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一・八話 一輪の花も同じ命

「うーん……どうすれば良いんだ……?」


 オレは今、家のリビングで()()()と向き合っている。


 今日、父さんは仕事で王都に出向いている。なんでも、四人の領主が半年に一度、王都の城に集まり王様と会議――つまりミーティングをするらしい。

 サリカ姉さんも父さんの助手で、共に王都へ。と言うより、もうほとんどの仕事を姉さんが代わりにやっているので、姉さんが行かないと成り立たないらしい。それでいいのか……父さん?


 ちなみに、オレの隣にルウナが居ないのは、父さん達について行って遊びに行ったからだ。一緒に行こうと誘われたが用事があったので断ったのだが……。


「寂しい……。こんな事ならルウナの誘いを断るんじゃなかったな。ルウナも寂しそうな顔をしていたし」


 だけど、今日はある実験をすると決めていたし、気を取り直して続きをしますか。

 そう思っていると、リビングに一人の女性が入って来た。


「あら、グレン。花を見つめて何をしているのです?」

「お母様、いえ、少し調べ物をしていただけですよ」


 母さんが、()()()に入っている二つの花を見ていたオレを不思議に思ったのか質問してきたので、素直に答える。


「まあ、昔から魔法や魔物の事にしか興味がなかったグレンが植物に興味を持つなんて。それは光百合(ユムル・リリー)かしら?」

「はい、そうです。この間、街で見かけて買ってみたのです」


 そう、オレはこの光百合(ユムル・リリー)という花について、試してみたい事があって街で二本購入した。


 光百合とは一見、白い普通の百合の花なのだが、この花に魔力を通すと、花びらに薄っすらと青い光が(とも)る。先程二つの光百合に魔力を流してみたら淡い青色で、とても綺麗に光った。


「わざわざお花なんて、誰かにプレゼントでもするんですか?」


 母さんが茶化すように笑って聞いてくる。さっき調べ物だって言ったのに。


「ただの興味本位ですよ。それより、お母様は何を?」

「ふふっ、今日は天気が良いので久しぶりに庭で読書でもと思いましてね」


 母さんはそう言ってリビングに置いてある一冊の本を取ると出て行ってしまった。

 母さんもルウナ達と一緒に遊びにいけば良いのに。さて、続きだ続き。


「うーん、やっぱりズレるなぁ」


 オレは両手で一本ずつ光百合を掴み魔力を送って光らせる。やはり、少し光るのに時間差が出るな。

 それにこの方法じゃあ、数十本も光らせる時に時間が掛かってしかたがない。


 オレがしたいのは、複数の光百合に魔力を注ぎ、同時に全て灯らせたいのだが、良い方法が思いつかない。


「仕方ない、一旦休憩にするか」


 オレは植木鉢を机に置いておき、喉が渇いたので台所で飲み物を貰いに行くことにした。




「困ったなぁ。今から行くしかないかぁ」


 オレが台所の部屋の前に着いた時に、そんな言葉がため息と共に聞こえてきた。どうしたんだろ?


「何かあったのか?」

「これはグレン様。いえ、別になんでも……」


 彼はこの屋敷の料理人のゲッソさん。四〇代後半で、父さんと歳が近い男性。体格は良く、最近少し白髪が出てきているが本人は気にしていないらしい。


「何か手伝えることがあるなら言ってくれ」

「いえ、その……食材を少し切らしていまして。買い出しに行こうと思うのですが、夕食のシチューの煮込みがまだ途中で」


 ああ、そういうことか。確かにこの時代、一瞬でコンロに火がつく時代じゃないからな。火を消してまたつけるのに時間がかかるのだろう。


「なんだ。ならオレが買いに行ってくるよ」

「そんな! グレン様に買い出しなど頼めませんよ!」

「ちょうど気分転換がしたかったから良いよ。ゲッソさんはこのまま夕食の準備をしていてくれ」

「そうですか……申し訳ございません。よろしくお願いいたします」


 ゲッソさんは申し訳なさそうな顔で了承してくれた。さて、じゃあ出かける用意をしないと。


「――っと、その前に」

「どうかしましたか?」

「ごめん、水を一杯貰えるかな?」




 支度(したく)を終えたオレは裏庭にいるリアンを呼びに来た。


「リアン、出かけるぞ」

「んっ……ふわぁ〜。わかった……」


 あくびをして答えたリアンは、丸めていた体を起こして竜の姿から少女姿に変身すると、眠たそうにノソノソとオレの元に歩いてくる。


 リアンは最近、天気の良い日はたまに竜の姿でこうして庭で昼寝をしている。そういえば、召喚当日も同じように裏庭で過ごしていたな。


「あら、今度はお出かけですか?」


 先程までリアンが寝ていたすぐ側で、母さんは椅子に座って本を読んでいた。


「はい、街の方に少し買い出しに行ってきます」

「それなら、使用人の方たちに行ってもらえば良いのですよ?」

「散歩がてらの用事ですので。では、行ってきます」


 母さんに手を振られて見送られながらオレたちは街に向かう。

 隣では相変わらず眠たそうにしているリアンだが、きっと、街に着くなり「焼き鳥を買え」とせがまれるのが目に浮かぶ……。




「えっと、買う物はこんなものかな。よし、帰るぞリアン」

「ふむ! しかし、やはり焼き鳥はこの街の出店のが一番だなっ!」


 焼き鳥を(くわ)えながら笑みをこぼすリアンを連れて、オレも一本食べながら帰り道を歩いて行く。


 帰り道の最中(さなか)、同じように買い出しに出ている奥様たちの話し声が聞こえてくるが、どれも同じような内容ばかりだ。


『聞いた? 騎士長のタルティシナさまが王様の命で、三日前に黒岩大人形ブラクラージ・ゴーレムの討伐に向かわれたらしいわよ』

『でも、タルティシナさまならきっと大丈夫でしょう』


 という話ばかり。黒岩大人形ブラクラージ・ゴーレムとは名前の通り、五メートル近くある巨大な黒いゴーレムの事らしく、リアン曰く、そこそこ強い魔物らしい。


「久しぶりに手合わせしてみたいものだ」

「オレはゴメンだな。なるべく危険な事に関わりたくはない」

「ふむ……主人に闘争心が無いと、ワシも体が鈍ってしまうな」


 そうぼやきながら、最後の一切れを口に入れるリアン。

 そんな戦闘場面は、異世界『主人公』がやる事だ。オレは一貴族の息子に過ぎないんだよ。


「うん? 何だ?」


 後方が何やら騒がしい音が聞こえてきたので振り返ってみると、三人の男女がオレたちと同じ方向に向かってきている。


 一人は大柄の男性で、露出している多数の傷跡が歴戦感を出している。もう一人は逆に小柄の男性で、お世辞にもかっこいいとは言い難い顔立ちをしている。逆立てた金髪が少しヤンチャっぽい印象をつける。最後の一人は女性だ。ヒラヒラとしたセクシーな服装をしている美女。

 あっ、あの女性、この間レクアたちと飲んだ店で見かけた踊り子風冒険者だ。

 ということは、あの人たちは冒険者仲間とかか?


 大柄の男性が荷台を引きながら、三人は嬉々(きき)とした顔で会話をしている。きっと依頼を終えてこれからギルドに帰るのだろう。


 オレは視線を前に戻して再び歩き出したのだが、またも後方が騒がしい。


「今度は何――だっ!?」


 振り返ると、冒険者たちが慌ただしくこちらに向かって走ってくる。そして、その先頭には()()の生き物が先陣を切って駆け出している。


『荷台で運んでいた魔物が逃げたんだ! そいつから離れろ、危険だ!』


 冒険者たちからの警告が聞こえてくる。


「あの魔物は……双牙馬(オルガ・ホース)か!」

「そのようだ、主人」


 馬の体に二つの頭と二つの尻尾を生やし、犬のような牙と(ひづめ)から出ている爪を武器とする魔物だ。


「ふむ、見たところ、二頭とも体中(からだじゅう)傷だらけだな。まったく、奴ら、めった刺しにはしたが致命傷を与えていなかったな」

「それよりリアン、双牙馬(オルガ・ホース)がこっちに近づいて来てるぞ」

「大方、痛みで興奮状態になっているのだろう。気を付けろ主人」


 気を付けろと言われても、武器も何も持っていないのにどうしろと言うんだ。


 双牙馬二頭はまっすぐこちらに近づいてくる。

 最初の一頭が襲ったのはリアンの方で、二つの頭が牙を剥き出しリアンに噛み付こうとする。

 リアンはそれを両手で防ぎ、双牙馬の突進に踏ん張って耐える。


「ふむ、まあまあの力だな!」

「リアンっ!」

「ワシの事より、前を見ろ主人」


 余所見をしている隙にもう一頭がオレに向かって来ていた。当然、オレにリアンと同じ防ぎ方は出来ない。


 オレはすぐ近くにあったお店の竹箒(たけぼうき)を掴み、二つの頭に咥えさせて防ぐ。


「ぐっ! もちろん……力負け、するよなっ……!」


 今にも竹箒が粉々に砕けそうだが、少しでも持ってくれれば充分だった。


 次の瞬間、オレを襲っていた双牙馬が地面に押し倒された。


「主人よ、怪我はないか?」


 竜姿のリアンが先程の一頭を鷲掴(わしづか)みにし、そしてをオレを襲った一頭を上から押さえつける。二頭の双牙馬は「ボウ、ボウ!」と吠えてしばらく足掻(あが)いていたが、そのまま力尽くと息を引き取った。


「ああ、大丈夫だ」


 その後、オレたちがいる所に着いた冒険者たちが謝罪と感謝をしてきたが、流石に危なかったので次からはちゃんと生死を確認してから移送するように注意をしておく。

 双牙馬を荷台に乗せると、去り際に小柄の男性からお詫びにとティラ硬貨を数枚渡された。本当に反省しているのか?


 正直、納得いかないが、これ以上この人たちの相手をするのも面倒(めんどう)になってきたので黙って受け取っておく。


「ひどい目にあったな」

「そうか? ワシは久しぶりに体を動かせて良かったぞ」

「それは良かったな……。ほら、早く帰るぞ」


 どっと疲れた体を動かし、オレたちは屋敷に帰宅する。




「ただいま戻りました、お兄様!」


 夕方、夕食前に父さんたちが帰ってきた。ルウナはリビングに入るなり、ソファに座るオレを見つけると後ろから抱きついてくる。

 うんうん、オレも寂しかったぞ、ルウナ。


「おかえりルウナ。姉さんもおかえりなさい」

「ええ、ただいまグレン。私、少し疲れたから部屋で休むわ。夕食には呼んで頂戴(ちょうだい)

「うん、わかった」


 姉さんは疲れた表情で部屋を出ていく。仕事で疲れたんだろう。


「楽しかったかルウナ?」

「はい。仕事の後、お父様とお姉様と一緒に王都の市場を見て回りました。あっ、そうだ、お兄様にお土産です」


 ルウナから渡された包みを広げてみるとクッキーが入っていた。夕食前だが、ルウナが買って来てくれた物だし、早速一ついただこう。


「うん、美味しいよ。ありがとう、ルウナ」


 ルウナにお礼を言うと嬉しそうに笑う。

 その笑顔が一番のお土産だよ。


 コップを取ろうと手を伸ばすと、誤って打つけてしまい、中身の水を机の上にこぼしてしまった。


「お兄様、大丈夫ですか?」

「ああ、すまない……はっ!」

「んっ? お兄様、如何致(いかがいた)しました?」


 オレは慌てて水を拭こうとしたが、その時見た光景であることを思いついた。

 そうか、最初からこうすれば良かったんだ。




 夕食後に自室に戻ったオレは、昼間の光百合(ユムル・リリー)の植木鉢を机に乗せて、二つの花の間の土に人差し指を入れる。

 そして指先から魔力を土の()()全体に流す。すると、二つの光百合が光り出した。


「やっぱり、間接的でも魔力を直接流せれば良いわけなんだから、土に魔力を流して広範囲に広がれば良かったんだ」


 こぼれて広がった水がいいアイデアになったよ。普通の人の魔力量なら少し大変なやり方かもしれないけど、『無限魔力』のお陰で永久的に魔力を流せるオレにはピッタリの方法だ。

 これなら一度にたくさんの花に魔力を流せそうだな。


「はあー、無事に解決して良かったぁ……」

「ふむ。これで心置きなく、明日の()()も受けられるわけだな」


 ベッドに座りながら腕を組み、リアンはうんうんと頷いている。


「ああ、間に合って良かったよ。明日の王国騎士の試験は、集中して頑張らないといけないからな」

遅れて九話も投稿します。続けてお楽しみ下さい。


変更部分、会議期間を二ヶ月から半年に変更しました。

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