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第十七話「ガチャシステム」

無人の新宿で激闘を繰り広げるガチャ太郎。そこへ突如現れた謎の幼女X。

彼女は一体何者なのかッッ!?(*´∀`*)




-1-




『危なかったわね、ガチャ太郎! 助けに来たわっ!!』


 模擬戦をしていたら、対峙していた待雪の代わりに幼女二号が現れた。

 な、何を言っているのかわからねーと思うが俺も何が起きているのか分からなかった。催眠術だとか超スピードのような気もするが、そんな事は関係なく頭がどうにかなりそうだった。

 一体全体こいつはなんでここにいるのか。そして俺の何が危なかったというのか。どう考えても助けが必要な窮地ではないのだが、俺が待雪に襲われているとかそういう場面だと明らかに勘違いしている。

 謝罪はさせるべきだし、俺もするべきだろう。しかし、それよりもまずは誤解を解かないといけない。……そう考えて、声を掛けようとした瞬間だった。


「あああああっ!!」


 蹴りか何かで吹き飛ばされたはずの待雪が一瞬にして二号へ肉薄し、殴りかかろうとしているのが見えた。

 加えて、まるで視認出来ないような速度で、今正に二号の首を刈らんと大鎌を振りかぶる柚子の姿があった。

 行動が早過ぎる。俺との手合わせでは見せなかった人外の身体能力が二号へと向かっている。声すら上げる時間もないのだ。何をどうしようにも間に合わない。このままでは本格的な殺し合いに発展しかねない。

 そして、対する二号の行動もまた早かった。


『《 動くな 》』


 マイクに向かい、そう呟いただけで俺を含むその場にいたすべての動きが停止した。いや、声を発したかどうかすら定かではない。何せ、音となるのに必要な時間よりも早く、その言葉を認識出来たのだから。

 カードセットの影響なのか固定されているからなのか棍棒は握ったままだが、全身が麻痺したように力が入らない。

 待雪は拳を振りかぶったまま固まり、空中から首を狙っていた柚子に至ってはその体勢のまま地面へと落下して受け身もとれずに転がる事になった。

 なんだこれは。どんな力なんだ。候補とはいえ神様なんだから人間にとって理外の力を持っていてもおかしくはないが、こうもあっさりあの二人が止められるのか。


『あ、ゴメン。ガチャ太郎は《 動いていい 》わよ』

「かはっ!」


 拘束が解けた事で気付いたが、呼吸も停止していたらしい。反動に耐えきれず、思わず崩れ落ちそうになる。

 しかし、膝を突いては駄目だ。まずは、この状態をどうにかしないといけない。俺はよろけながらも幼女二号の元へと歩いて行く。


『まったく、意味分かんないわよねー。監視しててもガチャ太郎渋谷に見当たらないし、あわてて許可とって来てみたら全然違うところだし、日本みたいなのに全然人いないし、挙げ句の果てにはなんか襲われてるし』


 最悪の可能性として、実は俺が囮か何かで二号は最初からこいつらを制圧する事が目的だった的な事も考えたが、どう聞いても勘違いしている。

 というか、二号と九十九たちの間にこうも実力差があるのなら、そんな回りくどい事をする必要はない。ただ出てきて声を掛けるだけで制圧終了なのだから。捕捉された時点で終了だ。


「おい」

『な、何、ひょっとして遅れたの怒ってる? しょうがないじゃない。こんなの前例ないんだし』


 衝動的にこの勘違いさんをぶん殴ってやろうかとも思ったが、そんな動作をした段階でまた動きを止められる気がするので普通に声をかけた。操られてるとか思われたりしたら収拾が付かなくなる。


「そんな事はどうでもいい。……救助しようとしてくれていた事自体には感謝する」

『え、いいの?』

「……いや、あんま良くないんだが、その惨状に比べたら些細なもんだ」

『危なかったわよね。アレ、人間じゃないでしょ。むしろ、良く生き残ったって褒めてあげてもいいわ!』


 アレらは相変わらず動かないまま地面に転がっている。柚子のほうは格好がアレなだけに非常に間抜けでエロいポーズになってしまっているがさすがに不可抗力だろう。

 待雪のほうも動けないのは変わらないが、視線だけがこちらに向いているのが分かる。何を訴えているのかは分からないが、非難の意味合いな気がしてならない。ほんと、すいません。


「模擬戦なんだから死ぬはずねーだろ」

『へー、もぎせん。……もぎせん?』

「トレーニングメニュー作ってもらうための前段階としての手合わせだ。実力も資質も分からずにメニュー組めるはずないしな」

『……え、ちょ』


 二号に近づき、両頬を摘んで引っ張った。


「救援ありがとうございますっ! ですが! 申し訳有りませんが! あなたの盛大なる勘違いでございます! クソ面倒な事になっちまったんですが、とりあえず拘束解け!」

「ふひゃんほへんほーーーーっ!!」


 何言っているのか分からないが、とりあえず引っ張るのを止められる事はなかった。幼女だからなのか、その戦闘力とは裏腹に頬肉が餅みたいに伸びる。こんなに時になんだが、ちょっと面白い。


『何すんのよっ!! って、いや、ちょっ、ちょっと待って! え、どういう事? あんた、襲われてたんじゃないのっ!?』

「襲われてないし、あいつらに敵対意思はない。どうすんだよ、この惨状!」


 色々残念な連中ではあるが、お前は更に輪をかけて残念だった

 神様のルールなんて知らんが、コレ色々問題あるんじゃないだろうか。いくら未知の世界とはいえ、少なくとも問答無用で制圧していいとは指示出てないと思うんだが。


「神様のやらかす事ですからね。下々の者には理解出来ない行動もあるでしょうが……どう考えてもお前の勘違いだろっ!」

『え、えーと……』


 二号は自分のやらかした惨状を改めて眺めた。

 頑張って助けた奴は何故か怒ってる。

 無手の少女は動けずにこちらを睨んでいるが、その目には恐怖と怯えが混じっている。

 大鎌を持った痴女はエロい格好で醜態を晒し続けている。絵面的にはちょっとおいしい。

 ついでに、駅のほうを見てみれば彼女たちと同じ顔をした少女は柱に隠れきれずに怯えていた。


『ご、こめんなさい?』

「これがコメント付き実況動画だったら、コメントがゼロになるくらいドン引きされてる場面だ」

『い、いやーーーーーっ!?』


 リアル惨状よりも、実況動画の例えのほうがダメージでかいのか。業が深い。




-2-




「うわーーーんっ!! ごめんなさーいっ!!」


 とりあえず直に道路で正座させ、軽く九十九姉妹の境遇を説明したら、二号は泣いて謝りだした。謝罪しないのは問題だが、あまりの過剰反応に当事者の九十九花も困惑している。


「えーと、これは同情してくれてる……のかな?」

『まあ、もどきとはいえ日本の神様だからな』


 あまり深く知っているわけじゃないし、他の神については情報もないが、基本彼女たちは善性の存在だと感じている。無条件で味方をして施しをくれるような存在ではないだろうが、正面から害をもたらす存在だとも思っていない。異世界とはいえ一応日本人なら庇護対象の範囲に入るのかもしれないし、そこに九十九が含まれていてもおかしくはないのだ。日本そのものが蹂躙された事実に心を痛めているだけの可能性だってなくはないが。


「というか、何故加賀智さんはマイクを」

『こいつのアイデンティティの一つだから罰として』


 いや、別に痛くも痒くもないんだろうが、なんとなく奪い取って使っている。俺たちを止めたあの力も、マイクがないと使えないって事はないだろう。いや、多分だが。

 ついでにいえば、少しでも場を和ませようという苦肉の策でもある。もちろん口にしたりはしないが。


 ちなみに、泣いて謝る幼女の横では俺も一緒に正座して謝っていた。ぶっちゃけ俺に責任はないような気はするのだが、それを言ったら九十九たちには襲撃される理由などない。幼女二号の関係者というだけでも頭を下げる必要はあるだろう。

 なんせ状況が状況だ。ただ動きを止められて地面に受け身なしスライディングをした柚子はともかく、飛び蹴りの直撃を喰らった待雪は結構なダメージを受けてしまったらしい。安静にしていれば問題ない程度ではあるらしいが、被害は被害だ。聞いてみれば、待雪は対戦車ロケット程度なら不意打ちでも受け流せるそうだ。二号は一体どんなスピードで飛んできたというのか。

 一方、彼女たちの保護者である花については完全に怯えていた。ホムンクルスである待雪や柚子と違い、九十九花は完全なる一般人だ。見知らぬ成人男性に対して曲りなりにも会話が出来ていたのは、自分のボディガードたるホムンクルスが側にいたからというのが大きいのだろう。その超人二人を完全に封殺してのける幼女など、恐怖の対象でしかない。マシンガン装備している奴が、絶対に撃たないからと言って話しかけてきても怖いものは怖いものである。

 とはいえ、せっかく異世界で出会った協力者候補だ。誤解で袂を分かつ事になるのはどちらも望んでいない。俺は二号に説明するのと併せ、怯える花の警戒を解くように励んだ。その結果、最低限ではあるが話を聞ける状態にはなった頃には残り時間は僅かという状態になってしまった。

 花の後ろで不審な目を向けてくる待雪や、何考えてるんだか良く分からない柚子に対しても色々話をしないといけないのだが、そんな時間は捻出出来そうになかった。


『というかだな、もうあんまり時間がない。面倒極まりない事になったが、戻る前に色々確認しておきたい事が出来た』

「神様なら、そこら辺の問題もどうにかなるんじゃ?」

『こいつは神様じゃなくて候補だし、ウチの上司でもどうだろうな。……実際、どうなん?』

「……無理よ。ガチャ子でも無理でしょうね。はっきりしないけど、あんたのカードに対して直接どうこうってのは無理なはず。というか、ガチャ太郎がいないと私もここに来れないし」


 なんとなくは想像付いていたが、ウチの上司でも手の出せる力はないらしい。創造主ではあっても、創り出したモノに直接干渉は出来ないと。


『俺がここにいないと来れないってのは、お前に限った話……じゃないよな』

「ここ、管理範囲外の扱いになってるみたいだから、正式な神格持ちは基本アウト。私もグレーな部分を突いて、ガチャ太郎っていう中継機を使ってようやく来れたわけだし。効果が切れたら強制的に私も戻されるはず」


 人を中継機呼ばわりである。

 確か、ガチャ子様はトイレットペーパーを買う時に日本に降り立っていたはずだ。それが出来ないのは、ここが管理外……異世界であるという事なのだろう。二号は、候補だからこそここに来れたというわけか。

 しかし、ここが異世界なのかどうかなどいう明々白々な事は後で聞けばいい。今はちょっと時間がない。


『細かい確認は後回しにするとしてだ、今優先して確認したいのは、この《 Uターン・テレポート 》は使い捨てとかじゃなく再発動可能なのかって事だ。俺はもう一度この世界に来れるのか?』


 それによって九十九たちへの対応が変わる。もう一度天文学的な確率から引き当てないといけないなら一旦忘れたほうがいいし、時間がかかっても確実に来れるならここまでの話は継続だ。俺が再訪するかどうかで九十九たちの行動に影響が出る事もあるかもしれない。


「クールタイムは必要だけど、別になくなったりはしないっぽい? 読めないところも、スキルの名前そのものじゃないし」

『……ちなみに、どれくらいクールタイムは必要なんだ?』

「《 Uターン・テレポート 》のクールタイムはかなり長かったはずだけど、確か最低でも一週間くらい? 正確には、実際にクールタイムに入るか、鑑定しないと分かんない」


 もう一度来れるっぽいのが分かったのは助かるが、クールタイム長いな。俺のは……時間延長されてるっぽいし、更に長いのかも。というか、やっぱり鑑定しておくべきだったな。こいつも俺も焦り過ぎていた。その場合はその場合で柚子と遭遇するタイミングを逃していたかもしれないけど。


「その手のクールタイムを短縮する方法や拠点施設はあったはずだから、それを使えばもう少し早いかも?」


 ガチャ前提の運任せじゃねーか。当てにならな過ぎる。

 そういうのは狙ったら出ないと相場が決まっているのだ。ちなみに、俺の場合は近くてなんか違う感じのモノが出る傾向が強い。紙とか。


『……まあ、それならそこまで慌てる必要はないか』


 時間が空いてしまうのはともかく、再訪出来るのならどうしても今確認しなくちゃいけない事項は少ない。最低限、二号の襲撃についての誤解は解けたようだし。


『じゃあ九十九、この世界の情報収集は続けてくれ。一週間以上後になるだろうが、次回来た時にパックご飯の代金として色々教えてもらう』

「あ、うん。元からその予定だったし、もちろん……あの、できたら次回も何か欲しいなーなんて」


 あれだけ怯えていた……というか今も怯えているっぽいのに、こういうところはちゃっかりしている。しかも、状況的に断りにくく、多分それを分かって打診している。やっぱり柚子の親だな。


『……努力はするが、ガチャ運次第だから確約は出来ないな』


 子犬のような目に釣られてつい出してしまったが、毎回無償提供するつもりはない……二号襲撃の負い目を感じているとはいえ、俺が生きていくためのカロリーも稼がないといけないのだ。あと、まだ見ぬペット。

 軌道に乗りさえすれば食料事情についてはこちらのほうがいいだろうから、欲しいのは九十九たちが自給出来ない類だろう。……お菓子とか? 甘味で色々便宜図ってもらえるかもしれないから覚えておこう。


『あと柚子、渋谷の……場所分からんな……簡単に地図描くから、その場所に服置いておいてもらっていいか?』

「いいけど、また全裸なの?」

「……全裸?」

『全裸にならないための処置だ』


 花が怪訝そうな表情を見せるが、今は説明している時間はない。ないったらないのだ。

 駅に残されていた定期券売り場のペンと紙を使って、テレポート先のビルの地図を書き始める。単にビルでは有り触れていて目印になりそうもないが、一階のテナントにコンビニが入っているという特徴があれば多少は見つけやすいだろう。また、俺が剃った毛が残ってるはずだからそれを目印に出来ない事もない。時間や俺の絵心もあって地図は単純なものだが、


『多分、俺が消えたら服はそのまま残るから、これをそのまま置いておくだけでもいい。最悪、Tシャツとパンツでもいいや』

「分かった。なんか格好いい感じのやつ用意しておくね。マントとか」

『Tシャツとパンツでいいっつってんだろ』


 お前の服装は花の趣味じゃなかったのかよ。

 一時しのぎさえ出来ればどうにでもなるから、それも必須じゃないがな。駅前まで移動する間にも服はあるんだろうし。


『時間はまだあるからもう一点確認だ。お前……いや、神様たちはこの世界がなんなのか把握してるのか? つーか、異世界とか平行世界的な場所って認識でいいのか?』

「えーと、実は……」

『実は?』


 言葉が途切れた。言うべき言葉がないわけではなく、何を話していいか悩んでいる様子だ。俺か九十九たちへの情報制限に引っ掛かっているのか?


「急いで来たから、私はほとんど情報を持ってない。多分、あんたより分かってない。ガチャ子も……多分、この世界そのものについては知らないと思う。ただ、私たちの世界じゃない別の世界がある事は確信してたっぽいかなー」

『…………』


 判断が難しいところだ。これ、やっぱり俺の役目云々の話に繋がってくるんだろうな。戻ったら色々確認しないと。……答えてもらえるかは分からんが。


『直接聞くほうが早いな。もう時間ないし……って事で、一旦俺たちは戻る。次は一週間以上先になるだろうが、その時にでも』

「は、はい。分かった」

『……色々騒がせてすまなかった。特に待雪』

「いえ」


 急に話しかけられて戸惑っている待雪だが、受け答え出来る程度には回復しているらしい。そんなところで時間が来た。

 次回は待雪の機嫌をとらないといけないな。……なんか詫びの品を用意出来ればいいんだが。


『じゃあ、またな』


 そう言い残して、俺と二号はこの世界から消えた。




 さて、果たして俺が使徒として求められている事は一体なんなのか。

 ここまで幼女たちから得た情報に嘘はないという前提で考えてみる。というよりも基本、彼女たちの話に嘘はないんだろう。俺相手に嘘をついて意味があるとは思えないし、不都合があるのなら単に言わなければいい。実際、明確に隠されている情報は山ほどあるのだ。

 それを前提にした場合、ガチャの中身や排出率はある程度方向性があるにしても自動生成かつランダムで、神様の制御が及んでいない……あるいはしていないという事になる。ダンジョンもそうだ。

 二号が持っていた辞典も、俺の知らないところで得た検証結果を元にしたものか、あるいは自動追記型の情報端末的なモノなのだろう。データを直接見ているわけではないと思う。

 しかし、それら制御不能なものを差し引いても、チュートリアルの内容や各種実績はある程度事前に設定されていたもののはずだ。でないと、ブロマイドや二号が待っていた事、ついでにいうならゴブリンもどきの配置も説明がつかない。ひょっとしたら、それを気付かせるためのヒントとして置いている線も有り得る。

 結論として、この一週間で俺の体験したものはほとんどがランダム要素の高いものであるが、その中には神様が事前に仕込んでいた設定もまた存在するという事である。それが確信出来た。



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 ……だから、これはつまり、俺の異世界行きは始めから想定されていたという事なのだろう。




-3-




 そうして戻ってきたのはいつもの拠点だった。半日ちょっとしか経っていないのに、ずいぶん久しぶりに感じる。


「おかえりなさーい。……えっと、無事でした?」

「……まあ、なんとか」


 ただし、もぬけの殻ではなく神様が待っていた。緊急事態だったはずだが、いつもの能天気そうな表情だ。

 代わりに一緒に戻ってきたはずの二号はいなかった。いつの間にかマイクも消えている。


「……あいつ、どこに行ったんだ」

「ちょっと席外してもらったというか、ここから転移したわけじゃないんで元の場所に戻ったというか。報告にノイズ入りそうなんで、個別に話を聞きます」


 あの世界に取り残されたとかでなければ別にいい。色々聞くのには一対一のほうがいい事もあるだろうと、神様に向き直る。


「あ、とりあえずパンツ履いて下さい」

「……あ、失敬失敬」


 やっぱり拠点に戻ってきた時点に全裸に戻されるらしい。再び文明レベルが低下してしまった。


「パチンコだかなんだかの研修はどうしたんですか?」

「バックレました。抜け出す言い訳になったんで、実はめっちゃ感謝してます。あのグループ、妙に力があるので勝手な事出来ないんですよ」


 パチンコはな……ソシャゲとか比較にならない規模の金動いてるだろうし、無意識でも信仰している人は多そうだ。ほとんど洗脳なんじゃないかってくらい依存している人いるし。


「さて、使徒さんにも色々言いたい事や聞きたい事はあるでしょうが、とりあえず報告もらえますか?」

「神様はどの程度把握してるんですかね?」

「いやまったく。なので、一から十まで説明もらえると助かります。……ちなみに、普通に戻ってきたみたいですけど、救助の意味とかありました?」

「……ゼロではないです」

「oh……」


 マイナスの面のほうが大きかったと思うが、プラスがないわけではない。九十九たちに再訪を伝えられた事と、何かあった時に救助するつもりがあった事の確認が出来たのは意味があるだろう。

 どんな感じだったのかは、俺の表情からある程度は想像出来ると思う。


「じゃあ、一から……カード出てからのほうがいいですかね?」

「それでお願いします。そこら辺は一応聞いてますけど、使徒さんの視点からも情報が欲しいので」


 二号の場合、保身のために言っていない事がありそうだしな。分からないでもない。


 というわけで、この十六時間+その準備で何があったのかを神様に報告した。

 途中までは何考えてるんだか良く分からない表情だったが、柚子と遭遇して戦闘になったあたりから顔色が変わり始める。とはいえ、途切れさせずに最後まで話してしまったほうがいいだろうと帰還までの流れを説明した。ちなみに二号の乱入についての反応は怒りというよりも呆れだった。


「ふむふむ。……まー、あの子はいつもそんな感じなので、問題なかったのなら許してあげて下さい」

「俺を助けに来てくれたみたいですし、そこは感謝するしかないので、あまり強くは言えませんけど」

「かなり動揺して責任感じてたみたいなので、そこら辺を加味して頂けると助かりますねー」


 結果はともかく、目的は感謝すべきだろう。救助に来てもらって文句とか、クレーマー扱いされてしまう。営業やっててもっと酷いクレーマーに遭遇した事はあるが、彼らと一緒にはされたくない。


「それで、今回の件について俺からも色々聞きたいんですが……」

「あ、ちょっと待って下さい。ちょっと考える事が……」

「は、はあ」


 という反応を見せると、神様はうんうん唸り始めた。思考タイムは周りに意識が向かなくなるのか、やたらと過剰な所作が増えるのを黙って見ていた。

 そんな姿を見て数分、頭の中で情報がまとまったのか、口を開き始める。


「えーと、まず前提としてですが、今回の体験によって使徒さんの情報レベルが上がりました」

「え? ……あ、本当だ……って上がり過ぎじゃね」


 ウインドウを開いてみたら、表示されている情報レベルが1から6に上がっていた。幻想器手の情報が開示されるらしいLv7には届かないが、それでも色々すっ飛ばしている気がする。


「加えて、色々条件を満たしているので、情報レベル以上に開示出来る情報が増えています」

「ほう。では、ガチャの排出確率なども」

「それは最重要機密なので」


 知ってた。というよりも、実は神様も詳細は把握していないんじゃないかと思っている。

 そして、ウインドウを開いた事で目についてしまったが、< Uターン・テレポート >の上には……[ 331:50:32 ]の表示。長いな。


「クールタイムはだいたい二週間か」

「ああ、< Uターン・テレポート >ですか。多分、強化されてるんでクールタイム増加してるんですね。ちなみに、セットした状態でないとクールタイムは減少しませんよ」

「…………え?」


 じゃあ、その間はずっとゾーンを占拠されるって事なのか。……って、ああ外せるのか。良く考えてみたら、< かんてい >もセット状態でないとクールタイムが減らない仕組みだったはずだから、それと同じだ。

 まあ、探索時以外でセットしておけば問題はない。ゴブリン撲殺周回のような、単なる狩りならはセットしていてもいいし。

 ……いや、そんな単純な話じゃないのか。今はこれや< かんてい >だけだが、他にもクールタイムを必要とするカードが出てくるなら取捨選択が必要になってくる。管理が必要だ。


「クールタイムを短縮したり、代わりにチャージしたりするベースカードもあるんで、そういうのを手に入れて上手く管理して下さい。スキルゾーン持ってるユニットに持たせてもいいです」


 そこら辺の色々確認したいが、まず第一に確認すべき事がある。一度二号に確認した事だが、神様のほうが明確な回答を持っているはずだ。


「一応確認するが、これをもう一度使えばあの世界に行けるって事でいいんですかね」

「はい。一度排出されてしまえば変わりません。あ、転移先変更系の強化を行った場合は別ですよ」

「良く分かりませんが、そりゃそうでしょうね」


 わざわざ自分で変更しておいて、元の場所に行けなくなったと文句言うのはさすがにクレームってレベルじゃない。いや、そういうクレームの対処もした事はあるが。


「では本題です。まず、多分使徒さんが一番聞きたい部分だとは思うんですが、転送先の世界は一体なんなのか……」

「いきなり核心か」

「……実はさっぱり分かりません」

「おい」

「いや、事実ですし。というか、何が起きたのか私も気になるので、調べて教えて下さい。九十九さんたちの調査情報をこっちに回してくれるのでもいいです。なんなら報酬出してもいいです」


 いきなり核心から入ると思わせつつ、その核心部分については何も分からないと。九十九たちは勝手にあの世界を調べるだろうが、何か分かる保証はないんだよな。


「平行世界とかそういう類の場所なのでは?」

「ああ、それは多分そうです。おそらく、どこかで分岐した可能性とかそういう世界で……だけど、そこで何が起きたのか、なんで人がいないのかとかについてはまったく分かりません」

「九十九たちや、あいつらの故郷についても?」

「そっちはもっとです。えーとですね……ぶっちゃけた話、私たちは使徒さんの出身である日本の事しか把握してないんです。今回の世界については……不便だから呼称をつけますが、九十九世界については同じ日本でも完全な管理範囲外で、権能も及ばない世界なんです」


 すごいな、暫定とはいえ世界の名前に使われちゃったぞ、九十九。数字だから紛らわしいぞ、九十九世界。


「平行世界的なものが存在するであろう事は以前から認識していました。実は< Uターン・テレポート >の名前の時点で、私たちの日本でない事には気付いていたんですが、変に予備知識がないほうがいいかと思って黙ってました。すいません」

「……この読めない部分でって事か」

「はい。ビル名のほうは良く分かりませんが、最初の部分は世界を定義する文字が入る場所なんだろうと思います。それが未定義なので読めないと」


 いちいち多分とかおそらくとか付くのは気になるが、確かにこの位置にあるのが世界を定義する文字列なのだとしたら納得はいく。びっくりするから事前に言って欲しい話ではあるが、言わない事になんらかの意味があるのなら文句も言いづらい。

 基本的には俺の立場は下なのである。雇われ店長ならぬ、雇われ使徒だ。ちなみに従業員はいない。ついでに給料も実地調達だ。


「……ひょっとして、あの世界じゃなく別の世界に行く可能性もあったとか?」

「はい。多分いっぱいあるので、どの世界を引き当てるかは完全に運です。使徒さんは天文学的な確率であの世界を引き当てたという事になりますね」


 マジか……。という事は九十九たちの故郷に飛ばされてた可能性もあったって事なんだろうか。すごく行きたくないんだけど。

 ハゲのミュータント・ソルジャーVS棍棒持った全裸の野人なんて誰も望んでいないのだ。特に俺自身が。


「人が住めないような場所に飛ばされる可能性もあったんじゃ……海の上とか」

「それは大丈夫なはずです。最低限、人間が生命活動可能な場所しか選ばれない……はず?」

「そこは断言して欲しかった」

「いや、なにぶん初の試みなので」


 そんなところで嘘をつかれても困るが、なんでも正直に言えばいいってものでもない。もっとこう……相手の事を考えたトークが必要な時だってあるだろう。そういうのを考えない神様だってのは知ってるが。


「というかですね、確率だけで言うなら普通に日本に戻るカードのほうがよっぽど出易いはずなんですよ。こっちは管理範囲ですから、私の権能で簡単に出来る話なんで」


 俺のガチャ運は、そういう出易いものよりもなんかちょっと違うものが出てしまう傾向が強いのだ。初回は特に多い。俺の中ではすでにあるある的なネタになりかけている。

 野球で例えるなら、ギリギリストライクゾーンに入らないナックルボール。捕球も難しく後逸の危険もある。カウントは稼げないが、決め球にはなるよ的な……分かり辛いな。


「簡単なら一度説明に戻らせてもらえないですかね。何かやらせたい事があるなら、使徒として手伝うんで」

「いいですよ」


 ……あれ? ダメ元で言っただけなんだけど。


「え……マジで?」

「マジで。すでに最低限はクリアしてますし、今後も手伝ってくれる事を約束してくれるなら、それくらい問題ありません」


 いや、ありがたいけど……なんだこの肩透かし感。これまでの苦労はなんだったのか。


「事故の結果を見るに、ちょっと元の生活に戻る事は難しいでしょうし。政府を巻き込んで、未だ収拾ついてない感じです」

「まあ……な」


 どの道、俺に行き場はないのだ。戻る理由だって、家族への説明以外はすでに消失している。無理に引き留めようとしなくとも、ここに自分の意思で留まるだろうというのは簡単に考えつく事だ。

 加えて、今回の異世界行きは何かしらの成果だったのだろう。俺がここでドロップアウトしても最低限の成果は確保済って事なんだろうな。


「とはいえ、ここまで苦労してきてるんで、何もせずに報酬もらえるのはちょっとびっくりなんですが」

「じゃあこうしましょう。ダンジョンの第十……はまだ結構かかりそうか……第五層を攻略したらそのご褒美って事で」


 あれ、無条件ボーナス的な話だったのに、課題が出来ちゃったぞ。何も言わないほうが良かったのか。余計な事を言って、上司から追加の仕事を振られるパターンなのか。

 ……とはいえ、第五層ならそこまで遠くもない。多分、単に神様が理由付けのために加えた条件なんだろう。ここまでの経験的には……頑張ればあと一週間でいけるかな? そんなに焦る気もなくなっているが、短期目標としてはちょうどいいか。


「分かりました。……ちなみに、落とし穴に落ちても?」

「そこはちゃんと攻略しましょうよー。じゃあ、第五層ボス攻略にします」

「……じゃあそれで」


 落とし穴に落ちて条件達成しましたといわれても、納得し難いものがあるのは確かだ。これ以上なんか言うと余計な条件を付けられそう。


「アナウンスとかは出ませんが、達成したら権利付与。使う時は私に声をかけて下さい。実家の住所に直接転送するなり、手紙だけ送るなり、方法については任せます。ガチャでカード出して自力で帰還しても構いません。その場合は別のボーナスで代替するって事で」

「それは条件を達成さえすれば、権利を使用するのはいつでもいいって話で?」

「私の都合がつけばですけど。でも、スケジュールに穴がないのなんて最長で一週間くらいなので、ずっと連絡がつかないって事はないと思います」


 直接送ってもらえるなら服の心配はいらない。半分倉庫みたいになっているらしいが、実家には俺の部屋や荷物は残っているはずだし、なくても一時的に親の服を借りればいい。

 神様の言うように手紙でも問題はない。直接会って話をしないと受け入れ辛いだろうが、そもそも納得してもらう必要もないのだ。俺としては無事な事を伝えられればいいのだから。……葬式やるなら、その後のほうがいいかもしれないな。

 第五層攻略までに考えておこう。




-4-




「それで、そろそろ俺に何をさせようとしているのか、神様が何をしたいのか、断片くらい教えて欲しいんですが」


 その内容によっては俺の行動やモチベーションに大きく関わる。元の世界に戻るという目標と意欲が縮小してしまった今、使徒としての役割は重要だ。


「はい。平行世界を確認し、移動まで出来た以上は隠す必要もないでしょう」


 つまり、やはり今回の平行世界行きは、ある程度運に頼ってはいるものの、予め想定されていたものだという事だ。そして、それが使徒として役割に大きく関わっていると。


「先ほども言いましたが、私たちは使徒さんのいた世界の……更に言うなら日本という国の神であって、その範囲はひどく限定されたものです」

「海外にすら行けないというのは聞きました」

「はい。実効支配さえしてればいいので一時期は満州や台湾にも行けたらしいですが……そこら辺は今回の話とはあまり関係ありませんので省きます」


 何かの間違いで大日本帝国が第二次世界大戦で勝っちゃったりしたら、神様の行動範囲は数倍になっていたって事か。

 その場合はガチャの神なんか生まれないような気もするが、とにかくそういうルールがあると。……国際条約で定義されているとかではなく、認識の問題っぽいな。傀儡とはいえ、満州国は別の国だし。


「そんなルールで生きていると、どうしても気になる神は出てきます。我々のいる領域の外はどうなっているのか、おそらく存在するだろう平行世界……別の日本はどうなっているのかと」


 確かに気になるかもしれない。どんな形でか知らないが、平行世界を認識しているなら余計だ。


「とはいえ、我々には世界を移動する術も力もなく、前例もないわけです。空間……という言い方も変ですが、座標だって分かりません。あるだろうって言われてるだけで、観測すらしていないんだから当然ですよね」

「そうですね」


 遥か東に黄金の国ジパングがあるらしいから行ってみたい。でも場所も分からなければ船もねーやって状態じゃどうしようもない。

 だが、俺はすでに平行世界の地を踏んでいる。これは何かしらのブレイクスルーがあったか、新たな発見があっての結果だろう。……ガチャ?

 ふと、視線がガチャマシンのほうへと向く。……まさか、そんな壮大な設定がこのガチャマシンに存在するというのか。


「そこでガチャですよっ!」

「……すいません。そこでなんでガチャになるのか繋がりが……」


 俺も思い至りはしたが、意味不明である。確かにガチャから他世界への移動手段が出てきた以上、それは正解だったのだろうが、何故その結論に至ったのかが分からない。

 それ以前に、何故試そうと思ったんだ。


「ガチャ以外にも色々やってるみたいですけどね。でも、実際に観測して、ましてやその地を踏んだのは初です。これで各所方面に自慢ができるというものです。もうパチンコの連中になんかでかい顔はさせません!」

「いやその……そこら辺の派閥争い的な話はいいんで」

「こっちも割と深刻なんですよっ!」

「そんな事言われても……」


 確かに意味のないセミナーに強制出席させられたりしてるみたいだが、それはあくまで神々の事情であって、下々の者には関係ないはずなのだ。愚痴を言われてもどうしようもない。

 飲み会に遅れて行って、席が上司の横しか空いていなかった時のような理不尽さを感じる。延々と酌と注文と愚痴の聞き役をやる羽目になるのだ。一種のアルハラである。


「えーと、平行世界とガチャには何か関係があるんですかね。こう……いまいちその二つが繋がらない気が」

「うむむむ、ウチの使徒さんは愚痴を聞いてくれない。他のところは結構そういう話聞くのに」

「それは表面だけ聞いてるだけじゃないですかね。使徒のほうはウンザリしてると思いますよ」


 明確な力関係がある以上、無礼講など成立しない。というか、愚痴を聞かされたい奴なんて、余程特殊な趣味の持ち主でない限りはいないだろう。


「……ガチャに目をつけたのは、そのランダム性が買われての事だったみたいです」


 脱線しかけていた話が元に戻った。そうそう、そうやって軌道修正しないと会議が増えたり時間が長引いたりするのだ。スムーズな業務処理と部内連携のために始めたはずなのに、仕事が止まるのである。

 俺も思考は良く脱線するほうだが、これは脳内の話だからノーカンなのだ。


「ランダム……確かにランダムの極みみたいなもんですが」


 レアリティやピックアップという目安はあるものの、基本的に何が出てくるか分からない。大凡中身が公開されているソシャゲのガチャでもランダム性は高くギャンブル扱いされてるのに、ここのガチャはもっとだ。なんせ、排出率どころか中身の情報がほとんど非公開である。

 ……しかし、それが最初からランダム性を高める目的があっての設計というのなら納得は出来る。回させられる側としてはたまったものではないが。


「加えて、ガチャのシステムが導入されているゲームには異世界からユニットを召喚する類の設定が多いんです。同シリーズの既存キャラを呼び出したりとかですね」

「それは企業のキャラクター資産の流用とか、そういう話なのでは?」


 完全に新規のみでキャラや設定を作るよりも数を稼ぎ易い。権利も自分たちが持っているのだから、余計な交渉もなしに工数削減出来る。ついでに既存ファンも取り込める。

 過去シリーズ全部から登場キャラクターを集めたお祭りゲーはメリットも多い。とはいえ、普通は乱発する類のものではないと思うが。


「企業の目的とかは別にして、そういう性質がガチャの概念に多少でも関わっている事が重要なんです」

「確かに、世界観的に繋がりが一切なさそうなコラボとか聞きますよね。お前それは無理があるだろ的な」

「概念が重要なんです」


 あ、これはあまり深く突っ込んでもらいたくないんだな。脱線っぽいからいいけど。


「使徒さんは、あのガチャの中身が自動生成って事は知ってましたっけ?」

「にご……神候補の方から聞きました」

「実のところ、なんで自動生成なのかって言えば私の労力の問題もありますが、それによってランダム性を高めているんです。条件指定して、方向性のみを定め、自動収集した情報を元に形を創り出す。そういう仕組みになっています。だから、結果に基づいてある程度把握しているものの、あの中身の全貌は誰も把握していないという事になります」

「……何故ランダム性が必要なのかの話が抜けているような」

「あ、すいません。えーとですね、それは私の権能から超越・はみ出す事が目的です。手を加えずにランダムに力を行使する事で、想定外の事象を呼び寄せようとしているわけです」

「ああ……なるほど」


 なんとなくだが、全貌が掴めてきた。権能やその行使条件などは理解の範囲外だが、大凡のイメージだけなら分かる。

 つまり、神々は平行世界との繋がりや情報を求め、決まった範囲でしか行使出来ない自分たちの権能をあえてずらす事を考えた。その手段の一つがランダム性が高く、多少でも異世界という概念の付着したガチャって事なんだろう。成功率は低くともリスクは特になく、とにかく数を撃てば何かに当たるだろう的な発想だ。自分たちがやるのは面倒でも、部下にやらせるならいいやって感じの考えも透けて見える。

 ……まあ、ただ労力の問題というわけではなく、俺でないといけない理由も一応あるんだろう。なんかそういう適性があるとか。そこら辺をはっきり言われると悲しくなりそうなので聞かないが。


「実は使徒さんが来る前にある程度の実験はしてたんですが、モンスターや装備品、スキルなんかはこの世界由来のものではなく、どこか別の世界のランダムに引っ張ってきた情報から創造されたものだったりします。その時点で成功の可能性は見えたって事で、使徒を使う許可が出ました」

「あのゴブリンとか?」

「多少手を加えてますが、そうです。ゴブリンってゲームで多用されてますけど、別に出典は日本じゃないですし」


 詳しくは知らんが、元は欧州の民話だっけ? どっかのゲームのゴブリンをモデルにして創ったんだと思ってた。


「スキルも装備もそれ以外も、そういう異世界の情報を元に作られたモノは多くの割合を占めます」

「元々この世界にあったり、神様の手によって作られたものではないと」


 それにしては、通販サイトのラインナップみたいなもんも混ざっているよな。


「そういうのもありますが、大部分は偶然を頼った異世界の生産物と考えて下さい。ついでに言えば、その情報を元にして別物に成形されているケースもあります」

「という事はまさか、十六魔将はどこかの世界に存在していたモンスターの幹部だったりするのか……」

「十六魔将?」

「あー、こいつらの事です」


 認識していなかったようなので、モンスター図鑑の宿敵たちの姿を見せる。そういえば、二号も認識してなかったな。


「また妙な……フィールドボスの設定まではしましたけど、どんなモンスターが入るかはランダムなんですよね。確かに、ひょっとしたらどこかこういう存在がいたのかもしれません。単に情報だけを元に設定が作られた可能性もありますが。……ああ、使徒さんを待っている間に見たんですが、あのペットピックアップのキャラクターもそうですね」

「……そこは、あまりはっきりして欲しくなかった」


 って事は、< 奴隷少女イーリス >はそういう設定ではなく、どこかの世界で本当に虐げられてきた存在なのかもしれないと。ついでに、調教済のゴブリンとかも。ますます後味が悪い。


「話を戻すと、つまり俺が求められている使徒としての役割は、異世界の情報収集のためにガチャを回すって事でいいんですかね?」

「大雑把に言えばそうですが、それは一部にしか過ぎません。それだけなら、チケット渡して回してもらうだけで済みますし」

「……大目的は別にあるって事ですか?」

「はい」


 確かに、この目的だけなら俺が体張る理由はないな。ガチャを回すのも俺である必要はない……ように感じるが、それも理由がありそうだ。


「情報規制されているとか、差し支えないのであればはっきり言ってもらいたいんですが、神様は一体俺に何をさせようとしてるんですか?」

「うーん。言えないとかじゃなくて、言葉にするのが難しいというか……その辺曖昧というか漠然としているというか」


 全裸でダンジョン攻略をさせる神様だ。無茶な事は言われるかもしれないが……それでも、人道に反するような無茶な事はさせられないだろう。

 単に肉体的・精神的に辛いだけなら、出来る限り頑張ってみようとは思う。九十九たちについても、出来ればなんとかしてやりたいと思う程度には同情しているし。


「そうですね……上手く言えませんが、端的に言ってしまえば」

「言ってしまえば?」

「異世界侵略ですかね」




 ……あれ、なんか思っていたのと違うぞ。





これから毎日侵略しようぜ。(*´∀`*)

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(*■∀■*)第六回書籍化クラウドファンディング達成しました(*´∀`*)
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― 新着の感想 ―
お?神様の目的面白そうだな
[一言] ガチャで成長段階の無作為的な自動生成AIを稼働させる事により普通では作れない発想の珍品を創出しそれによって新境地やブレイクスルーを…的な感じかぁ、まさに今自動生成AI使って人類が試してるタイ…
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