アイテム ]

[ DVD-R 100枚セット コモン ノーマル/アイテム ]

[ スポーツドリンク(粉末) コモン ノーマル/アイテム ]

[ 年末ジャンボ宝くじ コモン ノーマル/アイテム ]


「はいはい、ワロスワロス。……次だ、つぎ……あれ?」


 どうせ目的のものは出ないだろうとタカをくくって、次の周回に意識が行っていたが、良く見ればなんか混ざっている。


[ チワワ アンコモン ユニット/ペット ]


「ま、マジで……? チクワじゃないよな」


 見逃すところだったが、虫でもゴブリンでもアンモナイトでもない、普通のチワワだ。排出されたカードを何度見ても良く知っているチワワである。くそ、なんて可愛いんだ。

 思わず息が荒くなるほどに興奮していた。これではただのヤバいヤツだ。


「よ、よし、正座でチワワ様をお迎えするんだ」


 玄関マットの上に正座してウインドウを開き、震える手でチワワをユニットゾーンへセットする。忘れたい記憶である先日のゴブリンと同じように光の粒子が集まり、待望のペットが我が家にやってきた。

 ネタ的に巨大過ぎたりもせず、普通のペットショップで見かけるチワワだ。


「お、おお……」


 感無量だった。ようやく我が拠点に癒やしがやってきたのだ。よーし、お兄さんキミのために快適な生活空間作っちゃうぞ。


「君が御主人様かね? さっそくだが、名前を所望する」

「……は?」


 やって来た癒やし枠は、つぶらな瞳でこちらを見据え、やけに野太いおっさん声で俺に名前を付ける事を要求してきた。



「名前を所望する」





木にしがみついてるのは最上義光です。(*´∀`*)

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い [一言] エネマグラといいダイナマイトインパクトといい、九十九さんの後ろが崩壊の危機
[一言] 無限とかヒーローのアレを読んでるか読んでないかでガチャ排出アイテムの面白さ全然違うんだろうな。 めっちゃおもしろいし続きが楽しみ
[一言] ゴブリン・ゴブリン(パッシブスキル)てなんやねん
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