三・十三話 冒険者グレン、道中の豆知識
「――んぁ? おい、おーい。聞いてんのかー?」
息一つ切らさずバカっぽい顔でオレを覗いてくるキルベスト。
「……三体の魔物をほぼ瞬殺するわ、その上息も切らさないで余裕ぶるわで、こっちは普通に驚いているんだよ」
「そうだろ、俺の凄さが分かったか?」
「ああ、本当に凄いよ……」
冒険者ギルドでそんな奴からの怒りの猛攻からこうして生き残れたオレが、な……。
まぁ、とにもかくにも、突然やって来た危機は解決した。
オレも使わずじまいの抜いたままだった剣を鞘に収めて馬車の方へ足を向ける。
「あっ! しまった、双牙馬の死骸をどうするか……。自然に亡くなった生き物はそのまま放置も出来たかもだが、殺しておいて死骸をポイッは流石に罰当たりな気が……」
うーん……ミヤの使い魔メタルスライムのプルゥみたいに収納系魔法が使える魔物がいれば良いんだけど。
「ダメ元で聞いてみるけど、リアンって〈次元狭間倉庫〉みたいな収納魔法が使えたりしないか?」
「ふむ? 収納魔法か? ……収納魔法は使えた事がないな。それに物を収集する事もなかったから、使ってみたいとも思った事が無い。大きめの袋を鱗から作る事は出来るが?」
「そうか。まぁ収納魔法自体そんなに例が出ていない、希少魔法の類いみたいなところがあるから仕方がないか」
こうなったら、地面を掘って埋葬するか。
時間は大分掛かるが、このまま放置よりまだマシだろう。
リアンに袋では無く穴掘り用のシャベルを出してもらうと思ったところ、キルベストが倒した双牙馬の死骸に近寄って見ていたキララさんがガジェンダーさんに問いかけた。
「なぁガジェンダー、双牙馬の死骸も確かギルドで買い取ってくれたよなぁ?」
「ああ。確か大丈夫だった筈だ」
「へぇ、レクアたちの時の甲兜犀の時もそうだったけど、冒険者ギルドって何でも買い取ってくれるんですね」
何気なく二人の会話に紛れてそんな事を言ってみると、何故かガジェンダーさんが首を横に振る。
「いや、大分昔は魔物によっては買い取っても一ティラもならないなんて事がよくあったが、四〜五年くらい前からどんな魔物の亡骸や部位でも買い取ってくれる様になったんだ」
「ああ、お陰で昔より金が貰えてっからアタシらはスゲー助かるってもんだ」
いい笑顔でそう言うキララさん。
ふーん……詳しくなんて分からないけど、魔物の素材だからな。きっと色々と使い道があるのだろう。
そんな事より今問題なのは……キララさんが完全に双牙馬の死骸を持って帰る気満々な事だ……。
――いや、キララさん。まだ今回の依頼の目的地にすら着いてないのに、双牙馬三体の死骸も持って移動できませんからね?
そんなオレの脳内ツッコミをそのまま口に出して言おうとした直前、キルベストに頭を撫でられて気持ち良さそうにしていた地駆蜥蜴のボルトが、キルベストの所からオレたちの元へ近づいてきた。
「うん? どうしたんだボルト?」
しかしボルトはオレの問い掛けをスルーして、キララがしゃがんで見ていた双牙馬の元に行くと、次の瞬間ボルトがその口を見た目よりも大きくガパァッ――っと広げていく。
「おぉ……中々グロテスクな光景で……」
衝撃的な光景にオレは顔を背けつつもチラチラと見ていると、ボルトは最大限まで広げ切ったその大口で双牙馬の死骸の一つに食らいついた。
二つの頭両方を口に頬張ると、その勢いのままズルズルと首元から胴体へと飲み進んで行き、そのままゴクンッ――と亡骸一つを丸呑みしてしまった。
一体分丸呑みしたのにまだ満足していないのか、ボルトは続けて二体目、三体目と双牙馬の亡骸を食べ始める。
えぇ……。
「ボルトは、あれか……? お腹でも空かせたのか?」
「ちげぇよ。収納してんだよ」
前世のテレビで見た大食いファイターでも見ているかの様な心境だったオレに、近づいて来ていたキルベストが槍を肩に担ぎながらそう指摘してきた。
「……えっと、胃袋に収納って事か? キルベスト、お前『食べる』の表現が独特過ぎだろ……」
「バカか。食べてる量がボルトの体格より多いだろうが。そうじゃねぇよ、マジで収納してんだよ」
「えっ! じゃあボルトって収納魔法――〈次元狭間倉庫〉が使えるのか!?」
キルベストが「そう言ってんだろうが」と呆れながら肯定する。
気づけば、その場に三つあった双牙馬の亡骸も綺麗さっぱりと無くなっていて、ボルトが「綺麗に片付けたよ。ご主人様、褒めて?」とでも言いたげにキルベストを見つめている。
その期待に応え、「おっし! 偉いな、ボルト」とキルベストがボルトの頭や体をヨシヨシと撫でながら褒めていく。
「いやぁ、ボルトが便利な魔法を覚えてくれたおかげで、前より稼げる様になったなぁ」
「なんせキララはいつでも金が入り用だからな」
「うっせっ、リーダーこそ街に帰ったら毎日のように飲みにいくから、いつも金欠じゃねぇか!」
「あぁ? 良いだろ、命懸けの冒険から帰ったご褒美なんだよ。キララこそ最近付き合い悪りぃじゃねぇか。たまには久しぶりに飲もうぜ!」
「アタシはお気楽はリーダー様と違って毎日忙しいんだよ! 行くなら勝手に行きやがれ。つーかいつも飲み過ぎなんだよ、ちったぁ体を労れ」
「余計なお世話だ! キララこそ、そんなに大変だっつうんなら連絡いつでも寄越せよ!」
「はいはい、わーったよ」
……ケンカしている様で、実はお互い気遣い合っている。パーティーメンバー同士、仲が良い事で。
「お前達、喋ってないで早く馬車に戻るぞ。まだ目的地まで半分も来ていないんだ、先を急ごう」
「それもそうだな。ほら、さっさと行くぞリーダー」
「なぁー、ガジェンダーもこの依頼が終わったら久しぶりに付き合えよ」
わいわいと賑やかに馬車に戻っていくキルベストたち。
……オレは蚊帳の外かよ。
「ふむ? 主人よ、黙ったまま突っ立ってどうかしたか?」
「いや、何か場違い感がな……」
キルベストたちから少し遅れてボルトが馬車の方へ近づいていく途中足を止めると、「ギッ?」と首を傾げながらオレの方を見てきて「行かないの?」と声を掛けられた――気がした。
「……臨時メンバーのオレにも気を掛けてくれて、優しいなボルトは」
「主人よ、何を一人でぶつぶつ言っているんだ?」
「あっ、すっかり居たこと忘れてたわ。おら、グレン、てめぇも早く馬車に乗れ」
キルベストめ、お前が強制的に連れて来ておいて……。
いつか絶対あの赤髪を引っこ抜いてやる。
こうして、ちょっとした一悶着はあったが無事に馬車も再出発し、改めて目的地へと向かっていく。
出発してしばらくは御者のおっちゃんが「いやー、おにーさん強いねー!」とか、「今度の遠出する時に護衛お願いしちゃおっかなー」と、ひたすらキルベストに胡麻擂りしていてうるさかった。
凄腕の冒険者と縁を作りたい気持ちも分からなくもないけど、あからさま過ぎてキルベスト本人もめんどくさがっていた。
キルベストがチラチラとオレに視線を向けて来ているのは何となく分かったが、オレは助け舟を出すつもりはないので、お仲間二人が助けてくれる事を祈っておくんだな。
馬車が進んで行き、景色も大分変わってきた。
鉱山都市グリスノゥザ伯爵領へ向かう道中の様に、先に進む度に植物や緑が段々と減っていき、今では水が乾きすぎてヒビが入った地面が点々と広がる茶色い世界。
「……やっぱり人の手が入ってないだけでグリスノゥザと結構景色も変わるな。まさしく昔テレビのドキュメンタリーで見た『荒野』って感じだ」
「ど、どきゅ……? 何だ主人、それは?」
「気にしなくていいよ。それより、日も傾き出して来たし、そろそろ野宿できる場所を――」
みんなに相談しようとオレが話し出す前に、キララさんがオレに被せて話し掛ける。
「おいリーダー、あれ見てみろよ」
「――んぁ? チッ、何だよ、人がようやく気持ちよく眠りに……あん? 何だあいつら?」
「ほお、こんな所でやっている奴らもいるのか」
キルベストに続いて、ガジェンダーさんもキララさんが指差す方を見てそんな事を言い出し、「何だ、なんだ?」とそれに釣られてリアンまで見に行く。
ギシギシシッ……!
すると片側に集まり過ぎたせいか馬車からそんな軋む音がしだした。
「うおっ!? あぶなっ! お、お前らなぁ!!」
「ちょっ、お客さん! 馬車の中であまり暴れないでくれよ〜っ!」
オレや御者のおっちゃんからの注意もどこ吹く風と、リアンたちは向こう側の方を見続けている。
「ふむ、少々押されて苦戦している様だな」
「えっ、なに苦戦って? 誰かが戦ってるのか?」
「っるせぇな、気になるんならグレンも見りゃいいだろ」
リアンの漏れた感想に質問したが、キルベストの乱暴な誘いのみ帰ってきた。
……ちょっと気になってきた気もする。
ただ、馬車のバランス的にオレまで集まったら本当に馬車が傾いて横転しかねないので、オレはみんなと反対側の窓から身を出して立ち上がり、みんなが見ていた方向を見てみる。
そこには、「動くサボテン」たちと戦っている四人組の人たちがいた。
「――えっ!? 何でサボテンが動いているんだ? って言うか、どうしてサボテンが人を襲っているんだ……!?」
「何だお兄さん、食水針拳って魔物知らねぇのか?」
オレの疑問に御者のおっちゃんが操縦しながら答える。
御者のおっちゃんによると、食水針拳とは見た目そのままの「動くサボテン」の魔物だそうで、普段は水気の無いこういった荒野や砂漠で静かに生息いるらしい。
「こっちが一切関わらなければ動かないんだがな、一度あいつらに目を付けられると見た目じゃあ信じられねーくらい機敏な動きで襲ってくるってわけよ」
「あのサボテンたちは強いのか?」
「強いねー。あの棘だらけの恐ろしい腕だが枝だがで、大の大人くらいの力で襲ってくるんだ。植物だから剣とかで切れば脆いけど、あんなのに近づく物好きはそう居ないだろうねー」
「へぇ、結構厄介そうな魔物っぽいな」
御者のおっちゃんの説明を聞く中、向こうでは三体のサボテンの魔物――食水針拳と四人組の戦いが続いている。
ただ先程リアンの言った通り、四人組の方がどちらかと言うと押されている様だ。
長柄のハンマーを持った人と、剣と盾を持っている人が先頭で一体の食水針拳を相手をしていて、その後方では二体目の食水針拳を相手を、踊り子っぽい服を着て、体操のリボンっぽい武器? で戦っている人がいる。
「何だあの武器……? そもそも武器、なんだよな、あれ?」
「主人よ、あそこで一緒に戦っているのは魔物だぞ」
「えっ、どれが? ……あれか?」
三体目の食水針拳と戦っている人影が小さかったので、あんな小さな子供も冒険者やっているんだと思っていたが、リアン曰くどうやら人間では無く魔物らしい。
遠目ではよく見えない上にシルエットは人と変わらないけど……。
「んん……? あの魔物は何だ?」
「お前は愚酷鬼も知らねぇのか?」
「愚酷鬼?! へぇ、本で読んだ事はあるけど実際に見た事はないな」
まぁその実際の姿も遠すぎて見えないが……キルベストはよくこの距離で見えたものだ。
本には確か「茶色に近い緑色の、醜い姿をした子供サイズの生き物」と書いてあって、姿の詳細も絵も無かったっけ。
読んだ時「描くのも嫌なくらい酷い姿なのかよ!」と、一人本に向かってツッコんだ記憶があるよ。
「あの人たち、冒険者の人たちか?」
「だろうなぁ……だけどまだまだ動きが初心者だな。チームワークもなってねぇし」
先輩冒険者からそんな辛口の評価が飛ぶ。
「助けに行くか? この距離なら間に合うだろうし」
キルベストたちも同業者が危ない目に合うところを見るのは、あまり気持ちのいい物では無いだろ。
「御者さん、悪いですけど、あそこに――」
「――行かなくていいだろ」
「えっ……?」
オレが御者のおっちゃんにあの四人組冒険者たちのいる所へ近づくようお願いしようしたが、キルベストがそれを止めた。
「……助けに行かなくていいのか? あのままだったら、もしかしたらやられるかもしれないぞ」
「そんときゃあ仕方ねぇ。そんな実力に合わねぇ依頼を受けたあいつらが悪りぃんだ」
馬車の座席に戻ってキルベストに確認するが、意外と冷たい返事が返ってきた。
「あいつらだって冒険者やってんだ。死ぬ覚悟は出来てんだろ」
「キララさんまで……冒険者の世界も中々辛辣なんだな……」
「そんな顔をするなグレンくん。それに、段々と押し返して来ているみたいだ。俺達が助けに行かなくても大丈夫そうだぞ」
――えっ、そうなの?
ガジェンダーさんの言葉にもう一度外を見てみると、確かに食水針拳を一体倒した様子だ。
倒したのがリボンっぽい武器を持った、踊り子風衣装の人っぽいのがなんとも言えないが……。
踊り子風の人が仲間の助っ人に行き、形勢が有利になっていく。ガジェンダーさんの言ったとおり、確かにこれで助けに行かなくても大丈夫そうだ。
一安心したオレは再び馬車の座席に戻り、持って来ていた携帯用の水筒を一口飲む。
「リアンも飲むか?」
「ふむ、貰おう」
「しっかし、使い魔に愚酷鬼が当たるなんて……あいつらもツイてねぇな。愚酷鬼なんて弱っちぃ魔物を」
隣に戻って来たリアンが水筒を受け取って飲んでいると、まだ向こう側を見ていたキララさんがつまらなそうにそんな事を言い出す。
はぁ……何言ってるんだか……。
「愚酷鬼は強い魔物なんですよ」
「愚酷鬼舐めてたら痛てぇめにあうぞ」
オレがキララさんに指摘しようとした時、キルベストとセリフが重なりお互いに「うん?」と顔を見合わせた。
「なんだぁ、グレンも愚酷鬼について何か知ってんのか?」
「……本で読んだ程度だけどな。キララさん、愚酷鬼は、進化する魔物なんですよ」
「しんかぁ?」
「進化っつうか、成長だな」
確かに愚酷鬼は人間よりちょっと強いが、知能は高くなく、複数人で攻めたら人間の子供でも倒せる程弱い魔物と言われているが、一度成長すると一気にそれは変わる。
愚酷鬼が体を鍛え抜き成長すると、体格は人間の大人の倍以上に大きくなり、筋力も上がり人間も簡単に殴り飛ばせる程強い種類――「愚強鬼」になる。
「へぇ、そいつは会ったことがねぇな」
「愚酷鬼とは戦った事はあるが、愚強鬼なんて奴がいるんだな」
キルベストは知っていたみたいだけど、キララさんもガジェンダーさんも愚強鬼については知らなかった様だ。
「リーダーはそいつと戦った事があんのか?」
「おう、前のパーティーで数回な。ありゃあ中々手応えがあったなぁ」
「リーダーがそこまで言う魔物かぁ! ちょっと戦ってみてぇな!」
キララさんが狂戦士か、某戦闘民族みたいな事をイキイキとした顔で言い出した。
このパーティー、ヤバい人らばっかかよ……。
「そ、それともう一つ」
「あん? まだいたっけか?」
どうやらキルベストは愚強鬼しか知らないみたいだけど、まだもう一種類いる。
「この種類は本当に稀らしくて、名前しかわかってないけど――」
愚酷鬼の中で頂点の種類、それが――愚剣闘鬼。
「――まぁ、愚酷鬼の中で一番強いって事以外、本当に名前しか分からないんだけど」
「なんだそりゃあ? 聞いた事も見た事もねぇぞ」
「キルも知らない魔物か。だが強い魔物らしいからな、会わない方が安全だろ」
「どうするリーダー、もし依頼の中にその「ごぶりんりべきゅらー」? を探せってのがあったら?」
「そんないるかどうか分からねぇ、雲を掴む様な依頼誰が受けるかよ……!」
そうこう話をしている間に、食水針拳と四人組……じゃなかった、三人と使い魔一体の冒険者たちの姿も見えなくなっていた。
その晩、リアンにも確認してもらい魔物が近くにいない堀がある場所に馬車を停めて、そこで野宿する事になった。
「こんな荒野のど真ん中に、まさか民家があるなんて驚いたな」
「ふむ、民家というには、酷く崩壊している気がするがな、主人よ」
隣で干し肉を一切れに、道中で倒した打鼠の丸焼き(塩とラント蜜を添えて)を両手に、オレの言葉に補助を付け加えるリアン。
そう、厳密に言うとオレたちがいるのは、石造りの民家だった物が原型を失い瓦礫と化した物がある、今はただ少しの高さしかない堀に囲まれた敷地内に居る。
「きっと大昔はこの辺も人が沢山住んでたんでしょうね〜」
「今はギリギリ形が少しあるここ以外、全て更地だがなぁ」
御者のおっちゃんとキルベストが持ってきたリンゴ似の果実をかじりながら、そう続ける。
ちなみにさっきから、ガジェンダーさんは静かに水を飲み、キララさんは丸くなって眠っているボルトを枕に寝ている。
よくこんな場所で眠れるものだ……。
「主人よ、また来たぞ。真後ろだ」
「っーーもう、腹が立つ! 何匹いるんだ、こいつらはいったい!」
オレはイライラを打つける様に剣を抜いて、背後にカサカサと迫って来ているコイツに目掛けて上から突き刺す。
「たくっ……この『蜘蛛』を倒すの、これで何匹目だ?」
刺し仕留めた蜘蛛をそのまま、剣を払って焚き火の中へと放り込む。
「ふむぅ、なんせ野宿できる場所を探し始める少し前からこの蜘蛛が出始めたから、二〇は超えているだろう」
リアンの言う通り、この場所に来る一〜二時間も前からこの蜘蛛がたまに出てくる様になった。
「こんな灰色の蜘蛛、見た事もございませんぜ」
「ですよね。リアンがいうには魔物では無さそうですけど、毒がある種類なのかどうかも分からないから、近づかれる前に倒さないと危険ですし」
「オマケに拳大の大きさだから、気持ち悪りぃ――しよぉ!」
御者のおっちゃんにオレが相槌を打った後、キルベストが悪態を突きながらおっちゃんに迫っていた蜘蛛を、拾い上げた石を投げて打ち倒した。
野宿するにあたり、御者のおっちゃんから頼まれておっちゃんと馬車の馬を守る事になり、今はキルベストが当番で護衛している。
「おいキララ、起きろ。寝るなら馬車の中で寝かせてもらう事になっただろう。こんな蜘蛛が這う地べたで寝たら、噛み傷だらけになるぞ」
「ん〜、むにゃむにゃ……熊なんてアタシにかかりゃあ一撃だぁ〜……」
「クマじゃない、クモだ」
無垢な子供みたいな寝顔をさせたキララさんの寝惚けなのか、それともボケなのか分からないセリフに真面目にツッコむガジェンダーさん。
何となくキララさんのあの寝顔を見てると、前世、珍しくグデグデに酔っ払ったリオンさんを自宅まで送った時にタクシーの中であんな寝顔をしていた事を思い出す。
「その後の旦那さんが迎えに来るまでの道中が地獄だったのが、今でも覚えているなぁ……」
「あ、主人、靴に乗っているぞ」
「え? ひっ――はっ、早く言えー!!」
はぁ、もしかしたら、これまでで一番眠れない夜になりそうだ……。
波乱な一晩を乗り切った翌朝、オレたちは馬車が行ける目的地まで着き、そこで馬車を降りた。
「ありがとうございました」
「んじゃ、帰りも頼むぜおっちゃん」
「はいよー、帰り賃も貰わないといけねーんだ。ちゃんと生きて帰ってきてくださいよー!」
そう言って馬車を走らせた御者のおっちゃん。
「じゃあオレたちも先に行くか」
「てめぇが仕切んじゃねぇよ」
「いいからとっとと行こうぜ、リーダー」
「二人ともそんなに騒いで体力を無駄に使うなよ」
「ふむ、ほら行くぞ、主人」
「ギシャー」
オレが掛け声をしたらキルベストから理不尽なゲンコツが飛んでくる中、キララさんとガジェンダーさん、リアンとボルトが先に行き、置いて行かれそうになったオレとキルベストも急いで後を追う。
この先にある目的地の古城、メモリア・イスレッド古城まであと少しだ。
……あぁ、ホント、なんでオレが行かないといけないんだろうな、ルウナ。




