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三・一話 知らない裏道デート

新章&新タイトルスタートです!

「なっ、なぁルウナ……もう機嫌を直してくれ、なっ?」

「むぅ……!」


 昼少し前の朝方に何故オレが必死になって、両頬パンパンに膨れさせたご機嫌斜めのルウナと庭先に居るのか。


「ぐ、グゥゥゥ……」


 それは何故かと説明すると、全部直ぐそこでデカい体を丸めて狸寝入(たぬきねい)りしている奴のせいの一言に尽きる。


「おいコラ、わざとらしく寝息を立てるんじゃない、リアン。チラチラと目が開いているのは気づいているんだからな」

「グッ?! う、グウゥー、むにゃむにゃ……」

「――お兄様、そうやって話を逸らすおつもりですか? また私を()け者にされてリアンと何処かにお出かけする話でもされているんですか? そーですかー」

「だ、だから、別にお前を除け者になんてしたつもりは無いんだ! この間レクアたちと飲みに行った時間帯が遅くてだな……良い子は寝る時間というか……」

「ふーん!」

「えっと!? えぇっと!?」


 まさかここまでルウナがご立腹(りっぷく)になるとは……!?

 朝食時はいつも通りご機嫌だったのだが、食事中にリアンがポロッと「昨日行った飯屋よりもやはり美味い」と漏らした一言からルウナに根掘り葉掘り聞かれ、オレとリアンがルウナに黙って外出した事を話したらこの状態になってしまった。


「お父様たちには許可を貰って行ったけど夜遅い時間だったからルウナは置いていったのに、お前が余計な事を口にしなければこんな事には……」

「す、すまん主人……まさかここまでとは……」


 まぁ、流石のリアンも目を泳がせて申し訳無さそうにしているし、反省はしているみたいだ。

 絵に描いたように頬を膨らませて腕組みをしたままそっぽを向くルウナ。

 これはこれで可愛いとは思うけど……。


「――っ! な、なぁルウナ!」

「……何ですか? 言い訳ならもう――」

「お詫びって訳じゃないけど、今から王都で『デート』なんてどうだ……?」

「っ?! で、デートッ!! お兄様とデート……!」

「嫌なら別に無理には……」

「いっ行きますっ! 是非、お兄様と二人っきりで行きたいですっ!」


 オレの誘いに一度は固まってしまったルウナだったけど、すぐに花が咲き開くが如くどの宝石よりもキラキラと輝く笑顔を浮かべる。


「とりあえずこの場が収まって良かった……。じゃあ今から支度して出掛けようか、ルウナ」

「はい! 直ぐに支度してまいります!」


 そう言いルウナは笑みを浮かべたまま屋敷の中へと入っていく。


「ふむ、ではワシも――」

「悪い、今回はルウナと二人で行ってくるよ」

「何? この間のお城のパーティーの時といい、また留守番か主人!?」

「妹とはいえデートだからな。今回は我慢してくれ」


 しれっと言っていた本人(ルウナ)からの「二人っきり」という要望だし。


「ふむぅ、仕方ない……」


 渋々だが納得してくれたリアンの硬めの頭をヨシヨシと撫でてやる。

 折角、機嫌が戻りつつあるからな。ルウナの望む様にしてやろう。




 一〇分もせずに用意を済ませたルウナを連れて、つい最近来たばかりの王都にデートに来た。


 やはり一国の中央都市である王都はいつも賑やかな様子を見せる街並みだ。

 でも……。


「今日はいつもより通りが賑やかな様だけど……」

「えっ? あ、本当ですね。何でしょうか?」


 普段から賑やかな表通りが更に活気出ている。

 と言うよりザワついているって感じだ。


「何か催し物か、旅芸人でも来てるのか?」

「さぁ……? 良いじゃないですか! 市場を回りながら進めば分かりますよ。行きましょう、お兄様!」

「それもそうだな、行くか」


 ルウナに腕を取られながら、このだだっ広い王都でまだ足を向けた事の無い道を進んでいく。


 今まで行った事がある装飾店やパン屋とはまた違ったお店があったりして、ブラブラと通りのお店を冷やかしながら回る中、初めて見た香水の専門店なんかもあり少し覗いて見ることにした。


「どうですか、お兄様?」


 香水店の店長とは思えない様な髭をぼうぼうに生やしたおっさん店長オススメの香水を着けたルウナがオレに感想を求めてくる。


「良いんじゃないか? すごく気持ちが落ち着く香りだ。清楚で瑞々しい香りだけど主張し過ぎず、だけど存在感を忘れさせない感じかな」

「そうですね。私もこの香り好きかもです」


 本人も気に入ったみたいなのでこの香水を一つ買ってやる事にした。

 ただお客が目の前にいるのに店長が勢いよくガッツポーズを取ったのが、(いささ)か気にはなったけど。


「お兄様、少し歩き疲れました……あのお店で少し休憩にしませんか?」

「うん? あぁ、そうだな。ここは喫茶店かな? 入るか」

「はい!」


 店を出た後、すぐ近くに小さな喫茶店の様な物があったので二人で入り、紅茶とパンケーキ風のデザートを頂く事にした。


 紅茶はオレの知ってる紅茶よりも色は真っ赤だったけど、味は甘さ控えめで結構美味しい。


「はい、お兄様。あーん」


 ルウナが愛らしくフォークに刺したパンケーキの切れ端を差し出してくれるが、どう見ても少し半生焼きな上に、シロップも無ければバターも乗っていない……。

 大丈夫かな、これ……?


「食べて……下さらないのですか……?」


 少し考え込んでいるとルウナが弱々しくそう尋ねてくる。

 妹が差し出してきた物は、例えどんな物でも頂かないといけないか。


「――あむっ」

「あっ!」

「……んぐっ。……美味しいな!」

「っそうですか! 良かった!」


 その場しのぎのお世辞では無く、本当に意外と美味しかった。

 味付けが無いと思っていたが、生地その物に味付けがされていて、ほんのりと蜂蜜の様な甘さがあった。

 半生の部分がシロップの食感の代わりになっていて、この味を引き立たせる為の半生焼きだったのかも。


 正直、前世的パンケーキと思えばまだ微妙だけど、こういうケーキだと思えば全然美味しい。


「さぁ、お兄様、もう一口どうぞ!」

「えっと……あのなルウナ、お兄ちゃんは凄く嬉しいんだけど……周りの目もあるし、それはもう……」

「えっ?」


 反対側の位置から机に身を乗り出して更にパンケーキを差し出すルウナ。

 それに対して我ながら珍しいルウナへの静止に、ルウナはきょとんとした表情を浮かべて辺りを見渡す。

 ようやく気づいてくれたのか、途端にルウナは静かに黙り込んで座る。


 表通りの外れとは言え真っ昼間の喫茶店。

 そこは前世と大差無く、子連れの夫婦やカップルがそこそこの人数で賑わう中での「あーん」は、いくら妹に甘いオレとはいえ何度もするのは少し照れ臭い……。

 いや、日常時にルウナとこういう事をしているのは分かっているが、店内の人たちの目線がオレたちに集まっている中するのは流石に……ねぇ?


「えーと……そのケーキ食べ終わったら、また外を回るか」

「はっ、はい……」


 顔を赤くさせて短くルウナはそう答える。

 そんなルウナも相変わらず可愛らしい。




 喫茶店を出てから数分、また先程と同じようにブラブラとルウナと回っていると、道端の一角にこぢんまりとした小さな出店が目に入った。


「何だ? 所々(つる)とか花とかで飾られているけど、花屋さんか?」

「綺麗なお花とかありますかね? 行ってみましょうか、お兄様」


 同じく興味を持ったルウナと一緒にその出店の前まで行ってみる。


 花屋と言えば、ロザネラの方は開店準備は順調かな?

 開店する際は何かお祝い品でも送るか。花屋だからな、やっぱり花以外が良いか?


 正面に来てみると、黄色い花や紫など色々な花で飾られた店構えをしていて、カウンターには植木鉢に入れられた花の苗や既に開花した花々が置かれている。


 やっぱり花屋さんのようだ。


「わあぁ!? 見た事が無いお花まで売られていますね。とても綺麗」

「ああ、それにしっかり育てられているし、立派だな」


 ルウナとしばらくカウンターに置かれた色とりどりな花を眺めていると、そんなに奥行きの無いカウンター奥の影から声が聞こえてきた。


「あら? いらっしゃい」

「あっ、申し訳ございません、お店前でお騒がせを」

「良いのよいいのよ、お花達(この子達)に興味を持ってくれて嬉しいわ。ゆっくり見ていってね」


 ルウナの謝罪を優しく受け止めて見物を進めてくれるお店のお姉さん。

 物腰柔らかい良い人みたいだけど……随分と()()()()女性だな。

 出店の影からお店のお姉さんがゆっくりとこっちに近づいてくる。


「あらあら、こんなに若い人が来てくれるなんて」

「あ――えっ!?」

「あらっ!」


 カウンターの影から女性――口調の()()がその姿を露わにした。 


「どうかしたの?」


 ほっそり体型をした男性で、目に掛かるくらいの長さをした紫髪をしている。いや、一部緑とピンクのラインに染めているみたいだ。


 声が低かったとはいえ、喋り方で女性だと思っていたオレたちが驚いていると、お店のお姉さん――もといお兄さんが、喋り方と同じで優しそうな丸いその瞳を向けて問い掛けてくる。


 ……本物のオネェの人と初めてあったな。


「あっ、いえ、男性がやっている花屋さんが初めてで少し驚いて……申し訳ございません。失礼な事を」

「良いのよ、気にしないで。そういう反応する人少なくないから」


 うふふっとずっと笑顔で話しかけてくるお兄さん。


「二人は随分と仲が良いみたいね。もしかして恋人同士なのかしら?」

「こっ、こここ恋人だなんてっ?!」

「あらあら、可愛らしい反応する彼女さんね」

「はははっ。いえ、恋人ではなく兄妹なんです」

「そっ、そうです! 決して恋人なんかじゃ……!」

「あらそうだったの。ごめんなさいね」


 茶化す様に謝ってくるお兄さんだが、ルウナは恋人と間違わられて顔を赤くさせつつも少し嬉しそうに見える。

 まぁ、そう見えるくらい仲が良いのは良い事だよね。


「お詫びにこの花を一本プレゼントするわ」


 そう言って薔薇(ばら)の様な花を一本、植木鉢から小さなハサミ――剪定(せんてい)バサミで切るとルウナに差し出してきた。


「い、いえいえ! そんな気にしないで下さい。大事な売り物をお金も払わずに頂くなんて……」

「良いからいいから、私の気持ちだと思って」


 貰うかどうか躊躇しているルウナ。

 優しい人っぽいけど、こういう押しには強い性格らしい。きっと受け取るまで折れないだろう。


「ルウナ、折角のご親切だ。ありがたく受け取っておけ」

「そ、そうですか? では……ありがとうございます」

「ううん。こちらこそ受け取ってもらえて良かったわ」


 受け取ったルウナより嬉しそうに微笑むお兄さん。普通だったら逆に怪しいくらいなんだけど、この人からそんな雰囲気を丸っ切り感じない。


 ……えっ、オネェ好きじゃないよね、オレ?


 すると近くの脇道から何人かが走っている足音が聞こえ、足音が近づくにつれて聞き慣れた声も聞こえてきた。


「――ねーさーん! ヴァイオレットのねーさーん!」

「お兄様、この声って……」

「あー……ついこの間聞いた事がある声の様な気がぁ……」


 ――ダダダッ!


 元気のいい声と共に、出店の向かい位置の脇道からオレのよく知っている人たちが飛び出してきた。


「も……もう……キキったら……!」

「はぁ……はぁ……。そ、そんなに急がなくても大丈夫だよ、キキちゃん」

「ハァ! ハァ! ごめんごめん、善は急げって言うし、ついね!」


 案の定、本当にこの間オレとリアンと一緒に飲み会をした少女三人組冒険者――ヘトヘト姿で仲間を叱るレクア。汗だくになって地面に座り込んでいるミヤ。三人中先頭切って走っていたにも関わらず明るく元気なキキ。

 顔見知りな彼女たちは、オレたちの目の前であれよあれよと会話を始めた。


 この広い王都でこんなにも頻繁に会うとは……。

 一歩間違えてストーカー扱いされたりしないよな?


「はぁ……ふぅ。あ、あれ? もしかしてグレンさんですか?」

「え? あ、ホントだ、にいちゃん! この間ぶり!」

「ふぇ……? ぐ、グレンさん!?」


 なんて事を思っていると三人ともオレたちの事に気づいてそれぞれの反応をする。

 ミヤが少し恥ずかしそうな様子だったのは、きっとこの間初めてのお酒に飲まれて酔っ払った姿をオレに見られたのが恥ずかしいんだろう。


「にいちゃん、こんな所で何してんの?」

「うん? 兄妹デートしてるんだよ」

「相変わらず仲がよろしいのですね、グレンさんもルウナさんも」

「お久しぶりです、みなさん。それとミヤさん、この間お誕生日だったとか。おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます! ルウナさん!」

「あれ? にいちゃん今日はリアンちゃん連れてないの?」

「今日はお留守番だ」

「ちぇー、今一瞬またリアンちゃんに会えたと思ったのにー」


 五人で挨拶をしていると、出店のお兄さんが「みんなは知り合いなの?」と突然聞いてきた。


「前に私達が危ない所をこちらのご兄妹に助けていただいたんです」

「いえ、あの時皆様を助けたのはお兄様とリアンですよ」

「更に厳密に言えば直接戦ったのはリアンだけだけどな」

「ところでさっきキキが叫んでいたバイ……何とかって?」


 オレの問いに答えたのは、キキでは無くちょこんと手を上げていたお兄さんだった。


「私の名前よ。私の名前はヴァイオレットっていうの。よろしくね」

「こちらこそ。オレはグレンといいます」

「ルウナと申します。よろしくお願いいたします」


 改めて花屋のお兄さんに自己紹介をする。


「キキたちはヴァイオレットさんと仲が良いのか?」

「うん! 色々とお世話になってるんだー!」

「へぇ」

「と言うわけで、ヴァイオレットの姉さん。いつものお願い」

「はいはい、ちょっと待ってね。今用意するから」


 そう言い、出店の奥へと手を伸ばして何やらガサガサとしだす。


「花屋に、冒険者のキキたちが何の用なんだ?」

「え? にいちゃん達、知ってて来たんじゃなかったの? ここは育てた植物を売る花屋兼――」

「お待たせ」


 キキの話途中でカウンターから水色の小瓶を二つカウンターに置くヴァイオレットさん。


「これは何なんですか?」

「これ? 見たこと無いかしら? これはねー」


 オレの方を向いたまま、ヴァイオレットさんが小瓶を一つ手に取るとそれが何なのか笑顔で説明をしだした。


「傷の手当とかに効く、『魔草薬(ポーション)』って言うのよ」

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