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二・二十話 天然落とし主人公

「――俺たちケスヤ隊が進軍した先で何度か魔物の待ち伏せがあったんだ。坑道もあの先から幾度も枝分かれしていて、その度に部隊を分けて探索をしつつ何とか切り抜けたと思ったら行き止まりだったがな」

「魔物が最も多く出ると報告されている場所で、よくそんなにも分かれて探索しましたね」


 スライドの言葉に「オレの部隊は日々鍛えているから」と返答するケスヤ隊長。

 ケスヤ隊が強いのは分かっているけど、無茶が過ぎると思う。正直苦笑いしか出てこない。


 ちなみに現在、広場の戦闘で疲労したオレたちはそのまま広場で待機し、戦闘後に到着したケスヤ隊長が引き連れていたケスヤ隊の兵士たちが広場の奥を探索しているところだ。

 コッペンたち重傷者は先に帰還させて、まだ動ける者たちは念の為に坑道の先を更に探索する事になった。

 まぁ、ピノッキオ魔物を倒した後、生き残っていた魔物たちが襲って来なくなり凶暴的じゃなくなった事が既に確認されている。探索も直ぐに終わるだろう。


「しかしそれで、どうしてあんな高所から出てきたんですか?」


 別れた後の出来事を説明するケスヤ隊長に、気付いた者はみんな気になったであろう事をオレが聞く。

 戦闘中に広場の壁の高い位置からケスヤ隊長が降ってきたからな。

 本当にどうしてあんな所から出てきたんだ?


「通路の行き止まりで魔物を倒した時に、たまたま魔物が壁を壊すとこの広場と繋がっていたんだ。皆が奮闘している姿を見ているとじっとして居られなくなってな、部下達に元の通路から合流する様に指示を出して俺はあそこから近道をしたという訳だ」

「訳だ、って……」


 じゅ、一〇メートル弱はある高さを飛び降りるとか何考えてるの……。


「よくそんな無茶を実行しましたね。普通は死んでもおかしくない高さですよ」


 呆れた目で、ここにいる全員の思った事を代弁するフィダーユ隊長。普段のキツい口調が更に鋭く感じる。


「流石に俺もあの高さは無理だからな。部下の使い魔に重力を和らげる魔法が使えるのがいるから、それを掛けてもらったよ」

「で、ですよね! はははっ……」


 しっかり者のケスヤ隊長が実は脳筋じゃなくて安心したよ……。

 重力操作か、鳥系の魔物か? それとも霊生(ゴースト)憑操縦霊生(アン・ゴースト)みたいな幽霊系?


「ケスヤ隊長、フィダーユ隊長、坑道の探索に向かっていた部隊がただいま戻りました! 報告によると、どの通路も事前の情報にあった採掘現場より先が続いており、地下深くにあった水路と繋がっていたとの事です!」


 探索に向かっていたケスヤ隊の兵士一人が纏めた情報を報告してくる。

 話を聞く限りオレとリアンが通った地下水道とこの広場の幾つもの坑道が繋がっていたらしい。


 やっぱりピノッキオ魔物はあの地下水路から来た魔物を操っていたのだろう。


「ご苦労だった。これにより鉱山探索を完遂したとする。既に負傷者と一緒に先に帰還したナルシスゥトン隊、冒険者達の後に続いて我々も帰還する!」


 探索から戻ってきたケスヤ隊と残っていたフィダーユ隊、そしてオレとスライドにオウクの三人はケスヤ隊長の号令でこの鉱山を後にする。


「しっかしよぉ、コッペンの奴は大丈夫かぁ?」

「一応素早く止血はしてたし優先して戻されたから、後は街に戻ってから様子を見るしかないだろ」


 意外と情が熱いオウクの疑問にそう答える。

 だけど無事に命は助かっても、片足をスッパリと切り落とされたんだ。

 もう騎士としては以前みたいには働けないだろうな……。


「グレン様も、お怪我は大丈夫ですか?」

「まだ痛いけど、流石にもうだいぶ落ち着いたよ」

「そうですか、しかし街に戻りましたら医者に傷を見てもらって下さい」

「ああ、分かっているよ。ありがとう、スライド」


 ここまで戦ってきた証の魔物の死骸が転がっている道のりを進んで行き、オレたちは最後に調査した鉱山から出てこれまでと同じく何度も実感する久しぶりの日の光を身に浴びる。


 ……ぅん〜っ! やっと終わった!

 もう、坑道や洞窟はしばらく入りたくないな。




 探索を終えてグリスノゥザ伯爵領の中央都市に戻ってきた頃には辺りはほぼ暗くなり、店々も夜用の準備や逆に閉店の準備が始まっていく。

 しかし、探索から戻ってきたオレたちの中に開店一番に店に行く者はおらず、みんな大なり小なり怪我を負っているので、現在は街の病院で治療を受けている。


 そしてオレは今、治療を終えた腕に包帯を巻いてもらいつつ仲間の安否を聞いている。


「そうか、ひとまずコッペンの命に別状が無くて良かった」

「はいッスス。一番重症だったコッペンはもちろん、私達の部隊の皆さんは大丈夫らしいッスス」

「はぁ、とりあえず一安心か」


 既に手当てを終えたアキドの言葉にほっと胸を撫で下ろす。

 だけどそこでピノッキオ魔物がコッペンたちを襲った光景を思い出す。


「……でも、フィダーユ隊長の部隊は……」

「はい、正確にはケスヤ隊の二名、フィダーユ隊からは二名の重傷者が出たッスス。……そして、フィダーユ隊の内一名が亡くなったらしいッスス」

「そう、か」


 まあ、二ヶ月もこうして戦ってきたからな。

 兵士や冒険者の死亡報告を聞かなかった訳では無いけど、やっぱりそういうのを聞いて良い気分はしない。流石にそこまでドライな性格では無い。


「それで、隊長たちは?」

「はい、ケスヤ隊長、それにフィダーユ隊長とナルシスゥトン隊長は現在、伯爵様に報告に向かっているッスス。私達は治療後は三日間の休暇をとの事でッスス」

「そう――うん?」


 です? ですッス? え、何て言ったんだ?


 相変わらずの妙な語尾に思考を持っていかれている間に包帯を巻き終え、オレの治療が完全に終わったところでオレたちは病院を出た。

 病院を出ると、先に手当てが終わっていたスライドとリアンが外で待っていた。リアンはともかく、本当にスライドは忠義な奴だな。

 スライドから聞いた話だと、同じく先に手当てを終えたレーズンとオウクはコッペンの付き添いに行っているらしい。


「ふむ、主人の傷が深傷では無く安心したよ」

「心配してくれたのか、リアン。ありがとうな」

「ふ、ふむ! そう雑に撫でるな、主人」


 わしゃわしゃと頭を撫でるオレの手を掴んで止めると、リアンは「それより」と言葉を繋げる。


「ワシは腹が減って減って、何か食べに行かないか?」

「そうだな。スライドは先に帰ったアキドと一緒に宿舎に戻って、今日はもう休んだらどうだ?」

「い、いえ! 私もお供をさせて頂きます……!」


 焦る様にそう言うスライドだが、見ても分かるくらいヘトヘトな様子だ。

 再度オレが「帰って寝ろ」と促すと、スライドは渋々と従って宿舎のある方向へと歩いていく。

 いつも中々折れないのに今回はすんなりと聞いた。実は相当疲れていたのだろう。


「事件が解決したのもあって、緊張が解けてどっと疲れが出たんだろ。行くぞ、リアン」

「ふむ、今度こそあの匂いがした物を見つけるぞ!」


 鼻をスンスンとさせて匂いを嗅ぐリアン。

 まるで犬の真似をする可愛らしい少女の姿で、周りですれ違う人たちから微笑みが向けられている、気がする。


 何故リアンがそんな事をしているのかと言うと、実は二ヶ月前この街に来た時に嗅いだ「良い匂いがする食べ物」を、まだ見つけられていないからだ。

 リアン曰く「匂いがしない」との事で、二ヶ月経った今も匂いの出所が分からないでいた。


「期間限定の食べ物とかだったのかな……? もう諦めないか、リアン」

「いいや! あの匂いは諦めるには惜しい。グリスノゥザ領(ここ)に居る間は探し続けるぞ!」

「ですよね……」


 その食い気に毎回付き合わされるオレの身も考えず、更に入念に匂いを嗅ぎだすリアン。


「スンスン……ふむ! 主人、匂いがあったぞ!」

「えっ、見つけたのか!?」

「ああ! こっちだ!」

「ちょっ、おい待てって、急に走るなよ!」


 どうやら二ヶ月間経ってようやく手掛かりならぬ匂いを見つけたリアンはオレの手を引き、人混みの間を押し切って進んでいく。




「スンスン、スンスンスン――ふむ! ここだ主人!」

「ここって……」


 リアンに腕を引かれ人々の間、建物の間を潜り抜けてきたオレたちは一つの屋台の前に辿り着いた。

 それはとてもお店とは言いづらいコンパクトなお店で、前世のテレビドラマとかで見る路上のおでん屋の様な店構えに似ている。

 っていうかもうそれにしか見えない。おでん屋じゃないか?


 椅子は全部で四つ、そしてどうやら先客がいるらしく一つ埋まっている。

 そのお客さんの顔がちょうど見えない位置の高さにのれんが掛かっている。


「オレたちも入るか」

「ふむ!」


 のれんをかき分けて「失礼します」と一声かけて入ると、おでん屋のおっちゃん――では無く、若い女性店員が「あいよ」と出迎える。威勢が良いな。

 屋台内をぐるりと見渡したが、テレビドラマみたいにカウンターにおでんらしき物は置いてはいなかった。……違ったか。


「二人いいですか?」

「もちろん、お酒にしますかい?」

「はい」


 先客さんが左端に座っているので、わざわざ詰め寄る必要もないのでオレたちは右側二つに腰掛ける。


「主人、あの客が食べているのがあの匂いのする物だぞ」

「確かに同じ匂いだな。この人と同じ物を二つ――えっ?!」

「うん? あっ」


 注文する際に何気無く先客さんの方に目を向けると、その人はよく知った人だった。

 そして先客さんも視線に気づいたのかオレたちの方を見ると、一瞬ビックリした顔をさせて直ぐに口を開く。


「お前たちか」

「フィダーユ隊長じゃないですか!? ど、どうしてここに! 伯爵様に報告に行ったんじゃ……!」

「馬鹿かお前は? とっくに報告を終えて飲みに来ているに決まっているだろう」

「な、なるほど……リアン、ここに来るのは今度にしないか?」

「何を言っているのだ主人よ、ここまで来て」


 何をって……だって、苦手な人(フィダーユ隊長)がいる席でゆっくりご飯が食べれる気がしないし……。


「何をやっている、お前達も座れ。お前には今回助けられた恩があるからな。ここは私が奢ってやる」

「えっ!? い、いや……オレは……」

「ふむ、こう言ってくれているのだ。主人も早く座れすわれ!」


 オレの気も察せず、リアンがオレの手を取って座らせると店員がオレとリアンの前に注文した酒を置く。

 仕方ない……注文が出てしまった以上ここで頂くしかないか。


「お前達もご苦労だったな」

「い、いえ、お疲れ様です……」

「ふむ!」


 フィダーユ隊長が飲み物の容器をオレたちに向けて伸ばして来たので、それに応えてオレも容器を手に乾杯をする。


「……うん、エールよりは辛口だけど、やっぱり物足りないか」

「お待たせしやした。当店の自慢料理、『竜の破片』です」


 店員がオレたちの席にフィダーユ隊長と同じ食べ物を置く。

 それは真っ赤に茹でた赤い棒状の食べ物で、均等の感覚でデコボコした形になっている。しかし何故か片方の端だけ引きちぎった様な形になっている。


「竜の破片か……」


 見た目じゃあよく分からず、早速オレとリアンはフォークで刺して一(かじ)りする。


「――美味い! 外はソーセージみたいな食感だけど、中はプチプチと柔らかくて食べやすい」

「ふむふむ! 煮込まれた甘辛さがありつつ肉々しい味だ。思った通り美味いな、主人」

「お前達は大袈裟だな。だが、確かにこの店のこの料理は相変わらず美味いな」


 更に口に頬張るオレたちに続けて、フィダーユ隊長も自分の分を一口食べる。


「ここにはよく来られるんですか?」

「ああ、この料理が出る頃にたまに足を向けている」


 へぇ、やはりいつもある物では無く、期間限定の様な物なのかな。


「確かにこれはとても美味しいですからね」

「ああ。これが()()()とは、とても思えないな」

「そうですね――え? と、え?」


 ……今この人は、何と言った?


「と、トンボ?」

「ああ」

「こんな、大きいのに……?」


 この「竜の破片」はコンビニで見た事があるジャンボフラク並みの大きさ。

 あんな小さなトンボな訳が無い。……そんな筈が無い……。


「これはグリスノゥザ領の周辺に生息するトンボの中でも、稀にここまでの大きさに成長したトンボを使っているんだ。な、大将」

「はい、この大きさのは中々取れなくて、大体二、三ヶ月間は取れない期間もあるんすよ」

「ふむ、なるほどな、確かにこの大きさで無いとこの食感と味は出せないだろ」


 フィダーユ隊長と店員さんの話に共感するリアンを他所に、オレは今この瞬間にももう一口これを口に入れようか葛藤(かっとう)している。

 …………よし、オレは何も聞かなかった。美味かったらそれで良い、様な気がする。

 オレは頭では無く味覚だけを働かせ、今目の前にある美味しい食べ物(トンボ料理)を味わう事にした。




「……私だって、昔から男を避けていた訳ではない」

「そ、そうですか……」


 飲み始めて大体約二時間くらいだろうか。

 耳元を赤く染めたフィダーユ隊長が聞いてもいないのに突然自分語りを始めた。


「昔は私にも恋人がいた……。婚約もして、一緒の家に住んでいた。そんなある日、私はその男との間に子供が出来たのだ……」


 ほんのり頬を赤く染めて無表情だったフィダーユ隊長がそう言うと、初めて少し微笑んだ。


「――しかし、子供が出来た事を……妊娠した事を伝えた途端、男の態度がガラリと変わった……。やれ降ろしてくれ、やれもう少し後が、ってな……」

「そ、そうです、かぁ……」


 ……空気が重たい……。


「愛してた男の急な態度の代わり様に、当時は凄く傷付いてな……。気づいたらお腹の子は……」


 そこまで言って言葉を詰まらせたフィダーユ隊長がポタリ、ポタリと涙を零していく。

 えぇ……やめて。まったくオレと関係無い人の話なのに店員の女の子がオレをすごく冷たい目で見てくるんだけど……。


「えぇと……何か、オレと同じ性別の奴(おとこ)が申し訳ございません……」

「お前が謝ってどうするのだ、馬鹿者が」


 目元を拭いながら流れた水分を補給する様にお酒を飲むフィダーユ隊長。

 要するにそういう経緯で男を信用できなくなったと、そんなところだろう。


 アニメ主人公ならここで心を掴む様な励ましの言葉を言いそうなんだが、残念ながらそんな言葉は思い浮かばなかった。

 そもそもフィダーユ隊長のハートをキャッチする気も全くない。


「ふむふむ……人の心は案外変わりやすく、信用し切る事は難しい。しかし、変わらずに信用が出来る者も必ずいる。そういう奴と出会えるかは、分からないがな」


 するとリアンは、話の途中でチラッとオレの方を見てくる。

 うん……? ――あ、もしかしてオレの事?


「ほら、そう落ち込むな。飯を食えば元気が出るぞ?」

「くすっ……そうだな、もう昔の話だ。今は飯を食って酒を飲むとするか」


 昔何があったのか聞きたくなる様な人生観――いや、竜生観を持ちつつ、次の瞬間には無垢な少女の様な表情を向けたリアンに、フィダーユ隊長は優しい笑みを浮かべた。

 リアンよ、お前が主人公だったのか……。




 時間も程々になってきた頃合いでオレたちは切り上げる事にした。

 フィダーユ隊長はもう少し飲んでいくと言っていたので、そのまま残してきた。

 オレたちを見送る際の最後に向けた笑顔は、きっとリアンがフィダーユ隊長を落としたからだろう。


「さて、今度はロザネラの問題を解決しないとな」


 一難去ってまた一難では無いが、今度はこちらを片付けないと。

 もう頼んでいた()()、届いてるかな……。

この後に遅れて続きが投稿されます。


キャラ崩壊が起きたと思うくらいのリアンちゃんの人生――竜生観ですが、あの子もきっと昔何かあったのでしょう。……多分。

だから問題はありません……多分。

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