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三・七話 意外と愛される大男 ※(別)

主人公、グレン以外の別視点です。

「――ぅおおぉりゃあぁっ!」


 ズバッシャァァッ!


 俺の渾身の一振りで目の前の魔物を左右に真っ二つにしてやったぜぇ。


 仲間の奴らも襲ってきた何か頭が二つある馬みたいな魔物を倒し終えたみたいだ。

 俺は大剣を勢いよく振り、着いた魔物の血を払って背中に背負い直す。


「あ〜ったく……防壁外巡回なんてダルい任務だなぁ」

「おい()()()、ボサっとしてないで列を組み直すぞ」

「だから、オウクだっつってんだろ……いい加減覚えやがれぇ!」


 ちくしょう、猫みたいな耳してる癖に全然俺の話を聞いちゃいねぇ。

 こっちは門番の仕事からわざわざ助っ人に来てやってるってのに……。

 俺はそんな不満を抱えながら、バルドント侯爵領の防壁外巡回チームの奴らが集まり直している列に戻る。

 グレン達と行ったグリス何たらの任務を終えて、確か今日で七日は経ったかぁ?


 今朝いつも通り門番の仕事をしようと持ち場に行くと、この巡回チームの奴から「欠員が出たので今回助っ人に来てほしい」と、正式な任務書状まで持ってきたから来てやったのに……。


「ほとんどずっと歩いているだけで、つまんねぇ」

「これも大事な任務なんだ。ぶつくさ言わずしっかりやれ」

「わぁったよ。ったく」


 無駄に上から態度なこいつとチームの奴らと一緒にそんな広くねぇ森を抜けて、今度は領地内にも流れる川と草だけのこの草原に出て同じように見回りの巡回を続けた。

 この草原がまたバカみたいにだだっ広く、見回りが終わるのに丸一日掛かっちまった。毎回魔物に襲われる訳もねぇからほとんどずっと歩き続けるだけの一日で終わった。


 二日目はまた森の中に戻ってまだ行ってねぇ所の見回りをする事になった。

 ウサギみてぇな奴やネズミっぽい魔物とか居るが、俺達を襲ってくる様子は無いし、昨日戦った魔物みたいな奴も出てこねぇ。


「特に危ねぇ魔物は居ないみたいだな――んぁ?」


 平和な森の中をチームで進んでいる中、俺はあくびをしながら何となく視線を横に向けると()()()が見えた。


「何だありゃあ?」

「どうかしたのか、オーク」

「ああ――っつか、だからオウクだって言ってるだろ……」

「分かったわかった、それでどうした」

「ったく……。なんかあそこに――あぁ?」

「どうした? 何かあったのか?」


 さっき変な物があった所を見直すと、いつの間にかそれが無くなっていた。移動しちまったのか?


「あー、何でもねぇ。ほらとっとと見回りを終わらせて帰ろうぜ」


 ()()()()()()があった様な気がしたが、居なくなっちまったしもういいか。どーせ商人とかの集団だったんだろ。




 二日も掛かった巡回任務を終えた俺は休日の今日、武器も何も持たずに私服で王都に来ていた。

 特別何か用事があった訳じゃねぇが、これといって予定も無かったし暇つぶしに()()()()に足を運んでみた。


「相っ変わらず、表は小せぇ店だな」


 俺は「木材屋」の横道を通って、昔はよく汗を流した作業場へ回っていく。


「――っしゃぁ、おい下っ端! そこの二本は明日出さなきゃなんねぇんだ。今晩には加工に入れるよう昼までに皮削ぎ落としとけよぉ!」

「オッス、親方!」


 相変わらずドタバタしてやがんぜぇ。昔と全然変わんねぇな。


「おいおい、昔と変わらず働き通しだなぁ、親方」

「あぁ? だれ――おお、てめぇオークじゃねぇかぁ。どうしたんだぁ? 職に就けずにノコノコと戻りやがったかぁ?」

「ちげぇよ、バカが。暇つぶしに来てやっただけだよ」

「はっ。こんな昼間から遊び呆けるたぁ、いいご身分になりやがったなぁ」

「うっせぇよ。黙って仕事続けやがれ」

「変わらずに生意気だけ言いやがりやがって!」


 昔と変わらずこの親方は、ゲラゲラと笑いながら俺にゲンコツを落としてきやがる。


「まぁちょうど良いぃ。おい、今人手が足りてねぇんだ。オークも手ぇ貸しやがれ」

「あぁ? もうココの奴じゃねぇのに働けってか? タダ働きでもさせる気かよ?」

「代わりに昼飯奢ってやるよ! ほら、そこに置いてぇある大木四本持ってこっちこいやぁ」

「ちっ……人の都合を聞かない所は相変わらずかよぉ。これが終わったら――よいしょっと、バカ高ぇモンを絶対注文してやる!」


 俺は脱いだ上着を適当な廃材に掛けて、昔の様に木材を両肩に二本ずつ担いで懐かしい作業場へと入っていく。


 しかし、元職場の手伝いが昼どころか夕飯時になるまで手伝わされるとは、この時の俺は思わなかった。




「あぁー疲れた……何で休日なのにあんな重労働してんだ、俺」


 昼飯奢りの筈が結局晩飯になり、俺は夜空が真っ黒になるまで飲んでいた。


「はあぁぁ――あっ……? 何だ?」


 酒場からの帰り道から見える路地裏で何かが動いた気がした。

 酒が入っているとは言え、確かに何かを感じた俺は気になったそれを追いそのまま薄暗い路地へ進んでいく。


「一体何があるってんだぁ……?」

「――ぃ、こいつか?」

「いや、人間では無く獣人だ。それにこんな――」

「ん? 話し声……? おーい、こんな暗いところで、一体何を……」


 フラフラと足を運ばせて、何か話し声が聞こえた路地裏の曲がり角の先に顔を覗かせた。


「……あ?」


 だがそこには、銀髪の幼女を脇に抱えた奴と、同じ格好した奴の二人が居やがった。


「おいおい、揃いも揃って気味の悪りぃお面を付けやがって。人攫いなら他所でやりやがれ!」


 そう言って俺がズカズカと近いていくと、気味悪いお面を付けた二人が脇に抱えた幼女を投げ捨て俺に向けてナイフを抜いてきやがった。


「おいおいガキに容赦ねぇ事しやがって、何だテメェら……?」


 一人のお面野郎が俺の顔に向けてナイフを構えて近づいてくる。


「っしゃあ――あ、しまった……!?」


 俺はいつものように背中に背負った大剣を抜こうと背中に手を回したが全く掴めねぇ。そういやぁ今日は置いてきたんだった……。


「――っしっ!」

「うぉ、危ねぇ!」


 ナイフを顔面スレスレでなんとか交わした俺はお面野郎の懐に入ると、そのままお面ごと顔面を殴ってやった。


 だけど俺の拳が当たる直前でバック宙しやがって、手応えが全然なかった。


「ちぃ、ちょこまかと面倒な野郎だぜ。……あ? もう一人の野郎は何処行きやがったぁ?」


 そう思い何となく振り返ると、俺の背後からナイフを持ったもう一人のお面野郎が迫ってやがった。


「しまっ――」


 体が反応できずにナイフが迫ってきた。


 その時、そのお面野郎の更に背後から剣を振りかぶっている奴がいて、お面野郎の背を斬った。


「ガッ?! っぐ……!」


 斬られたお面野郎は少しフラついたが、すぐに立て直し俺達と距離を取った。


「大丈夫か!? これは一体……」


 何かすんげぇかっけぇぇ(つら)したこの兄ちゃんが助けてくれたらしい。


「なんにしても助かった!」


 俺は拳を構え直して気味悪いお面野郎どもと向き合い、一気に距離を詰めて右へ左へ拳を放つ。

 お面野郎がヒラヒラと攻撃を交わす中たまにナイフで突いてこようとしてくるが、腰に下げていた金が入った巾着を手に持ってそれで防ぐ。


「くっそ、頑張って稼いだ金が傷だらけになっちまうぜぇ……!」


 しかしこいつら、只者じゃねぇなぁ……。

 さっきから俺の攻撃が一発も当たらねぇ。


 隣を見ると、さっきのかっけぇ兄ちゃんももう一人のお面野郎と戦ってくれているがぁ同じような感じだ。


 そんな余所見を俺がした一瞬の隙にお面野郎が器用にクルクルと空中を周りながら距離を離しやがった。


「……一旦引くぞ」

「あぁ。夢想未犀(バクグ・ライノ)、浮かせてくれ」


 同じようにかっけぇ兄ちゃんから距離を取ったもう一人のお面野郎がナイフを仕舞うと、突然お面野郎の側にヘンテコな四つ足の魔物が出てきた。

 魔法を使ったのか魔物の体が薄紫に光るとお面野郎二人の体も同じような光を纏い出しやがった。


「テメェら、ケンカ売っといて逃げる気か!」


 俺は急いで走り、お面野郎二人を捕まえようと手を伸ばす。

 だが二人がジャンプすると一気に建物の屋根まで跳んで行ってしまい、後一歩のところで逃しちまった。


「何だったんだ、あいつらぁ……。ああ、そうだ、さっきのガキは――」

「大丈夫か、ナイ……!」


 お面野郎に乱暴に投げ捨てられたガキの元にさっきのかっけぇ兄ちゃんが大急ぎで駆け寄る。


「良かった……気絶しているが怪我は無いようだ……」

「何だ? 兄ちゃんの子供だったのか?」

「あぁ。少し目を離した間にさっきの奴らに連れ攫われるところだったようだ」


 かっけぇ兄ちゃんはガキを優しく抱えて立ち上がると俺の方を見てきた。


「貴方が助けてくれたんだろ。本当にありがとう」

「あー、よせよせ。酔ってたまたま入った道で遭遇して、喧嘩売られたから買っただけだ」

「ふふっ。ならそう言うことにしておこう。本当なら酒でもご馳走したいところだが、今は……」


 かっけぇ兄ちゃんが口篭(くちご)もると、視線を下に移す。


「いーから、いーから。兄ちゃんは念の為にその子を医者なり何なりに見てもらいに行けって」

「すまない。また会った時には改めてお礼させてもらう」


 そう言うとかっけぇ兄ちゃん表通りに出る通路へ向かう。


 さてと……面倒くせぇけど、さっきの事は戻ったら報告しなきゃいけねぇよな。


「――っとそうだ。念の為に伝えておくが、さっきの奴らが着けていたお面だが、あれはついこの間まで王都に来ていた大道芸人の者達が着けていた面と同じ物だった」


 かっけぇ兄ちゃんが足を止めてそんな事を教えてくれた。


「大道芸?」

「ああ。何台もの馬車を引き連れた大所帯で来ていたんだ。芸人達は既にこの国からは出立したし、あのお面も確か商品として販売していた筈だからさっきの奴らと芸人達は関係無いかもしれないが……」

「おう、教えてくれてありがとうなぁ。ほら、そんな事よりとっとと子供を連れてってやれよ」

「あぁ。じゃあな」


 そう言って今度こそかっけぇ兄ちゃんの姿は見えなくなった。

 芸人達が犯人かもねぇ……だが、何だって人攫いをする必要があるのか、さっぱりわかんねぇ。


「はぁ……まっ、いっか。すっかり酔いが覚めちまったし、とりあえず報告は明日にして飲み直すか」


 オレもかっけぇ兄ちゃんの同じ道を通って、表通りへ酒を飲みに向かう。

 こんな時、スライドやグレンがいたら説教でもしてきそうだな。


「――また今度、グレン達を誘うか」

はい、グリスノゥザの任務から戻った、その後のオウク視点の話でした。


もう一話、この後に遅れて投稿されます。

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